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力が増えればできることも増えると思っていた。
できることは増えずにできないことが増えていた。
6,救えない大人たち
響ちゃんからの電話でほろ酔いも一気に覚め、頭が回っていくのを感じる。そうか、もうイジメは始まってしまっているのか。あの時に少しだけ話した響ちゃんは神殺しを携えた全部を背負えるような強い子ではもちろんなくまだただの普通の女の子だった。あんな子が地獄のような環境を過ごすのは必要なことなのかも知れないけど、私には我慢できない。出会わなければ目を背けられたかもしれないけど、もう彼女は知識で知っているだけの登場人物ではなく私のお友達だ。
「響ちゃんよね?久しぶりね。どうしたの?とりあえず落ち着いて話してくれる」
ごめんね、内容を知っているのにあなたに話させる私を許さなくていいから頑張って耐えて……
「は、はい…… 私あのライブの後ちょっと怪我をしちゃったんですけど、問題なく退院できて学校に通ってたんですけど最近周りがちょっと……」
知ってる……知ってるよ。私が悪いんだ。君をそんな地獄に送ったのは私なんだ…
「最初のうちはみんな私のことを心配してくれてたんですけど、ある時から急に私にその…なんというか嫌な目を向けてくることが増えて……」
自分が辛い思いをしているのに周りの子のことを悪く言いたくないのだろう。必死に言葉を選んでいるのがわかる。こんな優しい子がどうしてあんな目に合わないといけないんだろう。
「大事な話だと思うからハッキリ聞いてしまうけど、いじめられてるのね?」
「……はい」
やはり原作と同じ道を辿ってしまっている。奏ちゃんが生きているからバッシングもマシになっていればと祈っていたけどやはり現実は厳しいようだ。
「言いにくいことを聞いてごめんね。分かったわ、もう少し詳細を教えてくれるかな」
そこから書き出したことはやはり私の想像通りだ。まだ父親も未来ちゃんも離れてはいないけどこのまま何もしなければやはり原作と同じように響ちゃんの大事な人は離れて行ってしまうだろう。
「まずは、ごめんなさい。今の私では貴方をすぐに助けてあげることは出来ない。でもきっと力になるから。今は話を聞くぐらいしか出来ないけど何かあれば飛んでいくから。約束したもんね」
「ありがとうございます。そうですね…… 私には紫香さんがいますし、お父さんも頑張るって言ってます。それに未来も、私の一番の親友も助けてくれますし……平気、へっちゃらです…!」
そう、そのあなたの大事な二つの支えも失ってしまう……
「そう、でも絶対無理しちゃダメよ?」
「はい!、すいませんいきなり電話してしまって。話聞いてもらってありがとうございます!」
最初とは違う響ちゃんの元気な声で電話は終わったけど……
また時期的にはイジメがひどくなっていないのかもしれないわね。でもこのまま行けばきっと行き着くところまで行ってしまう。なんとかして助けてあげないと。
とりあえずは明日司令に相談しましょうか。あの誠実が筋肉と服を来ているような人ですものきっと二課の力でうまいこと解決に動いてくれるでしょう。
とりあえずの方針を決めたのと、頼れる先がある安心感でその日は問題を先送りにしてそのまま就寝することにしたけれど、ここでもっと考えておかなければ行けなかったのかも知れない。
次の日私はいつもより早く家をでて少しでも早く司令に相談するために急いで二課本部へと向かった。運がいいことに最初に顔を出した司令室に目的の人物はいてくれた。
「司令、おはようございます。少し相談したいことがあるので時間頂きたいんですが」
「おはよう、今急ぎの仕事はないから聞こうか」
「では執務室の方でよろしいでしょうか?」
「ん?ここではだめか?」
「少し長くなりそうで、後厄介かもしれない問題ですので」
そこまで言うと私の表情を見て察してくれたのだろう。少し険しい表情になり執務室に籠もる旨を近くにいたオペレータに伝え私を連れて執務室へと歩き出してくれる。
日を開けずに入ることになった執務室で前回と同じ対面で着席する。前回と違うのは両者の顔に笑みがなくなっていることぐらいだろうか。
「ここでなら、長くなっても大丈夫だし他に聞かれる心配も無いだろう」
「ありがとうございます。では早速本題に入らせてもらいます。司令は立花響という少女をご存知ですか?」
まずは固有名詞の確認に導入をしっかりしなければ。半ばあてつけに近いけれど私のこの心の重責を共感して欲しい。
「いや、悪いがわからないな。ウチの職員の家族かなにかか?」
ああ、やはりこの段階では名前を知らないのか。現在の二課にとっては響ちゃんは特別な一人でなく、あのライブ会場の被害者の一人でしか無いのだ。
「奏ちゃんがかばっていた女の子の名前です。偶然ライブ前に話す機会がありそこで名前を教えてもらいました」
とりあえずガングニールの融合症例であることはまだ明かさない方がややこしい話にならなくていいかもしれない。
「その立花響くんがどうかしたのか」
「昨夜私に電話があり、学校でイジメを受けていると教えてくれました。その原因があのライブでクラスメイトが亡くなり、その亡くなった子の親友からどうしてお前が生きているんだ、と言われたそうです……」
一気に概要を説明したが司令の顔がより厳しくなり、握る拳に力が増していくのが横目に見てもわかる。良かった。やはり司令はこんなことを許せる様な人では無いようだ。これならこの後の話もスムーズに行くだろう。
「……それは悲しいことだな……。それで、それを俺に伝えてどうしてほしいんだ」
おや?ここで思っていたリアクションと違うぞ?予想ではこの段階で義憤に燃えた司令がすぐに対策を考えると言ってもらえると思ったんだけど。
「もちろん、二課の力で助けてあげたいと思います。恐らく今回のケース以外でも各地で同様のケースが発生する、もしくはすでに起こっていると考えられます。二課の情報操作でうまいことできませんか」
ここまで言えば大丈夫だろうと、司令の反応を待っていると何も返ってこない。そこには何かに耐えているような司令がいるだけだ。ううつむいている所為なのかいつもよりひと回り小さく見える。私からすればツヴァイウィングがテレビか何かでやめるように伝えるだけでもだいぶ改善すると思うし、そこまで労力も掛からないと思うのだが。
「それはできない……」
聞き間違いだろうか、私の知っている司令から出るはずのない言葉が理解することを拒む。
「申し訳有りません。もう一度お願いします」
私の言葉も今までの相談のようなものから冷たく固くなり始めていることがわかってしまう。
「今回のライブ事故での生存者へのバッシングに関して我々がなにかフォローをかけることはない」
「……理由をお聞かせ願いますか、予算や人員の問題ですか?」
怒鳴り返さなかった自分の理性を褒めてあげたい。どうして?風鳴弦十郎はこんなことを見逃せるような人げじゃないはずじゃないの?
「これから話す内容は他言無用だ。今回の生存者へのバッシングは我々二課が情報操作を行い、そうなるように仕向けたものだ」
私の目の前にいるこの男は何を言っているんだ?
「今回のライブ会場へのノイズの襲撃だが、明らかに数が多いことを含めて通常のノイズ被害と何かが違う可能性があると上の方で意見が上がった。その際考えられることはネフシュタンの鎧の起動実験によるフォニックゲインの人為的な増大が候補に上がっている。もしそれが原因で、いや原因でなくても可能性があるだけであっても、それが知られれば我々の活動に悪影響が出る可能性がある。実際起動実験のために機材搬入や隔離場所の確保のための封鎖などで避難に影響があったことは間違い無いだろう。であればそこから芋づる式に我々の存在やツヴァイウィングの装者としての顔が表に出てしまう可能性がある」
「……それだけであれば、その情報が表に出るのを止めればいいのでは?」
いけない、沸点を軽く飛び越えている自信がある。
「我々が気にしなければいけないのは一般市民もそうだが、諸外国の諜報部などにも知られわけにはいけない。よって世論を操作するためによりショッキングな話題に誘導を行った。実際探られればボロが出る可能性がある以上これは仕方のない措置だ。そしてそちらに誘導した以上自分たちで元に戻すことは無い」
「なんだ、政治のために子供を見殺しにしろってか?風鳴弦十郎」
もうダメだ、職場用の口調すら保てない。でもこんなは許せるわけがない
「……」
「そりゃ、私達は正義の味方ではないさ、それでも自分のしでかしたことのケツすら吹かずに、それを何も知らない、必死の思いで生き延びた人に押し付けるのが仕事か?」
「俺がそんなことをしたいわけ無いだろう!!!!」
なんて気迫だ、気を抜けば意識を持っていかれるだろう。実際足が震えだしてる。でも。だからって引けるわけがない。
「当たり前でしょ、やりたいこととやるべきことが一致してれば楽でしょうよ、そうじゃない時に最善を尽くすのが大人じゃないの?」
「そんなものとっくに手は尽くしたさ!!、だが俺たちには明確な指示系統があるんだ!そして俺たちが明るみになって動けなく成ればどうなってしまうか……!」
怒りに燃えた司令と向き合う、きっとこの人も身を切る思いで実行したのだろう、いや恐らくその中でもできる限りのことはしたのだろう。
人は自分より怒っている人を見ると冷静になるというけど、少しずつ頭が冷えてきたのかもしれない。
「……まずは、謝罪を。司令に対してあるまじき言葉遣いでした。申し訳有りません。そして今はお互いに冷静では無いと思いますので、一旦休憩を入れて整理してから続きとしませんか?」
「……そうだな、俺も怒鳴ってしまって済まない。一五分ぐらい開けようか。一服してきても良いぞ」
「ではお言葉に甘えて」
とりあえずニコチン淹れて頭を冷やそう。味方通しで文句をぶつけ合っても生産性もクソもない。一礼して喫煙所に向かうために扉に手をかける。
「今回の情報操作に関しては俺が行うべきと判断して俺が指示を出した」
「…お優しいことで」
あー、煙が脳みそに回ってる気がする……
冷静になれば司令の意見が組織として正しいのは理解できるけどどうしても感情がね…
よく考えたら、私はあのノイズ襲撃を止めれたかもしれない唯一の人間じゃないか。それを棚に上げて、苦しんでる司令に追い打ちかけるとか人として最低ね…… ほんと消えてしまいたい……
でもやり始めた以上進めないといけない。賽は振られてしまったんだもう後戻りはできないんだ。
部屋に戻った私の前に湯気を出すカップが置いてあった。
「とりあえず、あったかいものでも飲みながら落ち着いて話そう」
「あったかいものどうもです。そうですね。とりあえず二課が介入しないことに関しては納得はしていませんが理解はしました」
「すまない」
「それでは、この話は終わりということですか」
「二課としては終わりだな。これは個人的な意見だが組織として動くことはできないが君が個人で動く分には問題ない。もしこの問題のために日中動く場合は融通を利かせよう」
「自分の手の届く範囲はなんとかできるかもしれませんが、ほかは諦めろと?」
「済まないが、これが俺にできる精一杯だ……」
「いえ、こちらもまた攻めるような物言いですみません。わかりました。少なくとも知人ぐらいはなんとか出来るように頑張ってみます」
「重ね重ね申し訳ない。それで追加での頼みなのだが、奏くんと翼にはこの件に二課が関わっていることは一切秘密で頼む」
「理由を伺っても?」
「二人へのメンタル面での影響を懸念してだ。実際あの事故の直後は翼の方に適合係数の低下が見られた。詳しいことは了子君でないと説明できないだろうが、精神面が影響しているとのことだ。その上、生存者への攻撃に自分たちが関わっていると知れば……」
「最悪折れるかも知れないですね……」
「そういうことだ。もちろん君のことを考えてないわけでないが、ああなった以上隠しておく方が良くないと判断して特例として話した」
「自分から踏み込んだんです。大丈夫です」
「では二課の司令と装者の話としてはこれで終わりだ。いいな?」
「了解です。」
「では個人的な話をするが、その立花響くんはどういう状態なんだ?俺にもなにかできそうなことはないか?」
良かった。どうやら目の前の司令は私のよく知る正しい大人であってくれているようだ。
「そうですね……」
それから更に一時間ほど個人的な雑談の体でどうすれば良いかを話し合い、私は退室した。
あんな話の後だ、何もする気にも成れず私の足はまた喫煙上に向かおうとしていた。そうしていると向こうから目立つ赤毛を揺らしながら奏ちゃんが歩いてくる。
「おっ、姐さんじゃん」
「まずは挨拶でしょ、こんにちは」
「はいはい、こんにちは。どうしたんだよ、らしくないこと言ってるぞ?」
「少し嫌なことがあってね、……そうだ、奏ちゃん気を付けの姿勢してくれる?そうそう。でそのまま両腕を横に伸ばして?」
不思議そうな顔をしながらも私の行ったとおりにアルファベットのTの字の様な体勢でになってくれる。
私はそのまま奏ちゃんに抱きついた。
「わっ!?姐さん急にどうしたんだよ?」
ああ、温かい。今ここに天羽奏は生きているんだ。私が介入したから実現した奇跡だと少しだけでいいから自惚れさせて……
「奏ちゃんは温かいね。本当に太陽みたい……」
「急にどうしたんだよ…… なんか変なものでも食ったのか?」
口ではそんな冗談を言いながらも私の不審な態度を見て何かを察したのだろう。優しく抱き返してくれる。
「大丈夫だよ、アタシは姐さんと翼のおかげてまともな人間に成れたんだ……もし何かが姐さんを傷つけるならアタシが殴り込んでやるよ!」
ああ、本当に眩しい…… これが奏ちゃんの輝きか、明るくて眩しいのに熱くなくて温かい。本当に本当にいい子だ。
こんな子たちを大人の汚さで汚しちゃだめだ。そんなものは私が全部持っていこう。
私の外道は私が背負っていこう。私は救われなくていいんだ。
この身を贄に彼女たちが救われるならどうなったっていいんだ。
改めて誓おう。私は二課の守る盾ではなく、この輝きを守る盾になろう…
この後、奏ちゃんを探しに来た翼ちゃんに見つかって赤面しながら怒られるまでJKに抱きつくアラサーのひどい絵面は継続していました……