「……あの野郎……!!いつか絶対、切り刻むなり何なりして痛い目にあわせてやる……!!」
闇世の中、あたしは歩きながら呪詛を吐き続けていた。
その対象は、もちろんあの液体金属を操る魔法少女である。
さっきから、あいつには腹が立ってしょうがなかった。
あたしは魔法少女になってここ一ヶ月、地元のいさ土で縄張り争いに負け続けていた。
どうやらキュゥべえは意地の悪いことに、あたしと同じような新人をぽんぽん増やしていたらしい。
結果、魔法少女の縄張り不足が起き、争いが激化。あたしも早々に狩場を奪わた。
その後、なんとか同じ境遇の子とチームを組んだが、それも仲の悪さが原因で即解散。また縄張り争いに巻き込まれ、そうして流れ着いたのが牛木草である。
ここはいさ土よりも、そこまで縄張り争いが頻発していない治安の良い場所だった。
そのため滅多に襲われる心配もなく、縄張りも時期に手に入るだろうと油断していた。
だが、そう都合よくいかない。
何処の狩場も他の魔法少女が既に所有しており、頼んでもそれを使わせてくれなどしない。あたしがグリーフシードを手に入れるには、もう他の魔法少女から無理やり縄張りを奪うしかなかった。
しかし、これも上手くいかなかった。
相変わらず他の魔法少女に負け続け、追い出され続けた。
そんな中で、諦めず何度も何度も他の魔法少女の縄張りを奪おうとし──やっと今回縄張りが奪えそうだと思ったのだ。
でも、そんな希望も泡のように消え失せた。あの液体金属を操る魔法少女のせいで。
一度邪魔されたのもあって、最早、腸が煮えくりかえるどころじゃ済まされない。彼女の姿を脳裏に浮かべるだけで、殺したくなるぐらいの憎悪が腹の底から湧き出てくる。
「……いや、今はそれよりもグリーフシードだ。ともかくグリーフシードを、なんとかしないと……。今のままじゃ、全然足んない……」
現状の手詰まりを思うと、自然と憂鬱になる。あたしは思わず、頭に手をやった。
あの人の──お母さんの病気は、今もなお進行している。医者の見立てでは、余命はあと一ヶ月。
手術は出来ない。
お父さんの勤め先の工場は、他所から来た会社の嫌がらせ受けて財政難になっている。そのためうちの家計も火の車であり、お母さんを入院させているだけで精一杯だ。
治す術はあたしの固有魔法、病気の治癒のみである。しかし、お母さんの病気は重すぎて、あたしの魔力では快癒できない。
だから一ヶ月までに、どうにかして大量のグリーフシードを掻き集めなければ。
それが出来なきゃ、お母さんは死んでしまう。
お母さんを失うのは嫌だ。
あの人は、出来損ないのあたしに唯一失望しないでいてくれた人なんだ。
彼女がいない世界など、生きている意味も、価値もない。
……この際、手段など選んでいられるものか。
魔法少女の命を殺すなり何なりして、グリーフシードを奪うも良し。他の魔法少女が魔女のことで争っている隙に、漁夫の利を狙うのも良いだろう。
それからそれから──
「くそ……!!」
あたしは苛立ちのあまり立ち止まると、側にあった外灯の柱に拳を叩きつけた。
鈍い痛みが走り、手にアザが出来る。
だが、それで感情が発散されることはなく、むしろより激しくなっていく。
本当は、こんなこと考えたくもない。
本当は、誰かにひどいことをしたいわけでもない。
あたしはついさっき、金髪の魔法少女に暴力を振るっていたが、あれも実のところ本意じゃない。
誰かを傷つけるのは、流石のあたしだって心が痛む。何より、こんなことが知られればきっとお母さんに嫌われてしまうだろう。
それが、一番恐ろしい。
しかし、そんな手段しかあたしにはない。
あたしは、小さい頃から物覚えが悪かった。何も出来なくて、とろくさいって言われ続けた落第生だった。
それは中学生になった今でも、多少マシになった程度で大して変わらない。
愚鈍なあたしは、やっぱり魔法少女になっても落ちこぼれなのだ。
皆みたいに何もかも上手く出来ない。
だから成功法は使えなくて、結局外道に落ちる羽目になった。
「どうしてあたしは……」
強烈な後悔の念があたしを襲う。
今のあたしって、一体なんなんだろう。何処にも行き場もなく、誰かを傷つけても何も得られない。
なんて惨めったらしいんだ。
こんなことになるなら、契約の時にあの人の病気を治してほしいですって頼めば良かった。
病気を治す力の方を願ったって、何にもならなかった。
「……うぅ、……ぐす……」
あたしは思わず、みっともなく泣き始めた。押さえ込んでいた色々な感情が溢れ出して、止まらないのである。
誰かに相談も出来なくて、ただ責任感がプレッシャーとなって常にのしかかっていた。
そうしてもがけばもがく程焦り、失敗し、状況は進展しない。そのくせお母さんは日々弱くなっていき、タイムリミットが僅かであるのを突きつけられる。
……もう、限界だ。もう、どうすれば良いか分からない。
いっそのこと、お母さんが病気になる前に戻れればいいのに。それか誰かあたしのことを──
「何でこんな道端で泣いてるの?もしかしてお腹でも痛くなった?」
ふと後ろから、不躾にあたしをおちょくるような声が聞こえてきた。
あたしはまず誰かいるということに驚き、ついで泣いているところを見られたことに苛ついた。
これは何か一言言ってやろうと、涙を急いで洋服の袖で拭う。そうして後ろを振り向いた途端、
「ばあ」
「……うきゃ!?」
外灯の光に照らされた少女の顔が、至近距離であたしの顔に近づけられた。
当然あたしは驚き、短い悲鳴を上げて数歩距離を取る。
すると少女は腹を捩らせるほど哄笑し、目尻に涙を浮かべた。
「すっごい良いリアクション!!予想以上で、逆に感心したわよ」
「いやー、それほどでも……って、失礼だろ!!そんなんで感心されたくないんですけど!」
「これまた良いノリツッコミで。貴女、天才的な弄られ役の素質があるわね」
「そんなの全然欲しくない!!」
なんだか漫才じみた会話をしてしまい、あたしは頭が痛くなった。
ここまで初対面の相手におちょくられたのは初めてである。
少女は比較的落ち着いたあとも、時折くすくすと小さく笑う。
忌々しいことに、先ほどのやり取りを思い出しているのだろう。
「お姉さんっておもしろいわね。こんなに愉快なのは久々よ」
「……あたしもこんな笑われるのは久々だわ」
僅かに眉を寄せる。
馬鹿にされるのは慣れてるが、しかしこうも堂々とからかわれるのは腹立たしい。
なんなのだろうかこいつは、とあたしは少女を観察する。
彼女が外灯の光をスポットライトのように浴びてくれているおかげで、視界の悪い夜の中でもその全身がはっきりと見える。
年の頃は、十三、四才頃だろうか。
色素の薄い淡い色の髪を二つ結びにし、肩に垂らしている。
服装が古風なローブなためか特に目立った露出は少なく、落ち着いた印象を受ける。が、それは顔を見なければの話であるのは言わずもがなである。
……格好や魔力反応から察するに、どう考えてもこの子は魔法少女だ。
そしてこちらに近づいてきたということは、あたしが魔法少女であることを彼女は知っているのだろう。
もしかしたら縄張りのことでなんか文句を言いにきたのかもしれないと、あたしは少女を警戒する。
「睨みつけないでよ。そりゃあ最近ぴりぴりしてるけどさあ、こっちは争う気はないわよ?」
ねえ、お姉さんと笑う少女。
随分と飄々とした子らしい。あたしの態度に不快そうな表情を全くしない。まあそれは、ある意味予想がつく反応だったからというのもあるだろうけど。
「どうだか。今まで散々あたしは、色んなところを追い出され続けたんだよ?その経験から言わせてもらうと、お前みたいなのが一番怪しい」
「ちょっと人を疑いすぎでしょと思うけど、反論できないのが地味に痛いわね」
少女は恥ずかしそうに頭の後ろを掻いた。
それが冗談ではなく本当に苦々しそうな仕草なので、一瞬だけ、彼女に敵意はないのだと思ってしまいそうにもなる。
かといって、そう信じ込んでしまうほどお人好しでもない。
あたしは変わらず警戒を続け、少女に問いかける。
「……お前、グリーフシードとかかを奪うために、あたしに近づいてきたの?」
「うんにゃ。私が貴女に近づいたのは、ある人が貴女を自分の元へ連れてこいと言ったからよ」
「ある人……?」
不穏な単語が聞こえ、あたしは震え上がった。
……ま、まさか、その“ある人”ってあたしに対して、何か恨みでもあるんじゃないよね?
ヤバイ。心当たりがありすぎるわ。
ここ最近、本当録でもないことばっかりやってたから……。
「ビビンないでよ、お姉さん。あの人は、別に貴女に酷いことしようとてないから。むしろ、貴女を受け入れてたがっているだけだから」
「受け入れる……?」
「……お姉さん。貴女、牛木草出身じゃないでしょ?」
余所者だということを言い当てられ、動揺が走る。少女はそんなあたしを面白がるように、ニヤリ、と悪戯っぽく笑ってみせた。
「すぐ分かるわよ。何だかここらに慣れてないみたいだし、何よりこそこそ移動してんだもの」
「……、もしかして、つけてたのか……?」
「サチちゃんじゃあるまいし、私はそんなことしてないわよ。だけど、偶然お姉さんをあの人が見ちゃってさ。それで会いたいって言い出しちゃったの」
知らない子の名前を出しながら、少女は困ったような表情になる。
口元の笑みは諦め気味になっていて、なるようになれ、という彼女の心の声が聞こえるようだった。
「ごめんなさいね。本当はお姉さんをあの人のところへ連れて行きたくないんだけど、私、あの人にはちょっと負い目があるから命令には栄らえないのよ。
だから、素直にあの人に会ってくれない?
これは悪い話じゃないわ。あの人の元にくれば、こそこそする必要もなくなる。今よりずっと好き放題できるわよ?」
「──!」
こちらを真っ直ぐ見る少女に、あたしは思わず目を見開く。
自分についてくれば、日陰者でなくなる。その提案が、今のあたしには一種の希望のようにも思えたのだ。
だって堂々と出来れば、その分よりグリーフシードを集めやすくなる。
しかし、だからこそ迷いも生まれる。
まだその“ある人”が、あたしに対して恨みがある可能性は捨てきれないのだ。
もしかしたら、“ある人”は都合が良い話であたしを誘き出し、制裁を加える気なのかもしれない。
でも──どんなに怖くても、もうあたしに時間は残されていないんだ。縋れるものは、縋らないと。
「分かった。なら、さっさとあたしをその“ある人”の元へ連れて行って」
「え、マジで?」
あたしが申し出に頷き返すと、その返事が予想とは違っていたのだろう。少女は僅かに驚いたような目で見てきた。
「意外ね、お姉さん。もっと嫌がるかと思ったんだけど」
「生憎、あたしには行き場がどこにもないんだ。……それが手に入るってんなら、ついて行かない理由はない」
少女の目に、こちらも強い意志を込めた瞳を返す。
お母さんが今病気で苦しんでいるのは、あたしのせいだ。
だからあたしには、彼女を救う責任があるのだ。
たとえ、何を代償に払っても構わない。お母さんさえ助けられれば、それだけで良い。
そのチャンスを逃してたまるか。
「……そこまでお母さんを大切に思っているのに、それを私の都合で利用してごめんなさい」
「ん?何か言った?」
風のように小さな呟きに、あたしは疑問の声をあげる。
しかし、大したことではなかったらしく、少女は何でもないと首を振った。
「じゃあ、お姉さん。案内してあげるから私についてきて。あ、逸れるのが不安だったら手を繋いであげるけど?」
「いらんわ。ガキかあたしは」
「怒りっぽい人ねえ。軽いジョークだってのに」
少女はやれやれと肩をすくめる。それがいかにも大げさなもんだから、あたしは一瞬だけ本気で引っ叩いてやろうかという気になった。もちろん、そんなことを実行するつもりはないが。
しかし、
「……なんか調子狂うな。本当」
この子と話していると、なんだか感情的になってしまうというか、素直になってしまうというか。怒りで怒鳴ってばっかになってしまう。
……かつて初対面でこれ程までに振り回されたことはあっただろうか。
実に奇妙で、実に疲れる。
「でも、泣いているよりかは良いでしょ?」
「……!!」
はっとして少女の方を見る。少女はにっしし、と歯をみせて、してやったりといった風に笑う。
それであたしはわざとおちょくられたのだと気がついた。あたしは、見ず知らずのこの少女に気を使われていたのだ。
「くそ……、あたしとしたことがなんたる恥辱……」
「そんな落ち込まないでよ、お姉さん」
「落ち込むっつーか、呆れてんだよ。余計なことさせてしまった、馬鹿で愚かな自分に」
「……ふーん。お姉さんってば、思ったより難儀な人なのね。……そんな風に自分のことを考えてるなんて、辛くはないの?」
鼻白んだような顔をし、何故かいらぬ心配をしてくる少女。余計なお世話だ、と悪態をつくと、
「そういえば、お前名前は?」
「私?私の名前は伊尾……、じゃなくて、東ミズハ。貴女は?」
「みいか。
あたしはぶっきらぼうに名前を名乗る。
少女は忘れぬように、みいかね、とあたしの名を口にし、うんと頷いた。
「それではお姉さん──藤野みいかさん。改めて、あの人の元へ案内するよ。……ちょっと遠いけど良い?」
「良いよ。どうせ今、深夜だし。それよりさっさと連れってて」
「分かったよ。せっかちな藤野さん」
ふふ、と見た目に反して大人っぽく笑うと、少女はくるりと背を向けて闇の方へと歩を進めていく。
あたしはその姿に緊張のようなものを感じながら、少女と同じように夜の中へ足を出した。
◆◇◆◇
「……唐突ですけど、アニメとかでよくありますよね?貧乳の女性キャラが、巨乳の女性キャラを見て嫉妬したり、羨ましがったりするシーン。
あれ、正直見てて私思うんですよねえ──マジ死ねって」
にっこりと……、そう、にっこりと、パイプ椅子に座りながら少女──恵比寿小豆さんは笑った。
彼女の胸は、大きく膨らんでいた。ぶっちゃけめっちゃ巨乳だ。
そのためか、小豆さんの前にある机の上に乗せられたそれは官能的な魅力を放っており、視線が吸い込まれる。
男であれば誰でも鼻の下を伸ばすだろうし、女であるうたでさえ息を飲んだ。
しかし。当の本人は、自身の巨乳に対し良くない思いをしているらしい。
顔が、笑っているけど笑ってない。
「巨乳の何処が良いんですか?重いし肩凝るし型崩れするし走る時邪魔だし服合わないし蒸れるし。とにかく邪魔なんです。悪しき存在なんです。それをわざわざ欲しがるとか、馬鹿なんですか?馬鹿なんですよね?馬鹿以外あり得ませんよね?」
妙に明るく、しかしその声音には確かな憎悪を乗せて。少女は早口で言葉を紡いでいく。それはほぼほぼ理不尽な文句であり、こちらとしては知ったこっちゃない内容である。
だが、構わず小豆さんは薄く笑みを作りながら、
「どいつもこいつも人の苦労も知らないのに、巨乳欲しい巨乳欲しい巨乳欲しい巨乳欲しいうっせえんですよ。それを言うなら私だって、巨乳は欲しくありませんでした。ええ、欲しくありませんでしたとも。むしろ貧乳が欲しかった。私のなりたい体型の理想像は、スレンダーな体型なんです。それなのに、いきなり成長期で膨らんじまったんです。もう風船みたいに、パンッパンに」
「……」
「つまり何が言いたいかっていうと──まだ成長してない貴女達が羨ましいってことです。うふ、うふふ、うふふふふふふふふふふふふふ」
組んだ手を額にやってそれを支えとし、小豆さんは顔を俯かせる。その目は角度の問題で見えないが、恐らく死んだ魚の瞳のように虚であろう。
もはや、こちらのことなど眼中にない感じで、小さく不気味な笑い声を立てているのだから。
「……何だ、この人」
「さあ……」
うたの両隣で、会話が交わされる。パイプ椅子に座っている柘榴とサチが互いに少し身を乗り出し、顔を見合わせたのだ。両者とも、困惑の二文字が表情となって出ている(といっても、柘榴の方はほぼ無表情に近かったが)。
「何かさ、聞いてたのと性格違くない?」
サチが訴えるようにうたの方を向く。しかし、そんな風な目で見られてもこちらも困ってしまう。
うただって、何が何だか分からない。
「……本当は、もっと穏やかで理知的な人のはずなんだけど」
「うふふふふふふふ──」
「これの何処が?」
サムズアップを横にしてサチが小豆さんを指す。
彼女は暗い表情で、未だに笑い続けていた。
「本当の本当に、穏やかで理知的な人のはずだったんだよ」
うたはそう言いながら、背もたれに背を預けた。座っているパイプ椅子がぎしりと音を立てる。
今、うたの胸中ではある思いが浮かんでいた。
──どうしてこうなった。
胸でっか!!いいなあ!!ってサチが言った途端、ご覧の有様である。
正直、ショックを隠しきれない。
うた、実はいうと小豆さんには少し憧れがあったし、密かに尊敬していたのだ。
その尊敬が、ガラガラ音を立てて崩れていくのが自分でも分かる。
それに、小豆さんにはうたと同じくまとも枠でいて欲しかった。これ以上こゆり達のような残念枠が増えちまったら、面倒くさいし、胃に穴が開く。
……ああ、こんな時に限って腹が痛くなってきた。そしてカムバックインタイム。こんな思いをするくらいなら、過去に戻りたい。
と、うたが遠い目をしながらそんなことを考えていた時、
「ほい」
「ぴゃ!!」
小豆さんの隣に立つ人物が、彼女の後頭部へと容赦なくチョップを喰らわせる。
その一撃で小豆さんは机に頭をぶつけ、しばらくの間痛みに悶絶する。
そうして恨めしそうに、手刀を入れたその人物を睨みつけた。
「いきなり酷いじゃないですか、家主」
「でも前回もこうしないと止まんなかったし、仕方がないじゃないか。僕だって本意じゃない」
家主、と呼ばれた少女は少しじと目気味な目を小豆さんに返す。
その人は、ぱっと見は小豆さんと同年代ぐらいに見えた。
淡い色の髪はウェーブがかかったボブぐらいの長さで、身長は普通よりも若干高い。
目元は穏やかかつ理知的であり、小豆さんとはまた違ったタイプの落ち着いた雰囲気を感じる。
格好はフリルのついたエプロンの下に、スリットの入った深緑の着物を着ているという服装で、所謂和風メイドという奴になるのだろう。
そのスリットから見える太ももには緑色に輝くソウルジェムがあり、その姿が彼女の魔法少女の衣装らしいことが窺えた。
「ごめんね。この子、スイッチ入るとこうなっちゃうみたいで」
家主さんははあ、と溜息をつき、それからうた達を見て申し訳なさそうに苦笑する。
するとびくり、とサチが一人だけ大きく硬直した。
「どうしたの?」
柘榴が棒読みながらも心配そうに聞くと、サチが顔をしかめながら腕を組んだ。
「……いや、気のせいかも知んないけど、この人ミズハに表情そっくりじゃねって思ってさあ」
「ミズハって……、確かサチと縄張り争いしてた、あのミズハ?」
「そう、そのミズハ」
うたが確認すると、サチがこくこくとと頷いた。そして、家主さんを穴が開くほどじろじろ見ると、
「ていうか、顔の作りもよく見たら微妙に似てるくね?何?血縁者?」
「……似ているというのなら、そうかもしれないね」
「は?」
サチが素っ頓狂な声を上げる。
家主さんの言い回しは、それだけ変だったのだ。
そしてそれを自覚しているのか、彼女はあらゆる感情を内包した複雑な顔になって、口を閉ざしている。
喋りたくないからではなく、どう喋れば良いか分からないのだろう。
その目には、迷うような色が浮かんでいる。
「すみませんね。家主は記憶喪失……、所謂エピソード記憶ってのが欠けてまして。自分が何者で、何をしてきたのか思い出せないんですよ。覚えてるのは自分の名前と、家主って渾名ぐらいで」
やがてそんな家主さんを見ていられなかったのだろう。
頭をさすりながら姿勢を正す小豆さんが、助け舟を出した。
「記憶、……喪失?」
その事実は、場に幾らかの衝撃をもたらす。
特にミズハの血縁者かもしれないと疑ったサチは驚愕しており、しばらくの間、呆然としている程であった。
家主さんは皆の反応をそれぞれ見て、気遣うように笑う。
「ま、まあ、記憶喪失っていっても、それも今のうちだけですぐその内思い出とか戻ってくるだろうし、だからそこまで暗い顔はしないでよ」
「……でも、不安なんじゃないないんですか?私だったら大混乱してますけど」
「──それが、結構落ち着いているんだよね。何故か僕、記憶喪失になったこと自体には最初から折り合いついてるみたいで」
そう言うと、家主さんは先程とは別に複雑そうに笑みを作った。
彼女の中でも、色々あるのだろう。
記憶の消失は、そのままアイデンティティの消失を意味する。
その辛さはうたには想像の中だけしか理解できないが、とにかく大変なのは間違いない。
これ以上この話を続けるのは、家主さんのためにもやめておいた方が良いかも。
うたは話題を変えようと、ここに来た用件について質問した。
「あの、小豆さん。うた達をこんな場所に集めて話たいって、何かあったんですか?それこそ重大なことが起こっていたりとか……」
「重大なこと……、ですか。まあ、ある意味重大なことではありますが……」
小豆さんは一瞬考え込むと、腕を胸の前で組んだ。そしてごほんと咳払いをすると、
「本題といきましょうか」
と、神妙な顔をして話す始めたのだった。
藤野みいか
いさ土市出身の新人魔法少女。地元の縄張り争いに負け、牛木草に流れてきた。今年で十五歳だが、そうとは思えないほどかなり小物臭くて怒りっぽく、調子に乗って失敗しやすい。幼い頃晩熟だったために極端に劣等感と被害妄想が強く、ある意味こゆりより自分を大切にしない性格の持ち主。
心の支えは母親だけであり、彼女の病気を治すべく多くのグリーフシードをかき集めようとしている。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章