魔法少女こゆり☆マギカ   作:鐘餅

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繋がり始める因果

「あの……、ごめんなさい。八つ当たりしてしまって」

 

 家に帰るなり、私の姉──こゆりは、私に対して、申し訳なさそうに謝ってきた。

 私はこゆりに、別にいいよ、と気にしないように言った。こゆりはそれでもやっぱり、ばつが悪そうにしている。

 

 その態度に、私はむしろむっとなる。

 こゆりはいつもこうだ。他人に遠慮しまくってばっかり。私にさえ、最近はこんなにも弱気だ。

 そういう風にされると、かなりムカつく。最高に腹が立ってくる。

 

 寂しがり屋のくせに、内へ内へと心を閉ざしてしまえば、こゆりは何もかも大丈夫だと思っている。どんなに嫌なことも、我慢しなければならないと信じている。

 でも、実際は逆だ。何か言ってくれないと、分かるものも分からないし、こっちだってどんな風に付き合えば良いのか困ってしまう。

 

 まあ、そうなってしまったのも、仕方がないような気もする。こゆりは小さい頃から、一人ぼっちだったから。

 拘りが強い性格もそうだが、こゆり自身昔から口下手なところがあった。だから、自分の意見を主張しても、意図が上手く伝えられなくて、ただの我がままのように聞こえた。こゆりは厄介者扱いされて、周囲に馴染むのに失敗し、友達と呼べる者は皆自分から離れていった。

 いつしか、こゆりは自分が悪いのだと思い込むようになり、本心を隠し始めた。それに比例するように、こゆりはどんどん意地っ張りになっていって、今じゃすっかり捻くれ者だ。

 

 こんな風に不器用なもんだから、私は余計にこゆりの将来が心配になってくるのだ。

 私はこゆりの妹として、こゆりの孤独を癒してきた。こゆりの理解者として、こゆりを支えてきた。

 でも、この先ずっとは一緒にいられない。私は私のやりたいことがあるし、離れ離れになる時が、絶対訪れる。

 そうなったら、こゆりは本当の一人ぼっちになる。

 それは、私の望むことではない。いっぱい助けてもらっているし、何より私はこゆりが家族として大好きだ。彼女が寂しい思いをするのは、もうこれ以上嫌なのだ。

 こゆりには、もっと自分を出して、受け入れてもらえる人が必要だ。

 そして、そういう人を見つけるには、こゆり自身から他人に歩み寄らなければいけない。

 勇気を振り絞って、人から嫌われるという強迫観念に打ち勝たねばならない。

 

「……あのさ、こゆり。これ、あげるよ」

 

 だから、私は“お守り”を渡すことにした。そうすれば、少しは勇気がつくだろうと思って。

 

「これって……」

 

 渡されたものを見て、こゆりが少し驚く。私はそれに刻まれた花、鳴子百合を指差した。

 

「知ってる?“鳴子百合”の花言葉はね──」 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 今日も無事先生から当てられることなく授業が終わり、あっという間に昼休みになった。

 クラスメイトがグループを作って食事をする中、あたしは誰からも誘われなかった。あたしが所属していたはずのグループも、あたしを忘れたように楽しく談笑している。あたしだけが、クラスで一人ぼっちだった。

 そのことを、今更虚しいだなんて思わない。誰もあたしのことなんて、関わりたくないだろうから、しょうがない。

 でも、この場で食事を取る気にはならない。皆の中にいると、自分の立場をしっかりと感じてしまう。賑やかなお昼時は特に居心地が最悪なのだ。

 

 紙袋を持つと、教室を出て歩く。目指す場所は、人気のない美術室へ続く階段。さゆりは誘わない。こんな時まで、あの子に頼ってはいられない。

 階段に着くと、あたしはそこへ座る。紙袋から事前に休み時間に購買で買ってきたホットドッグを取り出した。

 数量限定、週二日しか販売していない、人気のある商品だ。これを手に入れるのには、本当に苦労した。

 流石というべきか、味は最高だ。このソースといい、ソーセージといい、もう完璧だよね。いやあ、ほっぺたが落ちるって、このことだよね〜……。

 

「やあ、こゆり」

 

 どこからか声がして、あたしは若干びびる。

 隣を見ると、いつの間にか見たことのある白い動物が座っている。

 

「キ、キュゥべえ……」

 

 いきなりすぎる登場の仕方に、あたしは眉間に皺が寄りそうになった。

 先程、ホットドッグを落としかけそうになったのだ。危うく、昼食を無駄になるところだった。

 

「やれやれ、驚かないでくれよ」

 

 そんな風に困った感じになるなよ。びびるもんはびびるわ。

 

「そろそろ慣れてくれたって良いころだと思うんだけど……。もう出会って三日たつんだから」

 

 そう言われて、初めてもうそんなに時間が経っているのかと気が付いた。

 あたしは改めて自分の失態を思い出す。そして、猛烈に頭を抱えたくなかった。

 

 キュゥべえは、夢ではなく現実に存在する生物だったのだ。

 契約して数時間経っても、キュゥべえは消えず、また卵形の宝石──ソウルジェム──も消えてくれなかった。そこでやっと、あたしはようやくそれらが夢ではないと気がついた。

 つまり、あたしは本当にキュゥべえと契約してしまったのだ。

 当然あたしは、自分がやってしまったことの意味を理解し、焦りに焦りまくった。

 しかも、キュゥべえに契約を破棄したいと言えば、それはもうできないと言われる始末。あたしは一生、このまま魔法少女らしい。

 あたしはなんて軽はずみなのだろうか。何も考えず、何も警戒せず、余計なことをしてしまった。

 そのせいで、あたしはこの三日間、契約したことをずっと後悔する羽目になっている。

 以前から、あたしはクラスメイトに対して疎外感を感じていた。それが魔法少女になったせいで、より一層強くなったのだ。

 あたしは魔法少女とかいう、訳の分からないものになりたくはなかった。

 超パワーを手に入れたといえば、聞こえは良いかもしれない。けど、そんな力を持っているの、周囲ではあたしだけだ。

 自分で言うのも何だけど、あたしはこの前まで普通の中学二年生だった。なのに、何である日突然、普通じゃなくなるの?

 あたしは、皆みたいに普通の子でありたい。自分だけ違うとか、おかしいだとか、思いたくない。だから、あたしは特別じゃなくて良いのに……。

 

「こゆり。キミは魔法少女になって以来、ずっと俯いたままだね。どうしてそこまで、暗い顔をしているんだい?」

 

 ブルーな心が顔に出たのだろうか。キュゥべえが無神経に聞いてくる。

 あたしは、キュゥべえに自分の思いを伝えたくないので、少し誤魔化すように、ずっと気になっていたことを聞いた。

 

「……その、あたしの願い、もしかしたら、叶ってないんじゃないかなあ……、なんて思って。本当に叶ったの?」

 

 契約したのに、あたしは未だに“正解”が分からないのだ。そしてそれが分かるようなきっかけも、ここ三日間で起きていない。

 もうちょっと、何かあっても良い気がする。魔法少女になっちゃったんだから、せめて願いぐらいきちんと叶っていて欲しい。

 

「心配せずとも、キミの願いは必ず叶うはずだよ。それが魔法少女の契約だからね」

 

 キュゥべえははっきりしないことを言う。相変わらず、こんな可愛らしい見た目なのに胡乱な奴だ。

 

「それに、キミはあの時言ったじゃないか。時間がかかっても良いって。キミの願いは、もしかしたらその通り、時間をかけて叶うものなのかもしれないね」

「……つまり、願いが叶うのはずっと未来ってこと?」

 

 そこまで長く待てないんだけど。あたしは、今すぐ“正解”が知りたいのに。

 くそ……。こんなことになるくらいなら、勢いで時間がかかってもいいなんて言うもんじゃなかった。

 

「どちらにしろ、願いが叶う時が来るまで、気長に待つしかないね。まあ、惨めなキミとしてはもどかしいだろうね」

「……」

 

 あたしは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 “惨め”という言葉に、純粋に腹が立ったのだ。

 それではまるで、あたしが可愛そうな子みたいじゃないか。あたしは、全然憐まれるような立場ではないのだ。そんな同情するような言い方は、止めて欲しい。

 

「そんな顔をされても、事実じゃないか」

 

 あたしの顔を見ながら、キュゥべえが言った。

 

「キミは周囲から見下され、孤立している。それなのに、キミは他人に遠慮をして逆えず、反抗もできない。そんなキミには、世間一般で言うところの、惨めという状態に当てはまるじゃないのかい?」

「…………」

 

 あたしは、何も言い返せなかった。

 夢だと思っていた時は、キュゥべえにスムーズに会話できていたのに、現実にいるのだと思うと、あたしの口は自然と動かなくなった。

 周りの人と同じように、自分を出すのが怖くなったからだろう。面と向かって、あたしはキュゥべえに強く言えない。

 

「キミはいつもそうやって、下を向くんだね」

 

 あたしが俯いたのを見て、困ったような仕草をする。あたしはそれが悔しくて、バレないように奥歯を噛み締めた。

 

「ボクとしては話しにくいから、契約した際の態度に戻って欲しいけどね」

 

 それは、こちらもだ。あたしだって、めちゃくちゃ文句言ってやりたいもの。

 けど、しょうがないじゃない。この恐怖は簡単には消えないわよ……。

 

「……何か用事があるの?」

 

 ここ三日間、接して思ったことだが、キュゥべえはかなり事務的だ。そんな奴が、ただあたしのところへ遊びに来るなんて考えられない。キュゥべえは、あたしに頼み事があってやって来たに違いない。

 

「ああ。契約して三日も経つんだし、そろそろ魔女狩りに行ってもらいたいと思ったんだ」

「魔女……か」

 

 確かキュゥべえによると、魔女とは呪いを振りまく化け物らしい。

 自らが作り出した異次元、結界に潜みながら、時には人々の悪意を助長させたり、操ったりして、様々な事件を起こす。

 しかも彼女達は、人間を捕食するのだ。かなりの確率で、行方不明は魔女が関連している。

 そんな魔女を退治するのが魔法少女な訳だけど、ついにあたしも魔女を倒す時がきたのか。

 

 まあ、魔女と戦うのは正直嫌なんだけど。あたしだって痛い思いはしたくない。

 けど、あたしは断れない。魔女は魔法少女にしか倒せないんだから、魔女を放置して人が死んだら、それはあたしの責任になってしまう。そんなの、流石のあたしも気分が悪い。

 

「申し訳ない話なんだけど、出来るだけ急いで魔女を探して欲しいんだ。最近、ここら辺の魔女が活発になってね。早く倒さないと、被害が拡大してしまう」

「被害が拡大……?」

「キミはスマホを持っているかい?」

「持っているけど……」

 

 スマホは今時の中学生にとって、マストアイテムも同然。スマホぐらい、あたしもいつもポケットに入れて持ち歩いている。

 

「それでネットニュースを見て欲しいんだ」

 

 あたしは何だろうと疑問に思いながら、ポケットからスマホを取り出す。キュゥべえに言われるがまま、あたしが住んでいる都市──牛木草(うしきそう)市のネットニュースを検索。するとすぐに、ずらっと記事が出てきた。

 その中でとりわけ目を引いたのは、一番上の欄にある記事だ。そこには、「通り魔殺人事件。女性が包丁で死亡。他、三人の男性が重軽傷」と書かれている。

 詳しく見てみると、昨日の午前八時三十分に、ある歩道で通り魔が出現。通行人の内、一人の女性と三人の男性が刺されたらしい。

 女性は出血多量により死亡。男性二人は意識不明、一人は軽傷だという。

 かなりの大事件だ。牛木草市は治安が悪いけど、こんな凄惨な出来事が起こったなんて、とてもではないが信じられない。

 他にも調べると、殺人事件が起こった近くで、自殺や窃盗の事件が三件も起こっている。さらに、その三つの事件の一週間前に、四人の少女が行方不明になっているのだ。

 ここまで事件が続くのは、明かにおかしい。“何かのせい”だとしか、思えない。

 

「……ねえ、まさかこの事件って……」

「そうさ。ボクはこれを、魔女によるものだと睨んでいる」

 

 背筋が凍る。

 こうしてネットニュースを見ていると、ぞっとしてくる。魔女の呪いの影響力がここまで大きいだなんて思ってなかった。正直、甘く考えていたかもしれない。

 でも、実際人が死んで、事件が立て続けに起こっている。魔女は本当に……、見えないところで不幸をばら撒いているんだ……。

 

「ここら辺の魔法少女は、事情があって皆いなくなってね。外から来ていた魔法少女の子達も地元でごたごたしていて、最近牛木草に通わなくなったし、魔女が一時的に野放しだったんだ」

「そのせいで、魔女が活発になった……?」

「推測だけどね」

 

 けど、その推測は恐らく当たっているだろう。天敵がいない野生動物が異常繁殖をするのと同じだ。抑止力がなくなれば、魔女だって好き放題暴れ出すに決まっている。

 それってよく考えるとやばいな。そんな状態の魔女どもを、あたしが退治しなきゃいけないのか。

 こちとら新人なんですけど。そのあたしが一人でやれることなんて、たかが知れてるじゃない。

 まあ、あたしが他の魔法少女に頼んだとこで迷惑かけるだけだし、結局一人でやってたから、状況はそう変わんないのか……。

 もうこうなったら、やるしかないでしょ。

 

「……分かったよ。やるよ。魔女退治」

「本当かい?助かるよ」

 

 キュゥべえが、じゃあ放課後にまた会おう、と言って、あたしの元を離れていく。

 彼も忙しいのだろうか。随分と急いでいるように見えたけれど。でも、用件を伝えたらすぐに帰ってしまうなんて、やっぱり淡白だ。

 お昼休みはまだまだあるんだから、もうちょっとくらい一緒に居てよと思う。キュゥべえは好きじゃないけどさ、一人で居るのって、結構暇なんだよね。

 キュゥべえが居たら、その暇もマシになるのに。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 寝巣扉都市圏。そこに属する牛木草市は、都市圏が発展するにつれて、その恩恵を授かってきた。

 元々、牛木草市は寝巣扉市のベットタウンとして生まれた衛星都市だ。現在でも、牛木草市から寝巣扉市に通勤、通学する市民の割合が、非常に高いのだ。そのため、寝巣扉市が盛り上がれば盛り上がるほど、牛木草も成長していく。

 しかし一方で、周囲の都市の発展は遅れている。牛木草市に人口が流れ、人手と活気が奪われているのだ。

 特にその傾向が目立つのが、私が住む市、早島(はやしま)市だった。炭鉱都市として栄えていたが、やがてエネルギー革命によって炭鉱は閉山。経済的に大打撃を受け、さらには牛木草だけでなく、近年は隣の市、飛雄角に人口が流出。これといった産業も、観光スポットもないため、ここら一体で一番衰退した都市となってしまった。

 

 私が今いる、蘭ノ家学院の屋上からは、そんな早島の町並みが一望できる。

 こうして見ると、かなり寂しいものだ。

 洒落た店などありもせず、若者が集まりそうなデパートでさえない。住宅街には空き地が目立ち、道行く通行人は老人ばかり。車の数も、牛木草に比べれば少ない。

 

「相変わらず遅れているね、この町は」

 

 風景を見ながら、キュゥべえは私に話しかける。

 

「そうだね。でも、それはここに住む人達のせいだと思うけど」

 

 あたしは、自分の長い髪を弄りながら答える。我ながら、自分の声は何処か投げやりだった。

 

「自分が住んでいる町だというのに、キミは随分とドライなんだね、阿岡入理乃(あおかいりの)

「私からしてみれば、この町は何の価値もない」

 

 早島では時代錯誤な考えが蔓延ってて、旧家に力が集中している。

 だからか、大したこともしてないくせに威張り散らしてばっかいて、血筋や家柄ばかり気にしてる。

 私も分家のくせに、本家の子とかよりも優秀だったから、親戚から随分といじめられたもんだ。

 だから、こんな町なんて大嫌い。

 

「けど、船花(せんか)ちゃんが守りたいって言ってるから、この町を守っているの」

 

 私の相方、私のパートナーの船花ちゃんの義父は、この早島が好きだからね。

 彼女としては、この町を守りたいんだろう。私は、それに付き合っているだけだ。

 そうじゃなかったら、早島なんて見捨ててる。

 

「そのために、船花サチに黙って、邪魔者を排除するのかい?けど、一つ忠告しておくけれど、それはあまり褒められた行為ではない。少し自分勝手すぎやしないかい?」

「そうかもね。けど、船花ちゃんだって、私に任せた方が良いっていつも頼ってくれてるよ?」

 

 私がやった方が、何事も上手くいくじゃない。

 船花ちゃんも、それが分かって大抵のことは私に任せてくれてるし。彼女の手を煩わせないためにも、私がやらなければいけない。 

 

「話があると聞いたけれど、何か用かい?」

 

 これ以上言っても話が平行線だと思ったのか、キュゥべえは急に本題に入る。私もさっさと用事を済ませたかったので、遠慮なく聞いた。

 

「……牛木草市で行方不明になった、三人の女の子がいたじゃない?でも、その子達って、全員魔法少女だったよね?しかもそこそこ強かったはず。……何でいなくなってんの?」

 

 キュゥべえが黙る。静寂が場を支配し、風の僅かな物音がより鮮明に聞こえた。

 

「いくらなんでも不自然よ。彼女達なら、大抵の敵は返り討ちにできる。まあ、一人か二人いなくなったのなら、まだ分からなくもないけど、どうして皆一斉に消えてるの?……それほど強い魔女が現れたというの?」

「いいや。キミもよく知っての通り、あそこには強い魔女は元々いない

よ。けれど、一人が魔女になって、皆その魔女に全滅してしまったんだ」

「そう……」

 

 自然と表情が厳しくなった。私は左手の薬指にはめられたリング──指輪に形状を変化させたソウルジェムを見る。

 魔法少女の契約の際に現れる、魔力の源。魔法少女の証。

 しかしその正体が、自分達の魂だなんて、あの子達は最後の最後に、気付いていたのだろうか。

 

「……彼女達に同情しているのかい?」

「そんなのしてないよ」

 

 悲しいなんて感情は、微塵も私の中にはない。あるのは、魔法少女システムに対する嘆きだけだ。

 

「だけど、これであの地域一帯は誰のものでもなくなった」

 

 魔力を使えば使うほど、ソウルジェムに穢れが溜まり、魔力の残量は減っていく。魔力は無尽蔵ではない。

 魔力を回復するには、魔女を倒せばたまに手に入る魔女の卵──グリーフシードにソウルジェムの穢れを移さなければならない。

 つまり、魔女が多ければ多いほど、魔法も使い放題になっていく。

 だから、縄張りなんて概念もあるし、グリーフシードの奪い合いだって頻繁に行われている。

 誰も魔法少女が居ない地域なんて、最高の場所だ。何も邪魔されないし、好き放題にできる。

 

「そんな場所、別の魔法少女がすぐにやってくるはずだよ。そうじゃなくても、魔女の管理のために、貴方は他の少女と新しく契約を結ぶはず。もうすでに、あそこには魔法少女がいるんじゃないの?」

「そういえば、キミも牛木草の一部を縄張りにしているだったね。……キミは、その魔法少女を警戒しているのかい?」

 

 私は何も言わず、先程のキュゥべえのように沈黙した。でも、キュゥべえはそれを返答だと受け取ったらしい。勝手にペラペラと喋り出した。

 

「……分かったよ。それくらいなら、教えるよ。キミの言う通り、ボクはすでに新しい牛木草の魔法少女と契約を結んでいる。彼女の名は、色梨こゆりだ」

「……その子、どんな願いを叶えたの?」

 

 興味本位で聞く。キュゥべえはしばらく思案し、一言言った。

 

「ありきたりな、平凡で答えが見えきった願いだよ」

 

 それを聞いて、ニヤリ、と私は口角を上げた。

 なんて馬鹿な願いなんだろう。そんなので魔法少女になったの?おかしいの。

 

「あまりにも下らない。普通の願いなんて、一番吐き気がする願いよ」

 

 そういうものに限って、ろくなことにならないのだ。

 願いは、呪いにしかならない。希望は、絶望にしかならない。

 願いなんて、祈っちゃういけないのだ。現実は優しくない。いつだって、私達に牙を向く。

 

「それを言うならキミの願いだって、ありきたりな願いだけどね。“友達”と親しくなった時間を消したい、だなんて、よくある願いじゃないか」

「……!!」

 

 そう言われた途端、怒りが熱を帯びた。

 私は手の中に白い杭を召喚すると、衝動のまま、キュゥべえに振り下ろした。

 その小さな体を食い破るように、杭がキュゥべえを貫く。

 私は杭を外すと、次に容赦なく踏んづけた。

 

「黙れ。二度と私の願いのことを口にするんじゃない」

 

 感情なんて分かんないくせに、人の神経を逆撫でするな。

 私の願いは、確かにとても下らないものだ。叶えちゃいけなかった願いだ。そのせいで、何が起きてしまったかなんて、私が一番よく分かってる。

 でも私の場合、しょうがなかったんだ。私はあの子が怖くて怖くて、耐えきれなかったんだ。私は、お前に縋るしかなかったんだよ。

 

「私が今までどんな思いで、他人を怖がってきたと思ってんのよ!!……それを利用しやがりやがって!!」

 

 出来れば、私だってお前になんか縋りたくなかったよ!!どうしてお前は私の前に現れたんだ!!

 こんな酷い運命、お前さえいなければ背負うことなかった!!こんな気持ち悪い思い、せずに済んだのに!!

 死んでしまえ、お前んなんか!!お前は私の……、私と船花ちゃんの敵だ!!

 私達の前から消えろ!!消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ!!!

 

「このクソ、クソ、クソ!!」

 

 何度も私はキュゥべえを踏みつける。原形を止めないほど、ぐっちゃぐちゃになるまで。

 その姿に、胸がすっと軽くなる。……私だって、こんなの無駄だと分かっている。でも、キュゥべえが死ぬのを見ると、ザマアミロと思う。少しやり返してやれた気がして、一瞬だけ黒い感情が満たされるのだ。

 

 周りを見渡す。キュゥべえの姿は、何処にもない。これ以上潰されるのは無駄だと思ったのだろうか。

 

 私は一人、虚しい気分に襲われる。

 何故私は、ソウルジェムの真実に気付いてしまったんだろう。

 これなら、確かめない方が良かった。……ソウルジェムが、どうなるか、なんて。

 

今後の小説の参考のために、アンケートを取ります。この小説で良かったところはどこですか?

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