板挟み   作:希望光

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転遷

 謎の発作を起こした後、争う間も無く日菜に連れ帰られた洸夜は、自室のベッドにその身を投げていた。

 

「なんなんだよ畜生……」

 

 言葉に変えたやり場のない怒りは、虚空へと消え去る。突如として彼の身に降り掛かった動悸と目眩。2人からある程度解放された際も、似た様な症状に襲われた。その原因は、2人曰く禁断症状に近しいものと伝えられていたが、未だにそれを正確な理由として納得できないままでいた。

 

「なんで……あのタイミングなんだ……」

 

 恋人の前で発作を起こし、妹に成す術もなく連れ帰られる。惨めとしか言いようの無い、あの瞬間の己に激しい憎悪を向けながら1人涙を流す洸夜。その憎悪はやがて悲壮へと変わっていき、己自身の無力さを痛感した。こうして涙を流してる今この瞬間の自分自身を含めて。

 

「俺は……どうしたらいいんだ」

 

 悲しみに染まった問い掛けは、暗い部屋を駆け巡った後に静寂の中へと溶けていった。それと入れ違うように部屋の外から彼の部屋へと近づいて来る足音が聞こえてくる。

 

「……もう嫌だよ」

 

 これから自身の身に襲いくる事象を理解していた彼は、布団を頭まで被りうつ伏せになると枕に顔を埋める。迫りくる恐怖から、少しでも己自身を遠ざけようと。

 

「助けて……」

 

 か細い彼の叫びは、部屋の扉が開く音に掻き消される。それと同時に、彼の地獄(日課)の幕が開くのであった——

 

 

 

 

 

 その日、鹿島祐治は人の行き交う駅前で1人佇んでいた。漠然と人の波を眺めていると、彼の傍らに1人の少女が現れた。

 

「お待たせ……しました」

「白金さん」

 

 祐治の元へ姿を現したのは長く艶やかな黒髪をもった少女。名は白金燐子と言い、バンド『Roselia』にてキーボードを担当している。

 

「いえ、俺も今来たところです」

「そう……でしたか」

「とりあえず、ここじゃなんですし場所を変えましょうか」

「はい」

 

 祐治と燐子は短い会話を交わした後に、人の流れに沿い駅の中へと入っていった。そして列車に揺られ2人が足を運んだのは秋葉原。休日ということもあり、街は人で溢れていた。

 

「相変わらずだな、ここは。燐子さん、大丈夫ですか?」

「はい……なんとか」

 

 互いに離れぬように手を繋いだまま人混みを掻き分けていく2人。駅から暫く歩いた2人は、とある建物内にあるファミレスの前に赴いた。

 

「とりあえずここに入るで大丈夫ですかね?」

「大丈夫……です」

 

 店員に案内され賑わいを見せる店内の奥の方、窓際へと通された2人は、向かい合って座席に腰を下ろす。

 

「それで……今日の話、というのは……?」

 

 ランチメニューを手に取った燐子が、向かいに座る祐治へと問う。問われた当人は、グランドメニューを一瞥した後、燐子の方へと向き直り口を開く。

 

「先日お願いしていた件についてです」

「やはり……ですか」

 

 祐治の言葉を聞いた燐子は、浮かない顔をしながらメニュー表へと視線を落とす。対する祐治もまた、自身が手にしていたメニュー表に目を通していく。暫しの後、店員を呼んだ2人は注文を行い再度対面する。

 

「それで……その、何か得られたりはしましたか?」

「はい……ここに」

 

 頷いた燐子は、傍らのハンドポーチから小さな灰色の機械を取り出し、祐治へと手渡した。受け取った祐治は、それを軽く眺めた後に、自身の上着の懐へとしまう。

 

「この後、確認したいのでまた場所を変えようかと思いますが、大丈夫ですか……ね?」

 

 周囲を警戒しながら燐子へと問う祐治。その問い掛けに燐子は無言のまま頷く。その後、2人の間には沈黙が訪れる。ただ、昼時の店内特有の喧騒が2人の間の卓を駆ける。

 

「——お待たせしました」

 

 すると、その沈黙を破るかのように店員が現れ、注文していた品々を運んできた。店員に対して軽く会釈を送った2人は各々料理に手をつける。これと言った会話もなく、ただ黙々と。そんな中、不意に燐子が口を開き祐治へと問い掛ける。

 

「鹿島君が食べてるのは……?」

「これですか? これは日替わりランチですね。グランドメニュー見てもそそられるのがなかったので」

 

 苦笑しながら答えた祐治は、手にしていたナイフとフォークを置きお冷の入ったグラスを手に取ると、窓の外へと視線を移す。浮かない表情で。

 その様子を不思議そうに燐子が眺めていると、今度は祐治が彼女へと問い掛けた。

 

「……白金さんは何故、自分の頼み事に対して、了承をしてくれたのですか?」

 

 突如として投げられた疑問を前に、燐子は僅かな硬直を見せる。予想していなかった質問であったがために。

 

「理由……ですか」

「はい。ずっと、気になっていたんです。こんな、なんの得にもならないような……いや、むしろマイナスでしか無いような頼みをしたのに、了承してくれたことについて」

 

 未だ視線を窓の外へと留めたままの祐治は、問い掛けた理由を話すとグラスに入った水を呷った。対する燐子は俯きながら口を開くと、短節に言葉を紡ぎ始める。

 

「私が……了承した理由は、今井さんのため……そして、事実を……この目で確かめたかったから……」

「そう、でしたか……」

 

 消えいるような声で呟いた祐治は、外景から卓上へと視線を戻し、手にしていたグラスを卓の上に置いた。

 

「白金さんは……とても強い人ですね」

「そ、そんな……鹿島君の方が……私の何倍も、強いと思います」

 

 そう言い切った燐子は、俯いていた顔を上げ真っ直ぐとした視線で祐治を見据える。

 

「私は……鹿島君に頼まれるまで……真実へ踏み込む勇気が無かった……。だから、私が強い人だとおっしゃるなら……それは、鹿島君の強さが合ってこそ……です」

「なるほど」

 

 燐子の言葉に対して一つ頷いた祐治は、笑みを浮かべると言葉を紡ぎ始めた。

 

「白金さんは強いだけじゃなくて、とても優しい方だ」

「そんなことは……」

 

 頬を赤く染め顔を背けた燐子は食い下がる。それを見ていた祐治は小さく笑みを溢す。

 

「そんなことありますよ。そこに関しては、俺が保証します」

「そう……ですか」

 

 暫しの間顔を背けていた燐子であったが、祐治の方へと向き直ると彼女もまた笑みを溢す。

 

「その、ありがとう……ございます」

「いいえ——っと、そろそろ場所を変えましょうか」

「はい」

 

 左腕に巻いた時計に視線を落としつつ発せられた祐治の言葉に燐子が頷く。そうして互いに席を立つと、支払いを済ませ2人揃ってファミレスを後にした。

 

「それで……この後はどちらに?」

 

 再び人波の中へと踏み出した辺りで、燐子が祐治へと問い掛けた。それを前にした祐治は、暫し考え込む仕草をした後に返答する。

 

「少し周りから隔離されてる場所、ですかね」

「隔離されてる……場所?」

 

 祐治の返しに首を傾げた燐子。その様子を汲んだらしい祐治が、新たに言葉を紡ぐ。

 

「はい。手軽に防音室が借りれる場所なんですが……もしかしたら白金さんが嫌がる場所かもしれないので、先に謝罪しておきます」

 

 申し訳なさそうに告げた祐治。それっきり、2人の間の会話は途切れてしまう。そうして黙々と歩いて行った2人が訪れたのはカラオケ店であった。

 

「カラオケ……ですか」

「さっきも述べた様に、手軽に借りられる防音室、ということで……」

「なるほど……」

 

 短い会話を行った2人は、受付を済ませると店内の奥の方の部屋へと通される。

 

「カラオケなんて……久しぶりに来ました」

「実は自分もなんですよね」

 

 荷物を下ろしながら短い会話を交わした2人は、モニターの画面を消すとボックス席に並んで腰を下ろした。

 

「モニターを消すと、ボックス内って……とても静かになるんですね」

「外からの音も入ってきませんからね」

 

 短く返した祐治は、懐から先程燐子から受け取った灰色の機械を取り出すと、自身のスマホとその機械とを繋いだ。

 

「……白金さんは、この中身を覗いたりはしましたか?」

「いいえ……何も」

「そうですか。それなら白金さんも初聴、ってことですね」

「はい」

 

 頷いた燐子を横目に、祐治はスマホの画面に表示された再生ボタンを押す。それと同時に、多少割れた音声でとある少女の声が部屋の中を駆け巡った。

 

『ねぇ洸夜——その首どうしたの?』

『え……?』

『やっぱり、何かあったんだね」

『まさか……ブラフか?』

 

 祐治のスマホから流れてきたのは先日、王子駅前で行われたリサと洸夜のやり取りであった。

 

「首元……?」

「なにか、心当たりがあるんですか?」

「いや……全く」

 

 燐子の問いに対して首を横に振った祐治は左手で口元を抑え思考を張り巡らせた。しかしその動作も、次に聞こえてきた音声により遮られる。

 

『アタシもう辛いよ……洸夜が紗夜と日菜に何かされてるのを見てるの……』

「「……ッ?!」」

 

 スマホから流れてきたリサの言葉は、2人に激しい衝撃を与えた。

 

「この方が言ってる2人って……」

「どちらも洸夜君の……妹、です……」

 

 燐子の返答を聞いた祐治は戦慄した。まさかあの日、己自身を出迎えた人間が、何より親友の肉親である者達が、今回の件の中核にいるということに。

 

『——あんまり遅いから迎えに来たよ、おにーちゃん』

『日菜……』

 

 洸夜の呟きを最後に音声の再生は終了してしまった。暫しの間沈黙し硬直していた2人であったが、それを破るかの様に祐治が震える手を再び上着の懐に入れる。そして、燐子から手渡されたものとは別の灰色の機械を取り出した。

 

「それは……?」

「自分が……洸夜の鞄に仕込んでた盗聴器です」

 

 申し訳なさそうな表情で答えた祐治は、新たに取り出した盗聴器を先まで繋いでいたそれと交換し再生ボタンを押す。

 

『——ねぇお兄ちゃん……加減に答えてよ。今日千聖ちゃんと……の?』

「……ッ?」

 

 先程よりも割れた音で再生された少女の声を聞いた燐子が、驚愕した様子を見せる。

 

「どうかされました?」

「白鷺さん……も?」

「白鷺って……Pastel*Palettesの?」

「はい……」

 

 深刻そうな面持ちで頷く燐子。そんな燐子を心配そうに見つめる祐治であったが、スマホから発せられた音声により激しい嫌悪を覚えた。

 

『別にいいのよ。私達は貴方が動いていなくても』

『……ハァッ……ウッ……ゲボッ……!』

 

 割れた音声であっても、はっきりとわかるほど冷徹な声と、生々しい呻き声、そして洸夜が嘔吐する音がカラオケボックス内に響き渡る。

 

『オエッ……ゴボッ……オエッ……』

 

 何が飛び散る音を最後に、音声データの再生は終了した。その直後、両手で口を塞いだ祐治が前のめりに蹲る。

 

「鹿島君……!」

 

 突然蹲った祐治の背中を摩りながら、呼び掛ける燐子。それに応じるかの様に顔を上げた祐治は、青ざめた顔のまま口を開く。

 

「すいません燐子さん……自分は……貴方を……とんでもないことに巻き込んでしまったのかもしれません……」

「祐治……君……」

 

 力無く謝罪した祐治。対する燐子は、彼の左手を両手で握ると祐治もまた無言のままで彼女の手を握り返した。今互いが持っているであろう恐怖を紛らわすかの様に——

 

 

 

 

 

 祐治と燐子が秋葉原を訪れていたのと同日、白鷺千聖は『羽沢珈琲店』にてとある少女と卓を共にしていた。

 

「ごめんね千聖ちゃん、せっかくのお休みだったのに呼び出しちゃって」

「大丈夫よ。それで私に話、って言うのは何なのかしら——彩ちゃん?」

 

 千聖に問い掛けられた少女こと丸山彩は、困った様子で視線をあちらこちらへと泳がせていた。

 

「え、えーっと……その……」

「わざわざお休みの日に呼び出してまでのお話だから、お仕事の話じゃなくてプライベートなお話なのよね。それも、彩ちゃんに取っては重要なことについて。違うかしら?」

 

 彩に対して軽く首を傾げた後、自身の前にあったコーヒーカップを手にした千聖は中身を軽く呷る。対する彩は、畏まった後に俯くと言葉を紡ぎ始める。

 

「うん……千聖ちゃんの言う通り、プライベートなお話だよ」

「そう。それで、どんなお話なのかしら?」

「千聖ちゃんは——アイドルが恋するのってどう思う?」

 

 予想だにしない彩の言葉に、千聖は硬直するが即座に切り替えると返答を口にする。

 

「アイドルが恋をする事について、ね。世間一般的に見たらそれは禁忌(タブー)なのかもしれないわね」

「そ、そうだよね……」

「けど、私自身はそうだとは思わない」

 

 千聖の言葉を聞いた彩は、驚きながら伏せていた顔を上げ問い返す。

 

「本当に?」

「ええ。だって、私も彩ちゃんもアイドルや芸能人である前に、1人の人間でしょう?」

 

 コーヒーカップを卓上に置き直した千聖は彩へと投げ掛ける。対する彩は首を縦に振る。

 

「そうだね。私も千聖ちゃんも、芸能人って言う型枠にはまるより前に1人の人間、だもんね」

「そういうことよ。だから私は止めたりはしないし、1人の友人として彩ちゃんのことを応援するわ」

 

 そう告げて彩に対して微笑む千聖。その言葉を聞いた彩はというと、驚きの表情から喜びの色を見せた。

 

「ありがとう! 千聖ちゃん!」

「フフッ……叶う様に応援してるわね」

 

 笑みを溢した千聖は、再度コーヒーカップを手に取り自身の口元へとカップを近づける。その最中、千聖は徐に彩への問いを口にした。

 

「そう言えば、彩ちゃんの好きな人って誰なの?」

「私の好きな人?」

「ええ。応援する身としては、知りたいところだけれども?」

「えーっとね……」

 

 カップを傾けた千聖の手前、彩は羞恥故か落ち着かない様子を見せつつも意中の人物の名を口にした。

 

「この前ショッピングモールで会った……洸夜君」

 

 彩の口から飛び出した名前を聞いた千聖は、予想していなかった人物の名前が登場したことにより固まってしまう。そして暫しそのままでいたが、なんとか口を動かし彩へと問い掛けた。

 

「彼と……以前に何かあったの?」

「うん。名前聞いたりちゃんとお話ししたのはこの前が初めてだったけどね」

 

 はにかみながら答えた彩。その言葉は、一切の嘘偽りを感じさせなかった。そんな彩に対して千聖は追求を続ける。

 

「その、以前にあった事を詳しく聞いてもいいかしら?」

 

 千聖の言葉に頷いた彩は、自身の前に置かれたティーカップに両手を添えると、過去の出来事を千聖へ語り始めた。

 

「私がアルバイトしてた時にね、怖いお客さんの対応したことがあったんだ」

「怖い?」

「うん。なんだろう……何かにつけて、いちゃもんを付けてくるお客さんだったんだ」

 

 淡い赤茶の水面に映った自分を見据えた彩は、次の言葉を発する。悲壮感を漂わせながら。

 

「それでね、そのお客さんの対応した時にね……私、お客さんの気に触ることしちゃったみたいで……色々言われたんだ。他のお客さんが見てる手前で」

 

 そう答えた彩の手は小刻みに震えており、手にしていたティーカップの中身が小さく波立っていた。

 

「それでね……その時は社員さんが休憩行っちゃってて他に対応できる人がいなくて……ずっと相手してたんだ」

「そうだったのね……」

「うん……そこでね、洸夜君に助けて貰ったんだ。最も、向こうは覚えてなかったみたいだけど」

 

 懐かしむ様に笑みを見せた彩は、ティーカップを自身の方へと寄せその中身を一口含んだ。

 

「その出来事がきっかけで、彩ちゃんは彼のことを好きになった、と?」

「大まかに言うとそうなる、のかな?」

 

 先程までの悲壮感を払拭したらしい彩は、明るい表情と共に千聖へと返答した。そんな彩を見た千聖は、僅かに笑みを溢す。

 

「そうなのね。それを聞いて彩ちゃんが彼を好きになった理由は納得したわ」

 

 そう告げてカップの中身を飲み干した千聖は、数瞬前とは打って変わりシリアスな笑みを浮かべた。

 

「けど、彼の周りはライバルが多いわよ? 私も含めて、ね」

「千聖ちゃん……うん! 私、負けないよ!」

 

 千聖の言葉に布告、という形で返答した彩。暫しの間熱の篭った視線を交わしていた両者であったが、ふと千聖が自身の左手に巻いていた腕時計へと視線を落とす。

 

「あら、もうこんな時間……ごめんなさい彩ちゃん。私はそろそろお暇させてもらうわ」

「うん、気を付けてね」

 

 彩に見送られながら席を立った千聖は勘定を済ませると、そのまま退店していくのであった。そして、羽沢珈琲店から少し離れた辺りで、彼女の顔から先程までの柔らかな表情は鳴りを潜めていた。

 

「できることなら、彩ちゃんの相手はしたくないのだけれど……」

 

 両の掌を固く握りしめた千聖は鋭い眼差しと共に己の内心を吐き出した。そうして湧き上がる激情を噛み殺しながら歩いていると、不意に傍らから歩いてきた人間とぶつかってしまう。

 

「ごめんなさい……考え事をしていて」

「いえ、こちらこそ不注意でした。申し訳ない……って、千聖?」

 

 咄嗟に謝罪した千聖は、突如名前を呼ばれたことにより思わず顔を上げる。そこには、先程まで渦中に居た人物の姿があった。

 

「あら、コウ君。こんな所で奇遇ね?」

「そう……だな。っと、俺は用事があるのでこの辺で」

 

 気まずそうに視線を逸らした洸夜は、そそくさとその場から立ち去ろとする。すると突然、千聖が洸夜の手を掴みそれを制した。

 

「何……?」

「少し、私と来てくれるかしら」

「いや、用事が……」

 

 未だ視線を合わせることなく、拒否を示した洸夜。対する千聖は、彼の耳元に自身の顔を寄せると囁いた。

 

「断ってもいいけれど、貴方の置かれている状況を近しい人間に教えることになるわよ?」

「……ッ」

 

 千聖の言葉を聞いた途端、洸夜の顔からは血の気が引き青白くなっていく。同時に、彼の額からは脂汗が吹き出し始めた。

 

「決まりね」

 

 そう言って洸夜の手を引いた千聖は、一切の抵抗を見せない彼と共に人気の無い路地裏へと消えていった。

 

「洸……夜……?」

 

 偶然通り掛かったリサは、正にその瞬間を見てしまっていた。海へ行った時同様、己の愛する者が他者になされるがままという状況を——

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