異世界現地調査   作:赤地鎌

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探し人、最後の話。
ネオと大太法師相撲の神事が、麗狐が


探し人 その四 終わり

 四日後、ついに神事、大太法師相撲が始まる。

 

 百メートルの巨大な石のリングの土俵に、その周囲を一定の間隔を開けてドーム球場のような観客席が設置されている。

 それは、さながら幽遊白書の暗黒武術大会の会場のようだが、その会場を包む装飾は、和風だ。

 なんでもリング以外の観客席には、何かあった場合の強力な防護結界が発動するらしい。

 

 そして、その入口、十メートルのダイダラボッチの男達でさえ余裕で通れる開門から五十名のダイダラボッチの男達が入ってくる。

 ゴツゴツとした岩山のような躯体に、相撲のふんどしを巻いている。

 

 普段なら、この相撲をするダイダラボッチの男達の戦いを見るのだが、今回は違う。

 

 ネオとドリンにムラマサの三人が、そのダイダラボッチの男達の中にいる。

 

 ダイダラボッチの男達が鋭い視線を三人に向けている。

 

 ネオ達三人は、武器以外は持ち込んで良いとされる、普段通りの姿だ。

 

 ダイダラボッチの男達と共にネオ達も並び、開会式が始まる。

 

 一番高い席、顔を隠す帝からの言葉と、その下の席には、帝とヤマト皇国を守護する八神将の八人がいた。無論、その中には、荒土と、ムラマサの父である鬼人族の刀陣がいる。

 

 開会式が終わると、ネオ達とダイダラボッチの男達が分かれる。

 

 とても単純な形式だ。

 ネオ達が、この50名のダイダラボッチの男達を全員倒せば、麗狐が譲られる。

 

 観客席のとある部分に、麗狐が入れられた巨大な鳥かごがある。

 麗狐が格子を握りしめ

「どうして…ムラマサ様…」

 

 帝の傍にいる八神将の一人、羅漢である白い仮面で顔を隠す白角のラダンが

「刀陣殿…離縁した息子殿が…」

 

 刀陣は鋭い視線のまま

「愚息が…迷惑を掛ける。ここで死んでも当家は、全く問題ない」

 同じく父の隣にいるムラマサの兄は沈黙であるが、固く拳を握っている。

 

 白角のラダンは引き

「そうか…」

と、神事試合を見詰める。

 

 100メートルのリングに最初のダイダラボッチの男が昇り、ズンズンと四股を踏む。

 

 ネオ達は、

「てめぇ等ーーーー やられちまえーーーーーーー」

と、叫んでいる観客達の罵声を浴びる。

 

 それをネオ達に近い観客席で見詰めるネオの一同、スタンク、ゼル、クリム、カンチャル、ブルーズ、レリス、ルディリ。

 クリムが

「ネオさー」

と、言い出しそうな口をスタンクが塞ぎ

「ばか、関係者だってバレれば殺されかねないぞ」

 

 クリムが訴える目で

「でも!」

 

 ゼルが

「とにかく、見守ろうぜ」

 

 ルディリが

「心配しなくていいよ」

 

 ブルーズが

「どうして分かるんだ? 正面から巨人族とやり合うんだぞ。勝てる見込みはないぞ」

 

 ルディリがフッと笑み

「あんなの、ネオが本国時代に戦って来た者達と比べれば…」

 

 

 

 リングで準備するダイダラボッチの男へ、最初にムラマサが向かう。

 ネオが

「ムラマサ…ムリだったら…」

 

 ムラマサが

「ネオ、死んだって退けない戦いがあるんだよ」

 

 ネオが額を抱えた。

「分かった。ムリだったら、止めに入る。それは私の意思だ」

 

 ムラマサは無言で進む。

 

 

 ムラマサは自分の十倍近い巨体のダイダラボッチの男を見上げる。

 

 ダイダラボッチの男はムラマサを見下す。

 

 二人が相対した後、数秒後

「では、両者、構えて」

 

 ムラマサが構える。

 

「始めーーー」と開始のドラムが鳴り響く。

 

 ムラマサは、小さい事での機動力を生かして、ダイダラボッチの男を翻弄して倒す作戦に入るも

「無駄だ」

と、ダイダラボッチの男が突きを放った瞬間、それによって発生した乱気流にムラマサが飲まれた。

 

 だが、ムラマサは上手くコントロールして、ダイダラボッチの男の腕に乗ると、疾走して目を狙うも、その目論見は予見されていた。

 そこへダイダラボッチの男の張り手が入った。

 一撃で全身を打たれたムラマサは、リングに叩き付けられる。

「がああ、ああ、あ」

と、ムラマサは直ぐに起き上がろうとするそこへ、容赦なく次の張り手が叩き込まれた。

 

 中心から端まで転げ飛ぶムラマサ。

 

 それでもムラマサは立ち上がる。

 

 そこへ対戦相手のダイダラボッチの男が向かいながら

「もう、降参したらどうだ?」

 

 ムラマサが

「誰が…」

 

 そこへまたしても巨大な手の張り手が飛ぶ。

 ムラマサは避けるも、ダイダラボッチの男は巨岩の如き巨体で突っ込み。

 ムラマサは、ぼろ切れのごとく飛ばされた。

 

 リングから落ちてない。

 リングから落ちれば終わり、ダイダラボッチの男はワザと落とさないようにしている。

 

 ムラマサは体を引きずりながら起き上がろうとする。

 

 そこへ、向かうダイダラボッチの男が

「愚かな…所詮、汚れた娘だぞ」

 

 ムラマサは、起き上がり吐血する。

 

「ムラマサーーーーーー」

 ネオは叫ぶ。

 

 ムラマサは、死に体なのに、目は全く死んでいない。

「オレは、バカだった。奢ってバカやって。そんなオレを…彼女は救ってくれた。今度は、オレが…彼女を救うんだ。死んでも救うんだよ。

 それが、オレが…バカだった事に対する償いで、オレの生き方だ。

 我は剣、剣は命を守る為にある」

 

 ダイダラボッチの男が

「なら、へし折れて潰れろ」

 容赦ない張り手がムラマサに叩き込まれる。

 

 リングへ出る前に、ダイダラボッチの男がムラマサに張り手を叩き込む。

 一方的な私刑だ。

 

 ネオが

「止めろーーーーーー」

 叫ぶ声が

 

「やっちまえーーーーー」

「帝の敵に味方するなんて、ヤマトの敵だーーー」

「殺しちまえーーーー」

 観客がヒートアップして怒声を荒げる。

 

 ネオは、それを見て愕然とする。それは、かつての自分がいた時代の愚かな人々と同じ情景だった。

 

 ボロボロに飛ばされるムラマサを帝の席から父と兄が厳しい顔で見詰める。

 

 ボロボロでもムラマサは立ち上がり

「オレは…助ける。必ず…だから」

と、そこへ無慈悲な張り手が飛ぶ。

 

 痙攣して死にそうなムラマサへ、ダイダラボッチの男が張り手を放とうとしたそこへ

「もう! 良い!」

と、帝が止めた。

「それ以上に意味は無い。これは、神事である。死人を出す場所ではない」

 

 その言葉に、ダイダラボッチの男は手を止めて、ボロボロのムラマサを摘まみ、ネオの所へ持ってくる。

 観客席にいたスタンク達やネオの仲間達も飛び降りて、ネオの元へ帰ったムラマサの治療を始める。

 ゼルとカンチャルにルディルが魔法や回復薬を使ってムラマサの治療をしていると、連れて来たダイダラボッチの男が

「愚か者共が。キサマ等には、絶対にあの忌み子の女は渡さん」

 

 ネオがダイダラボッチの男を見上げて

「どうしてだ?」

 

 ダイダラボッチの男が

「あの女は、罪人の娘だ。その血族は、その罪人の罪を償うのが当然だ。故に、我らの慰み者にしつつ、我らの子達を産み続けて、使い捨てる。それが贖罪だ」

 

 ギリッとネオは歯ぎしりして

「罪は、それを犯した本人の責任で、家族や他の者達には関係ないはずだ!」

 

 ダイダラボッチの男が

「そんな道理、通るはずがなかろう。悪しき者は、全て滅する事が当然であろう」

 

 ネオが静かな怒りの目で

「お前達は獣だ。理性もない知性もない。考える事を止めた人以下だ。弱い者の事を考えられるのが、人としての意義だ!」

 

 ダイダラボッチの男の額に青筋が浮かび

「ほう…では、それを証明してみろ。力なき者の言葉など、戯れ言よ」

と、告げてリングの真ん中に戻る。

 

 みんなの治療のお陰でムラマサが目を覚まし

「ああ…ネオ、オレ…」

と、涙する。

 

 ネオは頷き

「言ってくる。後は…ゆっくりして待っていろ」

と、リングを踏み締めるその背中には、威圧が籠もっている。

 

 ルディリが

「やべー ネオが切れてる」

 

 

 ネオがリングに上がっていく、正面には怒気で力が上がったダイダラボッチの男がいた。

 鬼神族のバサラ達は、別の高い席からネオを見下ろす。

 バサラがニヤリと笑み

「あら…やばいわ」

 

 隣にいる裏御門の一角、土蜘蛛の蜘蛛の妖怪女が

「ありゃあ…生け贄だわね。彼…」

 

 バサラが

「そうだな、あのダイダラボッチの男、死んだわ」

 

 蜘蛛の妖怪女が「はぁ?」と疑問の声を放った。

 

 

 

 ネオとダイダラボッチの男が対峙する。

 

「では、両者、構えて」

 

「始め!」とドラムが鳴る。

 

 ダイダラボッチの男の強烈な張り手が迫る。

 それにネオは、次の瞬間、べきべきと骨が軋む音が響いた。

 

 その音の発生源は、ダイダラボッチの男だ。

 張り手をカマした右腕が吹き飛び180度、別方向に飛んでいた。

 

「え…」とダイダラボッチの男は青ざめる。

 巨大な張り手を吹き飛ばしたのは、圧倒的に小さいネオの張り手だった。

 

 ネオの目が怒りで輝いている。

「ふぉぉぉぉぉ」

と、白い息を吐き威圧がダイダラボッチの男を襲う。

 

 ダイダラボッチの男の全身が恐怖に泡立つ。

 使えなくなった右腕を引きずり後退しようとしたが、ネオが足下に来て軽く横払いしただけで、十メートルの巨体が空中に舞って回り頭が下にくる。

 そこへ、ネオが張り手をカマして、十メートルの巨体がぼろ切れのごとく空中を舞って観客席に墜落するも、観客席に設置された防壁結界が展開され、そこにボロボロになった十メートルの巨体がぶつかりリング外へ出た。

 

 仲間のダイダラボッチの男が飛ばされた事に驚愕するダイダラボッチ達一同。

 

 ネオがそのダイダラボッチの男達に指を向け「来い」と挑発する。

 

「まぐれだ」と次のダイダラボッチの男が出陣、そして戦いが始まった。

 巨体が全力で突進するが、それにネオは張り手をして、十メートルの巨体がひしゃげると、ネオはそれを片手の張り手で、同じようにリング外へ突き飛ばした。

 二体目の崩れたダイダラボッチの巨体。

 

 それにダイダラボッチの男達が怒り、次々とネオに挑むも、ネオの始めの一撃に粉砕され、二撃目でリング外への叩き落としを受ける。

 ネオと戦った全員が、どこかの骨を折るという重症だった。

 

 それを観客が唖然と見ている。

 タダの人が、十倍も大きなダイダラボッチを圧倒するのだ。

 

 休憩が入った。

 その間に30名のダイダラボッチの男達が沈んだ。

 

 ネオに休憩の水が差し入れられる。

 それにゼルが

「おい、毒が入っているかもしれないぞ」

 

 その読みは正解だ。

 これ以上、外者に神事を荒らされない為に、毒を仕込んでいるが、ネオはそれを分かって飲む。

 そして、ネオの中にあるナノマシンが完全解毒する。

 全部、差し出されたヒョウタンの水を飲み干した後、ネオはリングへ向かう。

 

 差し出した者は、バカめ…と思った。

 

 次のダイダラボッチの男は、ネオに毒が盛られた事を知っている。

 これで勝てると思った。

 

 だが、リングに上がっていくネオの体が膨れる。

 何倍も歪に膨れて銀色に変貌する。

 そして、それはネオの竜族形態の竜になった。

 銀色に輝く80メートルの竜の巨体と、背面にジェット推進を備える翼。

 

 十メートルのダイダラボッチの男が子供になる程のネオの竜形態。

 その竜の顎門から白熱の吐息が漏れる。

 

 観客と、毒を盛ったヒョタンを持って来た男は絶望に似た呆然をする。

 

 戦いが始まった。

 

 一撃である。ネオの銀の機神竜の一撃で、ダイダラボッチの男が吹き飛ばされ、観客席の向こうへ消えた。

 

 ネオの銀の機神竜が四股を踏むと、リングが沈んだ。

「ああ…なんか、変なモノを食べたから、押さえていた本気が出てしまうなぁ…」

 

 毒盛り逆効果という事実に、仕込んだ愚か者はその場にへたり座った。

 

 

 そこからは、ダイダラボッチの男達の生け贄である。

 銀の機神竜ネオの一撃という無慈悲に、観客席の裏まで飛ばされるという一大事件となり、神事の大太法師相撲はメチャクチャだ。

 

 昼前には、50名のダイダラボッチの男達が消えた。

 

 銀の機神竜ネオが

 ヴォオオオオオオオオオオオオ 

 激震を呼び越す雄叫びを放ち

「これで、良いだろう」

 

 だが

「待てーーーーーー」

 帝の傍にいる八神将の一人、荒土が声を上げ

「我らの神事をよくも汚したな!」

と、リングに下りて来る。

 

 ネオは荒土を見下ろし

「約束だろう。それとも、それさえも守れない恥知らずか?」

 

 荒土が構え

「神事は、我らの歴史である。その汚辱を注がなければ、神事とは言えん」

 メチャクチャな事を言っているが、要するに顔に泥を塗られたから怒っているという猿山理論だ。

 

 荒土が

「我らの鉄槌を受けるがいい」

と、告げた瞬間、全身が膨れて巨大化する。

「この最強のヴォルシスで!」

 

 ネオの竜と同じ80メートルの獣神が出現する。

 二足歩行の獅子に鎧の骨格を持つ荒土の獣神(ヴォルシス)が雄叫びを上げる。

 ギギャアアアアアアアアアア

 

 観客が

「やっちまえーーー 荒土様ーーーー」

「いいぞ、荒土様ーーーーー」

「そんなヤツ、倒しちまえーーー」

 観客がヒートアップする。

 

 リングのそばにいるムラマサを支えるドリンが

「やばいんじゃあ…」

 ルディリが

「まあ、大丈夫でしょう」

 

 ゼルが

「おい、戦う余波の被害に会う前に逃げるぞ」

 

 スタンクが

「さんせー。ヤバい気がする」

 

 カンチャルも

「ぼくも…」

 

 クリムは残ろうとするも、スタンクが腕も掴み

「行くぞ」

 

 クリムが「でも…」と渋る。

 

 

 その間に、獣神化した荒土と対峙する銀の機神竜ネオ。

 荒土が

「我が本気で潰してくれる」

 

 ネオが

「そうか、なら、こっちも本気でいくぞ」

と、告げた次に竜形態から人に戻る。

 

 獣神の荒土が

「キサマ! バカにして」

と、言っている間に、ネオに変化が現れる。

 

 ネオの背面から無数の機械の端子が伸びる。

 それがネオを包み込み巨大化して姿を構築する。

 

 それに観客達は呆然とする。

 空いている天井を超える巨大な存在にネオは、変貌する。

 

 それをルディリが見て

「うわぁぁぁぁぁ ヤバい! ネオデウスの力を発動しちゃったーーーー」

 ドリンとレリスが困惑すると、ルディリが

「早く逃げよう! ヤバいって」

と、脱兎する。

 

 それにムラマサを抱えるドリンとレリスが続き、レリスがクリムに

「アナタも…」

 

「あ、はい」とクリムが続いた。

 

 ネオの本気、ネオデウスの力の一端、それは神事を見る観客席より高く大きい。

 80メートルの獣神の荒土を超えて、200メートルの戦艦の如き巨躯が立ち上がる。

 全身が深紅、三対の装甲の腕を伸ばし、スラスターの如き脚部と、背面に機械の翼が伸びるそれは、三ツ目の頭部から鋭い眼光を放つ。

 

 獣神の荒土を睥睨するネオのネオデウス形態の一つが

「さあ、始めろ」

 

 かけ声の人物が戸惑っていると、帝が

「始めよ!」

 

「では、両者、構えて…始め!」

と、開始のドラムが鳴る。

 

 獣神化の荒土が全身から膨大な力のマナを纏って、ネオのネオデウスへ突進しようとするが、ネオのネオデウスの胸部を両肩から砲身が伸びて

「インドラ、発射」

 神事のリングとその周囲を破壊する程の暴虐な超巨大光線が落ちた。

 

 それに獣神の荒土が突進しようとするも、一瞬で飲み込まれて終わった。

 

 観客席を守る絶壁の結界がフル出力で観客を守り、逃がしきれなかったネオのネオデウスの攻撃が宇宙へ昇る。

 地上から、宇宙へ向かう光のジェットが出現する。

 

 そして、それが終わったそこには、地面までも融解させてマグマの灼熱地獄と、そこに悠然と佇むネオのネオデウスの超弩級の躯体があるだけだ。

 

 荒土は、空から落ちてくる。

 獣神化が解除され、全身に消し炭を纏い、墜落する。

 

 それを白角のラダンがマグマ地獄へ落ちる前にキャッチして、元の席に戻す。

 

 刀陣が来て脈を診ると

「何とか、生きているが…」

 

 白角のラダンは

「戦いは継続不能だ」

 

 偉大なる八神将の一人も敗れて観客が沈黙する。

 そこへ帝が

「これで、勝者は決まった。この者達に景品の娘を渡す事にする」

 

 そこへ、観客の一人が

「しかし、それでは、帝様の命を狙った者達の…」

 

 帝が

「民よ。聞いて欲しい。確かに皆の意見は一理ある。だが、この娘は、それを行った本人ではない。

 その咎は、本人自身が償わせるべきであり、その家族が請け負うというのは、正しいといは思えん。

 皆がワシの事を思ってのは分かっている。だが、そういう過ちを犯した者達が出る事自体、ワシの過ちなのだ。

 ワシの力が足りなかったばかりに、ワシを暗殺する事件が起きたのだ。

 つまり、それはワシ自身から出た咎である。

 皆にお願いする。

 どうか、ワシの身から出た過ちを贖罪する為にも、この娘を…彼らに委ねてはくれないだろうか」

 

 静かになる観客席、その間にネオはネオデウスの攻撃によってマグマ地獄になっているそこを、ネオデウスの熱を奪う冷凍攻撃で、元の地面に戻す。

 やべーやり過ぎた、とネオは思っていると、どこからか…。

 

「ヤマト皇、ばんざーーーーい」

と、声が響き

「ヤマト皇、ばんざーーーーい。帝、ばんざーーーーーい」

「ヤマトに栄光あれーーーーー」

と観客が大合唱する。

 

 こうして、事態は何とか、ネオ達の元へ麗狐が渡る事になった。

 

 

 麗狐を連れてドラグ・アース帝国へ帰還する日。

 

 ムラマサの治療が終えるまで一週間くらいかかった。

 治療には、様々な治療薬と、何より…解放された麗狐が賢明に回復魔法を使ってムラマサを治療してくれた。

 そして、その治療薬の費用を負担したのは、離縁したムラマサの父親、刀陣だった。

 

 鬼眼城で治療中のムラマサに父の刀陣と兄の小烏丸が来て、刀陣が

「たまには、妻と子供達を連れて帰って来い」

と、告げて兄だけ残して消えると、兄の小烏丸が

「いや、本当に良かった」

と、安心した言葉を贈る。

 その間、兄と弟は離れていた間を埋めるように会話した。

 小烏丸とドリンは知り合いで、ムラマサが国を出る時に色々と手伝ってくれたのも小烏丸のお陰だ。

 

 そして、ムラマサの治療中の間、ネオ達は…色んな人達に襲われた。

 

 神事を汚したとか、国のメンツを潰したとか、とにかく理由を付けてネオ達を襲った。

 ネオ、ルディリ、ドリン、レリス、スタンク、ゼル、カンチャル、ブルーズ、クリムの9人へ襲いかかるのだが、スタンク達は相当な手練れ、ネオ達も合わさって返り討ちにされた。

 

 無論、鬼眼城に忍び込んで麗狐を狙う愚か者もいたが…

「おや、何の用だね?」

と、鬼神族のバサラ達が待ち構えていて、ボコボコにされて外に出された。

 

 そんな事が三日も続き、ついに大軍、千人近い人数で一斉に鬼眼城へ攻めてきた連中もいたが、鬼神族達とネオ達の活躍によって、千人全員が血祭りに上げられ、外に吊された。

 無論、殺していない。

 丸裸にして縛って町に吊した。

 

 そして、誰もネオ達を襲う者達はいなくなった。

 

 四日目、何か政治的な事でネオ達に罰を与えようとした動きもあったが、ネオが竜族である事と、西の大陸で疫病の流行を防いだ英雄という事もあって、何も出来なかった。

 

 やっと、事態が落ち着いて観光をするネオ達、その間、スタンクとブルーズは、桃源郷で全く相手にされない。

 クリムは、鬼神族の娘達に気に入られて引き込まれそうになるも、クリムは戻るとして譲らず、鬼神族の娘達は押し倒しまくって陥落させようとするが…。

 

 帰国の日が来た。

 

 

 海運財閥エンテイスの巨大船を前に、スタンクとブルーズが

「なんで、一度も出来ないって、どういう事だよ」

と、スタンク

 

「自信がなくなりそうだ」

と、ブルーズ

 

 二人は落ち込んでいた。

 

 その背中にネオが「ほら、帰るぞ」と告げて、スタンクとブルーズは渋々、乗船する。

 

 ネオが麗狐を合わせて全員の乗船を確認して乗り込もうとすると

「兄ちゃん」と羅漢が、水戸達を連れてお迎えに来てくれた。

 

 ネオが近づき

「お世話になりました」

 

 水戸が微笑み

「娘の事…まあ、あの竜の皇帝だ。悪いようにしないのは分かっておるが…」

 

 ネオが微笑み

「早くなじめるように、こちらでも助けますので…」

 

 水戸がが頷いて微笑み。

「よろしく頼むぞ」

 

 羅漢が

「色々と面倒に巻き込んで悪かったよ」

 

 ネオが首を横に振り

「いいさ。まあ、それなりには楽しかったよ」

 

 羅漢が手を差し出し

「今度は、ゆったりと観光と行こうじゃないか。兄ちゃん」

 

 ネオは、差し出された手に握手して

「ああ…その時は、是非」

 

 羅漢が微妙な顔をして

「まあ、その…大変かもしれないけど…がんばってな」

 

 ネオはそれを麗狐の事だと思って「任せろ」と微笑む。

 

 羅漢は、そのズレを理解していた。

 

 実は、ネオ達とは離れた場所で、とある一団、鬼神族の娘達が何か騒いでいた。

 

 ネオと羅漢が握手を交わした後、羅漢の後ろから荒土が姿を見せ

「キサマ、勝ち逃げは許さんからな」

 

 ネオは顔を引き攣らせ

「いや、どうでもいい。任務で戦っただけで、今後、アンタとは関わらんから」

 

 荒土が

「キサマ、それでも男か!」

 

 ネオが冷静に

「あのなぁ…お前みたいに力だけが真実ってバカに関わっていると、こっちまで頭が悪くなる。今後、関わる事はないだろう。さようなら」

 

 荒土が苛立つ顔の後

「まあ、いい。その言葉…憶えて置け」

 

 ネオが呆れ顔で

「どんだけ粘着質なんだよ。気持ち悪い。お前が行っている男ってヤツと程遠いぞ」

 

 荒土が前に出て

「なんだと! ここでやるか!」

 

 暴れそうな所に水戸が

「止めい。見苦しいぞ」

 

 荒土が下がり

「申し訳ありません」

 

 ネオが背を向け

「じゃあ、羅漢、水戸さん。また…」

と、乗船した。

 

 

 ヤマト皇国の港が遠くなり、それを見詰めるネオの隣にクリムが来て

「色んな事がありましたね」

 

 ネオが呆れ顔で

「この世界は、色んな種族がいて面白いが、ああ…いう単細胞テストステロン馬鹿もいるんだなぁ…」

 

 クリムが顔を引き攣った笑みで

「まあ、一部ですから…」

 

 ネオが背伸びして

「さて、今回の旅の報告を」

と締めようとしたそこへ

「旦那様ーーーーー」

と、飛びつく人物がいた。

 鬼神族のバサラである。

 

 ネオがバサラの両肩を掴み

「な、どうして? ここに?」

 

 バサラがその場に正座して、両手を三つ指ついて

「今日より、ネオ・サーペイント・バハムート様へ、嫁ぐ事になりました。バサラ・御・鬼神です。末永くお互いが死に別れるまで、お願いします」

と、告げて懐から手紙をネオに渡す。

 

 ネオは、それを開いて見る。

 

 水戸より

 今回の鬼神族の嫁入りについてだが、本人が熱望するので、許可した。

 相当にお主に入れ込んでおり

 どんな事になろうとも、本人はお主に付いていったろう。

 報告に関しては心配するな。

 あの竜皇帝に先んじて伝えると、喜んで引き受けてくれた。

 なので、何も心配する事なく、安心して嫁に迎えてくれ。

 それと、年に何回は、嫁の実家に来る事を所望する。

 

 それを隣でクリムが見ていて、驚きで顔に手を置き

「ああ…何というか…おめでとうございます」

 

 ネオは額を抱えつつバサラに

「いや、その…自分には…三人の妻達が…」

 

 バサラが三つの手紙を取り出し

「最初の奥方様達と文通で会話をしておりまして、認めてくれると同時に、妊娠して、旦那様のお相手できないので、代わりに旦那様を慰めてくれと! 公認されました」

 

 ネオは項垂れる。

 手回しが早い…もう、ノーと言えない状況だ。

 下手に逆らっても意味は無いな…とネオは

「分かった。そこまでなっているなら…今後、よろしく頼むよ。バサラ」

 

「はい」とバサラはネオの右腕に抱きつくのであった。

 

 ネオ、人捜しの遠征中に新しい嫁をゲットして帰る。

 ゲットした嫁は、一騎当千の鬼神の一族である。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。

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