アイドルマスター 最高への挑戦   作:ヒロ@美穂担当P

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必ず来る「その時」。
何を選び、何を捨てるのか。


Memory07 選択

「真がいちばん辛かったはずだよ。それを受け入れるしかなかったんだから。そしてあたしも」

「……そうだね」

 

 

 

 

 

 

首都高では「本物」達が鎬を削って争う。その様子は「伝説」とも許容される事も。

首都高には様々な話がある。話を盛ったりしてる事もあるが……その話の中心人物(キーマン)と車は必ず実在する。

 

 

 

 

 

今の首都高で「伝説」と称されるような人物をあたしは見たことがない。

首都高でのバトル自体がもうバカだと言われる今。首都高を本気で走っている走り屋をあたしは見ていない。たまにそれっぽい車を見ることはあっても所詮は本気組の真似事にしか過ぎない。時代の流れは走り屋を衰退させているんだ。

 

 

 

 

 

「だからこそ……あの時が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「走りに命を賭ける」それがあたし達の生きる意味のほぼ9割を占めたあの時。

あらゆる物を失って得ようとした物。「最速」という自負を持って戦った後に残る物。

 

 

 

 

 

 

あたし達……首都高を走った人間の選択肢が今を作る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

真の元にスープラが戻って5日。

あたし達はスープラを真好みのセッティングに変更する作業をしていた。

真は意外にも足は柔らかいセッティングが好みのようであたし達が真にスープラを渡した時はあたし好みの硬めのセッティングだった。しかし引き渡されたスープラを試運転した真の評価はあまりいい物ではなかった。

その後真自身が自分で決めていたセッティングの通りに希が変更したところ「多少変えたい部分はあるけどこんな感じの足だな」と言っていた。

そこからより真の好みに近づけるために試行錯誤していた。

 

 

 

 

「んー……。250kmくらいでレーンチェンジする時に微妙にリアの動きが遅い気がするんだよね。もう少しクイックに動けばなと」

「私もそこは思ったんだけどね。でもこれ以上変えると今度は直線(ストレート)でフラつかないか心配になるの」

「もうちょっとだけお願い!後はボクがどうにかする」

「わかったよ、真ちゃん」

希が真に足の感想を聞いて再びセッティングを変更する。あたしのGT-Rだってこんなやり取りをして組み上げられているハズなのに他人がこんなやり取りをしているのを見る事はあたしにとって新鮮な気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

「乗れるようになったの?」

あたしは真に聞く。

「まーね。でもやっぱり全開はちょっと躊躇しちゃうかな」

真は連日首都高を走り込んでいた。仕事が終わったらすぐに首都高へ直行、そこから数時間にわたる実走テストが始まる。あたし達とは時間を決めて合流し、走り込んだ。ある程度走ったら集合場所のパーキングに向かい、希にセッティングの感想を話してその場で微調整、終わったらすぐにテスト走行再開という流れだった。

一昨日は真はオフだったためほぼ1日中首都高を走っていた。ちなみにあたし達は昨日は普通に大学があったがサボってきた。大丈夫、単位取れるように計算してサボってるから。

 

 

 

 

真は数日間走り込んである程度はスープラに慣れた様子だが全開はまだ怖いらしい。チューンされる前の真のスープラはシャシダイ計測でMAX600馬力だった。これでも結構すごいと思うけど。

チューンされたスープラの奥の手であるスクランブルブーストを使用している時はMAX800馬力を発揮する。そりゃいきなりパワーの次元が変われば怖いってなるじゃん。

ま、あたしはそれ以上のパワーを持つGT-Rに乗ってるんですけどね。……の割にスクランブルブーストを使った時のスープラの加速に軽くビビったけど。軽く体が強ばってたよ。

 

 

 

 

 

 

「真ちゃーん、終わったよー」

「ありがとう、希」

「いいの、真ちゃんの力になれるなら」

希は嬉しそうだ。スープラのチューンの話をした時に見せた不安そうな表情をしていた希とは別人のようなニッコニコの笑顔をしてるんだもん。

 

 

 

 

「そうだ……。もし良かったら真ちゃんの運転を見せてくれるかな?そうしたら私も改善点を見つけれると思うし」

「もちろん!ボクも全部わかるワケじゃないし希が見つけてくれる方がいいんだ」

……なんだろう、このリア充みたいな会話。あれおかしいな、目からオイルが(汚い)

 

 

 

 

 

 

「というか、明日翔が真ちゃんにアドバイスしたらいいんじゃ?」

「えっ?」

「明日翔がテストしたんだよね?ならボクより詳しいんじゃ」

「あー、確かにテストしたけども」

「お願い!明日翔ならスープラをわかってると信じてるから!」

そう言う真は何故か上目遣いであたしを見ていた。

普段のイケメン系女子のイメージはどこへ。今の真は乙女のカオをしてる。

 

 

 

 

ああ分かったよ!教えてやるよ!どうせ後でバトルになるんだ!教えればいいんでしょ!!

途中にどんなトラブルが待っていようと真にあたしが教えてやるよ!!(ヤケクソ)

 

 

 

 

 

「……わかったよ(諦め)」

「ホント!?」

「うん。どうせ……後でヤるんだし」

「へへっ、やーりぃ!」

「……明日翔?」

「あっはっは、あたしはなにか大切な物を無くしたかも」

そん時のあたしはどんな表情をしていたんだろう。今でも分からない。自分なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

真の女の子らしさが女子力皆無のあたしの心を深ーく抉った後。

調整されたスープラで再び本線へ合流する。ちなみに真がスープラを運転、希が助手席(ナビシート)に座っている。ならあたしはと言うと。

 

 

 

 

 

「……めっちゃ足痛い。あだっ!?」

「ご、ゴメン!」

「真……段差避けて」

「ムリだって!路面の繋ぎ目なんて避けれないから!!」

あたしはシートに座れず、クロモリ製の10点式ロールケージがガッチガチに張り巡らされているリアシート跡に立っていた。

あたしのGT-Rよりはまだマシだが路面から伝わる衝撃は大きい。シートに座ってる2人はいいとしてあたしはモロに衝撃が伝わる。おかげであたしの足はガクガクだ。

……希はこうなる事を予測していたのか、それとも真が図ったのか。または真はあたしが乗る事を考えてなかったのか。……もし考えてないだったら真はどうやってあたしのアドバイスを聞くつもりだったのか。あたしが乗らなきゃアドバイスもできないし意味ないじゃん……。この時ばかりは真の学力を疑った。

あたしも勉強はできないし希を頼るのがほとんどだけどあたしだってこんな結果になるような考え方はしない。……自分のせいで家に居候させてもらっているあたしが言えた事じゃないや。今あたしの頭にはブーメランが刺さってるな。

 

 

 

 

 

 

 

「トー角変えればたぶん……」

「トー角?」

トー角って何。まーた希が外国語みたいな事言い出した。

「明日翔は内股で歩く人とガニ股で歩く人をイメージできる?」

「ん?まー何となく」

「ホイール……タイヤでもいいか、トー角は人の足の向きと考えればいいの。内股ならトーイン、ガニ股ならトーアウト」

「インとアウト?」

「インなら直進安定性が良くなる。反対にアウトだと曲がりやすくなる」

「ならインがいいんじゃ?」

「そうはいかないから足回り専門のスペシャリストがいるの、明日翔。例えば湾岸はほぼ直線。それならいいんだけどね。んでもし湾岸からC1方面へ行ったらどうする?」

「え……っと?」

「そんな極端な足じゃもちろん曲がれない。ならアウトへめいっぱいやったなら?これもダメ」

「曲がりやすくするのがアウトの利点。明日翔はまっすぐ走れない車で湾岸を全開で走れるの?」

「えー……ムリ」

「でしょ?どっちかに極端に出来ないの。んでこれなら行けるって角度を今考えてるの。バトルする以上、C1も湾岸も……首都高のあらゆる場所で走るための足を今探しているの」

「あらゆる……場所」

例え話を交えながら説明してくれた希。あたしのGT-Rだって希がいつも見てくれている。何気ないように見えていた事がこうやって聞くとすごく重要な事だったんだと感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、希がスープラのセッティングを再び変更。今度はセッティングがドンピシャだったらしくテスト後の真の感想もスープラの走りに満足した様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな真を見てあたしはいずれ迎える事になるだろうバトルの事を考えていた。

そのあたしの考えがすぐ現実になるという事を知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

スープラが真の手に戻って2週間になろうとしていた。

あたしは希に教えてもらった通りに食器洗いをしていた。希の家に居候してそこそこになるが相変わらずあたしのできる家事は少ない。でも基本から手間取って希に助けを求めていた時の事を思うと今のあたしはだいぶ変わったと思う。女子力も上がったと思いたい……けどそもそも希は一人暮らしだからそういうのができないといけないんだ。家を追い出されてなんだかんだ1人で暮らしたあたしとは全然違う。

……女子力以前の基本的生活習慣なんだよね、これ。

 

 

 

 

 

 

(……真はあたし達以外にも狙ってるクルマがあるの?)

(ただあたし達だけを見据えてあのスープラを作ったとは考えにくいし)

 

 

 

 

 

「明日翔?」

「わっ!?ってってっと!」

考え事でボンヤリしていたあたしは希の声に驚いて手に持っていた希愛用のマグカップを危うく割るところだった。

「はー、危ない危ない。んで何?」

「今日上がってみる?首都高に」

「んー……行くか。ここんとこずっとスープラのテストでGT-Rの感覚を忘れそうだし」

「チェックやっとくからね」

「お願い。……真いるかな」

「たぶん会うよ。どこかで」

あたしは住人専用ガレージに向かった希を見ながら残った食器を全部洗った。

 

 

 

 

 

 

 

一通りやる事を終わしてガレージへ。

ガレージに着くと希がGT-Rのタイヤの空気圧を見ていた。

「空気圧いつも通りで2.4kgでいいでしょ?」

「うん。真と本気でヤるのを考えたらコレで」

 

 

 

 

 

GT-Rはガレージから轟音を轟かせながら深夜の首都高へ出撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日翔、あのスープラ!」

「真ーーーーーーッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姿を見せた黒いスープラ。漆黒のボディは多くを語らずに確かな存在感を放つ。

あたし達が関わった怪物(モンスター)。そしてあたし達の走りを見た真。この組み合わせは今のあたし達が一番恐れるモノとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「スープラが離れるっ!」

「明日翔、ブーストはっ」

「フルブーストで!」

「でもそれだとC1まで耐えれるか分からない!」

現在あたし達は湾岸線にいる。真は間違いなくC1であたし達を突き放すだろう。それまでGT-Rに無理をさせられない。

だがスープラが速い。パワー自体はこちらが上なのにスープラに離されている。

 

 

 

 

一瞬でもミスした瞬間に勝敗が決まる。時速300kmでのバトルはこの一言に尽きる。

メーター読み312kmで緩いコーナーを抜けるにも息が上がる。緊張感が体を支配する。

 

 

 

 

 

(それにしても読みが上手い)

(他車との位置関係の把握……直接見えていない所の動きを予測しての行動……あたしじゃとてもじゃないけどできない)

真のスープラはまるで後ろが直接見えているのかと思う程動きに迷いがない。

 

 

 

 

 

 

首都高ランナーがまず磨かないといけない技術、それは「読み」。学校での勉強に必修科目があるように「読み」が首都高での必修科目。

当たり前だが公道には自分以外に走っている車がいる。首都高は2車線とか3車線もある。

邪魔になる一般車を避けないと当然スピードを乗せられない。そのためにレーンチェンジするワケだがただレーンチェンジすればいいわけじゃない。

例えば自分がレーンチェンジした先に別の車がいきなり割り込んでくるかもしれない。下手くそだとそれに驚いて車体の制御を失いクラッシュ一直線だ。

そうならないように身につけるのが「読み」。

 

 

 

 

あたしも説明下手だけど「読み」に絶対必要なモノは「リズム」と「観察眼」かな。

「リズム」はどのタイミングでレーン変えようとかを頭で考えたら動きが遅れてしまう。だからポンポンと動き出すんだけど自分のリズムを周囲に合わせて動かないといけない。リズムが揃えばお互い接触しないし安全だからだ。

「観察眼」は動き出しの際に周りの動きに不安要素がない事を確かめるために。ぶっちゃけ「リズム」よりこっちの方が重要だけどなかなか身につけられる物じゃない。

パッと見全くそんな素振りを見せてない車が次の瞬間にいきなり目の前に出てくることだってある。それが首都高を走ってる上で頭に常に置いておくこと。だが意識していてもそれを完璧にやるのはまず無理だ。

首都高ランナーは長く走っている内に自然と観察眼が身につくらしい。実際あたしも無免許でR33を乗り回して1年が経つ頃にはそういうのが無意識に働いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

首都高ランナーに必要不可欠なこの2つの要素のレベルが真は非常に高い。

決して小型軽量でないスープラをまるで踊っているかのように操る真のドライビング。まさに人馬一体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湾岸からC1エリアに入ろうとした時、その時はやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのFDは……!」

「間違いない……あの人の!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄色いFD3Sが少し先に見えた。RE雨宮のエアロを纏ったその車は以前見たあのFD。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小日向さん……!」

美世さんと共に走っているであろう彼。あちらもあたし達に気づいたらしく動きが戦闘モードに入ったのがわかった。切り替わったその瞬間に見えたオーラ。「別格」と言うに相応しい風格を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3台でC1を走って15分が経過しようとしていた時、希が何かを見た。

 

 

 

 

 

 

 

「追いかけてきてる車がいる!」

「……あたし達を追ってきた?真のスープラに小日向さんのFD、そしてあたし達に……?車種はわかる?」

「見えない……。けど……すごく速い。コーナリングだけなら……たぶん私達より速い。コーナーが多いC1の中でならこのGT-Rや真ちゃんのスープラでも互角に走れる」

「嘘ッ……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希が伝えた事に驚きを隠せない。

コーナリングスピードだけならこのGT-Rどころか真のスープラとも互角(タメ)で走れる車がいるなんて。一体誰なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは後ろから追いかけてきている車のドライバーをもっと早く思い出すべきだった。

格上のハイパワー車をコーナリングでねじ伏せる事のできるただ1人の天才ドライバーを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たっ!……ランサーだ!銀色のエボⅩ!!」

「……そうか、そりゃこんな事ができる!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姿が見えたと思った時にはあたし達の横に並んでいた銀色のエボⅩ。

そしてそのドライバーは「銀色の革命者」と呼ばれる天才ドライバー星名夢斗。

あたし達は夢斗の首都高での走りを今日初めて見る。夢斗の走りは大胆で、しかし速い。

 

 

 

 

 

 

夢斗のエボⅩは圧倒的なスピードでコーナーを駆け抜け先頭の真スープラに近づいていく。

あたしもコーナリングにはそれなりの自信を持っていたが夢斗のエボⅩが見せる動きを見て愕然とした。夢斗のエボはトップギア(5速)全開で瞬間的に300kmに到達しているであろう驚異のスピードであっという間に霞ヶ関のトンネルに差し掛かる。

車重はGT-Rより若干軽いエボⅩ。だがこのスピードは車重なんて関係ない。これはドライバーの腕で作られているとあたしは思った。

 

 

 

 

 

 

 

超高速域から一気にブレーキング、シフトダウンしてスープラとFDをアウト側から一気にまくろうとするエボⅩ。「攻撃的」と夢斗の走りはこの一言で説明できる。

コーナリングマシンと評されるFDを抜き、スープラのテールに一気に迫る。その動きの速さはまさに槍のようだった。

しかし小日向さんに慌てる様子は見られない。抜かれると最初からわかっていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか……あたし達に出会う前からこの2人は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

共に走り、そして争っていたんだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい時間が経ったんだろう。……30分か。

……はぁ。あたしは途中から希の声が届かなくなるくらい集中していたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたし達はC1を出て副都心線を経由し、グルっと回って湾岸へ出た。

ここがあたし達のこのバトルの終着点。ここからは本当に何が起こるか分からない。誰が勝って……そして誰が死ぬか。そんな物は神様だけが知っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「希……気のせいかな。真のスープラがなんかヘンだよ!」

「……うん。そうだよ……っ!!」

「……!?」

真のスープラの異変。スープラは少しずつ、しかし確実に真のコントロール下から離れようとフラつき始める。それに気づいたあたしが希に聞くと突然涙を流し始めた。

「どういう事……説明してよ!」

「真ちゃんのスープラはもう終わるの……っ!!これ以上走ったら本当に真ちゃんが死んじゃうかもしれないのっ……!!」

「……なんで?あのスープラは……あたし達や山本さんがチューンしたクルマじゃん!そんなの……ありえなっこないじゃん……!!」

希の言葉を必死に否定しようとした。でも……全身を飲み込もうとするモノが。それは「事実」だった。

あのままだと確実にクラッシュする。それは予感ではなく確信に変わろうとしている今の状況。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……!?急にコントロールが……!!」

真もスープラの異変に気づく。

(さっきまでのフィールが……ない)

(でも……まだだ!)

それでもアクセルを緩めない。踏まなかったら負ける。

漆黒のスープラは残り僅かな命の火を燃やして進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい……いい加減降りろ……。本当に死んじまうぞ!」

綱渡りのような不安定な状態で走り続けるスープラ。これ以上続けさせるわけにはいかない。

夢斗はスープラが降りるのを願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう……止まるんだ。ボディがもうダメだ……!!」

蓮は目の前のスープラの状態を見抜く。大パワーの代償はボディについた。負荷でボディが歪み悲鳴をあげているスープラ。

1年前にキツい体験をした蓮はそれを再び繰り返させないためにペースを上げる。300kmオーバーを出し続ける湾岸では車体への負担は決して無視できない。

ボディを補強していないとあっという間にボディがヨレてしまう。馬力を受け止められるボディが求められるのだ。

そんなボディになっているハズのスープラが今にも終わりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん……真、降りて……!!」

あたしはフルブーストでエボⅩとスープラをぶち抜いていく。それに続いてFD、そしてスープラ。エボⅩはパワーの差から引き下がる。

 

 

 

 

 

 

 

「まだーーーーーーーあっ!!」

真はスープラの切り札であるスクランブルブーストで明日翔達に立ち向かう。

ただでさえギリギリの所で走っているスープラのボディにさらに負担を加えていく。

 

 

 

 

 

(並べ……っ)

 

 

 

 

 

 

 

「並べええええええええっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

真の思いに共鳴するかのようにスープラは一気に加速。

1000馬力台の明日翔達のGT-Rと600馬力オーバーの蓮のFDに並ぶ。

3台は一歩も退かずに前へ前へと進む。お互いの意地がぶつかり合い周囲の空気を変える。

ビリビリと感じるお互いの気迫。意志の強さが痛いほどに伝わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

(もっと……もっと速くっ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

真のスープラがGT-RとFDを突き放そうと加速しようとしたその瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……なんで」

 

 

 

 

 

 

真の漆黒のスープラが突如失速。みるみる後ろに消えていく。離されていたエボⅩにも追い抜かれた。

そう思った瞬間にはエボⅩが並びGT-R、エボⅩ、FDのスリーワイドという状態。

あたしは無我夢中でアクセルを踏みこんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

失速するスープラのコックピットでは。

 

 

 

 

(皆が待ってる……。母さんや父さんだけじゃなく春香や律子……プロデューサー)

(ここで死んだら皆が悲しんでしまう……。ボクが勝手にやった事がずっーと皆に残る)

 

 

「……ごめん、父さん。ボクはわかってなかったんだ」

(『本物』の領域はボクには遠かったみたいだ……。でも、少しだけでもその領域に飛び込んで……走れて楽しかった)

 

 

 

 

 

 

「明日翔……希」

「今夜の走りをボクはずっと覚えているから。皆に会って……こんなにも楽しい走りができて。もし……あの時に合っていなかったら今日はないかもしれなかった」

「だから……ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、あたし達の生活は元通りに始まる。朝の支度をして大学へ。

 

 

 

 

 

昨夜のバトルの結果は結局よく分からない。

真のスープラが降りて……残った3台で最後やったけど勝者は分からない。

あたし達のGT-Rはエンジンに大きな負担が掛かり、爪痕が残った。

今朝エンジンが掛からなくなり、急遽希のS15をガレージから出して大学に行ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「真は降りる気なの?」

「うん。仕方ないけど……スープラがああなっちゃったからね」

 

 

 

 

 

バトルの後、真一さんが真のスープラを見たそうだがスープラのボディは歪みきってしまっていたそうだ。

真一さん曰く「ボディを犠牲にして僅かな時間だけ得られるフィーリング」だそうで元々ボディを制作した時から意図的にボディを弱くしていたそうだ。

「真が自分のようにならないように」と真一さんが言っていても不思議ではない。

 

 

 

 

 

真はスープラを手放す事を考えているらしい。真一さんが倉庫に置いておくかとも聞いたそうだがスープラを手放す可能性大と。

 

 

 

 

 

 

 

「ま……全力でバトルできて良かったんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

真達とのバトルを終えたあたし達はいつも通りの生活に戻ると思っていた。しかしそうはならなかった。

真達とのバトルが皮肉にもあたしの今に関わる出来事に進むきっかけになっていたと当時のあたし達は思っていなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




真は降りた。
残った明日翔達にも選択の時が迫っていた。





《次回予告》
たくさんの物を残して真達とのバトルを終えたあたし達。しかし今度はあたしに突きつけられる現実。
あまりにも突然な事にあたしはどうしようもなく……。
「ちょっとだけ……大変だなって思う事だよ。明日翔が心配」
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