ヴィヴィッドMemories   作:てんぞー

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スクール・ガールズ

「おはようございますわストラトスさん。昨日の試合を見ましたか?」

 

「えぇ、もちろん」

 

 St.ヒルデの自分の教室へとやってくるとやはり、というべきかクラスルームはいつも以上に騒がしく、そして盛り上がっていた。その内容を考える必要もない―――DSAAの事だ。おそらくこの世界で大人や子供構わず、アレを見ていない人間等存在しない。それだけにあの大会には知名度などが付いて回っている。故にDSAA世界代表戦の次の日……いや、数日の間はDSAAの世界代表戦、その内容で話題は持ちきりになるのだろう。

 

 今の様に。

 

 普段はあまり話す事のないクラスメイトですら少し興奮した様子で話しかけて来ている。普段は意図的に距離を取って話さないようにしているのだが、こんな風に興奮している時だけはその事実はクラスメイト達には通じない。楽しそうに笑みを浮かべ、同じSt.ヒルデの制服姿で少し飛び跳ねながら、此方のテーブルの上に両手を乗せる。軽いジャンプをするたびにミッド人に多いその金髪が揺れる。

 

「はしたないかも知れませんけど、私昨日の試合を見て物凄い興奮しましたわ! 私達と変わらぬ年齢で世界を代表するレベルでの実力を持っている事! 真剣に勝利だけを目指して戦うあの姿! 昔は何とも野蛮だと思った事でしたが、こうやって実際に武道や魔導を学び始める年齢になりますと活躍している方々がどれだけハイレベルであるのかを理解しますわね!」

 

「そ、そうですね」

 

 思った以上に気合が入っているクラスメイトの姿に軽くひくが、それでも彼女の興奮した様子は終わらない。あまり、というかほとんど話したこともない筈なのだが、こうやって予想外に食いつかれると若干驚く。どう返答したものか、それを短く悩むが、考えが思い浮かぶ前にクラスメイトである彼女―――名前は覚えてないその子が両手で此方の手を掴んでくる。

 

「ストラトスさん!」

 

「あ、はい」

 

「私、ストラトスさんが武道に通ずる方だと聞きました!」

 

 そのことばで大体察した。おそらく、というよりこのクラスはあまり”ストラトス”という名の意味を知らない。だからこそこうやって遠慮もなく話しかけてこられるのだろう。低学年だった頃は親から”関わるな”という言葉があって為に誰も近寄る事はなかったが……こうやって遠慮なく誰かが来るのはやっぱり環境の変化だろうか。ともあれ、積極的にかかわる理由が無ければ―――自分から否定して追い出す理由もない。

 

「えぇ、一応師父に内弟子として家に置いてもらい、修練に励んでいる身です」

 

「ま、ストラトスさんってもしかしてかなりやる方なんですか? ストラトスさんは何時も静かに勉強していますし、あまり体育でも目立ったことはないので勉強をするタイプの人だと思っていたのでしたが」

 

 体育に関しては感覚の違いだ。師父の言葉を借りて言わせてもらうのであれば”プロがアマの環境で暴れるのは情けない”という言葉に尽きる。自分がこの環境で一位を取れるのはどう足掻いても当たり前の事で、そして無意味な事だ。クラスの体育の点数で高得点を取って喜ぶほど子供ではないので、素直に機会を与えるという事でテストも体育も、ある程度採点されるものは手を抜いている―――今の所見破られた事はない、と思う。

 

「まあ、あまり目立つことは好きではないので」

 

「ですよねストラトスさんを見ているとなんとなくそう言うの伝わってきますわ。ですが今はそのストラトスさんの武道に関する知識をお借りしたいのです! 私はどうしても証明したい事があるのですわ!」

 

 名前を覚えてない彼女は掴んだ両手をぶんぶんと上下に振り回す。オーバーリアクションだなぁ、と思う反面、こう言う年齢であれば何をやるにしてもオーバーリアクションだろうな、と今更な事を思う。まあ、ぶっちゃけてしまえば自分が”枯れている”だけなので、目の前のリアクションが健全な中等部学生の反応だ。

 

「自分の知識で助けになるのであれば」

 

「では!」

 

 バン、と手を解放し机を叩き、

 

「昨日の世界代表決勝戦、ジークリンデであれば優勝出来た事を証明してほしいのです!」

 

 世界代表決定戦。目を軽く瞑れば昨夜テレビで見た内容を精密に思い出す事が出来る。師父と司書長の容赦のないボケの中アナウンサーが頑張っていたのは特徴的だったが―――決勝戦の内容は実にシンプルなものだった。ミカヤ・シェベルという選手と、そして究極召喚を部分的に展開してリングごと敵を滅ぼすという出禁確定の手段に手を出したキャロとの勝負という内容だった。

 

 その試合内容は一瞬で終了した。

 

 無拍だ。

 

 今まで隠していたのか、完全に対策を施していたのかは解らないが、試合が開始するのと同時に刀型のデバイスを武器とするミカヤは居合を混ぜた無拍子の斬撃を召喚やバインドを発動させようとしたキャロへと叩き込み、そこで怯んだ瞬間に連続で無拍子の斬撃を叩き込んだ。キャロの防御力自体はそう高くはない、何故なら彼女の戦闘力というものは九割がた召喚物に依存しているからだ。故に召喚できる前に必殺を叩き込んで沈める。考えられる限りの最善手だ。

 

 ……一番印象的なのは試合が終わった瞬間リングサイドで歓喜の雄たけびをあげていたエリオさんの方なんですけどね……。

 

 逆にキャロは負けた瞬間血涙流しそうな様子が印象的だった。アレ、ほとんど自分と年齢が変わらないというのに何であそこまでぶっ飛んでいるのだろうか激しく気になる。決して参考にしたいわけではないが。

 

 ともあれ、

 

「ジークリンデ……エレミアですか」

 

「えぇ!」

 

 彼女の事はテレビだけではなく―――記憶として知っている。エレミア。リッド。義手。鉄腕。軽く思い出すだけで多くのキーワード、そして昔の光景が脳をよぎる。そこに付随する感情は―――もう存在しない。無、完全にない。そこに存在したイングヴァルトの感情は既に数年前に清算され、もう存在しない。……今の人生に関わってこない限り、どうでもいい人間の一人だ、エレミアは。故に自分が持っている情報と、そして去年テレビを通してみた彼女の姿を思いだし、答える。

 

「―――エレミアであれば、楽勝ですね」

 

 

                           ◆

 

 

 軽い興奮を空気に残したまま一日は進み、そして終わる。ベルが鳴って一日の授業が終わると別段厳しいわけでもないが、何故か一息をつくような安心感がある。精神がどんなものであろうと、学校という存在はその日の終わりが来ると安心感を与えるものなのだろうか。

 

 授業に使った筆記用具やノートを手提げかばんの中へとしまうと、それを持ち上げる。ホームルームが終わって先生が教室から出た瞬間騒ぎ、そして集まり始めるのはどの時代であっても変わらない文化なんだな、と少しだけ面白みを感じ、かばんを手に立ちあがる。

 

「あ、ストラトスさんさようなら」

 

「さようならー」

 

 立ち上がる此方の姿が目に入ったクラスメイト達が手を振りながら挨拶してくる。あいにくと名前はやはり覚えていないので、返事する時も口に名前を出す事はない。少しだけ笑顔を作って、軽く片手を持ち上げて振る。

 

「えぇ、さようなら」

 

 言葉を返してから振り返る事もなく、そのまま教室の外へと出る。九月後半―――秋ともなると日が暮れるのは早い。窓の外から風景を眺めれば、既に太陽が段々と降りてきている様子が見て取れる。まだ完全に赤く染まる様な時間帯ではないが、数時間後にはもう綺麗な夕暮れを見る事が出来るだろう。時間の経過とは早いものだと、そう思いつつ騒がしい廊下を一人で歩き始める。横を抜ける生徒たちの声にはどれにも楽しそうな色が乗っている。そしてその話題の中心はほとんどが昨夜のDSAAに関する事だ。

 

 それもそうだ、ミッドチルダ代表が決定したのだ。

 

 DSAAの世界代表が決定すれば、今度は次元世界最強決定戦となる。此方は各世界の世界代表とトーナメント式で戦う何とも大きなスケールの大会となるが、今年は開催が遅かった影響もあって、おそらく冬頃になる、というのが昨夜遅く帰ってきた師父の言葉だった。運営かもしくはイベントに関わっている人物が身内にいるとこういう情報がいち早くキャッチできて、非常に有用だ。

 

 今日も今日で、学業が終われば真直ぐ家へ―――バサラ家へと向かう。完全にバサラ家に寝泊まりし始めたのは去年からの話だが、それからは日常生活の拠点は完全にあの家となっている。最初は不便がないかどうか心配されたが、学校は今の方が近いし、実の両親よりも遥かに楽しく生活できているし、今の所不満は一つとしてない。……嘘ではない、本当だ。クラスに友と呼べるような人はいないし、別所を見て友達と呼べるような人は……少ない。それでも自分の人生は今、絶頂期を迎えていると言っていい程楽しくに、そして嬉しい。

 

 それを教会の方々に伝えたら微妙な顔をされましたけどね……。

 

 まあ、解らない事ではない。基本的に教会の司祭や司教といった人間は善人で、そして家族の輪等を大事にしている。本当の家族以上に幸せになれた、と言われても微妙な表情しか彼らには浮かべる事しかできないだろう。

 

 と、そんな事を考えていると、中等部校舎の出口まで割とあっさりと到着してしまった。何時もながら思考に没頭すると歩くのが早くなるのか、とでも思ってしまう。この廊下もそれなりに長さを持っている筈なのだが、何時もさっさと抜けてしまう記憶しかない。ただ単純に思考に没頭しすぎているだけかもしれないのだが……まあ、これもどうでもいい話の一つだ。

 

「学校……必要だと解っていますが、やはり退屈ですね」

 

 やっぱり、学校に通うのは自分にとっては”作業”の様なものだと思う。本来学校へと通う事で学ぶはずの知識だけではなく、人との付き合い方、社会への出方―――そういう必要な知識は既に生まれた時から存在している。だから自分に残っているのは社会に対する義務と義理のみ。そして個人的に”目立ちたくない”という願いだけだ。だから学内での活動はそこそこに、今日もさっさとモノレールに乗って家へ帰ろう。そう思い外へと続く扉を開け、

 

「―――あ、遅いですよ!」

 

 扉を開け、そして抜けた先、そこには自分よりも少しだけ小さな姿がある。右手を腰に当て、そして左手を真直ぐ此方へと向けて指差してくる。秋の風に金髪はゆらりと揺れ、そしてオッドアイが真直ぐと此方の視線を射抜いてくる。少しだけ咎める様な、不敵な笑みを浮かべながら遅いと言った彼女は初等部の制服に身を包み、そして口を開いて言ってくる。

 

「今日もぼっちですかぼっちハルトさん」

 

「私前々からヴィヴィオさんとは決着を付けなきゃいけないと思っていたんですよね」

 

 確実に色濃く”母”の芸風を継いだ少女はそうですね、と言って腕を組み、

 

「しかし良く考えてみてくださいアインハルトさん。私にはリオとコロナという友達が二人もいるんです。それと比べてアインハルトさんは圧倒的ぼっち。ぼっち力五十三万です。たぶんベルカ一のぼっちです。そんなぼっち王のアインハルトさんと私を比べちゃいけないんだと思います。いいですか? 私はアインハルトさんの数倍は凄いんです」

 

「一応リオとコロナは私の友人でもあるんですけど」

 

「私が先に捕獲したので優先権は私で」

 

「捕獲したって言い方はやめましょう。あの二人が釣られた魚のようで憐れになって来るので」

 

 ―――高町ヴィヴィオ。

 

 元聖王という存在、そして未来の聖王になるかもしれない存在。それが彼女だ。容赦のない言葉は彼女なりの”親愛”の証という事はここ数年の付き合いでもう十分に理解している。だから自分の事を態々待ってくれたヴィヴィオの存在に対してワザとらしい溜息をついて、そして歩いてヴィヴィオの横に並ぶ。その動きにヴィヴィオはついてくる。

 

「ヴィヴィオさん、世間では友達二人だけだと結構”寂しい”の分類に入るそうですよ―――やりましたね、これでぼっち仲間です」

 

「アインハルトさん、私を馬鹿にするのはやめてください。こう見えて教会へ行って少し号令をかければわんわんとやってくる人たちがですね……」

 

「ヴィヴィオさん、それを人は奴隷とかペットって言うんです。決して友ではないと思います」

 

 今の会話も軽くどこかおかしかったような気もするが―――まあ、自分とヴィヴィオの関係なんてこんなものだ。世間一般では悪友何て呼ぶような仲の良さ。そんなもの。

 

 さて、

 

「ではさっさとモノレール乗り場へ向かいましょうか」

 

「ですね、ママとかおじさんが待っているでしょうし」

 

 他愛もない話をしながらモノレールへと向かう。まだ私達の一日は終わらない。




 大体三日~四日に1更新予定ですわのよ。

 ヴィヴィ王様は色濃く母(砲撃)の芸風を受け継ぎました。
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