道は決めた
結末も決められた
21,夢のかけらを
まだ日も昇り始めたような時刻。私達は緊張した空気で今回の作戦の開始地点である駐車場に集合していた。人数はそこまで多くなく、襲撃の可能性があるということは事前に通達されているし全員緊張の色を多分に含んでいた。特に響ちゃんはかなり背負い込んでそうで心配。
「防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備。記憶の遺跡まで一気に駆け抜ける!」
「名付けて~ 天下の往来独り占め作戦!」
司令と了子さんの説明を受ける。今更なんだけど了子さんが現場に出ることに意味はあるんだろうか。
「基本的な指示は俺が出すが、それが出来ない場合や現場で緊急を要する時は紫香くんが指示を出してくれ。指示がかち合った時は紫香くんの方を優先してくれ」
私の負担というか責任重大ね…… 確か司令も本部に籠もるんじゃなくてヘリか何かで近くには居たはずだけどそれでも判断できない可能性もあるでしょうしね。
「何も無ければこのまま作戦を開始するがどうだ?」
「私から二点良いでしょうか」
このタイミングで変更は無理だろうけど確認はしておきたい。司令より目で促されたのでどうしても気になること、不自然な事を聞いておく。
「一つはどうして了子さんが現場に出るのか。最悪デュランダルが奪取、破壊される可能性があるとしても、現状掛け替えのない人物である了子さんを危険にさらすのでしょうか」
「もしデュランダルが何らかの反応を起こした場合直ぐに確認、処置ができる人間が必要なの。そしてそれが出来るのは紫香ちゃんも言ったとおり私しか居ないでしょ?」
そう言われれば筋は通るし納得出来ないことはない。しかし
「わかりました。ではなぜ了子さんの車を使い、尚且それにデュランダルを乗せるのでしょうか。これでは怪しすぎます」
「だって、自分の車じゃないと運転のテンションが上がらないじゃない」
……え~…… そんなウィンクしながら言われてももうなんかあれすぎません? 助けを求めて司令を見ても苦笑いしか返ってこない。なんかもう始まる前から脱力させないでほしい。
「納得出来ませんが了解です。響ちゃんと最終確認したいので十分ください」
これ以上はもうどうにもならないだろうしさっさと切り上げよう。
「わかった、では全員準備ができ次第搭乗。紫香君の合図で作戦を開始する!」
その号令を元に黒服のみんなは車へと入っていく。そうして私と響ちゃん、司令と了子さんがその場に残る。司令と了子さんは何も言わないが動かない所を見ると私達を気にしているのだろう。
「紫香さん。確認て何があるんですか?」
「いえね? 最近話せてなかったから響ちゃん元気かなって思って」
「えー、なんですかそれ……」
「ちゃんとご飯食べてる? 寝不足の癖がその年から付いたら大変よ?」
「……もー、何言ってるんですか! 大事な話無いなら私行っちゃいますよ?」
そう言いながら少し頬を膨らせる響ちゃんに軽く謝り車に向かうように伝える。何となくだけど反応が少し遅れてるしまだなにか悩んでるのかもしれない。未来ちゃんからなにか言われたわけでは無いかもしれないけど嘘をつかないといけないだけでもあんな良い子にはストレスだろう。その辺りのメンタルケアとかも私の仕事のはずだけど全然できてないのが情けない。
「問題なら君も準備するんだ」
一人立ち尽くす私に司令から催促がかかる。取り敢えず気分を入れ替えてここからは荒事なのだから。
「了解です」
私に続いて了子さんも移動し始める。何かを言うわけでは無いけれどすぐとなりに来てなにか言いたそうな、そうでもないような不思議な表情をしている。
「伝わらないし、相手のことがわからないって悲しいですね」
ほとんど独り言のような気持ちでそう呟けば
「そうね…… わかり合えないっていうの寂しいことね」
そういう了子さんの表情は泣きそうに見えた。
移動を開始して少したち今の所は順調に移動を続けている。そこだけ見れば何の問題も無さそうだけどさっきから行われている各車両の連絡も何処か固く、私と同じ車両の居る面々も肩に力が入りすぎている。仕方の無いことだけどこのままじゃ出来ることも出来やしない。
「しっかし、誰も居ない高速道路を走り抜けるって気持ちいいですね。今度また適当な理由で封鎖して二課でレースでもしません?」
そう今の空気に合わないことを言えば
「いいわね~ どうせなら商品も付けちゃいましょうか。私が優勝しちゃうでしょうから美味しいものが貰えると助かるわ~」
「いやいや私だってそれなりのものですよ? でもまあ貰えるなら美味しいものが良いですね。それかお酒でもOKですよ」
意図を察して軽く返してくるこのラスボスである。ほんとこの人とは違う出会い方をしたかった。
「二人とも何言ってるんですか!? 大事な作戦中ですよ!」
響ちゃんは真面目だなー。これはもう少しほぐしてあげないと。
「響ちゃん司令に弟子入りしているんでしょ? なら走りで参加してもらいましょうか」
「なんでそうなるんですか!?」
「響ちゃんはともかく、弦十郎くんの場合は本当に車に勝てそうだから恐ろしいわね……」
軽口を続けていれば各車両から笑いを堪えているような声というか音が聞こえてくる。そうそう緊張しすぎて良いことなんて無いんだからリラックスリラックス。
「姐さん、こっちまで通信繋がってるの分かってるよな?」
今まで聞こえなかった奏ちゃんの声も聞こえてくる。司令と同じくヘリで付いてきているはずだ。
「俺だけじゃなく、緒川も出来ると思うぞ。たく、いつも俺だけを人外みたいな扱いをしやがって」
私と了子さんは我慢する気もなく声を出しながら笑っている。他のメンバーも遂に我慢できなくなったのだろう笑い声が聞こえ始めている。
司令もノッてくれたおかげで大分空気が和らいだしそろそろ真面目に進めようか。
「さて、ひとしきり笑った所で私からお願いというか命令よ。ノイズによる襲撃が確認され次第護衛の車は即時撤退すること。ただし私の搭乗車に関しては了子さんの車に乗り移るからそれまでは接近をお願いね。人間の襲撃だった場合は予定通りの動きでお願いね」
あまり使わない命令という強い言葉に自分でも違和感を感じるがそれでも聞いてもらわないといけない。
横に座る黒服のリーダーから理由を聞かれれば
「申し訳ないけど私と響ちゃん以外はノイズに対しては無力。ただでさえ今回は了子さんとおまけでデュランダルなんて二つの護衛対象がある。その状態であなたたちを守り切るの自信がないの」
割とハッキリと役にたたないと言われた側は落ち込んでいるのか怒っているのか返事は返ってこない。命を掛けて職務を果たす覚悟をしてきたのに危険が起きれば逃げろと言われればそうもなるだろう。
「私はともかく響ちゃんに了子さんとあなた達どちらかの命の選択をさせないで。優しい子だからね迷うだろうし仕方の無いことでもきっと責任を感じてしまうでしょう」
「私出来ます! 全部守ってみせます!」
響ちゃんはそう力強く言ってくれるがこれは単純な問題なのだ。離れている以上、私達は全能出ない以上どうしたって全てを得ることは出来ないのだ……
「ありがとう、でもねこれは私達大人の面子なの。ただでさえあなた達に最前線に立ってもらってるのにこれ以上負担を掛けたくないの」
そこまで言い切れば誰からも返事は来なくなる。
「良いだろう、今の紫香君の案を基本方針にしよう。ただそういう事はもっと早く言ってくれ。色々準備が台無しだ」
「すみません、なかなか決められなくて」
もちろん嘘だ。こんな事事前に言ってればなんとか理由を付けて壁になろうとしてくるだろう。だから、作戦が始まり考える時間も無いような今なのだ。
「私を守ってくれるのは嬉しいけど、一応今回一番大事なデュランダルをおまけはだめじゃない」
「なんというか言葉にできなくてモヤモヤするんですけど、それ気に入らないんですよ。もういっその事ここで叩き折っちゃいません?」
「良いわけ無いだろ!」
最後に私が司令に怒られて固くなりすぎず、それでいて緩みすぎずの空気になったので良しとしよう。しっかし何故かデュランダルの実物を見てからずっとイライラするんでしょうね。
そんな事を考えている内に目の前の道路が陥没し始めた。
「全車戦闘配備! 私を護衛対象に!」
全車両間隔を詰めて襲撃に備える。私はシンフォギアを展開し了子さんの車の天井に張り付く。
そのまま襲撃者の見えないカーチェイスを続けていれば目の前のマンホールからノイズが勢いよく湧き出てくる。
「ノイズ確認! さっきの話の通りに!」
お願い通りに私達から車が離れていく。
「司令! 護衛車は私達から離して追跡させてください!」
そのまま下道に降りて走り続ければノイズは私達の方にしか出てこない。護衛者が襲撃されたという報告は上がってこない。
恐らくこれクリスちゃんが操作してるんだけど、単純と言うか素直というか。実際司令に見破られて化学工場の方に向かう指示が出ている。そりゃ了子さん、というかフィーネも舌打ちしますわ。
「思いつきを数字で語れるものかよ!」
受け継がれる名言も聞けたしそろそろ後半戦スタートだ」
あのスピードでノイズを避けていたのだ。車の横転を止めることも出来ずに私も吹き飛ばされる。横目で見れば響ちゃんも了子さんも大怪我はしていないようで一安心。
「了子さん…… これ…… 重い……」
「だったらいっそ、ここに置いて私達は逃げましょうか?」
「置いていくなら叩き割りたいです!」
「二人共何言ってるんですか!? そんなのダメです!」
そうやって軽口を叩いてる間にノイズの攻撃で車が爆発。響ちゃんと了子さんが吹き飛ばされる。それでもノイズが追撃しようとしているのが見えて守りに行こうとすれば目の前にノイズが湧き出てくる。クリスちゃんめ! こんな時だけ有能になって!
爆音が辺りを包む。煙が晴れた後そこには
「了子さん……?」
「しょうがないわね。あなたのやりたいことをやりたいようにやりなさい」
爆風で髪留めと眼鏡が無くなった了子さんが謎バリアで攻撃を防いでいた。
「私、歌います!」
背中を押されたのか先程までとは打って変わってキリッとした表情の響ちゃんがガングニールを纏い構えている。
「響ちゃんはオフェンス! ノイズをやって! 私は了子さんのフォローに入る!」
「はい!」
急いでデュランダルと回収し、了子さんを守る体制に入る。
「あの謎バリアに関してはちゃんと説明してもらいますからね」
「なんのことかしら?」
「それは流石に無理があるでしょ……」
前衛の響ちゃんがヘイトを稼ぎながらノイズを殲滅していってくれるのでこっちは大分楽だ。だけどそんなことよりこの後フィーネとどう話すかのほうが問題だ。まさか私にまで見られてる状態でフィーネとしての力を使うとは思わなかった。そしてバッチリ見てしまった以上追求しないわけにもいかない。
気がつけば前線のノイズはあらかた片付き響ちゃんとクリスちゃんの戦いが始まっていた。
……しまった!!
振り返ればそこには空中に浮かび輝き始めているデュランダルが有った。
「覚醒……?」
まずいこのままだと暴走が始める! なにか案はないかと脳を働かせるが現実はいつも待ってくれない。
「渡すものかー!」
響ちゃんが柄を掴んだ瞬間なにかが変わった。
デュランダルが黄金に輝きて空へと閃光を放つ。同時に響ちゃんが黒く見るからにおかしい状態になってしまった。
「そんな力を見せびらかすなー!!」
クリスちゃんがノイズをけしかけるがそんなもの相手になるわけもなく、一掃される。更に爆発の余波でクリスちゃんが了子さんの方に吹き飛ばされた!
「クソ!」
爆発の衝撃で崩れ始めた瓦礫に二人巻き込まれ、姿が見えなくなる。急いで煙を吹き飛ばせばクリスちゃんがうまく庇ってくれたのだろう。二人共大事は無さそうだ。瓦礫に降られ直ぐに動けないだろうが今の問題は……
振り返り私は絶望しそうになった。そこには大上段に黄金を構えこちらに振り下ろそうとしている響ちゃんが居る。
(二発目は聞いてない!)
直撃しなくてもこの大惨事だ。このまま振り下ろされようものなら……
盾を構えるが震えが止まらない。逃げたい。でも逃げてしまえば私の後ろの二人が……
「どうすればいいの……!」
私の事はどうでもいい! でも私じゃみんなを守れない……!
『簡単なことだ、あれに勝てば良いんだ……』
聞いたこと無い声が胸に響く。性別も年齢もわからないがなぜか熱を感じた。そして、どうしてだかその声が何なのか疑問に思う前に私の胸にストンと落ちてきた。
そして今までとは違う歌が胸に浮かんできた。
「 pride valour achilles tron 」
今までと違う聖詠。それもシンフォギアをすでに纏った状態でだ。何がどうなっているかわからない。でもこの衝動に従わなければいけない。そう感じた。
「何がどうなってるの…… でも何をしないといけないのか、なぜしないといけないのかそれは分かる!」
「なんなんだよお前……」
「クリスちゃんはそこから動かないで! 大丈夫私が守るから!」
「お前っ……」
そう、今の私がどうなってるかそれはわからない。今にも切り捨てようとしている響ちゃんは何も変わらない。でも
「そう、私はあれに負けるわけにはいかないんだ!」
地面を蹴り響ちゃんに向って飛び込んでいく。大丈夫私とこの盾と胸の熱さがある限り行けるはずだ。
なぜなら……
「なぜなら〈私/貴方〉はアキレウスなのだから!!!」
盾を掲げて最後のカギを叫ぶ
[Absolute Affection]
今まで文字通りの盾でしかなかった私のアームドギアの外縁が展開しそこから光が広がっていく。光の壁にデュランダルの一撃が叩き込まれる。拮抗は出来ている。それでも少しずつ押し込まれる
「それでも! それだけには負けられない!」
力と気合と命を込めて押し止める。そして遂には無限にも思えた光の奔流は霧散していく。それと同時に身体から急速に力が抜けていくのが分かる。それでもなんとか切りかかった勢いで飛び込んできた響ちゃんを受け止めなんとか不細工ながらも着地することが出来た。
遠くから近くから爆発音が連続するが、衝撃も熱も来ることはなかった。最後の力で目を開ければ笑っている了子さんが見えた気がした。
「やはり貴方は違うのね」
何かを言っていることは分かるが音としてそれを拾うことは出来なかった。
みんなを守れたこと、響ちゃんに誰も傷つけさせなかったことを胸に抱いて私は意識を手放した……