嫌いな人は読み飛ばし。
最初、何が起こっているのか分からなかった。
突然俺達の前に現れた死神が、目にも
止まらぬ速さで斬魄刀を振るい、
兕丹坊を細切れにした・・・と思う。
その死神は掌から炎で出来た鳥を出して
己に降りかかる
平然と焼き払ったかと思ったら、次の
瞬間、その鳥を門の外に居た井上たちに放ちやがったんだ!
そして、いきなりのことで何がなんだか
わからず、狼狽していた俺に、
その死神はこう言いやがったんだ!
「安心しろ。止めを刺したら次は貴様だ」ってな!
その言葉を聞いて、一瞬カッとなった
俺だったが、まだ井上たちが生きている
ことを知り、追撃を加えて止めを刺す
ようなことを言った死神の動きを
止める為に飛び出した!
・・・だが、それが奴の狙いだった。
それまで左手一本で兕丹坊が開けてくれた
門を押さえていた奴は、俺が飛び出すと
同時に俺を見て、にやりと笑ったかと
思ったら、その門を押さえていた左手を
軽く動かし、門を上に吹っ飛ばした。
そして開いた左手から、さっきと同様に
炎で出来た鳥が姿を現すに至り、漸く
俺は誘われたことに気付いたんだ。
そう。奴の狙いは井上たちではなく、俺だった!
そのことに気付いた俺はなんとか方向転換を
しようとするも、すでに死神に向かって
飛びかかっている最中ではどうにも出来ず。
月牙天衝を使おうにも、もしも死神に
回避されたら井上達に斬撃が当たって
しまうので、それも出来ない。
(もう火に突っ込むしかない)
そう覚悟を決めたときだった。
「あかんなぁ。僕に背を向けるとか、ほんまにあかんわ」
さっきまで斬魄刀を打ち合っていた
細目の死神が、俺の背中に向けてそう呟く。
(しまった!)
散々浦原さんから「敵から目を離すな」
と教えられていたにも関わらず、その
教えを無視してしまった!
挟み撃ちを卑怯なんて言う気は無い。
ただ自分が馬鹿だったんだ。
後悔しながら声のした方向に目を
向けると、細目の死神はその場から
動かないまま、脇差しを此方に
向けて妙な構えを取っていた。
「そんなところから何を?」
思わずそう呟いた俺は、確実に腑抜けていたのだろう。
細目の死神は何も答えず、ただ一言呟いた。
「射殺せ『神槍』」
「あっ!」
浦原さんからも聞いていたし、実際に
見たじゃないか。
斬魄刀には様々な能力がある。
火を操ったり氷を生み出したり
するのも有れば、俺の斬月みたいに
斬撃を飛ばすことだってできるんだ。
だから相手の斬魄刀が脇差かどうかとか、
間合いがどうこうと言うのは無意味。
そして細目の死神の斬魄刀の能力は
『刀が凄い勢いで伸びてくる』と
言うものだった。
走馬灯って奴だろうか。
目の前の巨漢が作り出す炎の鳥と、
かなりの速さで延びてきた斬魄刀に
挟まれた俺は、自分に迫りくる斬魄刀が
スローモーションのようにゆっくりと
迫って来るのを感じると共に、次の瞬間
には斬魄刀に貫かれた後で炎に焼かれる
自分の姿を幻視した。
だけどそれは現実のものにはならなかった。
「・・・市丸隊長?」
「・・・しもた」
細目の死神の攻撃は、目の前の巨漢にも
当たるルートだったんだ。
このままでは俺ごと貫かれることになる。
二人の死神はそのことを俺より早く判断したのだろう。
背後から迫る斬魄刀の勢いは目に
見えて落ちたし、巨体の死神も
掌の炎の鳥を消したかと思ったら、
瞬時にその姿を消していた。
いや、正確には姿を消したんじゃない。
俺に見えないスピードで移動したんだ!
それだけじゃない。
「ぶっ!」
いきなり俺の頭に蹴り、いや、踏み
つけられたような衝撃が襲い掛かる。
何だ?!と思ったら、いつの間にか
巨漢の死神が細目の死神の近くに
立っていた。
それで気付いたんだ。
「やろう! 俺を踏み台にしやがった!」
その事に思わず文句を言おうとしたとき、
ドォォォォォォォン!!
タイミングよく巨漢の死神が上に投げ
飛ばしていた門が降りてきて、
向こう側が見えなくなってしまった。
最後に見えた光景では、巨漢の死神が
細目の死神に問い詰めて居るような
雰囲気であった。
・・・俺を無視して。
なんとも消化不良な気持ちになるも、
そんな思いはすぐに吹き飛ぶことになる。
「黒崎くん!」
「井上!」
無事だったか! そう言おうとした俺に
井上の悲痛な声が聞こえてきた。
「よ、夜一さんが!」
「夜一さん?」
確かに井上もチャドも石田も無事だった。
それなら夜一さんも大丈夫だろう。
そう思っていたんだが、それは大きな
間違いだった。
必死な顔をする井上の視線の先には、
遠目からでもわかる大火傷を負った
夜一さんの姿があった。
「黒崎。夜一さんは動けなかった
僕たちを守る為にっ!」
「・・・すまない」
石田が悔しそうに告げれば、チャドも沈痛な顔をして謝罪をして来る。
二人とも咄嗟に自分が動けなかった
ことで、夜一さんの足を引っ張った
ことを自覚しているのだろう。
そう。あのとき夜一さんはとっさに
動けなかった三人の為にあの炎の
攻撃をその身で受けたのだろう。
その結果が、この目を覆うような大火傷。
「しっかりして夜一さん!」
必死の表情で夜一さんに治療を施す
井上を見て、俺は今回の件を
甘く見ていたことを後悔していた。
俺は兕丹坊を無傷で倒したことで、
浦原さんからの教えを受けたことで
調子に乗っていたんだ。
所詮俺はつい先日までただの学生だった
子供でしかない。
一応ここに来る前に浦原さんが
鍛えてくれたけど、所詮は付け焼き刃。
ルキアだってあの見た目で50年以上
生きていたらしいし、その間ずっと
鍛えていたって話だった。
それでも隊長や副隊長の強さは
別次元だと言っていたじゃないか。
・・・本物の死神は強い。
そんなことは現世で隊長と戦って
鎧袖一触されたことで十分理解
していたはずだった。
本来なら兕丹坊と正面から戦うんじゃなく
夜一さんが言っていたように、どうにかして
バレずに侵入する方法を考えるべきだった。
最低でも兕丹坊は速攻で無力化する必要が有った。
なのに『己の力を試す』なんて自惚れて
正面から挑み、その音で無意味に強敵を
呼び寄せてしまった。
その結果が兕丹坊を殺し、夜一さんに
重傷を負わせてしまったんだ。
「くそっ!」
出だしからこんな有様で、俺は
ルキアを助けられるのか?
今までの自分の言動の迂闊さに腹が立つ。
「・・・とりあえず追手が来る前に移動しよう」
「・・・あぁ」
石田の言う通り、ここで突っ立ってても
何も解決しねぇ。
まずはここから離れて、夜一さんを
安静に出来る場所を探す必要が有る。
「とは言っても、な。どこかあてはあるのか?」
居ても立ってもいられすに、思わず行動を
起こそうとするとチャドがボソッと呟いた。
ほんの少し前の俺だったら
「そんなことを考えるより、とにかく動くべきだろ!」
とか言って考え無しに動いたと思う。
だけどソレをした結果が今の俺達だ。
俺の我儘に井上とチャドと石田を巻き込んだ
以上、もう間違えるわけにはいかねぇんだ!
だからこそどうするのが正しいのか?
そう考えるも俺たちに土地勘が有るわけでもない。
「くそっ。いきなり詰んじまった」
今更ながら、あまりにも無計画すぎた。
無計画なら無計画なりに夜一さんの話を
聞けば良かったものを、何も考えて
いなかった俺のせいで・・・
井上が夜一さんを介抱している様子を
眺めながら無力感に苛まれているとき、
俺たちの誰もが予想もしなかったことがおこったんだ。
「あの・・・」
「誰だ! って・・・子供?」
考え込む俺たちに声をかけてきたのは、
貧相、と言ったら聞こえが悪いかも
しれないが、そんな一言でしか形容
出来ない格好をした子供だった。
よく見れば周りには昔の農民みたいな
格好をした連中がわらわらと集まっている。
いつの間に? と思ったが、あれだけ
騒がしければ地元の人間が様子を見に
来るのは当然だろう。
問題は、この住民たちにとって俺たちは
侵入者でしかないってことだ。
このままさっきの死神に通報されて
しまったら間違いなく全滅する。
だからといって目撃者を全員殺す
なんてことは出来ない。
また自分の中途半端さに歯噛みをして
いたところ、その子供は思いもしなかった
提案をしてくれた。
「その猫さん治療したいんでしょ?
ここだと死神が来るから、向こうに
移動しない?」
「「「え?」」」
その子供の言葉に、俺も石田もチャドも
思わずポカンとしてしまった。
だってそうだろう?
ここは死神の地元で俺は明らかに死神の敵だ。
それなのに、ここに住む子供が俺たちを
庇うなんておかしいじゃないか。
罠か? けど黙っていれば追っ手に
捕まる俺たちを罠に嵌める理由は何だ?
「・・・行こう、黒崎」
「石田?」
俺たちの中で最も警戒心が強い石田が
この子供の提案を受けるって決めた
ことに疑問を覚えそうになるが、
石田には石田なりの根拠があった。
「僕たちを罠に嵌める理由はない。
いや、もしかしたら何かあるかも知れない。
だけど、それでも今はここに居るよりは
さっさと移動して、井上さんが安心して
夜一さんを治療できるようにする必要が有る」
「・・・そうだな」
夜一さんのためにも少しでも時間を稼ぐ。
そのためなら罠でも何でも利用するしかない。
石田の覚悟を決めた提案を受けて
俺たちはその子の提案に乗ることにした。
――結果だけ言えば、その子の提案は
罠でもなんでもなく、善意の提案だった。
彼らは日頃から兕丹坊の世話になっていた
人たちらしく、兕丹坊を殺した死神を良く
思っていなかったのだとか。
だから意趣返しの意味も込めて彼らの
敵である俺たちに力を貸してくれたらしい。
そんなこんなでとりあえずの安全が
確保されたことで、夜一さんの介抱に
余裕が出来たのか、井上の口からも
「もう少しで大丈夫そう」と言う言葉を聞くことができた。
「・・・そうか」
「黒崎?」
「一護?」
一気に気が抜けた俺は、思わず床にへたりこみ
そのまま目を閉じた。
・・・こうして俺達のあまりにも密度が
濃かった尸魂界侵入初日は幕を下ろした。
命懸けでルキアを助ける。
言葉にすればたったこれだけのことが、
自分の魂に誓ったはずのこの言葉が、
とても軽く、虚ろになった気がした。
なんだかんだで助かった主人公一行。
細かいことは次の市丸隊長と辰房くんの話で解説だ!ってお話