【完結】産屋敷邸の池に豆腐を落とせば、鬼舞辻無惨を津波が襲う   作:【豆腐の角】

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二十日発売予定だった本誌が休刊決定していてorz状態の今日この頃、皆様、いかがお過ごしでしょうか?

筆者は元気です。
鬼滅成分は不足するでしょうが(笑)

最近は、コソコソ話とおまけ話が長すぎたので、短くまとめてみました。

あと、書き方も少し変えてみました。

それでは本編をどうぞ。


育った波はうねり打つ(無限列車編)

 柱合会議から三ヶ月ほど過ぎた、ある日のことである。

 

 川沿いの道に建てられた茶店で一服ついていた煉獄(れんごく)杏寿郎(きょうじゅろう)のもとに、ひとつの指令が舞い込んできた。

 

 それ自体は何ら変哲(へんてつ)のない任務である。

 だが、任務に参加する隊士の名簿を見て、杏寿郎は指令書から顔をあげた。

 

「随伴する隊士は我妻善逸、竈門炭治郎、嘴平伊之助と、特別隊士の竈門禰豆子を合わせた四名か! あの少年と合同任務とはな! よもや、こうも早く機会が回ってくるとは思わなかった!」

 

 そう言って、杏寿郎は腕を組んで(うな)り始める。

 

 そんな様子を不思議に思ったのか、隣に座っていた継子(つぐこ)の時透有一郎が眉を(ひそ)めながら問いかけた。

 

 ちなみに、彼は【(かすみ)柱】である時透無一郎の双子の兄である。

 

「どうしたんです? 杏寿郎さんが考え込むなんて珍しいですね」

「いや、なに! 次の指令が合同任務でな! 前に話した竈門少年が随伴(ずいはん)する隊士に加わっているようなのだ!」

「ああ、例の強い鬼にばかり遭遇し続けてるって隊士ですか」

 

 有一郎は納得して頷いた。

 

 竈門炭治郎と言えば、鬼舞辻無惨の人相書きの作成に関わった家庭の長男だ。

 そして、現在では【日の呼吸】を使える唯一の人材でもある。

 そのうえ、入隊してからの軌跡も有名だ。

 鬼殺隊の上層に近い人間なら知らない者はいないだろう。

 

 さらには、有一郎にとっては先祖である黒死牟にも目をかけられている人物であるため、知らないわけがなかった。

 

 ふと、何かを思い出した有一郎は、急に体を震わせる。

 

「どうした? 風邪でもひいたのか!」

「いやいや、体調を崩したわけじゃないです。ちょっと……昔のことを思い出して……」

 

 有一郎が歯切れ悪く説明すると、杏寿郎は納得して笑った。

 

「なるほど、黒死牟殿のことか! 確かに黒死牟殿も強い鬼だな! そのうち、()()手合わせ願いたい!」

 

 杏寿郎はそう言って笑うが、有一郎にとって黒死牟は苦手な相手である。

 

 例え手合わせだろうと向き合いたくはない。

 それくらい強烈な恐怖を体に叩き込まれていた。

 

 その恐怖を味わったのは、時透兄弟が鬼殺隊のお世話になるより前のことである。

 

 

 

 当時の時透兄弟は、事故と(やまい)で亡くなった両親と同じように杣人(そまびと)──木こりのこと──をしていた。

 

 そこにやって来たのが、産屋敷(うぶやしき)耀哉(かがや)の妻である産屋敷あまね である。

 

 彼女は、鬼殺隊という組織の基盤を作り上げた剣士(継国巌勝)の子孫に協力してもらおうと、わざわざ景信山(かげのぶやま)の奥深くにまで歩いてやって来たのだ。

 

 そんな あまね に対して時透兄弟──いや、有一郎が返した返事は『否』だった。

 

 両親を亡くしたばかりの有一郎は、双子の弟である無一郎を『何があっても守らなければならない』と考えていたのである。

 

 それ故に、何度 あまね が自宅まで足を運ぼうと、有一郎は(かたく)なに拒絶し続けていた。

 

 しかし、何度追い返されようと、あまね は足(しげ)く時透家に通い、根気よく説得を続けた。

 

 有一郎たちの両親が他界していると聞いていたせいである。

 せめて、危険の多い山を下りて、安全な町──出来れば蝶屋敷、欲を言えば産屋敷邸で生活してほしかった。

 人の親として、見て見ぬふりなど あまね には出来なかったのだ。

 

 だから、この頃の あまね は鬼殺隊とは関係なく動いていたのである。

 

 そんな あまね の思いなど知らない有一郎は、(がん)として譲らなかった。

 

 家族と暮らした土地を離れたくない。

 両親の墓だって、この土地にある。

 そんな気持ちもあったのだ。

 

 様々なことが重なって苛々(いらいら)していた有一郎は、ある時、 あまね に水を浴びせかけて追い返してしまう。

 

 この一件が原因で有一郎と無一郎は喧嘩をしたのだが、この後に待っていた事態に比べれば些細(ささい)なことである。

 

 

 

 有一郎と無一郎が喧嘩をして(くち)を利かなくなって(しばら)く経った ある日の夜。

 その日は夏ということもあって蒸し暑く、時透兄弟は家の入り口の戸を開けて眠っていた。

 

 そこに、鬼がやって来たのである。

 

『騒ぐな……』

 

 恐ろしい気配を隠しもしない六つ目の鬼は、時透兄弟を(にら)み付けると、その顔に青筋を立てて言った。

 

『あまね様に……水をかけて追い返すという……不埒(ふらち)な働きをした者がいると聞いた……』

 

 体中(からだじゅう)の細胞が絶叫して泣き出すような恐怖を感じながら、時透兄弟はお互いを抱き締めあって体を震わせる。

 

『我が子孫でありながら……その不敬……万死に値する……‼』

 

 一歩一歩、ゆっくりと近づいてくる六つ目の鬼。

 それを前にした時透兄弟は、ただ悲鳴をあげることしか出来なかった。

 

 なお、無一郎は完全にとばっちりである。

 

 その後、時透兄弟は産屋敷邸に送り届けられ、無一郎が鬼殺隊に志願したのをきっかけに、有一郎も鬼殺隊に入隊することになったのだ。

 

 

 

「うぅ……!?」

 

 当時のことを思い出してしまった有一郎は再び身を震わせたあと、ハッとなって杏寿郎に問いかけた。

 

「まさか、次の任務に()()()様が来るなんてことはないですよね? ないですよね!?」

 

 よほど怖い思いをしたのか、有一郎は必死である。

 その姿が面白かったのか、杏寿郎は笑いながら首を振って否定した。

 

「いや、黒死牟殿は参加しない! なんでも、今は珠世殿の隠れ家に行っているらしい!」

 

 そう聞かされた有一郎はホッと息を吐くと、額にかいた汗を(ぬぐ)う。

 

 その姿を見ていた杏寿郎は、ふと考えた。

 

 苦手な相手を、苦手なままにしておいていいのだろうか? 

 早いうちに、苦手意識を克服するべきではないか? 

 

 杏寿郎がそんなことを考えているとは(つゆ)知らず。

 有一郎は残っていたお茶を飲み干すと、会計を済ませるために店の人を呼ぶのだった。

 

 ◆◇◆

 

 杏寿郎のもとに舞い込んだ合同任務だが、それは思いの(ほか)あっさりと片がついた。

 

 柱である杏寿郎に回される任務という意味でも、強い鬼に遭遇し続けていた炭治郎と禰豆子がいた、という意味でも意外な結果である。

 

 請け負った任務の内容だが、列車に住み着いた鬼がいるというものだった。

 数人の隊士を送ったが誰一人として帰ってこない、という話である。

 

 確かに、鬼は強そうだった。

 

 杏寿郎以上に大きくがっしりとした体躯(たいく)をしており、腕や太股(ふともも)も相応に太く、かなりの筋肉を搭載している鬼だった。

 もしも、腕や手に捕まるようなことがあれば、逃げ出すことは叶わずに、骨という骨を砕かれて簡単に負けていただろう。

 

 二つの頭を無理矢理にくっつけたような奇妙な頭部には、目が四つもあるために視野も広そうだった。

 左右非対称ではあったが、正面から戦うしかない車両のなかでは有利に働いていたことだろう。

 

 額には角が四本もあり、肩と二の腕あたりにも角が生えていた。

 頭の角はともかく、肩の角は凶器に成りうる。

 体躯と筋肉量、体重などのことも相俟(あいま)って、ただの体当たりでも油断はできなかっただろう。

 

 そのうえで危険だったのは血鬼術(けっきじゅつ)である。

 

 外見的には肉弾戦に特化しているように見せておいて、血鬼術は姿を隠すことに特化していたのだ。

 姿を隠している間は杏寿郎でも気配が探りづらく、さらには炭治郎の嗅覚や善逸の聴覚、伊之助の皮膚感覚にも引っ掛からなかった。

 

 もしも、杏寿郎がいない状態で奇襲を受けていたとしたら、それだけで壊滅していた可能性もあっただろう。

 送り込んだ隊士が消息を絶った理由も納得である。

 

 しかし、今回は相手が悪かった。

 

 ──炎の呼吸 壱ノ型 不知火

 

 その速さは善逸の使う【霹靂(へきれき)一閃】よりも、さらに速い一撃である。

 本来であれば【炎の呼吸】より【雷の呼吸】のほうが速いのだが、これについては使い手の問題だ。

 

 純粋に、杏寿郎の身体能力が善逸のそれより優れていた。

 ただ、それだけの話である。

 

 炭治郎たちが気付いた時には、鬼の(くび)は宙を舞っていた。

 鬼が何かをするよりも早く、杏寿郎の日輪刀(にちりんとう)(くび)をはねたのだ。

 

 あまりにも呆気ない幕切れに、炭治郎と善逸は開いた口が塞がらない。

 伊之助は実力の一端を見せた杏寿郎の姿に次元の違いを感じ取り、武者震いしていた。

 

 その後、杏寿郎自身が鬼の倒滅を確認して任務の完了を告げ、今に至る。

 

「今回は場所に救われたな! もしも、列車という狭い空間でなければ、鬼の姿を捉えるのにも苦労しただろう!」

 

 そう言って、杏寿郎は快活に笑った。

 

 炭治郎たちは【全集中の呼吸・常中】を習得したが、それは柱になるための第一歩でしかない。

 それを考えれば、今回の一件は『柱と自分のいる位置』を確認するのに良い機会になっただろう。

 

 しかし、これはまだ、杏寿郎の実力の一端でしかない。

 

 これから間もなく、それを目撃する機会に遭遇することになるとは、この時、誰も思ってもいなかった。

 

 ◆◇◆

 

『遠足は、帰るまでが遠足ですよ』

 

 いったい誰が言い出したことかは不明である。

 

 一説には、1950年代にチョモランマに登頂した登山家が言ったとされる『例え登頂できたとしても、生きて帰って来れなければ登頂に成功したとは言えないのではないか?』という言葉が元になっているとも言われているが、正確な起源はわからない。

 

 だが、現代でも使われる決まり文句であり、そこには『寄り道せずに帰りなさい』という学童向けの意味とは別に『目的を達成したあとも油断してはならない』という意味がある。

 

 日本のことわざにもある『勝って(かぶと)の緒を締めよ』にも通じるものがあるだろう。

 

 そして、この言葉は現在(いま)の炭治郎たちにも当てはまる言葉である。

 

 確かに、炭治郎たちは鬼を倒した。

 与えられていた任務を達成した、という意味では彼らの仕事は終わりである。

 

 しかし、それは鬼殺隊の事情であって、敵対する鬼にとっては無意味な事柄だ。

 

 気を抜く炭治郎たちを嘲笑(あざわら)うかのように、鬼の悪意はそこまで迫っていた。

 

 ◆◇◆

 

 杏寿郎が鬼を斬ったことで車両のなかは一時的に騒然としたものの、現在は平穏な空気を取り戻していた。

 

 乗客のなかには鬼殺隊のことを知る者もいたらしく、何も知らない人々を落ち着かせるのに協力してくれたのである。

 

 その後も列車は走り続け、もう少しで駅に到着するだろう。

 

 そんな時に、異変は起こった。

 

 ごごん、と二回続けて音が鳴る。

 

 初めはただ、車両の屋根に何か重さのあるモノが当たったのだと、誰もが思ったことだろう。

 ただ、線路の周囲は開けていて、何かが降ってくるような場所ではない。

 

 そのうえ、ここは走っている列車の車両である。

 いったい、何が車両の屋根に落ちると言うのだろうか? 

 

 続いて起きた異変が、車両に乗っていた乗客全員に恐怖と混乱を撒き起こした。

 

 天井から鋭い(やいば)が突き出てきたのである。

 

 車両の中央辺りに差し込まれた刃は、ゆっくりと上下しながら天井を切り裂き始めた。

 なんとも凄まじい切れ味である。

 

 この時点で、杏寿郎は乗客に隣の車両へ避難するように呼びかけを終えていた。

 状況を理解した乗客が、慌ただしく隣の車両へと移動してく。

 

 そんななか、天井を切り裂いていた刃が止まり、屋根の上へと引き抜かれた。

 丸い円を描くように切り込みを入れられた部分の天井が、何度か音を立てながら振動する。

 

 屋根の上にいる何者かが、斬った部分を落とそうとしているのだ。

 

 そうこうしているうちに天井は抜け落ち、床へと落下する。

 

 そして、屋根の上にいた何者かが、天井に空けられた穴から車両のなかへと入ってきた。

 

 現れたのは鬼だ。

 それも、刀を持つ鬼である。

 

 鬼の体躯は杏寿郎と同じくらいの大きさだろうか。

 先程まで列車に潜んでいた鬼よりは小さいが、平均的な身長より大きいのは間違いない。

 

 その鬼から漂う匂いを嗅いだとき、炭治郎は思わず鼻を押さえた。

 

 濃い。そして、重たい。

 

 今まで出会ったどの鬼よりも、鬼舞辻無惨の血の匂いが強く感じられる相手。

 それが、目の前に現れた鬼だった。

 

 それもそのはず、鬼の瞳には【上弦】と【弐】の文字が刻まれている。

 

「よもやよもや、だ。竈門少年と共にいれば強い鬼と出会うやもしれんとは思っていたが、それが【上弦の弐】とは‼」

 

 杏寿郎が刀を抜いて構える。

 

 炭治郎たちも身構えたのだが、そんななか、伊之助がポツリと呟いた。

 

「……なんかコイツ、()()()に似てねぇか?」

「あ、それは俺も思った」

「髪の結び方と言い、背格好と言い、刀持ってることと言い。黒死牟さんを思いっきり意識してるって言うか、何て言うか……」

 

 善逸と炭治郎が同意する。

 すると突然、鬼が怒声をあげた。

 

「黒死牟……黒死牟だとっ!?」

 

 あまりの怒気に炭治郎たちは思わず後退りする。

 顔に青筋を立てた鬼は構わず続けた。

 

彼奴(あいつ)の……彼奴(あいつ)のせいで俺はっ‼ ああ、何もかもが腹立たしいっ‼ 黒死牟め……っ‼ 狛治めぇっ……‼」

「うわぁ。はくじってのは何だか知らないけど……黒死牟さん、かなり恨まれてるじゃん」

 

 ()じ曲がって禍々(まがまが)しい不快な音を聴いた善逸が、顔を青くして(おのの)いた。

 すると、鬼は急に杏寿郎を(にら)みつけて叫ぶ。

 

「貴様もだっ‼ 煉獄ぅぅぅ‼」

「うむ! 心当たりはないな‼」

「──でしょうね‼」

 

 さらっと返す杏寿郎に、これ以上は鬼を刺激してほしくない善逸が、涙目になってツッコミを入れる。

 

「いくら()()()様に似た鬼だろうと、所詮は(まが)い物でしょ? ()()と比べたら何てことないよ」

 

 有一郎はそう言うが、心なしか顔色が悪くなっていた。

 ()()()に対する苦手意識はなかなか深いようである。

 

 炭治郎は匂いで、善逸は音で有一郎の状態を察した。

 

「いや、怖がってんじゃねぇか」

「はいはい! 伊之助は黙ってようねぇっ!」

 

 伊之助の歯に(きぬ)着せぬ物言いを、善逸が慌てて制止する。

 有一郎がすごい顔で伊之助を(にら)んでいるが、今は仲間割れしている場合ではない。

 

「ふぅむ……何やらお前とは因縁があるようだが、思い当たる節がないな‼ 少し語ってくれるとありがたい‼」

「いや、なんで説明を求めてるんですか!?」

 

 思ってもみなかった杏寿郎の対応に、善逸はツッコミを入れた。

 

「貴様……っ‼ 俺にあれだけのことをしておいて、忘れただと!?」

 

 杏寿郎の発言を真に受けた鬼が、激しく歯軋(はぎし)りをしながら(にら)みつける。

 (ひたい)に浮かんだ血管は、今にも切れそうだ。

 

「絶対に許さんぞっ‼ 煉獄ぅぅぅ‼」

 

 鬼が刀を構え、杏寿郎もそれに応じる。

 

「恨まれる筋合いがないとは言わないが、鬼を斬るのが鬼殺隊の使命‼」

 

 一歩、杏寿郎が前に出た。

 それだけで【上弦の弐】から発せられていた威圧感が中和され、炭治郎たちは無意識のうちに畏縮(いしゅく)していた体が楽になるのを実感する。

 

 その背中は頼もしく、とても大きく見えていた。

 

「来い‼ 【上弦の弐】よ‼ この煉獄の(あか)き炎刀が、貴様を骨まで焼き尽くす‼」

 

 ◆◇◆

 

 杏寿郎たちと【上弦の弐】の戦いは、列車を飛び出して外へと場所を移していた。

 あまり自由に動けない車両のなかでは不利だと言って、車掌に列車を止めるように直談判した結果である。

 

 提案はすぐに受け入れられたのだが、急いで列車を停止させようとした影響で慣性の法則が働き、全員の体勢が崩れてしまう。

 

 だが、杏寿郎と有一郎はその隙を利用して、鬼を車両の外へと弾き出していた。

 

 鬼が外に出てしまえば列車は安全である。

 再び列車を動かすように指示をして、炭治郎たちは乗客を逃がすことに成功した。

 

 だが、この時に炭治郎と善逸、伊之助の三人も場を離れるべきだったのかもしれない。

 

 なぜなら、鬼は比較的に弱い隊士である炭治郎たちをわざと狙い、杏寿郎たちに防戦を強いたからである。

 

 弱い者から狙うのは、戦の常道だ。

 自分たちが足を引っ張っているという事実に、炭治郎たちは悔しくて歯()みした。

 

 状況を打開するべく、炭治郎は【日の呼吸】を使うべきかと思案する。

 炭治郎は【日の呼吸】を使った方が強く、そして速く動けるのだ。

 

 僅かな隙でもいい。

 それさえあれば、この状況を打開する切っ掛けになるだろう。

 

「善逸! 伊之助! 援護を頼めるか!?」

「わかった!」

「子分を守るのも親分の務めだからな! 任せとけ‼」

 

 修行仲間である二人は、炭治郎が【日の呼吸】を連続して使ったあと、一時的に動けなくなることを知っている。

 その間の援護を頼んだのだと、すぐに察しがついたのだ。

 

 そのやり取りを聞いていた杏寿郎と有一郎も、何かしら仕掛けるのだと気づいたらしい。

 炭治郎に向かって、一瞬だけ視線を寄越していた。

 

 意を決して、炭治郎が【日の呼吸】を使う。

 

 それを見た鬼は、向かってくる炭治郎に刀を振るった。

 

 ──日の呼吸 幻日虹(げんにちこう)

 

 高速の(ひね)りと回転で、炭治郎は振るわれた刃を(かわ)す。

 

 それと同時に、鬼は炭治郎の姿を見失った。

 

 姿を追っていたはずの相手を見失い、驚いた鬼は目を見開く。

 

 ──日の呼吸 炎舞

 

 いつの間にか視覚の外にいた炭治郎が刀を振るい、鬼の持つ刀はあっさりと叩き斬られた。

 

「なん……だと……?」

 

 刀身を失ったことに動揺した鬼が、困惑した声をあげる。

 

 だが、炭治郎の攻撃は終わっていない。

 

 炎舞は、大きな半円を描く斬撃を二度入れる連続技だ。

 

 相手が動揺している間にも、炭治郎は刀を振るう。

 

 今度は鬼の左腕を、二の腕の(なか)ば辺りから斬り落とした。

 

 刀身と片腕を失った鬼が、炭治郎を忌々(いまいま)しげに(にら)みつける。

 

「この……糞餓鬼ぃ‼」

 

 鬼は残った右手に折れた刀を握ったまま、炭治郎を殴り飛ばした。

 

 炭治郎は、刀の持ち手で(せま)り来る拳を受け止める。

 

 軽く吹っ飛ばされてしまったが、なんとか無事だった。

 

 だが、殴られた影響で呼吸が乱れてしまい、反動が体を襲っている。

 

 動けなくなってしまった炭治郎に向かって、鬼は折れた刀を投げつけた。

 

 炭治郎の頭を狙ったそれは、割って入った伊之助によって防がれる。

 

「チィッ! 邪魔な(いのしし)め‼」

 

 苛立(いらだ)つ鬼は舌打ちすると、刀を投擲(とうてき)した体勢のまま、片足の(ちから)だけで伊之助へと体当たりした。

 

 あまり力が入っていなかったために伊之助は無事だが、炭治郎を守れる位置から外れてしまう。

 

 しかも、伊之助が押しやられた場所は、杏寿郎からは邪魔になる位置だ。

 

 一息で駆け寄った鬼は、今度は足を振るって炭治郎の頭を狙う。

 

 しかし、動けない炭治郎を、善逸が抱えて避けてみせた。

 

 その間に近寄っていた有一郎が、二人を守る壁のように道を(ふさ)ぐ。

 

 一瞬だけ、鬼が足を止めた。

 

 それを隙と見た伊之助が、足を狙って刃を振るう。

 

 足を斬られては(かな)わんと、鬼は飛び上がって刃を避けた。

 

 武器と片腕を失い、さらには身動きのとれない空中にいる。

 

 杏寿郎と有一郎は、それを好機と見た。

 

「一瞬で多くの面積を根こそぎ(えぐ)り斬る‼」

「はい‼」

 

 ──炎の呼吸 奥義 玖ノ型・煉獄

 

 杏寿郎と有一郎が息を合わせて型を放ち、凄まじい勢いで肉薄する。

 

 (くび)に迫る刃を前にした鬼は、頬を引き()らせて──、

 

「──馬鹿め」

 

 杏寿郎と有一郎を嘲笑(あざわら)った。

 

 急速に腕を再生させ、日輪刀を正面から拳で受け止める。

 

 刃を受け止めた拳は引き裂かれていくが、それと同時に脇の下から、新たに腕が生えてきた。

 

「腕が二本だけだなんて、誰が言った?」

 

 心底おかしそうに鬼が(わら)う。

 

 大技を放った直後の二人を、鬼の拳が襲った。

 

 だが、杏寿郎と有一郎は(あせ)らない。

 

 (わず)かに重心を(かたむ)けて、眼前に(せま)った拳を紙一重で避ける。

 

 だが、それも含めて鬼の狙いだった。

 

 斬り裂かれている最中の拳に力を入れて、刀が抜けないように固定する。

 

 すると、杏寿郎と有一郎の顔色が変わった。

 

 武器を手離すか否か。

 

 杏寿郎と有一郎の思考が一瞬だけ止まったのだ。

 

「くたばれ、煉獄ぅぅぅ‼」

 

 鬼が腕を振りかぶる。

 

 驚いたことに、その背中からは五本目の腕が生えていた。

 

 さらには失ったはずの刀を持っている。

 

 先ほど炭治郎に向かって投げたものとは違い、その刀身は折れていない。

 

 それが杏寿郎に向けて振り下ろされた。

 

 じつはこの刀、外見的には普通のそれなのだが、その素材は鬼の肉である。

 それ故に、折られても失くしても、何度でも再生出来るのだ。

 

 振り下ろされた刃が杏寿郎に迫る。

 

 その時、二人の間にひとつの影が割り込んだ。

 

 ──素流 鈴割り

 

 パキン。

 

 そんな音と共に、振り下ろされた刃がへし折れる。

 

 予想外の事態に鬼は目を見張った。

 

 ──脚式 流閃群光

 

 驚く鬼に追撃の技が叩き込まれる。

 

 その威力は凄まじい。

 

 大柄の体を持つ鬼であるはずの鬼が、易々(やすやす)と吹き飛ばされた。

 

 着地したあとも勢いを殺しきれずに、後退(あとずさ)るほどの威力である。

 

「あの人は……」

 

 突如として現れた人物に見覚えがあった炭治郎は、目を見開いて驚きを(あらわ)にした。

 

 以前、蝶屋敷で会った白い道着の人だったからだ。

 

「こ、恋狛(こはく)さん」

 

 驚いた様子で、有一郎が白い道着の人──恋狛の名を呼ぶ。

 そこには『どうしてここに?』という意味が込められていた。

 

「いや、すまないな! 助かったぞ、恋狛!」

「本当だよ、まったく……オレに行き先も告げずに黙って任務に出掛けやがって」

 

 柱である杏寿郎に向かって、恋狛はため息ついでに悪態をつく。

 

 このやり取りを聞いていた炭治郎たちは、目を白黒させていた。

 

 柱の杏寿郎に向かってのタメ(ぐち)である。

 いったい、どういう立場の人なのだろうか? 

 

 そんな疑問が頭に浮かんでいた。

 

「今回の任務は列車のなかでの任務だったからな! どこで鬼が出てくるか分からなかった!」

 

 杏寿郎がそう言うと、それを聞いた恋狛は再びため息をついた。

 

「せめて列車の名前くらいは言っとけよ。鎹鴉が教えてくれなかったら、わからなかったんだからな?」

「……むぅ!」

 

 ばつが悪そうに、杏寿郎が(うな)る。

 

「帰ったら千寿郎にも謝れよ? あの子がやれ下駄の鼻緒が切れただの、黒猫が道を横切っただの、神棚が倒れただのと大騒ぎしてたんだぞ?」

 

 少しは反省したように見える杏寿郎の態度に、恋狛はやれやれと言わんばかりにため息をついた。

 

 相当、お疲れのようだ。

 炭治郎は匂いで、善逸は音でそれを察した。

 

「千寿郎はいつから心配症になったのか……」

「いや、さすがに()()は心配にもなるな。帰って神棚と仏壇を見てみるといい。……凄いぞ?」

 

 杏寿郎と恋狛の気の抜けるような会話が続く。

 目の前に鬼がいることなど忘れているような自然さだ。

 

 ちなみに、千寿郎とは杏寿郎の弟の名である。

 

 だが、その会話も鬼の叫び声により中断した。

 

「まだ生きてやがったのか‼ 狛治(はくじ)ぃぃぃ‼」

 

 濃密な怒気が【上弦の弐】から放たれ、ビリビリと空気を震わせる。

 

「はくじ? 誰のことだ?」

「んん? ……ああ、成る程な」

 

 杏寿郎が首をかしげると、恋狛はどこか納得したような表情でため息をついた。

 

「知り合いか?」

 

 杏寿郎が不思議そうに問いかけると、恋狛は簡単に説明する。

 

「狛治ってのはオレの先祖の名だ。──で、あいつは先祖が継いだ素流道場の隣にあった、剣術道場の跡取り息子だな」

 

 そう言って、恋狛は肩をすくめた。

 

 恋狛は先祖の狛治と顔が瓜二つなのだ。

 見間違えても仕方がない。

 

 そして、恋狛は【記憶の遺伝】によって、先祖の記憶を夢という形で追体験することがあった。

 特に狛治に関しては色濃く遺伝しているようで、なかなかの頻度で夢を見る。

 

 だからこそ、目の前にいる鬼が、恋狛の先祖に強い執着を持つ相手であることを知っていた。

 

「ちなみに、その先祖を襲いに来たコイツを撃退したのが当時の煉獄家当主だな」

「なるほど!」

 

 説明を聞いた炭治郎たちも納得した表情になったが、それでも素流道場を襲った理由がわからない。

 

 やはり、隣近所で仲が悪かったのだろうか? 

 

 そんな疑問を浮かべていると、怒気を強めた鬼が(わめ)きだした。

 

「狛治ぃっ! 貴様さえ……貴様さえ居なければ……! 恋雪(こゆき)は俺のものになっていたはずだったのにっ‼」

 

 顔を真っ赤にして【上弦の弐】が叫ぶ。

 その物言いに対して、恋狛は静かにキレた。

 

「何をいっているんだ、この(クズ)は。脳味噌が頭に詰まっていないのか?」

 

 表面上は冷静に見える恋狛だが、浮き出した血管や震える筋肉、濃密な気配に至るすべてから、怒りの感情が溢れている。

 総毛立つほどに凄まじい怒りが、炭治郎たちの肌を叩いていた。

 

「だいたい、恋雪さんがお前を選ぶわけがないだろうが。具合の悪かった恋雪さんを無理矢理外に連れ出したあげく、喘息(ぜんそく)の発作を起こして苦しむ恋雪さんを放置して……お前は逃げた! 狛治さんが恋雪さんを見つけていなければ、危うく死ぬところだったんだぞ!? その事を忘れて、何をふざけたことを言ってやがる‼」

 

 自分勝手なことばかり言う鬼に対して、恋狛は怒りを爆発させた。

 

 ちなみに恋雪とは、先祖である狛治の妻の名である。

 

 その話を聞いた者たちは、この鬼が何を思って素流道場を襲ったのか、その理由がわかった気がした。

 

 要するに、横恋慕していたのだ。

 

 とは言え、そうだとしても、やらかしたことは重大で擁護(ようご)できないものである。

 

 だからこそ、恋狛の言葉を聞いていた者たちは、汚物を見るような目を向けていた。

 

「え? なに、それ? 普通に(くず)野郎じゃん」

 

 ドン引きしながら『無いわ、無いわ』と善逸が(つぶや)くと、恋狛と【上弦の弐】以外の全員が(うなず)いた。

 

 わなわなと肩を震わせる鬼は、血走った目を恋狛に向ける。

 

「恋雪を……恋雪を寄越せっ‼ 狛治ぃぃぃ‼」

 

 雄叫びをあげる鬼が、再生して五本になった腕で刀を振り回しながら突撃をしかける。

 

 だが、恋狛は振るわれる刀を素手で(さば)いていた。

 

 素流は【護る拳】である。

 大切な誰かを守るために鍛え上げられ、磨かれてきた技だ。

 それが今、存分に発揮されていた。

 

 その隙をついて杏寿郎と有一郎が腕を斬り飛ばし、(くび)を狙う。

 

 だが、残る腕で防がれ、()らされ、なかなか頸までは刃が届かない。

 腕もすぐに再生されてしまうため、先程までの戦いと変わらない状況になっていた。

 

 二本だった腕が五本になったのは脅威である。

 事実、先程までは戦いに介入できていた炭治郎たちでもなかなか近寄れない領域になっていた。

 

 だが、恋狛という守りに特化した戦力が加わったことにより、杏寿郎と有一郎には余裕が生まれている。

 

 そして、攻め手に余裕があるのであれば、杏寿郎には切れる手札があった。

 

「少しの間、場を頼めるか!?」

「もちろんです‼」

 

 有一郎は力強く頷き返す。

 

 それを見た杏寿郎は一度後退すると、日輪刀を両手でしっかりと(つか)み、思いきり握り締めた。

 すると、元々から赤かった日輪刀の色が徐々に変わり、さらに(あか)く染まる。

 

 少し前に黒死牟と手合わせした際に教わった切り札──【赫刀(かくとう)】である。

 

 黒死牟から教わったのはいいが、日輪刀を赫刀化させるためには少しの時間が必要だったのだ。

 そのため、余裕のなかった先程までは使えなかった手札である。

 

「待たせたな‼」

 

 杏寿郎はそう言うと、勢いよく戦線に復帰した。

 

 赫刀の威力は凄まじいが、それ以上に特筆すべきは『鬼の再生力を阻害する効果をもつ』という点だろう。

 その効果の強弱は使い手によって異なるが、不死身である鬼の優位性を崩す一因になる。

 

 それは、相手が【上弦の弐】であろうと変わらない事実だった。

 

 杏寿郎の赫刀に斬られた腕の再生が(にぶ)い。

 

 その事実を前に、鬼は演技でない(あせ)りを見せる。

 

 腕が斬られて数が減り、それを補うために次々と腕を増やしていく。

 

 だが、赫刀の効力によって、増えた腕はたちまち機能不全に追い込まれていた。

 

 焦る【上弦の弐】の脳裏に、撤退の文字が浮かぶ。

 

 その直後、有一郎によって足を斬り飛ばされていた。

 

 地面に鬼が倒れ伏す。

 

 その(くび)に、赫刀が(せま)っていた。

 

 赤い刃が頸に食い込む。

 

 その直前、何処かで琵琶の弦を弾く音がした。

 

 倒れていた鬼の身体が、地面に吸い込まれるようにして沈む。

 

 杏寿郎は目を見開いた。

 

 地面に(ふすま)が現れたからだ。

 

 それと同時に、頸に食い込んでいた赫刀が標的を失い(くう)を切る。

 

「待──」

 

 制止する言葉をかける間もなく、鬼は襖の奥に落ちていった。

 

 襖は素早く閉じると、幻のように跡形もなく消える。

 

 あとに残されたのは、やり場の無い怒りと悔しさだけだった。

 

 ◆◇◆

 

 追い詰めたはずの鬼を取り逃がした炭治郎たちは、やり場の無い感情をもて余していた。

 

 まず最初に感じたのは【上弦の弐】に逃げられた悔しさだ。

 それが落ち着くと、次に湧いてきたのは上弦の鬼を相手にして生き残ったという安堵が。

 それから、もっとやれたのではないか? という後悔が湧いてきたのだ。

 

 いつまでも落ち込んではいられない。

 それは、わかっている。

 

 だが、特に【日の呼吸】という切り札を持っていた炭治郎は、その思いが強かった。

 

 もっと長く、連続して舞えたなら、上弦の鬼を倒せていたはずだ。

 

 悔しさと不甲斐なさを顔に(にじ)ませる炭治郎を気遣うように、善逸が気を(まぎ)らわせようと口を開いた。

 

「それにしてもさ。コハクさんって凄いよな。素手で【上弦の弐】に食らいつくんだぜ?」

「ああ、かなり出来る奴だ。乗り越えるべき壁が新たに現れやがった!」

 

 心底嬉しそうにしながら、伊之助は『俺も素手で刀を叩き折りてぇ‼ 修行だ、修行するぞ‼』と興奮して腕を振り回している。

 

 伊之助の向上心(あふ)れる姿に善逸は呆れ、炭治郎は笑う。

 

 彼らに落ち込んでいる暇などない。

 一歩一歩、少しずつ積み重ねて強くなるしかないのだ。

 

「俺も、煉獄さんやコハクさんみたいに強くなれるかな?」

 

 炭治郎までも前向きに検討し始めたことに、善逸はげんなりとして肩を落とす。

 

「炭治郎もやる気かよぉ……まあ、つき合うけどさ。けど、あの素手で鬼に立ち向かう()()()みたいにはなれねぇだろ」

 

 その言葉を聞いた炭治郎は首をかしげると、善逸の顔を不思議そうに見た。

 

「……何を言ってるんだ、善逸?」

「な、なんだよ炭治郎? 俺、なんか変なこと言ったか?」

 

 疑問符を浮かべて戸惑う善逸。

 すると、炭治郎は思いがけない言葉を告げた。

 

「善逸。コハクさんは()()()だよ?」

「──ふぇっ!?」

 

 善逸の口から、変な声が漏れていた。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 

 

 大正こそこそ噂話(壱)

 

 炎柱(えんばしら) 煉獄 杏寿郎

 

 通称、煉獄の兄貴。

 筆者的には映画館で会いたい人。

 詳しい人柄や情報は原作を読もう。

 

 こっそり鬼ぃちゃんから赫刀を教わっていた。

 だが、身体能力が大きく跳ね上がる【痣者(あざもの)】になったわけではないので、握力が足りずに赫刀化に少々時間がかかる。

 

 ちなみに、後述する恋狛は幼馴染みにして許嫁(いいなずけ)である。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(弐)

 

 時透 有一郎

 

 時透無一郎の双子の兄。

 原作では故人である。

 

 性格は少しキツめで、いつも(しか)めっ面をしているため取っ付きにくい。

 極一部にしかデレを見せないため、貴重なツンデレ枠。

 敬うべき人は敬えるため、上層部では問題は起きていない。

 

 鬼ぃちゃんによる教育(しつけ)が身に染みた模様。

 

 次の【炎柱】になる予定だが、おそらく本作中ではお預けになるだろう。

 

 ちなみに、年上の文通相手がいる。

 双子だけに、女性の好みも似るようだ。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(参)

 

 煉獄 恋狛(こはく)

 

 原作最大の悲恋が回避された結果、生まれた子孫。

 先祖はもちろん、狛治と恋雪。

 

 名前の大元は先祖夫妻の狛治×恋雪。

 組み合わせにはいくつかの候補があったが【狛】の字をどうしても使いたかったので【恋狛】となった。

 

 姓に関してはなかなか良いのが思い浮かばなかったので、ちょっと前倒しして煉獄姓を与えている。

 

 ちなみに姓の候補には【相楽】とか【悠久山】が上がっていた。

 

 二重(ふたえ)の……ナンデモナイデス。

 

 外見は狛治のそっくりさんだが、瞳は恋雪似の女性。

 

 最低でも月に一回は蝶屋敷に薬を取りに来ているが、偶然にも善逸と伊之助には出会わなかった。

 

 炭治郎とは柱合会議の直後に蝶屋敷の玄関で出会っている。

 善逸と同様に、炭治郎も最初は男性だと誤解していたが、擦れ違った時に感じた匂いで女性だと気づいた。

 

 

 

 大正こそこそ噂話(肆)

 

 壊拏(かいな)

 

 本作の【上弦の弐】で原作には登場しない鬼。

 その正体は素流道場の隣りにあった、剣術道場の息子。

 

 鬼としての姿は鬼ぃちゃんのパチモノ。

 無惨様が鬼ぃちゃん対策で生み出した十二鬼月(じゅうにきづき)に初期からいる古株。

 

 名前の由来は【(かいな)】と掛けてあり、狛 治(無手の相手)に負けた事と剣術道場の息子なのに【腕】ってどうよ? 的な皮肉を利かせたもの。

 

 原作18巻の設定こぼれ話に顔が出ている。

 どんなに改悪しても、心がまったく痛まない素晴らしい人材。

 

 原作の猗窩座とは違い、女性を好んで食べる。

 そのため、基本能力的には原作の猗窩座以上に強い。

 ついでに藤襲山(ふじかさねやま)の【手鬼】並みに手と刀を増やせるので間違いなく厄介な鬼。

 

 だが、どこかの戦闘民族並みに舐めてかかる悪癖がある。

 今回も舐めてかかって負けた。

 

 無惨様から『またか』と言われるくらいに学習しないヤツ。

 

 余談だが、()()()()()()()を好んで襲う習性がある。

 

 

 

 ◆◇◆

 

 大正こそこそ(こぼ)れ話

 

 本当なら壊拏(かいな)との戦いの最中に、恋狛の道着とサラシが斬られて『実った果実』がこぼれる話を入れたかった。

 

 流れが悪くなるから外したのだが、その話があったら善逸は誤解しなかったと思われる。

 

 ついでに壊拏(かいな)が『狛治に胸があるはずがない』と動揺し、色々考えた果てに『あいつの目元が恋雪に似てる。じゃあ、恋雪じゃね?』と言い出す予定もあった。

 

 さらに『恋雪、俺のものになれ!』とか言い出し、それに対して今度は杏寿郎が『恋狛は俺の嫁になる約束をしている』と怒り、恋狛を巡って戦いが激しくなるという展開。

 

 その様子を見た恋狛が『戦う(二人とも)理由(やめて)がおかしい(私のために争わないで)』とツッコみを入れる予定があった。

 

 ◆◇◆

 

 大正こそこそオマケ話

 

 カナエ

巌勝(みちかつ)様、お帰りなさい」

 ↑夫の帰りを玄関で待ってた妻。

 

 黒死牟

「ああ……いま帰った……」

 ↑昔を思い出してほんわかしてる。

 

 カナエ

「いろいろと大変だったみたいですね」

 ↑珠世に義娘が出来たことを言っている。

 

 黒死牟

「そうだな……いろいろと……動きが出るやもしれん……」

 ↑無惨が下弦を解体したことを言っている。

 

 カナエ

「こちらでもいろいろと動きがありましたよ」

 ↑須磨が推薦する人を見てきたことを言っている。

 

 黒死牟

「話は……聞いている……」

 ↑【上弦の弐】との戦闘があったことを言っている。

 

 カナエ

「なら、話が早いですね。今、【音柱】の奥様たちが吉原に鬼がいるからと調査に出かけているんです」

 ↑交渉開始。

 

 黒死牟

「ほう……木を隠すなら……森のなか……ということか……」

 ↑気づいてない。

 

 カナエ

「新たに得た情報と合わせると、巌勝様に行ってもらいたいんです」

 ↑策を張り(めぐ)らせている。

 

 黒死牟

「なるほど……」

 ↑下弦が解体されているため、上弦が(ひそ)んでいる可能性が高いのだと思っている。

 

 カナエ

「だから、巌勝様は吉原に行って花魁(おいらん)を一人、身請(みう)けしてきてくださいね!」

 ↑彼女にとっての本題。

 

 黒死牟

「うむ……わかっ……」

 ↑ようやく、何かおかしいと気づいた。

 

【このあと熱い議論が交わされ、結局、黒死牟は吉原に通うことになりました】




今回も読んで下さってありがとうございます!

次回は吉原編ですね。

なんとかして、ほのぼのした話が書きたいなぁ()

よければ、次回も見てください。

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