ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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ハロウィン

 ハロウィン本番は曇りひとつない晴天だった。空には爛々と太陽が輝き、秋の終わりを完全に陽で照らしてくれていた。寒さをある程度押さえてくれるぐらいには素晴らしい天気だった。こういう日は秋でも珍しく、思いっきり体を動かしたくなるような日だった。そんな中で、自分は外―――ではなく喫茶店へと変貌した教室の奥、更衣室スペースにいる。鏡の前に立って、本日のイベントの為の仮装を確認する。仮装、と言ってもそう複雑な衣装をしているわけではない。豹の耳と尻尾を付け、そしてメイド服姿。”去年はやりすぎた”というのが全員の共通見解であったため、それを何とか払拭するためにも今年はあっさりめ、特にニッチすぎない様に狙った結果、非常にシンプルに落ち着いた。

 

 ……バリアジャケットを応用するればいいのに、態々手作りにするのがディアーチェさんの凄い所ですよね。

 

 ああいう家庭的なスキル、ディアーチェが圧倒的過ぎて物凄い。今家に残っている面子で、二位の位置にイングが滑りこんでくる辺り、彼女の家庭への憧れというか、執念は伝わってくる。元とはいえ”自分”という存在でもあるのだし。

 

 ともあれ、そういう事もあって仮装は手作りとなっており、身内それぞれで内容が異なっている。まあ、それなりに気合を入れているという事だ。残念ながら見せてあげたい相手は今日は帰って来てないというかどうやら生きているかどうかさえ怪しくなって来たらしいが。ともあれ、そんな風に鏡に映っている自分の姿を確認し、接客用の笑顔を浮かべてみる。鏡には可愛らしい少女の笑顔が浮かび上がり、可憐な姿を映している。我ながら中々の美少女だと思う。少なくとも世の中の普通の男子であれば割とイチコロ程度の美少女。

 

 アインハルト・ストラトスは己の評価を間違えない。

 

 自分ができる事、自分の価値、それを見極め、認識する事は大事な事であると教わった。自分を卑下する事も、そして高く評価する事も駄目だ。自分がどのラインでどれだけであるかを、それをちゃんと認識したうえで周りと合わせないといけない。特に異端であればなおさらだ。自分を卑下するのは自分以下に対して失礼だし、届かない所に自分が存在すると言う事はただの愚か者だ。だから自己の判断はちゃんとしなくてはならない。自分は美少女で、同年代の中では圧倒的に強くて、そして―――。

 

「ストラトスさんー?」

 

「あ、はい。何でしょうか」

 

「廊下でキャッチお願いできますか? そのまま軽く校内見回ってくれても問題ないですから。これ持って宣伝してくれると多分というか確実に女子は無理でも男子は釣れるのでお願いしますね」

 

 そう言ってクラスメイトは看板を渡してくれる。それにはもちろんこのクラスの場所、そしてやっている事が書いてある。ようは広告塔になって来い、という話なのだろう。看板を受け取りつつ、自分の役割は理解したと返事する。

 

「つまり馬鹿を釣って来いと」

 

「イエス」

 

 我がクラスメイトも大分言うなぁ、と思い始める。

 

 

                           ◆

 

 

 廊下に出るとハロウィンは始まったばかりにもかかわらず大量の生徒と外部入場者で溢れていた。日頃から割と人が多く、そして騒がしいSt.ヒルデは今日だけはいつも以上の賑わいを見せ、そして廊下を人で埋め尽くすという状況を生み出していた。右から左へと流れて行く人波を確認しつつ、少し気おくれしそうになる自分の心を押さえつける。良く考えたらこんな大量の人の前で宣伝とか大丈夫なのだろうか、と。

 

「お、あの子可愛くね?」

 

「あんな子がいるなら入ってみるか」

 

 ただそんな声もあって教室へと向かってゆく人の姿を見れば特に声をかける必要もないんじゃないかなぁ、と思い始める。意外と客商売チョロイかもしれない。とりあえず教室の中に入ってくれる客の為に軽くにこり、と笑いかけるとその足並みが加速する。精々学年対抗売上レースに大いに貢献して貰いたい。

 

「ここは他にもいますし軽く歩き回りましょうか」

 

 振り返って教室の前で呼び込みをしているクラスメイトを見ると、サムズアップが帰ってくるので同じくサムズアップを返しておく。それを了承と受け取ってとりあえず校内を歩き始める。もちろん、看板をしっかりと持っておくことは忘れない。ただ廊下なんて狭い場所で宣伝していても集客はそこまで望めない……と思う。もっと人が多く集まる場所、もしくは客を奪う勢いでどっか別の所へ行くのがいいのかもしれない。

 

 そう思ったところで、一つのアイデアが頭に浮かび上がる。

 

「そうだ、ヴィヴィオさんの客を奪おう」

 

 なんかヴィヴィオが勝つのはもやもやするしヴィヴィオの所から客を奪ったのであれば罪悪感は生まれない。それでいてクラスに貢献できる。何て素晴らしい案なのだろうか。犠牲になるのはヴィヴィオとそのクラスメイト、あとついででリオとコロナも少しだけ悲鳴を上げるかもしれないがチョロイ客の方が悪いのだ。あとヴィヴィオに加担する全てが悪なのだ。前世覇王の自分がそう断言するのでこれは絶対の法だ。少なくともシュトゥラでは法になると思う。ヴィヴィオは状況問わずギルティ、と。

 

 よし、実行ですね。

 

 そうと決まれば行動は早い。ヴィヴィオは自分と違って初等部だ。校舎が一つ違うが、あちらもあちらで確か露店か何かをやっていたはずだ。中等部とは違って本格的ではないものの、何か屋台の様な店を一つ開くという内容だったはずだ。場所は確かグラウンドだったはずだ、と思いだし、歩みを進める。

 

 やはり恰好の事もあってだろうか、何時もよりも視線が自分に集まっている気がする。外からの入場者も本日来ている事を考えると割と妥当な事も気がしないでもない。だから営業用のスマイルを浮かべ、声をかける事はないがしっかり看板を手に持って最低限のアピールはしておく。そう、これは宣伝であって媚びているわけではない。覇王は媚びない。ついでに顧みる事もしない。ただし逃走ばかりは許されて欲しい。

 

 グラウンドまでの距離は校門へと向かう途中でしかない、そうかからないだろうと思い階段まで近づいたところで、肩にトントン、と軽い感触を得る。誰か、と思って振り返った所で、

 

「やっほ、久しぶりね」

 

「あ」

 

 肩を叩いてきたのはオレンジ髪の女だった。サングラスをかけて私服姿で軽く変装はしているつもりなのだろうが、良く知っている人物からすれば彼女が誰であるのかは一目瞭然だ。声に名前を出したら迷惑になるだろうから、口に出さず、こくりと頷く。忙しいとは思っていたが、まさかティアナが来るとは思ってもいなかった。

 

「お久しぶりです」

 

「うん、ちょっと有給消費して来いって上司に言われちゃってね。ちょうどいいタイミングだし周りとタイミング合わせたのよね。あー、全く容赦のないブラック職場はホント疲れるわよねー」

 

 そうは言うが、日常生活が充実しているのかティアナの表情は楽しそうなものだった。どうやら本当に休日を楽しみにやって来たらしい。そんなオフの日にこんなところでいいのだろうか、と一瞬だけ思ったが、それはそれで態々来て貰ったティアナにも失礼な話だし、思考から消し去る。

 

「と、周りということは―――」

 

「あぁ、うん。今日は結構来てるわよ? スバルん所は皆纏めてオフとって私と一緒に来たし、なのはさんとユーノさんも昼前には来るって話だし。そっちの家の事だからどうせ来るんだろうけど―――あ、あと問題児二人と餌も来るって。まあ、それ以外にもちらほらと機動六課面子はなんだかんだで遊びに来るらしいわよ。なんというか身内に甘いというかお祭り好きというか……賑やかなのが好きよね、皆」

 

 もはや完全に餌呼びが定着してしまったエリオに対して憐れという感情が湧きあがるが、誰もアレの問題には関わりたくないので湧きあがる感情を握りつぶすのは皆やっている事だ。とりあえずエリオに心の中で合掌しておき、

 

「じゃあ適当にブラついていれば他のみんなさんにも会えそうですね」

 

「そうねー。まあ、スバルとかはどうせまた食べ歩きでもしているんだろうけど……まあ、私も適当に他の連中を探しながら貴女のクラスに寄らせてもらうわ。じゃ、またね」

 

 そう言ってティアナは去って行く。去り際にさりげなくクラスに寄って売り上げに貢献してくれると約束してくれる辺り、ティアナも大分成長したというか、大人としての貫禄が出たというか、そういう風格が出てきたように思える。機動六課にお邪魔していたころの記憶では何やら振り回されているような印象だったが、この数年で一気に落ち着いた雰囲気が出てきている様に感じる。ともあれ、スバルを捕まえてクラスへと送りこめば物凄い貢献になりそうだとは把握した。

 

 大食いですし。

 

 まあ、所詮は見つかったら、の話になる。そう簡単に見つかる訳はないのでとりあえず逢えたら程度の認識にしておく。ティアナと別れを告げたところからそのまま真直ぐ校舎の入り口まで向かう。やはり好奇の視線は突き刺さり、そこに少しだけ恥ずかしさを感じる。ヴィヴィオだったら寧ろ快感として覚えそうなところだろうが、そこまで自分は突き抜けていない。

 

 ともあれ、そうやって校舎を抜けてグランドへと出れば、広いグランドへと出る―――本日はそれすらも大量の入場者で埋め尽くされているが。これでもか、というぐらいに店や客が入っており、かなりごまごまとした環境が出来上がっている。これだけ広いグラウンドが人で埋まる姿も中々珍しいものだと去年の光景を思い出しつつ、軽くヴィヴィオの気配を探る。

 

 特徴的な現代の聖王の気配は見逃す事ができない。

 

「こっちですね」

 

 ヴィヴィオの気配を察知し。彼女がどこにいるのかを把握する。グラウンド内にいる事から確実にクラスの屋台にいるだろうとアタリをつけ、気配の方向へと進み―――ヴィヴィオの姿を見つける。ただし、

 

 そこは屋台ではなかった。

 

「みっなさーん! ハッピーハロウィーン!」

 

「イエ―――!!」

 

 グラウンド端のステージの上で、白いアイドル衣装っぽい服装に包まれたヴィヴィオがマイクを片手にノリノリでMCをやっていた。しかも観客席を見るとノリノリで返答をしているのはベルカ教会でよく見かけるベルカの騎士達ではなかろうか。貴様ら仕事はどうした。なんでそんなにノリがいいんだ。というか手に握っているライトはどう見てもオリジナルのグッズに見えるのだがもしかして今日のために用意してきたのだろうか。

 

 ……えーと、レヴィさんが言ってましたね。

 

 こういう場合は、

 

「飼いならされやがって」

 

「我ながら割と頭悪いと思ってる」

 

「こんにちわー」

 

「あ、どうも」

 

 横へと視線を向けると、リオとコロナの姿があった。コロナの姿はドラキュリーナを意識した黒と白のフリル多めの服装で、リオは全体の雰囲気に合わせたのか色は黒とオレンジで、服装自体はチャイナ服になっている。どちらも美少女で非常に映えるのだが―――やっぱりヴィヴィオが頭のおかしさではリードしすぎていた。どうしても視線はあっちへ集中していた。

 

「アレ、何やってるんですか。私は作成段階であんなの見なかったんですけど」

 

 あはは、と渇いた笑いを零しながらコロナが解説を入れてくる。

 

「うんとね、ウチのクラスは実はパンプキンパイを販売する事にしてね、あっちの方で屋台をやっているんだ」

 

 そう言ってコロナは後ろを指さし、行列のできている屋台を指し示す。かなり人気があるのか、長い行列が出来上がっており、屋台の方は忙しそうに全力で働いていた。ただその行列に並んでいる人間に何故チラホラと騎士の姿を見かけるのだろうか―――何気にフェイト夫妻が行列に並んでいるのだがエース級が纏めて有給とか管理局側は大丈夫なのだろうか。

 

「ヴィヴィオがね? ”やっぱり宣伝は派手にしないとね! サクラとかいれるけど問題ないよね” とか言い始めちゃった結果ステージを占拠して出し物の宣伝始めちゃったんだけど、そこで調子が出ちゃったのかステージ独占状態になっちゃってね? MC交代しちゃったの。ほら、ヴィヴィオって必要のないぐらいに優秀で頭いいからMCに一回必要な情報全部見せて貰ったり教えてもらったりすると全部覚えちゃうから、前のMC以上に仕事が出来ちゃって―――」

 

 あっち、と言ってリオがステージ横を指さすと、白く燃え尽きたMCがそこに倒れていた。

 

「完全に乗っ取っちゃった」

 

「何やってるんですかアレ。いえ、解るには解るんですけど」

 

「言わないで。お願い」

 

 楽しそうにステージ上でMCやっている辺り、アレはたぶん本来の目的を忘れて楽しんでいるんだろうなぁ、そう思ったところで、知っている気配の接近を感じる。それに惹かれる様に視線を校門の方へと向ける。

 

 そこにいたのは―――。




 ベルカ騎士団の提供でお送りします。

 ヴィヴィメモに置いて前作の主役勢はいわゆる”ご都合主義”的ポジショニングなので、あまり引っ張り過ぎると展開が楽々に解決されてしまうのです。だから適度に出す程度で抑えるのがベスト、そんな感じで鉄腕パパは雪山に封印ヨー。いや、まあ、戻って来るんですけどね。

 前回は悩む立場が導く立場となると時代の代わりを感じますネー……。
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