ウチのキャラクターが自立したんだが。リファインド   作:馬汁

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ウチのキャラクターと俺の、求める記憶。

 ──ケイだ。

 

 

 

 銀髪のポニーテール。灰色の短めのマント。白いシャツの上に重なる蛇革の防具。

 間違いなく、彼女は”ケイ”だ。それに装備を見るに、さっきまで俺が使っていた”キャラクター”と同じだと思って良い。

 

 どうして光と共に現れたのだとか、まるで意思を持ったように……いや、自立して動き、そして俺を警戒しているのだとか。疑問はある。

 ただそれ以上に嬉しかったし、打算と言う目線から見れば、記憶の手がかりとしての証拠人は俺に期待を抱かせてくれる。

 

 出会って早々、剣を向けてはモンスター呼ばわりしてくれているが、でも嬉しいのだ。モンスター扱いには理解の余地が十分あるのだし。

 

「キミ、私の知り合い?」

 

 最初は警戒を露わにしていた。しかしモンスター扱いよりはマシになった様だ。でなければ言葉を交わそうとしない。

 思わず彼女の名前を呼んだのもあるだろう。無意識ではあるが、命を拾った。

 

 質問に対し、どうなのだろうと悩む。一方的に知っているだけで、”ケイ”が俺を知っている訳がない。

 

「どう返答すれば伝わるのか判断付かないが……お前は何をやってるんだ?」

 

 俺が考え込んでいるうちに、ケイは答えを待たずに剣の柄を握りしめた。彼女が持つ剣ではなく、あの散々放置していた剣だ。

 ……俺の警戒とは何だったのか。と思える程あっさりと引き抜いてしまう。

 

「剣を抜いてる」

 

「行動じゃ無くて意図を…………いや、魔力をどうにかしに来たのか」

 

「なんだ、知ってるんじゃん」

 

「まあ……言っておくが、俺はただ警戒して、剣を抜くかを保留していただけだ。何かあれば、この身体じゃ何も出来ない」

 

「ふうん……。それで、さ」

 

 な、剣の事はどうでも良いのか……? そうと言っているかのような態度で、何かを促すように俺を見る。

 

「……何だ?」

 

「最初の質問。なんで私の名前を?」

 

「ああ、そうか。そうだったな……。とりあえず、俺はお前を知ってる」

 

「簡潔だね、でも曖昧」

 

「言葉が見つからないんだ……」

 

「怪しいヤツ」

 

 もう一度言葉を探してみるが、ケイと俺の関係を言い表す方法はとても少ない。ケイの創造者だ、などと言う気が無い今は、何も言えない。

 

 そういえば、ケイの口調や声は、俺の想像していた物と殆ど同じだ。ケイの方を見れば、武器防具を例外としても、あのノートで見た格好と全て同じもの。

 確かにあの姿をこのアバターに写したのは俺だが、瓜二つと言っても良い。

 

「じゃあ質問を変える。キミって人間? この世界の人って人形みたいな姿が普通なの?」

 

 これも説明が難しい。プレイヤーにとっては、確かキャラメイキング中の仮の姿として一度は経験している筈だ。

 だが普通では無い。この世界に降りた時点で、彼らは既に姿身を獲得している。NPCを含むのであれば、間違いなく一般的な姿では無い。

 

「何というか……とにかく、元人間だ。気絶して、起きたらこうなった。一部の人間にとっては、真っ白な姿の人形というのはある程度馴染みがある筈だ。自分の姿になるとなると、難しいが」

 

「へえ。……やっぱりよく分からない」

 

 人間社会の中に、俺のような人形は馴染めないだろう。ツルツルプラスチックスキンで身を包んだ俺としては、声が戻って来た事の方に歓喜している所だ。……人間の身体に備わっている筈の器官は、どれもこれの備えられていない様だが。

 呼吸の感覚も、呼吸による肩や胸の動きもある。……そう考えると一層謎だ。

 

「……狂暴化の様子もなさそうだ」

 

 狂暴化? 俺の何処が狂暴だと言うのだ。これでも俺は温厚で静かな性格で有名なんだぞ。友達居ないが。

 

「どういう事だ? 狂暴化?」

 

「悪しき魔力に蝕まれ、意識は狂気に塗り替えられて、その姿は悍ましい何かに変貌する。これは似てるけど……」

 

「……けど?」

 

「……キミが聞いても何にもならないよ。こっちの世界での話。……ああもう、独り言の癖がまた付いた」

 

 ……待て、”こっちの世界”と言ったか……? 

 そんな言い方をするのは、複数の世界を認識していることになるが……もしかして。

 

「まあとにかく、キミは無害みたいだね。疑って悪かったよ」

 

 ケイの持っている剣が鞘に納められる。

 

「そうだ、友好的な関係を目指すなら、第一にこのダンジョンから出してほしいんだが」

 

「分かったよ。こっちも用事は済んだから」

 

 用事とはやはり、この剣を抜いて悪しき魔力とやらをどうにかする事だろう。引き抜かれた剣は、放っていた筈の光が弱まっていた。

 ケイの手にある剣は、一見すると大きさと体格が釣り合っていない様に感じた。買い換えたばかりのあの剣より、一回り大きく長い物だからだろう。立派と表現するには、やや無骨すぎるが。

 

「へえ、面白いね。この剣は。……なるほど、あの不自然な洞窟はそう言う事か」

 

「どう言う事だ?」

 

「ん、ああ、また独り言の……。魔力が土や石に馴染みやすい特性がある。少しだけど、植物にも」

 

「なるほど。土属性の魔剣って奴だな」

 

 所謂、魔剣。杖と同じ様に魔法の補助に利用できる種類の剣であり、悪魔の剣だとか呪いの剣だとか、そういう意味は含まれていない。

 これの場合、土属性魔法の補助で特に効果を発揮するだろう。魔法剣士には嬉しい品物だ。

 

「……予想は出来た事だけど、言葉の定義も違うらしいね。じゃあ地上に出るよ、人形」

 

「人形?」

 

「そうとしか言いようが無いでしょ、キミの姿は。ほら、私の手を握って」

 

「あ、ああ。握るんだな」

 

 多分、普通に脱出するつもりではないのだろう。先程ケイが現れた瞬間のことを思い出す。

 理解に及ばない技術だが、きっとまた同じことをするんだろう……。

 

「分かった、握り潰さないでくれよ」

 

「大丈夫、目が眩むだけ」

 

 だったら目を瞑っておこう。その前にケイの手を握って……、これで良いのか? 

 

「良いか?」

 

「ん、『転移』」

 

 転移とか言う得体の知れない技術だが、ケイならきっと大丈夫な筈だ。

 不安を信用で押し殺して、瞼を貫く光に耐える。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「う……本当に、転移したのか」

 

 目を瞑っていても容赦なく目を突く光に怯んで、少しすると空気の匂いが変わった事に気付く。

 石レンガの部屋から変わって、むき出しの岩肌に囲まれた洞窟。それも、この場所は見覚えがあるような……。

 

「手足や指が欠けた感覚は無い?」

 

「さらっと恐ろしいことを言わないでくれ。……五体満足だ」

 

 この世界のケイならば、本来知らない筈の魔法。やはり俺の予想は合っているのだろう。

 彼女は異世界からやってきた事は確信しても良い。隠すつもりもなさそうだが、だから何だという話になりそうだが……。彼女の事を多く知れるに越したことは無い。

 

「転移の魔法か。どこで覚えたんだ?」

 

「何処でっていうか、普通に作った」

 

「作る時点で普通じゃ無いんだが……」

 

 まあ、時間遡行を行う魔法を作り出すぐらいだ。これぐらい屁でも無いって事か。

 

 辺りを見ると、崩れた石がごろごろと転がっているのが見つかる。上には縦穴があり、そこから青い空が見える。

 

「ここは……」

 

「さ、手首を掴んで」

 

 言われた通りに握る位置をずらす。互いに手首を掴む形だが……。

 

「あー、ケイ」

 

「何?」

 

「心の準備で何秒か用意してくれるか?」

 

「一秒なら。はい終わり」

 

「ば」

 

 馬鹿! 本物のケイっていう奴もこんな性格なのか?! 

 

 急速に持ち上げられた地面に突き飛ばされて、穴を通って地上に出る。……が、勢いがまだまだ残っているせいで、残った勢いに地上5メートルぐらいまで持ち上げられる。

 

「高……っ」

 

「『塞げ』」

 

 あ、地面の穴が塞がれて……手を離された?! 

 

「ちょ」

 

「っと」

 

「ばっ」

 

 

 …………痛い。鼻の無いマネキンだったら鼻っ面を痛めなくて済んだのに。

 

「よし、魔剣とやらのお陰で魔法も好調だ」

 

「……俺は絶不調だが」

 

「ああ、ごめんね。着地しづらいだろうと思ったんだけど」

 

 ごめんねで済まされる話だろうか。いや、ケイなりの考慮があったのなら良いんだが……。

 

「はあ……」

 

 記憶のために、これからケイと関わっていくつもりだが……この調子だと、何時か勢い余って死ぬかもしれないな。

 

 

「それにしても、地上も中々の魔境だね」

 

「……さっきのダンジョンから地上に流れ出た魔力が、森の異常成長の原因となっているらしい」

 

「ふうん」

 

 さて……。このケイなら都市の方向や、近くの村への方向も知らないだろう。俺も地図が無い以上は分からないのだが……真っ直ぐ一方向に向かえば、取り敢えずは森を出られる筈だ。

 

「確かに森の中は真っ暗だ、『照らせ』」

 

「……万能だな」

 

 ケイの手から光が生み出されて、ひとりでに森の中へ進んでいった……。ケイはランタンを持っている筈だが、これならランタンでも照らせない遠方を見通せる。

 

「ま、これぐらいは長生きしてればね」

 

「お前16だろう」

 

「ん」

 

 ……笑みで返された。俺はそれで惚れたり誤魔化されたりする人間じゃないぞ。

 

 改めて辺りを見れば、見覚えのある場所だった。確か、レイナと一緒に来た時、最初にダンジョンへ飛び込んだ所だ。

 よかった。居場所が分かれば、記憶を頼りにルートを決められる。物覚えが特別良い方でも無いが、あの日は散々地図と睨めっこしていた。

 

「とりあえず、北西の方向に向かうぞ。ここからだと一番早く外に出られる。方位磁石は持ってるか?」

 

「この方向かな」

 

「あ、そう、道具要らずか……。道中のモンスターには一応気をつけてくれ。触手で足を絡ませるネットプラント、人狼や魔法使いの霊体が出てくる」

 

「物知り」

 

「この森を通らないとダンジョンには入れないからな」

 

「そっか」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 道中の戦闘は、ケイの中身が俺だった頃と比べて極めてあっさりしたものだった。

 いや、戦闘とすら呼べない。ケイが一声上げると、暗闇に飛び込んだ一筋の魔法が命を刈り取る。先制攻撃と一撃必殺、そして遠距離の索敵手段と攻撃射程。これらの条件さえ揃えば、最早モンスターを視認する必要も無かった。

 

「……」

 

「……」

 

 先頭で死の鎌を振るってくれるケイの後ろで、唯一俺が気をつけるべき事と言えば、土から浮き出た木の根に躓かない様気をつける事ぐらいだ。

 

「……」

 

 ほら、たった今魔法が飛んでいった。きっと向こうで一つのモンスター生が潰えたのだろう。南無。

 

「詠唱要らずの魔法か」

 

 今しがた放たれた魔法は、『放て』や『貫け』などと言った、詠唱の体を成しているのかすら怪しい言葉すら無かった。

 無言で魔法が放たならば、もはやモンスターが殺されたという事にすら気付けない。

 

「ああ、そっか。居たんだ」

 

「ケイ?」

 

「やだなぁ。冗談。私を知っている人をほっとく訳ないでしょ」

 

「一方的に知っているだけでもか」

 

「ケイは優しいからね」

 

「そうか」

 

 優しい人は「ああ、居たんだ」等と言わないが、俺は口を閉ざすことで真実を封じる。俺は心優しい人なのだ。

 

「それに少し考えたんだけどさ。キミには協力してもらう事があるかなって」

 

「何だ?」

 

「私、記憶喪失みたいな物だからさ」

 

「……」

 

「だからキミには教えてもらいたいんだ。私の過去を。この()()が経験してきたことを」

 

 その言い方だと……もう認めている様な物ではないか? 

 

「二つ目に、私が」

「この世界のケイであれるように、手伝えと?」

 

「……察しがいいね。その通り、私が別世界のケイだと悟られない様に、手伝って欲しい」

 

 所謂秘密の共有というヤツだ。あの憧れのケイさまとそんなことが出来るなんて、ああ震えてしまう。

 しかも。しかもだ。……俺とケイが、お互いに同じ事を求めているのだ。ケイは俺の知る過去のケイを求めて、俺はケイの知る過去の俺を求めている。

 奇妙で、面白い話だ。これなら落語家になれるかも知れないな。俺は存在しない筈の口角を上げてしまう。

 

 良いさ。構わないし、むしろ大歓迎だ。

 まずはレディーファースト。お前の記憶を教えてやろう。

 

「先ずは、あの果物を幾らか回収してくれ。そうそれ、その薄く光っている果実だ」

 

「……食べたいの?」

 

「勝手に食べてろ。だがそいつは約束の品だ。お前の友人のための、お土産だ」

 

「友人の……。いわゆる、友達?」

 

「ああ」

 

 先ずは、大切な約束を果たしてもらわないとな。

 

「その人の名前は……」

 

「名前はレイナ。錬金術士兼魔法使い。無垢な性格で、人懐っこい。男への苦手意識は有るらしい」

 

「そっか。レイナ……」

 

「あと、呼ぶ時はレイちゃんだ。頬を膨らませて怒ってくるぞ」

 

 危なかった。これを忘れていたらケイが怒られてしまう。

 なぜ機嫌を損ねたのか分からずにあたふたするケイも、見たい気がしなくもないが。

 

 そうだ、他の友人について教えておこう。一気に覚えさせても、大魔法使いなら覚え切れるだろう?




TIP紛いの冒頭のアレ要る? 暫くアンケートしときますけど

冒頭のTIPSは必要か

  • 「ON」(TIPSが補完されます)
  • 「OFF」(既存のTIPSは残ります)
  • 「一部表示」(必要時に出てきます)

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