【完結】産屋敷邸の池に豆腐を落とせば、鬼舞辻無惨を津波が襲う   作:【豆腐の角】

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原作【第二百話】のネタバレが含まれています。
まあ、人名とそれに関連した展開の話なので気にしなくても大丈夫かな?

しかし、予想してたとはいえ本誌が辛い……‼

あと、少しタイトル詐欺な感じになってます。

それでは、本編をどうぞ。


小波はやがて波へと育つ(下弦会議編)

 蝶屋敷にある訓練場。

 そこでは現在、機能回復訓練と【全集中の呼吸・常中】の訓練が行われていた。

 参加者は竈門(かまど)炭治郎(たんじろう)我妻(あがづま)善逸(ぜんいつ)嘴平(はしびら)伊之助(いのすけ)の三名である。

 一時期、善逸と伊之助は訓練から逃げ出していたのだが、ある人物との交 流(拳での語り合い)以降は毎日参加するようになっていた。

 

 伊之助は先日、急に現れた(実弥)に勝つために、前向きな姿勢で訓練に参加している。

 どうやら、語り合い(殴り合い)の最中に『基礎中の基礎も出来ねぇとは、山の王とやらも大したことねぇなァ』と言われたことが、余程 腹に据えかねているらしい。

 それから大奮起した伊之助は、ある目標をたてた。

 

『すべての柱を倒して黒死牟に挑む』

 

 どうして黒死牟にまで飛び火したのかは 不 明 (たぶん琴葉関連)だが、やる気があるのは良いことなので、その点には誰も触れていない。

 

「この屋敷の(ぬし)(いど)むためにも、俺は強くなる‼ まずは走り込みだ‼ 来い、お前ら‼」

 

 伊之助はそう言うと、発奮(はっぷん)して訓練に(のぞ)んだ。

 

 ちなみに、ここは蝶屋敷なので家主(やぬし)は【花柱】である胡蝶(こちょう)カナエになるのだが、伊之助の意識的には黒死牟が(ぬし)だという認識らしい。

 屋敷の持ち主という意味では間違っている。

 だが、蝶屋敷のなかで『最も強い者』という意味では間違っていないため、周囲は訂正の必要性を感じていなかった。

 

 この『すべての柱を倒してまわる』という発言と発想が未来で行われる【柱稽古】の原型になるのだが、それは本人も預かり知らぬことである。

 

 それに対して善逸はというと、どこか後ろ向きな姿勢で参加しているような印象であった。

  例 の 発 言 (女の子にはおっぱい2つ云々)以降、善逸の訓練相手が男性である比率が上がったことが原因だろう。

 自 業 自 得 で あ る(原作と違って交代要員がいるから仕方ない)

 だからと言って、善逸のやる気を出させるためだけに女性職員を矢面に立てるわけにもいかない。

 そんな悪循環に(おちい)っている間に、善逸のやる気は()がれていった。

 

 あまり良くない傾向である。

 何か対策を考えなければならない。

 皆が頭を悩ませて考えた案を実行してみたのだが、これが思いのほか大当たりしていた。

 

「きゃぁぁぁ! 善逸さん、頑張ってぇ!」

 

「むー! むー!」

 

「みんな! 声援、ありがとう‼」

 

 胡蝶姉妹が考案した【女性だらけの応援団(禰豆子と蝶屋敷の美人な女性職員たち)】が声援を送る。

 すると、善逸は途端にやる気になっていた。

 これを見た周囲の者たちは呆れと共に、善逸の()()()()()()()()()()を理解したようである。

 

「禰豆子ちゃんたちの応援が俺に(ちから)を与えてくれる! 見ててね! 俺、頑張るから! 超頑張るからねぇぇぇ‼ ──だからとっとと捕まれやゴルァ‼」

 

 素晴らしい動きを見せる善逸を、(るい)が紙一重で避けていく。

 ナントカと(はさみ)は使いようだと言われているが、その通りだなと納得する一幕であった。

 

 そして、炭治郎はというと【全集中の呼吸・常中】を習ってはいたが、完全にはものに出来ていない。

 狭霧山で修行していた時点で、起きている間は【全集中の呼吸】を続けることは出来るようになっていたのだが、睡眠中は普通の呼吸に戻ってしまっているのだ。

 ならば、寝ている間も呼吸法を使い続ける【全集中の呼吸・常中】が習得できるようにと、この機会を使って訓練しようという話になっていた。

 

 そのお陰か、全身訓練の【鬼ごっこ】では栗花落(つゆり)カナヲ──見様見真似で【花の呼吸】を使えるようになった天才──と、毎日互角の戦い(善逸が血の涙を流して見ている)を繰り広げている。

 

 それと並行するように【日の呼吸】の訓練も行っているのだが、こちらは思うようには進んでいない。

 

 炭治郎の身体の動き自体は、過去に【日の呼吸】を習得しようとしていた者たちよりも様になっている。

 幼い頃から【ヒノカミ神楽】を練習してきた成果だろう。

 だが、いざ【日の呼吸】の型として放った時の負担が凄まじい。

 今の炭治郎では【日の呼吸】の型を連続して三つ、無理をして四つも舞えれば良し、といったところだろう。

 それ以上に舞おうとすると、息が続かずに倒れてしまうのだ。

 

 それでも過去に修行していた者たちよりはマシだと言うのだから、如何(いか)に【日の呼吸】が体力を(けず)るものなのか、それがわかる話である。

 

 訓練の様子を見ていた黒死牟は、改めて自分の弟(縁壱)がどれほど規格外な存在だったかを認識するのだった。

 

 ◆◇◆

 

 昼間は訓練が行われていた蝶屋敷の訓練場であるが、夜は別の顔を見せることがある。

 月に一度くらいの間隔で開かれている女子会の日だ。

 

 女子会というだけあって参加者は女性のみ。

 集まる者たちに(かたよ)りがあるとすれば、基本的に蝶屋敷に関わりのある者か柱と その家族、または継子である、と言ったところか。

 

 元々はカナエが中心になって、一部の奥様友達だけで始めたのが始まりだ。

 そこに恋の話や相談をしに来た者たちが加わり、今の形になったという経緯がある。

 そのため、この(かたよ)り方も当然だと言えるだろう。

 

 訓練場にはすでに数名の人影があり、そのなかには【元・霞柱】である真菰(まこも)の姿もあった。

 

 腱を切られてしまった足には包帯が巻かれていて、彼女の(かたわ)らには補助器具の松葉杖(まつばづえ)が置かれている。

 怪我を理由に鬼殺の最前線から退いた彼女だが、その代わりとして年下の彼 氏(時透無一郎)を手に入れていた。

 鬼殺隊にいると、そう言った浮いた話から縁遠くなる──そんな余裕がないか、鬼殺に人生を捧げてしまう人が多い──ため、彼女は勝ち組と言えるだろう。

 

「そう言えば、煉獄(れんごく)さんのところは具合が悪いから来れないって連絡が来てましたけど、宇髄(うずい)さんのところの()()()も居ませんね? 今日は不参加ですか?」

 

 小気味良い音をたてながら歌舞伎揚(かぶきあげ)()じっていた真菰が、常連の姿が見えないことに気づいた。

 女子会の最古参の面子(めんつ)である彼女たちが姿を見せないことは少なく、過去の集まりを思い返してみても最低一人は参加していたように思う。

 

 首をかしげる真菰。

 その問いにはカナエが答えた。

 

「ああ、鬼の調査に出かけているみたいですよ? 人に(まぎ)れて生活しているみたいで、隠れるのが上手(じょうず)な鬼らしいですね」

 

 カナエがそう言うと、納得の表情を浮かべる。

 

「つい忘れがちになりますけど、須磨(すま)さんたちって【くノ一(くのいち)】でしたっけ」

 

 幸せそうに桜餅を食べていた【恋柱】の甘露寺(かんろじ)蜜璃(みつり)が、思い出したように(つぶや)いた。

 

 彼女も宇髄の妻たち()()──それぞれの名前を須磨、まきを、雛鶴(ひなつる)という──を知っているが、彼女たちが【くノ一】として働いている姿を見たことがないために忘れていたらしい。

 

「そう言えば、そうでしたね。いつもの須磨さんを見ていると、そんな感じがしなくて……」 

 

 炭治郎の母親である葵枝(きえ)が言葉を濁すと、一同は苦笑いを浮かべた。

 確かに葵枝の言う通り、須磨という女性から受ける印象は【くノ一】という職業からかけ離れている。

 だからこそ【くノ一】なのかもしれないが。

 

「まあ、普段の須磨さんはああいう感じですけど、やるときはやるんですよ? ああ見えても、彼女たちは一般的な隊士よりは強いですし」

 

「そうなんですか?」

 

 カナエが須磨を持ち上げると、普段の彼女を知る者たちだけでなく、このなかでは新参になる麗(浅草で無惨の妻役だった人)も驚いた声をあげる。

 彼女が須磨に会ったのは数回程度だが、そういった雰囲気を感じられなかったのだろう。

 なんとか須磨と【くノ一】を繋げようと、想像力を働かせていた。

 

「お茶のおかわりが出来ましたよ」

 

 その光景を見ていた しのぶ が、苦笑しながら声をかける。

 皆の視線が一斉に集まると、しのぶ はお茶の配膳をしながら話に加わった。

 

「彼女たちは目立たないことが一番重要ですからね。むしろ『あの人、じつは忍なんです』って言われても『いや、それはないだろ』って思われるくらいのほうが都合がいいんですよ」

 

 しのぶ の説明を聞いた者たちは納得する。

 事実、知っていたはずの彼女たちが忘れてしまうほどに、須磨だけでなく、まきを と雛鶴も【くノ一】だという印象を受けなかった。

 素性を知る者でこうならば、知らない者は夢にも思わないだろう。

 

「それはそうと、今は葵枝さんのところの一番上の息子さん(炭治郎)娘さん(禰豆子)が来ているんでしょう? それに、琴葉(ことは)さんの息子さん(伊之助)も見つかったとか」

 

 納得した雰囲気で纏まった所で、風 柱(不死川実弥)の妻である蔦子(つたこ)が新たな話題を振ってきた。

 

 最近、蝶屋敷に泊まるようになった炭治郎たちの話である。

 

「炭治郎は鱗 滝(うろこだき)さんから聞いてた通りの子だったよ。家族思いのとってもいい子」

 

禰豆子(ねずこ)ちゃんも可愛(かわい)いですよね! 構ってあげると抱っこを強請(ねだ)って来て、抱きあげて頭をナデナデしてあげるとぎゅーって抱き締め返してくるんです‼ なんですか、あの可愛い生き物はっ! って思っちゃいましたよ! 禰豆子ちゃん可愛いですよね! 可愛いですよね‼」

 

 真菰が話題に同調して話を始めると、それに呼応するように蜜璃も話し出した。

 蜜璃は禰豆子のことがとても気に入っているらしく、言葉の端々から感じる圧力が凄いことになっている。

 これには禰豆子の母親である葵枝も苦笑するしかなかった。

 

「琴葉さんも、伊之助くんが見つかって良かったですねぇ」

 

「ええ、本当に。──お館様の直感で『会えると思う』とは言われてましたけど、やっぱり不安でしたから……」

 

 志津──不死川家の母親(原作でようやく名前が判明した)──の言葉に、伊之助の母親である琴葉が頷く。

 

 実際、生き別れてからの十五年間は長かった。

 何度も何度も『あの時に死んでしまったのではないか?』と思い悩み、そのたびに折れそうになる心を叱咤激励して生きてきたのだ。

 そして、あの猪の被り物を脱がした時の衝撃は、言葉では言い表せない。

 実際、言葉を失っていたし、体が硬直して(しばら)くは思考すら停止していた。

 

「今は息子さんを甘やかして構い倒してますものねぇ」

 

 珠世が(からか)うように笑うと、その様子を思い出した面々は生温かい視線を向ける。

 その視線が恥ずかしくなったのか、琴葉は顔を赤くして(うつむ)いてしまった。

 

「そう言えば、累くんが来るのも久し振りですよね。なほ も きよ も すみ も懐いていたから、とても喜んでますよ」

 

 琴葉から話題を逸らそうとしたのか、蝶屋敷で働く隊士の神崎(かんざき)アオイが異なる話題を切り出した。

 

 彼女はこの集まりに自発的に来ることはないのだが、毎回のようにカナエと蜜璃に両脇を抱えられて、半ば強制的に参加させられている人物だ。

 カナエと蜜璃曰く『命 短 し 恋 せ よ 乙 女(四角四面な彼女も恋愛話で丸くなればいいな)』ということらしい。

 

 ちなみに、同じような理由でカナエの継子(つぐこ)であるカナヲも強制的に参加させられている。

 彼女に関しては自発的に行動することが少ないので『少しでも心が動くように』との願掛けも兼ねて連れてこられているのだが、現状では(かんば)しくないようだ。

 

(あの子)も罪作りよねぇ? いったい誰に似たんだか……」

 

「えっ!? あの子たちってそんな関係(三角通り越して四角関係)なんですか!?」

 

 そう言ってカナエが笑うと、興味津々な様子で蜜璃が食いついてきた。

 

「姉さん。なんでもかんでも恋愛話(そっちの方向)(から)めるのは()したほうがいいわよ? あの子たちは、そんなんじゃないんだから」

 

 その様子を見た しのぶ は、呆れたようにため息を吐いて姉を(いさ)める。

 だが、カナエは『そうかしらぁ?』なんて(とぼ)けているため、効果はなさそうだ。

 

「じゃあ、禰豆子ちゃんかしら? 柱合会議のとき、(あの子)の膝の上に居たものねぇ」

 

「そう言えば、そうでしたね。なんだか顔も満足そうでしたし……」

 

 カナエの呟きに蜜璃が相槌(あいづち)を打つと、周囲は色めき立った。

 とくに葵枝は我が子のことだ。

 蜜璃に(にじ)り寄って『その話、詳しく!』なんて言って(せま)っている。

 

 皆が仲良く話をしているなかで、カナヲは一人で沈黙を保っていた。

 話の合間にカナエや しのぶ、アオイが話しかけているのだが、反応らしい反応は返ってこない。

 それ自体はいつものことではあるが、今日は少しだけ様子が違っていた。

 

 (おもむろ)衣嚢(えのう)──ポケットのこと──から銅貨を取り出したカナヲが、それを指先で弾いて宙に放り、落ちてきたところを両手で取る。

 手のなかに収まった銅貨は【表】と書かれた面が見えていて、それを見たカナヲは顔をあげた。

 

()()()さんが来たのも久し振り。私が好きなラムネも買ってきてくれて、嬉しかった」

 

 カナヲの声を聞いて、ぴたりと会話が止む。

 周囲の視線は自発的──銅貨での判定はしていたが──に会話に参加したカナヲに釘付けになっている。

 当のカナヲはいつものように微笑んでいるが、その笑みは作り物めいた固いものではない。

 本当に嬉しく思っていることが伝わってくる、柔らかなものだった。

 

「──今日のカナヲはとても可愛い‼」

 

 カナエが興奮気味に抱きつくと、カナヲは嫌がる素振りもなく受け入れる。

 すると、そこに蜜璃も加わって、カナヲは揉みくちゃにされてしまった。

 そんな光景を しのぶ とアオイが呆れたように見つめ、周りに居た者たちは微笑ましく見守るのだった。

 

 ◆◇◆

 

 無限城。

 

 そこは鳴女(なきめ)と名付けられた女の鬼が血鬼術(けっきじゅつ)で管理する、巨大な建造物である。

 そして、鬼舞辻(きぶつじ)無惨(むざん)を始めとする鬼たちの本拠地でもあった。

 

 この城は地下深くに存在しているため、太陽の光が届くことは絶対にない。

 そんな城内で、無惨は先程までは日光を克服するための研究に勤しんでいた。

 

 だが、ある瞬間を境目に無惨の表情が激変する。

 そして、目の前にあった机を叩き割った。

 無言で(たたず)む無惨からは、濃厚な怒気が漏れ出ている。

 一言で言い表すなら、無惨はキレていた。

 

 少し前に【下弦の陸(響 凱)】が死んだばかりだというのに、今この瞬間に【下弦の伍(刺激臭の凄い鬼)】が死んだのだ。

 それを知覚した時、無惨が近くにあった机を叩き割ってしまったのも無理はない。

 空席になっていた【十二鬼月(じゅうにきづき)】の席を埋めたばかりでもあったのだ。

 怒りに任せて物に当たったとしても仕方がないだろう。

 むしろ、人に当たらなかっただけ穏便に済んだくらいだ。

 無惨にしては上出来である。

 

 冗談はさておき、無惨はかつてないほどにキレていた。

 

 下弦の鬼を選定するのも簡単ではない。

 なにしろ【十二鬼月】になるためには、無惨の与える血の量に耐えられる個体でないと意味がないからだ。

 元の実力的には五十歩百歩であっても、血に耐えられる量には個体差がある。

 そして、その上限値は見ることが出来ず、感覚的な物差しで適度に与えてやらねばならない。

 

 過去には【十二鬼月】に選んだものの、与える血の量に耐えられずに体が崩壊するという話も少なくなかった。

 今でこそ失敗することは少なくなったが、それでも失敗がなくなったわけではない。

 なので【十二鬼月】に選定するのは、かつて数字を与えた鬼に近い個体を選ぶようにしていた。

 

 だが、そんな都合のいい個体がそう居るわけでもない。

 似たような境遇の人間はそれなりにいるが、性別や性格、考え方は千差万別である。

 だからこそ、選定するには時間がかかり、鬼殺隊に倒されるたびに苛々(いらいら)させられるのだ。

 

 なお、個体ごとに耐えられる量を調べながら与えてやると、強い鬼を簡単に量産することができる。

 なおかつ、時間の節約にもなるのだが、そんな手間をかけるくらいなら研究に時間を割くぞ、と考えるのが無惨だった。

 

 その気になれば、下弦の鬼程度なら量産できるのに、それをしない。

 無惨が頭無惨と言われる一因でもある。

 

「鳴女っ! 【十二鬼月】の下弦のみを集めろ‼ 今すぐにだ‼」

 

 顔に青筋を立てた無惨が激しい口調で命じると、鳴女は()ぐに琵琶の弦を鳴らした。

 

 癇癪(かんしゃく)を起こした主人ほど手のつけられないものはないと、よく知っているからだ。

 

 鳴女が琵琶の弦を鳴らし続け、(ようや)く一ヶ所に下弦の鬼が勢揃(せいぞろ)いする。

 これで仕事を果たしたと、鳴女はホッと胸を撫で下ろした。

 

 何の予告もなしに集められた下弦の鬼たちは、突然の出来事に戸惑いを隠せないまま、落ち着きもなく右往左往している。

 そんな下弦の鬼たちの様子は、無惨の神経を逆撫でしていた。

 (まさ)しく、火に油を注いでいるのと同じである。

 なにしろ、現在進行形で各々の状況対応力や危機管理能力の低さを、(みずか)ら露呈していっているのだ。

 ただでさえ不機嫌な無惨が怒らないわけがない。

 

 せめて、身構えるなりしてから落ち着いた様子で周囲に気を配れば印象は違ったろうが、普段から不死身であることに慢心していたのか、そういった行動は見受けられなかった。

 

 漸く一人の鬼が無惨に気づき、首をかしげながら観察する。

 その様子を無惨から離れた位置で見ていた鳴女は、観察している鬼に同情した。

 

 観察している鬼の瞳には【下陸】と刻まれている。

 極々最近【十二鬼月】になったばかりの新しい鬼だ。

 

 彼は無限城の外で数字を与えられた鬼である。

 もちろん、無限城の話など聞いたことはないだろう。

 

 さらに言えば、数字を与えに来た無惨は本来の男性体で現れていたはずだ。

 現在の無惨は擬態しているため、女性の姿である。

 気配も変えていることもあり、目の前にいる女性が無惨だと気づくのは無理だろう。

 

「さっさと(こうべ)を垂れて(つくば)え……っ! 平伏しろっ‼」

 

 無惨がそう言った次の瞬間には、下弦の鬼たちは綺麗な平伏姿を披露していた。

 よく見れば、各個人で差があるが冷や汗をかいている。

 下弦の鬼たちは、声を聞いて初めて無惨の存在に気づいたのだ。

 

 問題は『これ以上、無惨の機嫌を損ねずに居られるのか?』である。

 

 ここまで無惨の機嫌を損ねたのだ。

 処分されたとしても不思議ではない。

 もし生き残れる可能性があるとすれば、無惨に気に入られることだろう。

 

 だが、今日に限って言えば、それはない。

 鳴女は知らないことだが、今日の無惨は本気で下弦を解体するつもりでいるからだ。

 

 もはや、下弦の鬼たちに生き延びる方法はない。

 

「も、申し訳──」

 

 口を開いた【下弦の()】が、何かによって潰される。

 潰したものの正体は、無惨の腕から伸びた触手だった。

 毒々しい肉の(かたまり)(うごめ)く様は生理的嫌悪感を感じずにはいられないが、今、下弦の鬼たちはそれどころではない。

 下弦の仲間である鬼が、無惨の手によって攻撃された。

 しかも、口を開いただけで。

 この世には理不尽なことが起きることは知っているが、さすがにこれは慮外のことだ。

 

 あまりのことに、下弦の鬼たち全員が滝のような汗を噴き出した。

 

「誰が、口を開いていいと言った?」

 

「も、申──」

 

 潰された【下弦の肆】は、再生しながらも謝罪を口にしようとして再び無惨に潰される。

 他の下弦の鬼は動くことすら出来ない。

 ただただ頭のなかで、今の状況が非常に不味いことだけを理解した。

 

「私は今、非常に機嫌が悪い。──何故だかわかるか?」

 

 無惨の問いかけに、誰も何も答えない。

 誰も彼も、頭のなかが真っ白になっているからだ。

 だが、運悪く、本当に運が悪く【下弦の陸】が考えてしまったのである。

 

(いきなり呼び出されたんだぞ? わかるわけないだろ!)

 

 次の瞬間、無惨の触手によって【下弦の陸】は潰されていた。

 飛び散った血が隣りに平伏していた下弦の鬼たちに降りかかる。

 だが、恐怖のあまりに動けない。

 

「わからないのか? この能無しどもが……‼」

 

 無惨の顔に青筋が立つ。

 この間に、再生が終わった【下弦の肆】が平伏し直した。

 その顔色は真っ青を通り越して、真っ白になっている。

 

「先程【下弦の伍】が殺された。つい先日、殺された【下弦の陸】の後任が決まったばかりだというのにだ」

 

 無惨の声から察せられる怒りの度合いに、下弦の鬼たちは無意識に息を飲む。

 

「何故、貴様ら下弦はそこまで弱い? 上弦の鬼たちはここ百年、顔ぶれが変わらないというのに、何故、下弦のみがこれ程までに死んでゆく?」

 

 無惨の怒りは(しず)まらない。

 むしろ、悪化の一途を辿(たど)っていた。

 

 そんななかでも、つい【下弦の陸】は考えてしまう。

 先程、無惨に思考を読まれたことすら忘れていた。

 

(そんなこと、俺に言われても……)

 

 突然、木製の床に(ひび)が入る。

 それを知覚するより前に【下弦の陸】は触手で叩き潰されていた。

 今度は、再生しない。

 

 今、この瞬間に【下弦の陸】は死んだのだ。

 

 下弦の鬼たちの間に戦慄が走る。

 身体が小刻(こきざ)みに震えだし、目の前に差し(せま)った恐怖に怯えた。

 

 先程、二度も潰された【下弦の肆】など、思考が滅茶苦茶に混乱しているうえに、腰が抜けて動けなくなっている。

 

(──逃げるしかないっ!)

 

 そんな状況のなか、一縷(いちる)の望みを賭けて【下弦の参】が逃走した。

 無限城のなかに逃げ場所などなく、鳴女の許可なしに出入りすることなど出来ないのに。

 おそらくは恐怖に耐えきれず、冷静に物事を判断できなくなったのだろう。

 

 例え冷静だったとしても、待っているのは“死”だけなのだが。

 

 ひたすら逃げ続けていた【下弦の参】だったが、その命は一瞬で刈り取られた。

 不快な音を立てながら、先程までは【下弦の参】だったものが()()()()()に投げ捨てられる。

 

 無 惨(ふたつの意味で)(くび)を切られたらしい。

 

「私は貴様らに存在価値を見出(みい)だせなくなった。貴様ら下弦が次々に死ぬたびに、私の貴重な時間が(けず)られていく」

 

 下弦の鬼たちに重圧がかかる。

 そんなはずはないのだが、物理的に空気が重くなったようにも感じた。

 

「貴様ら(ごと)きに時間を割くことなど、私はもうしない。下弦は今日、今すぐ、この場で解体する」

 

「お、お待ち──」

 

 (たま)らず声をあげた【下弦の弐】だったが、立ち上がった瞬間に上半身が消える。

 上半身があった場所には、無惨の触手が存在していた。

 上から半分を失った【下弦の弐】だったも の(下半身)が、音を立てて床に倒れる。

 残ったのは、無言で物事の推移を見守っていた【下弦の壱】 と、極度の混乱状態から戻ってこれない【下弦の肆】だ。

 

 無惨は動けない【下弦の肆】に触手を降り下ろす。

 

「き、鬼舞辻さ──」

 

 ハッと正気に戻った【下弦の肆】だったが、混乱するあまりに無惨の名を呼びながら潰された。

 反射的に両手で頭を庇うような動きをしていたが、その程度で防げるような攻撃ではない。

 

 例え手を下さなくても、無惨の名を呼んだので【血の呪い】で死んでいただろう。

 

 ついに最後の一人となった【下弦の壱】は、その表情を少しだけ不満気にしていた。

 

 この【下弦の壱】は名を魘夢(えんむ)と言い、他人の苦しむ声や姿が大好きな鬼である。

 だからこそ、今の状況には不満があった。

 思っていたほど、下弦の鬼たちが断末魔の悲鳴をあげることがなく──悲鳴をあげる隙がなかったとも言う──絶望の表情も見れなかったからだ。

 

 だが、そんなことは無惨には関係がない。

 無惨は無言で下弦の壱を叩き潰した。

 

 凄惨(せいさん)

 

 この現状を一言で表現するならば、その言葉が相応(ふさわ)しい。

 

 そんな光景を生み出した鬼の祖は、長々とため息を吐き出したあとに(きびす)を返した。

 隠れ家にしている屋敷に戻るのだろう。

 

 鳴女が琵琶の弦を弾くと、無惨の目の前に襖が現れ、左右に開いた。

 無惨が屋敷へと移動すると、琵琶の音と共に襖が閉じる。

 

 こうして、無限城からは鳴女以外の鬼は去った。

 あとに残るのは、下弦の鬼たちが遺した肉片と血だけである。

 

 鳴女はすっと立ち上がると、血だらけになった床に視線を向けた。

 (単眼)を皿のようにして、何かを探している。

 

 すると、鳴女の視線がある一点で止まった。

 

 鳴女は素早く血塗(ちまみ)れの床に降り立つと、着物が汚れるのも構わずに見つけたものを手に取る。

 

 それは鬼の角だった。

 下弦の鬼で唯一、角を持った者の残骸だ。

 

 鳴女はそれを持って元いた場所へ移動すると、琵琶の弦を一度だけ弾く。

 すると、鳴女の足元に壺が現れた。

 とある上弦の鬼が作り、鳴女用だと言って置いていった壺である。

 本来の用途は花を()けるためのものだろう。

 

 だが、鳴女はその壺のなかに鬼の角を入れた。

 さらには血鬼術で床を操り、下弦の鬼たちが流した血を壺のなかへと流し込む。

 そうして、しばらく待っていると壺のなかに変化が現れた。

 (わず)かに気泡が立ったかと思うと、白くて小さな手が見えたのだ。

 

 それを確認した鳴女は、ホッと息をついた。

 

「あなたは、生きてね」

 

 壺のなかに向かってそう話しかけると、鳴女は琵琶の弦を弾く。

 すると、いつものように襖が現れ左右に開いた。

 襖の向こう側は、古びた民家のようだ。

 長いこと人は住んでいないようで、壁や木戸には穴が開いている。

 しかし、日光を避けることは出来そうな空間だった。

 

 日光が万一にも当たらぬように、物陰になっている場所に壺を置く。

 すると、壺のなかから出てきた手が、鳴女を行かせまいとして着物の端を掴んだ。

 だが、(ちから)が入らないようで、掴んだはずの指先から、着物の端はするりと抜ける。

 鳴女は壺から出てきた手を握り返すと、先程の言葉をもう一度繰り返した。

 

「あなたは、生きるの。──いいわね?」

 

 名残惜しむように、握った手に頬を寄せる。

 そして、それを最後に鳴女は無限城へと帰っていった。

 

 鳴女が去って(しばら)くすると、日が暮れたのか、辺りが暗くなる。

 すると、今まで変化のなかった壺が急に揺れだして倒れた。

 だが、壺の中身を満たしていたはずの血は一滴も零れない。

 その代わりに出てきたのは、白い肌をした幼子(おさなご)だった。

 ガタガタと震える体を抱き締めながら、おそるおそる周囲を見回す幼児の瞳には、はっきりと【下肆】と刻まれている。

 

「な、なき、め……なき、め、さん……?」

 

 蚊の鳴くような弱々しい小さな声で【下弦の肆】である零余子(むかご)は、無限城(あの場所)から逃がしてくれた恩人(鳴女)の名を呼ぶ。

 そして、返事がないことで状況を察したのか、すすり泣く声だけが悲しげに辺りに響くのだった。

 

 ◆◇◆

 

 大正こそこそ噂話(壱)

 

 塚山(つかやま) (れい)

 

 原作二巻で登場し、月彦(つきひこ)と偽名を名乗っていた鬼舞辻無惨の妻役をしていた人。

 死んだ(殺された)最初の夫との間に一人娘がいる。

 富豪の家系であるため、その(つて)や財力を無惨に狙われ、いいように使われていた。

 自分が居たという痕跡を残さない無惨の臆病な性格からして、原作では死んでいる可能性が高い。

 

 本作では警察が無惨の正体を暴いたため、証拠の隠滅やら何やらが一切出来ず、現場を見ていた鎹 鴉(かすがいがらす)を経由して鬼殺隊にまで情報が回った。

 そのため、無惨の情報を知る者として、身の安全の確保を理由に蝶屋敷にお世話になっている。

 ついでに、彼女の実家と接触して情報を共有した結果、鬼殺隊に金銭的な支援を約束してくれた。

 

 家の都合で結婚した最初の夫とは死に別れ、(なぐさ)めてくれた二人目の夫(鬼舞辻無惨)に恋愛感情をもっていたが騙されていたということで、恋愛と結婚というものに嫌気が差しつつある。

 蝶屋敷に来た際に花柱から目をつけられているが、上記の理由により、実利や対価をもって話を説いたほうが受けが良かった。

 そのため、彼女は花柱の要求を『蝶屋敷で安全に生活できるように取り図るかわりに、鬼ぃちゃんの子供を産む』という話だと割りきっている。

 

 しかし、その認識がいつまで続くかと、一部で賭けの対象になっていることは知らない。

 

 麗

「契約ですものね。大丈夫。ちゃんと産みますから」

 ↑冷めた瞳

 

 まきを

「(その態度が何時まで保つかねぇ……)」

 ↑二週間と予想。

 

 須磨

「(私、知ってます! ああいう人に限って、ちょっと優しくされるとすぐに落ちるんですよ‼)」

 ↑一週間と予想。

 

 雛鶴(ひなつる)

「(貴女たちねぇ……)」

 ↑呆れた目で見ながら三週間と予想。

 

 天元

「(とか言いながら地味に賭けてんじゃねぇか)」

 ↑派手に初日で即落ちと予想。

 

 ちなみに、彼女の凍った心を溶かすための鍵は、元・旦那たちの声と鬼ぃちゃんの声に含まれた感情と熱量の差に気づけるかどうか? という点。

 塚山家のことを気にせず彼女自身と向き合い、大切に、大事にされていることに気がつけば即落ちする可能性が高い。

 世間知らずなお嬢様育ちなだけあって、彼女はチョロい部類の人。

 

 娘さんから攻略すると、さらに落ちやすくなる。

 ちなみに、鬼ぃちゃんと娘さんは仲がいい。

 

 三度目の正直で幸せを掴むことは出来るか? 

 

 原作で姓は判明していないため、そこに関しては捏造している。

 ただ、元ネタが存在していて、知りたい人は【つかやま ゆたろう】で検索してみよう。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(弐)

 

 不死川 志津

 

 不死川一家の母親。

 暴力的な夫から、小さな体で七人の子供たちを守り通した母の鏡。

 原作では鬼舞辻無惨に鬼にされたあげくに、自らの手で子供たちを殺し、最終的には息子の実弥に討たれるという悲劇を演出させられた人。

 実弥と玄弥の家族を守っていくという約束の話と合わせて、この仕打ちはなんだ! と憤慨した人は多いはず。

 

 本作では偶然にも鬼化した直後に町中を見回っていた累が発見して、事無きを得た。

 

 鬼ぃちゃんと累には三年くらい同行していたが、その間に色々あって、鬼ぃちゃんに惚れ込んでいくことになる。

 一時期は累のお義母さん候補にまでなるが、鬼ぃちゃんが生前の妻(継国カナエ)への思いを捨てきれていなかったために、一線を越えることはなかった。

 

 その後、鬼ぃちゃんと花柱が再会したことで失恋したかに見えたが『側室に欲しい』と言われて困惑する。

 身を引こうとしたが、花柱から事情を聞かされて考えを改めた。

 なので、彼女は花柱の最初の同盟者である。

 

 鬼ぃちゃんへの好感度は、三年間──自我が戻ってからだと一年間──の積み重ねがあるおかげでかなり高い。

 

 ちょっと筋肉フェチなところがあり、鬼ぃちゃんの腕とか胸板とか腹筋の具合とかが大好き。

 よく触りたがって、鬼ぃちゃんを困惑させる。

 

 志津

「このカチカチ具合とかが好きなんよねぇ」

 ↑頬を赤らめながら恍惚感(こうこつかん)に浸る。

 

 黒死牟

「……」

 ↑くすぐったい & 困惑中。

 

 鬼ぃちゃんに抱き抱えられて眠るのも大好きで、本人曰く、腕のなかにすっぽりとおさまる感じがいいらしい。

 累が言うには、自我が戻る前からそういった感じでいたようだ。

 子供たちを守り続けてきた彼女の過去を考えると、自分を守ってくれる相手がいることに安心感を得ているのかもしれない。

 

 原作第二百話目にして、ようやく名前が判明した。

 筆者は捏造するつもりでいたので、原作で名前がわかって大歓喜している。

 

 ついでに糞親父も登場した。

 前科のせいで評価は悪いが、そのまま逝きそうだった実弥を死なせなかったことだけは誉めてやってもいい。

 ↑謎の上から目線(蛇柱風)

 

 しかし、その手を離せや! と思った人は多いと思われる。

 地獄に逝ってもDV親父がいるとか、どれだけ不幸になれば救われるのか……。

 

 糞親父(原作&本作)

「……」

 ↑無言の圧力×2。

 

 黒死牟(本作)

「……」

 ↑無言の 超 威 圧 力 (最終形態&泣き別れ顔コンボ)

 

 黒死牟(原作)

(何故……こんなことになっている……?)

 ↑困惑中。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(参)

 

 神崎 アオイ

 

 蝶屋敷に常駐する隊士 兼 看護師。

 基本的には原作と一緒。

 なので、彼女のことを知りたいなら原作を読もう。

 

 蝶屋敷に常駐するようになって、一番お世話になった相手が嘴平琴葉である。

 特に、ある事情でまともに戦えない隊士である彼女をあっさり受け入れ、温かな態度で接し続けてくれたことがアオイの心を癒してくれた。

 そういった事情で、琴葉のことをかなり慕っている。

 昔はよく『お母さん』と呼んでいたとか。

 

 琴葉の母性にやられたとも言う。

 

 琴葉が息子を探していることを知っているため、伊之助が見つかったと知った時は一緒になって喜んでいた。

 蝶屋敷に勤める者なら皆同じ気持ちだったろうが、アオイの喜びようは一段と凄かったようだ。

 しかし、当の伊之助に会ったときの衝撃は凄まじかったらしく、言葉を失っていた模様。

 

 本人曰く『もっと琴葉さんな子が来ると思ってたら猪だった件』とのこと。

 

 しかし、琴葉の息子だということで気にかけている。

 感覚的には手のかかる弟ができた感じかもしれない。

 

 原作と同様に、炭治郎たちが退院する際に『とんでもねぇ炭治郎』に遭遇する。

 その結果、心の天秤に新しい(おもり)が引っ掛かって、ぐらぐらと揺れ続けることになった。

 

 炭アオ? 

 伊アオ? 

 

 どちらに転ぶかは、この先、炭治郎と伊之助がアオイにどう接していくかが鍵になる。

 ちなみに、その様子は竈門家と不死川家の子供たちにしっかりと見られていた。

 

 寿美

「アオイお姉ちゃん、キュンと来た?」

 ↑蜜璃の影響で恋バナ大好き。

 

 アオイ

「ななななにをいってるのあななたち!?」

 ↑図星を当てられ動揺中。

 

 花子

「アオイお姉ちゃん、あおはる? あおはる?」

 ↑蜜璃の影響で恋バナ大好き。

 

 

 

 蜜璃

「なんだか恋バナの気配がキュンキュンする‼」

 ↑警備担当地区に居ながら察知した。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(肆)

 

 栗花落(つゆり) カナヲ

 

 花柱・胡蝶カナエの継子にして、見様見真似で【花の呼吸】を身に付けた天才。

 アオイと同様に、基本的には原作と一緒。

 詳しく知りたい人は原作を読もう。

 

 本作では継国巌勝と初代花柱・栗花落カナエの子孫という設定。

 

 Q.鬼ぃちゃんが鬼だと一目でわかる要素はなんですか? 

 

 A.六つ目

 

 Q.カナヲの優れた身体能力はなんですか? 

 

 A.視力

 

 ということで、カナヲの目の良さは先祖代々の遺伝である。

 容姿も初代にそっくりなので、初めて会った鬼ぃちゃんは吃驚(びっくり)した。

 しかし、すぐに子孫だと見抜いて可愛がるようになる。

 

 原作と同様に心の声が小さく、それは鬼ぃちゃんと会っても大して変わらなかったが『とんでもねぇ炭治郎』に会ってからは劇的に変わった。

 ちなみに、その様子は竈門家と不死川家の子供たちにこっそりと見られており、それ以降、炭治郎は『さん』付け&最敬礼で呼ばれるようになる。

 

 もちろん、炭治郎は困惑した。

 

 余談ではあるが、アオイが炭治郎と伊之助を気にしていることに気づいていて、彼女のことが大好きなカナヲとしては『アオイと一緒に炭治郎と暮らせたらなぁ』とか思っている。

 だが、決めるのはアオイだからと口にはしていない。

 

 アオイ

「ちちち違うから! 私、そんなのじゃないですから‼」

 ↑まだまだ動揺中。

 

 カナヲ

(裏……まだ、なにも言わないでいよう)

 ↑表裏銅貨で決めた。

 

 貞子(ていこ)

(これは……蜜璃お姉ちゃんに要報告な案件よね?)

 ↑蜜璃の影響で恋バナ大好き。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(伍)

 

 下弦の肆 零余子(むかご)

 

 いろんな意味で不遇、不幸な十二鬼月の下弦。

 原作ではたった一話だけのために出演し、処分された。

 性格は臆病らしく、鬼殺隊の柱に遭えば逃げることだけを考えていたらしい。

 ただ、その考え自体は間違ったものではなく、勝てないと判断すれば逃げるのは当然である。

 しかし、無惨のお気に召さなかったようで、ちょっとした問答の末に処分された。

 

 本作では原作以上に酷い目にあっている。

 だが、琵琶の君のおかげもあり、辛うじて生存できた。

 ちなみに、彼女が無事だったのは血鬼術のおかげである。

 

 名は体を表すという言葉通り、彼女は本体に生えた()()()──角が無事なら再生できるという生存特化型の血鬼術を所持していて、都合二回は(くび)を斬られても再生できるという性能をもつ。

 なお、無惨による再生不能の攻撃すら一回の死亡に数えるという破格の性能だったことが今回の騒動で初めて発覚した。

 そのうえ、彼女の失言により血の呪いが発動したため、再生した彼女からは血の呪いが外れているという奇跡が起きている。

 

 なので、無惨は彼女の生存に気付いていない。

 さらに、腹を立てるあまりに琵琶の君に注意を払っていなかったため、彼女が裏切りとも言える行為をしていたことにも気づかなかった。

 

 無惨の失敗は八つ当たりで叩き潰したこと。

 原作と同じように吸収しておけば、零余子は再生できなかった。

 

 数少ない女性の鬼ということで、琵琶の君とは仲が良い。

 零余子は彼女を姉のように慕っていて、琵琶の君が血鬼術で作り出した小窓を通してよくお話していた。

 

 堕姫? 

 零余子や琵琶の君と感性が合うとでも? 

 

 ちなみに、彼女の父親は重罪を犯した犯罪者を閉じ込める監獄(刑務所)の典獄(てんごく)(所長)である。

 彼女はそこで死んだ者、死ぬ予定の者たちを食べていたため、ある程度は安定した生活が出来ていた。

 それは父親が役職を外れても変わらなかったようで、どうやら後任の者にも手を回していたらしい。

 

 なので、父親という存在は彼女にとって『絶対的な味方であり庇護者』という意味がある。

 

 しかし、安定して食べることができるということは、その分だけ強くなるということでもあるため、実戦を経ることなく強くなってしまった彼女は無惨に目をつけられて十二鬼月にされてしまう。

 

 ちなみに、それまで無惨に見逃されていたのは『安定して人間を食べ続けることが出来る環境にいるなら、放っておいても十二鬼月級になるのでは?』と期待されていたから。

 原作の累みたいに愛着をもっていたわけではない。

 

 なお、戦ったことがないのに十二鬼月の序列が上がっているのは、単純に上の席が空いて繰り上がったせいである。

 そして間髪入れずにさらに上の席が空いたため、下弦の肆まで繰り上がった。

 

 十二鬼月になって以降も無惨公認で生家を離れずに生活していたが、鬼殺隊に(ゆかり)のある者が監獄を訪れた際に通報されて追い出されてしまう。

 その時に零余子を討伐しに来た隊士が柱だったため、彼女は柱に遭うと逃げ出すようになった。

 

 初戦闘が柱とか、冗談ではない。 

 その時は例の血鬼術を使って出し抜いた。

 

 ちなみに、琵琶の君が彼女を逃がした先は、みんな大好き【那田蜘蛛山】である。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 大正こそこそオマケ話

 

 黒死牟

「さて……お館様に言われて……那田蜘蛛山まで……来てみたが……」

 

 珠世

「ここに何があると言うのでしょうね?」

 

【草が揺れる音】

 

 黒死牟

「む……」

 

 珠世

「あら……」

 ↑目を丸くする。

 

 ?? 

「──!」

 ↑怯えている。

 

 珠世

「この子は……下弦の肆!?」

 

 黒死牟

「その割には……気配が弱いが……」

 

 下弦の肆

「あ……うぁ……」

 ↑涙目で怯えている。

 

 珠世

「戦う意思は……なさそうですね」

 

 黒死牟

「むしろ……怯えている……それも……尋常ではない……いったい……何があったのか……」

 

 珠世

「少し、落ち着いてもらいましょうか」

 ↑気分を落ち着かせる香の血鬼術。

 

 下弦の肆

「あ……」

 

 珠世

「落ち着きましたか?」

 

 下弦の肆

「……」

 ↑涙目ながらも頷く。

 

 珠世

「何があったのか。話してもらえますか?」

 

【下弦の肆は無惨主催によるパワハラ会議ならぬリストラ通告の内容を話し、ついでに身の上話もする】

 

 黒死牟

「……」

 ↑頭無惨な暴挙に頭が痛い。

 

 珠世

「それは……大変でしたね……」

 ↑かなり深く同情する。

 

 下弦の肆

「……ひっく……ぐすっ……ひっく……」

 ↑涙としゃっくりが止まらない。

 

 珠世

「調べてみましたが、血の呪いは外れているようですね」

 

 下弦の肆

「きぶつじしゃま……こあい……」

 ↑体の震えが止まらない。

 

 珠世

「(か、可愛い……!)」

 ↑幼い下弦の肆の姿に母性本能を刺激される。

 

 黒死牟

「……」

 ↑何となく、嫌な予感がした。

 

 珠世

「ところで、あなたの名前は?」

 ↑禰豆子を思い出している。

 

 下弦の肆

「む、零余子……」

 ↑迷子の子供のように怯えている。

 

 珠世

「なるほど。むかご……零余子ですか」

 ↑琴葉と伊之助を思い出している。

 

 黒死牟

「……」

 ↑嫌な予感が強くなる。

 

 珠世

「それなら、今日からあなたの名前は珠芽(たまめ)。私の義娘ということにしましょうか。私の名前は珠世。珠世お義母さん、と呼んでくださいね?」

 ↑慈愛に満ちた笑み。

 

 珠芽

「おかあさん……?」

 ↑突然の申し出に吃驚(びっくり)する。

 

 珠世

「それから、こちらが巌勝(みちかつ)様。あなたを守ってくれる、お義父さんです。──ね?」

 ↑有無を言わさぬ圧力付きの笑み。

 

 珠芽

「おとうさん……!!」

 ↑輝きを放つような無垢なる瞳。

 

 黒死牟

「……」

 ↑嫌な予感が当たって頭が痛い。

 

【珠世の隠れ家に移動する】

 

 愈史郎

「お帰りなさい! 珠世様‼」

(ああ珠世様! 珠世様だ珠世様! 珠世様ぁぁぁ‼)

 ↑大興奮。

 

 珠世

「久し振りですね、愈史郎。変わりはないですか?」

 

 愈史郎

「はい! もちろんです‼」

(ああ、珠世様がそこに居られるだけで世界が色づく! 華やぐ! さすがは珠世様だ! やはり何時(いつ)見てもお美しいぃぃぃ‼)

 ↑暴走中。

 

 珠芽

「……」

 ↑珠世の足にくっついて、ビクビクしている。

 

 愈史郎

「……何ですか、コレは?」

(珠世様にぴったりと引っ付きやがって……(うらや)()しからん‼)

 ↑暴走鎮静化 & 不審者に警戒中。

 

 珠世

「愈史郎。この子は珠芽と言って、私と巌勝(みちかつ)様の義娘(むすめ)です」

 ↑悪意はない。

 

 愈史郎

「──!!」

(──!!)

 ↑背後に落雷が落ちる。

 

 珠世

「珠芽。この子は愈史郎です。あなたのお義兄ちゃんですよ」

 ↑本気で悪意はない。

 

 珠芽

「おにいちゃん……!」

 ↑(くも)りのない(まなこ)

 

 愈史郎

「……」

(……)

 ↑口から魂が抜ける。

 

 黒死牟

「……」

 ↑無言で合掌する。

 

 

 

【この後、禰豆子と志津、珠芽の血が珠世の研究に役立ち、浅草で無惨に鬼にされた男性が自我を取り戻して、呪いも外れました】




読んでくださって、ありがとうございます!

ちょっと駆け足で(ふらぐ)を回収。
残り話数を考えたら、あと六話程度で締める予定なので、意外と余談を書く隙がないことに気がついた。
戦闘を丸々カットすればいけるか……?

とは言え、しっかり(ふらぐ)は立ちました(笑)

お察しになっている方が多いと思いますが、次回はタイトル詐欺になりそうです。

なぜなら、次回は無限列車編。
しかし、原作で敵役を勤める相手が両方いない!
どうなるのかは次回をお待ちください。

それでは、また、よろしくお願いします。

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