異世界現地調査   作:赤地鎌

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スタンクは、迎えに行くとした彼女を…


思い出の彼女 その二

 スタンクは、ベッドで横になる妖精シルキーのシルビアの手を握りしめ

「すまねぇ…オレは…オレは…」

 

 シルビアは、スタンクの顔を撫で

「良いんですよ。スタンク坊ちゃま…」

と、あの細く柔らかい指先で撫でて微笑む。

 

 スタンクは立ち上がり

「親父」

と、後ろに腕を組み鋭い顔をする父親を見て

「シルビアを連れて行く」

 

 スタンクの父親は、フンと鼻息を荒げ

「どこへ? シルビアが宿れる邸宅は見つかったのか!」

 

 スタンクが「う…」と苦しそうな顔をする。

 

 スタンクの父親は

「お前のその無鉄砲で無策な所は、変わっていないなぁ…」

 呆れている。

 

 スタンクが

「何とかする! だから」

 

 スタンクの父親は頭を抱えて

「何とも出来ないだろう!」

 

 と、話している二人の後ろでネオは、ナイアから状況説明を聞いて

「なるほど…」

 頷いた次に、右腕のナノマシン端末から通信アームを取り出し

「あ、陛下…」

と、ロンバルディア皇帝と話をする。

 

 

 スタンクの父親が

「帰れ! お前の出来る事はない!」

 

 スタンクが父親に

「てめぇーーーー」

と、殴り掛かる寸前にネオが

「はいはい。ストップ」

と、間に入り

「スタンク…陛下から…」

 通信アームをスタンクに向ける。

 

 通信アームからロンバルディア皇帝が

「事情は、ネオから聞いた。スタンクよ。コレは提案だ。そのシルキーの妖精を我が皇帝城に宿らせるのはどうだ?」

 

 スタンクが通信アームを握り

「どういう事だ…」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「要するに、キサマに恩を売るという事だ。そのシルキーの妖精との最後の日々を我が皇帝城で向かわせてやる」

 

 スタンクがニヤリと笑み

「つまり、その恩に報いる事を後々にさせるってか…」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「悪い取引ではないだろう?」

 

 スタンクの父親が通信に

「キサマは、何者だ!」

 

 通信のロンバルディア皇帝が

「我の名は、ディオス・ドラグアース・ロンバルディア。ドラグアース帝国の皇帝をやっている者だ。その通信機を繋いでいる男は、我の一族の者にして、我が帝国の海運財閥エンテイスの会長にして、我の最も信頼厚い男、ネオ・サーペイント・バハムートだ」

 

 スタンクの父親が驚きをネオに向け

「まさか…エルデトの英雄…」

 

 ネオは「え?」と首を傾げる。

 なんでそんな、あだ名が付いているのか…分からなかった。

 

 スタンクが

「親父、これでいいよなぁ…」

 

 スタンクの父親はシルビアを見る。

 シルビアは、スタンクの父親に微笑み

「旦那さま、今まで、ありがとうございました」

と、告げる。

 

 スタンクの父親にとって、シルビアは家族で、姉のような存在だ。

 小さい頃に、シルビアと遊んで姉のように優しくして貰った。

 そんなシルビアが望むのだ。

 最後は…。

「勝手にしろ」

と、告げて去って行った。

 

 スタンクが「やったーーーー」と喜び勇む。

 

 ネオは、少し渋い顔をする。

 

 スタンクが

「おい、早くやろうぜ!」

と、ネオに催促する。

 

 ネオは頷き「分かった」と…。

 

 こうして、シルビアは、スタンクと共にドラグ・アース帝国の皇帝城へ来る事になった。

 

 

 シルキーという妖精の移動に必要な儀式は、そんな大変な事ではない。

 術師が来て、屋敷内にあるシルキーの核となっている存在を探す。

 

 術師がダウジングや、水晶の振り子で、シルビアの妖精の核を探すと、それは屋敷の屋根裏の奥に仕舞われた木彫りの人形だった。

 珍しい事ではない。

 人と関わる妖精の核は、その屋敷で最も古い品に宿る。

 この木彫りの人形は、屋敷の守りを念じた品である。

 なので、最も屋敷の力が集まりやすい、屋敷の中心の天井に隠されていた。

 

 まずは、術師がそれを屋敷と切り離す術を掛けて、次に新たな守りの木彫り人形を置いて、屋敷の中心の力がそこへ流れるようにすると、特別な魔法素材と紋様が編み込まれた布で、シルキーであるシルビアの核となる木彫りの守り人形を包み

「これで、屋敷から移動できますが…。一週間以内にお願いしますよ。後は、その移動した屋敷で、その地区にいる術師に…」

と、シルビアの核を収めた布をスタンクに渡す。

「分かっている」

 

 スタンクは、その核を収めた布を大事に懐に入れて

「さあ、シルビア…行こう」

と、シルビアをシーツに来るんで抱える。

 

 シルビアが微笑み

「はい、スタンク坊ちゃま…」

 

 スタンクが

「もう、坊ちゃまは止めてくれ」

 

 シルビアが頷き

「はい、旦那様」

 

 こうして、スタンクとシルビアは、ネオが変形した輸送宇宙艇に乗って、ドラグ・アース帝国へ向かった。

 

 一瞬で遠くなるネオの変形した輸送宇宙艇をスタンクの父親と母親が見詰め、母親が

「もう、あの子は帰って来ませんね」

 

 スタンクの父親は

「そうだな…」

 

 その一言には寂しさがあった。

 スタンクの父親は、スタンクを離縁したが、スタンクがどのようになっているのか?は逐次に調べていた。

 スタンクは、スタンクの一族の付いているエルフのゼルのお陰でメキメキと冒険者として頭角を現した。それは、バカなサキュ嬢レビュアーというのでも知っていたが。

 スタンクは、そのアホらしい有名でさえ、名声に変える程の冒険者の功績を打ち立てていた。

 攻略不能なダンジョンや、未開の地とのルート開拓、レアアイテムの発掘。

 そして、エルデト病の時の事。

 それを書類で見て、思わず父親はホホが緩んでしまった。

 息子は、しっかりと名声を高めていると…。

 だからこそ、もしかしたら…シルビアを迎えに来られるかもしれないと…。

 

 そのスタンクの名声は、シルビアに届いていた。

 シルビアも嬉しかった。

 

 だが、運命は無情にも、シルビアに寿命の終わりを与えた。

 実は、スタンクに知らせる為の使者ネイアの旅費も出したのも父親だった。

 

 そして、スタンクは来た。

 とんでもない英雄と、その英雄の主である巨大な龍の帝国の皇帝とも繋がりがあった。

 

 父親は「はぁ…」と羨ましい溜息をした。

 自分が冒険者として飛び出た時には、精々、大貴族の当主と顔合わせしたのが限界だった。

 

 スタンクは、エロも名声に変える程に、冒険者として出世していたのだから…。

 

 もう一人、スタンクの帰りを楽しみにしていた者がいた。

「兄さんが帰って来たって! ホントーーーーー」

 スタンクの弟だ。

 弟もスタンクの活躍を見聞きしている。

 五年前に出て行った兄の活躍を聞く度に、自分の事のように誇らしかった。

 だから、何時か…兄を追って冒険者になろうと…。

 

 父親が

「もう、行ってしまったよ」

 

 弟は「そんな…」と残念そうだ。

 

 母親が

「何時かきっと会えますよ」

 

 スタンクは、帰ってくるつもりなど、毛頭にない。

 だが、ここにはスタンクの帰りを待っている者達がいる。

 そして、父親は…どうして、あんな事を言ってしまったのだろうか…と悩んでしまう。

 考えれば、別にそんなツラい事を言う必要は無かったのだ。

「まだまだ、修行が足りないな」

 自分もまた、自分を律する事が出来ない程に愚かだ…と。

 

 

 

 スタンク達を乗せたネオの輸送宇宙艇は、数分後にドラグ・アース帝国の皇帝城に到着すると、ロンバルディア皇帝の手配によって、術師が用意されていた。

 

 ネオは、スタンク達を下ろすと、直ぐに術師がシルビアの核を皇帝城と一致させる儀式を始めた。

 

 ネオは、変形を戻している間に、術師はシルビアの核を設置する皇帝城の中心に来る。

 

 皇帝城の中心は、巨大な竜の石像だ。

 見上げる程の竜の石像の足下には、何かを収める石の引き戸があり、そこを術師が開けると、持って来たシルビアの核を置いて、皇帝城と繋げる術を施した。

 

 ネオがそれを見ていると、後ろに同じ妖精シルキーの者達が来て

「これで彼女は、ここで生きられますが…」

 

 ネオが

「寿命は…」

 

 シルキーの者達は暗い顔をして

「それは、残念ですが…」

 

 ネオは頷いて

「そうか…」

 

 シルビアは、この皇帝城に宿ったが…寿命までは…。

 

 スタンクは、自分達の為に用意された部屋に来る。

 五部屋が二階にも及ぶ、家族が暮らせる程の城内住居に来て、何かも日用品が揃った住居内のベッドにシルビアを寝かせる。

 

 シルビアが微笑み

「旦那様…ありがとうございます」

 

 スタンクはシルビアのホホの撫で

「オレこそ、悪かった。散々待たせて、すまなかった」

 

 シルビアは涙して微笑み

「もう、私は思い残す事はありません」

 

 スタンクも涙して

「これからだろう。だから…だから…」

 

 シルビアがスタンクを抱きしめ

「旦那様…私、今、一番に幸せです」

 

 

 スタンクとシルビアの為に用意された住居の扉の両脇に、ロンバルディア皇帝と、大魔導戦士ディオが

「陛下、相変わらずウソが下手ですなぁ…」

 

 ロンバルディア皇帝が

「恩を売るのは間違いない」

 

 大魔導士戦士ディオがフッと笑み

「その恩、いつ返させるのですか?」

 

 ロンバルディア皇帝が

「何時かだ」

 

 大魔導士戦士ディオが笑みながら

「私も、皆も、陛下のそういう甘い所は嫌いではありませんよ」

 

 ロンバルディア皇帝が上を見上げ

「苛烈な判断ばかりすると、その倍も甘い事をしたくなる。皆には迷惑を掛けてすまん」

 

 大魔導士戦士ディオが肩をすくめて笑み

「言ったでしょう。陛下のそういう所、皆は好きなんですよ」

 

 フッとロンバルディア皇帝は鼻で笑った後、ノックして部屋に入り、スタンクに

「ここでの生活は保障する。好きなだけ、そばに居てやれ」

と、告げて去って行くと、スタンクがその背に

「すまねぇ。恩に着る」

 

 ロンバルディア皇帝が

「気にするな、何時か、返して貰うだけだ」

 

 

 スタンクとシルビアの短い生活が始まった。

 

 ネオから事情を聞いたゼルやクリム、ゼルは

「そうか…」

 

 クリムが

「スタンクさん。そんな事が…」

 

 ネオが

「二人はどうする?」

 

 ゼルが

「カンチャルとブルーズは、先に帰るそうだ。クリムも戻っていいぞ」

 

 クリムが心配げに

「え、でも…スタンクさん達の事が」

 

 ゼルが

「オレが見て置いてやる。それに…二人だけの方が良いだろう」

 

 クリムは、どうしようと困っていると、そこへカンチャルとブルーズが来て、カンチャルが

「クリム、オレ達と帰って置こう」

 

 ブルーズが

「二人だけの方がいい」

 

 クリムが頷き

「分かりました」

 

 こうして、先行してカンチャル、ブルーズ、クリムの三人は帰還した。

 

 ゼルは、スタンクとシルビアがいる居住区に来て

「よう、シルビア」

と、声を掛けた。

 

 シルビアが微笑み

「久しぶりですね。ゼル・ティオルズ」

 

 ゼルは肩をすくめて

「くすぐったいぜ。その名前…」

 

 スタンクがシルビアのいるベッドの隣に座っていて

「あまり、ムリはさせるなよ」

 

 ゼルは

「ちょっと話をするだけさ」

と、これまでのスタンクとの冒険の話を聞かせた。

 勇ましい事、恥ずかしい事、言って欲しくない事、洗いざらい笑えるようにゼルは話して、途中でスタンクが「止めろ!」って怒るくらい話した。

 

 そして、夜、スタンクとシルビアだけでベッドを共にする。

 この居住区の凄い所は、照明は全て間接照明で、天井が夜の空を映す仕様だ。

 豪勢を通り越して凄すぎると思う程だ。

 

 シルビアが「アナタ」とスタンクを求める。

 

 スタンクが「ムリは良くない」と…。

 

 シルビアが

「大切なアナタの温もりを感じて眠りたい」

 

 スタンクは、サキュ嬢にするではなく。

 ホントに大切に大切にするようにシルビアを抱く。

 

 シルビアの滑るように柔らかい肌を味わい、ゆっくりと静かに深く、シルビアと体を重ね合わせる。

 何度、抱いたのだろうか…。

 どんなにサキュ嬢を抱いても、この温もりだけは忘れた事はなかった。

 そして、残酷な事実を知る。

 シルビアの背中に固い石化している部分があるのが分かった。

 

 スタンクは泣いてしまう。

 それをシルビアが拭って抱きしめる。

 二人はゆっくりと確実にお互いの温もりを交わして、忘れまいと刻みつける。

 

 だが、そんな愛を交わす二人に残酷な別れは近づいていた。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。
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