牛木草、あるビルの地下駐車場。
そこは普段から、人気がない。
こうして無断で入っても、車一つ止まってない。尚且つ、結構スペースがあり、思いっきり走り回ったりしても、問題がない。
あたし達魔法少女が屯するには、都合が良い。そして、こういう場所は──特訓場として絶好のスポットだ。
「頑張れよー!」
約二十メートル──少し離れた辺りにいるのは、背が低い、水兵の魔法少女。
あたしの同盟者であり、ここにいるメンバーの中で最も幼い女の子、船花サチだ。
彼女はこちらへ手を振り、大声で声援を送っていた。
「ええ! ちゃんと見ててよねー」
あたしもそれに返すように手を振る。
そして十メートル離れて向かい合う、私服姿の赤髪の少女──江戸柘榴を見る。
あたしは彼女にも声をかけた。
「柘榴、しないの?」
「え?」
「だから変身。魔法少女にならないの?」
あたしは自分の服を指指す。
それは地味目のワンピース。
あたしの魔法少女としての装束だ。
ぼーとしていた柘榴は、それを見て気が抜けたような、ああ、という声を出した。
彼女はソウルジェムをゆっくりと掲げ、言われた通りに変身。花をあしらった、可愛らしい衣装へと身を包む。手には、顔程の大きさもある石の円盤を召喚し、ゆっくりと構えた。
対するあたしは無手。何も構えない。
「それじゃあ、これから模擬戦を開始するよ!」
サチが再び声を張り上げる。そして首から下げたホイッスルを、ピーと吹いた。
戦闘開始の合図だ。
「……!」
最初に動いたのはあたしではなく、柘榴だった。
彼女は初っ端なから遠慮なく攻撃を仕掛ける。
掲げた円盤から発射されたのは、七つに分光して放たれる光線だ。
スペクトル・ビーム。
確かそう呼ばれていた技だ。
ここでどうするのか。あたしは一秒でその結論を出す。
それは回避だ。
今までこのような場合、魔力を地面に流し、鉄壁を作っていた。
しかし、最近気がついた。
その方法では、自然と視界が悪くなるのだ。次にくる柘榴の攻撃に、対応し辛くなる。
だからここは、とにかく動く。それに見切れない程、ビームが速いわけでもない。
あたしは素早くその場を飛び去った。
元いた場所をビームが通り過ぎていく。しかし当然、柘榴は攻撃の手を緩めない。
続いて複数の光の矢を生み出し、一気に飛ばした。物量で攻める作戦だろう。
だが──それも無駄だ。
あたしは光の矢が生み出される前に、その魔力の波を感知している。
故に予測は可能。飛来する前には、もう別のところへ逃げている。
柘榴が無表情の顔を、少しだけ焦らせるものへと変える。
分かりやすい。
あたしはこれを好奇と見て、回り込むよう走りながら、柘榴へ接近を試みる。
「……」
柘榴は脳筋らしく、真っ向から向かいうつつもりらしい。
あえてこちらに突っ込み、その手にある円盤が振り上げられる。
それは一見すると、近距離戦の武器としては、意外に見えるかもしれない。
しかし、これもこれで立派な鈍器だ。殴られたら、それなりの深傷を負うだろう。
ま、それはまともに当たればの話だけどね。
「──!」
前髪に隠れた柘榴の目。それが僅かに見開かれる。
円盤が当たる直前、あたしは右手のみでそれを払いのけたのだ。
当然、武器など持たずに。
柘榴が一瞬、ぴたりと硬直する。
何が何だか、という感じなのだろう。
だが、やったのは単純なことだ。
魔法で生み出した金属板、それで手の甲を瞬時に覆い、弾いただけである。
「こ、この……!」
柘榴が怯んでいたのは、僅かな時間だけだった。
彼女はやけくそ気味に、円盤を再度振り下ろし、時にはフェイントも混ぜて、あたしに何度も叩きつける。
あたしは先程同様、右手の金属板で対処。受け止め、左手は一切使うことなく攻撃を流していく。
正直言ってそれは少し……いや、かなり簡単なことだった。
なんせ全然重みがなかったのだ。それに何だか、柘榴が遅い。遅すぎる。
「ふっ!」
鋭く息を吐くと共に、軽く足蹴りをかましてやる。ちょうど柘榴のすね辺りに直撃した。
そして、どたん。これまた呆気なく柘榴が倒れる。
あたしはその彼女の首へ、左手の手刀をとん、と軽く当てた。同時に右手で円盤を取り上げながら。
これで柘榴に反撃の目はなくなった。この勝負、あたしの勝ちだ。
サチがホイッスルを吹き鳴らし、戦闘終了の合図をする。
柘榴は少し……何故か惚けたようにあたしを見つめていた。
あたしは彼女から左手を離すと、円盤を返し、右手を差し出す。
「お疲れ」
「……ん」
柘榴があたしの手を取って立ち上がる。
しかし返事は短めで、あたしへ視線を向けなかった。
その後も、何か考えるように黙り込む。
……完全に、またぼーとし始めていた。
「二人ともー! 特訓してそろそろ時間経つし、喉乾いたろ! 水飲むか、水!」
あたし達を労おうと思ったのか。
サチはそこら辺に放っていたナップサックから、水のペットボトルを二つ取り出し、それを持ってとたとたと走ってくる。
……が、柘榴の変な様子に気がつき、訝しげな表情となった。
「……おい、柘榴?」
「……、え?」
きょとん、と柘榴が目をぱちくりとさせる。
なんだか、心底びっくりした感じだ。無表情のくせに、リアクションがもろに出ている。
「どしたの? 何か風邪でもひいた?」
「……ごめん。ちょっと考え事してた」
柘榴はすぐに謝ってきた。サチがじと目になりながら、少し拗ねたように言う。
「……なら良いけどさー。でも、この船花様のこと無視しないでよね! すっごいそういうの、寂しいから!」
「ごめんごめん。もーやんない」
「むー」
なおも柘榴が謝るが、サチは御立腹そうに頬を膨らませる。
それでも、あたし達にペットボトルを突きつけるように渡すのだから、彼女は優しい(ツンデレだが)。
本当、根っから良い子だ。あのクソガキの入理乃とは大違い。
「ありがとう」
お礼を言ってから、あたし達はペットボトルを受けとる。
ちょうどサチの言う通り、喉が渇いてきたところだったので、非常にありがたい。
柘榴もそうなのか、あたしがちびちび水を飲んでるのに対し、ガブ飲みだ。
あっという間に水が一本分なくなる。
「……で、さっきの奴、どんな感じだった?」
あたしは審判をしていたサチへと、模擬戦のことを聞いた。
ここ最近、時間があれば今日のように柘榴と特訓している。
教官はサチだ。
ベテランということもあり、彼女が自ら申し出た。
最初は大丈かな……などと思っていたが、これが意外や意外、案外分かりやすい。
……といっても、入理乃が残した特訓メニュー表(辞典レベルの厚さ)を、ただ読み上げてるだけだが。
アドバイスは的確でも、だからといって、彼女自身が物を教えることに向いているわけじゃない。
いっちゃ悪いが、サチはまだ小学生だ。……まあ、そういう技術なんて持ってない。
それより、教官として真にありがたいのは、難解な特訓メニュー表を詳しく解読してくれることだ。
サチは入理乃の相棒を務めただけあり、入理乃関連の物事には非常に強い。
おかげで、特訓メニュー表の恩恵を受けることができる。
「結構、動けたって思うのよね。なんか前回よりも調子良くなかったかしら?」
「……いや、調子良かったどころの騒ぎじゃないと思う。正直言ってヤバ過ぎんだろ、テメエ」
……サチは何だか若干引いている顔で、そう暴言を吐いてきた。横では、しきりにこくこく柘榴が頷く。
なんかすんごい失礼だ。軽くカチンとくる。
「ちょっとどういう意味よ、それ」
「だって、アレだよ? 柘榴が負け続けてたから、武器を使わないってハンデをこゆりにやったんだよ? なのに、何で圧勝してんの?
普通に考えてあり得ねーだろ」
「……そうかしら」
「そうかしら、じゃないよー。私、マジでびっくりしたんだからね? なんかものすっごい速さで回避しまくるし、まさか片手で応戦されるなんて思わないし……、てか反則だよね。何なの、何食ったらここまで違いに差が出るの? 同じ新人でしょ? もー、私負け続けてすっごい嫌なんだけど」
首を傾げると、物凄く早口で柘榴から抗議された。
ハンデをつけられた分……ちょいとマジになり過ぎたかもしれない。
ごめんなさい……次からはもう少し、手加減いたします……。
「マジでこゆり、ここ最近強くなりすぎよな。私でもたまに勝てるどうかって思うんだけど。……何したの?」
サチが探るように見てくる。
だが、そんな目で見たって、あたしは特別なことなど一つもしていない。ただ真っ当に努力を積み重ねただけだ。
だからあたしは、正直にそれを言った。
「……帰った後でも自主練してるだけだけど」
「何時間?」
「え? そりゃ一時間とかそこら辺……?」
「思ったより普通のことしかしてねー……。それでこれとか何なん、テメエ」
ますますドン引きするような顔になるサチ。そっちから聞いてきたのに、何なんだその態度は。
「薄々思ってたけど、こゆりは超天才……って奴なのかもね。その内、誰も勝ち目がなくなるんじゃないかな?」
「あたしが……?」
「うん。皆噂してるもの。風来坊は、牛木草で最強の魔法少女。牛木草の鉾だって。すごいよね!」
不満げだったのが一点、柘榴が何だか、誇らしげにそうあたしに伝えてきた。
その噂は、あたしとしては初耳だ。
最近、特訓以外にも人助けとか、歌羽の手伝いとか、色々してるから……そのせいで妙な噂が広まったのかもしれない。
何だか複雑な気分。
魔法少女になって、化け物って親から言われたからかな。魔法の力って、何だか良いイメージないのよね……。
それで天才って言われても……、あたしとしては、うーんって感じだ。
もちろん、まったく嫌ってわけじゃないけど。
信頼されるのはやっぱり嬉しいし、皆を守れる力は、あればある程良い。
「でも牛木草で最強とか……、そこまでは実感ないわね……。やっぱりサクトさんとか、小豆さん辺りとか強いし……」
「そいつらベテランだよ? 経験積んでんだから、強いのなんて当たり前じゃん。こゆりはそういう過程すっ飛ばして強くなってるから、ヤバ過ぎだって言ってんの! 良い加減自分の出鱈目さを自覚しろよ! そういうの、側から見ればどうかと思うんですけど!」
「そうなの……?」
「そうだよ。私がまさにそう思ってるって!」
珍しく語気を強くする柘榴。
……やっぱ、ここ最近負け続けたの、根に持ってるよね。
けど、そりゃあそうか。あたしの態度って、柘榴からしてみれば腹立たしいだけだわ。
めちゃくちゃ強いのに、強くない。自分はまだまだだーなんて言われたら……、馬鹿にされたみたいな気持ちにもなるだろう。
更には今回の模擬戦でガチっちゃったし……つーか調子が良いんじゃないとか言っちゃったりしちゃったし……これじゃあイキってるのと変わらない。
「ごめん。あたし、柘榴の気持ちも考えず……。なんかデリカシーなかった……」
あたしはしゅんとなって謝る。
柘榴は懐が深い性格のためか、それだけで微笑して、うんと頷いた。
……が、サチは、あたしを見て何処かやりにくそうに呟いた。
「……最近、こゆりがしおらしくて気持ち悪い。あんなに気難しくて分からず屋だったのに……」
「……いや、前はその……状況が状況だったからさ」
……以前のあたしって、常時追い詰められていたようなもんだったのよね。
自分を保つことに一生懸命で、周りのことを見る余裕なんて全然なかった。
だから、誤魔化そう誤魔化そうって意固地になっちゃってたのだ。そうすると、当然直すべきもんも直らなかった。刺々しくなっちゃってたのも、気を張り詰めていたからだ。
「だけど、すっごい今は楽なのよ。肩に力を入れなくて良いっていうか……、自分のこと、偽らなくて良いんだなって思えるの。だから素直になれるのよね。
これも……歌羽とか、サチとか……あと柘榴のおかげよ。あ、ありがとう……」
途中から何だか恥ずかしくなってきて、あたしはしどろもどろになる。
そして、せめて恥ずかしいのを誤魔化すようにと、力なくはにかんだ。
……柘榴とサチが顔を見合わせる。誰こいつって表情だ。
「……以前のあいつは何処に行ったんだ?」
「すっごく、性格が激変してるよね……」
コソコソ話し合う二人。なんかすっげえ、悪口言われてる。そんなにあたしがおかしいか。
これには流石のあたしも文句を言うぞ。
「……ちょっと、好き勝手言わないでくれるかしら。あたしだって、好きで突っぱねてたわけじゃないのよ。それに、性格が激変したって言うけど、元からこんなものよ? あたしって、むしろ弱気で大人しいタイプだし」
「まあ……たしかに、会った当初がまさにそんな感じだったけども……、その後がその後だったからねえ」
サチが困惑気味に呟く。
サチと本格的に付き合い出したのは、あたしがホームレスになってからだ。
その頃と今のあたしでは、結構ギャップがあるだろう。
……そりゃ、精神状態が大きく違うわけだし、サチが慣れないのも無理はないかもしれない。
「まあだけど、良い変化だよね。私は以前のこゆりより、今の方が好きだよ」
「そう?」
「うん。だって、親しみやすいんだもん。こゆりって、意外と穏やかで、照れ屋さんだよね」
「意外って……」
あたしは思わず髪を弄ってしまう。
……何だこれ。何か、めっちゃむず痒いんですけど。
「そうだな。こっちの方が本当のこゆりって奴なんだろ」
サチが柘榴に便乗するよう、ニッと微笑む。……ますます胸の内がざわざわしちゃって、顔に熱が集まっていくみたいだ。
こ、これ以上はまずいっ。
「は、話を戻すわよ。さっきの模擬戦どうだったの? サチ、貴女見てたんでしょ」
「……。こゆり、別に恥ずかしがらなくても良いんだぞ? どうせ嬉しいくせに」
「……へぁ!? え、……えと……」
あたしはいきなり図星を突かれ、あわあわとしてしまう。顔は真っ赤っかだ。
そんなあたしに、柘榴とサチは生暖かい目を向け、少しニヤニヤとした(といっても柘榴は微笑レベル)。
これ、絶対揶揄われてる……! 揶揄われてるよ……!
「ご、ごほん。とにかく、あたしのことより柘榴よ……。柘榴がどうだったか、まだ言ってないでしょ。そこら辺どうなの、サチ」
このままでは埒があかない。
わざとらしい咳払いを一つし、あたしは無理矢理、話題を軌道修正する。
それでサチは腕を組んでから、うーんと唸り始めた。
「そうだな。ぶっちゃけ、柘榴は柘榴で、新人としては強いんじゃないの?」
「え、本当?」
柘榴が、すごく食い気味に聞いた。サチは怯むことなく、当然のように答える。
「ヤベえこゆりと数分撃ちあえただけでも、めっちゃ大したもんだぞ。間違いなく強いだろ」
「やったー。褒められたー」
バンザイのポーズを取る赤髪の少女。そのままぴょんぴょん跳ね、小躍りなんかも初めるもんだから、相当嬉しいのだろう。
相変わらず無邪気過ぎて、まるで中学一年生とは思えない。
「ただし、なーんか動きが鈍かったような……? いつもだったら、もうちょっとやるだろ?」
「────」
しかしサチの指摘で、柘榴はピシッと固まった。
そして俯いて、あー、と気のない声を出す。自分でも心当たりがある、と言わんばかりの反応だった。
「そうねえ。今日の柘榴、何だか変だものね。妙にぼーとしたりしててさ」
あたしも、柘榴に同意する。
柘榴は少し、気まずそうだ。普段の彼女らしくない。
「あの……何か悩みでもあるの? 良ければ力になるわよ」
あたしは弱々しくも、胸に手当てる。
あたしはサチや歌羽だけじゃなく、柘榴にも救われた。彼女は大切な友達だ。もし深刻な問題があったら、今度はこっちが全力で助けになる番だ。
サチもあたしの仕草を真似し、そうだぞーと言う。
「あー……、じゃあ……、二人の力を借りようかな」
柘榴はしばらく黙っていたが、やがておずおずと口を開いた。
「……実は私ね、夢があるんだ」
「夢?」
「私……将来、お医者さんになりたいの」
「ええ!!」
それは予想出来なかった、意外過ぎる夢だった。とても、あの柘榴からは想像できない。
あたしは目を見開き、サチなんて声を出してしまう。それは駐車全体に響くほどの大きな声だ。
「マジ!? 柘榴が医者ぁ? 冗談だろ!」
「冗談じゃないよ。私の小さい頃からの夢なんだよ。幼稚園の頃から、ずっとずっとお医者さんになりたかったの」
サチの反応に、柘榴が腕を組んで、さも怒ってますというアピールをする。
「うちの家系は代々、有名なお医者さんの家系でね。ずっと、お父さん達みたいな医者になりたいって、憧れがあったんだ」
「へあー。そんなことが……ってことは、柘榴って結構、名家出身なのかよ」
そういや、柘榴の学校は柳蔵学園ってとこだったか。
あそこ、偏差値は普通でも、バリバリに学費高い学校なんだよね。
そこに通ってるって聞いた時は驚いたけど、まあ、確かに親が医者なら納得かもしれない。
医者は儲かるし、代々続いているのなら、そりゃ蓄えもそこそこあるだろう。
「お父さんも、お婆ちゃんの跡を継いでね。お婆ちゃんも曾祖父ちゃんの跡を継いだんだよって言ってた。お母さんはちょっと違うけど……でも、同じように、親戚の人から医者を継いだんだって」
「そうなの。じゃあ、親御さん達も、柘榴には跡継ぎになりなさいって言ってきたりするの?」
あたしはふと思い浮かんだ素朴な疑問を聞いた。
しかしそこで、柘榴は言い淀む。むしろ逆だと言わんばかりに。
「……あー、それは……」
「もしかして医者になりたいけど、跡を継ぐのは嫌なのか」
「ううん。跡は継ぎたいよ。そのために医者になりたいんだし」
「だったら、親に反対されてんのか?」
「そういんでもない……」
どっちつかずの、微妙な返事。
彼女もどう言ったら良いか悩んでるようで、しばしの間、こめかみに人差し指をやる。
「あれなんだよ。医者になりたいって言っても、全然、期待されてないというか……。なんか無理してなろうとしてるって、誤解されてるみたいで……。医者にならなくて良いよって、ずっと言われるんだよねぇ」
「成る程……」
言い淀んだ理由が、何となく理解できたわ。
これ、場合によっちゃ、反対されるよりキツいかもしんないわね……。
だって、別に親に悪気があるわけじゃないしね。むしろ親切心からやってることだし。
でも柘榴からしてみれば、さっさと分かってくれって感じだろう。
どっちの気持ちも想像できるだけに、難しい問題だ。
「柘榴、複雑でしょ。辛いんじゃないの?」
「いや。それほどでも」
あら? やけにあっさりとしてる。何で?
「私の家族だもん。医者になりたいって思いは、きっといつかお父さん達も分かってくれると思う。それに認めてもらうまで、何度だって言うんだから。そのうち根負けさせてやるの」
柘榴はこちらがはっとする程、簡単にそんなことを言ってのけた。
よほどのことがなければ、そう言うことは出来ないだろう。少なくともあたしは無理だ。家族に対する信頼が、柘榴の言葉には込められている。
いやはや、楽観的というか、純粋というか……。
こういうところは、柘榴の強さなのだろう。彼女、すっごい真っ直ぐ過ぎる。
「……でもそれなら、何が問題なんだ? 柘榴がぼーとしてるなんて、よっぽどだぞ」
「それはその……」
柘榴が視線を逸らす。そして、恥ずかしそうに、ぽりぽりと頬を掻いた。
「私、数学が苦手なんだ……。中間テストとかでは、赤点しか取ったことがなくって。普段は十点とか、二十点とか。良くても三十点……そもそも算数も苦手で、足し算引き算もすごく間違えるの……。国語とか歴史なら、毎回九十点以上取れるのに」
「……」
「ついには、数学の小テストでも赤点取っちゃってさ……。毎日勉強してたのに、まったく効果ないんだよ……! 来週にはテスト期間になっちゃうし、本番で零点とか取っちゃったらどうしよう……」
赤髪の少女は頭を抱え、ガクガクと震える。
可哀想に。顔なんて真っ青だ。
あたし達も、何も言えない。
こういうことって良くあるけど、すっごく残酷よねえ……。
「二人とも私に勉強を教えて……! このままじゃ、医者目指すどころじゃなくなっちゃうよぉ……!!」
柘榴は棒読みながら、絶叫じみた大声を出し。泣きながらあたしとサチに、縋り付いてきたのだった。
今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?
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