ウチのキャラクターが自立したんだが。リファインド   作:馬汁

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ウチのキャラクター、備える。

『常闇の森』

 

『ある日、その地に一人の冒険者が居た。

 冒険者の身体からは、赤い雫が流れ落ちている。動きも鈍く、次の一歩を進める代わりに命を削らなければならない。

 そして遂に、最後の一歩を。彼はその足の代わりに、手に持っていた剣を地面に突き立て、動かなくなってしまった。

 この冒険者に手を差し伸べたのは、慈悲の女神ではなく、悲しくも邪悪なる神だった。

 

 彼は、辺りを囲う悪魔達に見守られながら、命を手放した。

 

 永きに渡る年月を経て、その地は常闇の森と呼ばれるようになった。人々は、邪悪なる神がこの魔境を生み出したと語り継いでいる』

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 依頼処の受付から、依頼主の住所へ向かうよう案内され、向かった先。

 目立たないが、常闇の森研究所と書かれた看板を見つけることが出来た。

 レイナと一緒に尋ねると、1人の男が出迎えた。

 

「初めまして。えっと、貴方がユカリオットさん……で合ってますか?」

 

「はい、私がそうです。あなた達は依頼を受けてくれる方ですね?」

 

「うん、よろしく。私はケイ」

 

「レイナって言います!」

 

「はい、お2人ともよろしくお願いしますね」

 

 確かドラゴーナと呼ばれる種族だったか。人間をベースに、角、尻尾、そして所々の頑丈そうな鱗を付け加えた様な見た目の彼は、

 

「私はこの通り、常闇の森を担当する調査員をしています。今回は依頼内容にあったような手順で調査を行います」

 

 なんと調査という頭の使う仕事をしているらしい。

 確かドラゴーナというのは近接戦闘に適性を持つ戦闘特化の種族だったはずなのだが。

 

「合わないなって、思いましたか? くく、よく言われるんです」

 

 思考を察された、と言うよりは、「大方そんな事を考えてるんだろう」と思っての言葉だった。

 だとしても、彼の予想は正解である。

 

「思ったよ。まあ、個性って奴なんだろうね」

 

「分かってくれる様で、有り難いです。ああ、そこに座っていて下さい、今資料をお渡しします」

 

 本棚に向き合った状態のまま言われ、俺たち、ケイとレイナは言われた通りに適当な椅子を選んで座る。

 この辺りにはかなりの量の書物が、小綺麗に置かれている。本棚の中を遠目にだが見てみると、常闇の森に関する伝承、と題された物や、また魔力に関する理論だとか考察だとか、とにかく難しそうな物ばかりが置いてあった。

 

「こちらです。ところで、常闇の森についてどれぐらいご存知で?」

 

「うん? 暗くて、とんでもなく広い森で、魔力が充満してて、それと今も拡大してる、だっけ? 私はそれぐらい」

 

「私も似た様な感じですが……あ、その森から北東にある村から、その言い伝えを聞いた事がありますよ。確か、邪神があの森を生んだとか」

 

「おお、北東の村と言ったら、あの村ですか。調査の一環で何度も行った事があります」

 

「ユカリオットさんも行ったことがあるんですね」

 

 机に置かれる形で渡されたのは、2冊の紙束だ。

 片方は森の地理や生態に関して、片方は伝承に関しての資料の様だ。

 

 依頼に直接関係があるであろう地理、生態をまず知りたい。

 その書類を手に取る。

 

 目次から、『確認されているモンスター、動物』と言う項目を開く。

 

 人狼、古代の魔導霊体、土属性魔種動物各個体、非魔種動物。

 最後の2つの項目には、俺の知る動物の名前が並べられている。土属性魔種動物と言う、小難しい訳でもない漢字が並べられたこの言葉は一体なんなのだろうか。

 

土属性魔種(つちぞくせいましゅ)……って読めばいいのかな。ねえ依頼主さん、なにこれ?」

 

「ああ、それですか。簡単に言えば、魔法を扱う、またはその適性や耐性を持つ種の事を言います」

 

「モンスターや動物の魔法使いだって覚えれば良いですよ」

 

 ふむ、モンスターの魔法使い、それも土属性のものか。

 敵に遠距離攻撃手段があるのは厄介だ……。

 

 魔種モンスターについてよく理解した後、資料を読み進めて次のページをそして次へと捲っていく。

 魔花と呼ばれる植物の分布図も描かれている。探索の目標に活用できそうだ。

 

「そういえば、地図は貰える?」

 

「その資料の写しで良ければ。前もって地形に関する資料を複製しておきました。判明している範囲で魔花やモンスターの分布図も付いてます」

 

「良いね。依頼中は借りさせてもらうよ」

 

 で、他には……。

 

「あの、些細な疑問なんですが」

 

「どうしたの?」

 

 隣でもう一つの資料を読んでいたレイナが、ある1ページを広げる。

 そこには、邪神に関わる各地の伝承と書かれている。

 

「あの森の伝承に出てくる邪神なんですが、冒頭に冒険者が出てくるじゃないですか。そういった人間が関わっている伝承が、常闇の森以外にないですよね」

 

 本当に些細だ。下手すれば今回の依頼遂行には関係ないかもしれないのだが、もしかすると、と言うこともある。

 レイナの横からその資料を読んでみる。邪神が大精霊と争った跡地が、常に吹雪が荒れる様に吹く地になったとか、邪神が癇癪を起こしてとある地の植生を狂わせたとか、邪神が興味本位で大樹を引き抜いて一帯が荒野になったとか。

 

「まさに厄災と言うか……。じゃなくて、確かに邪神だけで完結してるね」

 

「良いところに気付きますね。これに関しては理由が分かっていないんです。偶然の可能性だってあります。……そういえば、この調査に助手が欲しいと思っていた所なんですが」

 

「ノー、とだけ言っておく」

 

「あ、あはは。私も遠慮します」

 

「まだ何も言っていないんですがね」

 

 ははは。と、肩を揺らして冗談を笑い飛ばすと、一息ついてから、改まった目つきで俺たちと向き合った。

 

「……さて、本計画の実行に移る分には十分な情報を知って頂けたと思うんですが、その上で注意して頂きたい点が」

 

「何?」

 

「僕はあなた達2人を信頼して、この依頼を任せます。が、命に換えてまで戦果を持ち帰る事は期待していません。……そこの所、ご留意ください」

 

 ……急に真面目な顔になったな。

 しかし、プレイヤーの俺たちに生死の話をされても、どう反応すれば良いか分からない。

 

 俺はレイナと顔を向かい合わせた。

 言葉は交わしていないが、レイナもこれに関する話の返し方に覚えがない事は察せた。

 

 ふむ、それなら”私“の言葉として、一言だけ返してやろう。

 

「心配は無用だよ。なんたって私達は大魔法使いなんだからね」

 

「……クク。それは心強いです。それでは貴方達に任せます。一応、期限は1ヶ月とします。勿論相談してくれれば延長も。ゆっくりと待ってますよ」

 

 良い反応だ。レイナは俺の言葉にキョトンとしているが、返答内容としては正解だろう。

 連れの大魔法使いを連れて、軽い挨拶を置いて出て行った。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「だ、だいまほうつかい……」

 

「んん、どうしたの?」

 

「い、いえ。大魔法使いを名乗るには些か早いと思ったんですが」

 

「まあねえ。私なんてレベルが2桁にも行ってないし」

 

 と言っても、あの言葉は冗談や軽口の類だ。真面目に捉えるだけ損である。

 

 さて、依頼主との顔合わせも終え、次は出発に備えて装備やアイテムを揃える所だが、今回はレイナが見てくれる筈だ。

 

「それで、なんだっけ。先ずは装備から整えておくんだっけ?」

 

「あ、そうでした。とりあえず装備ですね。ケイさんは両手剣が使いたいんでしたっけ?」

 

「片手剣だね。と言っても両手でも構えられる形だと良いんだけど」

 

 もし剣で攻撃を受ける場面があったら不便だし。

 

「あ、それじゃあ後は盾ですかね」

 

 どうだろうか。盾は立ち回りに邪魔そうな印象がある。小さめで、腕に固定出来るような……いや、そしたら籠手の方が良いのか? 

 

「籠手はどう?」

 

「あー。確かに邪魔にならないですけど、ちょっと貫通されやすいんですよね。どんな盾も邪魔になってしまう弓使いとかには需要があるんですが」

 

 ……確かに。

 盾なんか、言ってしまえば頑丈な板に取手を付けたような構造である。それに比べて籠手は……頑丈でゴツい手袋と言ったところか?

 それに腕に纏わり付く形状だ。大きさは小さくても、動かしづらいかもしれない。

 

「実際に見ていってみましょう。私の友達が装備屋さんを経営してるので、案内しますね」

 

 友達……。装備屋をプレイヤーが経営してるのだろうか? 

 生産職として活動しているプレイヤーか。一体どの様な人なんだろう。私はレイナの後ろを付いていく。

 

 

 歩幅を合わせながら行ってしばらく、少しばかり特異な建物が視界に入る。

 あのピンク一色の建造物は、一体何なのだろうか。川の稜を辿る様に並んでいる鍛冶屋の中で、これだけが異常に目立っている。

 

「着きました!」

 

「え」

 

「ここがリーチェさんの鍛冶屋です! リッちゃーん!」

 

「え」

 

「おお、レイちゃんじゃあないかぁ! いらっしゃぁい」

 

「え゛」

 

 何、何、何!? 

 いや待て、待って。整理をしよう。

 

 ここは鍛冶屋だ。

 この鍛冶屋はリーチェが経営している。

 そして恐らく。いや恐らく、可能性として言える事なのであるが。

 

「……はじめまして」

 

「おおぁ、はじめましてだねぇ! ……おやぁ、もしかして」

 

「えへへ、私の新しいお友達です!」

 

「そりゃめでたぁい! これは歓迎しないとぉ!」

 

 この目の前の巨体は、恐らく()()()()と呼ばれる()()である。

 

「私はリーチェ! 主に鍛冶屋をしてるけれど、魔道具の類も作ってるわぁ」

 

 いや、たった今これは確定事項となった。

 この目の前の、ゴツゴツと岩の様な筋肉を備えた凶悪な人物は、正に彼が、いや彼女こそがリーチェなのである! 

 

 ふむ、俺は幻覚でも見ているのか? 

 

「……うん、よろしく。あー、私はケイ」

 

 俺は思考と言う機能を投げ捨てた。何を考えても仕方がない。

 ……しかし見れば見るほど強靭な肉体である。

 

「今日はケイさんの装備を見繕いに来たんですけど」

 

「武器かな?」

 

「軽い盾と剣をセットで欲しい」

 

「なぁるほど」

 

 リーチェは一度だけ頷いて見せた。そしてここで待っている様にと、椅子へ促された。選択は任せろということか。

 見た目は武闘派だし、期待はできるが……。

 

 

「近辺に出る大抵のモンスターならぁ、この盾でぇ十分。それと数打ち物だけれどぉ、この長剣も」

 

 少しばかり待ってリーチェが戻ってくるのを見つける。

 縁が鉄で補強された、それ以外は殆ど木製の丸盾と、刃渡りが肩から手首程度の長さの剣が渡された。

 

「予算、無いんでしょぉ?」

 

「あ、私が費用を持つので」

 

「……レイナちゃんもお人好しねぇ」

 

 それを聞いて、悩ましいとでも言うようにリーチェは額に手を当てた。

 

「レイナちゃんに悪気なんてないのは分かるけどぉ、あんまり知らない人に親切しすぎるのは良く無いわぁ」

 

「え? でも、ケイさんはお友達ですし、優しいですよ」

 

「融通してもらえるのは有り難かったけど、レイナのお母様がそう言うのなら」

 

「結構よぉ。でも、そうねえ。レイちゃん達はぁ、この後依頼に向かうのかしら?」

 

「はい、24の依頼に」

 

「新しい武器をアテにしてこれを選んじゃったんだ」

 

「……仕方ないわねぇ。ちょっと良い剣を見繕いましょぉ。ただし、ケイちゃんが支払う事。代わりに後払いとしておくわねぇ」

 

「ありがとう。依頼は必ず達成させてくるよ」

 

「ええ。それと、さっき私の事をお母様と呼んだけれどぉ……」

 

 あ、もしかして軽口が過ぎたか。もしやと背筋が凍るのを錯覚したが。

 

「もしそう呼ぶならお父様と呼びなさぁい」

 

 ……ああ、うん。なるほど。でもその口調で男って、どうかと思う。

 俺は無言で頷きつつもそう思った。




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