嫌いな人は読み飛ばし
「まったく、君は何をしているんだい?」
「返す言葉もございません」
「で、でも円乗寺さんが居なければ学生たちが全滅していたのは確かですし」
「それはそうなんだけどねぇ」
あの後、緊急事態と言うことで学生たちを
引き連れて瀞霊廷に戻った俺は、今回の件を
報告した後に京楽隊長から事情聴取と言う
名の説教を受けていた。
なぜか?そりゃ、現世で全力の鬼道の
八十八番なんかを使ったからだ。
いやぁ。学生さんが良いノリしてくれたから、
つい大魔王ムーヴを決めてしまったんだよなぁ。
いやはや、未熟未熟よな。
そんな自身の未熟を恥じるのは良いとして、
何故そのことで怒られるのか?と言えば、
明らかにオーバーキルだったからだな。
適当と言う言葉があるが、これは別に手を抜け
と言っているのではない。
十の力が必要とされる場所に、十の力を使えと言う話だ。
それで言えば、あの巨大虚に対して
あの鬼道はあきらかにやり過ぎである。
元々副隊長以上の者に限定霊印を刻むのは、
その霊圧で現世の霊的なものに対して
悪影響を与えないためだと言うのに、
明らかに普通の副隊長並の霊圧を解放したらどうなる?
さらにあの場を観測していたであろう
浦原たちにもアレを見られただろうから、
今後は間違いなく警戒されるはずだ。
つまり、わざわざ総隊長や中央四十六室を
説得してまで限定霊印を刻まず、
さらに学生に紛れて現世に出向いた意味が
まったく無くなってしまったわけだ。
そりゃ隊長も説教の一つはしたくなるだろうよ。
とは言っても、伊勢がフォローしてくれた
ように、あの場に俺が居なければ学生たちが
死んでいたことも事実なので、とりあえず
今回の罰は『隊長から厳重注意を受けること』
になったと言う流れである。
「こちらは師匠が大人しく従ってくれて助かったがな」
そう呟くのは、現世から帰還してきた俺を
逮捕したお巡りさんこと、二番隊隊長の砕蜂だ。
これは下手な奴を派遣して戦闘になったり、
そのまま逃げられても困ると考えた
中央四十六室や総隊長の差し金らしい。
一体俺を何だと思っているんですかねぇ?
いや、ノリで問題を起こしたのは事実なんだけどな。
そんで、俺を捕縛するよう命令を受けた
砕蜂としては、教えを受けた仲だし、
俺の行動に対して酌量の余地があることを
知っているので、下手に抵抗して一般の
死神に怪我をさせるなどの罪を重ねる前に
自首して貰おうと思い、率先してこの命令を受けたんだとか。
・・・こいつらは本当に俺を何だと思っているのやら。
「俺とて法は理解しているからな」
大魔王ムーヴをかましてテンションが上がり
アホなことをしたのは自覚しているし、
目立つのもやりすぎるのもいかんのも知って
おきながらアレだからな。
学生たちに悪い例を見せてしまったことも反省しているぞ。
「いや、君は法を理解した上で逸脱しているから問題なんだよねぇ」
「・・・申し訳ございません」
染々と言う京楽隊長に言い返すことも出来ず、俺は素直に頭を下げる。
うむ。説教の最中に開き直るのは良くないな。
「ま、過ぎたことだし、七緒ちゃんが言うように
実習生にも被害が無かったんだからこれ以上は
言わないけどさ」
「けど?」
何だ?
「『暫く現世に行くのは禁止』だって。
これは山じいから言われたことだけど、
正式な命令だから」
「・・・了解しました」
そりゃそうだよな。
ようやく浦原を探せる!と意気込んで現世に
行った初日に、派手な花火を上げたんだ。
間違いなく連中に警戒されてしまったと見ても良いだろう。
つまり、俺が現世で奴らを探そうとしても、
向こうは隠れるか、こちらが見つける前に
向こうから奇襲をかけてくる可能性もある。
八人の隊長格を無傷であしらった男に先手を
取られた上に、奇襲を受けたらどうなるか?
なんて考えるまでもない。
故に罰も兼ねて暫く謹慎するのは当然のことだ。
「そーゆー訳だから、七緒ちゃん。また暫くは
三席に鍛えて貰うと良いよ」
「は、はい!」
「あ、あの、私も!」
「おいおい・・・」
己の迂闊な行いを反省していると、京楽隊長が
俺に彼女らの面倒を見るよう丸投げしてきやがった。
いや、隊長が忙しいのは知っているし、
伊勢の鍛練に付き合うには最低でも始解が
必要なのも知っているぞ?
さらに京楽隊長の始解は搦め手に特化した
始解だから、頭脳明晰な伊勢との読み合いは
楽しめても単純な出力だと押し負けるときが
あるから、修行中も一切気が抜けないと
言うことも知ってはいるのだ。
かと言って自分の姪っこ相手に全力を出す
訳にもいかないので、自分以外に彼女の
修行を任せることが出来る人間がいたら
喜んでそいつに任せると言うのもわかる。
でもって、今の伊勢と始解だけでまともに
戦えるのは隊長クラスに限られる。
もしかしたら斑目三席あたりならそこそこ
やれるかもしれないが・・・いや、無理だな。
あのハゲは隊長に似たのか舐めプが基本だし
逆に変な癖を付けることになるから、やはり
隊長に任せるのが一番だろう。
しかし他所の隊の隊長に始解をしてもらって
まで修行をさせるわけにもいかないもんな。
だから俺に鍛えさせるって言うのはわかるんだ。
・・・だがなぁ。
「あの、三席?」
「駄目、でしょうか?」
そう言って伊勢と砕蜂は上目遣いで俺を見てくる。
「駄目ってわけじゃないが・・・」
「「ないが?」」
「そもそも、三席に鍛えられる副隊長と隊長ってどうなんだ?」
特に砕蜂。お前は隊すら違うだろうが。
いや、確かに彼女の場合は始解も卍解も必殺だから、鍛練相手に事欠くのはわかるぞ?
副隊長になった大前田はそれなりに優秀だが、
砕蜂と比べたら格段に劣るのも事実だし。
故に修行相手を探しているのはわかるんだが、
それならまずは自分の部下を鍛えたらどーよ?
それに伊勢もな。
副隊長になったんだから、後進を鍛えて
己を見直すのも悪く無いんじゃないか?
そう言うと、二人は上目遣いから一転
ムッとした顔をして反論してきた。
「私はまだまだ未熟ですし、他人を鍛える余裕なんかありませんよ」
と伊勢が言えば、砕蜂も『然り』と頷いて言葉を紡ぐ。
「私もです。少なくとも卍解前の私よりも
早くて強い七緒が己を未熟と言うならば
私とて自らを未熟と言わざるを得ません」
自信満々に己が未熟であることを自己主張
されてもなぁ。
いや、隊長や副隊長になったことで満足して
しまい、自分が未熟であることを自覚せずに
向上心を無くしてる奴とか、どこぞの獣
みたいに戦闘の際に舐めプするよりは数百倍
マシではあるんだぞ?
それに、少なくとも二人とも俺のように
虚の力を取り込んではいないから、まだまだ
伸びしろがあるのも事実。
しかしなぁ・・・
「「それに!」」
「ん?」
俺が反論しようとすると、伊勢と砕蜂は一瞬
目を合わせたかと思うと揃って頷き、声を
揃えてこう言ってきた。
「「貴方が三席なのがおかしいんですよ」」
「・・・・・・まぁ、うん」
元副隊長でありながら限定霊印を刻まずに
現世に行くため、あえて三席となったことを
知っている二人に、真正面から席次のことを
言われてしまえば、俺から言えることは無い。
「それはそうだ。君、そろそろ隊長になったら?
なんなら僕が推薦するよ?
浮竹隊長と砕蜂隊長は認めてくれるだろうから
後は試験に合格するだけ。・・・どうだい?」
どうしたものか?と考えていたら、今まで
ニヤニヤしながらこちらを見ていた京楽隊長
までもが参戦してきた。
「・・・・・・」
軽い口調で俺を隊長にしようとする京楽隊長。
しかしその口元は笑いながら、目は真剣そのものである。
横で砕蜂がブンブンと頭を上下に振っているが、
それは見ないことにした。
・・・俺とて京楽隊長の言いたいことはわかる。
隊長は俺が卍解出来ることを知っているし
いまだに隊長の席に欠番がある現在、
使える者は誰だって使いたいのだろう。
しかし、今の俺には隊長になる資格がない。
なにせ俺の卍解は虚の力を取り込んだことで
従来のものから変異してしまい、未だに
その力をコントロールすることが出来ていないのだ。
この力に関しては、現時点では京楽隊長にも
言えないことなので、断る言い訳にはならない。
だから、胸が痛むのを堪えながら、俺はいつもの断り文句を告げる。
「すみませんが、現世に逃げた浦原を殺すまでは隊長にはなれません」
「・・・そうかい」
「円乗寺さん・・・」
「師匠・・・」
俺の言葉を受け、京楽隊長も伊勢も砕蜂も
沈痛な表情を浮かべてしまう。
「そう言うわけです。とりあえず二人の修行を
見ることは了解しましたよ」
そんな三人の三者三様の反応を見ながら
俺はこの話題を終わらせた。
リサを理由にすることにもちろん抵抗は有る。
しかし、浦原を殺すために現世に行くには
その身に限定霊印を刻む必要が有る隊長では
駄目だし、そもそも瀞霊廷の中に浦原や
夜一の味方が居ないとも限らない状況で
卍解を見せるなど有り得ない。
更に言うなら隊長は、許可無く始解する
ことすら禁じられている。
つまり、裏切り者を相手にそのような枷を
つけて戦うつもりがない俺としては、
隊長と言う役職は重し以外のなにものでも無いのだ。
たとえ身内であっても疑い、さらには殺すことに躊躇しない。
俺は浦原を殺すまでは一歩も進めなくなった
自分を、半ば嘲笑い、半ば誇らしく思いながら
瀞霊廷での修行を続けるのであった。
不退転の覚悟を決めて現世に行ったと思ったら即日帰還することになった辰房の図。
なんと言いますか、間抜けよなぁ。
七緒=サンと砕蜂は、原作より大幅に強化されていますが、辰房はそれ以上に強化されておりますってお話。