ウチのキャラクターが自立したんだが。リファインド   作:馬汁

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ウチのキャラクター、逃走する。

 仕事というのは、必ず何処かで義務と言う名の強制力が発生する。

 その義務は報酬と引き換えに与えられる物で、その両方を見て初めてそれらが利益になる。

 しかし、雇い主か社会の経済が衰弱しているか、雇用者の適性が低い場合か、またはその他要因によっては、浴に言う「割に合わない」状況に陥る。

 

 今回の場合は……、

 

「ここは安全……みたいですね」

 

「アースウォールで道を塞いで。この魔法の壁って崩せるんだよね?」

 

「はい、自発的に崩せるので逃げ道を塞ぐことにはなりません。塞いでおきますね」

 

「お願い。……はあ、もう、本当に修羅場だった」

 

 俺たちのパーティが持つ戦闘力に対して、敵が多かったのだ。これでは割に合わない所ではない。死ぬ。2人揃って。

 今までこうして目標物の採集を進めてこれたのは、主な脅威である人狼の出現率がそう高くなかったのと、何故か俺に生えて来た魔力感知の能力のお陰である。

 

 だが今回は、状況が違った。

 

 想定外に現れた初見の敵。同時に現れた多数の敵。対多数を避けてきた我々にとっては、正に最悪の事態だった。

 ……生き延びたのは、只々機転と運があったお陰である。

 

「……ねえ」

 

「はい?」

 

「ここ、さっきの穴は除外するとしてさ、他に出口あると思う?」

 

 レイナは遠い目で、今まで逃げてきた方とは反対側に延びる通路を見た。見れば見るほど、一般的な洞窟とは言い難い構造だった。

 

 

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『ダンジョン』

 

『世界各地に点在するダンジョンには、強力なモンスター、特異な環境が内包されている。地上に比べれば、当然の事危険に満ちた場所である。

 その姿は多様であり、洞窟、火山、遺跡、巣などがある。

 これだけでは人が踏み込む理由は無いように思えるが、その実、多数の冒険者がダンジョンに挑んでいる。

 その理由が、ダンジョン内で得られる財宝である。

 ダンジョン内でしか得られない様な資源は多数あり、その価値は一握りの金塊を上回ることも在り得る。中にはポーションや武器防具の類など、手に取ってそのまま利用できる物が発見されることもある。

 また、この様な資源やアイテムはそのダンジョンのルーツに関わっている事が多く、多くの研究家がダンジョンの謎を明かす為に発見物を買い取っては調査研究を続けている。

 ダンジョンが一攫千金の夢をもたらしているのは、冒険者に対してだけではないのだ』

 

 

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 危機に対面する、前日。

 

 

「くぅぅぅっ、外の空気は美味しいなあ!」

 

「夜ですけど、森の中より明るいですね。月が大きい日で良かったです」

 

 満月とは行かないが、半月の形が少し膨らんだ形が空に見える。

 たしかこの形の月をなんと言ったか。

 

「今日の成果は一ヶ所の魔花採集と、数匹の人狼、あと動物でしたね」

 

「あと幽霊もね。ドロップが少ないっていうか、あんな粉しか無いから成果としては微妙だけど」

 

 あとは意思を持ったように動く植物、名称ネットプラントが居たか。あれは蔦の様な物を絡めてその場に抱きかかえるように締め付けるぐらいだから、単体では危険はそんなに無い。倒す旨みもそんなに無い。

 レイナによると、絡め捕った相手の魔力を吸い取る植物らしいが、そもそも空気中の魔素が潤沢なせいか、この一帯のネットプラントは捕獲能力が退化している様だ、との事。

 それでも戦闘中に絡め捕られたら危険だが、そのような状況には陥らなかった。暗いからランタンに照らされないと見えないのだが。

 

「あれでも、この魔石ランタンの燃料の足しにはなるんですよ? あの量じゃ数分がやっとですけど……」

 

「そういえば魔石が燃料だったね。そっか、じゃあ完全には無駄にならなさそうだ」

 

 成果について話ながら行く森の外は、視界が開けていて不意の遭遇がなさそうだ。暗いから見落とすことも多いだろうし、夜行性のモンスターが襲う事も無いわけじゃないが、森の中で出会うモンスターよりは楽なものだ。

 

 特にこれといった出来事も無く、無事村へ到着する。

 この辺りは平地が広がっており、北の山脈が少しばかり大きく見える。

 

「ここが?」

 

「はい。私が以前来たことのある村です。あ、そこに馬車も見えますよ!」

 

「本当だ。御者さんも居るかな?」

 

 見てみると、居た。1人で空をぼんやりと眺めていた。

 確かにこの世界の空は星が美しく見えるが、他にやることが無いのか? 

 

「天体観測中?」

 

「……いえ、観測なんて程のものじゃないです。それよりも2人ともご無事でよかった」

 

「私たちが帰って来なかったら、大声で咽び泣いて悲しんでくれる?」

 

「そこまでは悲しみませんね」

 

 俺の大袈裟な表現に、それは流石に、と言わんばかりの即答が返ってきた。

 

「泊めてくれそうな所はあった?」

 

「どちらかと言えば、ありました。宿屋の様な事をしていた家はあるんですが、その家の住民が皆揃って体調を崩してしまったらしいです」

 

「え。それ大丈夫?」

 

「いえ。他の方々は疫病と言って近寄ろうとしません。あそこに泊まれば村人から避けられるでしょう」

 

 ううん。今後付き合うかもわからない村の印象を下げたくは無いし、かと言って寝床が無いのもなあ。

 今日は馬車で寝るという選択肢もあるかもしれないが。

 

「村での野宿するとしたら、見張りいるかな?」

 

「う、やっぱり野宿の方向なんですね。私ならログアウトして凌ぎますけど」

 

「……その手があったか」

 

「夜の間はこの世界を離れるんですね? なら、私は適当な民家を訪ねてみます。私一人なら受け入れてくれるでしょう」

 

 おや、彼にはログアウトに関する理解があるらしい。

 そういえばNPC達のプレイヤーに対する反応を今まで知らなかった。プレイヤーの持つシステム的な諸々は、彼らにとってはどう映って見えているのだろうか。

 

「宛はある?」

 

「村長に相談してみます。あなたの依頼主さんとの関係で、私も知り合っています」

 

「そっか。……不都合があったら今のうちに言ってね」

 

「有難うございます。でも問題は無いでしょう」

 

 心配だが、過保護にはしない。彼の言葉を私達は信用して、ログアウトすることにした。

 

「それじゃあ、また明日」

 

「はい、それでは」

 

「おやすみなさい」

 

 レイナと再ログインの時間を示し合わせてから、俺たちは現実世界に戻っていった。

 

 

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 仮想世界に帰ってきた。

 朝まで待つ……と言っても、現実世界で待つ時間は30分程度だ。現実の一時間でゲーム内で太陽が一巡りするのだから、そんなものである。

 

 現実でやって来た事と言えば、少々のトイレ休憩と読書ぐらいである。それとちょっとした調べごと。

 仮想世界に意識を落とせば、時間通りにレイナもここに来ていた。お互い馬車の側でログアウトしたから、その場所に俺たちは居る。

 

「おはようレイナ。よく眠れた?」

 

「……たったの30分で、眠るも何も無いですよ」

 

「まあそうだよね。あはは」

 

 まあ、寝不足という事も無いだろう。

 この様な方法で夜を凌いでいると、体感時間が24時間以上であるにも関わらず寝ていない状況が発生するだろうが……。

 

「大丈夫?」

 

「ううん。夜間を凌ぐために現実へ戻るなんて事をするのは初めてなんですが……ちょっと不安ですね。今の所は体調に異常はないんですけど」

 

「ネットでかるーく調べたけど、問題は無いみたい。どっちかの世界で過ごした累計時間の中で、その中で十分な睡眠が取れていれば、だけど」

 

「……体感時間って事ですか?」

 

「うん。体感でね」

 

 どっちにしろ、寝なきゃいけないのは変わらないのだが。

 因みに、現れる症状は一般的な寝不足とさして差は無いらしい。

 

 さて、地図を引っ張り出して、今日の予定を適当に考える。

 目標の地点は複数あるが、それら全体の南東側の数カ所は既に用済み。今日は北東から北西にかけて地点を辿ろう。

 昨日はそんなに考えていなかったが、それなりに深い所を潜ることになるから、考えた方が良いだろう。

 

「今日は朝から行動するから、日没を気にする必要はないね」

 

「時間を掛けてもいいなら、退路をなるべく確保したいですね……」

 

「それじゃあ……なるべく森の外側を辿って、目標地点に入るときだけ潜る?」

 

「そうすると移動距離が長くなりますね。撤退しやすいかもですが、会敵する回数も増えるかもしれません。森の奥よりも外側のほうが遭遇しづらい……という証拠は何処にもありませんし。それに東に行くほど深いですので、実質深い所を往復することになります」

 

 何度か意見を交わしてみるが、今まさに調査中の森の事に関する情報は少なく、判断材料に欠けた今は確実な行動を選ぶことが難しかった。

 

「……今回は、もらった生態分布図を参考にルートを決めよう。過信はするなって言われたけど、縄張りの中を横断するよりはいいでしょ」

 

「そうですね」

 

 情報が不完全なりに作戦を立て、ルートも行動の取り決め等は大体決まった。

 私が不意打ちを察知した場合、察知できなかった場合、一方的にこちらから発見した場合、地形や状況が悪く戦闘するべきでない場合。

 

 と、考えようと思えば幾らでも考えられたが、あんまり詰め込んでも判断に時間が掛かってしまうから、軽く覚えられる範囲で抑えておいた。

 実際、私はこういう方針で、彼女はそういう方針で、というのを伝え合ったぐらいだ。

 

「よし、行こう」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 森の中に踏み込んで、いくらかの魔花採集地点を経由する。

 自身の位置を見失いさえしなければ、問題なく縄張りや会敵しかねない地点を回避できた。

 

「足元、気をつけて」

 

「はい。……なんか、ケイさんもサマになってきましたね」

 

「そう? まあ、慣れてきたからね」

 

 ネットプラントを避けつつ前に進む。次の地点で、確か最後の3つになるはずだ。

 

「あ、太陽の光が見えました」

 

 木々が太陽を完全に遮ってしまい、薄暗い森の中。木漏れ日の光はよく目立つ。

 魔花の群生している場所の特徴だ。

 

 

 と、思っていたのだが。

 

「……なにこれ?」

 

 そこには魔花どころか草の一本生えない場所。

 地面は土というよりも砂利に近い。

 

 そして中央には、大岩がずっしりとあった。

 

「大きく窪んでますね。元は湖だったのでしょうか?」

 

「湖がこんな風に枯れるかな。いやまあ、詳しくはないけど……」

 

 俺は、これがただの湖の枯れた跡とは思わない。

 魔力の感覚が、中央の大岩から感じ取れる。それも強く。今まで出会った敵の数倍ぐらい。いやそれ以上かもしれない。

 

「とりあえず離れよう。ここの地面は石がごろごろしてて歩きずらい」

 

「ここで敵に遭ったら大変ですね。そうしましょう」

 

「うん。次の地点に……マズイ、隠れて」

 

「ひゃ」

 

 話をしたら影とはよく言う。呼ばれて出たかのように近づいてくる気配に対し、レイナの手を引いて岩の裏へ身を隠す。

 

「まだ気づかれてはない。不意打ちで仕留められる?」

 

「え、えっと。私には姿は見えないんですけど、一撃では難しいかと思います」

 

 できる限り小声で話しかけて、意見をもらう。

 望み薄だが、俺の魔法での追撃をつけても無理だろうか。

 

「私の魔法での追撃でも?」

 

「うーん……威力不足ですね。私の一撃が急所にあたりでもしないと」

 

「そっか、やりすごそう」

 

 レイナもそれに同意し、息を潜める。

 

 しかし、この岩。これの下で魔力が集中しているように感じる。向こう側の敵の気配を感じ取りづらい。

 

 離れろ、離れろ、と念を送っているうちに、気配は遠ざかる。

 

「……よし、向こうに離れていった。こっちの方角に行こう」

 

「はい。……あ、あれ」

 

「うん?」

 

「あの、足元が」

 

 足元? そう言われて、足に何かが当たる。

 見ると、小石が地面を転がっている。それも1つや2つではない。

 

「なんだ、これ」

 

「ちょっとまずくないですか……?」

 

 小石やそれなりの大きさの石が、先程まで隠れていた大岩に向かって集まっている。

 あれは転がっているというよりかは、引き寄せられていると言ったほうが……ああ、これは。

 

「……確かにまずい」

 

 集まる小石が、大岩に纏わりつく。まるで何かしらのシルエットを形成させようとしている様に見えた。

 これは分かりやすい。ファンタジーのモンスター代表であろう名が、頭に思い浮かんだ。岩を継ぎ足したかのような輪郭は、ずっしりとした胴を持つヒトガタに化していた。

 

「ゴーレムだ。逃げて、逃げて!」

 

「は、はい! ひゃあ!」

 

「レイナ!」

 

 転がる石に躓いたレイナを、手で引いて支える。

 

「あ、有難うございます……」

 

「怪我は無い? 直ぐに────」

 

 

「GUOOOOO……」

「GULLLLLL……」

 

 

「……あ、はは、やっばい」

 

「か、囲まれて……」

 

 レイナを立ち上がらせている間に、人狼たちが集結してしまった。

 先程までは一体しか居なかったはずだが、この短い間でどうして集まったのか……。その答えは、魔力を感じ取れる俺には直ぐに予想がついた。

 あのゴーレムが立ち上がった途端、塞がれていた穴から、まるで口の空いた風船の様に魔力を吹き出していたのだ。それを察知したモンスター達が、この場所に直行したのだろう。ほら、今もこの魔力に誘われて新しく一体やってきた。

 

「打開策は?」

 

「……あの穴に、いえ、でも」

 

「悩む暇は無いね」

 

 前も後ろも、右も左も敵だらけ。上へ飛び立つ翼を持たない俺たちには、もはや下への方向にしか逃げ道がない。もしあの穴の先が行き止まりだろうと、或いはさらなる苦難が待ち構えようと、この状況よりはマシなのだ。

 休眠状態だったゴーレムが、その体で塞いでいた穴。なにもない方がおかしい。しかし、生きるために行かねば。

 

「先に入って中を確認して! 『フャイヤーボール』、『エアーボール』!」

 

「はい! 『アースウォール』!」

 

 ずしり、ずしりと距離を詰めるゴーレムとの間に壁が迫り上がり、逃げ腰を見せた俺たちを機敏に追う人狼達は魔法で迎撃される。しかし壁はゴーレムの一歩により崩れ落ち、人狼は魔法に対して怯んでも、残りの大勢は追い続けて来る。

 苦し紛れの時間稼ぎにもならない攻撃。それだけを置いて、俺たちは迷宮の入り口へと飛び込んだ。




二か月半も空きましたね。
はい、不定期更新の本領です。
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