とあるオタク女の受難(僕のヒーローアカデミア編)。 作:SUN'S
砕けた地面の底へ落ちていく最中、彼女のおかげで軽傷程度で死なずにすんだ。
ゆっくりと立ち上がりながら彼女と壊理を庇うように構える金髪の男を睨み付ける。先日、彼女の元へ行こうとした壊理を連れ戻す時に遭遇したヒーロー志望のガキの片割れだ。
ガキの後ろにいる彼女を見ると壊れた眼鏡を見詰めながらアワアワとしていた。
「かわいいな」
「は?」
思わず呟いた言葉を聞いた金髪のガキは意味の分からない言葉と認識しているみたいだが、お前の後ろにいる彼女を見れば分かることだ。表向きには「壊理を連れ戻すため、彼女の個性を奪った」というシナリオが出来上がっている。
本当の理由は無個性ならば生死を伴う職業を止めると考えた。そうすれば安心して、壊理を託すことが出来ると思っていた。そう思っていたのに止めるどころか、一人だけで攻め込んでくるとは思わないだろう。
「金髪のガキ、少しだけ彼女と話したいことがある。それまで待ってろ、スピキュール」
「えっ、あ、はい。なんですか?」
「壊理を頼めるか?」
この言葉の意味を理解することが出来るのは壊理や彼女だけだ。金髪のガキは困惑しつつ、自分の後ろに座っている二人の返答に聞き耳を立てている。
「その答えは『イエス』ですけど。その中には治崎さん達は居ないんですか?」
「まったく、返答するのに困る言葉を返してくるな。俺達を加えるとなればヒーローなんて出来なくなることは分かり切ってるはずだ」
「わたしは、それでも私は治崎さんが居ないと嫌ですよ?エリだってお父さんがいないと悲しみます。通形君、エリのためにも治崎さんを助けてあげて…」
「りょうかいいぃぃぃ!!!」
彼女の言葉を聞いた金髪のガキは困ったような表情を浮かべながら笑顔を作り、俺を「助ける」ために全力で駆け出してきた。俺はオヤジへの恩義を返すため、極道の地位復興を願っていた。
それなのに気付けば壊理の笑顔を見たり、彼女の作った飯を食べたり、部下達とゲームで馬鹿騒ぎしたり、騒々しくも楽しいことに巻き込まれていた。
それでも俺は助かりたいなんて思っていない。俺は白にも黒にも染まり切れない灰色だが―――。
「ガキに助け求めるほど落ちぶれちゃいねえ…」
あの男と同じようにマスクと服を脱ぎ捨てる。まだ、色を刻んでいない「未完成の鯉」だ。金髪のガキが突き出してきた拳を打ち落とし、腹を踏み潰すように蹴り飛ばす。しかし、なにかが可笑しい。アイツは透過する個性を持っていたはずだ。
「なぜ、個性を使おうとしない」
「人助けに個性を使う必要はないだろ?」
土埃を払い落としながら握り拳を作って構え直し、馬鹿正直そうなガキを睨み付ける。コイツは優位となる個性を持ちながら殴り合うことを選んだ。
本物のバカなのか?
「行くぞ、治崎イィィ!!!」
「はあ、さっさと来い」
ボリボリと後頭部を掻きながら手招きしようとした瞬間、彼女が目の前まで飛んで来ていた。ガキは投げ終えた体勢を直しつつ、ウザいくらいに爽やかな笑顔を浮かべていた。
「スピキュール、好きな人を止めたい時は自分で止めよう!!これは僕からのプレゼントさ!!」
「通形君、人を投げるのは危ないから止めようか!?おばさんじゃなかったら怪我してるよ!!」
あのガキの行動や言動には呆れるな。
しかし、ガキの言っていた「好きな人」というのは興味あるな。腕の中に収まっている彼女を見下ろしていると俺の視線に気付いたのか、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
「その、助けに来ました。えと、治崎さんは助かりましたか?」
「ああ、助かった。これで満足か?それより少しだけ離れてもらえると助か…」
なんか硬いモノが後頭部に降ってきた衝撃で身体が曲がり、偶然とはいえ彼女の唇を奪っていた。
「き、あ、うぇあ!?」
このまま押し切ればイケるんじゃないか?
「俺はアンタが好きだ」
「ちょ、まっ、えぇ!?キャパが、キャパがオーバーしてるから待って!!」
バチーンと乾いた炸裂音と共に吹き飛ばされ、壊理や彼女を救出するために駆け付けてきたヒーローは困惑したような表情を浮かべていた。