小さな親切、大きな愛 [G編]   作:冬眠復帰

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コメントで貰った内容で紙は細部に宿る。という言葉を思い出しました。

指の先まで文字の一つまで意識できるように努力していきます


2.10 思いの重さ

積み重ねてきた時間

積み重ねられた重さ

 

 

2.10 思いの重さ

 

 

「ちわーす、三河屋でーす。お土産貰いに来ました―」

 

 なんて適当な事を言いながら懐かしき我が元職場を走り抜ける。緊張感が無さすぎるせいかマリアに小言を言われるけど気にしなーい。

 

「でもおかしくない? 私とお姉様が侵入していることは向こうも把握しているはず。なのに今まで何も無いなんて流石に怪しくないかしら?」

 

 マリアの言うことももっともだ。最初に入り口が何事もなく開いた時点で怪しかったけどここまでくればほぼ間違いなく泳がされているでしょうね。予想では警備員か慎次くんあたりが来ると思っていたけどさてはてどうなることやら。

 

「邪魔が無いことは良いことでしょ。多分もうバレてるだろうけどそれでもこのまま一気に目的地に一直線しちゃいましょう」

 

 マリアを引き連れながら目的のリンカー保管庫に向かう。あそこは他にも色々保管していて職員が常駐しているはずなんだけど……

 

「ここももぬけの殻と。これは行きはよいよい帰りは怖いになりそうね」

 

 そう言っても今更どうすることもできないわけだし、目的の物を回収してトンズラこきましょう」

 

「お姉様、全部持っていかなくていいの? これがなければ向こうの装者を一人戦力外にできるわよ?」

 

「だからよ。そこまでやってしまえば向こうの追手も激しくなるでしょうし何事もいい塩梅てもんがあるのよ」

 

 納得してくれたのかそれ以上の追求もなく二人来た道を引き返す。ここで全部持っていっちゃうと今後の奏ちゃんの活躍がなくなっちゃうし、助けてもらわないといけないことも多いでしょうしね。

 帰りもまた妨害も戦闘もなく出口が見えてくる。さて、このまま帰れるなんて都合の良いことは無いでしょうけど、何が出ることやら。

 

 

「そこまでです。紫香さん」

 

「…………」

 

 出口を出て外に出たかと思えば門番二人。慎次くんに奏ちゃんか。ほかの装者が学校に行ってる時間だし当たり前といえば当たり前だけど。

 

「はーい、ちょっとこれが入用になっちゃって。全部とは言わないからちょっと分けてね」

 

 いつもどおりに軽口を叩いてみたけどリアクションが返ってこない。奏ちゃんなんてさっきから俯いちゃってどうしたんだろう。

 

「……あくまでそのような態度ということですね、わかりました。僕も思うところがあるので本気でやらせてもらいます」

 

 ……あれ? 慎次くんなんかマジじゃない? 流石に荷物抱えながら本気の慎次くんの相手するのはきついんだけど。

 

「どうした、天羽奏。貴様は何をしに来た。何もしないというのなら邪魔だ下がっていろ」

 

 マリアが奏ちゃんを挑発するけどこれまた何の反応もない。体調でも悪いのかな?

 

「……姐さん、あんたはなんでそこに居るんだ……?」

 

 久しぶりに聞いた奏ちゃんの声はいつもの明るさも何もなく暗く重いものだった。

 

「……弦十郎さんから聞いてない? 色々あってこうなっちゃったのよ」

 

 取り敢えずはいつもの感じで答えるけどそれを聞いても奏ちゃんは俯いたままだ。

 

「……ハハッ、アタシが甘かったんだな。面と向かって話せばちゃんと教えてくれるって、答えてくれると信じてたんだけどな……」

 

 なんか思ってた以上にやばい感じ? 異様な奏ちゃんの雰囲気に慎次くんもマリアも動くことも話すこともしない。怒られるぐらいは覚悟してたけど何か想像していたのものと違うんだけど。

 

「奏ちゃ……」

 

「その呼び方でアタシを呼ぶな!!」

 

 もう一度問いかけようとしたら遮っての拒絶が飛んできた。

 

「姐さん……、いや。立浪紫香!! アンタはアタシ達を裏切った敵だ! 馴れ馴れしく呼ぶんじゃねぇ!!」

 

 叩きつけるように叫ばれた言葉に私の体は固まってしまう。

 

「もうアンタなんか知らねえ! 敵ならアタシがぶっ飛ばしてやる!!」

 

 そう言いながら奏ちゃんはシンフォギアを纏う。それを見ても私は何もできずに立ち尽くしている。ここに来る前に念の為にとマリアからシンフォギアを返してもらっては居た。だけどそれを使おうと思えないし体も動けない。

 

「お姉様! ……チッ!」

 

「申し訳ありませんが、お二人の邪魔はご遠慮願います」

 

 マリアがガングニールでこちらに加勢しようとするが慎次くんに止められる。いかに今のマリアが強くても一対一で慎次くんを抑えるのは至難の技でしょう。

 そんな周りのことばっかり頭が回って未だに奏ちゃんに叩きつけられた言葉を飲み込めない

 

「え……、あ……」

 

「いつだってそうだ! アンタはアタシ達の考えなんて、どう思ってるかなんて考えもしない!」

 

 奏ちゃんがガングニールを構える。私も構えないと。でも何を?

 

「うわあああぁぁぁ!!」

 

 奏ちゃんが叫びながら駆け出している。目標は私だろう。早く、早くシンフォギアを構えないと……。でもどうやってシンフォギアを使うのかわからない。

 

 

 

 そして、ドチャ、と生々しい音が辺りに響いた。

 

 

 私の胸の中には奏ちゃんが居る。その手に持つガングニールの穂先は私のお腹から消えている。

 

「ガハァッ……!」

 

 吐き気とともに咳き込めば口から赤色を撒き散らしている。それと同時にお腹の辺りがすっごく熱くてとっても寒い……。

 

「お、お姉様!?」

 

 マリアの叫び声が聞こえる。ようやく理解できた。私、奏ちゃんにガングニールで刺されたんだ……

 

「な、なんで、何もしないんだよ!? 避けるなり受けるなりできるだろ!?」

 

「……しないんじゃなくて、できなかったんだよ……」

 

 話すだけでもかなりしんどい……。でも言わないと、言っておかないと……

 

「いい……? こんなこと人相手にしちゃ駄目だよ……。私は人でなしだから良いけど……」

 

「な、何言ってんだよ!?」

 

「私はみんなを置いていったことは謝れない……、でもね……? ここまで追い込んでしまってごめんなさい……」

 

「違う! そんな事を言って欲しかったわけじゃないのに! ああ……、アタシ、アタシは……」

 

 少しずつ意識が遠くなり始める。これは久しぶりの感覚だ。死んだかな?

 

「私が言えたセリフじゃないけど……、このことで思いつめなくてもいからね? 貴女自身が許せなくても、周りが許さなくても……、私が貴女を許すから……」

 

 そこで私の意識を途切れた。最後に見えた奏ちゃんは泣きじゃくっていた。どうせなら最期は笑顔で見送って欲しいなんて望むだけでもバチが当たるかな?

 

 

 

 

「……う、ここは……?」

 

「起きたか、馬鹿者」

 

 最悪な寝付きから起きてみればどうやらFIS組のアジトのようだ。

 

「どこまで覚えている?」

 

 目の前に居るのは調ちゃんだけど、話し方的にフィーネの方だろう。

 

「二課に侵入して帰り際に奏ちゃんに刺されて意識が失うところまでかな」

 

「なるほどな。その後マリアがなんとか貴様と荷物を回収してここまで戻ってきた。向こうも混乱していたのだろう。追手もなく逃げ切れたそうだ」

 

「それはまたお荷物になっちゃったわけだ」

 

「血まみれの貴様を抱えて必死に逃げてきたのだ、後で礼ぐらい言っておくのだな」

 

「もちろん」

 

 そう言いながら寝かされていたベッドから起き上がる。起き上がる時に痛みを覚悟していたけど特になにもなく起き上がれてしまった。気になって服を捲ってみれば傷跡すらほぼ残っていない

 

「フィーネなにかした? 流石に寝て起きたら治っているレベルじゃなかったはずだけど」

 

「何もしていない。自分の体質を思い出せ」

 

 体質……、ああ融合症例か。確かもう少ししたら響ちゃんも腕一本生やしてたし私も順調に人間離れしているわね。

 

「それにしても傷跡までに残らないなんて、貴女に焼かれた顔は残ってるわよ?」

 

「おそらく死にかけてより融合が深まったのだろう」

 

 思っていた以上に人間離れは早いようだ

 

「思い出しようだな。ならそっちの話は置いておけ。それより貴様自分のしでかした事を認識しているか?」

 

「……あそこまで奏ちゃんが追い込まれていたなんてね、これ私が原因よね?」

 

「確証を持てない辺り精神面でも貴様は人でなしのようだな」

 

 心底呆れるようなフィーネに反論したくなるけど状況が状況なだけに唸るぐらいしかできない。

 

「知らぬ中でもあるまい。面倒だが教えてやろう」

 

 親切心だろうか、わからないけど素直に聞いておこう。

 

「貴様はいつも誰かの心のスキマにそっと忍び込む。貴様自身にその気はなくても弱っている人間に欲しい言葉を投げかけ自分だけは味方だと、心当たりはあるだろう?」

 

 言葉にすれば悪徳詐欺師にしか聞こえないが、今までを振り返ればそう見えるのだろう。

 

「そこまではまあいい、しかし貴様はその後が酷い。釣った魚に餌をやらないどころではないぞ? 二課を裏切ってあそこにる装者共がどう考えるか考えていたのか?」

 

「相談もなしでいきなりだったり怒られるかな、ぐらいは考えていたわよ」

 

 私の返答に本日何度目かわからないため息で返されてしまった。

 

「あそこに居る連中は多かれ少なかれ貴様に依存していたのだ。それはそうだろうな? 辛い時に手を差し伸べてくれた自分の事を心配して考えてくれる人。幼い装者達ならベッタリと信頼するだろうな? そして貴様はそれを最悪の形で裏切った。どんな気持ちだろうな? 今まで最大の理解者だと思っていた貴様がいきなり裏切り敵対行動を始めたのだ」

 

 フィーネの言葉に刺された以上に胸が痛くなる。

 

「で、でも、みんな強い子じゃない? 私一人いなくなっても……」

 

「それが貴様の罪だというのだ。今まで信じ、心が通じていたと思っていた人に何の説明もなく裏切られた者の気持ちを考えたことがあるのか?」

 

 そこまで言われてやっと理解できた。どうしてフィーネがここまであの子達の肩を持つのか。そうか今の私はあの時のエンキで奏ちゃん達はフィーネなのか。いや、これは私のわがままだ。一緒にしてはエンキに失礼だ。

 

「そう……、そうなのね。私はそこまで酷いことをしたのね……」

 

「やっと理解できたか愚か者め。いやはや、貴様がそこまで酷いことができると思わなかったぞ?」

 

 どうすればいいのだろう、今の私には何もわからない。でもフィーネに聞くことができないなんてことぐらいはわかる。

 

「どうする? 二課に戻って土下座でもしてくるか? 今度はこちらを裏切って元に戻るのも一興だと思うぞ?」

 

 ……ああ、きっとこれはフィーネなりの優しさなのでしょうね。

 

「流石にそこまで恥知らずじゃないわ。今更どうしようも無いけどせめて自分で始めたことぐらいはやりきらないと。その後生きていたらまたその時どうするかを考えるわ」

 

「開き直りか? 結局は何も変わらんぞ」

 

「かもしれないわね? でも自分のやらかしたことを突きつけられてコロコロ方針変えてたらそれこそ情けない」

 

「……そうか、なら勝手にすればいい」

 

 

「そうさせてもらうわ。……ありがとうフィーネ。貴女が友人でいてくれて本当に良かったわ」

 

「気持ちの悪いこと言うな。それではな、この体では夜ふかしも辛いようでな」

 

 そう言いながらフィーネは部屋を出ていく。監視はいいの? なんてどうでもいいことが頭を過るけどきっと私に考える時間をくれたのだろう。

 今日奏ちゃんに突きつけられて、フィーネに教えられた私のやらかしてきた罪。きっとこれは消えることないでしょうし、今だってあの子達の心にどんどん傷をつけてしまっているのでしょう。

 

「でも……、今やめるわけにはいかない」

 

 二課なんて言葉で隠して奏ちゃん達を裏切ったのも、マリアを見捨てれずに勢いで手を差し伸ばすどころか飛び込んでいったのも私だ。ならせめて最後にせめて誰も欠けることなくちゃんと生きていけるようにするぐらいは手助けをさせて欲しい。

 

「今回こそ命の使いどころかもね……」

 

 分相応に昔友を置いてでも私達の未来を願った彼に自分を重ねながらもう一度眠りについた。

 




色々迷う今日この頃
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