「あのさ……こんなことを言うのも今更だけど、どうやってサチとこゆりに会おう」
抱きつくのを止め、うたをやっと解放した後。柘榴がふと、困ったようにそんなことを言った。
サチとこゆりとは一回会っただけだ。当然、連絡先など交換しているはずがないので、柘榴から二人にコンタクトを取る手段は存在していない。
しかし、その心配は実は杞憂である。何故かというと、
「うた、まだ履歴に電話番号残っているから、サチとは一応電話できるよ」
数日前、こゆりはサチを呼び出すときにうたの携帯電話を使った。
つまりうたなら、その履歴から再びサチのスマホに電話することもできるのだ。
ちなみにその履歴、一番新しいものだったりする。友達とプライベートは分けるタイプだし、親とはラインで会話するので、電話の機能はあまり使われていない。
「え?よく残ってたね。普通定期的に消さない?」
「めんどくさがりやなもので」
素で驚いてくる柘榴に、意外とこまめだなとこちらが逆に驚く。
どちらかというと、柘榴にはガサツなイメージがあったのだが。
ていうか、そうであって欲しかった。じゃないと年上なのに自分の方がだらしないとか、恥ずかしくなってくる。
「こゆりも連絡先分かったら良かったんだけどねえ……」
「いやあ、どうだろう。分かったとしても、普通に出ないと思うから、どっちみちまともにコンタクトは取れないんじゃないかなあ」
サチのところへバイクに乗って向かっていたとき、うた、柘榴とばっかり話していたけど、それとなーくこゆりに話題を振ってたんだよね。
でもあの子ぼーとしてて、全然こっちの会話聞いてなかったし、普段は必要以上にあまり話したがらない性格なのかもしれない。
それに、軽く人間不信っぽいし。
チームを組もうと言われたときの、あの情緒不安定っぷりは普通ではなかった。過去に何かがあり、そのせいで必要以上にコミニケーションを取ろうとしていないのかもしれない。
だから、まずコンタクトを取る順番はサチが最初だ。
あと付け加えて言うなら、サチとはバイクに乗せる約束しているし、その件もついでにさっさと済ませたい。
……ああ、でも、いきなり電話なんてして大丈夫だろうか。
よく考えてたら、非常識すぎない?普通に迷惑じゃん、迷惑。
それで会うのを約束させようとしても、相手に警戒心を持たせてしまう。
「やっぱり、一度電話する前に、キュゥべえに事前に言ってもらおうかな……。いや、でも、今から探したらそれこそ何時間かかるか──」
「呼んだかい?」
「うわ!?」
突然何処かから声がしたので振り向くと、背後にはいつの間にか白いぬいぐるみ──キュゥべえがいた。
神出鬼没なのは知っているが、まさかこんな都合良く現れるとは。
本当、すっごい偶然だ。
「あ、キュゥべえ〜。こんにちは」
「こんにちは、柘榴。……ところで何でボクをやたら撫でているんだい?」
「いやあー、触り心地が良いと思ってー……」
柘榴はキュゥべえの前でしゃがみ、彼の頭をずっと撫でている。
完全に猫か犬のような扱いである。
うたからしてみれば、それはあり得ない行為だ。
人のように言葉を喋り、人よりも物事を見据えるキュゥべえを、うたはただのマスコットのようには思えない。
確かに見た目は可愛らしいが、その中身は何か得体の知れない……、例えば映画とかに出てくる正体不明の怪人と同じだと考えている。
魔法少女や魔女という、不可解で不気味な存在に関わっている時点で、その腹が綺麗なわけがない。
そしてそれは多分、うた達が聞いても相容れないものだろう。
キュゥべえは所詮人間ではないし、魔法少女の絶対的な味方でもない。
「グリーフシードを回収しにきたんだけど、二人が一緒にいるとは珍しいね」
「偶然会ったんだよ。ねー」
「……そうだねー」
うたは柘榴のテンションが面倒くさくなって、彼女と似たような棒読みになる。
でも柘榴は特に気にしている様子はない。
……こういうところ、掴みどころがなくて何考えているか分からない。
「でも、さっきからサチとこゆりのことを話していたようだね?何かあったのかい?」
「ああ、うん。
実はうた達さ、サチに会いたいんだよね。うたはサイドカーのバイクにサチを乗せてあげるっていう約束あるから、その日程がいつが良いか知りたいし、柘榴は柘榴でサチと話したいって言っててさ。だから、キュゥべえには悪いんだけど、サチにそのことを話して欲しいんだよね」
「そういうことか。なら今からサチに会いに行ってくるから、しばらく待っていて欲しい」
そう言うと、キュゥべえはとてとてと走り去っていった。
それは遅くもなかったが、……あの速度でサチの元にまでつくのに一体何時間かかるのだろうか。
「……ねえ、今思ったんだけどさ。やっぱりそのままかけた方が良かったんじゃないのかな?」
「悔しいけど、それ、うたもちょっと思った……」
ところで、キュゥべえはグリーフシードを回収しに来たんじゃないのか?
彼、そのこと忘れてサチのところへ向かっていない?
……なんか、悪いことしてしまったな、と、うたは密かに罪悪感を覚えた。
しかし、その罪悪感とは裏腹に、数十分とたたずにスマホに電話がかかってきた。
その番号には見覚えがなかったが、恐らくそれはサチのものだろうと直感で分かった。
あちらも同じように履歴を消していないとすると、うたの電話番号を知ることはできる。
……だが、キュゥべえは一体どんな手段を使ってこんなにも早く、サチと接触したのだろう。
きっとキュゥべえのことだから、それはうたたちが予想もつかない、不思議な方法に違いない。
「私出たい出たい出たい!!」
「駄目。うたがまず出る」
横で手を上げて主張してくる柘榴を制止しすると、えーと抗議の声が上げられた。それすらも棒読みなので、いちいち妙な違和感が生まれる。
本当、この子は行動と表情が一致してないよね。
「何で駄目なのさー」
「余計なことしそうだから」
「めっちゃ辛辣……!!」
ショックをうけたのか、柘榴ががくりと頭を下げる。
うたは少し白けたような、呆れたような目線をざくろに向けながら、電話に出る。
すると案の定、画面から聞こえてきたのはサチの声だった。
「もしもし、うたは?」
「もしもし。名前、少し惜しいよ。“うたは”じゃなく、“うがは”ね」
一人称もうただし、名前の漢字も“歌羽”だからよく勘違いされるのだが、読み方は“うがは”である。
本来なら“うたは”になるはずだったのだが、両親が寝ぼけていたせいか書類に誤字があったらしく、“うがは”になってしまったらしい。
だが逆にそれを両親が気にいってしまい、結果家族からは“うたは”と呼ばれず“うがは”と呼ばれている。
「ややこしいな〜。“うたは”でも“うがは”でも良いでしょ」
「そんな適当な……。まあ、そんなに名前が呼びにくいなら、うた、でも良いよ。知り合いからはそう呼ばれてる」
「何?呼び名の話?サチもうたって呼ぶなら、私も歌羽のことうたって呼ぼうかなあ。だって、うたって渾名可愛いよね、うたって渾名」
何故か柘榴が勝手に呼び名を決めてくる。
まあ、呼び名などどうでも良いが、なんか距離感が近い。
「じゃ、テメエを呼ぶ時は“うた”で良いや。うたの方が歌羽よりなんか可愛いし。呼びやすいし」
そしてサチはサチで、“うた”という渾名に関する感想が柘榴と同じなのに、言い回しが若干失礼である。
そんなに、うがはという名前が変なのか。自分でも結構気にしているんだぞ?
「うた。私、キュゥべえからだいたい話は聞いたから。今から柘榴と一緒に、あのバイクで会いにきて良いよ。どうせ暇だし、そっちも休日だから暇でしょ?」
「ああ、うん……」
意外とあっさりとこちらの要望を聞いてくれて、うたは少し驚く。
どうにも付き合いが良いというか……、会った時はそんな印象なかったのだが、案外こゆりとは真逆のタイプなのかもしれない。
口調は粗野だが、語調は何処となく明るい。……というより、妙にウキウキしている?
「何かサチ、嬉しそうだね。そんなに、バイクに乗れるのが嬉しいの?」
「は、はあ!?違うし!!」
「そのわりに、声の調子が弾んでいるけど……」
「だから違うって言ってんでしょ!!私はそ、そんなこと思ってねえし!!全然テメエらにまた会えるから嬉しいとか、思ってないんだからね!!」
うーん、見事なまでのツンデレ。
ここまでテンプレなもの、見たことがない。
……こゆりとは真逆のタイプだと思っていたが、前言撤回しよう。案外、サチとこゆりは似ている性格かもしんない。
「そ、そういうことで、早くこいよな!待ち合わせ場所は、以前会った空き地だから!」
「あ、ちょっと!?」
ガチャ、と唐突に切られ、うたは苦笑いを浮かべた。
勢いありすぎて、ちょっとついてけない。何か今更になって、すっげえめんどくせーっていう思いが強くなってきている。
「ねえねえ、うた。サチなんて?」
早速うたを渾名で呼んで、サチのことを尋ねる柘榴。うたはそれに雑な顔をしないよう気をつけながら、
「良いってさ。今からサイドカーのバイクとってきて、あのサチと前に会った空き地に集合だよ」
◆◇◆◇
家に戻り、お父さんに話をつけてサイドカー付きのバイクを借りる。
サイドカーに柘榴を乗せると、うたはバイクを発進。早島の空き地に、三十分かけてついた。
初めて会った時と同じく、サチはすでに空き地に来ていた。
服装は、紫色のワンピース。悔しいことにその服のセンスはうたの目から見ても良く、サチを何処ぞの落としやかな令嬢のような雰囲気にしている。
しかし、中身はやっぱり子供だ。
地面に木の枝でうんこの絵を描いてニヤニヤ笑ったりと、やっていることが下らない。
一方キュゥべえも空き地にいて、こちらはマイペースに地面に丸くなっている。
その様子はいかにも可愛らしいが、サチにほったらかされているせいか、なんとも哀愁があった。
「サチ、キュゥべえ」
バイクから柘榴と降りて名前を呼びかけると、サチとキュゥべえはうた達の方を振り向いた。
サチははっとすると、慌てた様子で地面の絵を足で雑に消し、キュゥべえを両手で掴むと、こちらへ走り寄ってくると、
「今の絵……、見たのか?」
赤面した顔で、見たこともないくらい鋭い目つきで睨みつけてくる。
よっぽど、さっきの絵を見られたのが恥ずかしいらしい。それなら描くなって話だが、まあここは気を使ってやろう。
うたは、サチの質問に頷きそうになっている柘榴を密かに小突いて止めてから、
「全然見てないよ?」
「本当に……?」
「見てないって。本当に」
「……なら良いけどさ」
心なしかほっとしたように溜息を吐くサチ。
だが、さっきの言うことを素直に信じるとは……。我ながらバレバレだったと思うんだが。
「柘榴。うた。……また、会えたね」
サチはそう、何処となく含みのある言い方をした。
うたは瞬間、ぎょっとなる。うた達を見る彼女の瞳が、以前と会った時にはなかった、期待のようなものが宿っていたからだ。
それが具体的には何か分からないが、しかし相当重いものであるのは間違いない。
……ああ、嫌だな、嫌だな。そういうのめんどくさいな〜……。
柘榴はともかくさあ、そんな何かを期待されても、どうにかできる力ないってうたには。
ただでさえ、いっつもいっつも無気力なのにさぁ。
でも、拒否できないよねぇ……。柘榴にほっとけないって言っちゃったから、どうせ助けなきゃだし……。
……あー、もう、カッコつけるんじゃなかった。結局しんどい思いするじゃん。
「二人とも、予想以上にここに着くのが早かったね」
「そっちこそ、サチに連絡するの早すぎない?どうやったの?」
「早島にも、ボクと同じ個体が沢山いるからね。その仲間に頼んだんだよ」
「……、えーと、要するにキュゥベえってのは群体なの……?」
「そうだよ」
肯定され、うた達はそれぞれがそれぞれで異なる反応をする。
サチは、気持ち悪いもので見るように手の中のキュゥべえを見、逆に柘榴は興味深そうにキュゥべえの耳などを仕切に触り、何かをぶつぶつ呟いている。
うたはというと、ある意味そこまでびっくりしておらず、逆に納得していた。
だって、各地に魔法少女がいる理由も、その魔法少女のグリーフシードがちゃんと処理されている理由も、キュゥべえが群体であればすべて説明がつく。
「いやあ〜、にしても、また見たけどすっげえカッコいいなあ〜」
微妙になった空気を無理やり払拭しようとしたのか、サチはバイクをジロジロと見ながらそう褒め称える。
しかし、うた的にはこれのどこがそんなにいいのかよく分からない。
古いし、お父さんの匂いがしてあんま好きじゃない。サイドカーの座席も掃除あまりされてないし。
……まあ傍目から見たら、そんなの分からないだろうが。
「分かる〜、カッコいいよねえ、このバイク」
「意外と話が合うじゃない、柘榴」
そして何故かサチと意気投合している柘榴。確か中学一年生のはずなのに、そのはしゃぎっぷりはサチと同年代のようであった。
言っちゃ悪いが、もしかしたら二人の精神年齢はそう変わらないのかもしれない。
「柘榴、さっさと本題に入って。何か貴女達を見てるだけで疲れるからさぁ」
「ねえ、やっぱ、さっきからだんだん私に対して辛辣になってない?うた」
「気のせいだよ」
うたは柘榴の文句に適当に返す。
サチがこちらに何か言いたそうに半目で見ていたが、それこそ恐らく多分きっと気のせいだろう。
「で、この船花様に会いたかったって、どういうことだよ」
サチが柘榴の方を向く。
瞳に宿る、こちらに何かを期待しているような光が一層増して、胸の奥が締め付けられる。
……それと共に強くなる、無気力な感覚に、柘榴などその期待には不相応だという、馬鹿にする思考。そして、そう思う自分に対する自己嫌悪感。
……あー、全部全部、嫌になる、嫌になる。不愉快で吐きそう。
「こゆりとサチが寂しそうにしてたから、どうにかしたいなって思ったの。
……貴女達、何か辛いことあったんでしょ?あの時会って話している中で、そういうのを感じ取っちゃってさ」
柘榴はいつになく真剣だ。
それは彼女がたとえ無表情で棒読みであっても、雰囲気で分かる。
サチの目が一瞬そのことに見開かれ、次に切なげに細められた。
まるで、何か光明を見出したかのように。
この空気に耐えられず、うたは込み上げてくる感情を、キュゥべえの顔を見て落ち着かせた。
彼はいつも表情を崩さず、まるで永遠に溶けない氷のようだ。それが不気味ではあるが、しかし今のうたには心地よい。
「……うたの方は?」
「え?」
「なんとなくだけど、ただついでに、ここまで柘榴を送ったようには見えないんだよね。お前も、本当は私になんかあったりすんの?」
あの期待が込められた目が、今度はこっちを向く。
うたは何処か酷い罪悪感に苛まれながら、違うと首を振った。
「いや、うたは柘榴が心配でついてきただけだよ。この子、ほったらかしておけなくて」
「そっかぁ……」
サチがあからさまにしゅんとする。
やめてくれ。……うただって、ちょっときついんだからさぁ。
「まあ、歌羽の心配も理解できるよ。柘榴は、やることなすこと予測不可能だ」
「ちょっと、何でうただけじゃなく、キュゥべえまで辛辣なの……!?」
「それほど人望がないってことだろ」
小馬鹿にしたようにサチが笑う。と言っても、それはからかうような、軽いものだったが。
しかし、柘榴は少し拗ねたのか、むう……と、ほんの僅かに頬を膨らませた。
「……でもどうして私だけにコンタクトをとってるの?こゆりは?」
「こゆりはほら、気難しいから。話しかけるならまずはサチからかなって」
「なるほど」
あっさりと納得したように頷く。
どうやらサチの中でも、こゆりは感情的で付き合いづらい人物、という認識らしい。
いや本当、どうしてこゆりのような子がサチと同盟を組んでいるのか分からない。
その接点が、色んな点から考えても全然見えてこないのだ。
「その判断は正しいよ、歌羽。キミが言う通り、こゆりは気難しい。それにサチからの方なら、こゆりがどうして“ああなっている”のか知れるからね」
「サチは、こゆりについて何か知っているの?」
「うん。こゆりはね……、妹を亡くした後、家族からも、入理乃からも裏切られたんだ」
やはり、色梨こゆりは暗い過去を持っていたらしい。
“妹をなくした”。“裏切られた”。その二つのワードだけでも、嫌な想像が働いてしまう。
一体、彼女はどれほどの絶望を背負っているのだろう。
「……柘榴、私達の寂しさに気付いたというのなら、どうか、私達を助けてよ」
「助ける……?」
「私達の、仲間になって欲しい。私達を、受け入れて欲しい」
うたははっとする。
その頼みには、瞳に宿った期待と同じものが込められていた。
サチは人の温もりを求める心があったのだ。
そしてそれを求めるということは、こゆり同様、暗い過去があるということだろう。
何が、彼女達にあったんだ。
うたはもしかしたら、何か自分の手に負えないものに触れようとしているのではないか?
だが、怖くなっても逃げれない。
それは、好奇心があったから。そして、柘榴をほっといておけないから。
そんな自分がどうしようもなく矛盾しているように感じられて、馬鹿馬鹿しく思う。
何が、何が柘榴のためだ。
何も出来ないくせに。それで、うたの価値は何も上がらないのに。
「そんな風に頼まなくても、サチとこゆりはもう私の友達だよ」
そんな風にもやもやしている間にも、柘榴は躊躇する様子も見せず、サチの手をとって親愛の情を表す。
サチは瞬間、瞳に涙を浮かべ、それを一筋流した。
「……良かった」
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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