──無意味な時間を繰り返し、積み上げ続ける。
あたしという人間は、一体何なのだろうか。
ここのところ、そんなことばかりを考える。
感情はしっちゃかめっちゃかで、思考はぐっちゃぐちゃだ。
望みははっきりしているのに、行動と心は矛盾しまくり、合致していない。
魔法少女を守りたい。サチを大事にしたい。
その二つの思いが混じり、魔法少女を助けて恩を売って、その恩を利用してサチに仲間を作ってあげようと躍起になる。
でも、色んなことがってムカつくから、そのイライラでつい悪いことをしている子に怪我をさせてしまう。そしてそれに罪悪感を感じ、自分のやっていることをサチに隠して、結局彼女を蔑する。
そうして、自分は悪くない、しょうがなかったんだって自分に言い訳をし、サチにふさわしい子を探して町をまた徘徊する。
そのループの繰り返しだ。
そんなんだから、何もかもが宙ぶらりんで中途半端だ。あたしはぷかぷか、風船みたいに状況に流されてる。
でも、だからこそ何かに縋りたくて、愛が欲しい。嘘でもいいから愛が欲しい。迷惑がかかっても愛が欲しい。自意識過剰になるくらい愛が欲しい。なんとしてでも愛が欲しい。狂う惜しいくらい愛が欲しい。どんな形でも愛が欲しい。何でも良いから愛が欲しい。ただあたしだけの愛が欲しい。
……愛してくれたら、ちゃんと愛を返すから。
どうか、あたしを愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して。
──お願いです。誰でも良いから、あたしを愛して下さい。
◆◇◆◇
朝と昼は、魔女を模したオブジェの作成。夜は魔法少女の縄張り争いへの介入。
そんな日々を過ごしたせいだろうか。最近グリーフシードの減るスピードが速くなってしまった。
それを解消する為に、夕刻の僅かな時間の間に魔女を探す。
ソウルジェムの導きを頼りに、あたしは無言で町の中を歩く。歩く。歩く。
ビルの摩天楼。商店街。相変わらず多い人混み。その雑多な有象無象の群は、色梨こゆり──あたしにとって、どれもこれもが別の世界。
決して交わり合うことはない。日常と普通に満ち溢れたそこから、あたしはもうはみ出してしまっている。
なんせあたしは化け物──人間じゃないんだ。そんな奴が、暖かい場所に居られるはずがないだろう?
「……」
建物のショーウィンドウに映った自分の姿が目に入り、ふと足が止まる。
肩ぐらいの薄い色の茶髪はボサボサで、少し長くなってきた前髪が目元に暗い影を落としている。
服装は実家から持ってきた長袖とズボンだが、手洗いによる洗濯の影響か、少し伸びてしまっていた。
そしてその表情は、我ながら酷く寂しげなものだった。
髪と同色の目は何処かやり切れないように切なげな目をしていて、眉根は下がりに下がり切っている。
あたしってば、こんなしけた面している奴だっただろうか。
……まあ元から根暗だし、いつも暗い顔はしていたけどさ。だからって、これはない。こんなのまるで、捨てられた子供じゃないか。
「ふん……」
不機嫌さから悪態をつき、また歩き出す。
何を考えているのだろう。自分が捨てられた子供みたいとか、気色悪いだろ。
……自分で自分を哀れんでるみたいで、流石に思い上がりも甚だしいってもんだ。
あたしはそんなんじゃない。そんなんじゃないんだ。
同情も憐憫もいらない。そんな価値いらない。そうしてもらえる理由がない。
さっきも思ったけど、化け物は暖かな場所にいちゃいけないのだ。
だから、あたしは可哀想でも哀れでもない。“惨め”じゃない。
「──ん?」
と、そこまで必死に考え事をしていると、ガヤガヤとした周囲の声に混じり、僅かに誰かがすすり泣く声が聞こえてきた。
視線を動かせば、すぐ近くの街路樹の下に小さな人影がいる。
それは、まだ七歳ぐらいだろうと思われる幼い少女だ。迷子なのか見たところ一人で、親の姿は見かけない。
顔をぐちゃぐちゃにさせながら泣いているが、周りの人は素知らぬフリして通り過ぎていっている。
多分関わりたくない、と感じたのだろう。皆忙しいだろうし、それぞれ事情があるものだ。
しかし、あたしはどちらかといえば暇な方である。
そして、子供が泣いているのを無視するほど薄情じゃない。
……だって可愛そうじゃんか。一人で“惨め”に泣いてて、取り残されて。
そういうの辛いって、あたしはよく分かっている。
それに、助けたら感謝してくれるかも。あたしと仲良くしてくれるかもしれない。恩を売って、恩を着せさえすれば、愛してもらえる理由ができる。
その可能性が低くても、どんな子でも、あたしは──
「ね……ねえ。ど、どうして泣いてるのかな?お母さんとはぐれちゃったの?」
あたしは幼い少女に近寄ると、少し屈んで自分の目の高さを彼女の目線に合わせる。そうして、勇気を出してなるべく優しく話しかけた。
しかし、元来あたしはコミュ障である。必要以上に緊張しちゃって、辿々しい口調となってしまった。
案の定、少女はぽかんとした表情であたしのことを見ている。
「……おねーちゃん、誰?」
「えーとね、あの……おねーちゃんはね、色梨こゆりっていうんだよ。たまたま貴女を見かけて、その……、泣いているから心配になって声をかけたんだ。な、何かあったのなら、せ、精一杯解決してみせますから、ど、どどどどどど、どうか頼りにして欲しいかな!?」
少女の怪訝な目に更に緊張しまくり、あたしはしどろもどろになる。
そんなあたしのポンコツっぷりに、少女は呆れたような顔をした。
「おねーちゃん、頼りにならなさそう……」
「うぐっ……」
子供のストレートで容赦がない言葉に、何も反論ができない。しかも事実なだけに、あたしは結構痛いところを突かれて心にダメージを負う。
しかし、それでも即座に立ち直るのがあたしというもの。また勇気を出し、恐る恐る話しかけた。
「ま、まあ、なんだ?あたし、たしかに頼りにはならないかもだけど、お話を聞くことぐらいはできるわよ?……だからね、こ、ここここ、こゆりおねーちゃんに、何があったかお話ししてくれない?」
「でも……」
迷うように口を噤む少女。あたしは彼女の手を握り、安心させるように言った。
「どんな話でも、信じるから」
「……ん。なら……、話す……」
少女は決意してくれたのか、涙を袖で拭い、自分からこちらと目を合わせてくれた。
あたしは少女に感謝しつつ、偉いと褒めた。
「それで、何があったの?……やっぱり、お母さんとはぐれちゃったの?」
「……うん。だけど、ね。私からはぐれちゃったんじゃないの」
「え?」
どういうことだ、と驚きの声をあげる。その言い方だとまるで、母親の方から離れたみたいだ。
「まさか、お母さんが貴女を置き去りにしちゃったの?」
「違う、そうじゃない」
「じゃあ、貴女のお母さんは一体……」
何があったのか分からず、あたしは困惑する。すると少女が一言、ポツリと呟いた。
「化け物」
「──!!」
「化け物がね、お母さんをつれていっちゃったの!!」
少女は瞬間、叫ぶように大声を出す。
今度こそ、心臓が止まったかのような心地になった。
“化け物”。連れて行く。
その言葉が示唆しているだろう存在が、頭の中でちらついたからだ。
「お、落ち着いて。……その化け物って、一体どんな風だったの?何があったの?」
少女を宥め、あたしは話すように促す。彼女はしばらく泣いた後、ようやく、しゃっくりを上げながら事情を説明してくれた。
「……あのね、お母さんと一緒にトイレに行ってたらね、その途端いつの間にか変なところにいたの。とても広いところで、ギラギラしてた。そこには変な化け物がいっぱいいて……、中でも大きな化け物がお母さんを……。それで、どうしたら良いのか分からなくなって……、ここで泣いていたの」
「……」
予感は的中したらしい。
やはり、この子とそのお母さんは運悪く魔女と鉢合わせ、その魔女がお母さんの方を連れていったのだ。
……しかし、最悪だ。そこまで時間は立っていないだろうが、連れて行かれた以上無事でいるのか分からない。
今から探しても間に合うかどうか……。もし死んでいたとしたら、あたしはなんて言い訳をすれば良い。
「……て、まって。なんで貴女は無事なの?」
奇妙な点に気がつき、あたしは少女に確認する。
通常、魔女の結界に取り込まれた人は帰ってこれない。その時点で、魔女に捕食されるのは確定しているようなものだ。
しかし、この少女は生き残っている。怪我もないようだし、服の汚れもないことから、使い魔にすら攻撃されていないらしい。
普通じゃあり得ないことだ。
「それが、化け物は私には見向きもしなかったの……。お母さんにだけ飛びついて……」
「……もしかして、大人にだけ興味がある魔女なのかしら?」
あるいは、子供にだけは興味がない魔女……?
どっちにしろ、変な話であることに変わりはない。これは、何を表しているんだ……?
「とりあえず、化け物がいたっていうトイレにまで案内してくれない?……おねーちゃんが、そいつをやっつけてくるから」
「まさか、お母さんを助けてくれるの?」
「うん」
頷けば、少女は期待に目を輝かせる。しかしそれも一瞬で、すぐにハッとすると、
「け、けど危険だよ!!おねーちゃんが行ってもやられちゃう!!」
「だ、だいじょーぶ。あたしこう見えても強いのよ?大の大人でも吹っ飛ばせちゃうんだからね。ほ、本当だからね!?」
「……何で最後自信なさげなの?」
「ごめん……」
元々そこまで強気でいくタイプでもない。特にこういうのを断言するほど、自信に満ち溢れているわけでもないし、つい弱々しい態度をとってしまった。
……くそ。これじゃあいけない。ここはビシッといかないと、この子をさらに不安にさせてしまう。
「とにかく、案内して欲しいの。おねーちゃんが、必ず化け物をぶっ飛ばしてお母さんを助け出す」
今度こそはっきりとした口調で言い切る。するとそれが効いたのか、少女は先ほどとは違って、希望を見出したかのような表情をした。
「おねーちゃん……。うん!分かった!!こっちだよ!!」
途端、少女はとてとてと走って行く。あたしは屈んだ体勢から元に戻ると、胸中の不安を抱えながらその後を追っていった。
◆◇◆◇
少女に案内された場所は、近くの公衆トイレだった。
そこは分かりにくいが目の鼻の先にある場所で、少女が近くで泣いているのも納得の距離だ。
早速、卵形にしたソウルジェムをかざしてみる。少女の言うとおり、反応は確かにあり、ここに魔女がいたのは確実だ。
しかし当たり前の話だが、少女の母親をさらってどこかに行ってしまったのか、このトイレにはもういない。
「……でも中に入ったら、何かあるのかもしれない」
スライムの魔女の時、そいつは魔力を目印として残していった。
そういう手がかりが、今回もないとは言い切れない。
あたしは少女に外で待っているように言うと、公衆トイレの女性用の場所へと入って行く。
そうして、個室をいちいち開けてはソウルジェムをかざし、何がないかを探していく。
そして最後の個室を開け──
「あ──」
「……」
「……ごめんなさい」
あたしは思わず謝ってしまった。
個室には、すでに人が入っていたのだ。
少し高い身長に、淡い色合いのゆるふわした髪をショートに揃えた少女である。
年は歌羽ぐらいかそれより少し上程度で、間違いなく高校生だろう。
ぶかぶかの長袖のセーターを着ていて、それがまたよく似合っている。
彼女はトイレで用を足していなかったが、個室に入っているところを見られたために恥ずかしそうにしていた。
そしてあたしも不躾なことをしてしまったため、赤面しながら弁明する。
「あ、あのですね、その、決して覗こうとしたわけじゃないんです……。こ、これは、た、たまたまで!!トイレをしたいならどうぞお好きに!!」
「……うん。本当ごめん。なんか誤解させちゃってるとこ悪いんだけど、別に僕もトイレをしようとしてたわけじゃないんだよ。君こそどうぞお好きに……」
セーターを着た少女はそう言いながら苦笑し、あたしに譲るように
個室から出てくる。しかしあたしはぶんぶんと首を振り、それを断った。
「いえいえいえ!!あたしもトイレをしたかったわけじゃなくて、……あの、調べ物してただけで!!それで個室を開けちゃっただけなんです!!」
「調べ物?……ああ、なるほど、そういうことか」
少女はあたしの言うことに少し首を傾げたものの、次には何故か納得したかのように頷いた。その視線はあたしの手のひらの上──卵型にしたソウルジェムに向けられており、
「──君も、魔女を調べに来てたんだね」
「……?」
「僕は君と同じ魔法少女だよ。僕も魔女を探していた最中だったんだ」
ほら、と同業者の証たる指輪を見せてくる。
あたしはそれに微妙な顔を返した。
こんな時に魔法少女に会って、厄介な事に発展しかねないような気がしたからだ。
しかし、少女の方はあたしのように慌てずに自然体でいる。
「そう警戒しないでよ。お嬢さん。……まあ、気持ちは分かるけど」
少女はアハハ、とまた苦笑。よく笑う人だ。
「別に僕は魔女探しを妨害しようだとか思ってないよ。獲物を横取りしようとかもね。というか、むしろ君の魔女探しを助けてあげたいくらいさ」
「どういうこと?」
「……こういうことだよ」
そういうや否や、少女は右腕のセーターの袖を下に来ていた服の袖ごと、一気に一の腕まで捲り上げた。
あたしはその下にあったものにぎょっとなる。
……アメーバのような模様が、腕全体に走っていたのである。
それは常に僅かに赤黒く発光しては明滅を繰り返し、まるで血管のようにも見えてグロテスクだ。しかもその刻印は、魔女と似た悍しい魔力を放っている。
訳が分からず、あたしは戦慄した。思わず、一歩下がってしまう。
「何ですか……、それは……」
「呪いだよ。呪い」
少女は軽い調子で答える。
「固有魔法の使いすぎと、あと他の子の武器を強引に使ったせいらしくてね。穢れが呪印となって体に刻まれちゃって、魂と体のリンクが少し微弱になっているんだ」
「……つまり、どういうことなんですか?」
「固有魔法を使うとその度に呪いが蓄積して、最終的には昏睡しちゃうってこと。同時に戦闘も体に負担をかけるから厳禁。要は、僕は魔女を殺せない魔法少女なんだ」
唖然とするあたしに、セーターの袖を元に戻しながら少女は説明する。
そして、次に何処かほっとしたような表情を浮かべた。
「だから魔女を見つけた時、粗方調べたら仲間に伝えて退治してもらおうって思ったんだけど、君がいるならその必要もない。正直、仲間には迷惑かけっぱなしだったから、君が退治してくれるならありがたいんだ」
にこりと笑う少女の顔は晴れ晴れとしていて、嘘を言っているようには見えなかった。
しかしあたしはその態度が解せず、困惑するしかない。
「話は分かったけど、……何でそんな平気そうにしてるんですか?」
「ん?何が?」
「その呪い、嫌なものですよね?それをあたしに見せて、辛くはないんですか?」
あたしは失礼を承知で質問する。
言っちゃ悪いが、その呪印は気持ち悪いもので、他人に見せたいものではないだろう。それに、そのこと自体を言うことも憚れるものだ。
なのに、何でこの少女は何でもないように普通にしている。それがあたしには理解できないのだ。
「……んー、そうだねえ」
少女はあたしの質問に、考えるような仕草する。そうして、数分した後で、
「これはしょうがないことだって、受け入れてるからかな?」
「受け入れている?」
「うん。……こうなることは必然で、避けられなかった。そういう思いがあるから、呪いを否定したり、目を逸らしたりっていうことはしないで済んでるんだよ」
少女は相変わらず、何でもないように笑う。
だが、その受け入れ方はあたしから見ればあまりに強い。
彼女は重度のハンデを運命として捉えて、消化している。それは自分の思いを完璧に整理して割り切っているということだ。並大抵の精神力でできることではない。
「心配してくれてありがとね。君は本当に良い子だよ」
「……、どうも」
ナチュラルにお礼を言われ、あたしは照れるの隠すやめにそっぽを向く。その様子が面白かったのか、ふふ、と少女は笑う。
「君ってば、面白いんだね。なんかこう、愛でたくなる可愛いさがあるというか……、撫でくりまわして甘やかしたい」
「……普通にご遠慮します」
あたしは犬か。
……てか、この人あたしみたいなのを可愛いとかマジ変わってんな。
あたしの顔なんて、普通だっつーの。
「つれないねえ。
……まあ良いや。そんなことより君に、魔女が何処に行ったか教えてあげよう」
「まさか、分かるんですか?」
「目見当だけどね。こう見えてもベテラン……、ベテランなのかな?とにかく、魔力探査はずっとやってきた感覚があるから、自信があるんだ」
少女は再び個室の中に入ると、その中のトイレを指す。
それは一般的な洋式のタイプであり、一見すると普通のトイレだ。どこもおかしな点はない。あることだけを除けば。
「なんか、そこだけ魔力が濃い……?」
変なことに、このトイレにだけべっとりと魔女の魔力が染みついているのだ。
他のトイレはそうでもなかったのに。
「おお、一発で分かるんだね。すっごい!!」
「そうですか……?」
「すっごいよ。僕も調べるのに五分くらいかかっているんだよ?それを指摘しただけで分かるのは、普通の魔法少女にはできないことだ。もう天才としか言いようがないよ!」
少女は大袈裟なくらいあたしを褒める。それも嫌味じゃないから、すんごく恥ずかしい。
あたしは顔が赤くなるのを誤魔化すかのように、強い口調で先に進めるように言った。
「て、天才だとか、それは今良いです!!このトイレの何が、魔女と関係あるんですか?」
「ああ、うん。つまりね、こういうことだよ。このトイレに魔力がべったり残っているのは、魔女がこのトイレを使って逃げたからなんだよ」
「……トイレを使って逃げた?」
訳が分からず、ぽかんとする。だって、トイレなんてただのものだ。それをどう使えば魔女が逃げられるというのだろう?
「そんなのどうやって……。トイレはどこにも繋がってないじゃないですか。逃げ場はありませんよ?」
「普通はそう思うよね。ところがどっこい、トイレには道がつながっているよ」
「あ……」
その可能性を見落としていたことに、あたしははっとする。
……確かに少女の言う通り、トイレには道がつながっている──即ち、下水道という道に。
そこを伝えば、魔女は瞬時に逃げることが出来るのだ。
「……じゃあ、何処かしら下水道に降りて魔女を追えば……」
「見つけられるだろうね」
確信してか、少女が断言した。
あたしは瞬間、ばっと外の方を向き、すぐさま入り口に駆け寄ろうとする。
見つけられる手段が出来たのなら、速くそれを活用しなければならない。
そうしなければ、あの幼い少女の母親が死んでしまうかもしれないのだ。
そんなの悲しすぎて絶対イヤ。絶対に避けたい。
あの子は母親のことが好きなようだし、母親の方だってあの子のことが好きだろう。その関係性は正しく“愛”で、あたしが失ってしまったものだ。だから、それが他人のものであったとしても、消えるのは許さない。
「ちょっと待って。いくら魔女を追っているからといっても、そこまで慌てるなんて何があったんだい?」
「……何ですか?邪魔しないでください。あたしは急がなきゃいけないんです」
出て行こうとした時にすんでで呼び止められ、あたしは思わず少女を睨みつけた。
しかし、少女は物怖じせずにあたしの目をじっと見る。
「……何か大変なことがあったんだろう?そういうのは、一人で抱え込まない方が良い。非力な身だけど、僕で良ければ力になるよ」
「……」
あたしも彼女の瞳をじっと見つ返す。
とても人間的な目だと思った。優しく勇気に満ち溢れていながら、同時に悲しみや憎悪を孕んでいる。今だって、彼女の中にはあたしに対する疑念と心配が入り乱れていることだろう。
──それなのに。この人は矛盾だらけなのに、それに何処か惹かれてしまう。
きっと本質的に弱いから、同じように弱いあたしも共感してしまうのだ。
「……貴女みたいな人に愛されれば、あたしももう少し違った未来に至れたのかな?」
「……え?」
「何でもないです。今のはただの戯言。聞き流して下さい」
あたしは一瞬だけ浮かんだ期待を嘲笑い、苦笑する。
少女は首を傾げるが、すぐにそれを無粋と思ったらしく、こくりと頷いた。
「力になるって言ってくださるのでしたら、一つあたしの頼みを聞いてくれませんか?」
「うん。それで、どんな頼みなのかな?」
「それは──」
◆◇◆◇
「──で、頼みがこれだけって言うわけか。確かに誰かがやらなきゃいけないことだけど、もう少し頼って欲しかったなあ……」
「おねーちゃん。何のお話をしているの?」
「ん?さっきのおねーちゃんは、ちょっと意地っ張りだったなあって話だよ」
幼い少女の頭を優しく撫でて、微笑んでみせる。
それだけなのに、彼女はこちらに背一杯笑い返してくれた。
うむ。ロリコンじゃないが幼女は可愛い。
「こゆりおねーちゃん、大丈夫かなあ」
「どうして?」
「あの人なんかヘタレだもん」
「ぷ……」
子供のストレートな言葉に思わず吹き出す。
これほどまでに色梨こゆりという人間を端的に表した言葉は、そうそうないだろう。
いやはやまったくその通り。
色梨こゆりは臆病で、弱気で、小心者で、慌てん坊で、ちょっと情けない少女だ。
──風来坊、色梨こゆり。
傍若無人のようでいて、よく分からない行動している人物。堂々としていて、強くて、ただならぬ雰囲気の持ち主。
そんな噂があったのだが、話に聞いていたのと大分印象が違うじゃないか。
あの子は、寂しがり屋の普通の子だ。
「……そう。寂しがり屋なだけ。ただ、愛されたくてあんなことやっているだけだもんね」
……烏滸がましいがかもしれないが、色梨こゆりのその気持ちが自分には何となく分かる。
彼女は愛されたくて仕方がないが、同時に愛を信用できなくなっているのだ。だから行動がぐしゃぐしゃになって、心の中ががちゃがちゃしているのだろう。
でも、こゆりちゃん自身は気がついていないが、彼女を愛そうとしてくれる子はいっぱいいる。
本当は孤独などではないのだ。それに気が付き、殻を撃ち破れれば、また彼女は愛を実感できるようになるだろう。
そのためにも──
『歌羽ちゃん。想定外のことが起きたよ。夜の件は早めにした方がいいかもしれない。実は──』
ジェムに魔力を込め、テレパシーを送る。すると相手も同じようにテレパシーを返し、一言二言呟くと、了解しました、とだけ言って切ってしまった。
「……お願いね」
願いを込めて呟く。
こゆりちゃんは、この幼い少女を預けること以外何も頼んでこなかったけど、こちとらそれだけで納得できるほど冷たくもないんだ。
何より、“彼女達”が“やる”と言っているのだ。僕にできる力添えは、十分にさせてもらう。
……それが、上手くいくかどうかは分からないけど。
「──それでも、こゆりちゃんの心を開けるのは君達だけだよ」
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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キャラ
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設定
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展開
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話のテンポの良さ
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文章