誤字報告ありがとうございます。いつも勉強になります。
感想とここすきも読者の皆さまの意見が直接聞けるので非常にありがたいです
問答無用
押し通る
2.9 手に入れた優しさ、失った温もり
「リンカーが足りない?」
「ええ、正確にはその材料がということですが」
朝っぱらから見たくもないウェル博士の顔を見せられたどんな話かと思えば。
「でどれぐらい足りないの?」
「そうですね……。おそらく後一回、二回程度と言ったところでしょうか」
はあ!? 何よそれ。早い話がもうまともに戦闘できないってことじゃない。少なく見積もっても後三回以上は必要なはず。資金だけじゃなくて物資まで何も考えてなかったていうの?
「本来ならもう少し余裕はあったんですがね。どこぞの誰かが乗り込んできて全部おじゃんです」
「……なるほどね。どこぞの誰かには困ったものね」
「少しは悪びれたりしないのですか?」
「残念ね、そんなことしたら足元見られるような職場に居たからね」
とは言っても結構マズイ事態だ。これからリディアン襲撃から続くネフィリムとの初戦、その後のザババコンビと響ちゃんとの遭遇戦。言わずもがなの最終決戦。どう考えても足りない。最悪最後はセレナちゃんだけで戦うことになってしまう。
「で、そんな事を私に話してどうしようっていうの? 普通ならスポンサー様にお願いするのが筋じゃないの?」
「スポンサーなんてそんな。私達の仲間はここに居るだけですよ」
どう考えてもそんなはずはない。知ってる話は置いておいてもこれだけの人数で最新鋭の聖遺物を使った輸送機の運用なんてできるはずもない。この場で欧州の方のお仲間の話をしてあげてもいいけどそれはそれで面倒くさいことになりそうなのよね。
「まあいいわ。で私に何をさせようっていうの?」
「やっと本題に入れます。貴女の職場、ああ元職場でしたね。そこから物資を頂戴できないかなと」
「材料なんて私知らないわよ」
「ですので、リンカー本体を持ってきてもらえば。向こうにもリンカー使用者が居るそうじゃないですか。向こうの戦力をそいで、こちらの物資を補給する。一石二鳥の良い作戦かと思いますが?」
「前提が敵の本拠地に乗り込むって前提がなければだけれどね。取り敢えずすぐには無理よ。流石に少しは準備しないと」
「ええ、お願いしますよ? ああ、もし行かれるのでしたらそのまま元の鞘に戻られても困りますしそれなりの対応はさせて頂きますよ」
勝手にしなさいと、適当に手を振りながら部屋を出る。何が楽しくてクソ野郎と密室で二人っきりにならないといけないのか。このストレスは誰かを可愛がって発散としましょうか。
さてこういう時は誰にちょっかいかけましょうか。調ちゃんは本人には悪いけどフィーネの顔がちらつくからパス。切歌ちゃんも基本調ちゃんと一緒に居るし保留。流石にナスターシャ教授とキャイキャイできるほどの関係でもないし、マリアかセレナちゃん先に見つけた方にしましょうか。
そんなわけで宛もなくフラフラ。このアジトもそこまで広くないし居る可能性が高い場所を重点的に探せばすぐ見つかるでしょうけどどうせなら運命的な出会い方の方が面白そうなのよね。そんな事を考えながら曲がり角を何も考えずに曲がった先で小柄な影に体当たりをもらってしまう。
「おっふ」
「きゃあ!?」
どうやら飛び出してきたのはセレナちゃんのようだ。こんな風にやんちゃな子じゃなかった気がするんだけどなあ、いや私の記憶違いか?
「ごめんなさ……あ!」
謝られたかと思えば最後にキャンセルされて、一瞬の驚きの後なんとも言えない表情になる。この子怒ってる?
「あ、う……。ごめんなさい!」
そのままバチン! と謝られながらビンタを食らってしまった。唖然としてる間に向こうへ走り去ってしまった。
「セレナ! てお姉様!?」
「ああそう、なんとなくだけど貴女が原因ね? さ、話してもらいましょうか」
マリアを連れて簡易の喫煙所に。換気設備もクソもないので外に撒き散らすだけだけど勘弁して欲しい。
「で、私はいきなりセレナちゃんに謝られながらビンタをされました。その後追いかけてきた貴女の態度見るに姉妹喧嘩? だとすると私が叩かれる理由がわからないけど」
セレナちゃんが八つ当たりで私を殴るとは思えないし、装者の中でそんな八つ当たりしそうなの……私ぐらい?
「……全部私が悪いの。この前私が起きる前にお姉様が起きていて、そこに調が来たことがあったでしょ? あれ以来調と切歌、セレナが私に疲れているようならお姉様の監視を誰かに任せてちゃんと休むようにずっと言ってくるのよ。それで少し言い合いになってしまって」
あんだけカッコつけておいて初っ端から監視対象ほったらかしで熟睡は怪しいわよね。いや、怪しいと言うよりは心配なんでしょうね。それでいきなり姉の不調の原因と思われる私が突然出てきて勢いで、てところかしら? この子達はお互いの信頼しあってるもんね。この事を真正面からマリアに投げつけるとこの子また落ち込むでしょうしそれでまたやけ酒でもされたら溜まったもんじゃないわね……
「いいマリア? みんな貴女が心配なのよ。ここにいるみんなは貴女のことが大好きで、心配で、大切だからここに居るの。そんな貴女が疲れてるかもしれないと思ったら諌めるのは当然でしょ? だからね、ちゃんと受け止めて上げて、そして心配ないなら話してあげなさい。たとえどんなに深い関係だろうと自分の考えを話しもせずにわかって欲しいなんてそんな傲慢考えちゃ駄目よ?」
「で、でも私が弱音を吐いたら……」
「弱音を吐きたくないなら微塵も表に出しちゃ駄目。それができないのならちゃんと話してきなさい。それは弱音じゃなくて相談なんだから」
我ながら良いことを言えた気がする。マリアこのFISの中心だもんね。それはきっとフィーネを騙っているからじゃない。みんなが、みんなの事を大好きなマリアが大好きだからだ。きっとこの子はそれの受け止め方を知らないだけだ。
脳内で自画自賛していたら、胸にマリアが飛び込んできた。
「ごめんなさい。少しだけこのままで……」
「はいはい、こんな胸で良ければいつでも貸してあげるから」
泣いているわけでもない。でもきっと今マリアは自分の中の何かと戦っているのだろう。板挟みはしんどいもんね。ましてや自分の肩に全世界の命なんて大層なものを載せられているなら尚更だ。私なんて両手の指でも余るぐらいの人数を支えるだけで一杯一杯だ。
「……ありがとう」
少しの時間を置いてマリアは私の好きなかっこいいマリアに戻っていた。
「どういたしまして。さっきも言ったけど辛くなったら限界来る前に言いなさい。可愛い妹のラブコールなら世界の裏側どころかお月さまにだって飛んでいってあげるから」
「ふふ、本当に飛んできそうでおっかないわね」
こんな私でも少しは役に立てたかな?
「でも……。お姉様やっぱりタバコ臭いわ。匂い移ってないかしら、セレナに臭うって言われたらどうしましょう……」
「あー、それはもう諦めて。」
匂いが移るようなことしていたのかって問い詰められたら非常に厳しいけど、多分みんな純粋だし大丈夫だと思いたい。ガングニールに選ばれた実はエロい候補のマリアもコッチ側だし。
「ねえ……、タバコってそんなに美味しいの?」
「ばかねえ。マズイ、臭い、高い、健康に悪いで良いことなんて欠片もないわよ。吸いたいなんて言ったら怒るからね」
「先回りして言わなくてもいいじゃない。ちょっと、ちょっとね? お姉様と二人で喫煙するのに憧れちゃって」
中学生か、かっこいいからでタバコ吸い始める中高生にしか聞こえない。でもこの子はそんな当たり前の生活も何もかも奪われてきたのよね。それにもう成人もしてるしなー
「基本的には反対。貴女はシンフォギア装者である前に歌手何だから。もっと喉を大事にしなさい」
こればっかりは譲れないので少々きつめにお説教。歌姫がタバコにハマるとか悪夢でしか無い。しかも自分が原因となれば余計にだ。ただ、怒られてシュンとしているマリアをこのままにしておくのもなあー。この子他の子よりメンタルが適合係数にダイレクトに効いてくるはずだし。
「しかたない、今の騒動が終わって万事解決してたら二人で一本だけ吸いましょうか?」
「良いの?」
「良いか悪いかで言えば悪いし、それまでに心変わりしておいて欲しいけど。これから大変だもんね。はい指切り」
二十歳すぎとアラサーの高身長二人が廃工場の隅っこで指切りげんまんしているなんてなかなかシュールな光景かもしれないけど、こんな楽しそうな顔見せられたら仕方ない。
あっ、
「そうだマリア、この後ちょっと付き合ってほしいんだけど」
私がマリアの厄介に首を突っ込んだんだ。次はマリアに私の厄介に首を突っ込んでもらおう
今日で姐さんが居なくなってどれぐらい経つんだろう。最初の方は怒りがきて、その後クリスから聞いた話で本当に姐さんが私達を裏切って、しかも自分の意思で向こうに着いたって分かってアタシの心は悲しさと寂しさで溢れていた。こんな時最年長のアタシがちゃんとしないといけないのに何もできないでいる。それどころか一番年下で新人の響に励まされている状態だ。
「アタシがこんなんだから姐さんも見限っちゃったのかな……」
この時間帯は他のみんなは登校していて本部には居ないのがありがたい。今更かもしれないけどこれ以上情けないところは見せたくない
「奏さん、大丈夫ですか?」
「緒川さん……」
今はツヴァイウィングも開店休業状態。そっちの活動はなにかあるとマズイからって理由でなにもない。仕方ないことなのはわかるけど全力で歌うこともできずにモヤモヤだけが溜まっていく。
「気にするなとは言いません。でも相談ぐらいしてくれても良いんじゃないですか? これでも貴女達のマネージャーですから」
緒川さんは流石だ。姐さんが居なくなっても何も変わらずちゃんとやるべきことをやっている。今二課全体で多かれ少なかれ姐さんの居なくなった影響が出ている。仕事の多さはわからないけどいつもどおりなのは緒川さんとダンナぐらいなもんだ。これが大人の余裕ってやつなのかね?
「……大丈夫さ、まだちょっとびっくりしてるだけだ。もう少ししたら元通りにできるはずさ」
「申し訳ありませんがその様には見えません、もちろん奏さんだけの話ではありませんが」
そうだろうな、装者の中で一番マシなのは響でそれ以外はひどいもんだ。直接会って話したからかクリスは少しずつ元に戻り始めているけどアタシと翼は駄目だ。何をしたらいいかすらわからない。
「……なあ、今から独り言言うから聞いてくれるか?」
「もちろんです」
「ずっと考えてたんだ。どうして姐さんが私達を裏切ったんだろうって。最初はいつもの悪ふざけかと思ったけど、姐さんは大事な時に巫山戯るような人じゃない。なら、なんでだろうって。もしかしたら本当は正しいのは向こうで、アタシ達が間違っているのかな」
緒川さんは何も言わない。そりゃそうかあくまでこれはアタシの独り言だ。それに返事するわけには行かないか。
「本当はどっちが正しいかなんてわからない。でもあいつは、マリア・カデンツァヴナ・イヴはアタシ達のライブを、夢の舞台をめちゃくちゃにしたんだ。それだけでもあいつらが正しいなんて思えない。なら……」
言いたくない。こんなこと言いたくない。でも一度話し始めたら止める方法なんてわからない。
「アタシ達は駄目だから、情けないから見限られたのかな……。この前電話で言われたアタシ達は捨てられたって、それがもし本当なら……」
「そんな事はありません。ありえません。あの人はそんなことで貴女達を見捨てるような人ですか?」
我慢できなくなったのかな。緒川さんにしては珍しく強めの語気で返される。
「そんなこと思わないよ。姐さんがアタシ達を裏切るより、アタシ達が姐さんを裏切る方がまだあり得るなんて思ってたぐらいだ」
姐さんが二課に来始めた時アタシはまだ荒れていた。翼もそんなアタシに怯えてか遠慮してか、会話もほとんど無いような状態だった。そんな時に姐さんは私達の間にいつも居てくれた。何も言わずに話を聞いてくれたり、訓練を抜け出して三人で街に遊びに行ったり。結構な頻度でダンナに怒られていたけどいつも笑顔だった。そんな関係が長く続いていつしかアタシは姐さんて呼ぶようになっていた。翼ともただの同僚から友達に、相棒になれた。距離感を感じていた二課の人達ともいつの間にか笑って話せるようになっていた。そんな関係がずっと続くと思っていた……
「だからさ、姐さんがここを出ていくなんてアタシ達に理由があるとしか思えないんだ……」
緒川さんも難しい顔をしている。そりゃそうだ。いきなりこんな面倒くさい話をされても困るだけだな。
「ごめん、忘れてく……」
「それを立浪さんに聞かれたんですか?」
これまた緒川さんにしては珍しくアタシが話し終える前に質問してきた。
「何言っているんだ。アタシが姐さんに会えてないの知ってるだろ。それに聞いた所で他に理由なんておもいつかねえよ……」
クリスが姐さんに会ったってのはまだ他の人には秘密だ。でもアタシはもう一度会えたとしても話せないと思う。
「では、機会があれば本人から聞いてみてはどうですか?」
「それは……」
学園祭に来るって話を聞いた時は興奮というか驚きしかなかったけど時間がたって冷静になってくれば恐怖が襲ってくる。
もし、もしも面と向かってお前は不要だ。もうお前の姉でもなんでもない。なんて言われたら立ち直れない気がする。
「怖い、怖いんだ……」
「……そうですか。では、僕はこれ以上は何も言いません。きっと奏さん自身で答えを出さないといけない問題でしょう」
そう言われて会話が途切れる。分かってる、分かってるんだ。いつかどこかで答えを出さなくちゃいけないって。でもできるのなら、その機会はできるだけ遠くにあって欲しい。
二人共無言になって数分、突然二課全体に警報が鳴り響いた。
「……緒川さん!」
「はい!」
何が合ったかは知らないけど、ストレス発散に付き合ってもらうぞ!
司令室に入っていつも以上に騒々しい状況に違和感を覚えた。ノイズや敵装者の出現でもここまで慌ただしくなかったはずだ。
「ダンナ、どうしたんだ」
「ああ、この二課本部に侵入者のようだ。補給のために港に入ったタイミングを狙われたようだ」
「な!?」
今まで本部に敵が来たことなんてそれこそあの時のフィーネぐらいだ。一体どんなやつが、やっぱりマリア達の一味か?
「襲撃者の映像出ます!」
友里さんの声に全員の視線がメインのモニタに集まる。そこに映されていたのは考えないようにしていた最悪の来客だった。
「そ、そんな……」
『ちわーす、三河屋でーす。お土産貰いに来ました―』
『もう少し、緊張感というものはないの?』
そこに映し出されていたのは、仲よさげに話しながら廊下を走っている姐さんとマリア・カデンツァヴナ・イヴの二人だった……