やっと手が届きそうになった
待ってくれると思い込んで
26,届いて突き放されて
クリスちゃんと少し仲良く成れて、おまけで私がやりたいことも少し見つかって、気分一新頑張ろうと今日はちゃんと定時に出勤が出来た。今日は当日に出来なかったイチイバルを纏ったクリスちゃんとの戦闘時の事をヒアリングする予定の日だ。本当は三人まとめてやりたかったんだけど最近響ちゃんの欠席が増えているのもあって放課後まで待たなければいけない。
「というわけで、奏ちゃん、翼ちゃんまずは二人から話を聞いていこうと思うからよろしくね」
「ああ」
「宜しくおねがいします」
二人とも見た感じではそこまで気負ったりショックを受けている感じは見えない。でも、二人からすれば以前に一度紹介を受けているはずの雪音クリスの存在。そして彼女がネフシュタンの鎧とイチイバルを使用しているなんて知ってなにも感じないはずがない。
「まずは戦力的な話からいきましょうか。ネフシュタン及びにイチイバルは私達の敵に成りうると思う?」
「今までネフシュタン単体に勝てていない私たちが言うのも信憑性もないかもしれませんが、イチイバル単体であれば私達が複数で当たれば問題ないと思われます。」
「アタシもそう思うぜ。前回は初見っていうのと、乱入者のせいで有耶無耶になっちゃったけどあくまでイチイバルの状態ではシンフォギア単体でしか無いと思う」
実際に戦った二人が言うのだから、間違っていないだろう。私の記憶を頼りにしても似たようなものだ。イチイバルは遠距離殲滅を得意としてる以上距離を取られての戦闘や市街地戦に成ればこちらの動きも制限され厳しい戦いを強いられるだろう。しかしクリスちゃんの性格を考えれば市街地での民間人を巻き込むような戦闘は考えにくい。つまりは距離さえ詰めれれば数の暴力で勝てるだろう。そして逆に言えば
「ネフシュタンの鎧を持ってこられると厳しい戦いになるということね」
言いにくいのか、言いたくないのか。言及を避けている部分を明言すれば二人とも嫌そうな表情になる。もちろん私も同じ気持ちだ。
「その辺りは追々考えましょう。それ以外にはなにか気づいたことある?」
「後から来たフィーネと呼ばれていた女が気になる。イチイバルのやつの仲間だとは思うけどなんか空気がおかしかったし、ネフシュタンの鎧も持っていっちまうし」
「確かに、元々の仲間が仲違いしたのか、第三者が裏切ったのか。どちらにしろ聖遺物を持っている者が増えたのはあまり歓迎できる流れではないわね」
三人でこれ以上の意見も案も出ずに無言のまま時間だけが過ぎていく。いつまでこのまま時間を浪費するのもあれだし、そろそろ切り上げようかと思った時に翼ちゃんから面白い話が聞けた。
「立浪さん。もし、もしですよ? あのイチイバルの少女が私達の仲間に成りたいと言ったらそれか可能なのですか?」
「ん? そんな話有ったの?」
「いえ、私の気のせいかもしれませんが、立花は彼女とずっと会話をしようと試みていました。そしてあの日、それは形になりそうだった、私にはそう見えたのです」
……響ちゃんはやっぱり頑張ってくれていたんだね。流石だ、強い子だ。私には何度も否定され拒否されても手を伸ばし続ける勇気はきっとない。あの子はそれを自然に出来ている。きっといい人生を歩めていたのだろう。
あの地獄のような環境をそんなふうに言うなんて他人事にしすぎね……気を付けないと。
「それは私で決められる話ではないわ。もっと上のそれこそ風鳴指令でも手出し出来ない領域の話になるかもしれない。それでも私ができることは全部やるわ」
残念ながら私にはクリスちゃんをどうにかできる権限など無いだろう。それでも子供が真っ直ぐに生きようとするのであれば大人は全力で支えるだけだ。
そのまま、細かい部分のヒアリングまで進めて二人への聞き取りは終わった。二人はこのままツヴァイウィングとしての活動で今日はもう帰ってこないらしい。戦いに歌手に物理的にも精神的にも人々の生活を支えている二人には頭が下がる。
響ちゃんとの話は残念ながらまともな成果を得れなかった。落ち込みがひどすぎて何を言えば良いのかも分かっていない状態のようだった。私としても慰めてあげたいし、助けてあげたいけど私が話をややこしくしている原因だし何も出来ないんだよなあ……
戦闘時の報告に関しては奏ちゃん達から聞いているし今の状態で無理やり聞くのもご遠慮したい。今日の所は帰って貰った方が良いでしょう。
できるだけ早く復帰してもらわないといけないしどうするべきか。未来ちゃんと仲直りしてくれれば話は早いだろうけどこればっかりは周りが口を話すわけにもいかないしね。
やらないといけないことは分かっているけど、どう進めたものか、切っ掛けがつかめずにそれでも貯まる書類仕事を片付けてこの日は家に帰宅した。一連の事件も佳境が見えてきたし、気持ちを入れ直さないといけないんだけど中々心が追いつかない。
そんなやるせないまま朝を迎えれば、指令からの連絡が来る。至急司令室に来いとのことなので急いで向かえばとある画像を中心に指令とオペレーターたちが難しい顔をしている。
「どうしたんですか? みんなで難しい顔してどうしたんですか?」
「おおはよう、これを見て欲しい」
そうして指し示されたのはお好み焼きふらわーの写真だ。それだけであれば問題は無いが、問題なのはそこにクリスちゃんを背負った未来ちゃんが入っている瞬間の写真ということだ。
「……これは?」
「街の監視カメラを使って先程確認できた写真だ。分かっていると思うが、背負われているのが現在保護対象の雪音クリス君。背負ってるのは、響くんの親友であり、先日ノイズとの戦闘に巻き込まれた小日向君だ」
……頭が痛くなる。どうしてこうなった……
そりゃ、二課の諜報能力を考えればこうなる可能性も十分以上に有ったのだ。しかしここからどう話を持っていくべきか。報告では未来ちゃんはクリスちゃんの変身の瞬間を見ているはずだ。そうであればどこかに通報するのが当然の流れだろう。特に私はノイズに対する組織に所属していることも伝えているし連絡先も知っているはずだ。それでなにもないということは大人に対する、というより私に対する不信感が強いのだろう。そうであれば大人が踏み込むのが良くないでしょう
「そこまでは了解です。それでどうるんですか?」
「質問で返して申し訳ないが、どうすればいいと思う? 二人とも君の顔見知りだろう」
「小日向さんはそうですけど、雪音さん?」
「言っただろう、街の監視カメラを確認していたと。夜の街で随分と楽しそうだったみたいだな?」
……あー、バレてるか。そりゃそうよね。装者なんて監視対象に丁度いいもんね。
「まあ、その辺りのお話は後ほどにお願いするとして、であれば私に任せてもらえますか?」
「良いだろう、どうするんだ」
「今接近するのは話が拗れる可能性が高いのでとりあえず監視を続行でお願いします。機を見て私の方から接触するので、何かあり次第私に連絡。というところでどうでしょうか」
「…了解した。そのプランで行こう」
「ありがとうございます。私は現地に行くか本部に待機ですが、どちらにしますか? 私的は現地に居るほうが対応はしやすいですが」
「いや、俺も行く」
「……はい? 指令が直接向かう理由があるんですか?」
「ああ……彼女は昔から引きずっている宿題でな。悪いが紫香君にも預けるわけにはいかない」
「そう言われちゃうと何も言えないじゃないですか……了解です。ではこの後直ぐに向かいますか?」
「ああ、至急準備を頼む」
私達二人はそのまま司令室を後にしてクリスちゃんの監視及び保護に向けて行動を開始する。よく考えれば指令とシンフォギア装者一人って大分と過剰戦力な気もするけど……
それでも今は速度と確実性を重視しなければならないタイミングだ。
そのままふらわーの近くまで来たは良いけれど近くに丁度いい場所なんて無いし指令と二人で悪の組織よろしく近くのビルの屋上に待機している。
「今の所店の方には特に動きありませんね。雪音クリスの立場を考えれば、裏口から逃げたりもあるかもしれませんね」
「いや、雪音君と小日向君の二人で二階の部屋で何やら言い合っている」
私、双眼鏡使ってもそんなの見えないんですけど……、SFチックな電子義眼でも使ってる様な視力だ。いや、そんなハイテク機器を使ってくれている方がまだ現実味があるわ。
呆れ半分、尊敬半分で指令を見ていれば急に首が折れそうな勢いでそっぽを向いてしまった。
「どうしたんです? 私では詳細見えないんですからちゃんと見てくれないと」
「い、いやな?、 俺が見てはいけない光景が広がりそうだったものでな……」
「……二課指令が覗きで逮捕とかシャレにならないんですけど……」
「未遂だバカ者! いや、未遂ですら無いぞ!?」
仕方ない、指令は未だに反論を続けるが聞いても意味もないので、私が監視を続けよう。しっかし任務中なんだから未成年の着替えだろうが裸だろうが見ても何も言われないだろうに。まあ、悪びれもなくそんなことされたら色々信頼関係が灰になりそうだけど。
そんな、騒がしくも割りかし平和的に続いていたクリスちゃんの監視は、突然のノイズ警報で終わりを迎えた。
「指令!」
「今確認する! ……友里か!? 何が有った至急こちらに情報を回してくれ!」
待つこと数秒私達の端末にノイズの発生地点が送られてきた。
「私はノイズの対応に向かいます!」
「頼んだ! 俺は先日のノイズを操る人物が襲撃をあるかもしれん! ここで指示を出す!」
「了解です!」
そうして私達は別れ各々の仕事に向かう。端末にで映し出されていたノイズは市街地に近い位置に発生している。急がないと甚大被害が!
ノイズ警報のおかげか到着の頃には民間人の姿はなかった。しかし風に舞う灰を見れば間に合わなかったことを突きつけられる。
「それでも…… これ以上は!」
手当り次第、見つけ次第にノイズを殲滅していく。殲滅と入っても範囲攻撃も遠距離攻撃も持たない私では一体ずつ近づいて殴るしか無いのがもどかしい。
そうしてある程度減らした頃に急にノイズが私に向かってくるのを止めてどこかに移動してしまった。
「急な移動…… ソロモンの杖!」
前にクリスちゃんにノイズで分断された時と同じ動きだ! 二度目と成れば対応も早くなる。本部にノイズの移動先を聞こうとしたけどそれより早く
「紫香君! こちらにノイズが集まってきている! 応援を頼む!」
指令のいる場所ということはやっぱり狙いはクリスちゃんか! くっそ。流石に記憶が曖昧で後手に回らされてる!
街中を建物すら飛び越えて最短距離で突き進めば、イチイバルを纏い、ノイズに弾丸をばらまいているクリスちゃんが居る。遠くには目立つ赤いシルエットも見えるし、どうやら最悪の事態だけは避けられたようだ。
あ、後ろ!
「でりゃあ!」
焦っているのか、後方への注意が散漫になっているクリスちゃんの背中を狙うのノイズをなんとか振り払い背中につく。
「お前!? 誰も助けてくれなんて頼んでねえぞ!」
「私達友達じゃない? 頼まれなくても背中くらい守ってあげるわよ」
「……余計なお世話だ!」
そう言って前を向き直すが、それでも背中を預けるぐらいは許してくれるのだろう。クリスちゃんの戦い方が変わった。視界に映るノイズを殲滅するように、それ以外には見向きをせずにばらまいている。もちろん残りの範囲は私の担当だ。クリスちゃんが自分の防衛すら捨て完全にアタッカーに、それは突破力のない代わりに無駄に硬い私が文字通り盾となる。シンプルだけどその分スキのないコンビだと思う。
クリスちゃんを攻撃に専念させてあげれば、それなり以上に居たノイズもあっという間にお掃除完了。しかし、終わったからとクリスちゃんを探してみれば、どこにもその姿はなく。どうやら逃げられたようだ。見逃すなんて無いと思ってたけど、最後の方ノイズの数の割に火力が高かったの、目くらましも兼ねていたのか。流石賢い子だ。
さてと、共闘はしたけど、クリスちゃんには逃げられちゃいましたでは、指令にお小言の一つでも覚悟しなければとテンション下がりながらシンフォギアを解除すれば突然何かで鼻と口を塞がれて急激に意識が遠のいていく……
「やっと……ゆっくり話せそうだな、立浪紫香」
「了子さん……?」
聞き覚えのある声の、聞き覚えの無い話し方を遠のく意識の中にかすかに私の耳に届いていた……