ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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~Autumn 78~
ヴィヴィッド・オータム


 いつもは少しだけ静かな時間帯。

 

 その時間帯にしては少しだけめずらしく、今日は賑わっていた。

 

「これを運んでくれるか」

 

「はい」

 

 結構な広さを誇るキッチンで皿とボウルを受け取るとそれを両腕で持てるように受け取り、バランスを取りながらそれをゆっくりとリビングへと持って行く。ダイニングではない、リビングだ。そこにはワイドテレビの前に既に置かれてあるつまみ各種と飲み物があり、テレビとつまみを乗せたテーブルを囲う様に扇状にソファが配置されている。そこには自分の良く知る姿が座っている。今更確認するまでも無いソファを避けてテーブルの上に皿やボウルを乗せる。その上に載っている物はクラッカーやサラダ、お腹にはたまらないが何かをしながらつまめるような軽い食べ物ばかりだ。これからやる事を考えるのであればこういう物が一番いいだろう、とは思う。

 

「あぁ、あとは座っててもいいぞ」

 

「解りました」

 

 キッチンにいる白髪セミロングの女、ディアーチェが片手を上げながらもういいと言ってくる。その好意に甘えてソファに座ると、軽いトスンという音と共に横に座りこんでくる姿がある。そちらへと視線を向ければ両腕に寝ている子供を抱いている姿が横に座り込んでくる。水色の髪をポニテールでまとめ上げた姿はレヴィのものだ。数年前と比べ遥かに落ち着きのある姿で座るとニコリ、と此方へと笑みを向けてから視線をテレビの方へと向ける。テレビのスクリーンには昼間のミッドチルダの姿が映し出されている。中央にはマイクを持ったアナウンサーが存在し、そして右上の”生中継”の文字はその光景がリアルタイムのものであると証明している。

 

『―――です。今年も次元世界最強の十代を決めるDSAA世界代表決定戦女子の部会場前に来ていまーす! スタジオの皆さーん?』

 

『はいはい、聞こえてますよ。そちらの方はどうですか?』

 

 テレビのスクリーンにスタジオの様子が映し出され、そしてコメンテーターがDSAAに関する話を始める。その光景をぼぉっとしながら見つついると、横から弱々しい握力を感じる。視線を其方へと向けてみればレヴィの腕に抱かれた小さな姿が、弱々しく手を伸ばして此方の服を掴んできている。目を瞑っているし、起きている様子はない。眠りながら無意識的にやった行動なのだろうか、赤子のそういう行動に微笑ましさを感じる。

 

「アインハルトの事をイングと勘違いしているのかな」

 

「それはそれで嬉しいような、複雑の様な感じですね」

 

 内心の感情は今のところは考えるだけ無駄なので無視するとして、視線をテレビの方へと戻す。テレビスクリーンの光景はスタジオから会場、スタジアムの光景へと変わろうとしていた。

 

 広いスタジアム内は既に何千という観客によって満たされ、興奮に包まれていた。リングの端にはまだ選手の姿が見えないという事になると、まだ第一試合が始まるまではそこそこ時間があるようだ。だがそれとは別に注視するべきものがそこにはある。カメラはスタジオ全体の様子からフェードインする様に実況席の姿を映し出す。そこに座っているのは三人の姿だ。中央に座っているのは金髪の女の姿だ。一般的なミッドチルダ人の顔立ちの女はカメラが自分に向けられるのと同時に、軽く一礼を向ける。

 

『次元世界最強の十代を決めるDSAA世界代表選、本日は女子部門となります! 実況はミッドTV所属のケラです。男子の部に引き続き解説には―――』

 

 右隣に座っているメガネをかけた茶髪の男が頭を下げて挨拶をする。

 

『ニコニコしながら一分一秒がデスマーチ。就職がなかなかできない、就職先を悩んでいる。とりあえず家からタダメシ食らいのスネ齧りを追いだしたい。無限書庫は君の力を必要としています』

 

『時空管理局本局無限書庫の司書長のユーノ・スクライア先生と』

 

 ユーノの逆側に座っている赤髪、毛先が銀色に染まっている長髪の男が頭を下げてから片手を持ち上げる。その手の中にはホロウィンドウが握られている。

 

『最近長女がハイハイを卒業して歩けるようになったので映像始めました。家族のホームページに動画をアップしているのでいつでもチェックできます』

 

『聖王教会”鉄腕王”イスト・バサラ閣下です! 昨日に引き続き本日もよろしくお願いします』

 

『ははは、無限書庫から逃げられる時間だと思って頑張りますよ。無限書庫から出るの何か月ぶりだろうなぁ』

 

『ミリアー? クロード? レインー? 見てるー? パパだよー! パパお仕事してるよー! パパ頑張ってるよー!』

 

『ハイ、男子の部の時通り、去年通りですね! ちくしょうこいつらを誰かどうかしろよ……特に赤い方……』

 

「これ、実況の人最後まで生き残れるんでしょうかね……」

 

 軽く実況席の中央でハンカチを取り出して額の汗を拭うアナウンサーの姿に同情を覚える。ユーノの事はどうかはわからないが、イストは完全に遊んでいる時の顔をしているようで若干本気の顔をしている。片手に持っているのは最近購入したって自慢していた新型のハンディカムだ。アレで良く子供達の姿を撮影しているなあ、とは思ったがまさか仕事場にまで持ち込むとは。

 

 恐るべし師父の親馬鹿。

 

『パパ頑張ってるよー!』

 

『えー、実況席の方はもうどうしようもないので一旦スタジオにお返しします! あ、えーと、バインド通じないんでしたっけ? スタッフ! スタッフ―――』

 

 テレビの中の光景がスタジオへと切り替わり、

 

「楽しく仕事ができているようで何よりですね」

 

「あ」

 

 後ろから聞こえる声に振りかえれば、エプロン姿のシュテルがオタマを片手にソファの後ろ側にいた。先ほどまでキッチンでディアーチェを手伝っていたはずの姿はおや、と言って自分の手にオタマがある事を確認し、早歩きでそれをキッチンへと戻しに行く。今さっきテレビで師父が何やら凄まじい姿を披露していた気がするが、家族的にはオッケーらしい。

 

 ……まあ、良く考えたら騒ぐような話でもないですね。

 

 つまりあの芸風は何時も通りの話だ。長男であるクロードが生まれてから物凄い子煩悩になったというか―――あんな風に馬鹿馬鹿しい事に一心に力を注げるようになったのは間違いなく世の中が平和になったおかげなのだろうと思うと、自分も少しだけ嬉しくなってくるものがある。と、名前を呼ばれた事に反応したのか、両足でよちよちと歩く姿がテレビの前へとやってくる。白髪の二歳ほどの子供、クロードだ。その姿に近づいて持ち上げるのは長い金髪を三つ編みにして纏めるユーリだ。片手でクロードを持ち上げると、一気に此方の横まで運んで座らせてくる。短くクロードの頭を撫でると、テーブルの上に置いてあるつまみを少し皿に取り分け、ソファまで持ってくる。

 

「今年は夏にマリアージュ事件があったので開催危なかったらしいですけど、何とかDSAAも残すは女子の部の本戦のみとなりましたねー。あ、零しちゃ駄目ですよー?」

 

「あい」

 

 皿を口の下へと持って行きながら子供の世話をするユーリの姿を見ていると、誰もかれもが母親としての姿が板についてきたものだと思う。……いや、これが正しい形であり、正しい流れなのだろうから文句は一切存在しない。ただ……ちょっとだけ寂しい思いはある。

 

「おねーちゃん?」

 

 長男、クロードは二歳になる。となるとこの様に軽い会話なら理解し、出来るようになってくる。内弟子扱いでこの家に置いて貰っているこの身はクロードがいる前からこの家にいるのだから、この子からすれば十分に姉と言える存在なのだろうが―――。

 

「なんでもないですよ。美味しいですか?」

 

「うん!」

 

 美味しそうに口を開けて食べる姿を少しだけ眺めてから視線をテレビへと戻す。丁度今年の本戦出場選手達の紹介が終わった所なのか、舞台の上には様々な選手の姿が見え、それを映すカメラはゆっくりと実況席へと戻されて行く。その過程でチラリと舞台の上に立つ白いバリアジャケット姿の人物はまず間違いなく自分の知っている彼女なのだろうが―――まあ、世界代表クラスともなればどうなのだろう。

 

『ハイ、此方再び実況席です。今年は昨年には激闘を繰り広げたチャンピオン、ジークリンデ・エレミア選手とティアナ・ランスター選手が欠場という事で予選からしても大波乱でしたね。主にヴィクター選手やミカヤ選手の荒れっぷりで』

 

『実質的に勝ち逃げの様なもんだからね』

 

 実況席には先ほど通りユーノ、ケラ、そして少しだけ感電したかのようにスパークしている師父の姿が映し出されているが、これ確実にカメラが向けられていない間に近くで控えているナルにおしおきされたんだろうなぁ、と確信しつつ楽しそうに仕事をしている師父の姿を眺める。実況のケラはホロウィンドウを浮かべて注目選手を数人ピックアップすると、それに広げてユーノとイストの前に並べる。

 

『さて、いきなり優勝候補である二人がいない事で波乱を予想されているミッドチルダの世界代表決定戦ですが、スクライア先生とバサラ閣下は今年度の世界代表に関しては一体誰が輝くと思っていますか?』

 

 何ともそれっぽい会話が始まる。いや、確かにそれが仕事なのだろうか正しいのだろうが―――正直な話真面目な雰囲気を漂わせ始める師父の姿には僅かばかりの違和感を禁じ得ない。弟子として感想がそれでいいのかとは思うが、基本的に一切躊躇や遠慮はいらないと言われているしこれでいいのだろうと思う。

 

『知り合いの贔屓目かもしれないけどキャロ・ル・ルシエが今年は結構いい線行くんじゃないかと思うんだよなぁ』

 

『あぁー……言いたい事は解るね』

 

 ユーノが頷きながら肯定する。そこに実況のケラがキャロの姿をホロウィンドウに浮かべながら首をかしげる。

 

『キャロ・ル・ルシエ選手……確か魔導師分類だと召喚士のクラスの子ですね? 設置型チェーンバインドと龍召喚を駆使した酷いハメコン見せて今の所無傷のストレート勝ちですが、彼女は記録によると去年は予選敗退となっているんですよね。今回これだけ猛威を振るっているのに言っちゃ悪いですけどショボイ成績じゃないですか?』

 

『去年は予選でティアナに当たったからなぁ。身内だとやっぱり弱点知っているというか、試合開始0.2秒で奥の手ぶっぱして容赦なく気絶させる辺り流石ランスター家だと戦慄せざるを得ない。こうやって子供は少しずつ大人になって行くんだなぁ……って妙な納得しちゃったよ』

 

『そこの友人兼解説の脱線を完全にスルーするんだけど今年は優勝したら好きな子を捕獲してプレゼントするよってみんなで応援したから凄い気合出してるってなのはが言ってたね』

 

『昨年から思ってた事ですけど出てくる身内に対する対応シビアすぎませんかというかハードすぎませんか。何かしら犠牲になってたり容赦なく死体蹴りしてくる話しか上がってこない気がするんですけど―――あ、もちろんそこの鉄腕パパさんの家族自慢はいいとしまして』

 

 実況席が段々と話題の脱線を始めているがこれ、確実に身内の恥を晒し始めているのではないだろうかと思い始める。しかもミッドチルダ全域への放送なので世界規模で。だが身内が”アレ”なのは今更な話なので問題ないと心の中で判断しておく。

 

 ともあれ、

 

 和気藹々とするテレビの中の光景から視線を外すと横から最後の料理を大皿に乗せて運んでくるディアーチェとシュテルの姿を目撃し、それと同時に玄関の方からがちゃり、と音を立てて鍵の開く音がする。入り込んでくる”気配”でそれが誰のものであるかを即座に判断するも、反射的に視線を玄関の方へと向ける。扉を開けながら玄関に入り込んでくる二つの姿は予想下通りのものだ。

 

「ういーっす、ただいまー」

 

「すいません遅くなりました。もう試合の方始まってしまいましたか? 途中屋根の上を跳躍しつつ帰ってきたのですけど」

 

「まだ第一試合始まってないから大丈夫だよー」

 

 リビングまで入ってきたのは小さな姿―――ユニゾンデバイスのアギト。若干痴女臭い服装をしているがこれを本人は普通だと判断しているのでそれは置いておく。もう一人が―――自分とうり二つの女性。正確に言えば”自分の何年も先の姿”の女性。長い緑髪をストレートにおろし、首には赤のマフラーを巻いてある。大人しい色のロングコートを脱ぎ、それをコートラックにかける。

 

 将来、自分は彼女になるのだろうか、なれるのだろうか。

 

「……アインハルト?」

 

「あ……」

 

 彼女の事を不必要に眺め過ぎていたらしい。視線に気づかれた。何故か恥ずかしくて素早く視線を逸らし、テレビの方へと再び視線を向ける。横でレヴィがクスリ、と笑っている声を聞き流しておく。

 

「何でもありません、イング」

 

 テレビの中では第一試合が始まろうとしていた。世界代表戦にまで残っている猛者たちだ。そんなレベルの戦いがテレビで見る事が出来る。夏に起きた事件のせいで今年は少しだけ開催が遅れてこんな時期に―――秋になってしまったが、

 

 今年もまたDSAAの季節がやってきた。

 

「……いいなぁ」

 

 テレビの中で活躍する同じ十代女子達の姿を眺め、ポツリとそんな言葉を零す。

 

 ―――新暦78年秋。

 

 夏に起きた冥王の事件は終わり、

 

 事件は少しずつ過去に変わり始め、

 

 世界は綺麗に紅葉に染められていた。




 貴様らはあらすじを読んだとき一種のトキメキを感じたかもしれない。

 あぁ、つまりは平常運転だ。激しく平常運転だ。貴様らマタセタナ。続きを待っていた諸君久しぶり、新規読者への配慮は何時も通り0なのでそこらへん注意というだけで。

 マテズからの続きという事でDSAAに関しては大きな改変が加えられています。原作Vividのままだとは断じて思わないように。
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