Prologue
戦争なき平和というのは、究極の理想、あるいは訪れることのない桃源郷なのだろうか。歳はまだ三十代に至らず、華奢で真面目な雰囲気を醸し出した男が、彼の働いている軍事会社の海上要塞屋上の椅子に腰をかけている。男は、世間では“V”と呼ばれている。彼の目は、眼鏡を通して濁り一つもない青い海に向けている。彼は、戦場に7年身を置いた。しかし、争いは一向に終わらない。三度目の大戦が終了したというのに、人類は何も学んでいない。彼は、戦争に、あるいは世界に飽きれていた。
世界が混沌に陥ったのは、Vが生まれる前だった。北蘭島と呼ばれる孤島には、人類の科学技術に進化をもたらすといわれている物質が埋蔵されている遺跡がかつて存在していた。物質は、「コーラップス」そして「逆コーラップス」と呼ばれる二種類のものがあった。これらの物質は人間に有害で、接触してしまうと広域性低放射感染症(ELID)を引き起こし、やがて死に至るといわれている。ある時、北蘭島の都市開発の掘削が原因で、物質が地上に流出する。これにより、瞬く間にELIDの感染者が続出した。事件は特殊警察の介入により、無事解決され、物質流出区域は立入禁止区域に指定される。流出事件について、政府は黙認。故にELIDは世界に知れ渡ることはなかった。 今から32年前、第一次北蘭島事件と呼ばれる事件が発生される。子供複数人がいたずらで立入禁止区域に侵入し、ELID感染者の残党に攻撃される。政府は直ちに救出部隊を派遣。部隊は、子供救出と都市開発によってできてしまった遺跡の空洞を塞ぐ目的で、爆破を試みたが、失敗に陥った。子供複数人と救出部隊は全員命を落とし、爆破によって遺跡の空洞はむしろ拡大してしまい、世界に物質の粒子は拡散してゆき、世界は破滅へと向かっていった。 各地の都市は、見る間に壊滅。物質粒子による放射線の影響により人口は激減した。2045年、誰もが望まぬ清浄な土地と食料を、人類の最も純粋かつ野蛮な欲望のままに奪い合う争い、第三次世界大戦が勃発した。
Episode 1
これから不運な出来事に遭遇し続けるであろうとこちら側に悟っているかのような曇天の空。崩壊したビルの破片の上で、404小隊指揮官Vは、仰向けになりながら眺めている。しばらく、彼がぼんやりと空を眺めているうちに、頭上で誰かが立った。ライトシアンの髪、黒と群青色の戦闘服、そして腰には三つの予備のマガジンを備えた「人形」がこちらを見つめている。
「何しているんです、指揮官。そろそろ任務の時間ですよ」 戦術人形HK416。404小隊のメンバーの一人である。彼女は常に完璧を求め、戦い続ける。それは以前彼女が別の部隊に所属していた頃、部隊の同志だった戦術人形M16とのトラブルがあったためといわれている。
「ほら、行きますよ。仲間も待ってますので」
「悪い。ぼんやりとしていた」
「また、過去のことを考えていたのですか」
「・・・あぁ」
7年前。彼らのいるS07地区も現在と比べて豊かな都市だった。32年前の惨劇から月日が経ち、放射線撤廃作業や地域活性化プロジェクトにより、人々が安全に住めるような地域へと変わりつつあった。生まれながらにして両親の顔も知らず、孤児として生まれたVは、S07地区隔離施設で育った。彼には、名前がなく、コード2117の番号が付けられていた。やがて、18歳となった彼はS07地区の有名大学へ進学し、その学生寮で一人暮らしを始めることになった。彼は、施設内の保護者からもらった近代絵画の写真やその詳細が記載されたアートブックがきっかけで、アーティストを目指す夢を抱き、大学では芸術専攻を選んだ。学生時代の彼は、現在と比べて穏健な性格の持ち主だった。
スポーツ講義の中で、学生のVは二人の親友を得た。隔離施設の中で孤独だった彼にとって、その出会いがとても幸福に感じた瞬間だった。講義内容は、あの忌わしい事件が起きる前、人類が楽しんでいたといわれる「サッカー」と呼ばれる球技だった。Vは、この講義の時間になると、大学の東棟の日陰に佇んで、プレイの上手い同級生を眺めながら、サボっていた。
「なぜ両手が使えないんだろう。使っちゃえばいいのに」
「そこがこの球技の面白いところなのさ」
目の前に、親友のアレックスがやって来る。彼は自身の水筒を右手に抱え、蓋を開き、豪快に水を飲み始める。その後、彼は、Vに「サッカー」の面白さを語り始めた。Vは、競技に全く興味がなかったため、彼の話はそれとなく適当に聞いていた。
「おい、アレックス。そんなヤツほっといて、早く参戦しろよ」
遠くから、この後、親友となるダニエルがアレックスを呼ぶ。
「それじゃ。また後で」
Vは、互いに興味のあるものは異なるものの、どうしてか意気投合する彼らと学生生活を日々楽しく過ごした。この時、どんな些細な事からでも人と人は信頼関係を築けるということを知った。
一方、彼はこの頃、誰かを愛することを覚えた。Vと同様に芸術専攻であるソフィーは、成績優秀、そして容姿端麗の学生で知られていた。第二回のデッサン講義で、彼女の席の隣が彼だった。その時の講義内容は素描で、姿形が人間そっくりな自律人形をモデルに描くことだった。自律人形は、教室の扉を開けて中に入り、教授の言葉に従って台の上にポーズを取って佇んだ。
「あれでは、描く意味がないわ」
突然、ソフィーは描く対象の人形を見て呟く。
「・・・どうして?」
Vは、なんとなく彼女が彼に話しかけた気がしたので、戸惑いながら返答した。
「だって、あれには、心がないもの」
「・・・心?」
ソフィーの言ったことは、彼には分からなかった。その日、彼女は絵を全く描かずに、教授の元へ提出した。普段、成績優秀で、他の絵画制作においても優秀だった彼女が、全く何も描かずに白紙のまま提出したことに教授や周りの学生は驚愕した。彼女の不思議な性格の一面を見たVは、やがてその彼女が醸し出す独特の魅力に引かれていった。
ある日の午後、ソフィーは一人デッサン室で絵を描いていた。Vは、学生寮へ帰るため、デッサン室を横切った。その時、窓越しから絵を描いている彼女が彼の眼中に写った。彼は、彼女の存在に不意に惹かれ、一度立ち止まった後に教室の扉を開いた。
「・・・あなたは・・・」
「寮に帰る途中、窓越しから君が見えたんだ・・・。その、良かったら、俺と友達になってください!」
彼女のあまりの魅力に、彼は、困惑しつつも伝えたいことを述べることができた。それからしばらくして、Vとソフィーは互いを愛し合う関係となった。しかしながら、彼の幸せな日々は、長くは続かなかった。7年前の夏、惨劇は起こった。突如、大学の正門付近が何者かに爆破される。Vは教室で一人、絵画制作に励む最中、外から大きな爆発音が響き、教室の窓を覗いた。窓からは、犯人らしき人物が重武装で複数いることを確認出来た。彼らは銃器を手にして、大学の四方八方を乱射しながら東棟へ向かいつつあった。恐怖を抱いたVは、颯爽と教室を抜け、廊下を駆け抜けて、逃亡を試みた。彼らの目的は何なのか、何の為に大学を強襲するのか、考えている間もなく、彼は出口の方向へとただただ走り抜けた。
非常階段を降りる前に彼は立ち止まった。親友三人の安否が気になったためである。三人は無事に、大学から逃れられたのか、それとも未だ、教室の中で恐れながら隠れているだろうか。彼らが気になったものの、非常階段を降りることを選んだ。やがて、一階に辿り着いたVは、彼らに気づかれないよう、造形物や柱の物陰に隠れながら逃げた。その途中で、一階エントランスを徘徊する兵士二人に見つかりそうにもなった。動悸の激しい状態でVは、エントランスを抜けた。ようやく、彼は助かったと思い込み、その場で呼吸を整えようとした。しかし、呼吸を整える場合ではないくらいの地獄絵図が目の前には広がっていた。道端や造形物の所々に血痕がこびりつき、学生の銃殺された死体や頭部を撃ち抜かれた教授の死体が無残に倒れている。前方には、幾人もの学生たちが兵士たちに囲まれている。Vは、今後、一切この光景が忘れられないくらい、目を大きく見開いて、ただ呆然と見ていた。あまりの恐怖に体が動かない。捕まえられた学生には、ダニエル、アレックス、そしてソフィーがいることに気がついた。兵士の一人が、ソフィーの髪を掴み、持ち上げた。彼女が苦しむ姿に、Vは、怒りと悲しみの感情を抱いて、彼女を助けようと試みたが、自身が周りと同じような無残な死を遂げるという恐怖の感情に打ち負け、その場から動くことができなかった。
「やめろ・・・!!」
兵士はソフィーの胸部に銃口を突き付け、一発の弾丸を放った。彼女の身体を貫通する弾丸。飛び散る血しぶき。兵士は、彼女の死体を投げ捨てる。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
Vは、嘆き叫んだ。彼女との思い出がまるでVHSビデオテープが再生されたように、脳裏に浮かんだ。
彼の叫び声に、ダニエルとアレックスが気づいた。
「裏門へ逃げろぉぉぉ!!!」
「俺たちに構うな!!早く!!!」
アレックスとダニエルが、これまでにVが聞いた以上の声量で叫んだ。Vは、三人を救えず、ただただ呆然としていた自身の弱さと愚かさに後悔しつつ、裏門へと駆け抜けた。駆け抜ける最中、聞きたくもない銃撃の音が耳に響いた。
その後、大学を強襲した連中は、グリフィン民間軍事会社の派遣する部隊によって、倒された。Vは、救急班に救われ、事件の事情を問われた。しかし、親友を失い、幸せな生活さえも奪われた彼は、全く言葉を返すことができなかった。
後日、連中は、ツェナープロトコルにエラーが生じた実験段階の戦術人形によるものだったということが分かった。これには、I.O.P製造会社と鉄血工業製造会社という二つの工業メーカーが関わっているそうだが、両社は一切情報を開示しなかった。
二人の親友を失い、愛する人も失ったVは、生きる価値も見出せず、深夜のS07地区を放浪した。芸術家になる夢も希望も全て、崩された。身も心もボロボロの彼は、かつてダニエル、アレックス、そしてソフィーとよく通ったパブへ向かい、一杯の酒を頼んだ。天井に吊られたテレビに映るニュースは、大学襲撃事件について流れている。事件は、自律人形のシステムエラーが事の発端であること、死者が500名を超えたということ、そして大学のみならず、周辺の住宅地域にも被害が及んでいたことを知った。酒を飲み終え、酒場を出た彼は、再び放浪し続けた。サイレンが鳴り響く救急車が何度も往復する路上を脚から血が出るまで放浪し続けようと試みた。
「いっそ、このまま死んでしまおうか」
やがて、見知らぬ通りに辿り着いたVは、その場に倒れ込んだ。
「何しているんです、指揮官。そろそろ任務の時間ですよ」
「ほら、行きますよ。仲間も待ってますので」
Vはハッと意識が戻り、起き上がる。
「悪い。ぼんやりとしていた」
「また、過去のことを考えていたのですか」
「・・・あぁ」
「前方確認。敵はおよそ30体いると思われます」
崩壊した摩天楼ビルの瓦礫の背後から416が双眼鏡で前方にいる敵を確認している。Vは彼女の反対側の瓦礫に隠れ、状況を確認している。彼の軍事会社では、彼が前線に立つ珍しい指揮官として知られている。
「ヴェスピドか」
「はい」
「よし。しばらく待機する。奴らが散らばった瞬間、こちら側は行動する」
「了解」 「りょーかい!指揮官!」
「了解!」
「・・・」
G11からの応答がない。彼女は、如何なる時でも睡魔に勝てない人形である。
「G11!!」
416が、トランシーバーで彼女の名前を大声で叫び、彼女の眠気を払った。
「うわぁ!416!」
G11のトランシーバーから416の声が聞こえる。
「任務中よ!で、そちら側はどうなってる?」
「うーん・・・大丈夫。弾の装填は完了。問題ない」
「G11、聞こえるか。俺だ。君は今、ショッピングモールの西棟と東棟を繋ぐレーンにいるはずだ。そこから、45(フォーティーファイブ)と9(ナイン)の戦闘を援護してくれ」
「分かった・・・」
少々、頼りのなさそうな返答が来たが、G11の実力を侮ってはいけない。彼女の射撃の命中率はAランクに位置している。更に、彼女が持つ銃の射速はSSランクといわれている。
鉄血工造の人形たちに動きが見られた。Vは404小隊のメンバーに行動開始の命令を出そうと試みた。しかし、次の瞬間、彼らに予期せぬ事態が起きた。
「撃てぇ!!!撃ちまくれ!!!」
三時の方向から、武装した民間兵が幾人もの現れ、鉄血工造の人形の元へ特攻し始めたのである。
「民間兵?何でここにいるの?」
トランシーバーから予想外だった事態に驚愕しているUMP9の声が聞こえる。
「分からない。とりあえず、指揮官の命令を聞きましょ」
彼女の隣にいるUMP45は落ち着いた容姿で話した。
「指揮官、どうしますか?」
416から連絡がVの元に入る。Vは、突然の状況にどうすれば良いのか困惑していた。しばらくして、右腕に装着している通信機から司令部の連絡が届いた。
「私だ」
「G司令!」
「モニターから君たちの状況は十分把握している。民間兵の出現により、戸惑っているのだろう?」
「えぇ、そうです。どうしますか?」
「V、今回の任務内容を覚えているか?」
Vは眉間に皺を寄せた。当然、内容は把握している。
「【現地に配置されている兵を全て射殺する】ですよね。それが何です?」
「分かっているじゃあないか」
「・・・まさか」
Vは、G司令の一言が残虐な行為を404小隊一同に求めていることを理解した。しかしながら、彼にとってそれが冷酷非道なものであると断定は出来ないものであった。
「以前、君たち小隊が戦った人類解放軍と呼ばれる愚かな連中に所属する部隊の一つだ。奴らの軍の目的は、ただ鉄血工造の人形を殺すのみならず、人形を捕らえ、軍の実験体にするのが本来の目的である。彼らの手に人形が渡れば、我々やグリフィンの行動に支障をもたらすだろう」
「要するに、殺せ、というわけですね」
「そうだ。頼んだぞ」
G司令が連絡を切る。かつて人形とは異なり、同じ人間を虐殺することに少々気が引けるVだったが、7年間、戦場に身を置いた今の彼自身にそのような考えを抱くことはなかった。今、彼がここに立つべき理由、あるいは彼が彼であるアイデンティティを確立できるのは、「復讐」にある。この不安や苦悩で満ち溢れた世界に「復讐」し破壊すること。それが、彼が彼であり続ける事のできる唯一の観念だからである。
Vは、自身のトランシーバーを強く握りしめ404小隊に命令を告げた。
「全メンバー!司令部からの連絡は聞いたな!行動開始!」
「了解。HK416、行きます」
「了解。始まるよ、9!」
「・・・了解・・・」
広場中心部に固まるヴェスピドと解放軍部隊の争いに416が介入する。解放軍部隊は支援が来たと思われたが、味方勢力の半分を416の手により射殺される瞬間を目の当たりにし、彼女に銃口を構え始める。しかし、416の速さに銃口を構える行動が追いつけず、撃たれてゆく。
「何なんだ!!アイツは!!」
「目標、ヴェスピド型モデルと一致しません!未確認です!」
「グリフィンの野郎か!?」
「はい!おそらく!」
崩壊した建物の背後で解放軍部隊のリーダーと通信部が身を潜めながら、416の行動を確認している。
一方、今にも崩れそうな路上をUMP45とUMP9は颯爽と駆け抜け、広場右端のヴェスピド勢力に特攻する。
「45姉!受け取って!」
UMP9は、UMP45に閃光手榴弾を投げ渡す。
「サンキュー!」
UMP45は、UMP9から渡された閃光手榴弾を敵陣に目掛けて投げる。次の瞬間、眩い閃光が半径2.5ヤードの範囲内を光らせる。
「立ったまま死ね!!」
「消えちまえ!!」
UMP45とUMP9がそれぞれの銃でヴェスピドに弾丸を放つ。敵勢力はまもなくして、敗北する。
「やったね!45姉!」
「うん!」
彼女たちが、広場中心部の416とVに合流しようとその場を離れようとした瞬間、UMP45の背後に左手を失ったヴェスピドの生き残りが銃口を向けて襲いかかろうとした。
「45姉!!後ろ!!!」
「!?」
突然の状況に、二人は自身の銃を構えることが出来ず、窮地に至った。ところが、遠方からの一発の弾丸がヴェスピドの頭部を貫通し、彼女たちは救われた。G11による射撃である。
「だいじょうぶー?」
G11の連絡がUMP45とUMP9に来る。
「大丈夫。ありがとう」
「助かったわ」
その一方、Vと416は広場中心部の解放軍勢力に苦戦していた。
「チッ!こんな時に弾切れ!?」
「レッグホルスターのハンドガンを使うんだ。九発装填してある。残りの敵勢力には十分だ」
「それくらい分かってます!」
416は右腿のレッグホルスターに差し込まれたハンドガンを取り出し、解放軍部隊を狙った。
「一人につき一発ってことになるわね・・・。大丈夫。私は、完璧」
416は次々と、部隊の連中を一発の弾丸で仕留めていった。Vは、広場中心部を駆け抜け、これらの戦闘を指揮する解放軍部隊のリーダーを探した。すると、前方の瓦礫からアサルトライフルを持った解放軍の兵士が彼を狙撃し始める。 「何っ!?」
Vは、すかさずビルの破片に隠れた。彼は、自身の拳銃に予備のマガジンを装填して応戦した。敵兵のリロードのタイミングを計らい、彼らの頭部を狙撃し返した。その後、416、そしてUMP45とUMP9から敵勢力を全て駆逐したとの連絡が入った。残るはリーダーである。
「撤退だ!!」
「ダメです!!この先、道が塞がれています」
通信部とリーダーは、行き止まりの路地に呆然として佇んだ。まもなくして、V率いる404小隊一同に見つかることとなる。
「くそっ!何とかならないのか!?」
次の瞬間、リーダーの背後にいる解放軍通信部2名はG11の銃弾によって射殺された。
「!?」
404小隊は、リーダーの前に立ち塞がった。リーダーが、彼の左ポケットから拳銃を取り出そうとした途端、416が拳銃で彼の取り出す手を仕留めた。彼は、撃たれた手を片方の手で抑えながら、こちらを睨んでいる。
「一体、お前たちは何者なんだ・・・!!はぁ・・・はぁ・・・」
Vは、リーダーの頭部に拳銃を突き付けて、以下の言葉を告げた。
「404小隊だ」
彼は、自身の拳銃のトリガーを引いた。9mmの弾丸が解放軍リーダーの頭部を貫通した。リーダーはその場にバタリと倒れ死んだ。
専用ヘリが小隊の背後に着陸し、一同は搭乗する。UMP9はG11の頬を触っている。それを笑顔で見ているUMP45。戦闘で疲れている416。ヘリの中で、Vは仲間と一切会話をすることはなかった。再び、過去の回想が脳裏に浮かんでしまったためである。
7年前。二人の親友と愛する人を失い、生きる価値も見出せず、深夜のS07地区を放浪した後、見知らぬ路上に倒れこんだVは何者かによって連行された。
彼は、目を覚ますと白色の患者服の姿で見知らぬ部屋のベッドで寝ていた。部屋は薄暗く、幅は狭い。彼は、まるでアクション映画に出てくる監獄に捕らえられたような気分に陥った。ベッドから起き上がろうとすると、前方のドアから誰かが入ってきた。漆黒のスーツを着用し、黄色のネクタイをつけた中年の男性が厳格な姿勢でこちらを見ている。
「目が覚めたか」
「・・・」
「戸惑っている気持ちは分かる」
「ここは・・・どこです?」
Vが質問すると、中年の男は返答した。
「とりあえず【要塞】と言っておこう」
「要塞・・・。あなたは・・・?」
「私は、G(ジー)だ」
「G?」
「とにかく、司令室へ来てくれ。ここを案内しよう」
Vは、G司令に連れられて彼の司令室へと向かった。向かうまでの通路の小窓に写る景色から、この「要塞」と呼ばれる場所は海の上にあると分かった。G司令と彼が歩く中、前方から歩いてくる兵士たちがG司令に向かって敬礼を行っていた。
司令室へ到着する。司令室の扉を兵士が開ける。G司令は司令部の席に座る。Vは、彼の前方に佇んだ。G司令は、席の前の机の上にある、およそ100ページからなる文書を手に取り、読み上げる。
「君の全てを調べた」
「俺の・・・全て・・・?」
「コード2117。男性。日系人。20歳。S07地区中央大学芸術専攻二回。大学に通うまでは、S07地区隔離施設で育つ。運動は苦手。好みは、芸術」
Vは、施設の管理者や保護者以外は知らない自身の詳細をG司令が知っていることに驚いた。
「一体、どこから俺の詳細を知ったんですか?」
G司令は、Vについて書かれた文書の続きを読み続けた。
「自律人形大学襲撃事件被害者。彼の親友、愛人3名が死亡・・・。以降、隔離施設時代の君の詳細が載っている」
「あなたは・・・あの襲撃に関与している人ですか!」
「待て待て。私は、関わっていない」
「じゃあ、どうして!」
「落ち着け」
G司令は、文書を机に置いた。その後、席を離れ彼の背後の窓を見つめながら、Vに彼らが何者なのか述べ始めた。
「我々は、【Unknown /正体不明の】民間軍事会社。社名含め我々の全ては一切世間には開示しない。そう、仲間でさえだ。私は、その司令部を務める。本日、君には我々の理念と目的を伝えよう。ただし、伝えるからには、君は我々の一員となってもらいたい。それは、君を救う手段でもある」
「そんな!無茶だ。俺は、ごく普通の学生であって急に軍事会社に入れと言われても・・・」
「君は、親友を失い幸せと希望も失った。失礼だが、全てを奪われた君に何がある?君に残る考えは死への欲動のみ。そんなの、嫌だろう?」
「・・・あぁ、いっそ、このまま死んでしまえばいいんだ」
「それは良くない。【復讐】だ」
「・・・?」
「君を負の方向へと招いたこの世界に対する【復讐】さ。常に私利私欲のために生きる人類の順応主義体制への【復讐】、人が作りし自律人形の暴走により亡くなってしまった親友、そして君の彼女のための【復讐】をするんだ」
Vは、両手で頭を抱えながら動揺する。どうして良いのかわからない不安、そして絶望が彼の心を蝕んでいく。
「さて、私の軍事会社に入るか、決めたかな?無残な死を遂げるより、入ることを選んだ方が十分正しい選択だと思うがね」
Vは、両手で自身の顔を抑えて苦悶する。Gの【復讐】という発言やソフィーのこと、また、ダニエルやアレックスとの思い出がグルグルと脳裏に再生された。
「我々の理念と目的は、世界に広がる合理主義を崩し、新たな体制へ作り変えること。大袈裟に言えばね。普段は、上層部から依頼された仕事をこなすことかな。それは、決して世界を救うことではない。そして、我々の行いが悪いものとも見なされるかもしれない。しかしながら、我々は、我々の理念と目的を信じて戦うのだ。さぁ、どうだ。君は幸せを奪った者への【復讐】をするべきだ。己を信じて戦え」
Vは思い悩んだ末、怒りと絶望の感情が増したが故なのか、G司令の軍事会社に入ることを選んだ。彼は、G司令に託された契約書にサインを記した。
「そうだ・・・。それでいい・・・」
その後、G司令はVの前に立ちはだかり、右手を彼の肩に置いた。
「それと、君のネームを今日から変更する。番号じゃ、呼びにくいからな」
Vは、あらゆる感情に自身が押しつけられて、何も言えずに俯いている。
「では、Vengeanceの“V”。これからは君をVと呼ぶことにする。それでいいか?」
「“V”(ヴィー)・・・分かりました」
「指揮官・・・。指揮官・・・。大丈夫ですか」
Vは、416の声でハッと意識を戻した。左右を確認し、自身がヘリの中にいることを改めて認知した。
「もうすぐ、基地へ到着しますよ」
「あぁ、分かった」
「基地が見えてきたよ!」
UMP9が、ヘリの窓から基地全景を覗いている。同じく、UMP45も窓を覗き始める。
「夕焼けに照らされて綺麗ね」
G11は、ヘリに配置された救急用ベッドの上で寝ている。416は、Vが再び過去の回想に苦しんでいたことを把握して心配している。
「大丈夫だ、416。ちょっと、考え事をしていてね」
「そうですか」
Episode 2
深夜。Vは、要塞内にある彼の部屋で蝶事件に関する報告書を読んでいた。
昨年の夏真っ只中のことである。国家安全局所属のある特殊部隊が、鉄血工造本部工場の奥にある技術部門に潜入し、「エリザ」のプログラムデータを強奪する作戦を実行。「エリザ」というのは鉄血工造の人形技術から生み出された高度AIシステムのことである。このシステムが司令塔となって、他の戦術人形を、ネットワークシステムを利用して、遠隔操作ができるというものだ。この技術の裏にいる開発者である元90wishメンバー、リコリスは、原因は定かではないが国家安全局らに命を狙われていた。事実、本作戦は失敗に陥った。部隊が、技術部門に潜入を試みた時、リコリスは背後から、彼らを発砲。部隊の一名が彼の放った弾丸に被弾。止むを得ず、部隊はリコリスに発砲。この時、彼は死んだと思われたが、奇跡的に生存しており、彼は必死の覚悟で、防衛システムを発動。そして、彼は自身の命が尽きる前に、実験段階であるAIシステム「エリザ」も起動させる。このため、工場全ての人形が起動され、防衛システムを実行し、特殊部隊、工場内の従業員、そして人形全ての者が殺害された。この事件を我々は「蝶事件」と呼び、全人類が人形に対抗するきっかけとなったのだった。
「部隊、配属兵、リスト・・・・戦術人形・・・」
部隊に所属していた兵士と戦術人形の写真が載っている。リストの中には、404小隊隊長のUMP45がいる。その当時の彼女の写真は、左目に傷跡はなく、今よりも明るい容姿で写っている。彼女の詳細の下欄には、彼女の姉に当たるUMP40の詳細が載っている。
「UMP40。戦術人形・・・鉄血工造最新型モデル・・・戦死・・・」
彼女は、この事件で戦死した戦術人形である。彼女の死は、UMP45がよく知っている。彼女の左目の傷跡が、この事件の悲惨と愚かさを物語っている。 Vが、報告書を読むのに集中していると、誰かが彼の部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「指揮官。入りますよー」
UMP45の声だ。Vは、慌てて報告書を机の上に裏返して置き、更にその上に筆記用具箱を上に置いた。部屋の扉が開く。普段着用する戦闘服とは異なり、カッターシャツ、そしてスキニーフィットの黒ズボンを着用したUMP45が、コーヒーを二つ、両手に持ちながら、入ってくる。
「45?ど、どうした?」
「今日は、なんか、眠れなくてね。それで、給湯室でコーヒーでも入れて、ちょっと夜更かししようかなって。廊下を歩いていたら、指揮官の部屋から光が漏れているのが見えて、起きてるのかなーと思って」
「それで俺の分まで持ってきてくれたってこと?」
「そう」
Vは、彼女にバレないように、ゆっくりと報告書と筆記用具箱を机の端に寄せる。彼女が、僕の隣にやって来る。
「はい、これ。ホットで良かった?」
「ありがとう。あぁ、問題ない。夜の海は、少々寒いからな。身体にジワジワと寒さが伝わってくる」
「そうね。ま、この淹れたてのコーヒーを飲んで、温まりましょ」
Vは、彼女の分の椅子を部屋の端から持ってくる。彼女は、椅子にコーヒーがカップからはみ出さないように、ゆっくりと腰掛ける。そして、コーヒーの表面に、フゥーっと息を吹きかけた後、そっと口に運ばせた。Vは、彼女のコーヒーを口に運ばせる一連の動きを見て、彼女が「人形」ではなく人間そのもののように感じた。
「美味しい。ほら、指揮官も飲んで」
「あ、あぁ、飲むよ」
彼女の淹れたコーヒーは美味しかった。俺の淹れたものよりも。
「・・・美味しい」
「ふふ、良かった」
Vは、7年振りに人に美味しい飲食物を頂いた気がした。彼は、無論これはただのインスタントコーヒーではあるが、誰かの為に作るものは何でも美味しいものだと思えた。そして、それは会話が弾むと食事がより美味しく感じられることと似たようなものだと考えられた。
「ところで、指揮官。こんな夜遅くに何してたの?」
「え?あぁ、君と同じく、僕も眠れなくて・・・机の上で、ちょっと考え事を」
Vは、彼女に嘘をついた。報告書を見ていた、と正直に言えば、彼女は再びあの時を思い出して悲しむだろう。
「そう・・・。何を考えていたの?」
「・・・別に」
「・・・そう。他人に言えないことなのね」
「あぁ」
2061年夏。G司令が、Vに極秘任務を依頼した。それは、国家安全局の特殊部隊に彼が所属し、安全局の情報を盗むといういわゆるスパイ作戦に当たることである。同時に、G司令は国家安全局が3ヶ月前に手に入れた鉄血工造の最新型モデルUMPシリーズも奪う依頼もVに頼んだ。
「これは重要な任務だ。失敗は許されない」
「了解。任務を遂行する」
身元を捏造した書類を提出し、Vは国家安全局の特殊部隊の隊員となった。
4年前、元90wishメンバーであるペルシカリアと呼ばれる女性がI.O.P製造会社との協定を結び、16LAB研究所を設立した。彼女の研究は順風満帆であり、ASST技術という新技術を開発させ、第二世代の戦術人形が生み出された。当時、V率いる部隊の人形達は既に第二世代モデルだった。しかし、これらの技術とは異なり、鉄血工造独自の技術で生み出された最新モデルがUMPシリーズだった。つまり、彼女達と他の戦術人形が生み出された会社は異なっている。G司令は、比較的、16LABの第二世代人形よりも高度なシステムを搭載した鉄血の最新モデルの技術を、我が社の力の象徴と戦争の抑止力として、強奪をVに依頼したのである。国家安全局上層部は、Vを戦術人形所属部隊の指揮官に任命した。
Vが、安全局戦術人形所属部隊の指揮官に任命されてから二週間が経った。彼が、射撃場へ向かうと射撃訓練中のUMP45とUMP40の姿が見られた。
「40、私、射撃が上手くならないわ。指揮官に怒られてしまう」
「大丈夫。あたいの言った通りに練習すれば、問題ないさ」
「うん。・・・あ、指揮官!」
「お疲れ様です!」
彼女達は、Vに気づき敬礼をする。彼も彼女達に敬礼をした。
「40、彼女の狙撃は上手くなっているか?」
「はい。順調です」
「そうか。君たちの初任務まで、あと三日だ。お互い、気を引き締めて戦いに備えてくれ」
「はい!」
「了解!」
「ごめんなさい。40。順調、なんていう嘘をついてくれて」
「いいってことよ。さぁ、頑張ろう!」
Vは、安全局上層部の作戦室に向かった。部屋には、司令官や議長などが会議机を囲んで座っている。彼は、机の端の空いた席に腰掛ける。
「では、指揮官が着席したので会議を続行する。三日後の作戦内容についてこれから話す」
「本作戦は、鉄血工造技術部門最高責任者リコリスを捕獲し、鉄血工造最新AI技術【エリザ】を強奪するものである」
「近年、各地に位置する民間軍事会社の権力が、社会のリズムを揺るがしつつある。我々は奴らの圧力により、崩壊寸前へと追い込まれている。リコリスの技術成果である【エリザ】が、各地に蔓延る軍事会社の手に渡る前に、【エリザ】システムを我々の手で奪うのだ」
「本作戦は、いずれ世間に知れ渡る場合があります。議長、その時はどのようにお考えになられているのでしょうか?」
「極秘作戦だ。深夜、作戦を決行すると想定している。また、その件については、司令官が全てのプログラムを構想しているだろう。そうだろ?」
「えぇ。全て計画通りに実行できるかと」
「よろしい。では、会議を終了する。司令官は、指揮官に詳細を伝えておけ」
上層部の議長や各部署最高責任者などが作戦室を出る。司令官は、Vを含め三名の指揮官に当日の作戦の詳細を伝えた。
三日後。鉄血本部工場奇襲作戦が深夜決行された。V率いる戦術人形所属部隊は、鉄血工造本部最深部の兵器工場での制圧を担当した。戦術人形たちはVの指揮に従い、工場の最深部警備隊の連中を射殺していった。UMPシリーズの二人には、工場中心部の見張りを頼んだ。Vは、残る戦術人形を連れ工場の奥へ奥へと進んだ。
すると、別の指揮官から連絡が届いた。
「こちら第二部隊。リコリスを発見した。連行する」
連行は、上手くいったと思われた。だが、第二部隊指揮官の連絡から二秒後、遠方から一発の銃声が響いた。リコリスが第二部隊指揮官を射撃したのである。撃たれた指揮官は、隊員に止むを得ず彼の射殺を命令する。射殺命令を聞いたリコリスは自身の死を恐れ、二発目を指揮官に撃った。数秒後、第二部隊隊員の拳銃によって放たれた弾丸が、彼の胸部に当たりその場に倒れた。
「こちら第二部隊所属。指揮官がリコリスの手によって殺害されました。また、指揮官による命令により、リコリスを射殺しました。司令の命令を願います
「何だと!?・・・分かった・・・。全部隊、帰還しろ」
「了解」
「了解」
「了解」
Vは、残る戦術人形と共に最深部から抜けようとした瞬間、事件は起こった。
「くぅ・・・僕はまだ死んでいない!死んでいないぞ・・・」
技術部門研究所で胸部を撃たれ瀕死状態のリコリスが、動かすことのできる左手を前へ前へと動かし、全身を彼のコンピューターの前まで運ばせた。床には、匍匐によってこびりついた彼の血痕が、コンピューター前まで直線上に続いている。
「防衛システムとAIを起動させ・・・る・・・」
彼は、必死の力でコンピューターのエンターキーを押した。すると、工場内の戦術人形全てが突如、起動し始めた。
「《防衛システムが作動されました。工場内にいる方は、速やかに避難してください》」
「《・・・私は、エリザ。人形たちよ、私の命令に従え》」
Vは、工場内の警報が突如謎の少女の声に切り替わったことが分かった。後に、兵器工場内の全ての人形が動き出し、彼の指揮する戦術人形の大半を抹殺していった。
「何なんだ!?一体、何が起こっている!?」
急いでUMPシリーズのいる工場中心部へ戻ろうとした。残る戦術人形は、彼を庇いながら起動した数十体の鉄血兵器の銃弾の雨に撃たれて亡くなった。
「くそっ!!!UMP40!45!どこだ!?」
彼は、颯爽と彼女たちの元へ駆け抜けた。途中、第一部隊、第二部隊からの連絡が来るものの、その連絡はまもなくして消息を絶った。
「第一、第二とやられたか!!まずいぞ・・・」
その時、VはG司令の言葉を思い返した。失敗は許されない。必ず、情報を持ち帰り、UMPシリーズを捕獲する。そう、これが本来の任務である。
兵器工場緊急用脱出経路。UMP45とUMP40が佇んでいる。
「彼らが防衛システムを起動したわ。これが何を意味するのか知ってるわよね」
「精神を破壊するつもりなのね。それじゃ、私たちここで死んじゃうの?」
「いえ、死ぬのは私たちのどちらかだけよ。私たちのどちらかが消えれば、一方は助かる」
防衛システムは、単に鉄血工造以外の人形やその他対象物を攻撃するシステムではない。数分後には彼女たち自身も自害する運命にあるという残酷なものである。UMPシリーズは鉄血工造モデルであるので、これらのシステムは無論、搭載されていた。しかし、UMP45はUMP40の分子的モデルであるので、一方が破壊されれば、もう一方はシステムの影響を受けずに生き残ることができる。UMP40は、これらのシステムを既に知っており、彼女はUMP45に生きる希望を託したのだった。
「ぐずぐずしている場合じゃないのよ!45! あなたも一緒にここで死ぬつもり!?」
「40、私は・・・」
「さぁ、私たちを変える、その時が来たの」
「さぁ!!!!」
その瞬間、Vは彼女たちの元へ辿り着いた。しかし、既に事態は遅かった。
「何してる!!?? 45!? よせっ!!!!!やめろ!!!!」
「あぁぁぁぁぁ!!!!!」
UMP45が、UMP40の頭部を自身の短機関銃で撃ち抜いた。40は、一瞬の笑顔を彼女に見せ、その場に倒れ死んだ。UMP40の頭部から、人工的に作られた血液がダラダラと流れ始めた。UMP40の死を見たVは、彼のかつて愛したソフィーの死の瞬間と重なった。UMP45はUMP40の側で泣いている。
「どうして・・・こんなことに・・・」
UMP45が嘆き悲しんでいる。Vは、彼女の肩に触れて彼女に脱出を説得することを試みた。
「45・・・、彼女の件は後で聞く。早く脱出するぞ!」
「イヤよ!私も、ここで・・・」
「何、バカなことを言ってるんだ!!さぁ!!」
Vは、UMP45に手を差し伸べた。彼女は動揺しつつ、ゆっくりと彼の手を握った。その後、彼とUMP45は急いで脱出経路を駆け抜け、G司令が予め用意していた自動操縦ヘリの元へ向かった。無事に、彼らは生還することが出来た。
「これは罠だったんだ。俺たちは安全局の捨て駒に過ぎなかった」
「・・・」
UMP45は、搭乗席でUMP40の死を悼んで俯いている。Vは、安全局は本作戦において全部隊の安否を一切確認することなく、向かう先は死のみである特殊攻撃を目論んでいたことを察した。
「安心しろ。もう安全局へは向かわない。事実、俺は安全局のスパイだったんだ。目的は、君を入手すること、そして本作戦に関わる情報を盗むことだった。今から、要塞へ向かう」
後日、国家安全局上層部は、鉄血本部工場奇襲作戦に携わった特殊部隊メンバーは全員、戦死と表明した。作戦結果は失敗。作戦について世間に情報が流出されなかったものの、彼らは多大な損害を得た。
G司令は、司令室にVを呼んだ。
「よくやった。UMP40は得られなかったが、UMP45と安全局の情報を得ることが出来たことに、君を賞賛しよう」
「はい・・・、ありがとうございます・・・」
G司令は、彼の肩を叩いて笑みを見せる。
「なーに、決して君は悪くない。全ては、安全局の計画の内だったのさ。UMP40の犠牲をも、全て」
「はい・・・」
「しかし・・・、奴らは失態を犯した。【エリザ】を暴走させてしまったことだ。これから、我々の敵は、鉄血工造の兵器がメインになりそうだな」
「・・・」
Vは、G司令に敬礼を行って司令室を出た。
給湯室。鏡の前に、UMP45が悲しげな表情で佇んでいる。右手には、サバイバルナイフを持っている。彼女は、ナイフを持った右手を自身の左目に近づけ、垂直に傷を付けた。彼女は、己の弱さと愚かさを乗り越え、亡くなった仲間やこの混沌に満ちた世界への【復讐】を胸に刻み込んだ。
Vは、給湯室の彼女に出くわした。
「45?その傷は・・・」
「指揮官、私は、あなたの元で一生戦い続けることを誓うわ」
「・・・・」
「私は、もう、弱くなんかない」
「指揮官。寝ているの?」
UMP45がVの肩を揺する。彼は目を覚ました。
「45?今、何時だ?」
「何寝ぼけてんのよ。まだ夜中よ。ほら、コーヒー冷めちゃってるよ」
コーヒーカップを触る。
「悪い」
Vは、生ぬるいコーヒーを飲み干した。
「もう、指揮官。もう一杯入れてこようか?」
「いや、今日はもう大丈夫だよ。ありがとう。ようやく、寝られる気がする」
彼は、部屋の片隅のベッドへ向かい、そのまま仰向けになって寝た。
「そう。良かった。・・・おやすみ、指揮官〜」
UMP45が耳元で囁いた。その後の彼女の行動は分からなかった。Vの耳には、グシャグシャとまるで紙を丸めるような音が波の音と共に微かに聴こえた。 翌日、机に置かれていたはずの報告書は、跡形もなく消えていた。
Episode 3
太平洋に浮かぶ要塞施設。Vが、指揮官として務める民間軍事会社である。この要塞施設は、彼の出身地であるS07地区と程遠い距離にある。また、要塞エリアの放射能汚染度は極めて低い。かつて、施設は某海上保安部のための施設として使われていたそうだが、32年前のあの忌々しい事件により放棄されたといわれている。G司令は、資金を募りこの施設を彼の軍事会社施設として引き取った。
作戦室。G司令は、室内の側面のモニター上に映る上層部と話している。
「今回は、我々から直々にそちらに依頼する」
モニターから、上層部の幹部一名が厳格な表情でG司令に伝える。
「何でしょう?」
G司令は、返答する。
「S09地区の密林地帯にて、グリフィン部隊と鉄血勢力の抗争が見られた。部隊は、現在窮地に立たされている。至急、彼らをそちらで援護してくれ」
「了解しました。任務内容について、至って我々には容易なことです。ですが、何故我々が奴らの援護をしなくてはいけないのでしょうかね?」
「・・・金だよ」
G司令は、顔をしかめた。
「グリフィン保安諜報部の緊急依頼によるものだ。諜報部は、あちらの総司令のやり方に不満があるそうでね。心配するな。我々の詳細は、極秘案件として片づけてくれるそうだ」
「ふん・・・なるほど、分かりました。任務は、404小隊に依頼することにします」
「頼んだぞ」
続けてモニターから、別の幹部がG司令に話しかける。
「G司令」
「はい。何でしょう」
「404小隊の指揮官についてだが、現在の彼の様態はどうなっている?」
「彼ですか。全く、問題はないですよ。以前の彼とは別物です」
「では、任務を頼んだ。こちらからは以上だ」
モニターの通信が切れる。
正午。施設のヘリポートの上に、Vは蒼い空を見上げながら佇んでいる。海上の空は、快晴で清々しい。数分後、彼は濁りのない空を眺めながらぼんやりしていると、G司令から突如呼び出された。急いで作戦室へと向かい、G司令の前に立った。
「急で悪いな」
「いえ。問題ありません。用件は何でしょう?」
「君に新たな任務だ。S09地区にて、現在、グリフィンの部隊と鉄血勢力の死闘が繰り広げられているそうだ。それで、部隊が窮地に立たされている。至急、彼らの援護に当たってくれ」
「分かりました。しかし、どうして我々がライバル会社の部隊の援護をしなくてはいけないんでしょうか?」
「上層部の依頼だ。異論は認められない」
Vは、眉間を寄せた。
「心配するな。君は、気にすることはない」
「・・・分かりました。任務を遂行する」
「頼んだぞ」
彼は、緊急招集室へ向かった。テーブルの上のマイクの電源を入れ、UMP45、UMP9、G11そして416に招集命令を出した。
「ほら、起きなさい。指揮官の前よ」
「ふわぁぁ」
「人の前であくびをしない!ほら、しっかりと立って!」
「ふふ、まるでお母さんね」
UMP9が、416がG11の服を整える姿を見て笑っている。
「うるさいわよ!」
「・・・で、指揮官。今回の任務は何?」
UMP45が質問する。Vは、彼女たちに任務内容を伝えた。
「以上。各自、作戦準備!準備の出来たメンバーは、ヘリポート、専用ヘリ前まで!!」
「了解」
「りょーかい!」
「了解!」
「分かったー」
4人は、緊急招集室を出る。僕は、自身の武装を取りに行くため、施設地下2階技術室へ向かった。
技術室にて。天才少年の整備士デールが、Vの装備品を取り揃えている。
「お前の象徴といえる、このマスクもしっかりと改良しておいてやったぜ」
「ありがとう。これで、顔に銃弾は受け付けないな」
「あぁ、でも何発も撃たれると流石に保たないぜ」
戦闘時において、Vはマスクを被っている。これは、デールが鉄血工造軍用作戦機甲「イージス」の頭部システムと外装を模して発明したものである。色は、光沢のある黒色で統一されている。通気性や、視界はこれといって悪くないもので、あらゆる戦地において頼り甲斐のある装備である。その黄色に輝く眩い眼光部分は、解放軍の連中や他反戦団体の連中を恐怖へ陥れる。
「俺たちのイメージカラーは黄色だからな!目の部分は黄色なのさ」
「なるほどね」
「武器は、いつものM1911A1とヒート・ナイフ2本の三点だな」
Vは、ナイフを腰のホルスターに差し込みM1911A1をショルダーホルスターに差し込んだ。
「にしても、よくそんな古臭い拳銃使うもんだなぁ」
「俺はこれが好きなんでね」
「おっと、予備のマガジンもな。忘れんなよ!」
腰のマガジンポケットに予備マガジンを挿入した。
「くれぐれもジャムには気をつけろよ」
「あぁ、分かった。気をつけるよ」
S09地区。密林。グリフィンの新任指揮官ジャンシアーヌと彼女の部隊に所属する戦術人形らが、敵勢力に囲まれている。密林の中は、圏外で本部との連絡が通じない状況にあった。
「指揮官、もうダメです!」
「諦めないで!全ての弾が無くなるまで撃ち続けて!」
彼女たちの背後にいる数十体の鉄血兵器プラウラーが押し寄せて来る。
「ステンが瀕死状態です!」
スコーピオンが、瀕死状態のステンMK-Ⅱを庇う。
「スコーピオン・・・、私のことはいいから・・・」
「良くない!全員で生きて帰らなきゃ!」
ジャンシアーヌの拳銃が弾切れになる。
「畜生!」
彼女は、弾切れの拳銃を投げてリッパーの頭部に当てた。しかし、残るリッパーが彼女の前に立ちはだかる。前方には、数十体のリッパーが、そして後方にはプラウラーがますます押し寄せて来る。左右にはイェーガーがライフルを構え、いつ狙撃されるか分からない絶望の事態に陥った。まもなくして、戦術人形たちの弾丸も底をつき、彼女達は完全包囲されてしまった。
「これまでなの・・・?」
彼女が死を決したその時、上空に見知らぬシンボルマークの入ったヘリが現れ、3つの発煙手榴弾が目の前の敵勢力の元へ落とされた。
「!?」
ジャンシアーヌは煙の中、誰かが地上へ降下し、目の前の敵を攻撃する影を目にする。前方の敵の影は一瞬にして消え去る。
「こっちだ!」
左から、誰かが彼女たちを呼んだ。ジャンシアーヌは正体不明の声に従い、仲間の戦術人形と共に左方向へ駆け始める。数分後、彼女と仲間の戦術人形たちは、見事密林の奥へ逃げ切ることが出来たのだった。
数分前。
「あれが、グリフィンの部隊か。奴らに完全包囲されている。45、ヘリから発煙手榴弾を落としてくれ。部隊には当てるなよ」
「当てるわけないわよ。了解。」
Vは、ヘリの操縦士に高度を落としてくれと頼んだ。ヘリは、地上から約6メートルの高さに留まった。その瞬間、UMP45は、グリフィン部隊を包囲する敵勢力に目掛け、3つの発煙手榴弾を落とした。
「総員、戦闘準備!45、9、そして416は地上から攻撃せよ。G11はヘリから、左右の邪魔なイェーガーを射殺してくれ」
「了解」
「りょーかい!」
「了解!」
「分かったー」
彼は、三人と共に地上へ降り立ち、窮地に立たされていたグリフィン部隊を探した。416は、後方のプラウラーの始末を担当した。UMP9とUMP45は、グリフィン部隊の前方に立ちはだかるリッパーを、あっという間に蹴散らした。数分後、左右のイェーガーを殲滅させたとの連絡がG11から入った。身動きのできないグリフィン部隊の影を見つけたVは彼らを大声で呼び込み、部隊は声を頼りに、自身の方向まで疾走し始めた。密林の奥へ駆け抜けるVとグリフィン部隊。駆け抜ける最中、イェーガーに出くわしたものの、奴らは発砲までの準備が遅いため、M1911A1で射殺することは容易だった。逃げ切れたグリフィン部隊のジャンシアーヌは、Vの姿を見て驚いている。
「あなたは一体・・・?」
Vは周りを見渡し、敵兵がいないことを確認した。
「グリフィン本部に、予め、こちら側から救出要請と現在の位置情報を連絡しておいた。安心しろ。すぐに救急ヘリは来るだろう」
「ありがとう。助かったわ」
彼女は、不敵な容貌であるマスクを被ったVをじっと覗いた。
「あなた・・・名前は?」
「・・・“V”と呼んでくれ」
「分かったわ。よろしく、V」
彼女は、右手を彼の前に差し出した。Vはジャンシアーヌに握手を交わした。
「私は、グリフィン第一部隊所属指揮官ジャンシアーヌよ。以後、よろしく」
すると、416から連絡が来る。Vは、応答する。
「了解。今から戻る」
「待って。まだ、あなたの部隊を聞いていない!」
「悪いな」
彼は、彼女の言葉を聞かずに小隊メンバーの元へ向かった。
【正体不明の】軍事会社上層部。海上要塞とは異なる場所に彼らは存在する。彼らのアジトは、G司令でさえ分からない。
アジトの会議室にて、幹部4名が話し合っている。
「グリフィン部隊救出の任務は遂行出来たそうだな」
「あぁ。Gの言葉通り404小隊により遂行させたらしい。更に我々は、新しい情報を彼の報告書から入手した」
「新しい情報というのは?」
「奴らの部隊の指揮官が新手だったそうだ。AR小隊が第三セーフハウスにて襲撃を受けた頃、新任指揮官の入社式が本部内であったそうだ」
「ほう、仲間が襲撃を受けているというのに、気楽だな。全く、愚かな連中共だ。・・・となると、昨年の春に生じた戦術人形HK 416の件については、どうやら葬り去ったようだな」
「左様」
「今後、奴らの新任指揮官とその部隊の件については、Gとその部下に任せよう。異論はあるか?」
「ない」
「ない」
「会議を終了する前に、一つ、新たな情報を言い忘れていた」
「何だ?」
「我々の宿敵が、再始動、したようだ」
「7年前のS07地区襲撃事件の指導者がか?奴は、5年前に第三部隊が処理したんだろう?何故だ?」
「それは、面倒くさいことになるな。Gにはこちらから報告しておくとしよう」
その日の夜。Vはヘリポートの上に佇み、星々が綺麗な空を見ている。施設中央出入り口から非武装姿の416がやって来る。
「ここに居たんですか」
「416」
「何をしているの?」
「・・・星を見ていたんだ」
「指揮官って、戦う時と戦わない時とで性格が異なりますよね」
「誰だってそうだろう?君だって」
「そうですか?」
416は、彼の側へ近づき、同様にして空を見上げる。
「自ら光や熱を出して輝く星を恒星、そして太陽の光に照らされて輝く星を惑星というんだ。知ってたかい?」
「そうなんですか。綺麗ですね・・・」
彼女は、微笑んだ。
「指揮官・・・。星は、どうしてあんなに綺麗なんですか?」
「・・・どうしてだろう。我々が、星を綺麗だと感じた発端は我々でさえも分からない」
「そうなんですか。不思議ですね」
その瞬間、冷たい夜風が彼女のライトシアンの髪をなびかせた。髪は、星のように綺麗な輝きを見せた。
「おそらくね。光り輝くものは何でも美しく綺麗に見えてしまう。そう、君も」
「変な冗談よしてください」
顔を赤くした416が、何処からか取り出したナイフをVに突きつける。
「冗談だよ。悪かった」
「・・・許します」
Vは、その夜見た美しい光景がもう二度と感じることはないだろうと諦めていたものの再び見つけることの出来た幸福とある種の希望として彼の心の片隅に残り続けるだろうと思えたのだった。
三日前の午後。現在、利用されることのないS07地区鉄血工造技術施設最深部にて、ある一体の第一世代戦術人形のマスターモデルが突如目覚めた。彼の“目覚め”には誰もが望まない最悪の事態にV率いる404小隊一同は陥ることとなる。
前編 – 完