『第二章 第一節』
『私は旅に出た。女の身ではあったが、剣術の才能が見込まれており、前世の私が騎士だった歴史を辿る事は可能だった。……が、私はそうしなかった。
我慢できないのだ。私がこうして時間を巻き戻したのは、彼女に会うためだ。本来の歴史とは違う道に辿るが、そもそも私の性別が変わっている時点で、その心配は一切無かった。
とにかく、私はあの村へ向かう。彼女と出会った村だ。路銀は少ない上に、遠い道のりだが……きっと、再会して見せよう。
死別してから約40年、その日、私は世界を巻き戻した。そして2度目の誕生を迎えてから15年。それだけの年月を経たが、今でも彼女の顔が、忘れられない。』
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出会う敵を薙ぎ倒し、奥へ奥へと進んでいく。
洞窟の様な凹凸ばかりの壁面は、ある所を境にレンガ状に舗装された壁へと変わった。
「如何にもなダンジョンになってきた、気を引き締める様に」
「どうせ戦うのは私だけだけど。でもこの様子だと、トラップも警戒しなきゃいけないかな」
「あ、それならワタシに任せるのデス!」
「そうだな。ケイ君の『魔力特定』では物理的な罠は見破れないだろう。キャットなら罠の知識がある。キャット、先導してやれ」
「任されたのです!」
喜びを隠さないまま、キャットが俺の前に出てくる。
環境が変わったが、魔力の感覚は変わらずだ。むしろ魔力の流れが強くなっているように感じる。源流に近づいている証拠だろうか。
「あ、見てくださいデス! ……ジャーン、隠し扉デスよ!」
「おお、さっそく見つけたか!」
キャットがペタペタと壁を触ると、おもむろに引っ張りだす。すると壁が、まるで扉の様に開かれた。
「……あの? 隠し扉じゃなくてトラップを探すんじゃなかったんじゃ?」
「トラップも隠し扉も似たような物なのデス!」
ああ、そう。
二人の後を追って、壁に偽装されていた扉の中に入る。
見る限り、保管庫の様な内装だ。
壁一面に並べられた棚には、幾つもの本が置かれている。これは魔法書か? 魔法書以外にも理論書があるが……。『魔力固定化の可能性と、魔力固定化による肉体の再現性』。……これは、アイツらに成る方法だと思っても良いのか? 俺はまだ幽霊になりたくないぞ。
「こういった書物の価値は、荷物の占有面積に対して高い。回収していくぞ」
「あ、この魔法書欲しい」
「良いだろう。そちらに渡しておく」
俺も割と美味しい。始めの所をパラパラと読んでみるが、今までのものと比べてかなり難しそうだ。手に取って表示されるステータス制限も、余裕で俺の3,4倍は行ってる。
「この感じだと、剣とかの魔種武器は無いかな」
「うむ、魔法やそれに関連する物が多い様だ。お望みの物は得られそうかな?」
「残念ながら」
魔法書も中々美味しいが、やはり男の子としては最強の剣と言う物に惹かれるのだ。
「そっちの方は?」
「うむ……これ以上目ぼしい物は無い。次に行こう」
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それにしても、このエリアからはなんとなしに生活感と言う物が感じられる。言い換えれば、人の気配があると言えば良いだろうか。
ダンジョンの奥に住まう人間なんて考え難いが……もし存在していたとして、友好的な存在だと助かるが。
「なんだ、コイツ」
そう思って進み、出会ったのが見慣れない姿のモンスターだ。シルエットだけ見れば人の姿だが、目や鼻といった器官が奇妙なことになっている。失敗した福笑いとでも言っておこうか。
「質素だが、普通の服を着ている分、薄気味悪いな……」
「敵対……はしないデスね。そもそも認識していない様デス」
歩調もゾンビの様にふらついている訳でもなく、至って普通の歩調だ。しかし通路沿いに歩くだけで、試しにと前に立ってみるが、立ち止まるだけだ。離れるとまた歩き始める。
「……無視しよう」
「無難だが、しかし警戒は解かない様に。行こう」
また進むと、今度は隠されていない扉を見つける。キャットに罠の確認をしつつ開けてもらい、侵入する。
この部屋は……研究室か? レイナが使っていた様な調合器具や、その他の見慣れない道具が備えられている。棚には材料だと思われる物が置かれている。
「無人だ」
「この部屋も当分使われていないのデスね。あの棚なんて埃だらけなのデス」
「そうだな。漁って見るか」
「……宝探しと言うより、空き巣なんだよなあ」
間違いなく、ここには誰かが居る。モンスターではない、人間の様な存在が。それが今もここに居る可能は十分ある。
「ねえ、ここって誰か居る……と思うんだけど。 さっきの保管庫は埃とか溜まっていなかったよね」
「安心しろ。先程の保管庫は完全に密閉されていた。対してここは……あそこに通気孔があるだろう? 少しでも空気の流れがあれば、埃の発生源から埃が舞う。発生源と言うのが主に布や生き物の老廃物だな」
「よく知ってるね……」
「知恵は力だ。分野によって必要な知恵も変わるがな。人体の急所も、身体の仕組みを知れば分かるものだ」
「ふうん」
「ケイ君も勉強してみると良い」
確かにこの世界は現実と物理法則が同じだし、同じ様に作用してくれるなら現実の技術を活かせるかもしれない。まあ、魔法っていうイレギュラーはあるが、それを発動しない限り法則は現実と同じ筈だ。
「勉強ね、考えておこう。……キャットの方はどうしたの?」
「この通気孔、多分他の部屋と繋がっているのデス」
「分かった、いざという時に備えて覚えておこう。男でも入れそうな大きさだしな。……そうだ、ケイ君。貴重な材料が幾らかあった、ご友人へのお土産にどうかな?」
「有り難く貰っておく」
レイナの事を知っているのは今更か。部屋を出て、また通路を進んでいく。
「それにしても、無いね。罠」
「あるのデスよ」
「はい?」
「けれども稼働していないだけなのデス。恐らく老朽化か何か……特に珍しい話でも無いのデスよ」
「ああ、なるほど」
それほどに古い施設なのか、ここは。確かにこんな地下深くだ。地層が積み重なる以前の時代からある遺物なのだろう。
「と、またまた奴の登場だ。相変わらず通路を漂っているな」
失敗した福笑いがまた居た。この調子だと、このエリアの探索で何度も会う事になりそうだ。
……そういえばコイツ、魔力の色が見えないな。生きていないのか?
「ねえ、コイツ心臓あるの?」
「興味深い疑問だな。拘束して脈と呼吸を確認してみるか」
あ、早速確認するのね。何処からともなくロープを取り出して行動を始める二人に任せて、自分は後ろで待っている。
「よし、力も弱い様だ。最低限の拘束でいいだろう。キャット、どうだ?」
「んー……息も脈も無いのデス。魔力で動いてるのデスかね?」
「コイツからは魔力の色が見えない。ただ無色の魔力で動いてるのか……どうだろう。魔力の流れが強いから、コイツ自身に魔力があるのか分からない」
「ふむ。魔力も脈も無しに動いているとなると、機械人形という事になる。しかしこのエリアの特徴からして考え難いな。無色の魔力で動いていると仮定するのが良いだろう」
それもそうだろうな。……でも仮定で終わると、どうも気持ち悪い。試しに、こいつから魔力が感じられないか集中する。
…………まあ、分からんか。川の下に埋もれた湧き水の口を探すような物だ。
仕方ない、諦めて……ううん?
「待って……色だ。モンスターか、人が居る」
「警戒だ」
「にゃ」
今までモンスターから見てきた魔力の色とは、どれも違う。別の種類か?
常闇の森に居るモンスターに加え、ゴブリンが居た。他に何が出るのか。
「来る」
近い。そう思った頃に、空間から敵の姿が現れた。
気配を感じ取った方向から現れた霧状の物が集まり、形を作った。……その姿は、恐らく人型だ。共にローブも身を包むように生成され、性別さえも曖昧に見える程度には身体を隠していた。
「これは……」
「ふむ、あの幽霊とは違う様だ。しかし本質は似ているのかもしれないな」
「ま、魔力の量が段違いなのデス……」
この環境でも分かるほどの、魔力の量。警戒に値する物だ。
俺たちに敵うだろうか、という疑問を抱き、思わず退路を意識した。
「地上の人間か」
喋った。奴が喋った。いや人なら喋るかもしれないが、人の形をしているモンスターだと決めつけていた俺は驚いた。
だがこれなら好都合かもしれない。意思疎通が出来る可能性があるのだ。
「……キミ達は地底人か何か?」
「そうか、この聖域も遂に知れ渡ったか……」
「なるほど、話を聞かないタイプか」
意思疎通は期待しないでおこう。
しかし聖域とは。邪神を信仰しているならば、このダンジョンを聖域と呼ぶかもしれないが……。
相手は動かない。しかし、何やら魔力を手繰って何かを作り出そうとしている。攻撃するつもりか? 反撃できるように、俺の方でも魔法の用意をする。
「私達は死者だが、永遠の命を得た成功者でもある。しかしその成功も、『心臓』無しでは為せなかった」
「心臓?」
見た目に反してお喋りな様だ。聞いてもいないのに妙なことを語り始めた。
「邪神の加護をその身に受け、奈落の如く深い眠りにつく男が居た。その加護は、聖なる魔力を世界に広げる力を持つ。その魔力を送る、血管とも言うべき役割を果たすのが、この聖域なのだ」
……何気に重要そうな内容。言葉をそのまま受け止めれば、”邪神の加護を受けた男が、この魔力の源流”だという事になる。
しかしこれの何が聖なる魔力だというのか。常闇の森の状況を見れば、その魔力が生態系を狂わせているとすぐに分かる。
「ほう、心臓と血管か。……実に興味深いな」
「地上の人間の欲望は、底知れない。やはりお前らも、心臓目当てに来たのだろう」
「その通りだと言ったら?」
おい?
「お前らの血肉を神に捧げよう」
「仮面バカ、喧嘩を売るんじゃない」
「む、バカとはなんだ」
バカはバカだろう。
相手の行動に備え、剣を構える。
「ま、魔力が大きくなっていくのデス!」
一瞬だけ敵が大きく見えたのは、急激に多くの魔力を吐き出されたが故の錯覚だろうか。その大量の魔力は、今まで感じたこと無い様な密度と質量だった。
「とんでもない魔力……!」
「『──────』」
直後、とんでもない力を感じ取って、大きく後ろへ飛び退く。
……が、何も起きない。
気付けば先ほどまで対峙していた筈の奴は消えていて、魔力もいつも通りの様子に戻っていた。
「……一体何を?」
「魔力を見る限り、何にも異常はない……と思う。あれで何もしていないとは思えないんだけど」
「ケイ君は奴に勝てるか?」
「え、無理。私が生後2週間なの知ってるよね?」
「生後2週間だとは思えない強さなのは知っている。……ふむ。ここは撤退するべきだな。これ以上の進行はリスキーだ」
バブーバブーと鳴きつつ一閃でモンスターを切り捨て、詠唱の一声で敵を吹き飛ばすのは確かに変かもしれないが。とにかく撤退に関しては俺も賛成だ。
「一応急ごう。時間が経つごとに不利になるような仕掛けでも発動してたら、厄介だから」
「うむ。了解した」
嫌な予感がする……。
この予感を確信とさせる証拠を見つけ出さんと、周囲の魔力に集中する。もし取り返しの付かないことに繋がったら厄介だ。
……ああやっぱり、早速なにか聞こえる。これは、足音?
「なにか走ってくる……って、福笑い?!」
思わず福笑いと称した、顔面のパーツが崩れた人間。さっきまで通路を彷徨いていただけだが、今は俺達に向かって走って来ている。
「『エアーブロー』!」
キャットの一声で、足元を掬われた福笑いがすっ転ぶ。今なら落ち着いて……。
「『ストーンジャベリン』」
敵の頭をを串刺しにする。それで敵は動かなくなった。
「はぁっ……間違いなくアイツの仕業だ。この福笑いは奴の操り人形か何か?」
「そう考えて良いだろう。それに、他の人形共も同じ様に襲いかかってくるだろう。……少し足を止めることになるが、新たにペットを召喚したい。良いか?」
「良いよ、なるべく早く」
「努めよう」
「それでは……」
詠唱に入った仮面バカを守るべく、その側で周囲に目を配る。新たな敵が来るだろうと、守れる位置に移動して……何か足に違和感のある踏み応えを感じる。
「屈むのデス!」
「かがっ!?」
言われた通りに……いや、転んだと言った方が近いが、とにかく背を縮めると頭上を何かが通っていった。
「トラップが起動したのデス……!」
「帰りは簡単に行けそうに──」
「次は頭上から何か来るのデス!」
「ああもうひっきりなしに! 頭上ってどこ?!」
「通気孔デス!」
通気孔って言うと、まさか……。
周囲を見渡す。丁度、仮面の奴の近くに通気孔があった。丁度今、そこからアイツが這い出て来て……。
「バカ……!」
仮面のバカに駆け寄る。アイツは仮面のバカを挟んで反対側、剣を振るに振れない。庇って、吹き飛ばす。
「ぐ……ケイ!」
「ちゃんと周りを見……あ、コイツ────」
……ようやく気付いた。コイツから感じられる強烈な魔力が、今にも破裂しかねないほどに密度を増している。
標的を俺に変えたコイツは、俺との距離を、近くに留めるために、俺の腕を掴んで、
誰かを庇い、代わりに自らが犠牲になる。……なんというか、聞き覚えのあ────
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────意識が戻ってきた時、同時に苦痛が全身を襲った。耐えきれない訳ではないが、慣れようとも慣れきれない痛み。
だが、それが意識を覚醒させる鍵になった。
「うぐ……つぅ」
「無事か、ケイ!」
「い……たいなあ、もう。最悪の目覚めだ……」
目覚めに水を差されるとか、凹凸しかない岩場で寝ていたとか、そういう物の比じゃないぐらいだ。
頭を振って、周囲の状況を確認する。
すぐ近くには、爆発か何かで砕かれた地面。その反対側に、仮面を身に着けた男。その側に駆け寄る、猫耳の女の子。
「獣人……」
「ケイ、ダメージは?」
「……まだ動ける」
身体の調子を確かめつつ、立ち上がる。
「何があった? 私は……」
「福笑い人形が爆発した。奴ら、特攻してから自爆する。厄介だぞ……」
フクワライ……。
「……状況は、良くないみたいだね」
何故か空気中の魔素が一方向に吹き荒れている。しかもこの魔素、あんまり良いものではなさそうだ。
「行くぞ、召喚の為に立ち止まれそうに無さそうだ」
「召喚? それって……いや、この様子だと違うか」
「何を言っている?」
「いや、なんでも。……どっちに向かえば良い?」
「魔力の感覚が鈍ったのデスか? この方向、魔力の下流に向かうのデス!」
その方向か、そっちに向かえば良いのか。
……分かった。
「うん、感覚も大丈夫。問題ない、すぐに動こう」
目覚めたばかりの私が置かれている状況は、少なくとも平穏と呼ぶ事は出来そうに無かった。
古い奴の方が面白い気がしてきた。
展開を丸々変えるかもしれない。そもそも、掛け合いとか、細かい描写とか、そういう書き方がつまらないのかもしれないが。