「鬼殺隊レビュアーだったが…」抜かねば無作法な「世界に飛ばされた件…」 作:抜かねば無作法
「あ…ああ…もう逃げきれない」
何らかの原因で
中性的で整った容姿を絶望し切った顔で歪め、目の前には凶暴なモンスターが立ちふさがりもはや逃げ場はないといった状態だった。
通常天使はこの世のありとあらゆる攻撃を通さない、代わりにこの世には限定的な干渉しかできないのだが、輪が欠けた状態だと普通に物理的に干渉が可能となってしまうため、目の前のいかにも肉体で戦いそうなモンスターには無力となってしまった。
(ここで死んだら僕はどうなるんだろう?)
振りかざされたモンスターの腕を眺めながら天使はおのれの死を悟る。そんな時だった…
―月の呼吸― 弐ノ型 珠華ノ弄月
独特な呼吸音のような音がしたかと思えば、欠けた月を思わせるようなエネルギーの力場が魔物に降り注ぐ。そして魔物はまるで刀で豆腐を斬るかのようにいとも簡単に切り裂かれ、血の雨を降らせながら地面へと崩れ去った。
(…綺麗…)
天使ことクリムヴェールが感じたものは美だった。まるで真っ暗な夜の中に輝く月のような輝きを放つ、魔力とも違う自分も知らない初めて見る技に対し安堵以上に驚きが隠せない。
そしてしばらく技に見とれているとその技を放ったであろう存在がクリムの目の前に現れる。
「これは驚いた…天の使いか…」
長い黒髪を後ろで縛り、額や首元から頰にかけて揺らめく炎のような黒い痣、顔立ちは人間の基準に当てはめるのなら整っていると思えるのが、六つ眼を持った異貌と近寄りがたい雰囲気が先に来るものがある。
「あ、あの…」
どこか威厳さえ漂う威圧感を持ったその人物はその六つ眼を大きく見開きながらこちらをじっと見つめる。 …クリムは怖くなった。
目をそらそうと、男が持つ剣に目をやる。しかしその剣は刀身、柄、縁金、鞘の至る所に生きているような目が浮き出ていた。そして血管のように赤い筋が走り不気味さを増しており、まるで生きた魔剣のようだった。…正直滅茶苦茶怖くなった。
「こちらの世界の…お伽話でしか…聞いたことが無い眉唾物の存在だったが…まさか実在するとは…」
「すみませ~ん。」
「…天界があるのなら…縁壱ならば行けるだろうな…しかしそうなると厄介だな…」
クリムのことを認識してはいるが会話する気があるのかないのか分からない、その男は独り言を続ける。
どうしたものかとクリムは考えたが、そんな彼の気持ちが通じたのかこの男の仲間と思しき人物たちが木々の間から現れた。
「黒死牟そっちは終わったか…ん、その坊主はもしかして天使か?初めて見たな。」
「俺もだ、二百年以上生きてきたが実在していたとは。いったい何があったんだ?」
「私にも分からぬ…見たところ…魔物に襲われているようだったが…」
「このあたりの怪物強えからな…ま、とりあえずは街までは連れて行ってやるよ、ついてきな。」
その二人は黒髪で咥え煙草と無精ひげが特徴的な剣士と、弓を持った金髪の少年のような風貌のエルフだった。黒死牟と呼ばれた六つ眼の剣士と違い、話しかけづらい雰囲気は感じなかったので話しかけてみることにする。
剣のことなどほとんど分からないクリムから見ても黒死牟が先ほどはなった一撃は、長きにわたる人生(人間基準)でも稀にみるほどの練られ、研鑽された見事なものだった。そんな彼とチームを組む二人も相応の腕を持つ冒険者に違いない。そう考えたクリムは賭けに出てみることにした。
「あ、あの…あなた方は相当な腕の冒険者とお見受けします!身勝手なお願いだとは思いますが…しばらくの間あなた方のそばに僕をおいてくれませんか?」
「天界には…帰れぬのか?」
「天使の輪が欠けた状態では本来の力も出ませんし、天界にも戻れないのです…ですから治るまでの間だけでも…駄目でしょうか?」
頭を下げ、お願いするクリム。それに対しスタンクとゼルは何かを考えたのち、ゲスイ笑顔を浮かべ答える。
「…その天使の輪が治れば天界に行けるんだな?」
「え?は…はい!」
「じゃあ輪が治ったら俺たちを天界まで案内してくれ!それなら治るまでの間全力でサポートしてやる!」
「本当ですか!?ありがとうございます!!でもどうして天界に行きたいのですか?」
クリムは明るい笑顔を浮かべながら喜ぶが、同時に疑問もわいた。そんな疑問にスタンクは口にくわえていた煙草の煙をひとはきしながら答える。
「…天界にもスケベな店はあるのかな…って思ってな。」
「…はい?」
あまりにも意外過ぎる答えにクリムは硬直する。そんなクリムを無視してスタンクとゼルは自身の思いを熱く語りだす。
「俺たちはな!ありとあらゆる種族とエッチするために!ジャングル、海底、砂漠、雪山、ダンジョン!」
「あらゆる場所に行くんだ!そこにかわいい子がいるのなら…」
「「天界でも俺たちは行く!!」」
「は…はぁ…」
「いや~楽しみだな!天使とエッチできる店があった日にゃ文字通りの天国じゃないか!」
「いやいや!もしかしたら神様が働いている可能性もあるぞ!!」
「すっげぇ夢が広がる!」
「「ビバユートピア!!」」
「…」
とんでもない人たちに頼ってしまったと内心頭を抱えるクリム。もしかして黒死牟と呼ばれた剣士も同じなのかと、そちらに眼をやる。すると黒死牟は頭を抱えて呆れているようだった。
(良かった…この人はまともそうだ。)
近寄りがたい雰囲気はあるが、真面目で武骨なイメージも併せ持っていたため、それが盛大に音を立てて崩れることが無いことにクリムは安堵する。そんなクリムを知ってか知らずか黒死牟はクリムにある質問を投げかける。
「天の使いよ…そなたは継国縁壱という人間を知っているか?」
真剣そうに尋ねる黒死牟に対し、クリムは自身の記憶を遡る。そして名前からしてかなり珍しいものだったので、もしも知っていたら覚えていただろうと思い答える。
「…すみません、そのような名は聞き覚えありません。」
「…では…このような顔をした男を…見たことがあるか…私のような痣を持ち…私に似た顔の人間だ…」
真ん中二つ以外の眼を閉じ、再び質問を投げかける黒死牟。しかしやはりクリムには心当たりがなかった。
「…すみません、僕は見たことがありません。女神様ならもしかしたら何か知っておられるかもしれませんが…」
「…そうか…」
クリムの答えに黒死牟は特に落胆した様子を見せなかったが、ここではないどこかを見つめるように空を眺め出す。
「…やはり…そう都合よくはゆかぬか…」
「…あ、あの黒死牟さんでしたか、あなたも天界に行きたいのですか?その継国さんって人を探すために。」
クリムの質問に対し黒死牟は憂を帯びた表情で、クリムの方を向かずに答える。
「…いや…私は天界などに行けるような者ではない…」
「そうなんですか?」
「ああ…ただ…そなたが天界に還ることが叶う様になった暁には…一つ頼まれごとを聞いて頂きたい…」
「継国さんって人を探してほしいってことですか?」
「…もしくは…こちらに来た時に…私に知らせてほしい…」
「それぐらいならお安い御用ですよ。」
スタンクとゼルの願いよりはずっとまともな内容だったため、クリムは快く引き受ける。
「…そういえば…そなたの名を…まだ聞いていなかったな…」
「そういえばそうでしたね。僕はクリムヴェール、クリムと呼んでください。」
「…私の名は既に知っているようだが…黒死牟という…この咎人共の名は…」
「いやいや咎人じゃねぇし!!ちゃんと合法的に行為を行っとるわ!!…俺の名はスタンクだ、よろしくな。」
「俺はゼル、こいつらと組んで冒険者やってる。天界の店の件頼んだぜ!」
そうして一応の自己紹介がすみ、街へ向かいだす一行。そんな道中でスタンクはある疑問を抱く。
「そういえばお前、性別がよくわからないけど、男だよな?」
「…これは驚いた…よもや貴様がそのようなことに…気を使えるとは…」
「失礼な!!これでも俺はレディには丁寧なんだよ。」
「…ならば…少しは食事処でも気を使え…それと先の質問だがこの者は…」
「そりゃもちろん!僕は男ですよ!ほ…ほら、ズボンもはいているし、膨らみもあるでしょ!」
黒死牟の言葉を遮りクリムが熱弁する。
「…いや…この者は…まぁいい。」
“透き通る世界”によりクリムの性別を見抜いた黒死牟はそれを訂正しようかと思ったが、クリムにも何やら事情がありそうだと判断したので、これ以上の詮索は無作法だと途中で取りやめる。
「そうか、なら問題ないか。」
「さっさと目的の街に行こうぜ、折角だから奢ってやるぞ少年。」
「食事をごちそうしていただけるのですか?ありがとうございます!!」
「「いや、サキュバス店に決まってるだろ。」」
てっきり食事の話かと思っていたクリムはスタンクとゼルの言葉に数刻固まった後、顔を真っ赤にし声を荒げる。
「ええええええええ!!いやいやいやいや待ってください!!僕そんなところ行ったことも…というかしたことも…」
狼狽えまくるクリム、そんな様子を見てスタンクとゼルは面白そうに笑みを浮かべる。
「おうおう、初めてだってよ。」
「そりゃ、奢りがいがあるな。どうだ黒死牟、折角だからお前も一緒に行ってみるか?」
「…要らぬ…それより…少々腹が空いた…」
「んじゃ、食酒亭で腹ごなししてからにするか。」
「あの…天使として…ふしだらなことはいけないことかと…ねぇ聞いてます?」
クリムの訴えが聞き入られることはなかったのは言うまでもない。
「黒死牟さん、追加の血酒お持ちいたしました。」
「…ああ…礼を言う…」
ここは王都のとある宿屋兼酒場の食酒亭。文字通り飯と酒を出すお店でスタンク達の活動拠点でもある。ここはこの世界を象徴するかの如く雑多な種族の色んな連中が飯を食ったり酒を飲んだり、情報を交換したり、掲示板の掲示物を読んだりと思い思いに過ごしている。
黒死牟も倒れていたところを店の看板娘に助けてもらったときは、この世界の在り様に天地がひっくり返るぐらい驚いたものだが、今となってはなれたものだ。
「じゃあ、黒死牟さんはその“地球”の“日本”ってところからやってきたんですか?」
「ああ、コイツ以前にもたまにだが流れてくる奴も居たらしいぜ。」
「…もっとも…ほかの者が来たと思しき…日ノ本は私の知る日ノ本とはずいぶん違っているようだったので時代がそもそも異なっているやもしれぬのがな…」
「大抵はひょろい人間で戦いなんてしたことが無いらしいんだが、黒死牟は種族とかそういうの関係なしに最初からクソ強かったぜ。」
「俺の倍、400年も剣士やってんだからベテランもベテランだよな。マナは…正直直視できたもんじゃねーけどよ。」
聞くところによると黒死牟は死んだと思ったら、自分も知らないうちにこの世界に来ていたらしい。それ自体は異世界転移者の中ではメジャーなパターンだったのだが、黒死牟はほかの転生者たちとは違い最初から英雄級もかくやと言う強さを持っていたため勝負を仕掛けられたスタンクたちも危うく死にかけたという。それから紆余曲折あって黒死牟は自身の《とある目的》のためにスタンクたちに呼吸法を教え、この世界のことを知るためににスタンクたちが受け持った依頼を手伝うことで生計を立てるようになったらしい。
「…強い…か…私など大したものではない…400年無駄に生きても…日輪にはまるで手が届かなかったのだから…」
「そう謙遜しなさんなって!お前のおかげで俺たち仕事が前よりも捗るようになったんだからな。…最初に出会ったときに腕試しで殺されかけたのはいただけないがな。」
「…私としても日光の下を歩けるようになったのは大きな収穫だった。日光を防ぐ…妖術…この世界での知識も非常に有用なものが多いのもまた良き…」
「まぁ、一番捗るようになったのは何と言っても夜の性活だけどな!いやぁ黒死牟先生には頭が上がりませんなぁ!!」
「…貴様たちの…呼吸法の使い方は…目に余る…素質があるだけに余計だ…」
スタンクたちはこの世界でも指折りの実力者ということもあり、黒死牟から見ても非常に鍛え抜かれ、質のいい筋肉を持った体をしていた。
そして一見細身に見えるゼルもこの世界に来てさらに昇華された“透明な世界”を以てして見れば、実に力強いエネルギーが渦巻いており、血鬼術でも再現不可能な妖術(魔法)を使え、黒死牟も一目置いている。特に日光を防ぐ防護魔法など黒死牟の元上司が見たら狂喜乱舞間違いなしだろう。
そんな下地が出来上がっていた彼らなので呼吸法も割とあっさりあっさりと習得し、つい最近では常中も会得するなどその成長は目を見張るものがあった。
…だが黒死牟にはどうしても気に入らないことがあった。
「何を言うか!俺たちは呼吸法の真の使い方を開拓したに過ぎない!ビバ“性の呼吸”!!」
「その通りだスタンク!!ビバ“夜の呼吸”!!」
酔った顔でジョッキを高らかに掲げながら高らかに叫ぶスタンクとゼル。それをクリムは唖然としながら眺め、黒死牟と店員のメイドリーは頭を抱えながら呟く。
「…最低ね。」
「…呼吸法がこれほどまでに俗にまみれた使われ方をするとは…縁壱の目をもってしても予見出来なかったであろう…今からでもこ奴らを始末するべきか…」
「…私としては大いに賛成と言いたいのですが店が汚れてしまうのでやめてください。」
「…そうだな…このような俗人の血で汚すのは…さすがに無作法というもの…」
そんな様子を尻目にスタンクとゼルのトークはまだ盛り上がりを見せる。
「いやー“あそこ”の疲れない呼吸法というのは実に偉大だぜ!!楽しめる回数が増えるってのはやっぱいいよな!!」
「だよな!!その分延長料金もかかっちまうのは少々困りもんだがそこは呼吸法で強くなった体で稼いであぶく銭を増やせばいいってもんだしな。移動での疲れがたまらねぇし、依頼も多くこなせるようになったからな。」
一見スタンクとゼルの主張は性欲にまみれた大俗物のたわ言のように聞こえるだろう。
しかしながらかつて黒死牟がいた世界では、呼吸法の開祖がとある炭焼きの家系に残した舞をベースとした疲れない呼吸法により、病弱なはずの男が六人もの子供を作ったことからも夜の世界でも呼吸法は強いことが実証されている。
なお黒死牟は知る由もないが、結果的にはその炭焼き一家に生まれ育った長男と長女は呼吸法を扱う者たちの悲願であった鬼の根絶に大きく貢献したため、夜の呼吸法は確実に世の役に立ったと言えよう。
…つまり何が言いたいかというとエロと性欲は偉大で、世を救ったといっても過言ではないということだ!まさしくエロは世界を救う!!
…無論このことは記録に残せたものではないし、呼吸法の開祖者も当然知らない。正しさが全て受け入れられるとは限らないからだ。
「…よもや…貴様ら…そのために…呼吸法を必死に鍛錬したのではあるまいな?」
怒りを通り越して呆れを含んだ声で質問する黒死牟に対して、スタンクとゼルはさも当然といったばかりに答える。
「それが全てに決まってんだろうが!!エロはとにかく偉大なんだよ!!」
「その通りだぜ!新たなエロの境地、向上のためなら鍛錬など苦もねぇぜ!!」
最初は無理やりやらされたことだったが、呼吸法が夜の生活にも強いということが分かってからはまるで人が変わったように習得に熱が入った。正直知らなければ良かったという思いが強くなる。
「…聞いた…私が愚かであった…」
「ここまで来ると清々しささえ感じますね…黒死牟さん、心底同情します」
「…ある意味凄いんですかね?この二人…」
二人がここまで言っておいても黒死牟が彼らを始末しないのには理由があった。そしてそれは黒死牟の目的に関係している。
黒死牟の悲願、それは“呼吸法の開祖者”…ひいては“日の呼吸”の使い手に打ち勝つことである。もちろん自分がこの世界に来たからと言って“呼吸法の開祖者”もこちらの世界に来ているとは限らないし、来ていたとしても時代が大昔ならばもう死んでいるだろう。
しかしこの特異な種族が数多存在するこの世界では呼吸法が広まれば、その中から“日の呼吸”を再現しうる存在が現れてもおかしくはない。
そしてその“日の呼吸”の使い手と戦うのが黒死牟の当面の目的だ。幸いにして黒死牟は種族的に寿命は無いに等しいのでそう言った存在が現れるまで待つことが出来る。
そしてまだこの世界に来てそこまでたっていないが片鱗は既に見えている。性欲の権化と言っていいスタンクとゼルだが彼らは、その恐るべき執念で呼吸法を習得しただけではなく“日の呼吸”の片鱗も片鱗…正確にはヒノカミ神楽の動きの片鱗を独自に再現してみせた。
これは黒死牟が教えたものではない、先も述べたが“病弱なはずの男が妻との間に六人もの子供を作った疲れない呼吸法”という曰くつきの技術をスタンクとゼルは本能の赴くがままに自然と体得した結果だ。
収斂進化と言ってしまうのは簡単だが、より多くのエロを楽しみたいというある種生物として正しい激しい情動がこの奇跡を生んだのは間違いない。
そして“呼吸法の開祖者”がかつて言った『道を極めた者がたどり着く場所はみな同じ』という言葉が世界をも超えて実証された例でもある。…やはりエロは偉大だということだ!!
「それよりよぉ黒死牟、お前そろそろお金結構たまってるだろ?つーことはさ…」
「…何が言いたい?」
「またまた~言わなくても分かってんだろ。そろそろため込んだもん放出しようぜ!何せ俺の年より長い300年以上だもんな。」
非常にあくどい笑みを浮かべながらスタンクとゼルは黒死牟に絡みだす。こう見えて黒死牟は結構金を持っている。普段の生活では食事(主に肉)と嗜み用の酒(吸血鬼用の血酒)ぐらいしか出費しないうえに、武器は自前で生成できるうえに強力なモンスターも狩っているのでお金は地味にたまっているのだ。ちなみに性欲は鬼になってからは特にたまってはいない…いないはずだ!!
「ちょっと二人とも黒死牟さんにたかるなんて最低よ!!」
「そうですよ、黒死牟さんも困っているじゃないですか!!」
二人の絡みに対して、クリムとメイドリーは二人を止めようとする。一方の黒死牟は何かを考えているのか六つ眼を閉じたまま腕を組んでいた。
「馬鹿!!俺たちは別にたかろうだとか奢ってもらおうとかそんなやましいこと考えていねぇし!!」
「そうだぜ、そこのところは俺たちしっかりしているから!!自分の分は自分で出すわ!俺たちは単に黒死牟の溜まりに溜まったものを吐き出しに行こうぜって言っているだけだ。何もやましいことなど考えてねぇよ。」
「…十分やましいじゃない、黒死牟さんもこの馬鹿二人に何か言ってあげてよ!!」
「…」
「…あのー黒死牟さん、どうかしましたか?」
腕を組んだままの黒死牟は何も答えなかった。それに対してメイドリーは心配そうに声をかける。いつもならここで黒死牟は『下らぬことに付き合う気はない』だの『そんな時間があれば鍛錬をする』などというのだが、今回はそう言った言葉が出なかったので若干心配になる。
「黒死牟さん、どこか具合でも悪いんですか?」
クリムも心配そうに声をかけるが一向に反応が無い。
「おいおい黒死牟、どうしちまったんだ?」
「酔ったとか眠いとかってことはねぇよな…睡眠も必要ないし、酒に酔うこともない種族だって言ってたから。」
さすがにいつもと様子が違い過ぎる黒死牟にスタンクとゼルも心配そうに声をかける。
すると考えがまとまったのか黒死牟は目を見開き、話し出す。
「…貴様らに…もう一度問いたい…真に色欲のみで…呼吸法を会得したのか?」
「「へ?」」
突然の質問に困惑するスタンクとゼル、しかし別に嘘をついていたわけではなかったので、その言葉を肯定する。
「ああそうだが…それがどうかしたのか?」
「…そうか…」
黒死牟は残っていた血酒を飲み干すと短い言葉と共におもむろに立ち上がる。スタンクとゼルはいつものように黒死牟が会計を済ませ鍛錬に向かうのだなと思ったが、ここで黒死牟は信じられない言葉を口にしだす。
「…貴様らの…余興に付き合うのも…一興か…」
「「「「は!?」」」」
4人はまるで信じられないといったばかりに口をポカンとあけ唖然とする。求道者めいた一面を知るスタンク、ゼル、メイドリーはもとより、出会って一日目のクリムも黒死牟が纏う雰囲気からそう言った事柄に興味が無いと思っていたため驚きが隠せなかった。
そしてそんな四人を無視して黒死牟は続ける。
「…遊郭に行くのだろう…付き合うといったのだ…」
その言葉に黒死牟以外の四人は顔を見合わせお互いの頬をつねり合う。そして痛みを感じたのでこれが夢でも幻惑でもなく現実だと理解する。
「マジか!?ついに黒死牟サキュバス店デビューか!!こいつは気合が入るぜ!!」
「スタンク!店どうするよ!!忘れられない思い出にするためにマニアックなとこ攻めてみる?それとも最初だからまずは定番のところで経験を積ませるか?」
「かー!!悩むぜ!!実に悩ましいがやはり最初は経験を積ませてそれからレベルアップが俺たち冒険者らしいだろ。」
「つーことは、定番のお店ニャンニャン天国かねぇ。あそこなら初めての奴でも問題なくいけるはずだ!!」
「ニャンニャン天国か…まぁあそこなら問題ないだろ。俺としてはエルフも捨てがたいんだけどな。」
「馬鹿!!お前トラウマ植え付けてどうする!!黒死牟は元人間とは言えマナを感じ取れるんだぞ!」
「そうなのか。じゃあやっぱニャンニャン天国が鉄板だな。」
いち早く復帰し、爆発的にヒートアップするスタンクとゼル。奥手な友達を引っ張り出すことに成功したかのように盛り上がりを見せ、今から行く店についてあれこれ思案しだす。
完全に余談だが黒死牟はこの世界に来てからの鍛錬で“透明な世界”をさらに昇華させマナを見通すことも可能となっている。
「ちょちょっと…何言ってるの二人とも…黒死牟さんもどうしちゃったんですか?頭がおかしくなっちゃってますよ!!」
「そうですよ、どこかステータス異常にでもなったんですか!?」
一方のクリムとメイドリーは一足遅れて正気を取り戻し慌てだす。そしてそれを黒死牟が手で制止する。
「…いや…私は正気だ…あくまでも考え抜いて…出した結論だ。」
「じゃあ、何で何ですかせめて説明してください!!」
常識人が一人減るかもしれない状況にせめてもの説明を求めるメイドリー。黒死牟はその問いに対してどこか憂を帯びた声で答える。
「…たどり着く…道が…見えなくなって…久しい…400年近く生き恥を晒し…異なる世界に来て尚…私の目指す道がまだ見えぬ……そんな中こ奴らは…短き間に…道の片鱗とは言え掴んで見せた…私はその本質を見極めたい…」
「いや…この二人はただエロイことのためだけに…」
「…それでもだ…その中に私が知りたい答えがあるやもしれぬのなら…私は探す…それに長きにわたり生き恥を晒して来たこの身だ…今更…」
「…黒死牟さん…」
実に求道者らしい答えと、自嘲を含んだ長きにわたる年月を感じさせる音色にメイドリーは言葉を失う。自分は彼の過去は知らないし、前の世界でどういった人物だったのかは当然知らない。
でもきっと彼は前の世界で自分の想像もつかないくらいに大きな間違いを犯したのだろう。そしてそれでも必死にもがいて前に進もうとしているのだろう。止まるすべなどとうに忘れ、魂が摩耗し身を焼きながらなお手を伸ばして、届かない太陽に手を伸ばし続けている。
「…それに…こ奴らの生き方は…我が世では見たことが無いもの…」
スタンク達の戦い方は美しさというものは一切なかった。ただ泥臭く生き残るための戦い方。
鬼殺隊のように命を捨ててでも一矢報いようとする戦い方とは程遠い…されど自身に媚び鬼になった者たちとも違う、自分が自分のまま何としてでも生き延びようとする戦い方。
それはかつての世界では見たことのないもので、黒死牟は大いに興味を持った。
「…はぁ、分かりましたよ。そこまで言うなら止めはしません。ただほどほどにして下さいね。」
「…無論だ…」
こうして黒死牟は新たなる道を探すため、新たな
「どうして結局僕も行くことになってるんですか!!」
「…400年生きてきたが…遊郭に来るのは初めてだな…」
上手くいけば止めてくれると思っていた黒死牟がまさかまさかの寝返りをしたため、流されるままにクリムも店に連れられてきていた。
一方の黒死牟は何とも言えない表情をしていた。
「初めての奴が二人いるから、いい子見繕ってくれ。」
「特に六つ眼の方は、このいかにも硬派な感じをぶっ壊せるくらいのを頼む。」
「おまかせにゃー♡」
「ちょっと、スタンクさん、ゼルさん!!聞いてます!?黒死牟さ~ん!!」
「…性格に支障が無ければ…問題ない…」
ここまで来て往生際悪く叫ぶクリム、一方の黒死牟の方は昔の頭の悪い子供のような
そんなこんなで案内されたお部屋、そこで待っていたのはどこか虎を思わせるような毛皮や耳をした娘だった。
「おー聞いていた通り凄く硬派そうなお客さんだナ~。随分変わった服装してるけど、どこからきたんだナ~?」
「…この世界ではない…日本という国だ…」
「もしかしてお客さん、転移者さん?うそ~見るの初めてだナ~!!」
(…初めて…ということは縁壱にあったことは無いということか…まぁ奴はこのような場所には来るはずもないか…)
「ちなみに前の世界ではこういうお店来たことあるのかナ~?」
「…いや…無い…ただかつては妻と子がいた…もう顔も声も思い出せぬがな…」
「随分いけないお客さんなんだナ~これは忘れられないようにしないといけないんだナ~」
「(…ここまで来た以上は…抜かねば無作法というものか…)忘れられないようにか…ならば…見せてみよ…その実力のほどを…」
「任せるんだナ~!それじゃまずは一緒にシャワー浴びるんだナ~。」
「…よかろう…」
350年以上こちらの“実戦”からは離れていたが、そう簡単にやられると思われては困る。これでもスタンクやゼルに…今となっては非常に腑に落ちないが呼吸法を教授した身だ。負けるつもりなど毛頭ありはしない。
「お、お客さん凄すぎだナ~。しばらく立てそうにないナ~。」
「…潜在的に光るものはあるが…まだまだだな…修練が足りん…」
息も絶え絶えな娘に対し、まだまだ余裕を見せる黒死牟。長きにわたる修業の力は伊達ではなかった。
「や…やってしまった…あらゆることを全部に、一気に…」
ナニとは言わないが下腹部にある大事なもの二つをいっぺんに失った穢れ無き天使(元)は顔と欠けた輪を真っ赤にしていた。何かを得るためには同等な何かを必要とするが、それを一気に済ますのはこの少年には少々刺激が強そうだった。
「お~これで一つ成長したなクリム君よ!黒死牟先生はどうだった?」
「350年ぶりはどうだった?良かったか?」
「…光るものは感じた…磨けば…良くなるやもしれぬ…」
「いまいちよく分からねぇが、良かったってことでいいんだな?」
「そうとらえてくれて構わぬ…思えば…この世界に来てから…あれほど近くで人以外の種族と接したのは初めてだ…」
「そうかそいつは良かった!!折角だからレビュー書いてみてくれよ、お前がどんなこと書くかすごく興味あるし。」
「…いいだろう…」
鬼:黒死牟
八
見た目は華奢な娘であったが…筋肉の機能は野生の虎の特徴を継いでいるのか…しなやかで力強く…中々に上質なものであったと言えよう。それに加えて技を扱いうる知性も併せ持っているため呼吸法を学べば…才にもよるが鬼殺隊の柱にも…匹敵するやもしれぬ…今後の進展が楽しみな種族だ…
「…おい、ちょっといいか?」
黒死牟のレビューを読んだスタンクとゼルは顔を引きつらせる。
「…何だ?…何か可笑しなことでも書いていたか?」
「何だじゃねぇよ!!サキュバス店関係ねぇじゃねぇか!!」
「そうだよ!これじゃただの異種族レビューだ!!店と嬢について書けよ!!」
「…解せぬ…」
店については迄理解できるが、娘に関してはちゃんと書いたつもりだった黒死牟はどこか釈然としなかった。
関係ないことですが、劇場版メイドインアビス(最高だった!!)を見て、リコの声がこんな滅茶苦茶なアニメ(誉め言葉)にも出ているという点にクるものがあります。