三人称視点は難しすぎるので今回だけの予定です。
使い方まだよくわかってないんでおかしいとこあればアドバイスもらえるとありがたいです。
プロローグ
いつからだろう自分の夢がなくなったのは
いつからだろう自分は物語の主人公ではないとわかってしまったのは
1 双翼に盾ありし
「いや~しかし、この規模のステージになると流石に色々手間がかかるねぇ」
数万人が収容できるような大きなコンサート会場。その通路を一人の少女が独り言を呟きながら歩いていた。少女はローブのように布をまとい、周囲で忙しく動き回る大人たちから浮いていてるように見えた。
「ここまでこれたんだ。ここからもやっていけるんだ私は私達はもっと羽ばたいていけるんだ」
「ここにいたのか奏くん、探したぞ」
少女に声をかけるは赤髪と合わせたかのような赤いスーツとスーツに隠しきれない迫力のある身体の大人だった。その声は鍛え抜かれた体からは似合わないような、優しいものだった。
「この規模の大きさに加え、今回は例の実験もあって流石に緊張してるかと思えば存外いつもどおりなんだな。そこの影で小さくなっている翼とは大違いだ」
「んあ?」
言われて、指さされた方向に顔を向けると見えにくい荷物の影に自分と同じよう大きな布をかぶり、けれども奏とは正反対とも言える青い髪が一房チラチラとはみ出している。
気持ち程度に足音を抑えて近づけども聞こえてないのか、外界に意識が出ていないのか気づく様子もなく、真横にまで近づく。
「っばぁ!」
如何にもというような、悪戯の成功を確認しているような笑みで赤髪の少女は一房の青がはみ出ている布に大声をかける。
「ひゃぁぁ!?」
驚きと同時に、立ち上がろうとするもバランスを崩し布がずり落ち青髪の少女が尻もちを付いた姿で顔を見せる。
「奏!何するの!」
「翼は硬すぎるんだよ。そんなにガチガチに緊張してると今から持たないぞ?」
「奏が気にしなさすぎなのよ!私達の大きなライブだし、それ以上にこれからの私達を左右する実験なのよ!?」
風鳴翼が言い当てられたごまかしと少しの憤りを混ぜながら天羽奏に詰める。確かに言う通り今回のライブはツヴァイウィングの大型ライブであると同時に、それ以上に大事なとある聖遺物の起動実験も行われる。普通であれば、二重のプレッシャーで風鳴翼のように緊張が表に出て普通なのかもしれない。それでも、天羽奏は不敵な笑顔を崩さない。
「ほんと翼は難しく考えすぎてるな。いいか?弦十郎のダンナの目の前でこんな事言うのもあれだけど、聖遺物の実験なんてどうでもいいんだよ。結局は私達がどれだけいいパフォーマンスをできるか。それだけなんだ」
そう悪びれもせず言い切り、天羽奏の顔には気負いもなくただ目の前のことだけに集中しようとしていた。
「だってそうだろう? あたしたちのパフォーマンスでライブを盛り上げりゃ、勝手にフォニックゲインが集まる。単純な話だ、ただ全力を出すだけじゃないか」
「それはそうかもしれないけれど……」
「はははっ! 緊張してるかと思って来てみれば翼に発破まで掛けてくれるとはな、俺の立場がないじゃないか」
「まあ、そういうこった。ダンナたちはゆっくりあたしたちのライブを聴きながら仕事をしてくれればいいさ」
この2人ならば何も問題はないと、弦十郎に不安はもはや何もなかった。当てられるように明るさを取り戻している翼も、もはやミスなど起こさないだろうと。
翼も先程までの心配や不安も薄れ、これから始めるライブに全力を出すことに集中し始めている。
「しかしまあ、どうして姐さんはこっちの関係者席にこないんだろうな」
「まあ、あの人も奏みたいに気分屋なところがあるし、特に意味もないかもね」
ここにはいない誰かに意識が飛び、空気が緩み始めたところで弦十郎が締める。
「さあ、おしゃべりはこのあたりにして準備を始めよう。なに、君たちはいつもどおりに全力で歌ってくれればそれでいい。後は俺たち大人がうまくやるさ」
「そうだな、行こう!翼!」
「ええ、行きましょう!奏!」
少女は歌を纏い駆け上がる。自分たちが輝くため。そこにいる全員で輝くために。
さりとて少女の願いは容易く崩れ去る。
「なんでこんな事になってるんだ!アタシたちのライブをめちゃくちゃにして!」
「落ち着いて奏!気持ちはわかるけど前に出すぎている! この数よ、無茶をすればどうなるか!」
可憐な衣装を身にまとい、観客を魅了し熱狂の渦を作っていた双翼はそこにおらず、そこにいるのは小さな肩に人類守護の覚悟を載せた戦士が二人だった。
会場に人はもはや二人のみ。残りは瓦礫とノイズ、それだけだった。ノイズの特性により、本来ならばそこにあるはずの死体さえも灰となり、風に流れ、殺伐とした空間がただ広がっていた。
「なんなんだよこの数は!? 多すぎる!」
天羽奏は槍を携える戦士である。しかしそれは自らの身体を痛めつけ血を吐きながら手に入れた力である。
「時限式はここまでかよ……!」
纏う戦装束の色も陰り徐々に数に押され始める。
そして状況は更に少女を追い詰める。
「きゃっ!」
天羽奏が戦うその背後で幼い悲鳴が聞こえる。振り返れば、そこには自分よりも更に年下の少女が観客席の崩落に巻き込まれ倒れていた。
ノイズについて解明されていないことは多数ある。しかし、数少ない判明している習性の一つに人間だけを狙い襲いかかるというものがある。つまりは
「い、いや!来ないで!」
未だ立ち上がることのできない栗毛の少女を灰にせんと、数匹のノイズが駆け寄っていく。栗毛の少女は未だ立つことできず震えており、無意識の行動か諦めの行動か目を閉じうずくまってしまう。
「させるか!」
「え?」
しかし、激しくも安心できる声に目を開ければそこでは先程まで舞台の上で熱唱していた一人が、自分の身長ほどもありそうな大きな槍を振るいノイズを撃退している。
「駆け出せ!」
その声に今の自分の状況を思い出した栗毛の少女は、なんとか出口を目指して動き出す。しかし、世界はそんな彼女らに優しさもなく、その声に呼ばれたかのように更にノイズの数が増え、更には大型のノイズまでもがこちらをターゲットに攻撃を始める。
かろうじて槍を盾とし攻撃を防いではいるが、徐々にヒビが入りかけ四方へと飛散していく。
「危ない!奏!」
蒼き剣の少女が呼びかけるも、声は届くが駆けつけるにはあまりにも遠く、ノイズの大群によって道は塞がれていた。そしてその時ついに、
「……えっ?」
守るために振るわれていた槍の一欠片が、少女の胸を貫き、あたりに鮮血を撒き散らす。
「おい!?死ぬな! 生きるのを諦めるな!」
天羽奏が駆け寄り声をかけるも、その少女は今にも命の灯が消えようとしているところだった。
「……あぁ……」
今にも息絶えようとしている。それでも生きている。その事実は、天羽奏が覚悟を決めるのに十分すぎるものだった。
(いつか心と体、全部空っぽにして思いっきり歌いたかったんだよな)
その横顔に悲壮感はなく、笑みすら浮かべている。
(今日はこんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ。だからアタシも出し惜しみをなしで行く)
その手に持つ槍を倒すべき相手ではなく天に向け掲げる。
(とっておきのをくれてやる)
その槍も、衣装もすでに汚れ、至るところが破損している。それでも気高く美しくその時を待つ。
(絶唱……)
少女の目から一筋の涙が流れる。
「いけない奏!歌っては駄目!」
蒼き剣の少女も叫ぶが、声を届けることしかできず、
「歌が聞こえる……」
少女は自分の後方から聞こえてくる歌を認識することしかできなかった。
今まさに、天羽奏は自らの命と引換えに最期の歌を奏でようとしている。しかし、
「いやー、やっぱ駄目だわ。こんなところで死んじゃったらきっと夢見が悪くなる」
双翼は分かたれ、片翼が燃え尽きようとしても、盾はそれを許さなかった。
「姐さん!? なんで!?」
「ちょっと色々迷っててね。でも安心して、もう決めたから」
天羽奏より更に前、ノイズの目前に降り立った女。天羽奏、風鳴翼と似た、しかし緑を基調といた衣装を纏い、何より目を引くのは彼女が持つは武器ではなく、大きな円形の盾だった。
「ほんとはこんなことしたくないんだけどね、緊急事態だ。そして体を張るのは年齢順てね」
そのまま、彼女は前を向き歌を奏でる。
「Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el baral zizzl
Gatrandis babel ziggurat edenal Emustolronzen fine el zizzl」
その調べを歌い切ると同時に、彼女は光りに包まれ、轟音がその場を支配した。
天羽奏が次に目にしたのは、あれだけいたノイズが消え去り、ただの広場となったコンサート会場の成れの果て。そして
「……やっぱきっついなこれ、お薬飲んで元気百倍だったはずなんだけどな……」
血に塗れ倒れ伏している一人の女性の姿だった。
「姐さん!?姐さん!?」
駆け寄り抱えると、そこには息も絶え絶えだが、確かに生きている生命があった。
「立浪さん!?大丈夫!?」
一人離れていた風鳴翼も駆け寄ってくる。
二人に抱えられた女性がなんとか話しかける。
「こらこら……もうひとり重体人がいるんだ…、 早く救助を呼んでくれ」
それだけ言い、意識を手放していく。
(やってしまった。これでもうアドバンテージはほぼなくなった。でも仕方ないよね、見捨てられないもの…)