『古代の魔導霊体』
『何時の時代にも、不死の身体を求める者は多く居た。その中でも、一番不死に近づく事が出来たのは、魔導士だった。
……とまあ、資料によればそういう事だ。大昔の魔法使いは優秀だねえ。現代の魔法使いは、彼らの事をモンスターとは呼べないだろうな。魔素を利用して永遠の身体を実現した、仮にも元人間の大先輩なんだから。
つっても、その身体は未完成だし、魂もどうやら擦り切れてしまっている様だがね。畏怖はしても、尊敬はできないか。』
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俺の心配は杞憂だった。
しばらくすると、あの奇妙な感覚はほんの少しだけ方位が変わった後に消え去り、遠目に見える馬達も落ち着きを取り戻したように見えた。
偶然とは思えないタイミング、やはりこの感覚は気の所為ではなく、勘、あるいは第6感と言うべきだろうか。
「スキル……ではないよね。習得した通知も無いし、初期で持ってるわけでもない」
あるいは強制でこの感覚を与えられるイベント? しかしレイナ達は同じ様な感覚を得た様子はなかった。
又は単なる偶然か。俺の馬車酔いの状態が、非常にソレらしく変化していた、という可能性もあるだろう。
しばらく考えて、俺は本のページに目を落とす。この事はいくら考えても答えは得られなさそうだ。
この本は時折周囲の状況に目を配りながら読んでいたが、今は半分ほど読み終えた。
このゲーム、魔法書がかなり作り込まれている。ステータス不足の警告を受けながらも読み進めて、それが分かった。
現実に存在しない技術だからと欠かすことなく、架空の技術でありながら現実的な理論や解説が書き記されていた。
俺が完全に理解したかと言えば、まだだ。しかし、この魔法を行使出来ないかといえば……。
答えは、出来る。出来て
「『ファイアボルト』」
人差し指の先に現れる、矢じりを長く引き伸ばした様な形状の炎。
ゆらゆらと、青に橙に赤と炎が揺れる。しかしその形状が崩れることはない。
これの射出に関わる所は読み進めてないから、これを目標に向けて撃ち放つことは出来ないが、しかしこれは些か異常では無いだろうか。
これは俺がゲームのシステムを理解しきっていないが故の誤解かもしれないが、本来は俺は習得できないはずなのである。
『必要能力値:知識14 集中12』
表紙に触れて現れるこれが、魔法書を用いての習得の際、必要となる能力値。
そして現在の俺の能力値が、これだ。
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名前:ケイ 種族:人間
職業:魔法剣士
能力値
筋力:8 魔力:8
耐久:7 集中:9
器用:9 知識:8
俊敏:10 思考:10
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言わずもがな、足りていない。
これは何故だろうか。バグという言葉がまず最初に頭をよぎったが、その可能性以外にも、能力値が不足していても習得できる条件があるのかもしれない。
あるいは、本を読み切った時に、この不足が響いてくるのだろうか。
「……レイナに聞くついでに、他の魔法書も借りてみるか」
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「他の魔法書ですか? 構いませんよ、それ以外だとボルト系が雷と土属性。ジャベリン系は全属性複合版がありますけど……。あの、体調は見るからに良さそうなのでそれは良いんですけど、能力値、足りないのでは……?」
「ちょっと予習しようと思ってね。雷ボルトとジャベリンのを読もうかな」
属性複合板というのは興味深い。確かに各属性を別々の本に分けたところで、共通点の方が多いからな。
「はあ……とりあえず、良いですよ。あ、ところでなんですが、馬さんたちが落ち着き始めたので、出発するか念入りに待機するか、御者さんが意見を聞いてましたよ。私は待とうと思うんですが」
「そっか。うーん……待機が良いと思うよ」
「じゃあ決まりですね。御者さんに伝えてきます」
念には念を。冒険等と宣って警戒すべきものには警戒せずいるなら、それは冒険ではなく愚行でしかない。
さて、忘れてしまう前に聞きたい事を聞いてしまおう。
「それと聞きたい事がひとつあるんだけどさ。魔法書って能力値が足りなくても習得できる条件って、あったりしない?」
「有りませんよ? 特定のNPCは無条件で習得してたりしますけど、プレイヤーには魔法書か研究しかありません」
「半端に習得できちゃうなんて事も?」
「そんな話は聞かないですね」
なるほど、なるほど。
……バグってるのでは?
よりにもよって俺がバグに遭遇するだなんて。
と自分の不幸に頭を抱えていると……ふと、馬のいる方が騒がしくなっている事に気付く。
「────ヒヒーン!」
「落ち着け、どうどう、どうどうどう……。ケイさん! 馬の様子がいきなり」
馬が慌て始める。
俺もまた、その方向へ
先程の感覚、今度は肌全体で感じられるそれは、先程よりも「近い」と直感させた。
それはもう、両目でしっかりと視認できるくらいには。
「レイナ、戦闘!」
「え? ────きゃ!」
レイナがその姿に対して驚き、尻餅をつく。俺は不明瞭で半透明なその存在を見て、実在と非実在のどちらにも属していないような印象を受けた。
同時に、その情報から出発前に目を通した資料と一致するモンスターだと気づいた。
「『ウォーターボール』! 私が気を引く!」
命中する筈の魔法は、敵が出現させたであろう障壁らしき物に防がれた。
奴の名称は、古代の魔導霊体。
空気中の魔素を、一般的な魔法で火や水へと実体化させるように、それと同じく生前の身体の再現を試みた残骸。
身体の実体化に失敗し、半透明となってしまい、さらに非効率な魔力消費が、魔素の少ない環境での活動を困難としている。
だからこそ、実体を用いた攻撃は効果が薄い。しかし先程の魔法は防がれてしまった、流石に威力が弱すぎたか。
「足りない……足りない……!」
「『エアーボール』、『エアーボール』!」
風魔法で牽制を継続。威力は足りないかもしれないが、後ろに本職の魔法使いが居る。
恨むように「足りない」と呟き続ける敵の目には、俺しか映っていない……筈だった。
「魔力を……マリョクをぉぉ……!」
「レイナ、狙われてる!」
「お、おばけ……」
「レイナ?!」
ああ、もう少し彼女の様子に気をかけるべきだったろう。そうすれば、彼女がこの幽霊に怯えてマトモに行動できないと気付けていたのに。
あれでは頼ることは出来ない。出来て囮ぐらいな物だが、その手段を取るには俺は少々マトモすぎる。
俺を無視してレイナに向かおうとする所を、この剣で斬りつける。
やはり効果はない。身体を通り抜けて剣が空振りする。敵が気付く様子もなかった。
「ち、『詠唱』…………『ファイアボール』!」
比較的威力のある火属性魔法を、少々の詠唱時間を許容して発動する。
背後からの不意打ちだったからか、あの障壁が現れないまま敵の身体に命中した。
しかし、一撃で仕留めるには火力が足りなかった様だ。
確かにそうだろう。俺の能力値は低く、魔法自体も低級の物。
「ぐ、ぐぐ、ぉ……お前、オマエ!」
ただ、再度気を引く分には十分だったらしい。
今や俺に対して警戒をしているから、俺の攻撃はまたあの障壁に阻まれるだろうが。
「ジャマだ。邪魔だぁぁ!」
「私の名前はそんなじゃない!」
何処から出てきたのか自分でも分からないような軽口が、俺の口から吐き出される。
同時に、何かしらの力を肌で感じとった。先程と同じ感覚だが、今はそれがより強い。
まさか、魔法を使う予兆か?
「ウセロ、失せろ。『フレイムスロワー』!」
リアルタイムで力が膨張するのを例の感覚で感じ取って、慌てて横へ大きく走り出した。
まるで火炎放射器の様に吹き出す炎が、俺の居た所を焼き払う。
敵の魔法がなにもない所を焼いた隙に、風魔法の射程に走り込んでからまた『エアーボール』を放つ。
「ウガアアァァ!」
やはり障壁に弾かれるか!
堪忍袋でも切ったのか。野性的な唸り声を上げている内に、この剣で切りつける。
「まあ効かないよね……」
「ジャマダァっ! 『エアーハンマー』!」
「っ!」
空気の流れが一瞬だけ変わったかと思うと、大型トラックを思わせる質量が、不可視のまま俺を吹き飛ば────
────空中の身体を捻らせ、自分の意志で地面を転がって衝撃を適切に逃がす。
体勢を立て直し、魔法を練り上げる。
「『焼いて切り裂く』」
剣に魔力を付与。刃に炎を纏わせた剣を構えて、前方へ
「シィ!」
噛み締めた歯の間から、力の入れるタイミングで息を吐き出す。
私が振り抜いた剣には手応えは感じられず、しかし目の前の敵は切り裂かれ、そして傷口から広がるように身体を焼いている。
敵が苦痛に悶え、踞る。
「……情けない」
そのまま、首を刎ねた。