魔法少女こゆり☆マギカ   作:鐘餅

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何とか一万文字超えずにすんだよ……


相棒

 目覚めて最初に思ったことは、ここはどこだ、でもなく、自分は誰だ、でもなかった。

 頭の中に浮かんだのは、あの子はどうなったんだろうか、ということだけだった。

 早く、早く何とかしなければ。あの子を死なせるわけにはいかない。その焦燥感が、僕の中で燻っていた。

 

 しかし、何故そう思ったのかは分からなかった。

 その時すでに、僕の頭から記憶は抜け落ちていた──俗に言う、エピソード記憶の喪失だ。

 覚えていたのは、家主というよく分かんない変な渾名と、弦家住というこれまたおかしな名前のみ。自分が何処で生まれ育ち、何をして、どう過ごしていたかという記録は、綺麗に消去されていた。

 もちろん、目覚める前の直前の出来事など覚えているはずもない。

 

 気がついたら小豆の家にいて、小豆と、その知り合いだという魔法少女が僕の体を治療してくれていた。

 僕は、どうやら血だらけの状態で道端に倒れていたらしい。それを発見した小豆達に保護され、助けられたのだという。

 

 僕は非常に運が良かった、と素直に感謝した。

 何か使命感のようなものがあり、それを果たすまでは死ねないと思ったからだ。

 ……まあ、それを抜きにしても、道端で死ぬのはいささかかっこ悪すぎるだろう。

 そういう意味でも、僕は生きていて良かったと心の底からほっとした。

 

「ねえ、これが何か分かりませんか?」

 

 しばらく記憶喪失の話をしたりで一悶着あった後、落ち着いたところで、小豆はその質問と共にあるものを見せてきた。

 それは長い柄に斧と槍が備わった武器──ハルバードだった。

 芸術的な形を持ち、鮮血の如き色に輝く斧槍は、目を奪われる程に美しい。

 

 心がざわつき、僕は思わず食い気味になって小豆にハルバードのことを訊いた。

 

「……それは一体何だい?」

「倒れていた貴女が握りしめていたものですよ」

「僕がそれを……」

 

 何故そんなものを持っていたのだろう。分からない。

 しかし、そのハルバードには酷く見覚えがある。馴染みがある。

 少なくとも、僕と無関係であるとは思えない。

 

「しかし、この武器から感じる魔力……、貴女のものと全然合致しませんね……」

「……」

 

 そう言われてみれば、確かに魔力反応が自分のものとは違うことに気がつく。

 試しに自分の武器を出してみればそれは剣鉈で、ハルバードとは似ても似つかない。

 十中八九、この斧槍は他人の武器なのだろう。

 だが──

 

「それは……、僕のものだ。僕が、持っているべきものなんだ」

「何故そう思うのです?」

「大切ものだと……、そう感じるからだよ」

 

 そのハルバードは見ているだけで懐かしく、愛おしく、憎たらしかった。

 だから、手放し難いと感じた。

 これは、僕の体の一部にさえ等しいもの。たとえ何があったとしても、全力で死守しなければならない。

 だって、それが“僕の世界”にとって──

 

「それを、出来れば返してくれないかな?側に置いておかないと不安なんだよ」

「……だけど」

「……?何か問題でもあるの?」

 

 治療してくれていた子が言い淀むのが気になって、僕は首を傾げる。すると彼女はまた言いづらそうに口を噤むと、やがておずおずとした様子で、

 

「……恐らく、だけどね。このハルバードのせいで貴女は記憶喪失になったんじゃないかな?」

「え?」

「多分これ、他人の武器なんでしょ?しかも、込められている魔力がちょっと普通じゃないっていうか……、強すぎるんだよね。それを無理やり使ったんだとしたら、何か代償を支払ったとしてもおかしくないかもと思って」

 

 その子の心配している顔が、このハルバードは貴女にとって危険物だ、と言っていた。

 そして彼女の言い分は恐らく正しく、僕がこのハルバードを手にすれば只では済まない。

 だが、それで良い。それくらい受け入れる。

 

「そうだとしても、大切なものなんだ。……返して欲しい」

「怖いとか、思わないんですか?」

「思わない。不思議だけど、何か記憶喪失になったのは仕方がないって割り切れちゃってるんだ。多分、こうなることは分かってたんだろうね」

 

 だからこそ、今こうして話いても驚くほど冷静なのだ。

 これが普通の記憶喪失なら、もう少しパニックになっているはずだ。

 そう確信して頼めば、

 

「……」

 

 瞳を細め、観察するような目つきで小豆がこちらを見てきた。

 それは警戒心からではなく、この人は何を考えているのだろうという純粋な興味からくる目だ。

 

 ──僕のことを信頼したがっているのか?

 一瞬、そんな世迷言が頭の中で浮かぶ。続いて、そう思う自分自身に呆れた。

 何を期待しているのだ。そうそう上手い話、あるわけがない。

 こんな記憶喪失で見ず知らずの女を、誰が仲良くしたがるという。

 だが、

 

「そんな目をされ続けたら、困るな」

「……?」

「こっちの話だよ。こっちの話」

 

 からかうように、悪戯っぽく笑う。

 きっと、この少女は気付いていまい。その目に、僕がどれだけ心動かされたのか。

 

 冷静ではあったが、実はいうと物凄く心細かったのだ。

 当たり前だろう?

 僕は根無草の一文無しだ。身寄りもないなかで、どう生きて、どう過ごせば良い。

 もちろん魔法少女だから、最低限の生活はできるだろうさ。だが、だからって人は一人じゃ生きられない。

 ……僕は、どうしても孤独にはなりたくなかった。

 

 そんな心情を抱いている中で、この小豆という少女はタイミング良くこちらのことを知ろうとしてくれた。

 それが、とても嬉しかった。こんなどうしようもなく怪しい自分に歩み寄ろうとしてくれたことに、喜びが溢れた。

 

「……ふふ、ふふふふふ、あははは、あはははははははははははは!!」

 

 ふと腹の底がムズムズして、僕は我慢ができず大口を開けて笑った。

 こんなに嬉しい気持ちになること自体が愉快で、そして愉快になること自体がまたツボにハマった。

 そうして、ずっと僕は笑い続ける。延々と、人目を気にすることなく。

 

 生まれ変わったような気分だ。きっと、この笑いはその歓喜の叫び。

 この思いがある限り、僕はやっていける。

 “今度こそ”、しみったれたクソみたいな呪縛から解き放たれ、生きて生きて生きて生きて生き抜いて、幸せになってやるのだ。

 

 そして、僕はいつか必ず──

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「はっ!!」

 

 唐突に意識が覚醒する。

 同時に、自分の体が再構築される感覚。胴体から、手、足の触覚が徐々に戻り、指の先から爪先まで神経が通っていく。最後に頭の部分が戻り、思考が明瞭に。すると、今まで鈍っていた五感が急に処理できるようになり、暴力的な情報量が流れてこんできた。

 そのせいで、妙に目の前はギラギラしてテカテカするし、頭の奥でグワングワン耳鳴りがなっていて気持ちが悪い。

 

 それでも私はなんとか寝そべっていた体制から身を起こすと、込み上げてくる吐き気を我慢し、ふうと息をついた。

 

「また、過去の夢を見たのですか……」

 

 呟いて、いつの間にか浮かんでいた額の汗を拭う。

 思い出されるのは、夢の中の光景だ。

 心配そうにこちらを見つめる私と、知り合いの中でも治癒魔法に長けた少女。そこで交わされた、家主の記憶や、彼女が握りしめていたハルバードの会話。

 そこから考えるにどうやら私は家主の過去……、彼女が記憶をなくし、初めて目覚めた瞬間のことを夢で見たらしい。

 過去といえば過去なのだが、だからといって二週間ぐらい前のことを見るのは初めてだ。いくらなんでも直近すぎるだろう。

 

 ていうか、色々と恥ずかしいことが多いのだが。

 ああいう風に感謝されていたなんて、思いもよらなかったし……。

 ……こっちこそ、ありがたいこといっぱいあるのに。

 

「まあ、何にせよ──」

 

 ──戻ってきた。

 念じるように、そう何度も何度も何度も言い聞かせる。

 こうすることで、自分が自分なんだと暗示をかける。

 

 私が時折見る“夢”は、大半が抽象的なものばかりだ。しかし歌羽ちゃんの時のように、ダイレクトに思考が流れ込んでくるようなはっきりし過ぎている夢もあるわけで。それが度を超えると、自分とその夢に映し出された過去の持ち主との境が交わってしまう。

 今回の家主の夢が、まさにそれだ。

 

 もちろん、それは夢を見ている間だけであり、こうして目を覚ませば元の恵比寿小豆に戻る。だが一度他人と混ざると、その違いに違和感が発生してしまうのだ。結果として酔いのような症状が発生し、具合が悪くなる。

 

 この感覚は、いつまで経っても慣れないものだ。自分が自分でなくなるようで、身の毛がよだつ。いつか本当に、返ってこれないのではないか──そんな気さえしてくるのだ。

 

 それでも、この固有魔法のことを嫌いになったことはあれど、なくなれば良いとは思わない。

 ……文字通り、この魔法のおかげで私は人生が変わったのだ。苦しんだ分、喜びも教えてくれた。

 

「──ところで、今は何時でしょうか」

 

 私はふと疑問に思ったことを呟く。

 まだ少し暗いが、それでも既に朝だ。時間帯によっちゃあ、遅刻なんてことになりかねない。

 私は側にあったスマホを手に取る。そして画面に触れ、時刻を確認──表示されたのは、六時半。いつも起きている時間より、少しばかり早い。

 

「……といって、今更二度寝する気分でもありませんね」

 

 眠気など、具合が悪くなった時点で吹き飛んでいる。そしてその具合も落ちつてきた。

 ならばここは早めに起きて、学校の支度を済ませる方が良いに決まっている。

 

「さあて、今日も一日頑張りますか〜」

 

 呑気にのんびりと呟いて、私は寝床から立ち上がる。

 そうして、寝巻きから制服に着替えたりといった一通りの身支度を済ませ、次はリビングに行こうと自室のドアを開けた瞬間、

 

「ぐあああぁぁぁぁ……」

 

 先に伸びる廊下の右側、そこにあったドアが開き、不気味な呻き声を上げる人物がフラフラな動きで部屋から出てきた。

 

 約二週間前からこの家に住んでいる居候、弦家角──家主だ。

 その目元には恐ろしいほど黒いくまがあり、双眸にも光がない。

 彼女は恐ろしく低血圧らしく、朝が極端に苦手らしい。そのため、毎度起きるたびに苦しみ、まるでゾンビのような有様になるのだ。

 私も初めの頃はそんな彼女にビビっていたが、今では見慣れて日常になりつつある。

 

 まあ一応気遣ねばと、私は彼女のもとに行って声をかけた。

 

「大丈夫ですかー?」

「……気持ち悪い」

 

 ……大丈夫じゃないらしい。

 その後も、ごおおお……と呻き声を上げ、蹲っている。こうなっては、彼女はもう駄目だ。

 

「すみません。成仏して下さい」

「何でこれから死ぬみたいな扱いなの!?て、あ、ちょっとちょっと、まって、行かないで、行くなああああ……!!白状なしぃぃ……!!」

 

 私は家主をほったらかし、廊下の先にあった階段を降りていく。上から恨み言が聞こえてくるが、あえて無視。

 しばらくしたらいつもの調子を取り戻して、下にやってくるだろう。

 つまり、あまり心配するのも無駄なのである。

 

「でも、今日ぐらいはさっさと学校に行くのは、待ってやるとしますか」

 

 何せ、珍しく家主も早起きしてきたのだ。しばらく話す時間はあるだろう。

 ──その時間を取らなければ、私の中で恥ずかしさの感情が収まりそうにもなかった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

「ちょっとさー、僕の扱い酷くない?仮にも二週間程度の付き合いとはいえ友人でしょー?」

「……容赦なくチョップしてくる子は友人とは言わないんじゃないんですか?」

「あれは君が悪いよ。すぐ暴走しちゃって、僕が止めなきゃ誰が止めてたんだい?」

 

 リビングにて、復活して一階まで降りてきた家主と軽口を叩き合う。

 その間にも、互いに箸は止めない。目の前の食卓に並べられた料理を口に運んでいく。

 家主が来るまでずっと面倒くさくて朝食抜きだったのだが、家主はそれに激怒し(曰く、朝食食べないと力が出ないよ!!これちょー重要なんだから!!)、毎日朝食用の作り置きをわざわざ作ってくれていた。

 他にも様々な家事の部分に駄目だしをしつつ、まるでオカンのようにこちらの世話を甲斐甲斐しくしてくれている。

 おかげで何もやることもなく、ここ最近家のことは家住に任せつつある。本来の“家主”は私のはずなのだが、家住の方がすっかり渾名通り家主ぽくなってきているのだった。

 

「……てかそれ、やばくないですか?よくバクバクいけますね……」

「ん?」

 

 私は微妙な顔をしながら、向かい席に座っている家主に声をかける。

 彼女の持つ茶碗にはご飯が盛られているが、その上には赤々としたキムチが大量に乗せられている。しかもそれは、一口食べただけで悶絶し、一日寝込むんじゃないかってぐらい辛いものだ。

 家主はそのキムチを平気そうにバクバクと食べているのである。

 ……私からすればちょっとドン引きする光景だ。

 しかし家主は、そっちの方こそおかしいとばかりに、

 

「小豆は分かってないなあ……。そのやばさが良いんじゃないか。この辛さを通り越した破壊的な痛みが、いっそ快感なんだよね」

「……ドMじゃないですか」

「否定しないけど、その言い方ちょっとないんじゃあないかなあ!?」

 

 私が再度ドン引きすると、家主は大袈裟に傷ついたフリをする。彼女はオーバーリアクション気味で、こういう時実に良い反応を返してくれるのであった。

 

 と、一頻りどうでも良い会話をしたところで、家主がふと感慨深そうな顔をした。

 

「どうしたんですか?」

「いや、僕は幸せ者だなあと改めて思って。君っていうふざけあえる友達がいて、……毎日毎日怖いくらい楽しいんだよ」

 

 ふにゃり、と、家主がほわほわした笑顔を浮かべるもんだから、私はしばらくの間呆けて黙ってしまう。

 彼女は良く笑う性格だが、その顔はどれも恐ろしいぐらい彼女に似合っていて、時たま虚を突かれる。

 

「……それは、良かったです。私も、貴女と過ごせて嬉しい。……両親が出張でいないのが、色んな意味で良かったです」

「住まわせてもらっている僕が言うのもなんだけど、バレたら僕がここに住むの絶対反対されるもんね。君の両親、意外と厳しいみたいだし」

「厳しいのとは少し違います。どっちかっていうと、あれは過保護ですね」

 

 私は両親のことを思い出し、溜息をついた。

 高校生になってしばらくしたころだろうか。両親はやりたい仕事が出来たといい、私を置いて海外へ飛んでいってしまった。

 それ以来、彼らは家には帰ってきていない。そのくせ、お小言の電話やメールばかりはやってくる。あれでいて両親は心配性で、ずっとこちらの近況を鬱陶しいぐらい知りたがるのだ。

 そして私もなんだかんだ彼らのことが好きなので、そう無碍に出来ない。ついつい、両親を心配させることはないよう気を使ってしまう。

 

 ……それでも私は、自分から家主を引き取った。

 その理由は二つある。

 一つ目は記憶喪失であり、なおかつ特殊な“副作用”にかかっている彼女を保護するため。

 二つ目は、家主が私の共同体を作ろうという考えに、最初に賛同してくれたためだった。

 救われた恩からか、あるいは夢で見た通り、私が家主のことを知ろうとしたからなのか、彼女は妙に私を手伝おうとしてくれた。

 私はそんな彼女を不気味に思ったものの、同時に面白く感じ、側に置こうと決めたのだ。

 

 実際、弦家住は右腕として申し分ない働きをしてくれている。

 私の話に耳を傾け、意見を積極的に言い、その人柄なのか牛木草の魔法少女の中にもすっかり溶け込んでいる。

 

 難点があるとすれば、

 

「……ところで話変わるけど。昨日の歌羽ちゃん達との話し合いでさ、歌羽ちゃんを丸め込んで調停役にしちゃったの、ちょっと酷くなかった?」

 

 と、このように、時折痛いところをチクチクと突いてくることだった。

 ……穏和だが、だからといって根を持たないわけじゃないらしい。

 

「あーいうのってさ、どうなの?いくら歌羽ちゃんのためとはいえ、あの子の心の隙をつくような真似してさ。しかもサチちゃん達の前で。ちょぉっと、ずるくない?」

「……」

 

 ほったらかしにされ、おいて行かれたのがよっぽど尺に触ったようだ。

 家主は執拗に、ぐさりぐさりと言葉のナイフで滅多刺しにしてくる。

 

 もちろんぐうの音も出ないので、反論しようもうない。

 私はアハハ、と笑うと、無理やり話題を変えた。

 

「そ、その話は後にしましょう。それよりサチちゃんと柘榴ちゃんですよ」

「……ん、そだね」

 

 もう十分だと思ったのだろう。私を虐めるのをやめて頷く家主。

 

「……サチちゃんと柘榴ちゃん、それぞれにそれぞれの話はできたけど、サチちゃん大丈夫かなあ。内心不満そうにしてたし」

「柘榴ちゃんも、鉄面皮すぎて何を考えてるのか分かんないところがありますし……。一応乗り気みたいですけど……」

 

 私と家主は顔を曇らせ、揃って頭を悩ませた。

 

 ──昨日の倉庫で、歌羽ちゃんに調停役の話をした後、私達はサチちゃんと柘榴ちゃんにそれぞれの用事の話をした。

 

 まずサチちゃんには、こゆりがもしプライマリーカラーに入ったら、サチちゃんと入理乃の魔法道具について相談しあいたい、ということを話した。

 共同体を作ることをキュゥべえに伝えた時、彼はそのお礼なのか、行方不明になった早島の魔法少女、阿岡入理乃がやらかしたことについて教えてくれた。

 曰く、阿岡入理乃はグリーフシードなどの材料を使い、様々な強力な魔法の道具を作っていたらしい。

 しかし行方不明になった後に、それらを放棄。厄介なことに、かつてのテリトリーであった牛木草に魔法の道具が残ったままになってしまったのだという。

 

 もちろん、こっちとしては冗談じゃない話だった。

 入理乃の魔法道具は明らかに危険物であり、そんなの放っておけるわけがない。

 そのため、随時破壊、封印したいところだが、どんなふうになっているのかは完全に分からない。

 そこで、入理乃の相棒であるサチちゃんに、ゆっくりそのことで話し合いたい、ということを提案したのだ。

 

 サチちゃんは渋ったものの、ある程度了承してくれた。

 幼いながら、あの子はこちらの言い分を当然だと思ってくれたらしい。

 しかし“渋った”とあるように、不満そうなのは言わずもがなで、こゆりを味方につけたとしてもどうなるのかよく分からない。

 

 次に柘榴ちゃんだが、プライマリーカラーへの勧誘と、その固有魔法──増幅の力を貸して欲しい、という話をした。

 柘榴ちゃんを調べているうちに知ったその固有魔法は、他者の力を倍増させるという効果を持っていたが、それ故に汎用性が広く、色々と活用できそうな場面が考えられた。

 だから、その力を出来れば役立てて欲しいとお願いした。

 

 その話を聞いた時、柘榴ちゃんはうんうんと仕切りに頷いていたが……、正直大丈夫なのだろうか、と見ていて密かに不安になった。

 善意はあるし、優しさも持ち合わせている。

 しかしそれが裏返って身勝手さに繋がり、無自覚の傲慢さになっている。

 それを、あの子の固有魔法が助長させる気がするのだ。

 

 思わぬ地雷二つを手にし、私達は頭を抱える。

 ──どうすんの?

 ──分かんないです。

 視線だけでそんな会話を交わし、何度したか分からぬ溜息をついた。

 ……嫌な話だが、胃が痛くなりそうだ。

 

「……大変だねえ。プライマリーカラーの運営は」

「ええ。大変です……」

「僕がこう言うのもどうかと思うけど、共同体を自分から作って、リーダーになろうとよく思ったよね。ぶっちゃけ皆から見たら貧乏くじだし。……めちゃくちゃ勇気いるよね」

 

 家主は称えるように、感心したように言う。

 私はそれに自嘲して、

 

「大したことじゃありませんよ。私がやりたくてやってることですから」

「やりたくてやってること……?」

「ええ。……貴女も知っていますよね?私の固有魔法」

「うん」

 

 家主には、固有魔法のことは少し話してある。

 だからか、彼女は真剣に言葉に耳を傾けてくれた。

 そのことに感謝しつつ、私は続けた。

 

「私はですね、両親が思い切って外国に飛び出したのを見て、二人をかっこいいと思ったんです。ああやって何かに夢中になるのって素敵なことなんだなあって。だから、将来何になりたいか真剣に考えようと思って、そのために“昔のことを振り返りたい”と願いました」

 

 そうして、私は今までの人生を振り返った。生まれた時から、成長するまでの過程を追体験した。

 ……しかし、それで気がついてしまった。

 本気で何かに夢中になったことが、私には一度もなかったのだと。

 ただ、私は流されるままに生きてきたのだ。

 灰色の人生。空っぽな毎日。それしか持ち合わせてないのを思い知らされ──だが、私は絶望しなかった。

 

「何の因果か手に入った、“他人の過去を夢で見る魔法”。その力で見る他の人の過去は、私の人生よりも色鮮やかでした。そしてそれを知ることで、私は人って面白いものなんだなって思えるようになりました。

 ……そのおかげか、それまで人と触れ合うことはつまらないと考えていたのに、気がつけば積極的に人と関わるようになっていたんです。人の心を知り、交友を結ぶこと。それこそが、私にとっては何より夢中になれることだった」

 

 そしてそのことをさらに教えてくれたのが、仲良くなった牛木草の魔法少女達だった。

 彼女達と交流を重ねる度、私は彼女達の思いを知った。

 絶望、希望、喜び、悲しみ。それらはあまりに尊くて儚く、キラキラしていて。

 

「……私は人を、あの子達を守りたいと思ったんです。彼女達の思いを、消したくないと私は願いました」

 

 ──だがそれは簡単に失われるのだと、私はまた夢で気付かされた。

 

 私は偶然、同じ学校で知り合いだったエルちゃんの夢を見てしまったのだ。

 それは、エルちゃんと仲が良かった魔法少女グループのうちの一人が魔女化し、仲間を殺していく光景だった。

 いとも容易く崩壊する絆。血塗れみれになり、無残な姿になる少女達の死骸。

 恐らくエルちゃんも死んでしまったのだろう。夢は魔女に攻撃されたところでプツンと途絶えている。

 

 まさに地獄絵図だった。

 一人が絶望しただけ。ただそれだけで、すべてがなくなってしまった。

 普通の人だったら、いくらでもやり直す機会があったのに。

 何故私達魔法少女のみが、こんな目に合わなければならない。

 皆、大切な思いを抱いて頑張っているのだ。ここで死んでいいはずがないだろう。

 もし、希望が転じて絶望に繋がるなら、私がそれをこの手で食い止めてみせる。

 “尊くて綺麗な思い”を、私が庇護してやる。

 

「……ですが、守れる人数にはやはり限りがある。だったら、せめて私の人生を変えてくれた子達だけでも──牛木草の子達だけでも守りたいと思ったんです」

「……それで共同体を作ろうって考えたんだね」

「はい」

 

 私は家主の顔を見て、相槌を返す。すると彼女は何故か満足そうに微笑むと、瞳を細めた。

 それが、家主の夢で私がしていた目と重なる。

 ……弦家住は、何を思ってこんなことをしているのだろう。分からない。だが──

 

「そんな目をされたら、困りますね」

「……?」

「こっちの話です。こっちの話」

 

 首を傾げる家主が面白くて、いつぞやの誰かさんみたく、悪戯っぽく笑ってみせる。

 それでも家主はそのことに気がつかず、訝しそうにするだけだ。

 

「……まあ、良いです。それより、ご馳走様でした」

 

 話しているうちにちょうど朝食を食べ終わり、私は両手を合わせる。

 料理を作ってくれた家主は、それだけで嬉しかったのか、ふふ、と笑みをこぼした。

 

 私は視線を壁にかけられた時計に移動させる。

 長話をし過ぎたせいか、その針は七時二十分を指し示している。

 それでも、朝食を食べる終わるいつもの時間より十分は速い。

 

「家主。学校行ってくるんで、後片付けお願いします」

「うん。気をつけてね」

「そっちこそ──今日の夜の件、頼んだよ」

「分かってる」

 

 任せてくれ、と家主は胸に手を当てる。短い付き合いだが、その姿は頼もしい。

 私は彼女に対していつの間にか出来上がった信頼を実感し、案外自分はちょろいなあ、と内心呆れる。

 そんな私だからだろうか。──最後まで家主の夢を見たことを、結局恥ずかしくて切り出すことは出来なかったのだった。

今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?

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