ウチのキャラクターが自立したんだが。リファインド   作:馬汁

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前回投稿した話の後ろに、新しくこの話を追加しました。


ウチのキャラクター、退く。

『冒険者ギルド』

 

『主要な5つの国で、共通して設立されているのが冒険者ギルドである。

 危険地からの材料調達、安全確保等、今や各地で冒険者による活動が前提として経済が回っている。昔の冒険者は酒場や広場の掲示板で依頼を受けていたが、ギルドの設立を境に、『依頼処』という設備を利用して依頼が受けられるようになった。

 

 主なギルドの目的は、依頼主の求める条件に合わせ冒険者を推薦する事、または冒険者に適切な依頼を与える事で成長を促すというのもある。現在では危険度レベル、必要スキルを定め明記し、冒険者の判断に委ねている。依頼主の判断以前にギルドが受託を却下することはないが、依頼主側が条件を伝えていれば、それに冒険者の受付時に応じることが出来る。

 また、必ず依頼処を通して冒険者に依頼しなければならないというルールは存在しない。あくまでも、通された依頼難易度の評価と推薦を行い、冒険者の活動環境を整えるのが目的である。故に、依頼処を通されていない依頼は管轄外として、責任は依頼主か受託した者にあるとしている。』

 

 

 

 

 今日の依頼内容は、西方の川沿いに確認されたという「見慣れないモンスター」の調査だ。

 

 何やらこの付近で、データに存在しないモンスターの痕跡が報告されているらしいが、そのどれもが曖昧な情報であった。姿を見た、あるいは奇妙な足跡が在る等と。

 そこで依頼処を運営する冒険者ギルドから、そのモンスターを発見せよとの依頼が発せられた。敵対するのであれば討伐し、しかし出来る限りの特徴を拾い出してほしいと指示を受けている。

 

 痕跡の形状から、ドラゴンに由来するモンスターの可能性があると言われているが……、しかしデータ上には一切存在しない痕跡なので、定かではない。

 

 

「ココらへんかなあ」

 

地図を見ながら歩いて結構経ったが、やっとそれらしい所に到着した。ここはどうやら渓谷になっているようで、底では一直線に川が流れている。

 

「……上から見た感じでは、なんもないな」

 

 渓谷の深さも結構なものだ、大自然の凄さというものを感じる。試しに降りて、流れる水の方を調べてようかな。

 

「よ」

 

 ……と、軽い気持ちで飛び降りる。スカートが翻るが、下はショートパンツだから気にしない。ちょっとだけ恥ずかしいが、そんな事よりも着地の準備をしなければ。

 

「『エアクッション』」

 

 空中で短く詠唱。すると落下速度は徐々に緩やかになり、このまま足を地に付けても骨が潰れない程度の速度を維持する。

 風魔法は詠唱者の機動性を高める魔法が多いから、こういった探索で非常に便利だ。翼を持つ事ができるドラゴーナなら、この機動性をもっと活かせる事が出来たかもしれない。

 ああ、なんなら翼を生やす魔法でも考えてみようか?

 

 などと考えていると、柔らかく着地。新しい魔法については後々によく検討するとして、今は調査である。

 

 渓谷は大きく、そして深いが、川の方は細くなっている。端の方を歩けば足を濡らさずに済むぐらいだ。

 

「えーっと。……あれはヤギか。あの禍々しい角は間違い無くモンスターだな」

 

 これは元々ここに生息してるから違う。依頼主から受け取った、この周辺に生息するモンスターの姿絵一覧を流し読みする。

 それにコイツはどう見ても小さい。俺が探している目標は、少なくとも人の体よりも二回り以上は大きい筈だ。

 

「ふーん、垂直に近い崖を登る能力があると。蜘蛛にでも噛まれた?」

 

「メェ」

 

 能力も性格も、この情報通りか。近づいても離れさえしない。のそのそと足元の草を齧っているぐらいで、それ以外は何もする気配がない。

 

「ヒーローの素養は無さそうだね、このアホらしい顔は」

 

 さて、半分動物みたいなモンスターと交流するのはこれぐらいにしよう。あのモンスターの肉には興味があるが、この辺りで野営する予定は無いから要らない。

 川沿いに辿って、足元や壁面に注意しつつ歩き続ける。

 

 

 

 

「見つけた」

 

 敵の姿はまだ見えない。しかし痕跡と思わしき物が見つかった。地面を爪で抉った様な跡だ。

 またポーチから冊子を取り出して、以前の発見者によって書き写された痕跡の模様と見比べる。

 

 深さ、太さ、形状。どれも同じだろう。俺の目にはこの痕跡が真新しい物かは判断できないが……少なくとも、古い物ではないだろう。

 

 こういう物が、モンスターの縄張りの印として残されているという可能性がある。

 

「魔力も残ってる。これを辿れば……」

 

 この魔力の色を覚えて、視界に意識を籠める。……よし、魔力が見えればこっちのものだ。やや遠いが、この崖の底に沿って進めば……。

 

 

「獲物発見。流石私」

 

「……」

 

 目標の姿を発見した。痕跡から見て取れた爪の形状は、遠目からだが恐らくアレと一致している。それを見ずとも、魔力の色からして無関係ではないのは確実なのだが。

 

 さて、どうしたことか。

 まさか本当にドラゴンだったなんて。

 

 銀色の鱗に、金色の眼。紫に染まった翼の膜は、毒々しい紫と言うよりは、美しく華やかな紫という風に見えた。

 今は休憩中なのだろうか、体を丸めて地面に横たわっている様子は、その場で眠りこけている様に見える。

 

「ほー、すごいな」

 

 さてどうしようか。依頼の目的は、対象の討伐、或いは偵察・確認となってる。

 私に敵うかは分からないが、ここから絵を描くぐらいは出来るだろう。

 

 記録用の紙もあるし、絵を……絵を……。

 

「……」

 

 やっぱ文章で良いか。ここから見える特徴をすべて書き出せば十分だろ。このシミにしか見えない様な俺の絵じゃ、写したとは到底言えない。

 

 それで、ここまで書いたら……十分だな。後はコミュニケーションでも取ってみようか。それでダメなら交戦だな。まあ撤退戦とも言うが、あの翼で上空から追われたらに、逃げられそうにない。

 依頼としては、この記録を持って帰れば達成できた様なもんだし。

 

 ……いっそこのまま帰ろうか。

 

「ふうむ……」

 

 と、思い悩んでいると、ふと俺が見つめられている事に気付く。あのドラゴンの顔がまっすぐ俺の方を見つめている。

 流石ドラゴン、視力も良いんだろう。

 

「おはよう」

 

 とりあえず手を振って、物陰から出る。逃げれば相手の捕食本能を刺激するやも知れん。しばらく相手の様子を見るが、立ち上がる様子も無さそうだ。とりあえず好戦的では無いと判断しても良いな。

 

「寝ている所ゴメンね、今は仕事中で、”最近現れた見慣れない姿”っていうのを探しているんだけど……」

 

「……ギァ」

 

 おお、鳴いた。今のは俺の言葉への応答だと思っても良いんだろうか。人の言葉を理解してくれるのは有り難い。

 ならばインタビューを……と行きたい所だが、こっちが理解できないんじゃマルバツクイズになる。諦めて帰還と言うことにしよう。

 

「邪魔したね。私は帰るよ」

 

 

 

 ……とまあ、そんな平和的解決で終われば良かったんだが。

 

「うえ、やっぱり敵対するの?」

 

「……」

 

 戻ろうと踵を返せば、ドラゴンが飛び上がり、俺の進路上に立ち塞がった。しかもあの真っ直ぐな瞳からは、凛々しい意思が感じ取れた。決して退くつもりは無いと。

 

「仕方ない」

 

「ギアアアァァ!」

 

 まるで決闘でも望んでいるようだ。態々立ちふさがりながらも、私が戦闘態勢に入るのを待っていたらしい。

 私が魔力を纏め上げると、敵は再び空へと舞い上がった。

 

「『ボルトフィールド』、『アイスミサイル・スウォーム』」

 

 指定箇所を帯電させ、その中を通して誘導する氷魔法を放つ。『ボルトフィールド』内部では敵を麻痺させるが、氷属性魔法であれば雷属性を纏い弾速も増す。

 放った魔法は飛び上がる敵を追うが、敵はそれ以上に素早く飛ぶ。

 

 剣の届く間合いは取れそうにないな。魔法主体で戦うしか無い。

 

「『ガァッ』!」

 

 おお。確かにドラゴンといえば口からブレスだ。でもこれは火の玉と言った方が良い。距離があれば十分避けられるが。

 

 詠唱短縮のスキルを習得していた俺には、敵のブレスを避けながらの攻撃は問題なかった。だが、敵の飛翔能力は俺の追尾魔法を振り切る事が出来るし、無誘導で放ったとして、十分な弾速が無いと、未来位置を読んで放っても避けられる。

 

「『ライトニングレーザー』」

 

 ブレス攻撃が来ないタイミングを見定めて、右手を差し向ける。その手から紫色に光るレーザービームが伸び、敵を直接攻撃する。これなら弾速が無いから、避けられる心配はない。

 ただ、火力が低い上に魔力もやたら食うから、長続きしない。

 

 敵も回避しようと、上下左右へと軌道を繰り返すが、私は調整して照射を続ける。……少しだけ機動がぎこちなくなった。麻痺効果はあるらしい。

 レーザーを止め、魔力ポーションを一本飲み干す。さわやかな味わいを堪能する魔もなく、すぐ別の魔法を繰り出す。

 

「『ボルトミサイル』」

 

「グア!」

 

 やはりレーザーだと麻痺効果も弱いか。すぐに体の調子を取り戻したドラゴンが、こちらに真っすぐ飛んでくる。

 突撃攻撃が来るか! と大きく横へ動きだすが……敵の足が地面に届く直前で、あの翼が大きく羽ばたいて、急停止する。

 

「わ!」

 

 それだけで放たれた風圧で、足腰を据えていなかった私が吹き飛ばされる。

 

「ギィ!」

 

 まずい、隙を付かれる。回る視界で姿は見えないが、攻撃しようとしてるのは分かる!

 防御! 質量で押し込まれる! じゃあ回避だ!

 

「っ『エアーハンマー』!」

 

 自ら体を吹き飛ばした。多分、敵の攻撃を避けた筈だ!

 地面の向きを掴めないまま落ちて、すぐに顔を上げて立ち上がる。

 

 敵は俺をじっと見つめている。強者の余裕という奴だろうか。確かに不利は不利だが。

 

「……勧められたからって、高難度の依頼を受けるべきじゃなかったな」

 

「……」

 

 一応、近接戦闘に備えて剣を構える。この腕力で相手の攻撃を受けられるとは思えないが……。

 

 

 だが、問題ではない。

 

「来い、ドラゴン。()()()()()()()()

 

 かつて私は騎士だった。誰かを守る事を誇りとしたのだ。

 その身一つ守れないのであれば、私に価値は無かったのだ。

 

 意図せず挑発となった私の決意の言葉に応え、ドラゴンは大きく息を吸い始める。ブレスの予兆だ。先ほどまでの火の玉とは違う

 

「『風に乗って』」

 

「……!」

 

 放たれたブレスは大きいが、加速した私を覆い隠すには遅いし、足りない。

 その加速のまま飛び掛かり、ブレスの無防備な顔を目掛け……。

 

「ハァッ!」

 

 

 パキン。

 

 

「…………え?」

 

 何が……起きた? 右腕がやけに軽い。見下ろすと、根元から捩じ切れた剣があった。本来の三分の一にまで短くなっている。

 

「……いつの間にか折れてる」

 

 これは……、”また”と考えて良いんだろう。

 

 恐らく俺は、この剣でドラゴンを切りつけた。しかしこの有様だという事は、あの鱗は貫けない様だ。

 

「剣による攻撃手段は無くなった、かな」

 

 魔法はどうだろう。現時点の最高火力なら傷付けられるかもしれないが、流石に立ち止まっての詠唱が必要になる。

 

 剣が折れて、ブレスの隙も無くなった所で距離を取ったが……どうしようか。そう思ってお互いの様子を見合っていると、「ギァ」と敵が一鳴きして此方を睨んできた。

 

 いや、睨むという眼差しではないな。

 これは……。

 

「グア」

 

「いや、わかんないって」

 

 戦闘の最中に会話というのも変だろうに。だというのに、敵は何もせずこちらを見る。相手の敵意が失せていくのが分かって、自分も剣を収める。……歪んでいて鞘に入らない。

 

「はぁ、捨てるか……。で、どういうつもり? 戦う気はもうないの? 頷くぐらいはできるでしょ」

 

 ……本当に頷かれた。

 

「本当に……? なんのつもりかは知らないけど、今戦わないなら、今日は帰りたいんだけど」

 

 一対一だと詠唱時間の確保も難しいから、魔法での討伐は現実的じゃない。細かい魔法を連発しても魔力が持たないし。勝つビジョンが見当たらない。

 だから帰る。相手も敵意が無い様だし。

 

「グエ」

 

「うーん……。本当、意味わかんない。もしかして腕試しでもされてた?」

 

 すると頷かれた。合ってたらしい。……言葉を交わせれば多少は理解できるんだろうが、腕試しの意図や理由が全く分からない。

 

「うう、意味わからん。とりあえず私は帰るよ。ドラゴンさん」

 

 帰り道は背中に受ける目線は、谷を出るまで続いていたものの、その間モンスターに襲われる事は全くなかった……。

 

 

 

 

「という事があったんだよね」

 

「そうなんですか」

 

 都に戻ってきて、レイナに近況報告という感じで今までの事を話した。特に彼女に知ってもらう必要は無いけれど、世間話のようなものだ。もちろん、一時的な記憶の欠落と、その間にあったと思われる出来事については隠している。というかそもそも覚えてない。

 

「あの、二つぐらい言いたいことがあるんですけど」

 

「なに?」

 

「ケっちゃん、このゲーム初めてから大体一、二週間ですよね?」

 

「うん、ここの時間で一,二週間」

 

「なにドラゴンと渡り合ってるんですか」

 

 だって向こうからけしかけて来たんだし。私悪くない。

 

「手加減してくれたんでしょ。多分」

 

「普通こういうのは、スライムからゴブリン、それから色んなモンスターとの戦闘を経験して、その果てにドラゴンですよね」

 

「まあ」

 

「……分かってませんね。もう良いです、ケっちゃんは何時になってもケっちゃんなんですから」

 

 確かに呆れられる様な物かもしれないけど、レイナちゃんなら分かってくれる筈……だと思っていたんだが。

 

「二つ目に、ドラゴンに遭うのが分かってる依頼をどうして選んだんですか? 流石に無謀だと思いますよ」

 

「ああ、それは受付さんに勧められてね」

 

 連日依頼をこなしてたら、いつの間にか受付さんに顔を覚えられていたのだ。それもあって、最近は都合がよさそうな依頼を見つけてくれる。

 

「え?! それは絶対に何かの間違いです!」

 

 なるほど。

 

 まあこれに関しては賛成だ。どう考えてもこの依頼が俺に見合っていたとは思えない。幸い生き残ることはできたんだが、運が無ければ俺は今頃、現場に幾らかのアイテムと現金を置きざりにして、ついでにステータスにもペナルティが与えられていた。

 

「分かってないみたいですけど、受付さんが依頼を勧める時にもちゃんと責任が発生してて、もし間違った判断をすれば大きな処罰が与えられるんですよ?!」

 

「詳しいね」

 

「実際に見たんです!」

 

 という事は、何も考えずに勧めたという訳じゃなくて、依頼を別の何かと取り違えたとか、人違いとか、そういう理由があったのだろう。

 責任問題を気にして、いくら慎重になったとしても、ケアレスミスというものは起きるものだ。

 

「とにかく依頼処に行きますよ! こういうのはハッキリしないと!」

 

「えー」

 

 

 

 

「……そういえば、あれで何回目だったっけ? 多分5は越してる、筈」

 

「どうしました?」

 

「ううん、いや、なんでもない」

 

 ああそうだ、それと剣を買わないと。また彼女の工房にでもお邪魔するか。

 受付さんの必死な土下座の後に渡された報酬で、意外な額が懐に収まっている事だし。

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