……最近これしか言っていない気が(
走り出したら止まらない
止まらないなら走るしかない
2,12 もう一度の始めの一歩
いやはや気まずい。いつぞやの時より気まずさがすごいはこれ。目の前にいる未来ちゃんはなんというか全身で怒ってますオーラがすごい。この子私より一回りぐらい年下のはずよね? さっきから気圧されて針の筵何だけど……
「えーと、未来ちゃんに会うのも久しぶりよね? 元気だった?」
「小日向です。ええ、どこぞの勝手にいなくなった人のせいで色々大変で毎日とても忙しいですね」
取り付く暇もない……。しかしだからといって今更どうにもならないしどうしたものかしら。
「回りくどいこと言って煙に巻かれるのも嫌なので単刀直入に聞きますけど、立浪さんは何をしているんですか?」
「大事なことだよ。今しないといけない、私がしないいけないことだ」
本当のことを言うわけにもいかないからこんな言い方になってしまい申し訳がない。けどまだ自分自身の意思でこちら側に踏み込んできていない未来ちゃんを無責任に巻き込むわけにはいかないんだ。
「そうやって、すぐそれっぽいこと言えば周りが納得すると思ってるんですか? 今回の立浪さんのやらかしのせいで響だけじゃなく奏さんや他の人もすごく困ってるんですよ? それでそんな言い分で納得なんてできません」
あ、はい。この歳にして年下の子に思いっきり説教されてしまった。別にそれで怒ったりはしないけどそれでもなーと、思うところはある。
「ちゃんと話しても良いんだけど未来ちゃんは受け止める準備は出来てるの?」
「小日向で……、もう良いです。それより受け止める準備ってどういうことですか?」
「私がしていることは、今二課が抱えている問題は重いものだ。それは関係者だからといって簡単に話すことは果たして良いことだと思う? こんな言い方はしたくないけど外野で見ているだけの貴女にできることも話すことも無いわ」
一気に言いきれば未来ちゃんの顔に一気に血が上るのが目に見えて分ける。この子もいつもはおとなしくて理性的だけど、時と場合によってはあの中で一番感情で動くような子だものね。
「わ、私が! どんな気持ちで毎日を過ごしているのかわかるんですか! いつも待つことしかできないのに……!」
こんな場所で急に立ち上がって大声を出すもんだから周りからの目線が痛い。私もおんなじような年齢で制服でも来ていたら単純な喧嘩で終わるんだけどスーツ姿の大人が子供に怒鳴られているのも些か以上に外聞が悪い。取り敢えずジャスチャーと表情で周りに謝りながら未来ちゃんに座るように促す。一度噴火したからか、素直に応じてくれる。
「まずはごめんなさいね。私は貴女の心の中まではわかってあげられない。でも同じ様に貴女も私の心まではわからないでしょ? だからこの話はここで終わり。少なくとも今、この場ではね」
そう入っても納得できないようで睨んでくる。それでもきっと心のそこから誰かを憎めないのかもしれない。どちらかと言うと迷っているような表情だ。
先程のお詫びも込めてメニューの中でも高めのものを二人分頼んでおく、注文を取りに来た子に軽く謝りも忘れない。
「……私はどうすれば良いんですか? 響やみんなが悩んで、苦しんでいるのに何もできない。私が部外者だから? 何をどうすれば良いんですか?」
先程までの詰めるようなものではない、それこそ泣きそうな声音で問いかけてくる。これからの起こるかもしれない流れを知っている身としてはどう答えたものか。やはりこういうときは後の事は考えず、目の前の事に集中するべきかしらね。
「あくまで他人である私から提案できる方法は2つ。一つは今の立場で出来ることを考える。もう一つは……」
「もう一つは?」
一つ目の提案はほとんど現状維持でしか無い。私の話し方のせいもあるかもしれないけど自然次の言葉を待つように期待を一握り交えてような視線が飛んでくる。
「渦中に飛び込む。単純で、でも困難な道のりよ」
私としては割と自身がある答えだったんだけど、どうやら未来ちゃん的には望んでいたものではなかったようであからさまに落ち込まれてしまう。
「それができれば苦労しませんよ……。できないからこうして悩んでいるわけで」
「そうは言うけど、本当に無理なのかしら? 貴女はどこまで真剣に事態に向き合ったの? どこかでできないことを勝手に決めてしまっているんじゃない?」
「……事態を引っ掻き回している紫香さんに言われたくありません……」
「ははは、それを言われると耳が痛い。命短し悩めよ少女、よ。そうやって悩めるのも若さの特権だから、贅沢に悩みなさい」
「悩むことに若さなんて関係あるんですか?」
「年を取るとね? 自分である前に肩書やら何やらがついてまわるの。そうでなくても年を取れば悩む前に今までの自分に結構な量を決められてしまうの」
あー、いやだいやだ、こんな年寄りくさい話なんてしたくないのに。せめてものカッコつけで伝票を持って席を立つ。首だけで後ろを見ても未来ちゃんは追いかけてくることもなく悩んでいるようだ。せめてあの子も自分に納得できる答えを見つけてほしいわね。
「ねえ、紫香? 貴女一体何しに学園に潜入してたの? 切歌と調は勝手に二課の装者に決闘をふっかけてくるし、監督責任て言葉はご存知?」
帰って誰かに癒やしてもらおうとアジトをフラフラしていればマリアに首根っこを掴まれて全員集まったところでお説教だ。
「紫香は悪くないです! 私達にお小遣いもくれたんデスよ!」
「切ちゃん、それは逆効果……」
「へえ、随分と優雅なことね、少し二人でお話といきましょうか?」
そのまま引きずられて居候しているマリアの部屋に連れ込まれる。このままお説教が続くかと思えばどうやらそんな単純な話ではないようだ。そこにいるマリアはさっきまでの凛としたものではなく、今に折れてしまいそうな儚げな女の子だった。
「……どうしたの? 今なら二人っきりだし、悩みごとがあるなら聞いてあげるわよ」
少し驚いたような顔をするけど、諦めたように苦笑して少しずつ話し始める。
「少しは悪びれてよね? 悩んでいるのはこのままで良いのかということ。仲間すら騙して敵対しているとは言え、直接ではないとは言え人を殺すのを受け入れてしまってどうしたら良いのかわからないの……」
もう少し詳しく話を聞くとどうやら侵入者が有ったようだ。そしてウェル博士がソロモンの杖を使って排除したと。目の前での直接人が死ぬのを見て心が弱くなっちゃってるのね。
「そうね、まずは。こっちを見なさい」
マリアにこちらを向かせ何かを待っている彼女に顔に平手打ちをパチン! と少し強めに振り抜いてしまう。
「自分で始めたことでしょう。ちゃんと直視しなさい。もしウェル博士がソロモンの杖を使わなければここにいる全員死んでいたかもしれないのよ。世界を敵に回してでも世界を救うというのなら相応の覚悟を持ちなさい」
限界まで溜まっていた何かが決壊しそうなのだろう今に泣き出して、崩れ落ちそうだ。そうなる前に少し力を込めて抱きしめる。
「でもね、何もかも貴女が全部背負う必要はないのよ? セレナちゃんも、切歌ちゃんも調ちゃんも貴女の頼れる仲間でしょ? ナスターシャ教授に嫌だけどウェル博士も貴女を信じているのだから。頼りないけど私で手伝える物があるならいくらでも背負ってあげるから」
ゆっくりとそう伝えて上げれば、私の腕を握る力が少しずつ強くなる。最後の意地なのか大声を出すことはなかっけどそれでも小さくすすり泣く声だけが静かな部屋に響く。
「もう、大丈夫よ、情けないところを見せてしまったわね」
「こんな胸でよければいくらでも貸してあげるわよ? どうせなら今晩一緒に寝てあげましょうか?」
「お姉さま! そもそもお姉さまが調と切歌とセレナをちゃんと帰らせていれば……いやでもいないほうが良かったのかもしれないわね」
「人が死ぬところなんて進んで見せたいものじゃないしね」
「まさか、そこまで考えて?」
「それは流石に買いかぶり過ぎよ。さ、今晩は二課との決闘でしょ? 今のうちに休んでおきましょ?」
そう話を少し強引に終わらせて部屋を出ていこうとする。
「……一つ聞かせて、お姉さまは人を殺したことはあるの?」
「女の過去を詮索するのは野暮ってものよ? ご想像におまかせするわ」
軽口叩いて部屋を出る。安心しなさいマリア。一人二人でそこまで悩める貴女はまだ戻れるから。私みたいに命を数字で数えだしたらおしまいよ。
時間も流れて深夜に近い時間。私の横にはマリアにセレナ姉妹、切調コンビ。退治するは二課の装者フルメンバー。全員律儀に決闘の約束を守ってくれたようだ。
こちらはともかく向こうの士気は非道そうなものだ。自分で言うものあれだけど特に奏ちゃんがやばいな。おそらく世界中の装者が全員集まって対峙しているけど、誰も何も話さず無為な時間が過ぎていく。流石にここででしゃばってペラペラ話せるほど厚顔無恥では無いつもりだけどこのまま時間だけが過ぎていくとリンカー組の多いこちらが不利になる。仕方ない始めるか。
なんて一歩踏み出せば、呼応するように向こうから響ちゃんが一歩前に出てくる。さてはて何をするつもりか。気になって少し見ていれば響ちゃんが大きく息を吸い込む。
「立花響!! ガングニールです!! 一番槍! 突貫します!!!」
そのまま言葉通りに大きく飛び上がって私めがけて飛び込んで来る! 急いで散開するように指示する、その一瞬のせいで私が逃げる時間は無いようだ!
「黄ぅ金の右!!!」
渾身の右ストレートをなんとか盾で受け止める。響ちゃんの突撃は向こうにとっても予想外なのかコンビネーションでの追撃が無いのは助かる。
「幻の左!!!」
「んな!?」
二発目は聞いてないわよ!なんとか受け切るけど地面が大きく凹む。ちょっと火力エグくない? なんてことを考えてたら響ちゃんの腕のアームギアが大きく後ろに伸びていった、って!?
「もぉういっぱぁっつ!!!!」
まさしくパイルバンカー。文字通りの一撃があたりに今までとは比較にならない轟音を響かせる。私は後ろに飛びながら勢いを受け流してなんとか五体満足だ。急いで前を見れば煙の晴れた中陥没した真ん中で響ちゃんが右手を上げて堂々と立っている。
「紫香さん! 貴女が何のために動いているかぜんぜんわかりません! でもいつかの約束を守りに来ました! 私が、紫香さんを止めてちゃんと話を聞かせてもらいます!!」
そう言いながら、右腕一本で飛び込んで来る。いやはや、本当に律儀なことだ。であれば私もちゃんと受け止めて上げましょう。
「そう簡単に受け止められるなんて思わないでね!」
同じく右腕一本で受け止める。勢いは向こうの方が上。だけどここで避けたり受け流したりするのは何より自分で許せない。
ガキン! と、先程までとは違う金属通しの重い音が響く。これ右腕折れたかな? それでも受け止められただけ良しとしよう。
「さあ、来なさい! 真正面から突っぱねてあげましょう!」
なんて啖呵を切ったけど返答を違うところから飛んでくる。
「今です! 行きなさい!」
突然割り込んできた男の声に意識を向けようとするより早く目の前、響ちゃんとの間に黒い壁が振ってきた。
「さあ! ネフィリム! お前の糧とするんだ!!」
目の前で私達の腕が有った場所で何かを咀嚼するネフィリム。その咀嚼音と響ちゃんの悲痛な叫び声が嫌に大きく聞こえていた。