嫌いな人は読み飛ばし。
兕丹坊が粛清された日から二日、白道門の門番は
とりあえず後任の門番が決まるまで八番隊の
席官が行うことになり、業務はこれまで通り
行われることになっているので、今のところ
業務に支障は出ていない。
しかしだからと言ってこのままで良い筈もなく、
後任を決める為にも詳細な報告が必要だと判断
した総隊長山本元柳斎重國により、緊急の
隊首会が開かれることになった。
「おやぁ皆さんお揃いで」
その隊首会に於いて、隊長としてではなく
参考人として参加することになった市丸は
その場に他の隊長が集まっていることに
感嘆の声を上げる。
ただ、本来ならば全員参加が義務付け
られているはずの隊首会に一つ空席があった。
「あら? 十三番隊さんは?」
「浮竹なら体調を崩して欠席だよ」
市丸の疑問に答えたのは、欠席している
十三番隊隊長の浮竹の同期である
八番隊隊長の京楽春水だ。
「それはお大事にせんとあきませんなぁ
けど、隊長が来られないなら副隊長を
出さんとあかんのでは? 自分は病弱、けど
副隊長は置きたく無いって我儘は隊長として
どうかと思いません?」
「・・・そうだねぇ」
お大事にと言いながらも、常識を知る男市丸は、
隊長が病弱なら副隊長を出すべきではないか?
何十年と副隊長も決めないのは組織を束ねる
隊長として職務怠慢ではないのか? と
総隊長から贔屓にされている大先輩に対して
さらりと毒を吐く。
普段の市丸はこのようなことを口に出す
ようなことはせず、ただ心の中で
「使えんなぁ」と思うだけなのだが、今は
(こいつらがもう少しまともなら・・・)
と言う思いが表に出てしまっていた。
このような市丸の内心は知らなくとも、
彼が言っていることは確かなことなので
京楽としても返す言葉がない。
実は一時期、京楽は辰房を十三番隊に貸そうと
思ったこともあるのだが、彼の存在は助けに
なるどころか、逆に浮竹が倒れることになる
可能性が有った為に、辰房の派遣を見送った
と言う経緯があったりする。
しかしながら、そのような心配を必要と
される時点で隊長としては駄目なのだ。
親友を駄目出しされて軽くメンタルに
ダメージを受けている京楽を余所に
隊首会は進んでいく。
「確かに十三番隊に関しては副隊長を
置くよう話をする必要が有るの。
しかし今回の議題はそれではない。市丸や
先日の白道門での件を聞かせて貰えんか」
上座に立つ山本元柳斎重國がそう言うと、
その件とは無関係ではない京楽も気持ちを
切り替えて、話を聞く姿勢になった。
「話と言われましてもなぁ。どっから話したもんですかねぇ」
市丸としては誤魔化すつもりは毛頭なく
純粋に「何処から話たものか」と首を
捻ったのだが、その呟きに対する答えは
上座から来た。
「とりあえずは円乗寺三席から報告書が
上がって来ておる故、お主に聞きたいのは
旅禍と兕丹坊の裏切り行為についてじゃな」
「は? 彼は昨日の今日で報告書を
提出したん?
いくらなんでも早すぎやないですかね?」
ことが起こったのは二日前のことだ。
そこから報告書を提出し、裏取りに
一日を掛けたが故の隊首会の参集なの
だろうが、この流れは長い寿命を誇る
死神基準では仕事が早すぎた。
辰房に言わせれば危機感の欠如としか
言えないのだが、その辺は価値観の
問題なので何とも言えないところである。
それはともかくとして。
そんな市丸の疑問は、辰房を知る人間から
すれば、驚くようなことではない。
「まぁ、元々彼は書類仕事が得意なのと、
君と違って隊長の業務も無いからねぇ」
最も辰房を知る京楽がそう言えば、次いで
彼と親しい砕蜂も無言で頷いている。
「はぁ。そう言われたら何とも言えませんなぁ」
実際隊長業務は多岐に渡るし、市丸は
業務をキチンとこなすタイプの死神なので、
報告書だけに時間を掛けて居られなかった
のだが、三席である辰房はそのような
業務が無いので、報告書を優先的に作成
することが出来たと言うのも確かにあった。
まぁ市丸はとある事情からまともに
報告書を書こうとは思っていなかったと
言うのも有るが、それはそれである。
「加えて、自分で殺した門番についてだろ?
流石の彼も責任も感じてるみたいでねぇ」
「責任以上に憤りも感じているようだがな」
京楽が告げた言葉に、九番隊の隊長である
東仙要が被せてくる。
元々彼は規律に厳しいところがあるので、
兕丹坊の行いに忸怩たる思いが有るのだろう。
「円乗寺三席の気持ちは理解できる。まさか
命惜しさに門を開ける門番が居ようとはな。
そのような者が居たなら処刑は当然だろう」
「然り。儂とて『負けたら死ね』とまでは
言わんが、それでも増援を呼ぶことも無く
大人しく門を開けると言うのは許せんな」
「屑だな。屑は屑らしく死んどけってんだ」
「まったくダヨ。だけどマァあれのおかげで
彼の鬼道を観測出来たのは僥倖だと思うがネ」
そんな彼の言葉に六番隊隊長の朽木白夜や
七番隊隊長の狛村左陣も深く頷けば、
十一番隊隊長である更木剣八と十二番隊
隊長涅マユリも兕丹坊は死んで当然と
ばかりに頷いている。
「私しては少々やりすぎだと思わなく
もないけど、彼の気持ちも分かるよ」
「・・・だな」
そして比較的穏健派の五番隊隊長の
藍染惣右介や十番隊隊長である
日番谷冬獅郎も辰房の行動に理解を示す。
「流石に儂も報告書を読んだときには
目を疑ったわい。しかし周囲の者達
からの証言も取れておるしのぉ」
「そうですね。流石にこれは・・・」
また総隊長の山本元柳斎重國がそう言えば
彼と共に長年隊長として護廷一三隊に
所属している四番隊隊長卯ノ花烈も
手元にある辰房から上げられた報告書の
写しを見て、眉を顰めていた。
何せその報告書には、
『兕丹坊が旅禍と戦闘し敗北した後、
命惜しさに白道門を開けた。
それを目撃した市丸隊長が彼の左腕を
切り落とし門番としての責務を説くも、
兕丹坊は反省して態度を改めるどころか、
『門番が負けたら門を開けるのが当たり前』
と開き直った。
その様子から見るに彼に罪悪感などは無く、
今までも同様の事を行って来た常習犯である
とみられる。よって敵前逃亡と尸魂界に
対する裏切り行為の現行犯で処刑を行った』
と記されていたのだ。
実際に隠密機動に確認をさせたところ
兕丹坊が旅禍に対して白道門を開け、
彼らを瀞霊廷内に侵入させようとして
いたことも確認されているので、この
報告書に疑いの余地はない。
「ま、概ねこの通りですわ」
卯ノ花からそれを渡されて軽く目を
通した市丸も、この報告書に対して
特に加えるべきところは無かったので
思ったことをそのまま述べた。
「でも、これが有るなら僕の意見必要
ないんじゃないですかね?」
「一応じゃよ。それと旅禍については
特徴しかないからの。
実際に刀を交えたお主の意見も聞いて
おきたいと言うのもある」
「あぁなるほど」
辰房の報告書では旅禍についての記載は
『旅禍の数は5名。
橙色の髪をした死神・クロサキ
滅却師・イシダ
長身で色黒の男性・チャド
茶髪の女性・イノウエ
加えて黒猫に化けた死神が一人である。
それぞれの能力は不明。
ただしクロサキには兕丹坊を一蹴出来る程度
の実力があることから、現時点で上位席官
クラスに匹敵する程度の実力があると思われる』
としか書かれておらず、実際のところ
どれくらいの実力なのかは不明なのだ。
だからこそ市丸の意見を聞いて
おきたいと言うことなのだろう。
「つーかアレの鬼道を喰らって生きて
るってんならそれなりの実力はあると
思うんだが・・・生きてんだよな?」
「多分生きとると思うよ? それに
クロサキは間違いなく生きとるね」
「ほぉ」
己の為に強敵を欲している更木は、少なくとも
市丸と刀を交えて生きている獲物がまだ
死んでいないことに喜び、どうやって旅禍
と戦うか? と考えて舌なめずりをするが
ここで今まで黙していた砕蜂が声を上げる。
「それに関しての提案が有って、今回の
隊首会の開催を依頼したのだ」
「あぁん?」
「何や、今回の隊首会は二番隊さんが提案したん?」
「うむそうだ」
兕丹坊の裏切りと処刑。更に旅禍の侵入
と言う事件なので、確かにその情報は
共有すべき内容ではある。
しかしそれなら旅禍を全て捕えるなり
殺すなりしてからでも出来ることである。
にも関わらず、わざわざ今の段階で
隊首会を開くことを要請した砕蜂の
意図が奈辺にあるのか。
各隊長がその意図を探ろうとしているのを
感じ取った砕蜂は、特に隠しだてをせずに
己の思うところを述べる。
「ここ最近、私は常々懸念していることがある」
「それは?」
「死神に緊張感が足りないということだ」
卯ノ花の言葉に対して、隊首会の参加者
全員に聞こえるように砕蜂はその懸念を述べる。
「兕丹坊の裏切り然り、兕丹坊と旅禍の戦闘に
気付かない隠密機動然り、旅禍の侵入や戦闘を
観測出来なかった一二番隊然り、現世で旅禍
と出会っていたにも関わらず中途半端な処置
を施したがために今回の事態を招いた六番隊の
隊長と副隊長然り、未だに浦原喜助や四楓院
夜一が居ると目される現世に朽木の娘を一人で
送り込んだ一三番隊の隊長然り、それを数か月
観測出来なかった一二番隊然り。明らかに
腑抜けている。そうでは無いか?」
「「「・・・・・・」」」
直接名指しされた朽木白夜と涅マユリは
顔を顰めるが、砕蜂が言っていることは
紛れもない事実だし、さらに彼女は自分が
預かる二番隊の隠密機動も同様に腑抜けて
いると断じているので、反論をすること
も出来ず、ただ黙って話を聞くしか無かった。
「それは今述べた隊だけではなく、全体的に
腑抜けていると言っても良いだろう」
「・・・確かにの。それで?」
山本も砕蜂の言うことに思う所は有るのか
特に反論せずに続きを促す。
「はい。今回の旅禍の侵入は我らにとっても
丁度良い訓練になるのではないかと愚考します」
「訓練? あぁなるほど。少なくとも
旅禍の一人は上位席官に匹敵する実力者。
それを私たちが倒すだけでは下の者達が
育たない。だから今回は彼ら旅禍を使って
上位席官を対象にした実戦的な訓練を
したい、と。そう言うことかい?」
一瞬怪訝な顔をした藍染だが、即座に
砕蜂の言いたいことを理解した。
「そうだ。今回の旅禍は我々個人の力で
潰すのではなく、護廷一三隊と言う組織で
当たるべきでは無いかと思ってな。
どうでしょうか総隊長?」
「ふむ・・・」
砕蜂からの提案を受けた山本は、確かに
今回の件は『上位席官と同等かそれ以上の
力を持つと目される旅禍が複数尸魂界に侵入
してきた』と言う稀少なケースであることや、
『それをただ隊長格が潰すのは惜しい』と
言う砕蜂の意見に納得する。
特に山本の琴線に触れたのは『護廷十三隊が組織として当たる』と言うフレーズであった。
個人の力では負けるかも知れないが
組織として戦うことで強敵を打倒する。
それは個人主義に走りつつある死神にとって
必要な経験では無いか? と思ったのだ。
また、これにより隊長たちも『隊の指揮』
と言う経験を得ることが出来るのも良い。
そう判断した山本は、少し考えた後で
総隊長として命令を下す。
「その言や良し。では今回の旅禍に
対しては隊長格は監督に留め、
上位席官を中心として動くようにせよ」
「おい、じじい、そりゃあ・・・」
面倒くせぇ。そう言おうとした更木に
山本は鋭い視線を向ける。
「お主が一番問題なんじゃ。隊長として
部下を統率してみせい」
「はぁ?」
「更木、そもそも上位席官に勝てんような
旅禍と戦ったとして、貴様は楽しめるのか?」
「あぁ・・・そりゃ確かにそうだがよぉ」
尚も反論しようとした更木だが、砕蜂から
そう言われたことで、考えを改める。
戦いを望む彼にとって一番つまらないのが
『戦ったら雑魚だった』と言うものなので
上位席官が露払いや旅禍の実力を量る為
の前座と考えれば我慢も出来なくはない。
こうして一番厄介な存在が黙ったことで
今後の方針が決定することになる。
「では各隊の隊長は上位席官が中心となって
旅禍に当たるよう指示をだすように。
また門番についてじゃが、旅禍の戦力を
省みて複数の席官が交代で着くことで
警戒任務の経験を積ませることとする。
担当は・・・白道門を八番隊」
「はいよ」
自分の部下である辰房が兕丹坊を殺したと言う
理由があるので、京楽は大人しくこの任務を引き受けた。
「
派遣するように」
「はっ」
「了解です」
「了解」
狛村・東仙・日番谷も特に異論は無いので
大人しくその命令に従うことを了承する。
「で、春水や」
「ん?」
「円乗寺は暫し謹慎じゃ。説教もお主がやれ」
「・・・はいよ」
兕丹坊を殺したことは現場の判断として
適切であったので咎めることは無い。
しかし瀞霊廷内に鬼道を打ち込もうと
したことは『つい興が乗った』では
済まない案件だ。
今回は市丸が止めたからこそ問題には
ならなかったが、一歩間違えば大惨事
である。
山本からすれば、自身がそうであるように
護廷十三隊に所属する死神が瀞霊廷を
焼くなど、洒落になっていないことなので
その辺はきっちりと教育を施して貰いたい
ところであった。
こうして、瀞霊廷内は対旅禍戦を想定した
戦時シフトが組まれることになるのだが、
そのことは未だに流魂街に潜む黒崎や、
負傷から回復したばかりの四楓院夜一には
預かり知らぬことであった。
原作主人公の潜入が、イージーモードからハードモードになりました。
兕丹坊が鎧袖一触で負けたんだから、他の門も警戒しないと駄目かなって思った次第です。
辰房は自分のミスをきちんと報告する男であるってお話