「鬼殺隊レビュアーだったが…」抜かねば無作法な「世界に飛ばされた件…」   作:抜かねば無作法

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 北米に続き東京MX…やはり無茶だったか。しかも後任がお前…
 
 最終回までどの局が生き残っているか、いよいよチキンレースじみてきましたね。

 ちなみに時系列は結構バラバラです。ライブ感で書いているのでご了承ください。


縁壱の実写化は役者が死ぬ

 食酒亭にある席に二人の男が異様な雰囲気で向かい合う。二人はそれぞれ羽ペンを持ちながら、綺麗な所作で何かの文章を書いていた。

 

 「……」

 

 「俺のメイドさん…将来を誓い合ったのに、一緒になろうって言ったのに…畜生、チャラ男め‼ふぐぅぅぅぅぅぅぅッ」

 

 机に突っ伏しながらスタンクは滂沱の涙でテーブルを濡らす。そしてその前にも同じようなことがあったのかテーブルにはすっかり涙の跡が染み付いていた。この様子からずっとこんな感じだったらしい。

 その醜態ぶりに元々不機嫌であった黒死牟の機嫌がさらに悪くなる。そしてその不満は爆発する。

 

 「……貴様は先ほどから度が過ぎる…全ての種族の遊郭に行くのではなかったのか…更なる高みへの…開けた道をも…自ら放棄するとは…軟弱千万…」

 

 仮にも俗欲で《技》を見つけたスタンクが腑抜けている様に、呼吸法を教えた身としての怒りの言葉をスタンクに贈る。

 その言葉にスタンクは死んだ魚のような目から怒りに満ちた目へと変わる。落ち込んでいるのは事実だがそれでもレビュアーズとしての道まで自分から放棄したつもりはない。何よりレビュアーズ仲間にここまで言われて黙っていられるほど、人間が出来ていない。

 

 「何だと!テメェに何が分かるってんだ!!将来を誓い合った相手を寝取られたこの俺の気持ちが…分かるはずねぇだろうが!」

 

 「……貴様があの店でどのような遊びに興じていたかは知らぬ…だが…あのような粗末に過ぎる演技をする店に影響される者が軟弱千万であることは自明の理であろうに…」

 

 「あぁ!?あれのどこが大根演技だってんだ、目と頭が腐ってんじゃねぇのか?」

 

 「……少なくとも今現在進行形で腐っている貴様よりはまともであるつもりだが…」

 

 売り文句に買い言葉、その応酬もそこそこにスタンクはガバっと椅子から立ち上がる。

 

 「言わせておけば…上等じゃねぇか、表出やがれ!!」

 

 「……ほう、すっかり腑抜けていたと思っていたが…面白い…あの茶番よりもこちらの方が楽しそうだ…」

 

 「ちょっ、ちょっと!二人とも喧嘩は他所でやってよね!!」

 

 「……無論だ…このような場所で戦うなど…無作法の極みというもの」

 

 「テメェのその腐った目と頭に衝撃を与えたら少しはマシになるか試してやるよ!!」

 

 料金を置いて店を去った二人その様子を見てクリムは何事かとゼルに尋ねる。

 

 「一体あの二人は何を揉めていたのでしょうか?話を聞く限りでは前に行った店のことみたいでしたが。」

 

 「お察しの通りだと思うぜ、こいつを見てみなよ。」

 

 ゼルはクリムの言葉を肯定すると、スタンク達が去った机に残された二枚の紙を見せる。

 

 

 

 

 人間:スタンク

 

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 こだわりの寝取られ専門店。惚れた女(という設定の嬢)が寝取られる様を見てマジホでオナる訳だが…ぶっちゃけシコれた。いっぱい出た!我NTRに開眼せり!

 …でも感情移入しすぎてずっと気分が悪い!開けちゃいけない禁断の扉を開けた後悔が止まらない!やめときゃ良かったよ畜生ォ!

 

 

 

 鬼:黒死牟

 

 

 

 背徳の極みとも言える店ではあるが…小道具の揃えは目を見張るものだった…しかしながら寝取り役の役者の演技は見るに堪えぬ…性格の違いは最初から理解しているためその部分の奴との違いは目をつむるが…それを加味しても…奴を僅かながらも再現しきれておらず、怒りすら込み上げる…龍のような戦力を用意できるのならばそのような人材を使えば少しは良くなったのではないかと言いたい…

 

 「アンタたちはまた…」

 

 紙に書かれたレビューを見てメイドリーはジト目となる。一方のクリムはその内容を吟味して首をかしげる。

 

 「…お二人のレビューどこかおかしいですね。」

 

 「どこが?いつものスケベな店の感想じゃない。単に当たりか外れかでもめただけじゃないの。」

 

 「最初は僕もそう思いました。でもやっぱり変です、この二人のレビューで対極なのはお店の嬢の方についてじゃないんですよ。黒死牟さんがボロクソにけなしているのはあくまでも寝取り役の役者さんについて何ですよ。」

 

 クリムの説明にゼルは満足げに頷く。

 

 「その通り、クリムお前も大分成長してきたじゃないか。レビュアーズの一員として嬉しいぜ。」

 

 「単に汚染が広がっただけじゃない!!あまりクリム君に変な事教え込まないでよ!」

 

 「まぁまぁ、そう言うなって。話の続きだがスタンクと黒死牟の意見の相違は十中八九寝取り役の演技力の違いだ。」

 

 「それってそんなに重要なことですか?」

 

 「重要も重要、嬢ならば見た目がイメージ通りであるならば多少演技が大根であろうとスルー出来なくもないが、寝取り役はそうもいかない。そうだな…例えるならば寝取り役にチャラ男を指名したのに、実際は自分よりも立派な聖人君子を絵にかいたような奴が出てきたらお前らどう思う?」

 

 「それは…何というかイメージが壊れるというか、『仕方ないかこの人なら…』とか変な気持ちになっちゃいそうですね。」

 

 「分かりたくないけど、何か分かるのが腹立つ。確かに自分よりも綺麗で性格のいい人だったら怒り以外にも諦めの感情がでてきそう…」

 

 「おまけに黒死牟は寝取り役のモデルとなった人物との性格の違いは許容しているにもかかわらず酷評している。対してスタンクの方はこれまで見たことが無いくらいに精神にダメージを負うくらいに役者の演技が優れていた。…でもこれって普通有り得ないだろ。」

 

 「そうですね…いくら同じ店でも当たり外れがあるといっても種族的な問題とは関係なしに演技面で差が出過ぎるのはやっぱり変です。どうしてこんな違いが出たのでしょうか?」

 

 「さてな…スタンクがどういうシチュエーションを望んだのかはメイドという言葉を聞けばある程度イメージできるし、黒死牟の方もどのような案で行くか最後に聞いた限りでは変なシチュエーションではなかったはずだ。こればっかしは本人たちにしか分からねぇ。」

 

 「アンタら何どうでもいいことで真剣に考えこんでるのよ…」

 

 スタンクと黒死牟の意見がなぜここまで食い違ったのか、それは一件の依頼から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ついに来ちまったな…」

 

 この店に来るまでに二日間を要した、長旅になるわけでもなく拠点から歩いて数時間といった距離にもかかわらずだ。いつもならば股間の羅針盤に従い思い立ったらすぐ行動が彼らのスタンスであったが、ここに来るまでには相当の覚悟が必要でありそのため、今回は猶予期間を設けることにした。

 

 「ああ、今回ばかりは尻込みするのも仕方ねぇ」

 

 ゼルは全属性耐性持ちの強力なモンスターと対峙したかのように冷や汗をぬぐう。しかし覚悟を決めたからには一歩も引くつもりはない、その顔つきはまさに戦士のそれであった。

 

 「ボクは興味なかったけど、ゼルの提案が面白かったからついね!」

 

 「フフフ、こういう趣向も良いではないか、血がたぎるというものだ!」

 

 一方でこの店に来ることにノリノリであった者たちもいた。悪戯好きにカンチャルに、人を堕落させたり貶めたりすることに喜びを覚える種族である悪魔サムターンはそれぞれ実に楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 「そういうテンションで入る店じゃねぇだろ…」

 

 「何を怖気づいておる、天使の小僧でもあるまいし。」

 

 「クリムは仕方ねぇだろ、あいつの性格だとマジで再起不能になる可能性がある。」

 

 クリムは店の概要を聞いた瞬間、絶対に理解できないという顔をしていた。天使でなくても理解できないという者は多いだろう、その看板に書かれている文字を見れば苦手なものは脱兎のごとくその場から離れるに違いない。

 

 《禁忌と喪失のNTR専門店―扉のスキマ》

 

 「……所詮は演劇であろうに…その程度で怖気づくとは…軟弱な…」

 

 黒死牟はごくごく自然体で溜息を吐きながら呟く。流石は妻子を捨て、子孫を切り殺した男、格が違った。

 

 

 「今回は依頼されての取材だ、ここから先はもう引き返せないからな。」

 

 「わざわざ聞かなくても分かっておる、今から楽しみで仕方がない。」

 

 「その悪魔的考え方、羨ましいぜ…」

 

 サキュバス店をレビューしてからというもの、『今後の参考のために』と店の調査を依頼されることがあった。既に必要経費として通常サービス分の料金を貰っているために仕事を完遂しないという選択肢はない。そんなことをすればレビュアーズとしての評判に傷がつく。

 『俺、今日寝取られます…』そんな悲壮な決意をもってスタンクは店の扉を開けた。

 

 「いらっしゃいませ~《扉のスキマ》へようこそ~」

 

 どこか気の抜けた声で一行を迎えたのはドラゴンらしき女だった。立派な二本の角を頭に生やし、丈夫そうな鱗をあちこちに帯びている。

 

 「まず最初に確認しておきますけど~あくまで店内の行為はプレイであって~現実とは異なります~なので怒って暴れたりしないでくださいね~」

 

 静かな威圧感を携えながらドラゴン嬢の口内で炎が揺らめく。どうやら彼女は店の用心棒もかねているようだった。当然スタンク達も仕事で来ているため暴れるつもりは毛頭ない。

 

 「……龍種か…興味深いものだ…」

 

 無いったら無いのである!!

 

 「レビュアーズ名義で予約しているはずなんだが、シロップちゃんいる?」

 

 「あ~ご予約いただいていたレビュアーズさんですね、一番人気のシロップちゃん居ますよ~」

 

 「じゃあ俺はシロップちゃんで頼むわ、あとこれプレイのシチュエーション詳細」

 

 スタンクは懐から文書を取り出しドラゴン嬢に渡す。

 

 「いけますよ~うちの子たちは演技力重視で研修してますので~。特にシロップちゃんは女優顔負けですから~シロップちゃん、力作付きでご使命ですよ~」

 

 文書に目を通したドラゴン嬢が手をたたくと、奥から清楚な感じの嬢が現れた。その見た目とは裏腹に白エプロンのメイド服が一部パッツンパッツンで怪しからん程に揺れまくる。一行の目がその様子にくぎ付けになる

 

 (……奇妙な…雰囲気の娘だ…この地と一体化しているような…もしも座敷童というものが存在するのであればこういうものなのだろうな…)

 

 …一人はやはりズレたことを考えていた。

 

 「シルキーです、どうぞお見知りおきを。」

 

 「想像以上に想像通りで感動する…想像するだけで汗が止まらねぇぜ…二日間で考えつくした思い出が蹂躙されるなんて!!」

 

 「お前…最近ずっと何かを考えこんでたのってまさか」

 

 「シチュエーション重視の店って聞いてたから、本気出してみた。」

 

 「……貴様のその執念…敬服するべきか…呆れるべきか…」

 

 「そういう黒死牟はどうなんだ?まさか何も考えていなかったととか言わねぇだろうな。」

 

 ゼルからの質問に黒死牟は堂々と答える。

 

 「……店に来る直前に即興で考えた…問題は無いはずだ…」

 

 「大丈夫なのそれ?シチュエーション重視ってことは台本も大事ってことだよ。」

 

 「……問題ない…サムターンにも確認を取った…ただ衣装や小道具があるかは疑問だが…」

 

 「大丈夫ですよ~衣装と小道具もあったはずなので、この内容でも問題ないです~」

 

 さすがに黒死牟も無策で突っ込むほど愚かではない。悪魔としての経験が豊富なサムターンに直前で内容が大丈夫なのか確認を取っていた。相談される方としてはたまったものではなかったが。

 

 「おいサムターン、何書かれてたか教えろ、このすまし顔がどんなストーリー考えたか気になる。」

 

 「それは…さすがに言えないが、まぁ割と王道を攻めてきたなとだけ言っておく。それに少々手を加えた、問題はないであろう」

 

 「何だよそれ、まぁいい俺は俺だ。やるからには全力で寝取られを楽しんでやる。」

 

 「……愚さが極まっているが、その意気込みだけは評価しよう…」

 

 「のめり込みすぎるなとはもう言わねぇ、骨くらいは拾ってやる。」

 

 「スタンク絶対に碌な死に方出来ないね。」

 

 「案ずるな、たとえ死んでも執念のレビューは皆の心の中に生き続けるであろうよ。」

 

 これから自分たちも寝取られるくせに随分とのんきな一行であった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう顔も良く思い出せないが妻とはいわゆる恋愛婚ではなかったのは確かだ。戦国の世の武家だ、お家同士の同盟の結束を強くする意味合いが大きい政略婚ではあったが、それでも仲が悪いわけでは決してなかった。

 少なくともあの頃は穏やかだった、強い劣等感を抱く対象であった弟のことを薄れさせるぐらいには。だが、その平穏は長くは続かなかった。

 

 『もうすぐあの方がお戻りになられます…このようなことは…』

 

 『その割には随分楽しそうにされておられましたが?』

 

 『そんな……私は貴方が恋しい訳ありません!!私はあの方が帰ってこられるまでの間が耐え難くて…』

 

 『故に兄上に似た私とこのような行いを…全く兄上が見たらなんとおっしゃるか。』

 

 『あの方のことはおっしゃらないでください…』

 

 『おっとこれは失敬。では私と兄上、比べてみてどちらの方がよろしかったかな?』

 

 『あんッ……ああ…そんな……いじわるなことを』

 

 『私はどちらが良かったか聞いているのですよ、言わないと止めますよ。』

 

 『〇〇さんの方が……』

 

 『ん、何です?よく聞こえませんよ。』

 

 『〇〇さんの方が、あの方よりもいいですぅ!あの人の逸物よりも〇〇さんの方がずっと!!』

 

 そうして二人の男女が一つになっていると、ある人影が現れる。その人物は〇〇と呼ばれた男とうり二つの顔つきをしていた。

 

 『あ、あなた様!?』

 

 『おやおや兄上、生きておられましたか。残念…もといご壮健そうで何よりです。』

 

 『な、貴様は!?旅に出たはずではなかったのか!!』

 

 『ええ、その道中で偶然にもここに立ち寄ることになりまして…こうして奥方様の世話になっていたのですよ…色々と。』

 

 『……あっ…〇〇様ッ……』

 

 『では兄上も戻ってこられたので私はこれで失礼する。』

 

 『待て、勝手に失礼するな!貴様がここで何をしていたか説明するのがまだであろうが!!』

 

 

 ※実際の漫画に登場する人物本人とは性格が大きく異なります、当然本人たちではございませんし無関係です。そのことを何卒ご了承ください。

 

 

 (……分かってはいたことだが…違和感が強すぎる…絶対に奴はこのようなことをしないであろうな…まぁ考えていても仕方ないか…)

 

 一連の劇を鑑賞しながら黒死牟はため息をつく。

 兄の嫁と弟が結婚した事例は黒死牟が生きた時代にもあった。有名な例では初代薩摩藩主・島津忠恒(家久)の正室・亀寿は、最初の夫であり忠恒の兄・島津久保が亡くなった後、忠恒に再嫁していたりする。黒死牟が即興で考えたのはそれを少し背徳的にしたものだ。勿論いまさら言うまでもなく、当たり前のことだが彼の弟はこの役のような性格ではない立派な聖人君子だ。

 

 (……即興でこのようなことが思いつける当たり、私がいた時代もなかなかにおかしかったのだな…)

 

 《一盗二婢三妾四妓五妻》という言葉が地球の日本で存在していたが、今回のはそのうちの《一盗》にあたる。人妻との恋であり、《一盗》する男を間男とも言う。そしてサムターンが言うには自身が対抗心を強く抱いている相手を間男役に据えればより効果的とのことだった。

 もちろん最初は渋ったが、よくよく考えれば弟はこのようなことをするはずがないので逆に作り話としてスルーするにはちょうどいいかと思いこの案を採用した。

 

 (……しかしよく道具をそろえたものだ…衣服もこの辺りでは目にしないものであろうに…)

 

 黒死牟はプレイ部屋を見渡して感嘆する。シチュエーション重視という謳い文句にたがわずこの店の揃えは非常に良かった。部屋の作りといい衣服といいこの辺りではあまりお目にかかれないものばかりであったのだが、何でもオーナーの意向であらゆる状況に対応できるよう、遠く離れた東の地から取り寄せたことがあったらしい。

 

 『もういい!!貴様を切り捨てる!』

 

 『ほう、兄上が私を斬ると?一度も私に勝てたことが無いのに随分と殊勝な…この○○感服いたします。』

 

 もう我慢ならぬとばかりに寝取られ役の男優が日本刀を模した摸擬刀を抜き斬りかかろうとする。『兄上がこの国一番の侍になるならば、私は二番目の侍になりたい』という出来た弟ならば絶対に言わない台詞を吐きながら、弟役の男優も摸擬刀を構え、応戦の構えを見せる。

 

 (……刀は実物ではないか…まぁ当然か…殺生をするわけではないからな…ん?)

 

 男優二人の剣劇を見ながら、黒死牟はある違和感に気付く。通常ならばここから兄役は弟役に斬られるが致命傷には至らず敗走し、そこから本格的に寝取られることになる予定であった。ちなみにこの案はサムターンが後から付け足したもので、憎たらしい相手が剣の腕でも勝っているならばより一層憎らしくなるであろうという悪魔らしい考えだった。

 無論そのシチュエーションは黒死牟も知ってはいるのだが、その寸劇にはどこかおかしい部分があった。

 

 (……こ奴ら…演技とはいえ戦う気があるのか…遊んでいるわけではないはずだが…)

 

 演技とはいえ仕事でもある、故に手を抜いていいという訳では決してない。もちろんこれは殺し合いではないが、それでも最低限度のぶつかり合いというものはある。でなければ劇としては成り立たない。

 

 (……やる気が無いのか…はたまたふざけているのか…どちらだ?)

 

 最初のころの演技と打って変わってのやる気のない大根演技にさすがに黒死牟もイライラゲージが溜まりだす。

 役者たちの名誉のために言っておくが、彼らは決してふざけているわけでも遊んでいるわけでもなかった。彼らは彼らなりに頑張って剣劇をやってはいたのだ。

 …問題は黒死牟の要求するレベルがあまりにも高すぎたことだ。

 

 (……役とはいえこのような者が…奴を演じているだと…あり得ぬ…)

 

 黒死牟とて元となった人物と同レベルのことを求めているわけ決してない。これが劇であることは理解しているため、その要求値も可能な限り最小値にとどめてはいたのだが、悲しいかな、その最小値ですら常人にとっては雲どころか大気圏以上に高い存在なのだ。

 

 (……もう我慢できぬ!!)

 

 あまりの三門芝居っぷりにイライラが頂点に達した黒死牟はそのまま立ち上がる。

 

 「……貴様ら…さすがに度が過ぎるぞ…」

 

 「ど、どうなさいましたかお客様?」

 

 「なんか俺たちの演技で不味いところがありましたか…」

 

 見るからに不機嫌といった黒死牟に男優の二人はビクリと立ちすくむ。

 

 「……先ほどから何だ…その剣の腕は…見るに堪えぬ」

 

 「剣の腕?役の性格が違い過ぎるとかそういうのではなく、剣の腕?」

 

 「…性格の違いなど最初から理解している…そのような腕で奴を演じるとは笑止!!」

 

 まさかまさかのキャラの違いではなく剣の腕というあまりにも意外過ぎる難癖に男優の二人は固まる。黒死牟はそんな二人にお構いなしにさらにまくしたてる。

 

 「……最低限度の役すらこなせぬとは…それでも役者のつもりか…出直せ」

 

 黒死牟の一喝に男優の二人は顔を見合わせる。そして心の奥からふつふつと煮えたぎるものを感じる。

 

 「上等じゃないですか!!やってやりますよあなたが望む役ってやつをね!!」

 

 「ここまで言われて黙っているのは男…否!役者としてのプライドが許しません!!どこがどう駄目だったか言ってください!必ず演じ切って見せますよ!!」

 

 「……ただの大根役者かと思えば…なかなか言うではないか…いいだろう…ならば指導せねば無作法というもの」

 

 (何なの、この人たち…おかしい、多分何か致命的に間違っている気がする。)

 

 何かよく分からない方向にシフトする3人を見て取り残された女優はついていけなくなる。

 こうして悪質クレーマー…もとい黒死牟鬼教官による指導が始まった。

 

 

 「……遅い…その様な剣の遅さで奴の片鱗を掴もうなど笑止千万!!」

 

 「サー!イエッサー!!」

 

 「……もっと能率的に呼吸できるようになれ…そうすれば自然と動きも良くなる…」

 

 「サー!イエッサー!!」

 

 「……声が小さい…まさかもう息切れしたのではあるまいな?」

 

 「「サー!イエッサー!!」」

 

 「……少しは良くなったか…そのまま素振りを1000回続けろ…」

 

 「「サー!イエッサー!!」」

 

 当初の目的を月の呼吸でぶった切り、騎士の訓練かなにかで?と言いたくなるような光景がプレイ部屋で繰り広げられる。

 訓練が始まったころは黒死牟はすぐにでもこの二人は脱落するだろうと考えていたが、彼らの役者魂は本物だった。拙いながらも何とか食らいつこうとする。

 

 「……今の貴様らに高評価はくれてやれん…壱…いや零だ」

 

 「「サー!イエッサー!!」」

 

 ちなみに掛け声や教官呼びは黒死牟が考えたものではなくこの二人が言い出したものだ。しかし何となく気に入ったのでそのままにしている。

 

 「……その様な有様では奴を演じるなど…夢のまた夢だ、もっと精進しろ…」

 

 「お客さ~ん、騒ぎがしたので来てみればこれは一体どういうことですか~うちは騎士の養成所じゃないんですよ~」

 

 謎の訓練に勤しんでいると、女優の人から救援要請を受けたドラゴン嬢が何事かとやってきた。間延びした口調とは裏腹に狼藉者は許さぬとばかりに口に獄炎を携えながら威嚇する。

その様子を見て黒死牟は嬉しそうに闘気を出し、生成した刀を構える。

 

 「…丁度いい…貴様らも見ておけ…この程度のことが出来なければ奴を演じるなど不可能だということを…」

 

 「「後学のために勉強させて頂きます、教官‼」」

 

 「……龍退治とは…心が躍る…」

 

 刀を構えた黒死牟がドラゴン娘へと駆け出す。当然のことながら黒死牟は大立ち回りをしたせいで店を消化不良のまま出禁になる。そして男優の二人は優れた役者となるため騎士となり、のちに騎士団の中で頭角を現すことになる。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……その話マジか!?」

 

 「ああ、マジだ。後から黒死牟から聞いたから間違いは無いはずだぞ。」

 

 答え合わせのためにサムターンのもとを訪れたゼルは、一連の騒動の一部始終を聞き大いに呆れる。唯一救いだったのは依頼人のことは誰も何も言わなかったため一応の依頼は達成できたことだが、このレビュー内容ではとてもではないが参考にできないだろう。

 

 「こ、黒死牟さんは凄く演技に情熱的な意見を持った人だったんですね。」

 

 「いや、ただの馬鹿でしょ。」

 

 クリムの気遣いをメイドリーが即否定する。クリムも正直今回の黒死牟の行動はやり過ぎだと思っていたのでそれ以上は何も言わなかった。

 

 「あくまでこれは推測でしかないのだが、黒死牟の弟はとんでもない剣士だったのだろう、それこそ勇者クラスに匹敵しかねない程のな。」

 

 「それで剣技に並々ならぬこだわりを見せる黒死牟は素人の剣技が弟を演じるのに我慢できなくなったと、あいつらしいな。」

 

 「それでそうなった訳ね、求道者というのも大変ね。」

 

 サムターンの話を聞き一行は納得する。一方のクリムはかつて黒死牟が言っていた言葉を思いだしていた。

 

 (黒死牟さんが探したい継国縁壱っていう人、その人が弟かな?きっとそうだと思う。黒死牟さんはその人と会って…)

 

 そこから先は考えたくなかった。黒死牟は剣に生きる者だ、そんな人物が探したい凄腕の剣士と出会って何をするか…そんなことは決まり切っている。自分はどうするべきか、約束通りその人を探す手伝いをし殺し合いの片棒を担ぐか、約束を破り見て見ぬふりをするか、答えは出なかった。

 

 「とりあえず、あまりにもバカバカしいが理由が分かったからには止めねぇとな。クリムお前はどうする?」

 

 ゼルの言葉にクリムは思考の海から回復する。そうだ、先のことも重要だが今喧嘩している二人を止めなくては…考えをいったん心の奥底にしまいクリムは答える。

 

 「決まってます、止めに行きましょう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街から離れた丘の上にスタンクと黒死牟はいた。周りは二人が散々暴れまわったことを裏付けるかの如く荒れ果てており、両名がただ者でない証のようであった。…まぁ戦っていた理由はこれ以上ないぐらいにばからしいものではあるのだが。

 

 「……中々に楽しめたが…もう終わりか…」

 

 「うるせぇ…ただこうやって暴れてたら馬鹿らしくなっただけだ。」 

 

 暴れ疲れたといった具合に大の字に横たわるスタンクは悪態付く。しかしその顔は机に突っ伏していた時とは違い少し晴れていた。

 

 「考えてみれば、あれはあくまでそういうプレイで深く考えるべきじゃねぇのかもな…ま、完全に吹っ切れたとはいえねぇけどよ。」

 

 「……軟弱だな…」

 

 「目が腐ってるやつに言われたくはねぇよ…つか、お前あの店でどんなプレイを頼んだんだ?まだ聞いてねぇぞ。」

 

 「……それは…」

 

 「黒死牟さーん!スタンクさーん!ご無事ですか?ってボロボロじゃないですか!!」

 

 「おーおー派手に倒れて、しかもすっきりした顔しやがって。実は隠れて二人でサキュバス店に行ってたとか?」

 

 黒死牟がスタンクにプレイ内容を話そうとしたとき、見知った人影と声が現れた。

 

 「コイツと二人でか?あいにくそんな気分じゃなかったがな。」

 

 「……然り…とはいえ中々に面白かったがな…」

 

 冗談も大概にしろといったばかりにスタンクは気だるげにその場から立ち上がる。

 

 「あー暴れまくったら腹減っちまった…おい黒死牟、続きは食酒亭で聞かせろよな。」

 

 「……いいだろう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒死牟のプレイ内容を聞いたスタンクは酒を片手に大いに騒ぐ。

 

 「だははははははっ!!え、何!剣の腕があまりにもお粗末で寝取り役の役をさせられないから鍛えてたら、出禁になった!?お前マジでぶっ飛んでんな!!」

 

 「……重要なことだ…貴様こそあれだけ腑抜けていたのは何だったのだ…あの無様さに比べれば私の方が幾分か真面だと感じるが」

 

 「いや、何というか…その話を聞いていたら馬鹿らし過ぎてどうでも良くなってきたわ!ぷっ、くくくくくく思い出しただけでも頭おかしいぜ!!」

 

 食欲が完全に戻ったスタンクは黒死牟の話を聞き爆笑しながら肉を頬張る。

 

 「いやー腹が満ちてきたら一発スッキリしたくなってきたな。どうだいメイドリーちゃん今夜…」

 

 「何か言った?」

 

 「いえ、何でもアリマセン。」

 

 不愉快そうに顔をしかめるメイドリーを見てスタンクはすごすごと引き下がる。しかしそれで大人しくしているような男ではない、次善策をすぐに打ち出す。

 

 「となると、憂鬱な気分を完全に吹き飛ばすためには…あの店だな!!最後に残ったこの暗いものを明るい光で吹き飛ばすとするか?」

 

 「え!あの店ですか…僕は嫌ですよ!!」

 

 「クリムはあの時めっちゃ光ってたよな。オークより立派なものがさ!!」

 

 「そこは別にいいん…いや良くはないですけど、全部丸見えなんですよ!!恥ずかしくて死ぬかと思いましたよ!!」

 

 思い出すのも恥ずかしい思い出を思い出しながら、クリムは顔を真っ赤に染める。

 

 「……光…その店はどのような店であったか詳しく聞かせろ…」

 

 「ほう、黒死牟教官はウィルオーウィスプさんのお店に興味津々でおられる。クリム君説明してあげなさい。」

 

 「僕がですか!?勘弁してくださいよ…」

 

 スタンクの無茶振りにクリムは黒死牟の顔を見る。できれば外してほしいという願望交じりであったが、真剣な表情でじっとこちらを見てきたため観念し詳細を話し出す。

 

 「え~っとですね、あの店はウィルオーウィスプという光の精霊さんが経営するお店でして、その何といいますか…いわゆるら、乱交をする店なんですよ。」

 

 「……光の精霊とな…続けろ…」

 

 「普通でしたら光が強すぎて眩しいらしいんですけど…僕の場合は全部見えてしまうので…とても恥ずかしかったです!!」

 

 「ちなみに視界だけならば《透き通る世界》を見れば確保自体は出来るぜ。ただあれはしんどいし、見えなくてもいい情報まで見えてしまうから正直お勧めできないな。」

 

 「…随分と興味深い話だが…一番聞きたいのはその中に太陽の光を扱える者がいるかどうかだ…どうなのだ?」

 

 「あの店にはどうか分からないが、そういう種族はいるぜ。」

 

 ゼルの言葉に黒死牟は目を見開き深く考え込む。いるかもしれないと予想はしていたが、実際にいると聞くと驚きはさすがに隠せなかった。

 

 「そもそも太陽光自体は様々な波長の光の集合体だ、それと同じ構成の波長を発する種族がいれば例え日の光が届かない場所でも太陽があるのと同じ効果を発揮することが出来る。」

 

 「……博識だな…その様なこと…今まで考えもしなかった」

 

 「魔導士デミアの研究論文に書いてあったんだよ、事象の理解は魔法の基本だからな。つか自分の弱点くらい詳しく調べておこうぜ。」

 

 「……言葉も出ないな…しかしあの女、やはり名だたる存在であったか…」

 

 人間時代は当然のことながら、鬼になってからも今の今まで日光はあくまでも弱点として忌み嫌う対象としか見てこなかった。

 そもそも自身がいた世界では日光の力など太陽そのもの以外では、日輪刀の原料かそれを技によってさらに発展させた赫刀ぐらいしかなかった。その二つでさえ、無限とも思える再生力を持つ男を殺しきるには至らなかったのに、日光の仕組みとそれを生まれながらにして扱える者がいることはとにかく衝撃だった。

 

 「……奴が言った戯言…形は大きく違えど…顕現していたとみるべきか」

 

 「時々黒死牟さんがおっしゃるその方ってどのような人だったんですか?僕は気になります。」

 

 「…その様なことを聞いてどうする…」

 

 「探すのに情報はあって困らないかと…」

 

 黒死牟の鋭い視線にクリムは若干おびえながらも、今日のことがあったため勇気を出して聞くことにした。いずれにせよどのみち聞かなければならないことであったが、心の奥底にしまったものは隠しながらも嘘は言わずに質問する。

 その様子を見て黒死牟は血酒を一口飲み答える。

 

 「奴は…継国縁壱は私の双子の弟だ…風貌は私の目を真ん中の二つ以外をなくしたものと思えばいい…」

 

 「お前弟とか居たんだ、初耳だぞ。」

 

 「それでそいつとどんな因縁があるんだ?当主の座を奪われたからそのお礼参りとか」

 

 いつの間にか話を聞いていたスタンクとゼルも興味ありげに様子をうかがう。

 

 「…いや、継国の棟梁は私であった…奴は齢十になる前に家を出て…再会したのは元服を経て家を継いだ後のことだ…」

 

 「やっぱお前、いいところの出だったか、スタンクと同じだな。」

 

 「このおしゃべりエルフが…余計なことを」

 

 「スタンクさんもだったんですか!通りで字が綺麗だったり時々妙にきっちりしていたんですね。」

 

 「…昔の話だ、もう関係ねぇ。それよりどうしてお前は弟を探し出したいんだ?別の世界だったらもう家とかそんなの関係ないだろ。」

 

 「……確かに家は関係ない…継国の名はもう没落して久しいはずだ…私が奴に会うのは《あの時》に出来なかったことを再開するためだ…」

 

 「あの時できなかったこと…決闘ですか?」

 

 「……早い話がそうだ…私は私としての決着を奴と付けなければならない…」

 

 「やっぱりそうでしたか…」

 

 探し人のことを語る黒死牟の顔は様々な感情が入り乱れたものだった。嫉妬、後悔、羨望、憎悪…そしてその中に僅かながらの愛情が混ざっているのをクリムは感じた。

 

 「か~暗い暗い!闇の呪文よりも暗いぜ!!それでもお前レビュアーズの一員なのかよ、同僚として恥ずかしいぜ!!」

 

 「……そういう貴様はどうなのだ…仮に貴様に自身よりも強い双子の弟がいて棟梁の座にそいつの方がふさわしいとしたらどうする…」

 

 「双子の弟だって?結構なことじゃねぇか、俺より優秀で年も同じなら余裕でそいつに全部任せて好き勝手出来るってことじゃねぇか。」

 

 「ス、スタンクさん!?」

 

 一触即発になりかねないスタンクの言葉にクリムは大いに焦る。しかしクリムの心配とは違い黒死牟はかすかに笑いながら答えた。

 

 「……なるほど…貴様らしい俗物的な考えだ…だが…そうだな…もしも私が先に家を出ていたら…何かが…」

 

 黒死牟は考える。寺に出されても自分ならばどこかの段階で寺も飛び出していただろう、自身が弟よりも先に家を飛び出していたとしても身を焼く嫉妬の炎からは逃れられなかっただろう、それでもだ、もしも家を離れたのが自分で継国を継いだのが弟であれば継国の名は続いていたのかもしれない。もしも家を離れたのが自分で継国を継いだのが弟であれば自身は鬼にはならず、生き恥を晒すことは無かったのかもしれない。すべては仮定の話だ

 

 「俺は俺だ、過去をいちいち振り返らねぇ。お前もそうしたらどうなんだ黒死牟。」

 

 「……残念だが…そう簡単にはいかぬ…」

 

 「そうかよ、まぁあれこれ言うのは性に合わねぇから好きにしな。」

 

 「…そうだな…私も好きにするつもりだ…私は私の意志で…奴に挑む…ただそれだけだ」

 

 随分と話してしまった、本当はこんなことは話すつもりはなかった。血酒で酔ったせいなのか、太陽の力を持つ種族がいることを知り、『私たちはそう大した者ではない』という弟の戯言を少しは前向きに考えるようになったためなのか、それ以外の要因があったのかは定かではないがとにかく悪い気分ではなかった。

 

 「ようし、辛気臭い気分を完全に吹き飛ばすためにいっちょ明るいところに繰り出すとするか!!」

 

 「賛成だな、今度は《透き通る世界》を使わない俺本来の視界で楽しむぜ。」

 

 「え~!!僕は行きませんよ~」

 

 「結局スケベな店に行きつくわけね…まぁ今回ばかりは仕方ないか、黒死牟さんもあまり思いつめないでくださいね。」

 

 「……善処しよう…」




 なんとなくいい風にしめてみましたがやってることは、実際はNTR専門店とかいうキワモノに行って、馬鹿な喧嘩して、またサキュバス店行ってるだけなんだよなぁ。

 いよいよ兄上のキャラが怪しくなってきたな、そろそろ読者の方に怒られそう。
 
 ただ一番怖いのは今週の笑顔の縁壱さん…果たしてこれを見たらどんな表情することやら。
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