「はぁーい! それでは第十二回St.ヒルデ腕相撲大会を開催します! 実況はSt.ヒルデ初等部所属、高町ヴィヴィオと!」
「ちゅ、中等部所属アインハルト・ストラトスです……」
私は一体、何をやっているのだろうか。
気づけば何時の間にかアイドルっぽいステージ衣装をヴィヴィオが用意していた。そしてそれを叩きつけながら着替えろとあの狂人は言った。お前も司会だと。ついに狂ったかと思ったら割と真面目に司会としてスカウトされたので更に狂ったのかと思った。つまり総合的に考えるとヴィヴィオは狂っている事で確定しているが、これは一体どういう事だろうか。そんな事を考えているうちに着替えは完了し、そしてステージの上、実況席に座らせられていた。意味が解らない。だが逃げ場はないという事だけは理解できた。
観客席で目線逸らしているリオとコロナは後でベルカ式処刑ですねー。
助けようとする姿勢を見せようとしない友人たちは放っておいて、まあいいやと思う。横へと視線を向ければ、そこには見知った男の姿がある。ただし何時もとは違って頭には包帯を巻いてあるのだがその姿は、
「はい、どーも解説のベルカ鉄腕王イストさんでーす。なお頭の負傷は管理局の白い魔王によってつけられたものなので訴訟不可避。クソォ、お前見てろよ。いや、マジで。ユーノきゅんにある事ない事吹き込んでやるからな」
師父が首をかしげるように動かした次の瞬間には観客席から放たれた極細のレーザーが頭の位置を貫いていた。直後観客席から聞こえる騒ぎをガン無視し、ヴィヴィオがそのままマイクを握り、慣れた様子でトークを始める。
「はい、というわけでこの三者で本日に実況と解説を進めようと思います。えぇ、元のMCなんかいなかった。いいですね? はい! ヴィヴィオは素直な皆さんがだーい好きです! というわけで選手紹介の前に軽くルール説明と入ります、アインハルトさんどうぞ」
「いや、そこで私に振らないでくださいよ」
横から師父がカンペをこっそりと見せてくる。
……師父の指示なら仕方がないですね。えぇ、本当は嫌ですけど師父の指示ならしょうがないですね。えぇ、もうそりゃあ仕方がないですよ。えへへ。
「アインハルトさんチョロイ」
「ではルール説明をします。ステージ中央―――」
ステージ中央には腕相撲用のテーブルが置いてある。肘を置いておくための台座と、そして開いている片手で掴む為のバーがそのテーブルには存在している。あとヴィヴィオは絶対に後で復讐すると心の中で誓っておく。
「アレが腕相撲のフィールドとなります。ジャッジは公平に術式を持って、試合中の魔法使用は全面禁止となっています。勝負の制限時間は最大三十秒で、それを超えてしまった場合はその時点で押していた方の勝利となります。トーナメント方式、優勝者には叶えられる範囲で、という制限が付きますが願いが一つだけ、叶えられます!」
その言葉に反応する様にステージ横にスタンバイしていた学園長がサムズアップを観客席へと向け、それに反応する様に観客席から拍手が送られる。学校側を盛り立てるのとしては良い感じの商品なんではないかと思う。問題はこれが元々計画されてた商品ではなく、横から乗っ取ったヴィヴィオが交渉して変えた商品という事だ。ヴィヴィオの行動力には驚かされるがこの娘は一体どこへ向かっているのか心配になってくる。いや、ノリとしては新感覚系聖王というのは解るのだが。ベルカの将来が心配になってくる。
ともあれ、
「選手入場です」
「裏で行われた予選を勝ち抜いてきた腕相撲プロ達、ご入場―――!」
ヴィヴィオがそういうのと同時にステージ上へと本日の大人げない連中が晒される。
列に並んでステージに上がってくる姿はどれも大人の姿だ。そう、大人の姿。このイベントは本来St.ヒルデに通う子供たちを対象としたイベントなのに大人達だ。ヴィヴィオの発言によると予選は激しい虐殺の嵐だったという事だった。前年度チャンピオンを一瞬で蹂躙した連中がガチ顔で乗り込んでくる、そんな地獄絵図が予選の様子だった。どう足掻いても子供たちの泣き声と悲鳴しか聞こえない修羅場を乗り越えてきた恥ずべき大人連中、それが今年の腕相撲大会の本戦参加者たちだった。
恥を知れ。
「エントリーナンバーワン! 最近ナンパに失敗した八神シグナムさん!」
「次は失敗しません」
ヴィヴィオの解説と選手側からの掛け声が何か軽くおかしい気がする。それにそのリアクションや情報は間違いなくヴァイスが後で泣く羽目になるのでもう少し自重をお願いしたい所である。
「エントリーナンバーツー! イング・バサラさん! 予選で覇王流を使う大人げない地獄絵図メイカーナンバーワンでした!」
「前進蹂躙あるのみです」
思いっきり見知った顔の参戦に軽く頭を抱える。いや、それこそ参加は知っていたが、こういうやる気のあるコメントを聞かされるとほぼ本人の様な存在としては非常にコメントに困るというか、ともかく何とかして舞台から引きずり落とせないか悩むところではある。楽しそうにしているのはいいのだが―――こんな大会に出場する程鬱憤でも溜まっていたのだろうか。
「エントリーナンバースリー! 増える家族! 増える食費! 家庭を支えるのは辛いよ……ゲンヤ・ナカジマさん!」
「優勝したら食費を何としてでも浮かせます。というかマジでどうにかしないとウチの家計がヤバイんだけど。おかしいな、一家全員働いているはずなのに……」
目頭を押さえての切実過ぎる言葉に思わず涙が流れそうになる。リオとコロナで食費の事を笑い混じりで話していたが本人たちからすれば冗談にならない話だったらしいし、これ以降はこの話題に関してはなるべくタブーという方針を是非ともとって行こうと思う。
「エントリーナンバーフォー! 何故来た! ジャンル違いにも程がある! カリム・グラシアさん!」
「淑女の嗜みです」
「淑女の意味を辞書で調べてこいや」
師父のツッコミに対してカリムがふふふ、と笑みを浮かべるだけで返答をしない。しかしこの女もずいぶん頭がおかしいと思ったが、ついに本性を出したか、と個人的な感想では思う。なぜなら毎回騎士団がらみの頭の悪い事件でゴーサインを出しているのはカリムだ。つまり毎回起きている事件の黒幕は間違いなくカリムなのだ。それが今回は表に立っているだけ。ともあれ、
「この四名が戦犯にして本戦出場者です! いい年しているくせに恥ずかしくはないんでしょうかこれ!」
「ヴィヴィオの奴いい笑顔で毒吐いているなぁ。そうだぞ貴様ら、恥を知れ恥を。はっはっはっはっは!」
「師父、去年仮面被って大会に参加して見事出禁食らってませんでしたっけ……?」
「……」
師父が黙る。なんでこうも身内には馬鹿というか自重を投げ捨てた様な連中しかいないのだろうか。強くなる事も、だれかを愛する事も狂気だ、という言葉はクラウスの時代からあった言葉だ。だからといってこういう方向性で狂気を発揮するのはまた違う話だと思う。クラウスも現代のベルカを見たらきっと頭を抱えながら墓場に帰ってくれるに違いない。
「ではトーナメント表を発表します!」
「ばばん」
口でサウンドエフェクトを真似する師父がそのままフリップボードを持ち出し、テーブルの上に立てる。とはいえ小さな大会なので四人しかいないし、その組み合わせも限られている。故に見えてくる一回戦はカリム対ゲンヤ、そしてイング対シグナム。いきなり一回戦から事実上の決勝戦が始まるという凄まじい組み合わせとなってしまった。これ、カリムでもゲンヤでも、どちらかが勝ち残ったとしても、確実にイングかシグナムに狩られる未来しか見えないのだが。
「あ、そうか」
「そう、しかし魔法禁止ルール! それにはもちろん魔力による身体能力の強化も含まれています! ですので実際の所、ここで一番有利なのはゲンヤ選手だったりします。男であるという事、それは技術や才能という点を抜けば肉体的に一番恵まれているという事に他なりません! ブレードハッピーとかバーサーク人妻とか腹黒シスターとかが相手ですが、実は意外と勝率が高かったりするのがゲンヤ選手です! ―――あ、トトカルチョの方は客席にいるクラスメイトの方が、えぇ、あ、そこです。あ、そこ手を振ってるウチのママ見えますか? あそこでトトカルチョやってますよー! あ、ママ! ヴィヴィオ頑張ってますよ―――!」
とりあえずヴィヴィオが段々と話をわきに逸らし始めたので師父越しに蹴りを叩き込んでヴィヴィオを一旦ステージから叩き落としておく。ヴィヴィオに長い間ステージを任せておくのはとりあえず危険だと判断し、視線を師父の方へと向ける。若干師父が引き気味の様な気がするけどなぜだろうか。
「と、とりあえず―――優秀候補は誰だと思いますか?」
「ここで嫁って答えなかったら俺の未来が無い」
視線をステージ脇へと向けるとにっこり、と笑みを浮かべるイングの姿を見つける。あぁ、そういえばそうですよね、これ完全な人選ミスじゃないかと思い始めるけど、まあこうなってしまったのなら仕方がない。唯一まともな人間として、自分だけでもこの大会を無事に終わらせる事に存在意義があるのではないかと思う。そうと思えばさらにやる気は出てくる。そう、これは私にしかできない事、このアインハルト・ストラトスにしかできない事。
「ではさっそく第一回戦の方の準備に入りましょうか!」
「偉くやる気だしたな弟子よ。パーパは若干君達の将来に不安を覚えないでもないです」
師父の発言を軽くスルーしながらステージ脇から第一回戦の選手を呼び出す。ステージ上に上がってくるのは何時ものカソック姿のカリムの姿と、そしてオフだからか私服姿のゲンヤだ。十分に気合が入っているのか、既に服の袖はまくられており、観客席の方から娘達からの声援が飛んできている。野次にも似たそれをゲンヤは笑顔で受け止め、拳を突き上げる。どうやら勝利を確信している様子だった。
「あらあら」
それと比べてカリムの様子は静かだ。ゲンヤの様に興奮も期待されている様子もなく、まさしく何時も通りの様子でいた。逆にその様子が恐怖を煽っているのだが。何せ純粋な体格差を考慮すればカリムの勝ち目などないのに、カリムは静かに笑みを浮かべているだけだ。こういう静かにしているタイプこそが一番恐ろしいタイプであると理解している。静かにしているのは何がどうあろうと、その結果勝利する事を確信しているからだ。だからこそ無駄に行動する必要はない。
「これは勝負が解らなくなってきたなあ―――ちなみにあまり知られていないようだがシスターカリムは全く戦闘できないと思っているのならそれは勘違いだぞ」
「と、言いますと?」
「ベルカに戦闘訓練を受けない騎士がいるわけないだろ」
「おっしゃる通りですね」
本当にその通りだ。シンプル過ぎて納得するしかない理由だった。ともあれ、観客の声援を受けながら二人が勝負の台に付く。
その様子を眺め、
―――何やってんでしょうね……私は……。
不意に正気に戻り、頭を抱える。
今回は若干短めだ開けど調子悪いのでここまで。
マテズがエロゲでいう本編、メインシナリオであればヴィヴィメモはFD、アフターなのでメインで頑張ってた人たちがポンコツになったりはっちゃけるのは仕様です。ヴィヴィ王が自重してない気がしますが仕様ったら仕様 !すでのな