ウチのキャラクター、出会う。
『ミッド王国』
『5つの国は、東西南北とその中央に位置している。
その中央に位置するというのが、このミッド王国である。
この国は、他国全てと面すると言うこともあり、それぞれの国に分かれて分布しているエルフ、ドワーフ、ドラゴーナ、そして人間が入り混じっている王都の大通りを目撃することができる』
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自前情報では、そう聞いていた。
そして実際にも、そうだった。
どうやら俺は噴水のある広場に出てきたらしい。吹き上げる水の匂いが、やけに涼しげだ。
感覚が殆ど再現されているこの世界。足を踏みしめれば石畳の感触が返ってくるし、空から差す太陽の光は、肌の上から温かみを伝えさせてくる。
「すごい……」
あの文面通り、エルフにドワーフにドラゴーナに人間と、やや人間の割合が多い気がするが、概ね均一に入り混じっている。
街並みに関しては、現代では全く見かけない構造物ばかり。歴史の教科書にあるモノクロの写真資料に、少しばかりのデフォルメとファンタジーを加えて色付けた様な街並みが見られる。
感嘆して思わず出た言葉に、思わず喉を抑えてしまった。
「……!」
声が出た。しかし男の声ではない。
この姿の性別は女。なれば、その喉から出て来るのは女声。
なるほど、この『ケイ』は、こんな声をしていたのか。なんて思う事はない。この様な声を設定出来たのは、キャラクタークリエイトの機能の一つによるお陰である。
「あ、あー……。完全に女の声だ」
またまた感動してしまった。
うむ、すごい。新体験だ。ボイスチェンジャーだとか言うレベルではない。
試しに俺は、簡単な言葉を何回か声にしてみる。
「俺……いや、違う。私はケイ、今は女で、随一の大魔法使い。……あ、魔法剣士か」
とにかく、私はケイである。
その事を何度も認識して、その事に何度も感動していると、ふと視界がぐらついて、バランスを崩す。
「う……く」
なんだか気持ち悪い。
一体なんだ? 乗り物酔いに似ている気がするが、そもそも乗り物などには乗っていない。
頭がフラフラとするのを、噴水の端を掴んで抑える。
そこまでして、そういえばと、説明書の一文を思い出す。
「VR酔い……」
その説明書によれば、これは一時的なものらしい。と言っても、これがいつまで続くのかまでは分からない。
まずは落ち着きたい。そう思って、目に付いたベンチへ向かった。
この世界は、見れば見るほどに精巧で、現実じみていて、しかし現実世界ではなく、そこには魔法が実在していて……。
とにかく、すごい。
……しかも俺は、その魔法を使うことができる
「VR酔いも少し落ち着いたか……。えっと、『ステータス』」
目の前に、半透明の板が出現する。そこに記された情報が、俺の能力値を示している。
職業、魔法剣士。スキル欄も呼び出せば、その職業に相応しい程度のスキルが複数並んでいた。
戦う分には不足はないだろう。下級のモンスター相手に限っての話だが。
戦うといえば、初期の装備として安価な武器防具が与えられているようだ。
ついさっき気付いたが、腰には短剣が鞘に収まっている状態で固定されているし、ポーチの中には回復薬があった。
防具も、申し訳程度の物だったが、ある。
それと、もう一つ。
チュートリアルノートと表紙に書かれた本。これもポーチの中に入っていた。
チュートリアルと言うのであれば、説明書をちゃんと読むぐらいの慎重派である俺が無視する訳には行かなかった。
相変わらずベンチで寛ぎつつ、ノートを開いてみる。
目次。この世界について、システムUI関係の使い方、アナタの身体、スキルの使い方、戦い方……。
情報量としては多くもなければ少なくないが……。
「こんにちは!」
「え?」
すぐ横から声。そこへ振り向くと、何時の間にか少女が隣に腰掛けていた。
晴天の青空のように青い髪をおさげにして、魔法使いっぽい格好をしていた。
ただ単に魔法使いと呼ぶには可愛らしい、女の子らしい装飾が多かったから、どうしても“ぽい”と後ろについてしまう。
そんな少女だった。
「あ、こんばん、は」
何故だか緊張して、挨拶の一声さえも喉に詰まる。しかも出てきたのは夕方以降の挨拶。
この喉から出てくる声が女の物だからか、それとも相手が女の子だからか。
それとも、この身体と
「もしかして初心者さんですか?」
「え……っとー」
俺らしくもなく、目を泳がせる。
いや、落ち着け。今の俺はケイだ。彼女ならどう答える?
答えるのは俺じゃない、私だ。
「……うん。初めてここに来た。凄いね、この世界」
自己暗示のように自分自身に訴えかけると、不思議と言葉が喉から出てきた。
はて、俺には演劇の才能などあっただろうか。
目の前の少女は、「やっぱり!」と言わんばかりに頷いた。
「って事は、VR自体初めてだったんですね! VR酔いの方は大丈夫でしたか?」
「うん。今落ち着いた所」
「それは良かったです! 私も一番最初は辛かったですけど、後はまたログインし直しても大丈夫なので、安心してください!」
……純真無垢な笑顔とはこの事だろうか。俺には眩しく見えて、思わず目を逸らした。
「心配してくれてありがとう……」
「いえいえ! あ、そうだ。私の名前はレイナって言います! 魔法使いですけど、ポーション作製も兼ねてますっ」
「私はケイだよ。駆け出し魔法剣士って所かな。よろしく、レイナちゃん」
「はいっ。よろしくお願いします、ケイさん!」
元気の良い返事が返ってきて、目の前の少女から滲み出る若々しさに目を逸らしていると、ふと「何がよろしくなんだろう」と疑問に思う。
これから彼女に、何かよろしくされるのだろうか?
「それで……何か、私に用事があるのかな?」
用事がないのであれば、このままスライムなりゴブリンなりを手慣らしに狩るつもりだが。
「あっ。い、いいえ! 特にこれといった用事はないんですけど……」
「?」
それにしては、何やらモジモジとした様子。
頰を紅く染めて、目線は地面と私の顔を行き来している。
まるで告白目前の葛藤でもしているかの様な振る舞いだが、実際にはなんなのだろうか。
なるべく穏やか表情を維持して、彼女の言葉を待つ。
「そ、その。お友達になってくれると……」
「友達?」
ともだち。
なるほど、ともだち。
……え、大丈夫か?
彼女の頭というわけではなく、私という存在が友達になるということに対してだ。
「その、こちらでは女の子の友達が少なくて……もし良かったらで良いんですけど、ど、どうか……」
要するに女の子の友達が欲しいらしい。
彼女は、この
そう、この
どうしよう。
これは、「中身の性別は違うのでご期待に添える事は出来ない」と辞退するべきか。しかしやんわりと断ったとしても、彼女の表情が曇ってしまうのは間違いない。
どうすれば良い。どうすれば良いのだ。
付き合いの長さは短いどころか、数分もしないぐらいだ。
お互いを全く知らないに等しい現状で、お友達になると言うのはお互いにとって良い結果をもたらすとは思えない。
だがあの表情を見ろ。心配そうに、じっと俺の返事を待っている。
あの少女は、見知らぬ女性に声をかけ、お友達のお誘いをする程の勇気を振り絞ったのだ。
これを断る事が何を意味するかは、分かっている。
「……私じゃ、ご期待に添えられるか分からないけど……」
気付けば、言葉は勝手に出ていた。
悩みに悩んでいる俺に、痺れを切らしたかの様に、口は言葉を紡いでいく。
「キミが望むなら、友達になるよ。私、そんなに友達付き合いには自信ないけどね」
ああ、言ってしまった、口に出してしまった。
OKの返事が出てしまった。
ケイの正体は俺だと言うのに。俺だと言うのに…………!
しかし俺は、彼女の期待を裏切る事なんて、出来ない! 出来なかった……!
「……!!」
……ああ、目の前の少女の笑顔を見ろ。
俺は、あの笑顔を守ったのである。
俺は守りきったのだ。
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……俺は、初ログイン最初の10分で何をやっているのだろう。
お互い『友達の証』と呼ばれるカードを交換する事になったが、これはレイナの手伝いもあって、俺でも滞りなく出来た。
このゲームでは、お互いのカードを交換する事でフレンド登録がされるらしい。社会人がよくやる名刺交換を想像させる方法で、どうにも友達になる為の儀式としては微妙に思えた。礼節というものが無い分幾分か楽か。
対してレイナは、非常に楽しそうにカード交換をしていた。俺が乗り気じゃなかった事には気づかないほどに。
「あの、よろしければ、何かお手伝いしましょうか? 一番最初の頃は大変なので、私程度でも少しは助けになると思います!」
フレンド欄に載っている『レイナ』の名前を見つめていると、横からそんな提案が飛んでくる。
「そんな、悪いよ。外に出て、ちょっと戦い方の確認するだけだし。ついでにレベル上げも」
「いえいえ、親睦を深めるついでですよ!」
俺の手慣らしに付き合わせる必要はない。
そう思ったのだが、レイナは俺の遠慮に構わず付き合うつもりらしい。
「まあ、それでも一緒に居たいなら、止めないけど」
「い、一緒に……、お、お友達なので当然ですよ!」
当然の事らしい。俺も友達と言うものをあまり良く理解していないが、そう言う事なのだろう。
それに、見たところ善意と友達としての期待から来る提案の様だし、断るのもレイナを落ち込ませてしまいそうだ。
……そうだ。ついでだ、早速“先輩”に質問してみよう。
「そうそう。ちょっと質問いいかな、レイナ先輩?」
「せ、先輩?」
「うん。私よりもこの辺りに詳しいでしょ? 何処か、良さそうな所はあるかな?」
「先輩……私が先輩……えへへへ」
ダメだ、聞いちゃいない。
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王都を出てしばらく歩くと、道の外れの所々にモンスターを見かけるところまで来た。
遠目に見ても分かる。スライムだろうか、不定形の水色がのっそのっそと地面を這っているのが見える。
「魔法剣士さんなら、もう少し先に行っても良いと思いますよ。この辺りのモンスターは、本来戦闘しない職業の方が、改めて戦闘スキルを習得したい時ぐらいしか用事がありませんから。あとは材料ですね」
ふむ。
スライムは生産職の戦闘訓練に良いという事で覚えて良さそうだ。
「なら、無視してもっと奥かな?」
「そうなります。あ、私は伐採場周辺がちょうど良かったですね。タイミングが良ければ、木こりさんが周囲の安全確保という依頼をしてくれます。その時は報酬がちょっと出るのでお得ですよ」
「依頼か。そういえば依頼処っていうのがあるんだっけ」
「カフェ兼居酒屋兼交流場って感じのところですね。王都の依頼処は凄いですよ。周辺の村や町、そして他国の依頼さえあるぐらいですから」
「ほん」
「今度私たちで行ってみましょう。……あ、ここから左です。馬車がありますよね、あれが丸太を運んでいる馬車です」
つまりあそこらへんが伐採場というわけだ。
寄ってみると、なるほど確かに切り株やら草のない土やらが見つかる。今も木を切り倒しているのか、倒れるような音が時々聞こえる。
「木こりさーん!」
レイナが突然大声を張り上げて、この視界には見えない彼らを呼びつけた。
……しかし、ちょっとばかし待っても誰も来ない。ちょうど忙しい所に来てしまったのだろうか。
「来なさそうだけど」
「そうですね。……うーん、まあ、木こりさんから報酬を頂くのはついでですし。このまま狩りに出かけましょう!」
「うん、そうしよう。あ、森の中で迷わないようにしないと」
「大丈夫です! 帰ろうと思ったら太陽を頼りに東に行けば良いので!」
「頼もしい。じゃあ、ピンチになったらよろしくね? 頼りにしてるよ」
「ケイさんこそ、頑張ってくださいっ!」
天使だろうか。しかし彼女は魔法使いである。
魔女の三角帽子が彼女の歩調と共に揺れるのを見て、俺も横に並んで森の中への歩みを始めた。