「鬼殺隊レビュアーだったが…」抜かねば無作法な「世界に飛ばされた件…」   作:抜かねば無作法

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 レビュアーズのアニメが終わって悲しい…
 鬼滅が200話後に殺すワニで俺は悲しい…

 俺は耐えられ無い、死んでくれ無惨!!(もう死んでるかもしれないが)


ホワイト企業と輪廻転生(体験版)

 「吸血鬼とは鬼と似通った種族であると考えていたが…まさかこうまで違うとは…」

 

 「そんなに違うのか?前にお前から聞いた話からしたらどっちも血を好んで真祖と眷属がいて結構似た種族だって話だったのに。」

 

 「生態はな…だが組織の在り様としては真逆としか言いようがない…天国と地獄との差という表現すら生ぬるい」

 

 「前の世界でいたところそんなに酷かったのかよ…」

 

 どちらが天国でどちらが地獄かはスタンクは敢えて聞かなかった。そんなものは黒死牟の表情を見ればすぐにわかる。

 

 「…無論だ…貴様らはあの店の受付の娘を覚えておるであろう?」

 

 「ああ、結構かわいかったしサービスも良くて上手だったな。あれで匂いさえ問題なければ8点か9点付けてたな。」

 

 「ワシとしてはその匂いが致命的すぎるんだが。」

 

 「そのような事を言っているのではない…あの娘が最初自分の脳を取り出して仕事を放棄していたことは覚えているな?」

 

 「あれは驚いた、脳みそを入れた後の変わり身にもな。」

 

 「仮に同じようなことを…鬼の始祖である鬼舞辻無惨が目にすれば連帯で関係のない他の者の頸も容易く撥ねていたことだろう…」

 

 「滅茶苦茶じゃねーか‼心狭すぎだろそいつ」

 

 「関係ない奴まで粛清対象かよ…俺200年以上冒険者やってていろんなもの見てきたけどそんな酷い組織無いぞ。」

 

 「ワシもそんなところには絶対に勤めたくないな、というかお前よく400年近くそんなところにいられたな。」

 

 

 

 ブラック企業勤続350年の黒死牟がホワイト企業の実情を知ったのは少し前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぅーおいぅーいらっはーひひ」

 

 「デリベル侯爵…と言ったな…この継ぎ接ぎの死体らしきものは…何だ?」

 

 それはしゃべる死体だった。片手に脳みそを持ち、手をぶんぶんと振り回すがまるで知性というものを感じることが出来ない奇妙な物体であった。透き通る世界で体の隅々まで見てみると、何人かの体をつなぎ合わせて作られたように見える。

 

 「受付だ、十年に一度も様子を見に行かないから脳みそを外してしょっちゅうサボっておるだけだ。これ、いい加減起きよ。」

 

 「左様か…いや待て!?…こ奴はお主の眷属であるのか?」

 

 「そうだが、それが何か?」

 

 「信じられぬ…その様なことが可能なのか…」 

 

 「こやつはゾンビであるからな、そのようなことは朝飯前よ。」

 

 「いや…その様な意味で言ったわけではない…」

 

 デリベル侯爵の言葉に黒死牟は大きな衝撃を受ける。

 この眷属がガチャ感覚で適当に作って放置された存在ならば、黒死牟も特に何か思うことはなかったであろう。しかし始祖の邸宅の近くにいて曲がりなりにも役割が与えられている者が仕事をよくサボるなど、かつての上司の元では絶対にあり得ないことだった。

 

 「そもそもアンデッドはぶっちぎりで他種族からの性的な人気がない種族ですし。どーせ大してお客さんも来ませんし?だったらもう公爵様パトロンの下、安定収入でここでボーッと佇んでいたほうがマシかな…って」

 

 「…有り…得ぬ…その様なことが…まかり通るというのか!?」

 

 脳を元に戻し、見違えるように理性的になったゾンビ娘の言葉に大きな衝撃を黒死牟は受ける。当然だ、もしもかつていた組織でそんなサボり方をすれば恐らく上弦であっても処分されたであろう。ついでに他の上弦も連帯で罰を受けること間違いない。なのにこの娘は後ろめたさはもとより、恐怖も全くなく、さも当然のように主人の前で寄生しながらサボっていると宣言した。

 

 「…貴公は…このような惨状を見て…何も思わぬのか?」

 

さすがにいくら何でもこの物言いには何か言うだろうと期待を込めてデリベル侯爵の方を見るが、彼からは部下に対する怒りも何も見えず、まるでこれが普通だと言わんばかりに自然体だった。

 

 「何と言われてもな…正直いつものことであるし、こやつらの生存税についても別に気にする程のものでもない故、特に何か思うことなどないな。」

 

 「…馬…鹿な…」

 

 かつての上司とはビジネスライクな関係であった自分は大分マシであったが、酷いときは上司の気分一つで幹部が連帯責任のような形で粛清されることも横行していた職場とはあまりにも違い過ぎた。

 吸血鬼と自分たちの世界の鬼がある程度似ている種族であることは知っていたが、組織の空気がここまで違うとは全く持って想像していなかった。

 

 「何故だ…何故こうまで違う…」

 

 異なる世界だとか、文化の違いがどうとかそんなチャチな理由などとは断じて違う決して超えられないブラック企業とホワイト企業の差の片鱗を突き付けられた黒死牟はただただ唖然とするほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私も…今にして思えば何故あのような組織にいたのか…あの侯爵の眷属であればもう少し生き恥を晒さずに済んだであろうに」

 

 もっと仕える相手はちゃんと選ぶべきだったと後悔する黒死牟。そんな黒死牟を三人は同情的な目で見る。

 

 「まぁ、今はそんな糞みたいなブラック組織の一員じゃねぇんだからもっと楽しいくて前向きなこと考えようぜ、何なら街に帰ったら早速サキュバス店に行くか?今回の仕事で前の魔法都市への遠征の分は取り戻せたし。」

 

 「貴様の頭はそればかりだな…だが確かに今はあのような組織の一員ではない故前向きに考えるべきか…それに私としても早めに消化しておきたい店がある」

 

 「お、もう次行く店決めてんのか、どんなところだ?」

 

 「"水槽のはーれむ"…という名の店だったか…貴様らは行ったことは?」

 

 「無いな、つーことは新規の店か、こりゃまたレビュアーズとしての腕が鳴るぜ。ゼルとブルーズはどうする?」

 

 「ワシは今回パスする…早く街に帰ってお気に入りのサキュ嬢と遊びたい」

 

 ブルーズは少々疲れていた、それは遠征のせいだけでなく先の店で挿れるところもなく骨をしゃぶることしかできずにいたため気分が落ち込んでいるためだ。

 なので次は冒険よりも確実な癒しを体が欲しているため、今回の参加は見送ることにした。

 

 「その店なら俺も前に魔法都市で聞いたな、食酒亭らへんでいい店やってってないかってな。詳細は楽しみが減るから聞かなかったけど店の名前は多分黒死牟が言ってたのと同じだったはずだ。」

 

 「あの魔女さんがおすすめの店ねぇ、安心できるとこなのか性転換宿のようなキワモノなのかどっちなんだろうな?」

 

 「…真っ当な店であるわけが無かろう…」

 

 性転換して女になったり、どう考えても頭の螺子がいくらか飛んでいるようにしか思えない魔女の分身がいる店と同じ系列の店がまともであるとは、さすがに黒死牟も考えてはいない。

 

 「そのあたりも新規のサキュバス店開拓の醍醐味なんじゃねぇか。ヤッたことが無いことに挑戦するこれぞレビュアーズだな。」

 

 「今度はもう少し平穏であることを願いたいがな…そういえばあの妖術師で思い出したがブルーズ…貴様最近痣のようなものが体に発現するようなことが」

 

 「痣?ああ、そういえばこの間確認したら毛だけでなくその下の皮膚も変色していたぞ。」

 

 黒死牟の質問を聞いてブルーズは左目のあたりを撫でながら答える。左目の傷跡の部分は毛ではなく皮膚が出ているため、前に鏡で見たときに毛だけでなく皮膚の色も変わっていることが確認できたのだ。

 

 「それは25までに死ぬ一種の病の兆候だ…」

 

 「25⁉ちょっと待て‼何故今になってそれを話した⁉」

 

 「…案ずるな…すでに手は打ってある…」

 

 「そ、そうか…」

 

 「魔法都市の…遊郭を仕切る女に…対抗策を依頼している…奴ならば恐らくは…」

 

 「いやいやいやいや、おかしいだろ⁉なんでそこでサキュバス店なんだよ‼医者とかじゃないのかよ‼」

 

 「正確には魔道具店だがな、あのデコイはあくまでも魔道具扱いでサキュバス店にかかる税金はかかっていないらしい。」

 

 「む…あの分身どもは…道具扱いになっているのか…知らぬことであった」

 

 「どっちでもいいわそんなこと‼嫌だワシ死にたくない!最後に行ったサキュ嬢が骨とか死んでも死に切れん‼」

 

 「…その執念があれば貴様も死後幽体となることが出来るやもしれぬな…」

 

 「嫌だ、幽霊じゃヤることヤれ無いではないか!ワシはもっと生きたい‼」

 

 「ブ、ブルーズ落ち着け‼あの魔女さんならきっと治療薬を作れるから…だよな黒死牟?」

 

 「既に必要な材料は渡してある…問題は無いはずだ」

 

 「ワシは絶対に生きるぞ、生きてアイスちゃんのところに行くぞ!」

 

 半分発狂しながらお気に入りの白熊獣人の名を叫ぶブルーズを見て、黒死牟はどこか懐かしい気分になる。

 

 (かつての私も…心中ではこのように取り乱していたのか)

 

 今はかつてほど生に飢えてはいない、いないがそれでも見届けたいものはある。そのためには"巌勝"として納得できるような結末を迎えねばならないことを今回知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あの…そんなに見つめられると恥ずかしいです///」

 

 「端正で美しい…このような霊は冒険者としての活動の中でも見たことが無い…足が不完全ではあるもののそのようなことは些末なこと」

 

 ニンマリとした笑顔を浮かべながら自分が指名した嬢を眺める黒死牟。

 透き通る世界で体をじっくり眺めても当然のことながら、皮も肉も骨も内臓も存在しない。だが、確かにそこに存在している。

 

 「素晴らしい…極限まで練り上げられた霊体の完成形…初見なり…面白い…」

 

一応彼の名誉のために言っておくと、黒死牟は特殊性癖に目覚め、弟もドン引きする変態になり下がった訳では決してない…無いったらないのである‼

 

 「あの、そこまで褒めてもらえるのは嬉しいんですけどどうして私を選んだんですか?確かに私は幽霊ですから匂いとかは無いですけど挿れたり触ったりは出来ないんですよ。」

 

 レイコには疑問だった。この黒死牟という客はどう見ても武人といった感じの人物で、まかり間違っても金縛りで抜きたくても抜けない(意味深)状況に快感を覚えるような人物ではないとの印象だ。なのにあえて自分を選んだということは何か理由があるのだろう。

 

 「それは…そなたに聞きたいことがあったからだ…」

 

 「聞きたいこと、何でしょうか?」

 

 「死後…世に留まる方法だ…奴がかつて言った戯言…それが真実になるか否か見極めたい」

 

 「幽霊になる方法ですか。もしかしてあなたに関係する誰かが言った言葉があなたの未練ですか?」

 

 「そうだ…正確にはその一つだが…もう一つはどのような形であれ生きている間に決着をつける必要がある」

 

 「さすがに今の話だけだと判断するのは難しいので宜しければもう少し詳しく教えていただけませんか?」

 

 

 黒死牟はどうすべきか悩む。普通であれば自分の過去を初対面の相手に話すことはまずありえないが、これほどまでに理性と人の形を保った霊は次いつ見つかるか分からない。

 しばらく悩んだ末に、黒死牟はこの機を逃す手は無いと判断しすべてを話すことにした。

 

 「良かろう…全てを語るとしよう」

 

 黒死牟は重々しい雰囲気を携えながら語りだす。

 

 人間であった時は戦国時代の武家の双子の兄として生まれ跡取りであったこと。

 

 当初は哀れみ、母離れが出来ていないと見下していた弟が実は己より遥かに才に恵まれ、優れていたこと。

 

 その弟は母親が他界したことを告げると、家に波風を立てないように自分から身を引きどこかへと旅立たこと。

 

 さらに母親の日記を読み弟は「母離れが出来ていない」のではなく「病で弱っていた母に寄り添い支えていた」ということを知りすべてにおいて先を行かれていたことを知り弟に対して臓腑が焼け付くほど嫉妬を抱き、その存在を心の底から憎悪したこと。

 

 その後、十年あまりの間に剣技を極め、非の打ち所がない人格者へと成長を遂げた縁壱と再会し、再び嫉妬と憎悪の炎が再燃したこと

 

 その強さと剣技をどうしても我が力としたかったため、家も妻も子も捨て必死に弟の後を追い続け、痣を発現させて全集中の呼吸を学んでいくが、それでも弟にはまるで届かなかったこと。

 

 それでも年月をかければいずれは追いつくかと思っていたが、痣とは寿命の前借りであり25才になる頃には死亡する代償を伴うものということを知り、修行に費やす猶予もないことを知り焦った自分のもとに悪魔の誘惑が舞い降り、それに乗り人間を止め本来は退治すべき化け物となったこと。  

 

 そして年月がたった夜、本来であればとっくに痣を発現させた副作用で死んでいるはずの弟と再会し刃を向けるなら殺さねばならないとするが、弟は老体となってなお全盛期と変わらぬ動きをみせ、自分は刀を抜くことすら出来ず一閃され、次の一撃で頸が落ちると確信するが、弟は直立したまま寿命で息絶え、半ば勝ち逃げされた形で最後まで弟を超えることができなかったこと。

 

 その後無意味に数百年生きた末に、殺される間際自分が如何に醜い存在になり果てていたのかに気づき、心の底から憎んでいたはずの弟こそが彼の目指していた『侍』であったことにようやく気づいたこと。

 

 すべてを黒死牟はレイコに話す。

 

 「私の話は…これくらいでよかろう…」

 

 (重‼ちょっとこの人の話、めちゃくちゃ重いんですけど⁉いやいやいやいや、こういう話って普通教会の懺悔室とかでする話でしょ‼)

 

 風俗店の本番前の軽い世間話を聞くくらいの感覚で話を聞き始めていたら、想像をはるかに超えるほど重い話をされ、レイコは困惑する。正直聞いていて無いはずの心臓が締め付けられるような感覚だった。

 

 (それでも頑張るのよ私‼後輩が出来るんだったら先輩としてちゃんとアドバイスしないと)

 

 それでも後輩になるかもしれない者に対して先輩として意地を見せねば格好がつかないと気合を入れなおす。

 

 「黒死牟さんの話を聞いての私見ですけど宜しいですか?」

 

 「構わぬ…忌憚のない意見を頼む」

 

 「恐らくですけど、黒死牟さんが今のまま幽霊になれば地縛霊もしくは悪霊になるかと思います。それも想像を絶する強力さ、私なんかとは比べ物にならない程の強さでただただ戦いを求めるだけの満たされない幽鬼に…」

 

 「やはり…そうか…」

 

 特に驚いた様子を見せず黒死牟は一人納得する。

 

 「もしもそれを何とかしようと思えば、自分の納得する答え…黒死牟さんの場合でしたら弟さんに勝利するかそうでなくても納得する決着をつけるしかないと思います。」

 

 「縁壱とは一度相まみえる必要があるか…そちらの話…参考になった…これにて失礼する…」

 

 満足げに退出しようとする黒死牟、しかしそうは問屋が卸さなかった。

 

 「…む…体の動きが…鈍い…」

 

 足に重りをつけられたかのような感覚を黒死牟は覚える。

 

 「ちょっと待ってください。勝手に失礼しないでください、見抜きがまだでしょうが。」

 

 「成程…抜かねば不作法というものか…」

 

 この後、オプションサービスの金縛りで身動きがうまく取れず、幽霊サキュ嬢にいいように罵られ視姦されそうになるが、気合で金縛りを脱し、触ろうとするが、やはり幽霊を触ることはできず、苦労しながらも身体操作と気力を駆使し何とか頑張って『抜かねば不作法』を達成した。

 

 

 

 

 

 

 鬼:黒死牟

 

 

 

 ……奴の戯言の真偽を確かめる方法…その確信が得られた故…此度は収穫であった…だが金縛りをかけられた状態では抜く物も抜けず…何とももどかしい…最終的には技と気力で破って何とか達成したが…あれは容易ではなかった…しかし霊となっても金を要求されることになるとは…このあたりの解決法はまた考えなくてはならぬな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…要は輪廻転生の一部を体験するというのか…これはまた及びもつかぬことを」

 

 遠征から帰ってきた黒死牟は予定通り〈水槽のハーレム店〉へと赴いたが、店の概要を聞き改めて異世界とは人知の及びの付かぬ場所だと再認識する。そして思う、この世界の遊郭は時々どこか発想がおかしいと。 

 

 「輪廻転生?それはどういったものなのですか?」

 

 「かつて私のいた世界の宗教…仏教というものなのだが…その教えには魂は天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の六つ世界を生死を繰り返して未来永劫ゆくというものがある…その中の一つである畜生道を恐らく体感できるのであろう」

 

 「異世界の宗教では魂は繰り返すのですか、随分と変わった考え方ですね。」

 

 仕える女神のシステムとはまた違った宗教観にクリムは改めて黒死牟が別の世界からやってきたのだと考える。

 

 「名前からすると天道ってのがいわゆる天国みたいなもんで、楽しいのか?」

 

 「快楽は多いが…最終的に迎える苦しみは地獄以上でもある…」

 

 「結局全部駄目なのかよ‼」

 

 「おまけに…生き物を一つでも殺せば地獄行きの罪となる…」

 

 「凄くきつい戒律じゃないですか‼そう考えると女神さまは大分優しかったんですね。」

 

 「あくまでも仏教という宗教では…というだけだ…実際は私のような存在がいる以上あまり意味無き事ではあるがな」

 

 「まぁそれもそうか。それよりもだ、水槽を選べと言われても何が悲しくて虫けらと交尾しろとか一体どうすりゃいいんだよ…」

 

 「ほう…性欲の権化と思っていた貴様にも無理というものがあるとはな…これは驚きだ」

 

 「お前な、人を一体何だと…しかしあの貝随分と気持ちよさそうに絡まってるなオイ。よーし貝にするか!」

 

 「これから…畜生道を体感するというのに随分と…気楽なものだ…しかしここまで来た以上その前向きさは見習うべきか…しかし選ぶとなるとどうすべきか皆目見当がつかぬ」

 

 綺麗に陳列された多くの水槽の中に、いろいろな種類の魚や貝、甲殻類がいるが、どれを選べば良いか全く以てさっぱりであった。そもそも鬼にしても人間にしても、刀を握れる生物としての生き方しか知らなかったためそれ以外の生き方など今更イメージできるものではなかった。

 

 (さてどうしたものか…何だ…あの珍妙な生き物は…魔物ではないみたいだが…)

 

 いくつもの水槽の中で、これまで見たことのない、ひときわ鮮やかな奇妙な生物を見つけた黒死牟は折角なのでその生物に憑依してみることにした。

 

 (物は試しか…)

 

 目をつむってしばらくすると、何ともいえない浮遊感と共に体から何かが抜けてゆくような感覚に陥る。しかししばらくするとそれは収まる。

 

 「…憑依したのか…少し体を動かすとするか…!?何だ…この動かし辛い体は……」

 

 無事に何事もなく憑依することが出来た黒死牟は目を開け、体の様子を確認するため体を動かす。しかしその動きはあまりにも緩慢すぎた。それはかつて最強の侍を志した黒死牟にとっては到底受け入れられるものではなかった。

 

 「侍を目指した者の末路か…これが…いや…私のような咎人には似合いだということか…」

 

 畜生道に落ちる恐ろしさを体感し、本当に元に戻れるのか若干不安になる。だが驚きはまだそこでは終わらなかった。

 

 「兄さんお腹すいたね。」

 

 「しゃべっている暇があったら食料を探せ。 」

 

 「でもいつもだったら、いい加減食事が降ってくるなのにやってきそうにないよ。僕たち何か悪いことしたのかな?」

 

 「そんな考え意味がない、どれだけ善良に生きていたって神は結局、守ってはくださらないんだからな。」

 

 この水槽には黒死牟(ウミウシ)以外にもウミウシが存在している。それはそうだ、この店のコンセプトは水槽内の生物に魂を憑依させ、好き勝手にヤるというものであるため、いくらかの数の個体がいないと成り立たない。

 

 「…奴もこの世界に来ていたのか…しかも二人…いや片方は…無一郎ではないな…」

 

 少々口調と顔立ちがキツめな方は無一郎ではないのだろう。かつて戦ったときの彼とは雰囲気が違う、おそらくは双子の兄なのであろう。

 

 「我が子孫たちがこのような場に来るとは…世は無常なり…」

 

 自分の子孫が年若いにもかかわらずこのような場…異世界の遊郭に来てしまったことに対して何とも言えない気持ちになるが、ここで黒死牟はあることに気付く。

 

 「…いや待て…無一郎は遊郭…しかもこのような際物の極致のような場に来るような男であったか?」

 

 無一郎とは一度、しかも戦いの場でしかやり取りは無かったが、それでも彼が遊郭に遊びに来るような男ではなかったということぐらいは黒死牟も分かる。というより自分の子孫で、しかも半身がちぎれても戦意を失わず自分に一矢報い勝利の糸口を切り開いた男が年若いのに遊郭に入り浸っているなど考えられない。

 

 「…であればあの姿は何故?…成程…これは今の体に私の感覚が入り込んでいるためか…」

 

 黒死牟はこの奇妙な現象が、自分の美的感覚が今の体とどうかしたために起こったものだと推測する。恐らく目の前の双子は無一郎たち本人ではなく、この体(憑依しているウミウシ)の子孫なのだろう。故に本来の自分の体であった時には珍妙な生き物にしか見えなかったのが、その生き物に憑依している今は無一郎の姿に見えるのだ。

 

 

 「しかしそろそろ空腹も限界だな…仕方がないアレをやるか。」

 

 「アレをやるの兄さん?でも手ごろなのがいるかな…」

 

 「いるじゃないかそこに。」

 

 「あ、本当だ!丁度いいぐらいのがいるね、あれなら僕たち二人なら何とかなりそうだね。」

 

 黒死牟があれこれ考えている内に、例の双子(実際は双子どころではない)のウミウシが向かってきた。その雰囲気から自分に対して戦意を持っていることを黒死牟はすぐさま察した。

 

 「ほう…私に向かってくるか…その意気や良し…」

 

 かつて自分の子孫と戦った時のことを思い出し、懐かしさを覚えながらも手加減は無用と考え臨戦態勢に入る。

 

 「こちらも抜かねば…刀は今は無いが…抜かねば無作法というもの…」

 

 ――月の呼吸――

 

 …しかし何も起こらなかった。

 

「…どういうことだ?…技が出ぬ…もう一度だ」

 

  ――月の呼吸――

 

 …しかしやはり何も起こらなかった。

 

 

 「馬鹿な…今はあの時のように力を吸われておらぬはず…だが身体能力が上がった様子すらない…これは一体…」

 

 刀を使った斬撃が出ないことは仕方ないにしても、呼吸法による身体能力の向上すら全く感じ取れないことに黒死牟は焦りを覚える。かつて鬼食いの少年の技で自身の力を吸い取られていた時と違い、今は何かに力を吸い取られている感覚は全くない。にもかかわらず長年培ってきた月の呼吸が使えない、その理由を黒死牟は思案する。そしてある可能性に行きつく。

 

 「…まさか…この体は呼吸の仕組みが…根本から異なるというのか!?」

 

 黒死牟の読みは当たっていた。仮にこの体が肺呼吸であるのならば、最低でも身体能力の向上はできていた。

 だが悲しいことに、今の体…つまりはウミウシの体は肺呼吸ではなく鰓呼吸なのだ。いくら呼吸法の達人といえども、根本から呼吸の仕組みが違う生き物の体では呼吸法が使えないのは当然だった。

 

 「よし、捕まえた!」

 

 「ようやくご飯が食べられるね、頂きます。」

 

 「…ぐ…貴様ら…まさか…」

 

 自分のところまでやってきた双子はそのまま黒死牟(ウミウシ)に文字通りの意味で食らいつく。その様子に黒死牟は正気を疑う。自分もかつて子孫を磔にしたり、切り殺したことがあるが、それでも食べようとまでは思わなかった。故に二人の正気を疑う。

 

 「美味しいね、兄さん。」

 

 「よもや…先祖を食うとは…貴様ら正気なのか!?」

 

 「仮にそうだとしてもお前の血も細胞も 俺達の中にはひとかけらも残ってないよ。」

 

 それでも何とか反撃を試みようとするが、いまの黒死牟はウミウシだ。当然刀など扱えないし、長年培ってきた呼吸法も体術もこの体では使えない。ウミウシ初心者の黒死牟では結局数の差をひっくり返すことは出来ずにそのまま食事となる。

 まぁ、かつて自分の意志で鬼となり、人を喰らい、子孫さえ切り殺してきたのだ。自分の番が来たとしてもそれは因果応報で仕方がないことだろう。

 

 『初めてのお客様に申し上げます。取りついたオスの調子がイマイチよろしくなかったり、あるいは散々楽しんでもう精力が尽きてしまった場合は別の体に乗り移って引き続きお楽しみいただけます。』

 

 しかし捨てる神がいれば拾う神もいる。魂に直接聞こえて来た声はこの状況を打開する可能性を示すものだった。

 

 

「何と…その様なことが可能なのか…如何様にすればよいのだ?」

 

 『ボディチェンジと頭の中で唱えるだけでOKです』

 

 「こうか?…"ぼでぃちぇんじ"…良し、今の私にもはや油断は存在しない…次は倒す…」

 

 別のウミウシに憑依した黒死牟は早速、先の双子を倒すべく行動を開始する。だがその道中で黒死牟はある個体を発見する。

 

 「あれは!?…間違いない…参る‼」

 

 黒死牟は確信する。その個体はこの水槽…否、この種の中でも理を超えた強さを持った存在だと確信できる姿をしていた。当然黒死牟としては挑む以外の選択肢はなく、先ほど自分を喰らった双子を無視して、遅い体ながらも一目散にその個体に向かう。

 

 「お労しや…兄上」

 

 「ぐ…無念…次だ…次こそは…"ぼでぃちぇんじ"…」

 

 だが、その個体はあまりにも強く黒死牟は再び食事となり果てるのであった…

 その後も幾度もその個体に挑むが、勝利を収めることはかなわなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「次だ…貴様…何をしている…」

 

 「あら、目が覚めたの。憑依魔法術式に不具合は無いみたいだけど、どうしてかしらね…もしかしてあなた変な遊び方していた?」

 

 目を覚ました黒死牟の目の前にいたのは自分の腕に注射器を刺して、血を採取している協力者の姿だった。

 

 「何をしているのかと聞いている…」

 

 「そりゃもちろん新薬(金持ちから金を巻き上げるための治療薬)の材料を採ってるのよ。」

 

 「…(不穏なものを感じるが私の関知するところではないか)…だからと言って何も今でなくても良かろうに…」

 

 「まぁまぁ、細かいことは気にしない。それよりもあなたの血を調べてみて分かったことだけど始祖である鬼舞辻無惨を鬼にした薬、随分と興味深い組成をしているわね。魔素が無い世界で体を作り変えるためだからこんな風になったんだとは思うけど。」

 

 「…奴は薬で鬼となったのか…初耳であった…」

 

 「面白いのはこの薬は先天性の遺伝疾患や免疫異常、生まれもっての体の欠損にも効果があるってことね。これは売れるわよ♪」

 

「金の亡者め…」

 

「研究っていうのはいつだってお金がかかるものなのよ。それにあなただって私が無償で協力しているよりも何か利益があって協力しているって方が安心できるでしょ?」

 

「違い無いか…」

 

「それで今日は材料採取…じゃなかった、試作品を渡しに来たんだけどこれがあれば多分前に言ってた痣の副作用を抑えられると思うわ」

 

 そう言ってデミアは黒死牟に一本の注射器を手渡す。

 

 「ほう…もう完成したのか…」

 

 「そこは私だからね、サンプルがあって組成さえわかれば後は簡単よ。あ、そうだもう一つ伝えておくことがあるわ」

 

 「…何だ?」

 

 「あなたがいた水槽にあった不具合を治しておいたわ。これで共食いはしなくて済んで思う存分ヌメヌメできるわよ♪」

 

「……」

 

黒死牟は思った。いくら何でも子孫や弟に見える存在とそんなことする程、自分は腐って無いので今更そんなこと言われても困ると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「どうしたのだ…食べぬのか?」

 

 出された料理を前にして引き攣った顔をする一行を黒死牟は訝しむ。

 

 「いや、この貝が普通にかわいい子のバター炒めに見えて…」

 

 「俺もエビが…治るのかなこれ」

 

 どうやら先日来訪したサキュバス店での経験から、料理として出された海老や貝が女の子に見える病にかかってしまったらしい。

 そんな面子をメイドリーと黒死牟はジト目で見、呆れかえる。

 

 「頼んでおいて何訳の分らないこと言ってるのよ、海老は海老、貝は貝じゃない。」

 

 「全くだ…所詮は妖術で憑依した一時の仮初の肉体であっただけであろうに…」

 

 「憑依魔法の存在自体は知っていても、ああいう店に行ったのは初めてだったからどうしてもその時のことが頭に浮かんでしまうんだよ。」

 

 「思い入れの度が過ぎる…嘆かわしい…ところでメイドリーよ…」

 

 「はーい、ご注文ですか?」

 

 「この店ではウミウシという生物は取り扱っておらぬか?…取り扱っているなら是非頼みたい」

 

 「ウミ…ウシ?すみませんそれを使ったメニューは聞いたことが無いので多分ないと思います。」

 

 「それは残念だ…」

 

 自分の子孫や弟と同じ顔をしたウミウシが同じウミウシである自分を美味しそうに食べていたのを見て食べていたのを見てふと思いついたことを言ったのだが、残念ながら食酒亭では取り扱ってはいないらしい。

 

 「お前もしっかり影響されてるじゃねぇか‼」

 

 「む…私としたことが…不覚であった」

 

 

鬼:黒死牟

 

 

 

 …六道輪廻の畜生道を体感できる店だ…実際に畜生になって思ったのは畜生の世界は想像よりも過酷だということだ…刀は握れない、呼吸法は上手く機能しない、おまけに子孫や兄弟は平然とこちらを喰らおうとする……別に私は敗れた訳では無い…ただ身体が思うように動かなかっただけだ…次は私が勝つ

 

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百式観音を背負いて。(作者:ルール)(原作:NARUTO)

▼ 憧れた姿を追い求め、▼ ただひたすら繰り返し、▼ オッサンはついにソレに辿り着く。▼ そんな狂気のオッサンが混じった忍者活劇。


総合評価:29197/評価:8.25/連載:63話/更新日時:2026年05月13日(水) 06:56 小説情報


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