『魔種』
『魔力に適応し、それ単体で魔法と同じように何かしらの現象を発現出来る様になった物。
それらは生き物、モンスター、アイテム等に存在する。特に魔種の武具は冒険者に強い人気があり、その高い金銭価値はもちろん、彼らの生存や今後の冒険に役立てる事ができる。
魔種となる物にはそれぞれに属性が与えられ、その属性に則した能力を発揮することが出来る。魔力を扱う心得の無い者でも、そのアイテムがあれば魔法使いと同じ様な事が出来るだろう。
主にダンジョン内で発見され、上位の物作りの能力と魔法能力を持つのであれば、自作することも可能である。』
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ある程度逃げた後、レイナに頼んで壁を作る魔法を使わせる。
「壁が壊されなければ良いんですけど……」
壁を幾つか重ねて作り出し、逃げてきた方向を完全に塞ぐ。これで万が一にも追手がこの壁を破ろうとしても、時間はたっぷり稼げる。洞窟の広さも、あのゴーレムがらくらく行けるかと言われればそうでもない。壁を簡単に壊しかねないゴーレムに関しては、今の所考えなくてもいいだろう。
さて、問題を一つ潰した所で、次の問題だ。
この洞窟、魔力の流れが激しい。レイナ曰く、特別大きな魔法を使わないと一瞬で回復するし、使ったとしても一瞬が数秒に変わるぐらいらしい。
「……もしかして」
常闇の森とこの洞窟に……いや、この洞窟の奥に眠る何かと関係があるのかもしれない。
しかし、今の俺たちの目的はこの洞窟の脱出だ。洞窟の攻略をするほどの技量も目的も持ち合わせていない。……ただ、攻略するとしたら、この魔力の流れを辿った方がいいだろう。
「魔力の流れ、まだ感じない?」
「……少し、ですけど、風みたいな感覚がありますね」
レイナがスカートの端を摘まむ。スカートが風によって揺れる様子はない。にも関わらず彼女は風みたいな感覚があると言っている。魔力を感じ取っている証拠だ。
「多分、この魔力は出口のある方に流れてる。さっきの道は塞いだから、今の所上流に行くしかないけど、分かれ道に出たら別の下流に向かおう」
「分かりました。……あ、一応マッピングしますか? マッピングスキルも魔法もないので、簡易的なものですけど」
さっきまで使っていた常闇の森の地図の裏側を見せる。裏側には何も書かれていないから、マッピング用としては良しである。方眼紙だったら楽だったろうが。
「簡単でいいよ。マッピングに集中して互いを見失ったら面倒だ」
「分かりました」
しかし、この洞窟……どうにも洞窟だという気がしない。
まるでトンネルとして掘られたかのように一定の広さで続いている。天然のものであれば、ここまできれいな一本道は生まれないだろう。
ゲームだからそうなっているのか、あるいは天然ではないということなのだろうか。
「普通の洞窟じゃないよね」
「ええ。多分ですけど、ダンジョンだと思います」
「ダンジョン……なるほどね。と言うか、そりゃそうか。ダンジョン以外に何が在るんだって話だ」
そうなると、不自然に見えるこの構造も、なにかファンタジーな力が働いた結果なのだろう。便利なものだ。
「にしては敵が居ないけどね」
「はい。結構歩いてる筈ですが……」
どちらにしろ後ろに行く選択肢はないので、更に歩いていると、分かれ道にたどり着いた。魔力の下流へと分かれる道が2つと、上流への道が1つ。言うまでもないが、俺たちが来たのは下流への道の内1つだ。
「行こう。流れはこっちに向かってる」
「はい」
進軍は順調だった。ダンジョンの探索をするにも、この一本道では探る場所はどこにもない。
「……む、これは」
「どうしました?」
「魔力の流れで感じ取りづらいけど……魔力の反応。多分敵」
目視は出来ないが、敵の気配を感じ取った。
剣を構えて、歩みを慎重なものに変える。向こう側は、こちら側へ真っ直ぐ向かってきているようだ。
「こっちに来る、迎撃するつもりで」
「はい」
ここまで来れば、先制攻撃は容易だった。
「……来た。『ファイヤボール』!」
「『フレイムジャベリン』」
俺の攻撃による炎が敵を照らし、レイナがそれを目掛け炎を投げつける。
無防備だった敵は障壁を貼る事もできず、腹に受けた炎の槍と共に消えてしまった。
「良いね。一方的に攻撃出来れば楽だ」
「これが毎回出来れば良いんですけどね」
地上に居たときよりも気配は感じ取りづらい。きっとこうした先制が出来る機会は少ないだろう。
先手を打たれた時に退避できるように、逃げ道を意識しておこう。
進行速度を遅めつつ進む中、偵察ついでに洞窟を観察してみていたが……。
「洞窟というより……掘り進められた穴?」
「どうしましたか?」
「いや、この通路ずっと水平に進んでるじゃん。それに広さも一定」
「確かに天然って感じじゃないですよね。……そういうものでは?」
「……ゲーム的な?」
「はい」
そう言われるとなんかそんな気がしてきた。
歩きづらいダンジョンなんて、操作性の悪いゲームと言っても良いからな。幾らスキルの補正があったとしても。
「だとしても、それなりの設定があるのかもね。……ん、分かれ道だ」
向かう方向をちゃんと示して、はぐれないようにレイナに注意しながら角を曲がる。
距離はわからないけれど、確実に進んではいる。
「運が良ければ、あとは半分かそれ以下かもね」
「こんなにウキウキしないダンジョンも滅多に無いですね」
「そんな遊園地のお化け屋敷じゃないんだから」
「え、ウキウキしながら歩けるんですか? お化け屋敷」
歩けるが。
「歩けるよ?」
「私はむりです」
「あー」
こっちの幽霊を見たときは相当怯えてたしな。最初だけだったけど。
「まあ、私が守るよ」
「心強いですけど、実はまだまだ数字では私が上なんですよね……」
「む、信用ならないか」
「ならないわけ無いじゃないですか」
ふんすと後ろで怒りの感情を垂れ流しにしているのを感じる。いや何故怒る。
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「ん、大部屋か。広いね」
「わあ、天井が高いです。やぐらも沢山立ってます」
「そうだねえ。やぐらが沢山だ。壁もなかなか立派だ」
……間違いなく厄介な部屋に踏み込んだな、これは。
洞窟の中に要塞だなんて妙なものだが、やはりダンジョンだからという事なのか。
「モンスターの中でこういう事をするのは、ゴブリンぐらいですね」
「なるほど、焼く?」
「全くなるほど出来てないですし焼かないでください。敵の配置は分かるんですよね?」
「まあ一応。あそこらへんが多いとかしか分かんないけど」
魔力から敵の位置を割り出すには、やはり魔力の風が強すぎる。
「じゃあ……私があそこに範囲魔法を打ち込みますね。焼かずに」
「焼かないのは分かったよ。でも、壁越しに?」
「出来ますよ。あまり大きいの使ったら洞窟ごと崩れかねないので、細かいのを何個か投げますね」
なるほど。それなら序に破壊工作もやってもらおう。
「じゃあやぐらの足元にも投げて置いて。その後門の前で陣取って、敵を誘い出して迎撃する」
「良いですね。それじゃあ始めましょう」
そう言って、詠唱を挟みつつも5個程の『エレキテルボム』を投げ込んだ。私の要望通りちゃっかりやぐらの方にも『ロックボム』を投げ、その足元を破壊した。
これで門の前に居座っても、あの上からの遠距離攻撃を受けない。
「ようし、道場破りだ!」
見張りも置かれていない門を蹴り開いて、大声を張り出して敵を呼ぶ。
バチバチと電場が残っている場所の辺りに、数体のゴブリンが倒れている。
小柄で、醜くて、鼻や耳が大きく、序に緑色の身体。ここまで来れば、ゴブリンを見たことのない俺でもゴブリンだと分かる。彼らが取るコミュニケーションも、とても言語とは言えない様な唸り声や叫び声ばかりである。
本能をむき出しに、これだけは文明的と言える立派な剣や槍を持って6匹程襲いかかってきた。
「妨害程度で十分だから右側をやって」
「はい」
詠唱を始めるレイナを背後に、左側に踏み込む。
慌てて防御に回された槍を目掛け、体重を乗せた一振りで柄を両断し、返す刃で胸を切り開く。2匹目のゴブリンが剣を大きく振りかぶるが、タイミングを見計らって回避。軽く反撃しつつも三匹目を警戒するが、奴は一歩引いた所で盾を構え様子を見ていた。
すると右側の方で丁度爆発、ゴブリンがまとめて吹き飛ばされて、砦の中に戻されるか壁に打ち付けられていた。武器も手放している様子だから、しばらくは脅威ではない。
軽い反撃を受けたゴブリンが苦しんでいる様子を見て、とりあえず無防備な首を一突きにして止め。案外ゴブリンというのは脆いようだ。
「奥から弓持ちが来ています!」
「了解」
そう言って盾持ちに目を向けたら、ギャイギャイと騒ぎ始めた。威嚇でもしているのか、その叫び声を合図に攻撃してきた。普通は目を向けていないタイミングで攻撃するだろう。俺は攻撃を剣で受け止め、盾を蹴って退かせる。たたらを踏んだ所で盾を掴み、その横から剣を一突き。力が緩んだ所で奪い取った。
「……なんていうか」
遊び慣れたゲームを、改めてイージーモードで遊んでみた時のようなあっけなさだ。
ゴブリンは小賢しい、ずる賢いという印象を持っていたが、卑怯な手を使う様子はあんまり見られない。
寧ろ馬鹿である。
奪い取った盾で身を守りながら門の脇に避ける。
「レイナ、弓持ちを攻撃。私は妨害してもらった残りを始末する」
「了解です」
次は、いそいそと武器を回収しようとするゴブリンたちを、一体ずつ倒していく。その合間に、奪い取った盾で身を守るのを忘れない。
この一振りずつに軽快な剣撃を体現しておいてなんだが、『剣術』スキルによる補助なのか疑問を覚えるような動作を、違和感なく行えている様な気がするのだ。
それに戦闘中の思考もクリアだ。落ち着いているし、視野も広い。VRとは言え命の危険を伴う戦闘中は、どうしても冷静さを欠いてしまうはずなのだ。敵の武器が恐ろしくてそこに目線が集中したり、大雑把に避けたくなってしまう。喧嘩の経験は無いが、もし俺が現実で戦うとしたら、きっとそうなる。
以前俺は、『悪路踏破』スキルを補助輪の様な感覚と表現した。
けれどこれは、独りでにバランスを取り前進する自転車の様、と表現できてしまう。
下手をすれば、誰かが漕いでいる自転車の後ろに座っている、という表現が……ああ、しまった。何ということか、こっちの表現の方がしっくり来てしまった。
「……最後の弓兵を倒しました」
……まあ、有益な変化であることには、違いないな。今のところは、だけれど。
「まだ数体は居る、けどまばらだね。多分、それぞれの持ち場から慌てて来てるんだ」
気配を感じた方に目を向け、剣片手に走るゴブリンを見つけたので『ファイヤボルト』を放つ。
避ける仕草もせず魔法を受け止めて、奴は倒れた。
「単体だけなら大した脅威じゃないな」
裏手に取った剣で、倒れたゴブリンに突き立てる。
「相変わらず戦闘がこなれてますよね……というか、どんどん動きが的確になってません?」
「スキルのお陰もあるけど、まあ、慣れてきたんじゃない?」
慣れてきたと言うか、冷徹? 今の俺は殺人マシーンである。なんて冗談交じりに言ったら怖がられそうだが。
「やっぱり納得いきません」
怖がられるどころか、なんか怒られてる気がするが。
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ゴブリンが拠点にしていた砦を抜け、また通路を進み続けると、鼻がなにか違う空気を嗅ぎ取った。
洞窟の湿った様な匂いに混じって、草木の香りがある事に気づく。
「あ、外の光ですよ!」
脱出の瞬間はすぐそば。お互い顔を見合わせて、一斉に走り出した。
体内時計はそう経っていなかった筈だが、朝に出発した筈の俺たちは今や夕暮れの暖色を目撃していた。
「出た!」
出た先は、やはり常闇の森の中ではあったが、しかし一帯は木々の無い大広間の様であった。この空間から、気持ち窮屈な運動会が出来るであろう広さが見られた。
「大自然の空気は美味しいねえ」
「はい。……でも、どう出ましょうか」
「それが問題だよね」
高台にでも登って周囲を一望できれば、なんとか目星はつけられるかもしれないが……。
「ねえレイナ。最初に入ってきた辺りから、どんなふうに移動してきたと思う?」
「うーん……南西、ですかね」
森の奥深くに出てきたという訳か。場合によっては反対側を行ったほうが近いかもしれないが、常闇の森の地理情報が詰められた地図は、東側しか書かれていない。森の全体が分かる地図を貰うべきだったと後悔する。
「目印になりそうな大木は無いし、現在位置はわかんないな。魔花を探そうか?」
「そうですね。東に向かいつつ魔花の群生地を探してみましょう。少なくとも2個以上見つけないと現在位置は分かりませんけど」
大変だが、そうするしか無いだろう。
きっと大丈夫だ。問題なくダンジョンから脱出できたのだし、森ぐらいなら無事に出られるだろう。