夜見鳴子が、転落死した。
そんな酷いことが起こったらしい。
らしい、というのは、それは人伝で聞いた話だからだ。
その日うたは家族と旅行に出かけていて、その場にいなかった。
だから、その死がどんなものか想像ができない。
潰れた体がどんなに悲惨なものなのか。その瞬間を見ていたであろう人々が何を感じたのか、はっきりとは分からない。
正直、夜見鳴子が死んでも悲しいとは思わない。
うたはおじいちゃんと、モノトーンでバイトをしていた彼の姪、ナルさんと親しかった。うたにとって、彼らは第二の家族とも呼べる大切な存在だ。
しかし夜見鳴子とは面識がなく、彼女は赤の他人同然だった。夜見鳴子がモノトーンに来たことは、うたが知る限り一回もない。
でも、彼女の死は子供心に虚しかった。
うたはよくナルさんに聞かされてきた。
夜見鳴子はずっと報われなかった。けれど今すごく認められて、頑張っているだって。
それなのに、結局理解されずに終わってしまって、すごく哀れだ。
その後も好き勝手に自殺だのなんだの、あいつはおかしいだのなんだの騒ぎ立てられて、ああ、尊厳ってのはこんな簡単に踏みにじられるんだなって思った。
おじいちゃんの周りの状況が、気がつかないうちに目まぐるしく変わっていく。
家族でいつも過ごしていた喫茶店、モノトーン。
それが、夜見鳴子の死によって評判が落ちて潰れた。
今までおじいちゃんは、長年娘を支えて頑張っていたらしい。しかし、その娘のせいで、ミキオさんの大切な居場所はなくなってしまった。
ミキオさんの元には、誰も寄り付かなくなった。あんなにモノトーンは賑やかだったのに、今は寂れた跡が残っているだけ。
ナルさんはすっかり意気消沈し、……心の窓を閉じてしまった。極度な人間不信に陥り、誰の声も耳をかさなくなったのだ。
彼女のその有り様は、まさに人形のようで。いつも明るく優しい、姉のような人だったのに。
うたは、この酷い状況をとなんとかしたいと思った。
まあ、当時うたも六歳だったし、そこまで何かやれたわけじゃない。せいぜい、ナルさんのところに通って、彼女に話しかけ続けつことぐらいしか無理だった。
もちろん、何も反応はしてくれなかった。一回悪戯で思いっきり叩いて見ても、怒りもしなかったほどだ。
しかし、通い始めて三ヶ月がすぎた頃、ふとナルさんはうたに対してこんなことを言った。
「……そこまで頑張らなくて良いよ。努力なんて、どうせ無駄なんだから。誰も認めもしないのに、……私も貴女のこと見てないのに、どうしてそんなことするの?
やめてよ。おじいちゃんも私も、まったく嬉しくないから」
──その時、パリン、と心の中で何かが崩れた気がした。
現状を何も変えられないうたが、唯一できること。それがナルさんと再び仲良くなることだと思っていた。
なのに、肝心の本人からそうやって明確に拒絶されて、努力を否定されて……、何が何だか分からなくなってしまった。
その内、ナルさんは忽然と姿を消して行方不明になり、二年後に戻ってきた──左腕のみを残して。
発見されたのは、寝巣都市のある美術館の倉庫。雑然とした部屋の棚の上に、その腕は放置されていたという。
現場に残された、辺り一面に広がった血の量からして、ナルさんの死はほぼ確定したようなものだった。お骨はありえないぐらい小さかった。
うた達は取り残された。
おじいちゃんと夜見鳴子とうた。
三人とも頑張ったはずなのに、どうしてこんな結果になったんだろう。
ナルさんの言う通り、努力は無駄ものだからなのか?認めれないからなのか?
ならば、うたは何のために、何をすれば良い。何もしないのが正解?
……そうかもしれない。努力とか、愚かでしかない。
夜見鳴子が、まさにそうだ。
彼女は生前、人に評価されもせず、大切なものを壊され、何も為せなかった。
死後に認められても遅い。生きてないと、認められたという実感も達成感も味わえない。
この世は虚しいんだ。すべて無意味なんだ。だから、うた──古鐘歌羽もまた、虚しく無意味で。
生きている価値があるのかすら、曖昧になっていく。
うたは、一体何だ?
◆◇◆◇
私は魔法少女になった時から、夢を見ている。
その内容は様々だ。やけにリアルで鮮明かと思えば、混沌として抽象的である場合も多々ある。
しかし、共通点が一つだけ存在する。
それは、私が関わった人達──例えば母親だったりといった身近な人から、顔見知り程度の友達──の過去にまつわるものだということだ。
私は、彼らの感情を夢という形で追体験しているのである。
これに気づくのに、私は当時半年以上の時間を要した。そのせいで知人を傷つけたのが何回もある。
彼らには本当に申し訳ないことをしてしまった。
だが、何故私がそんな夢を見るのか。
キュゥべえ曰く、それが私の固有魔法なのだという。知己の記憶を夢として見るのが、私の能力。
制御も出来ず、見たい時に見えるものではないし、逆に見たくもないものまで見えてしまう。
今回見た夢も、まさにその見たくもない夢だった。
「歌羽ちゃん……」
その夢は、古鐘歌羽の内面を声を聞くものだった。
それ故にか、普段の夢以上に本人の感情をダイレクトに感じ取ってしまった。
……実は会った時からうすうす、歌羽ちゃんが何処かやるせない何かを抱いているということには気がついていた。
だが、まさかここまで苦しんでいるとは思わなかった。
作り上げようとしている共同体につけた、プライマリーカラー、という名前を、今になって皮肉に感じてしまう。
これも、何の因果だろうか。私はただ、その夜見鳴子のオブジェに込められた意味にあやかって名付けただけなのに。
まあ、今更後悔したところでどうにもならない。すでにこの名前は、少なくない人数に教えてしまっている。
何となく気まずい思いをしながら、自室の時計を寝床から見上げる。
朝、五時三十分。
どうやら、速く目覚め過ぎたらしい。その割には頭は妙に冴えていて気分が悪く、二度寝をしたいという気にはまったくならない。
この余った時間を無駄にしないためにも、私はせっかくなので、牛木草の魔法少女の情報を整理しようと思い立った。
机のところまで行き、引き出しからノートを取り出す。
これは一ページ一ページ、私が作り上げようとしている共同体や、そこに所属してくれると言ってくれた魔法少女について、事細かく記したものだ。
改めてそれを見ると、共同体の参加者人数は現在十人だ。
その内九人が古参や中堅層。新人は歌羽ちゃんただ一人。
……共同体を作ろうと、今日で一週間。それでこの結果は、あまり上々ではないのかもしれない。
特に新人を一人しかメンバーに入れられてないのは、かなり痛い。
これから先、縄張り争いで中心になるのは新人魔法少女だ。
言い方は悪いが、トラブルの種のもとは主に彼女達に関わる事柄から発生するし、今やその数は古参や中堅層を超えているだろう。無視できないほど、その存在は大きい。
しかし、仲間にするのは難しいのだ。
まず全体的な数も把握できず、誰が何処にいるのかすら分からない。
一人見つかったと思えば、今度は別の場所でもう一人見つかる……、なんてことがしょっちゅうだ。
あとは、共同体の話をしても大抵顔を顰められるか、考えさせてください、という返事しか返ってこない。
私が不審なのだろう。なかなか信用してくれない。
これが古参や中堅層なら顔も聞くため、ある程度なら話を聞いてくれるし、協力してくれる子もいるんだけど……、こっちもこっちで、私が率先して共同体を作ろうとしているのを気に入らない奴がいる。
もう、前途多難って感じだ。覚悟はしていたことだが、共同体をつくり上げるのはそう甘くはない。
だけど……、私は前に進まなければならない。
私は、あの日エルちゃんの夢を見たのだ。彼女が見たであろう、牛木草の魔法少女が“魔女化”するその瞬間を。
あの悲劇を、牛木草の子達にまた起こさせてるわけにはいかない。すべての絶望を、私が食い止める。
……とにかくまずは、人員確保が急務だ。
現在でも、牛木草内では縄張り争いの小競り合いが起き始めている。
その現状を利用し、被害にあった子から積極的に保護して共同体に入れる。同時に噂を流させ、更に同じように争いに苦しむ子を集めつつ、それと並行して悪行を働いたものには罰を与える。
少し悪どいが、そうしなければ信頼を得られないだろう。牛木草の秩序を守るためにも、綺麗事ばっかり言ってられない。
それから、歌羽ちゃんに教えてもらった新人魔法少女、色梨こゆりと江戸柘榴のことも考えなければならない。
さっき言った通り、人員確保は急務だ。出来れば今のうちに味方につけておきたい。
「……しかし、彼女達の性格は一癖も二癖もあるらしいし、話すだけでも大変そうだなあ……」
一体どんな子達なのか、事前に調べていた方が良さそう。
……特に、色梨こゆりは要注意人物だ。
なんせ、あの“阿岡入理乃”の相方、船花サチの同盟者なのだから。
◆◇◆◇
「……こゆり。そこにあるのは何なんだい?」
住処にしている廃ビルの三階。その一室にやってきたキュゥべえが、“それ”を見てツッコミを入れた。
室内の中央には、一メートル弱の物体が鎮座している。
金網でできた箱の上に長い長方形の木の板を垂直に打ちつけ、その両側面から色紙で作った人間の手足が何本も生えているオブジェだ。
少々粗雑な作りだが、一応丈夫だ。なんせあたしがちょっとガタガタ揺らしても、壊れなかったんだから。
「よく聞いてくれたわねぇ……、ウヒ、ウヒヒヒヒヒヒヒ」
あたしは不気味に笑う。
ちょっと、昨日、今日と徹夜しすぎたのかもしれない。我ながらテンションがおかしくなっている。
「これ、この前見た魔女を真似てね、ゴミ捨て場で良いもの見繕って、それを組み合わせてオブジェにしてみたの!もうすごく時間がかかったんだけど、良いできだと思わない!?クフ、フフフフフ!!」
あたしはまた笑いながら、高らかに自慢する。
キュゥべえはそんなあたしについていけてないのか、はたまた何も感じていないのか、普段通り静かな態度だ。
「そうだね。確かに良くできている」
「ちょっと!?それだけしかないの!?もっと褒めるとこあんでしょ!!ちゃんと見なさいよ!!」
あたしはびしっと自分の作品を指差して怒鳴る。
すると仕方なさそうに、小動物はその赤い瞳でじっとオブジェを一瞥した。
「ボクには美術品というものはわからないが、作りがとても精巧だ。特にあの手足が、魔女と本物そっくりだ」
「そうなのよ、そうなのよ。特にあそこには拘ってね。作るのに最も時間がかかったのよ。納得がいかないものは廃棄してまた一から作り直したし……、アアアアアアア、もう、あの作業を思い出すだけでも……!!」
あたしは地獄の時間を思い出し、悶絶する。
……あれは本当に大変だった。ひたすら失敗ばっかりして、しんどかった……。それでも妥協できなくてやめられなかったし、マジあたしの性格疲れるわあ……。
まあそういう時間が楽しいってのもあるし、創意工夫好きだから、やりがいとか達成感はあるんだけど……。
「キミ、色々大丈夫かい?」
キュゥべえが慰めてくる。あたしはようやく頭が冷えてきて、その場でがくりと俯いた。
「自分でも、どうかしてると思います……。恥ずかしすぎてマジ死にそう……。てか死にたい……」
「うん。大丈夫そうだね」
「何処がよ……」
キュゥべえのいうことにじと目を向ける。
このあたしの項垂れっぷり、こいつ分からないのか?マジ人外、マジでおかしい。
「でも何でまたそんなものを作ったんだい?」
「あー……、暇だったんもんで、つい」
あたしの趣味は、物作り全般だ。
暇さえ有れば小物を作ったりとか、日曜大工とかばっかりやってた。
しかし今まで余裕もなく、また気分も憂鬱で、そんなことをあたしはすっかり忘れていた。
それを先日ふと思い出し、どうせだからと気分転換に、久々に物作りをしてみたのだ。
……そのせいで張り切りすぎてしまい、先ほどまでおかしなことになってたが……。
「何故魔女をモチーフに?」
「……、それが自分でも、さっぱりなのよ。自然とこれを作ろうと思ったの」
さあね、と首を傾げて見せる。
しかし実際それはただのポーズで、ちゃんと理由はあった。
ただ、素直に話したくはない。だって、これは恥ずかしくてあたしらしくないことだから。
「で、突然きて何のようなわけ?」
あたしは若干警戒しながら聞く。
キュゥべえがなんの理由もなくここに来るわけがないのが、これまでの経験で分かっていたからだ。
「グリーフシードの回収か、最近の報告?それとも──」
「“チーム”のことか、だろ?もちろんその話をしにきたんだよ、こゆり」
あたしの言葉を先回りにして、キュゥべえがそう答える。それがあまり気に入らなくて、ムッとした顔になった。
「アンタもしつこいわね……。チームなんていらないって言ってるでしょ?」
「しかし、サチに仲間を探そうか誘われているだろう?」
痛いところを突かれて、あたしは少し眉を寄せた。
そう。あたしは、サチのその誘いにはっきりとした返事を返していないのだ。あれから、たらたらと先延ばしにしている。
「……だからって、チームを組むのとは別問題よ。確かにサチには仲間が必要かもしれない。あの子を支えられるのは、あたしじゃ役不足だからね。
……でも、あたしは一人の方が気楽で都合が良いの」
「ボクには人間の感情が理解できない。しかし今までの魔法少女の観察経験から察するに、キミは天邪鬼とかいう、極めて不可解な性格なのだろう?
何回も言っていることだけど、いつまで本心を認めない気だい?」
「……何よ、その言い方は」
キュゥべえの言うことは、やっぱりいちいち釈にさわる。
あたしの心を、いつもいつも容赦なく抉ってくるのだ。
「一応これでも、ボクはキミを思って言っているんだよ?今までキミのような子達は、皆死んでいったからね」
そう言っている割には、キュゥべえの言葉は心がこもっていない。冷徹で、冷酷で、そして平坦だ。
“人間の感情を理解できない”、と自称するだけのことはある。……この世からいなくなればいいのに。
「それとも、自分の望みが分かっていないのかい?心の底から思う、自分の願いが」
……うるさい。
そんなの、“本当”はどんなものか分かっている。
そして、それから目を逸らしていることも自覚しているわよ。
あたしがいくら、馬鹿で愚かで間抜けで卑屈で自己中で、頭も悪くって、性格もそこまで良くないのだとしても、ずっと“何で自分はこうなんだ”と考え続けていたのだもの。
しかし、だからこそ無理やりにでも自分を誤魔化すしかない。
……強く心を持つにはそうせざる得なかった。それをしなければ、あとは押しつぶされて、絶望するしかなくて──
「……、魔女が……」
思考を中断するように、その時禍々しい魔力の反応がした。
しかし、それは風が一瞬で駆け抜けるように素早く、あっという間に過ぎ去っていく。
今すぐ行かなければ、取り逃してしまうだろう。
「キュゥべえ。悪いけど話はここまでよ」
「ああ。また続きは今度だ。気をつけてね」
「大丈夫よ。魔女なんてあたし一人でも簡単にぶっ殺してやるわよ」
「ボクが言っているのは、そういうことじゃないんだ。最近、キミ以外に──」
「ごめん。急いでいるからまた後で言って頂戴」
キュゥべえの言うことなど、どうせ大したものじゃない。
最後まで聞かず、あたしは魔法少女に変身。すぐ側にある窓を開けて、そこから飛び降りる。
そうして難なく着地をして、魔女が去っていった方角へと足を進めた。
◆◇◆◇
「……ていうのに、何なのよこの状況は……」
魔女を追いかけやってきた、暗く寂れた商店街。その一番奥を、あたしは角からこっそり覗いた。
そこでは先ほどから大きな怒声が上がっている。
紫色の修道服を着ている魔法少女が、オレンジの頭巾を被った魔法少女に一方的に突っかかっているのだ。
そのせいで、頭巾の少女はすっかり涙目になって萎縮してしまっている。
魔女の気配はない。どうやらあたしが辿り着く前に、どちらか一方が先に倒したらしい。それでグリーフシードの件でいざこざがあったのだろう。
頭巾の少女の手の中には黒い球体があり、それをシスターの少女が指差しながら、やたら自分のものだ、と主張している。
まあそれ以前に、あの魔女は元々あたしの獲物だったんですけどね。ここ一応、あたしの縄張りに入るし。
……それを知らずに、あの二人はここまでやってきたのか?歌羽といい今回のことといい、こういうの困るわね。
とりあえず、ヒートアップしているシスターの少女を止めなければ、とあたしは角から出ていく──その瞬間、シスターの少女が獲物であるフランベルジュを振り上げた。
「……それはあたしのものだ!!渡せ!!」
「……!!」
我慢ならないと言った様子で激昂し、顔を真っ赤にして叫ぶ。
頭巾の少女は慌てて後ずさるものの、その攻撃範囲から逃れることは出来ない。
あたしは思わず飛び出し、そこに割って入る。同時に、呼び出した盾で剣を防ぎ、シールドバッシュを仕掛けた。
シスターの少女は後方へ押し出され、地面に叩きつけられる。
「……!?あ、貴女は……!!」
「大丈夫?怪我とかない?」
「は、はい!!」
あたしが無事を確認をすると、頭巾の少女はこくこくと何度も頷く。まだまだ恐怖心があって、混乱しているようだった。
「アンタ、一体何だよ……!!邪魔しやがって……!!」
シスターの少女は立ち上がりながら、あたしをまっすぐ睨みつける。
闘志は消えておらず、物々しいフランベルジュをゆらりと構えた。
「そういうアンタこそ、あたしの縄張りで何してんのよ。さっさと出て行きなさいよ」
対するあたしも、盾を剣の大形へと変形させてみせる。しかしシスターの少女は怖気もせず、むしろ更に殺意を滲ませてきた。
「やろうっていうの……?上等よ……。アンタから力づくでも縄張りを奪ってやる……!!」
「……!!」
突っ込んでくるシスターの少女の一撃を、咄嗟に大剣で受け止める。
があん、と刃と刃の間で火花が舞った。それを見て、頭巾の少女が声をかける。
「だ、大丈夫ですか!?」
「……ええ。だから下がってなさい。巻き込まれでもしたら邪魔よ」
片手でしっし、と下がる仕草をしてみせる。するとシスターの少女が不愉快そうに眉間にシワを寄せ、激情をあらわにした。
「どいつもこいつをあたしを下に見やがりやがって……!!舐めたマネをぉ、するなぁ……!!」
体全体を使って、大ぶりに波打つ剣が振るわれる。あたしも同じように大剣で対抗した。再び舞う火花。
その反動で互いに軽く弾き飛ばされ、距離が開く。
あたしはその瞬間、大剣を地面に刺して魔力を流し込んだ。
その道を辿るように鉄の刺が次々と隆起していき、シスターの少女へと向かっていく。
しかし彼女はギリギリのところで大きくジャンプ。くるりと一回転をし、逆にあたしへと攻撃を仕掛けてきた。
「これでぇ!!」
フランベルジュが影の魔力を纏い、その姿を変化させる。それは、命を刈り取る、湾曲した刃──死神の鎌だった。
後ろで頭巾の少女の息を飲む声が聞こえる。
……だが、あたしは大剣を地面から引っこ抜かず、そのまま魔力を周囲に流させた。
目の前に大きな金属の壁が、下から一瞬だけ生える。それは鎌が振り下ろされるタイミングと重なって、少女の攻撃を阻害する。
「……はあ!?な……、今の反則だろ……!!」
シスターの少女は大声を上げ、降り立ったあともひどく戸惑った様子をみせた。あたしは大剣を引き抜き、威嚇するようにそれを赤い少女に見せた。
「まだやる?……あたし、これでも容赦しない性格なんだけど」
「……くそ……、なんなんだよ、こいつ……。お、覚えてろ!!」
少女はそういうと、忌々しそうにそう吐き捨てた。
瞬間、背を向けて高く飛び上がる。周囲の建物に一瞬にして飛び移ると、そのまま走り去って見えなくなった。
随分とまあ、小物くさいというか、なんというか。逃げ足が凄まじく速い……。
「あ、ありがとうございます……。助かりました……」
頭巾の子がお礼を言ってくる。別に大したことをしたわけじゃないのに、あたしはむず痒くなって髪を弄った。
「……、ま、まあ、無事なら良かったけど。ていうか、それよりアンタ、勝手に魔女狩りしたのよね?」
あたしは気を取り直すと、じろりと鋭い目つきを向ける。
少女はびくっと、肩を勢いよく跳ねさせ、口をまごつかせた。
「その反応……、縄張りのことを知らない新人じゃないわね。アンタ、ここが別の人の縄張りだって知ってて、ここに入ったわね?」
「ひっ、す、すみません!!つい、見つかりにくいところなら大丈夫かなって思っちゃって……!!」
なるほど。何となくあのシスターの子に突っ掛かられた経緯が分かってきた。
この頭巾の少女は、恐らく魔女を狩った後で、同じようにあたしの縄張りに入ってきたあのシスターの子と鉢合わせたに違いない。
シスターの少女にとって、頭巾の少女は目的を邪魔されたライバルだ。だからああやっていちゃもんつけてたのだろう。
「でも、何でそんなことをしたの?
答えなければ、……分かっているでしょうね?」
あたしは大剣をちらつかせる。……もちろんそれは軽い脅しで、危害を加えようとかいう意思は……、少ししかない。
歌羽の時は半殺しにするって言ったけど、今回は流石に相手を助けちゃったから、自分の手で攻撃するのはちょっ〜ときつい。
「え、えと。さ、最近新人が増えすぎて、縄張り争いが激しくなって……、それで自分の縄張りを奪われたんです……」
「……!!」
思わず、はっとなる。
歌羽や柘榴のことを思い出したのだ。
あたしも彼女達に会った時、縄張りのことでピリピリしてしまった。
だから、頭巾の子の境遇がすごく他人事のように感じられない。
そして、いっそ同情してしまうくらいには、心を冷めたくすることも出来なかった。
「アンタ……、何処にも行き場がないの?」
「……は、はい。そうですけど……」
「ふうん……」
複雑な面持ちのまま、あたしは少しの間黙ってしまった。
大剣を握る手を、ぎゅっと強く握る。どうにもやるせなさが込み上げてきて、あたしはそれを嫌に思った。
「……なら、今回は大目に見てあげるから、さっさとグリーフシードを持ってどっか行きなさい」
「え……、けど……」
「いいからいけって言ってんでしょ……。それとも何?さっきの子みたいに、無理やり追い出されたい?」
わざと不機嫌な態度をとると、頭巾の少女はすまなさそうに表情を歪めた。
そして、一度だけ躊躇するように手の中にあるグリーフシードを見て、去っていった。
その背が見すぼらしく見えて、心苦しい。
何処にも行けない、何処にも自分の場所がないのが、学校でいじられたりしていた自分と重なってしまう。
……話を聞くに、あの子と同じような子がいっぱいいるだろうなぁ……。
弱いとそれだけで生きていけなくて、潰れてしまう。魔法少女なんてそんなものだ、仕方がないんだってどこかで納得してたけど……、実際縄張り争いに負けてしまった子を見ると、切ない気持ちに襲われる。
それなのにあたしは……、こんな追い出すようなことしかできない。自分の縄張りを──自分の居場所を守るためには、そうする他ないからだ。
でも……、弱い子は誰が味方になってあげて、誰が守ってあげるんだろう。
一人ぼっちは、惨めで虚しいってのに。
「……、あたし──」
そこまで考えたせいだろうか。
ふと、ある発想が頭の中をよぎった。
……それは、かなり独善的で馬鹿馬鹿しいもので、自分でも信じられないくらい最低な願いだった。
だから、すぐ否定しなければならない、と思った。
しかしその発想はあまりにとても良いアイデアに感じられ、到底目を逸らすことも無理だった。
「……別に、これは誰かのためじゃない。自分のためでもない。
……そう、縄張り争い自体が理不尽に思えたから。むしゃくしゃするから、それで……」
ぶつぶつと、屁理屈が自然と口から漏れていく。
まるで、自分で自分を洗脳するように。
そして、その発想を都合のいいようにねじまけてでも、正当化する。
だってこんな感情、気持ち悪い。認めたくない。素直になりたくない。自分が可哀想な奴と自己憐憫もしたくもない。
だからあたしは──いつものように、本心を偽った。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章