ストーリー進めなくて良い話は書きやすい
1.1 幕間その1
皆にしっかり騙されて放り込まれたパーティ会場。もちろん騙されたなんて感情はなく、今ここに皆が居ることの喜びで胸がいっぱいだ。もし、もしもこれ以上を望むのならばここにフィーネが居て皆と笑い合えていればもっと良かったのだろうけど。そこまでは望むのはそれこそ言葉通りの高望みといいものだ。
「しっかし、慎次くんも役者だねぇ。あんな辛気臭い顔してたんだからすっかり騙されてたよ」
「すみません。装者を行方不明という扱いにして、色々と怪しいところを探っていましたので」
申し訳さなそうに言う慎次くんだけど、その表情は喜びを隠す気もない。まあ私が入院していて、表に居ることで色々な諜報が進めやすかったと納得しておこう。
「姐さん! 久しぶりだ! 今まで見舞いに行けなくてゴメンな」
「作戦のために必要なこととはいえ、寂しくしてしまってごめんなさい」
ツヴァイウィングの二人が先陣を切ってこちらに向かってくる。いわゆる一期を終えてこの二人が居るだけで私に取っては何よりの報酬だし、こんなことで折角のパーティに水を差すわけにもいかない。
「何言ってるの。一番大事な時に居なかった私なんて気にしなくてもいいのに。それより二人とも特に残るような傷もなくて安心したわ」
大丈夫だとは思っていたけど、それでも二人に、皆の誰かに後遺症みたいなものが残っていたらと思うとゾッとする。そこまで話すと急に二人が暗い顔をになる。
「アタシたちは大丈夫だけど、姐さんは……」
奏ちゃんは本当に言いづらそうにしているし、翼ちゃんに至っては今にも泣きそうなだ。そう言われて私は自分の片目の下に残ってしまった火傷痕を思い出す。
「ああこれ? 気にしなくても大丈夫よこれぐらい。生きてるだけで丸儲けってね?」
できる限り明るくは言ってみたもの、それでも場の空気が良くなるなんてことはない。見かねた慎次くんが助け舟を出してくれる。
「今の医療技術であればその火傷も恐らく、見えなくするぐらいは問題なくできると思います。退院された後にいかがですか?」
この時代医療技術も大きく進んでいて、私の火傷痕ぐらいなら確かに問題なく消してしまうこともできるだろう。でも
「ありがと。でも当面の間はこのままにしておくわ。こんなのでもあの人との最後の繋がりだからね」
我ながらなんとも女々しい事を言っているのはわかるが、それでも本心だ。フィーネが生きていた痕跡は様々な物があるが、私がしっかりと持っていけるのはこれぐらいだ。であれば少なくとも私が心から次の一歩を踏み出すまでぐらいは背負っておきたい。
「姐さん……。でも女の顔に傷なんて……」
「あら? 奏ちゃんも結構古い考えね。私の価値はこの程度で落ちるなんて思っていない。見た目よりも中身で勝負する主義なんでね」
「立浪さんは強いんですね……」
「いいえ、翼ちゃん。私は弱いの。弱いからこそ背負うために残るものに依存してしまっているの」
私の言いたいことが分かりにくいのか小首をかしげているけど、仕方ない。この子たちは私なんかよりもずっとずっと強いのだから。だから形あるものに固執している私を理解できないのかもしれない。
「じゃ、じゃあ、アタシが養ってやるよ! 前の同棲するって話も有耶無耶になったままだし!」
顔を真っ赤にしながら爆弾発言を落としていく奏ちゃん。髪色も合って首から上が見事に真っ赤だ。
「か、奏!? 何を言っているの!?」
翼ちゃんのリアクションを見るにどうやら勢いだけの発言のようだ。
「熱い告白どうも。流石にこの歳で未成年に養われるのはちょっとね? まあ、奏ちゃんが私のことを名前で呼んでくれたら考えてあげてもいいわよ?」
あの時、私の名前を呼んでくれたのをこの耳は聞き逃さなかったし、忘れてもいなかった。勢いと感情が先走っての結果だとは思うけど、名前を読んでもらえるならそれはそれで。
「や、やってやろうじゃねえか!」
そう啖呵を切ったは良いけれど面と向かってはまだ恥ずかしいのか、少しの間口をパクパクさせた後どこかに行ってしまった。それを追いかける翼ちゃんに手を振りながら次の相手の方声を駆ける。
「で、次はクリスかな? いやあ、人気者は辛いわね」
「心にもない事言うんじゃねえよ」
苦言を口にしながらも私の分の飲み物を持ってきてくれてるし、やっぱり優しい子だ。グラスを受け取り軽く乾杯し、喉を潤す。どうせならアルコールといきたい所だが流石にね?
「今までどうしてたの?」
「ここの地下に他の装者と一緒に軟禁だよ。肩が凝っちまうぜ」
肩が凝るのは物理的な原因が有るのではないだろうかと、喉元辺りまで登ってきた言葉を飲み物と一緒に飲み込んでしまう。
「そう、じゃあ皆とはしっかり話せた?」
「話したと言うか、あの馬鹿を筆頭に質問攻めで休まる暇もねーよ。何なんだよあいつらは」
「楽しそうで何より。きっと響ちゃんなんかはクリスと仲良く成りたいのよ。そのためには自分を知ってもらって、相手のことを知ろうとする。多分質問とおんなじぐらい自己紹介されたんじゃない?」
「あんだけ何回も言われれば嫌でも覚えちまうよ」
嫌そうな顔をしても言葉尻に嬉しさが隠しきれないのがやっぱりクリスらしい。
さてと、気は進まないけど嫌な話はさっさと済ましてしまいましょう。
「慎次くん、ちょっとご飯取ってきてくれない?」
「はい? ……わかりました。今から取りに行ってどれぐらい時間かかると思いますか?」
「そうね一五分ぐらいじゃないかしら」
わかりましたと、私を少し端の方に移動させ、そのまま離れていく慎次くん。もちろんクリスにもついてきてもらってるけど私達の意味の分からない会話によくわからない顔をしている。
「さてクリス。少し嫌な話をしようか」
空気の変わった私にクリスの顔も真剣なものになる。
「あなたはこれからどうするの? フィーネの仲間としてノイズを操ってきた雪音クリスは」
突きつけられた言葉に目の前のクリスが文字通り固まる。幸い手に何も持っていなかったから良かったけど、グラスでも持っていようものなら惨事だったかもしれない。
「…………」
言い訳も疑問も返ってこない。そうだろう。そうして溜め込んでしまうのがこの子の悪い所だ。
「私は皆ほど優しくなくてね、なあなあで終わらせてはいけない」
「あ、アタシは……」
これ以上の追求はしてあげない。これは彼女が立ち向かい、考え、超えていかなければ行けない壁だ。
「アタシには、幸せになる権利なんて無いと思う……。アタシがソロモンの杖なんて起動させなければこんなことにはならなかったはずだ……。だからこれから一生この罪を背負っていきていかなきゃいけないんだ」
語尾を強めても声は弱々しいし、そんな青い顔して何言ってるんだか。て追い詰めた私が言うセリフでも無いけど。
「そうね、肯定一つ、否定一つ」
「んだよそれ」
「肯定するのは貴方の罪。そうね確かにどんな願いが元にあろうとクリスがしたことは許されない事かもしれない。その過去はあなたが背負わなければいけない」
ここで言葉を切れば今にも沈み込んでしまいそうな小さな女の子がいる。
「否定するのは幸せを拒否すること。罪を背負ったからって幸せになっちゃいけないなんて事絶対にない。きっとこれからの人生色んな所で貴方の過去が貴方を苛むでしょう。でも、それに負けちゃいけない。そんなものを取っ払って貴方は幸せに向かって生きなきゃいけない」
「言ってること意味わかんねえよ……」
「きっと、貴方にこれまで関わってきた人たちは皆いい人ばっかりだったと思う。みんな貴方の幸せを願っている。だから過去の罪に負けちゃだめ。頑張って歯を食いしばって幸せを掴むために生きていくしか無いのよ」
「辛い生き方だな」
真っ直ぐにこちらを見つめてくる。まるで私を通して何かを見ているかのように。
「そう、しんどい生き方よ。だから辛くなったら誰かを頼りなさい。装者に皆でもいいし、頼りないけど私でもいいし。何が合っても過去のために未来を潰すような生き方だけはしちゃだめよ」
考えがまとまらないのだろう。考え込みながら向こうへ歩いていく。自分の事を棚に上げて最低なことをしている自覚は有るけれど、それでもきっといつかは必要なことだ。人間逃げ続けることは出来ないんだ。
「随分とスパルタだな」
「指令、まあ嫌われるのも年上の仕事ということで」
声のする方を見れば指令と律儀に摘むものを更に盛って来てくれた慎次くんがいた。
「さて、紫香君も話ばかりで疲れただろう、特別に俺が外を案内してやろう」
「……了解です。慎次くん料理ありがと、もらうわ」
慎次くんから皿を受け取り二人パーティ会場を後にする。
「しかし、クリスくんに厳しすぎないか? 何もこんな時に突きつけなくてもいいだろう」
「こんな時だからですよ。きっとこのパーティは色んな意味で区切りになるでしょう。であれば何もせずに流してしまえば何時か爆発してしまうかもしれない。そうなる前に考えを理解している人間が居ると、否定も肯定もせずに伝えてできるだけ長く考える時間を取ってあげなきゃいけないと思います」
「難しいな……」
「残念ながら殴って解決する問題では無いですからね」
頭を掻きながら難しい顔をしている指令はまるで思春期の娘に悩む父親のようだ。
そんな、なんとも言えない空気のまま私達は仮設の喫煙所に着いた。なんとなくそんな気がしたので皿の上の料理はすでにすっかりお腹の中だ。食後ということで指令には申し訳ないが一服させてもらいながら本題に入る。
「さて、おまたせしました。あそこではしにくい話とは思いますが、なんでしょうか」
「……君は今自分が生きていることを不思議には思わないか?」
おっと、いきなりなんで生きてるんだ。なんて質問が来るとは思わなかった。普通であれば暴言な気もするけど状況と、言ってる人が人だしね。
「うーんと、あの戦いでの負傷がってことですか?」
「そうだ、医療版からも君の回復の仕方は異常との報告があった。様々な検査を行ったが……」
「融合症例とかですか?」
「……! 分かっていたのか」
「自分の体ですから」
あの日私は明確に死んだという実感が有る。それも二回だ。腹を貫かれ、星すら砕くような熱線を浴びたのだ。例えシンフォギアを纏っていたとしても生きている方がおかしいだろう。
「検査の結果、君の症状は響君とも違うということが分かった。君の場合は君自身から微弱な聖遺物の反応が確認された」
「私自身から? そりゃまた不思議なことで」
何だそりゃ? 確かに響ちゃんの様に聖遺物が体内に埋め込まれてるなんてことは無いはずだけど。
「聖遺物人間てことですかね? まさかシンフォギア装者より先に人間やめるとは思いませんでしたよ」
軽い感じで返せば、指令の方からお怒りの雰囲気が漂い始める。こりゃまた言葉のチョイス間違えたかな
「どうして君はそう自分のことを軽く見るんだ! 君のおかげでリディアン関係者や二課からの犠牲者は抑えられただろう。だが、その引き換えに君は……!」
「大丈夫、大丈夫ですよ。だって、人でなくても人は愛せますから」
一歩間違えれば人でなしになっちゃいますけどね、とは口に出さない。
「君は……、君ってやつは……!」
その後の話を聞けば、これ以上のことはそれこそ了子さんでもないとわからないと、一旦は要観察で保留となった。
気分転換とはいかないけど聞きたいことを聞いてみた。
「指令は、了子さんとちゃんと話せましたか?」
「……どうだろうな。俺は了子君の事をちゃんと理解しようと出来ていたのだろうか」
人間的な弱さはどれだけ鍛えても守れないものだ。それこそ鬼にでもならなければ。
「理解なんて出来ませんよ。恋する女の心なんて男性が完全に理解できるわけないんですから。少なくても指令が了子さんとの時間をどう思っているかですよ」
「難しいな……。あれは俺にとっても代え難い時間だったと思う。彼女に取ってもそうであれば良いのだが」
「何時か聞きに行きましょう。美味しいお酒とおつまみを持って」
しんみりとした雰囲気で指令とのお話は終わっていった。
これで大体終わって後は意外と飛び込んでこない響ちゃんの頭でも撫でて終わりかなと思って会場に戻れば神妙な顔をした響ちゃんが向かってくる。
「お久しぶり響ちゃん。いの一番に来ると思ったから意外だったわ」
「私は紫香さんが笑ってるのを見れたから大丈夫です」
なにか言いにくそうする響ちゃんを不思議に思っていれば響ちゃんに隠れたもうひとりを見て合点がいく。
「……久しぶりね、小日向さん」
「……はい、お久しぶりです……」
気がつけば喧嘩別れしてしまっていた未来ちゃんがそこにいた。
「紫香さんも入院されていたんですね。もう大丈夫なんですか?」
「ありがとね。もう大丈夫よ。小日向さんも学校があんなことになって大変だったでしょ?」
見事なまでの上っ面の会話だ。向こうからしたら響ちゃんの付き合いで挨拶に来ただけでしょうしさっさと切り上げるとしますか。
「小日向さん、もう大丈夫だから、響ちゃんと楽しんでらっしゃい」
そう声を掛けても下を向くばかりで動こうとしない。じゃあ仕方ない
「私も、そろそろ行くわね」
そう言いながら車椅子を反転させようした時だった。
「待ってください!」
思いがけない大声に止まってしまう。
「私、私ずっと謝りたくて……! 響から聞きました、機密で何も言えないのに私にできるだけ話そうとしていてくれたことを……。なのに私あんなひどいこと……」
これは気まずい。あれは私が悪いと思ってたから謝れるほうがむず痒い。
「それにリディアンで血まみれで運ばれてきてもう謝ることも出来ないかと思って、目を覚ましたと思ったらいつの間にかいなくなってましたし……!」
あの時は完全に未来ちゃんのこと頭から飛んでたしな……。しかし、泣くのを我慢している未来ちゃんが少しずつ周りの視線を集め始めてるし、なんとかしないと私のメンタルがやばい。
「じゃあ、仲直りしましょう。貴方はひどいことを言ってしまった。私は嘘を付いてしまった。お互いに謝って終わりにしましょう」
「でも、その嘘も私の為だって……」
うーん、思ったより強情だ。
「じゃあ、一つお願いを聞いてくれるかな?」
「私にできることなら何でもします!」
「また、名前で、未来ちゃんて呼んでいい?」
そう言うとぽかんとした顔をして動きが止まる。そのチャンスを見逃さすずに半ば無理やり手を取って握手する。
「はい仲直りっと」
「え、でも……」
「うわぁぁん! 未来と紫香さんが仲直りできてよかったー!」
当事者の私達以上に喜んでいる響ちゃんが飛び込んでくる。それでもまだ唖然としている未来ちゃんに声を掛ける。
「仲直りしてもう一度お友達に成りましょう。今度は皆でお出かけでも行きましょう」
「……はい! よろしくおねがいします!」
やっと笑ってくれた。やっぱり人間笑顔が一番。
これからも色んなことが変わり変えられるのだろうけど、まずはできる限りの元通りで喜びましょう。