ウチのキャラクターが自立したんだが。リファインド   作:馬汁

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ウチのキャラクター、買い物する。

『魔法剣士』

『貴方は魔法の知恵を得た剣士である。近接戦闘への適性と、魔法による遠近距離への攻撃能力により、例え単独でも戦いを有利に進められるだろう。

 貴方に必要なのは、強固な防御力で魔法の隙を守る騎士でも、後方から絶大な火力で支援する魔法使いでもない。力と、知恵と、そして孤独に耐える精神である』

 

 

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 1匹の狼と戦った後。一応スライムも短剣や各属性の魔法で相手しつつ、王都へ帰還した。

 出発の頃には十分高かった太陽が、ふと見るとオレンジ色で滲んで西へ傾いていた。

 

「確か、1日1時間なんだっけ」

 

「はい? ……あ、この世界の時間の流れの事ですね」

 

 この世界にいる間、どの様な理屈なのかは知らないが、俺たちプレイヤーの体感時間が引き延ばされる。

 それが、「1日1時間」である。

 

 言うまでも無く、この世界においてはこの言葉が意味するのはゲームが遊べる時間ではない。俺たちの過ごす1日が、現実での1時間なのである。

 言い換えれば、俺たちが体感する24時間がゲーム内の1日であるが、現実での1時間でもあると言う事になる。

 

「ケイさんはいつまでやるんですか?」

 

「んー……決めてないな。その時の気分次第だけど……そうだね、まずは2日やってみるつもり」

 

「それじゃあ、お泊まりですね!」

 

「そうなるね。あ、じゃあ寝床が要るのか」

 

 太陽はまだ沈んでいないが、寝床を用意できるに越した事はないだろう。

 ……そういえば、この時代背景から鑑みて、宿屋の品質が心配だ。街灯やらが並ぶぐらいには文明が発達している様だが、実際のところはどうだろうか。

 

「レイナはどうしてるの? 夜の間だけログアウトしたり?」

 

「私は宿のお部屋を借りてますよー。確か空き部屋があった筈なので、もしかしたら同じ宿に泊まれるかもしれませんね」

 

 ふむ……。

 奇妙な出会いだったとは言え、折角の縁。ケイとしても、同じ宿に泊まれるならば喜んで泊まりに行くだろう。

 

 打算は、まあ有るかも知れないが、その分の借りを返す事を忘れなければ良いだろう。

 

「じゃあそこへの案内、お願いできる?」

 

「勿論です。どうせなら友達と一緒の宿に泊まりたいですから!」

 

 やけに「友達」に拘る子だな。

 そう思いながら、うきうきと歩調を早めるレイナの後ろをついて行く。

 

 ……「ケイ」の言動を模倣する事に拘っている俺が言えた事じゃない。と気づいたが、俺は気にしない事にした。

 

 

 しかし……速い。

 いや、速いと言うか、滑らかと言うべきか。小柄なお陰か、人通りが多い道を難なく行っている。反してケイの体格は平均女性にプラスした程度のもの。同じ様に通り抜けることは出来ない。

 

 加えて、レイナの背が小さいから、やけに見失いがちだ。

 人混みをするすると通り抜けるレイナ。その間に居るのがドワーフとかならともかく、体格の大きい人だと彼女の姿がすっぽり消えてしまう。

 

「ちょっとー?!」

 

 いよいよ追いつけなくなってきた。

 この辺りは市が近い様で、人通りが多い。見失うのも時間の問題……いや、もう見失ってしまったかもしれない。

 

「レイナー!」

 

 ……返事が来ない。

 これは失敗したかも。レイナが夢中になってしまっているのはともかく、到着する前にアクシデントでもあったら立ち会えない。

 

 そうだ、レイナとは既にフレンド登録がされている。

 フレンド相手ならばメッセージを送れると思い出して、その為にメニューを────

 

「わ」

 

 人混みの中で立ち止まったのがいけなかったのか、背中から押されてバランスを崩す。

 

「すいません……」

 

 そうだった。ここで棒立ちしていたら邪魔になるし、怪我しかねない。

 せめて道を外れれば人混みを回避できるだろうと、無闇に人の流れに逆らわない様にしつつ、なんとか道の端の方へと向かっていった。

 

 

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「落ち着いた……」

 

 建物と建物の間、大通りから伸びる小さな裏路地に辿り着いた。

 ちょっとばかし暗いが、まあメニューの操作には関係ない。

 

 手慣れている訳じゃないが、かと言って戸惑いがある訳でも無く、それらしいアイコンを2つ程選択したところで、メッセージ画面が現れる。

 ここまで来れば、あとは送るだけだ。

 

『ごめん、ついて行っている途中ではぐれちゃった。案内を始めてくれた所の少し先にある市場に居る』

 

「……よし」

 

 いや、はぐれた時点で良くはないのだが。とりあえずこれで送信。あとは相手の返事を待つぐらいか。

 

 

「……それにしても、疲れた」

 

 大きく息を溜めて、力を抜く様に息を吐く。

 精神的な疲労と言うべきか。やはり、俺がケイである様に行動すると言うのは負担がある様だ。

 性別が、と言うのもあるが、どうしても”相応しい“態度と言うのを考える頻度が高くて、頭が休まる暇がない。

 

「……しかも、声が、な」

 

 それに、あんまりこの状態が続くと、本当の身体で本当の声を放つ時に違和感が現れそうで、少し不安だ。……こればかりは致し方無いが。

 

「……はっ」

 

 もしかしたら元の声を忘れるかもしれない。

 という考えが頭の中に浮かんで、馬鹿な考えだな、と一笑に付した。

 

 

 

『ガコン』

 

「うん?」

 

 何かが地面に落ちたのだろうか。音に反応して顔を上げると、何かが見えた様な気がして、

 

「失礼、お嬢さん!」

 

「わ」

 

 その姿が俺のすぐ目の前を掠るように通り抜ける、目で追いかけるも、不思議とその黒い姿は裏路地の影に同化しているように見えた。

 自身の目を疑い、一度瞬きをしてしまうと、その存在を知覚することは出来なくなってしまった。

 

「? ……?!」

 

「こっちだ! 奴を逃すな!」

 

「また来た?!」

 

 今度は軽装寄りの鎧を着た騎士達が、カシャカシャと金属の鳴る音を伴ってやって来る。

 いや、なんだこれ、なんだこれ?! イベント?! 

 

「そこの冒険者よ、黒尽くめの姿を見ておらぬか!」

 

「と、通り過ぎて行ったけど……あっちの方に。でも見失った」

 

「この先は行き止まりになっています!」

 

「っち。また化かされたか……。隠し扉を探せ! 奴は幽霊や何かじゃないんだぞ! ……ご協力感謝する」

 

「え、ええ……」

 

 ……ここから離れよう。

 どこの世界でも路地裏には関わるべきではなさそうだ。

 

 

 

 

 背後の騒ぎをわざと無視して、先程の人混みに戻ってきた。

 辺りを見渡すと、買い物袋やら何かを抱えて帰っていく者が目立つ。いい加減日も暮れて、客足も落ち着いてきたのだろう。

 

 お店自体は、荷物を纏めている所とそうでない所があるようだ。

 

「……」

 

 気分転換も兼ねて、少しだけ寄ってみよう。レイナが返信するまで。

 歩く方向を変えて、並ぶお店を見て眺める。

 

 品揃えは……この近くには食べ物やアクセサリー類の多いようだが、どうやら向こう側には冒険者が好みそうな品揃えが遠目にでも見える。

 一般人と冒険者の棲み分けがされているらしい。

 

 客寄せの声に時たま目を向けつつも、俺は向こう側で物色して見る事にした。

 ここから見えるのは、瓶に詰められた液体……所謂ポーションの類だ。そして武器や防具だが、これに関しては金属物が少ないように思える。

 

 そう言えば、所持金は幾ら有っただろうか。

 ポーチの中身を探り、そこから財布を取り出して見る。5枚の1000Y紙幣が入っていた。

 

「……日本円?」

 

 と疑ってしまったが、右側に載っている人物はこの世界に生きる人物の様だし、まあ違うだろう。

 それにしても著しく似ている気がするのだが。

 

 露天の値札を読んでみるが、安い値段をしている所で装備が1000Y前後。高くて5桁6桁であるが、そこの店番は冒険者という風な身なりだ。ダンジョンか何処かの掘り出し物を商品としているのかもしれない。あとはお下がりか。

 ポーションを始めとした消耗品は、少なくとも200Y以上はするようだ。

 

 ……そうだな、先ずは剣が欲しい。

 そう思ったのは男の性だろうか。でも剣が欲しい。

 

 短剣だとリーチが心許ない。例え叩き切る様な切れ味の物でも、それなりの長さの物が欲しい。

 攻撃する為に短剣の距離まで接近するのは少し怖い。

 

 露天を見渡し、これぐらいかなと思える様な剣を見つける。

 

「こんばんは。……あ、4300Yか」

 

 期待通りの刃渡りで、一見片手でも扱えそうだが、今の俺には高い。その分良い品質をしているのかもしれない。

 

「こんばんは、剣をお求めですか?」

 

「うん。片手剣を」

 

「職業をお聞きしても?」

 

「魔法剣士」

 

「ほう! 魔法剣士、珍しいですね」

 

 ……珍しい? 

 と言うのは、この職業は人気がないと言う事なのだろうか。

 

「物理と魔法という2面の両立が、魔法攻撃力と物理攻撃力の物足りなさを招きます。……紹介ではこの両立が利点とされていましたが、決定打の少ない職業と言うことで不人気になってます」

 

 ……あー。

 

 ごめんなさい名前とフレーバーテキストだけで選びました。

 だってケイの設定に妙に似合ってるんだし、仕方ないじゃないか。

 

「……多様な状況に対する対応能力も確かに利点ですし、属性持ちの武器を持てば、それを覆す力を発揮するらしいですが」

 

「おお、成る程。ありがとう」

 

「因みにここの商品は純粋な物理武器なので、お勧めしません」

 

 ……属性持ちの武器って言ったら、それだけで予算オーバーしそうだな。

 

 そしたら、依頼で稼ぐべきか? 

 しかし依頼をこなすための武器が欲しい。ついでに防具も。

 

「……親切にしてくれてありがとう。ついでにコレの数字が少なくなったりは?」

 

「しませんね。初心者の知識不足に乗っからない分、良かったと思ってください」

 

「そっか。仕方ない」

 

 残念だ。

 属性持ちの武器は、今は手に入らないだろうし。……そうだな、先に防具から買った方が良さそうだ。

 

「防具なら知り合いが向こうで露天開いてますよ。革系の装備を作っているので、興味があれば寄ってやって下さい」

 

 革……それだ。

 狼と戦ったときは、間合いを意識している時間が多かったし、立ち回りを邪魔しない程度の装備が良いだろう。

 

「ありがと。……あれ、待って。さっき心読んだ?」

 

「いいえ、商人の心得でございます」

 

「はあ……。まあ、お世話になる機会があったらよろしく」

 

「ええ、是非とも」

 

 この商人とは関わらないでおこう……。

 

 とは思いつつも、言われた通りに彼の言う露天に寄ってみる。

 

 そこに並べられているのは……確かに毛皮や革を防具に仕上げた物が多かった。それと魔法職が好みそうな装束か。

 

 そんな風に並べられた品物を前に座っているのは、エルフの少年である。

 日本人の特徴をそのままに、ほっそりとした身体と長い耳だけ与えた様な姿である。多分プレイヤーだろう。

 ……今更になるが、この世界ではNPCとプレイヤーを判別するアイコン等が表示されたりしない。

 

「ご機嫌様」

 

「ごき……。っていうか、その声は」

 

「私の声?」

 

「……ああ、やっぱりあんただ。レイナさんの知り合いだろ? その声で大声出して呼んでた」

 

 ……ああ、あの呼びかけが聞こえていたのか! 何事かと思って身構え掛けたが、その心配は無用らしい。

 ふむふむ。という事は、彼はレイナの知り合いだろうか。

 

「初めまして、私はケイ。君もレイナの友達?」

 

「僕はトーマ。友達……と言うよりは、知り合いに近い」

 

 そこまで聞いて、そうなのか、と少し驚いた。

 

「へえ。あの子の性格なら、友達認定されても変じゃないと思ったんだけど?」

 

「いや、それが────」

 

【ピロピロン】

 

『レイナからのメッセージ 1件』

 

 と、システム音と共に、レイナからのメッセージを告げる通知が現れる。

 トーマという少年の声と被り、その内容も聞き取れなかったが……。

 

「ごめん、レイナから連絡。一旦失礼して良い?」

 

「……話の途中だぞ。まあ、仕方ないけど」

 

 彼はげんなりとした様子であるが、タイミングが悪かったとでも思って欲しい。

 

「『通知』」

 

 UIを意識してその単語を発すると、今まで通知されていた物の内容が全て表示される。

 レイナとのフレンド成立に関する通知から、先程までの探検で発生したスキルを通して、そして最後にメッセージの件が表示されている。

 

 メッセージの通知を選択すると、お互いのメッセージログが現れる。

 

『ごめんなさい! 宿屋に着いて要約気づきました……今から迎えに行くので、ほんの少し待ってください!』

 

 誤字を修正しない程に慌てているらしい。

 忙しない子だと思いつつ、宥める様な言葉を、画面と共に浮かぶキーボードで打ち込む。

 

「そういえば君は何処に住んでる?」

 

「年樹九尾っていう宿、……レイナさんと一緒だ。と言うかその指一体どうな」

「ならちょうど良い」

 

 たった今打ち込み終えた文章に、トーマの事を付け足す。

 

『慌てなくても大丈夫だよ。ここの市場も興味深い品揃えだし、のんびり見て回ってるよ。それにトーマに会えたから、彼が案内してくれるかもしれない』

 

「じゃあ、商売が終わった頃合いに案内お願いね」

 

「……せめてYESかNOかを聞いてからにしてくれるか?」

 

「YESで」

 

「あんたが質問する側だ」

 

 捻りのないツッコミどうも。

 時にはシンプルな物がベストだとは聞くけど。

 

『優しい男だね。良い知り合いじゃないか』

 

 2言だけレイナへ送信する。

 エルフとしての特徴を除けば、彼の容姿は、穏やかで優しげな雰囲気の少年といった風である。

 

「じゃあトーマ君。案内よろしくね」

 

「話を聞けバカ」

 

 口調は少々荒いが……。

 あと、こっちの口調に関しては、この性格を持つケイか、ケイを書き上げた過去の俺に言ってほしい。

 俺は心の中で舌を出した。俺は関係ありませーん、と口にはしないが。

 

『トーマさんですか? 確かに優しい人だと思います。お願いしてもらってもきっと大丈夫です!』

『あ』

『トーマさんは革とか布の防具を作ってる方なので、その類の防具が欲しかったらお勧めしますよ! 私の防具も安く修理をしてくれてますし!』

 

「へえ……本当に友達じゃないの?」

 

「だから知り合いだって……」

 

 この世界での振る舞い方も、大分身についてきたかもしれない。

 ……ちょっと遠慮がなさすぎる気もするが。

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