彼は善良だった。
優しく、そして慈悲深い男性だった。
だからこそ、罪を犯した者も贖罪を終えて、真っ当になれるチャンスがあると…。
だが、それは人の中にある666とされる根源の悪によって打ち砕かれた。
彼は、所詮…人間は、獣と同レベルと知って絶望した。
真理とは絶望である。
真理とは限界である。
真理とは変えられない失望である。
彼は赫怒した。
罪人に救う価値があるのか!
聖人ばかりを押しつける世界と、絶望を知らない愚かな羊達が広がるだけのシステムを。
完全管理のシステム世界を創り出した別世界の人類は、自らの悪を直視する事無く、蓋をして隠していた。
彼は、絶望した。
彼は、真理を知った。
彼は、選んだ。
この世界から、全ての悪を根絶させると…。
神域を超えた次元、高次元解釈を手にして、それによって神化した。
罪人を見つけて食い殺す
彼のいた時空と、その周囲にあった数十個の平行時空の罪人達を全て喰らい殺し、それでも満足しなかった。
あの時空に罪人がいる。あそこにも罪人がいる。そこにも罪を犯す愚か者がいる。
全ての罪は、男に通じる。
彼が罪人を喰らい殺した時空は、急速に文明を発展させる。
それは男女比が一対一〇〇になっても問題ではない程に、文明を超絶進化させた。
時空を渡り、渡った時空の罪人である男達を食い殺して、文明を急速進化させる。
天災であり天恵の彼は、とある時空に来た瞬間、その権能を発揮する事が出来なくなった。
それは…その時空に、彼が最も大切にした魂の転生があったからだ。
それに引っ張られ力を失った。
彼の戦略は、とても合理的だ。
その世界に一個の人として訪れ、その世界を学習して、効率良く、罪人の基準を知って喰らいつつ文明を急速進化させる。
そんな彼の戦略が崩れた。
自分をサタンヴァルデウスへ至る理由とさせた者の生まれ変わりによって…。
彼は、その世界の神々に封印された。
だが、その封印にも隙間が生じる。
何れ…また、外に出る時を待っている。
だからこそ、その隙間から世界を確認する。
そして、見つけた。
封印を開けられる存在を、ネオ・サーペイント・バハムートを。
ネオはドラグアース帝国の皇帝城を進んでいると、背筋に寒気を感じて後ろを振り向く。
そして、レーダー波を飛ばすが、何も捉えられない。
「気のせいか…」
いいや、それは確かに存在していた。
この世界の法則を超えた存在であるが故に、それはネオを見て笑う。
サタンヴァルデウスは、ネオがどのように動くか、見ている。
流石、ネオは
無意識だが、高次元と繋がっている。
サタンヴァルデウスに寿命は存在しない。
時間は、幾らでもある。
ネオは、この世界に自分の血筋を残している。
今のネオが思い通りに動かなくても、その子達が、子孫達がいる。
ネオがロンバルディア皇帝の前に来て
「お呼びでしょうか? 陛下…」
書斎にいるロンバルディア皇帝は、手にしていた本を本棚にしまって
「すまんな。急いで呼び出してしまって…」
ネオが首を傾げ
「どのような、ご用件でしょうか?」
ロンバルディア皇帝は、書斎にあるソファーにネオを座らせ、自分も対面のソファーに座り
「ネオ、前にヤマト皇国に行ったのを」
ネオは頷き
「ええ…また、ヤマト皇国の関係で…」
ロンバルディア皇帝は首を横に振り
「いや、違う。我がドラグアースとヤマト皇国の間にある大陸、ドラグアース帝国の東にある国々が沢山ある大陸にリンド・ヴルムという街がある。その町を作ったスカディという竜族の娘に我が国の親書を渡して欲しい」
ネオが訝しい顔で
「それなら、チャンとした使節団を使って届けた方が…」
ロンバルディア皇帝が厳しい目をして
「そうしたいのは山々だが、その大陸は、百年ほど、各種族が別れて戦争を続けていた。ワシ等のような異種族の事を魔族と呼び、人族と魔族、果ては魔族と魔族、魔族と人族の混合といった具合に混沌とした戦争を続けていたが…。十年ほど前に終戦して、ワシ等のように異種族達が暮らす街を形成した。その第一号がリンド・ヴルムだ」
ネオが
「ああ…つまり、ドラグアース帝国がそのリンド・ヴルムに肩入れしていると周囲に見られれば、折角の終戦したバランスが崩壊しかねないと…」
ロンバルディア皇帝は微笑み
「その通りだ。故に、お主のようなイチ冒険者が、偶々、親書を預かって届けた…という事にする。それにだ。お前がエルデト病を治した時に使った抗ウィルス薬と、新型の免疫学習型ワクチンの製造方法も伝えて欲しい。無論、表向きは…そのリンド・ヴルムの医者の依頼という個人的な事にしてな」
ネオは顎を摩り笑みながら
「なるほど…確かに、自分に適任ですね。世の平和の為に動くですか…。了解です」
ロンバルディア皇帝が
「ただ、人数は多くは連れて行けない。お前を合わせて四人が限度だ。しかも、我がドラグアース帝国以外の者を付ける方が良い」
ネオがロンバルディア皇帝を見詰め
「つまり、その人選は済んでいるという事ですね」
ロンバルディア皇帝が頷き「入って来い」と呼ぶと…
「よう!」と手を上げるスタンク。
「よろしく」と笑むゼル。
「どうも…」とお辞儀するクリム。
ネオはその三人を見て
「まあ、確かにちょうど良いですが…」
ロンバルディア皇帝が
「此奴等のレビュアーズという肩書きが良いのだ。エロだけを求める愚か…いや…まあ、宣伝者というのが、余計な警戒を起こさせないからな」
スタンクがガッツポーズをして
「お宅達の全額負担で、リンド・ヴルムの大人の肌を合わせる花街のレビュー書いてくれと頼まれちゃあ、断れねぇぜ! 全力でレビューさせて頂きます!」
ネオは動機が不純すぎて頭を抱えるが
「まあ、いいか。とにかく、問題は起こさないでくれよ」
クリムがネオの隣に来て
「また、よろしくお願いします。ネオさん」
ネオはクリムに微笑み
「スタンクは、微妙だけど…君にまた、会えてうれしいよ」
クリムは照れ笑いする。
ネオがロンバルディア皇帝に
「この四人という事は…妻のドルガーは…」
ロンバルディア皇帝は厳しい顔をして
「すまんな。余計なリスクを増やしたくない。今回は、この四人だ。なに、早ければ一週間で終わる任務だ。頼むぞ」
ネオは残念そうに「そうですか…」と口にする。
その後、妻達がいる皇帝城の居住区に来て、ネオの子達を抱えるティアマ、レティマ、アマティア、バサラ、ドルガーの五人の妻達を前に、ネオは事の全てを隠さずに伝えた。
ティアマが
「そうですか…仕方ないですね」
九ヶ月のお腹のバサラが
「ドルガーがそばに居てくれるから安心してたんだけど…仕方ないか…」
ここ最近、ネオが調査へ出かける時には、ドルガーが同行している。
浮気防止というより、ネオを取り込んで美味しい思いをしようとする邪な輩の女達から守って貰っていた。
ここ最近のネオの名声は高まるばかり、ロマーヌス帝国で最強の剣士を素手で倒したのが広まったのと、ネオの子供達がネオの力、マキナ族という能力を持って産まれるというのも広まって、ネオの子種を狙ってくる輩が後を絶たなくなった。
それから守る役目もあって、妻のドルガーが一緒にいる。
だが、今回の任務は、少数での事。
まあ、ネオの噂は、その大陸には広まっていないので、そういう問題は起こらないだろうけど。
ネオが妻達に
「すまない。迷惑ばかりかける」
五人の妻達は苦笑する。
レティマが
「仕方ないわよ。アナタは皇帝の極秘の命令まで直々にこなせるという信頼があるから」
ドルガーが
「ああ…そんなスゲー旦那の嫁ってだけで誇りに思うぜ!」
アマティアが
「気をつけてね。国の西にある大陸の事は話では聞いているけど…まだまだ、種族間同士のいざこざが残っているみたいだから」
ネオは妻の忠告に頷き
「肝に銘じて置く」
ティアマがネオの後ろにいる三人、スタンクとゼルにクリムを見て
「そこの人族は分からないけど、へぇ…久しぶりねエルフ…」
ゼルが怪しげな笑みで
「まさか、殲滅竜姫に、滅殺竜姫、絶滅竜姫の三人が嫁さんだったとは…」
ティアマ、レティマ、アマティア、の竜族の妻達が怪しげに笑み、レティマが
「アンタが私達に協力するなんて、時間が過ぎるのも早いわね」
不思議な笑みの睨み合いをするゼルとネオの竜族の妻達、クリムがスタンクに耳打ちする。
「何があったんですかね?」
スタンクは苦笑で
「まあ、殲滅、滅殺、絶滅なんて付いている竜の姫さん達なんだ。話は聞かない方がいいぜ」
ネオが
「すまんな、ティアマ、レティマ、アマティア、バサラ、ドルガー。一週間くらいだ。終わったら直ぐに帰ってくる」
レティマが
「確か、スカディが作った街に行くのよね!」
ネオが頷き
「ああ…同じ竜族の者らしい」
アマティアが
「だったら、私達の手紙も持って行ってよ」
ネオが
「知り合いなのか?」
ティアマが
「ええ…同年配の友人よ」
ネオは頷き
「なるほど、分かったよ」
同じ竜族だ。そういう事も当然あるのは自然な事だ。
こうして、ネオ達四人は、ドラグアース帝国からの大型運輸船に乗って、東の大陸にあるリンド・ヴルムへ向かう。
ネオは、ロンバルディア皇帝と妻達の手紙を持ち、そして…そのリンド・ヴルムにいる医者のグレン・リトバイトの診療所へ、エルデト病の時に使った抗ウィルス薬と免疫学習型ワクチンの製造方法を伝えに…。
ネオ達を乗せた船は、順調に航海を終えて一日で、リンド・ヴルム街の港へ寄港した。
ネオ達四人は、船を下りてリンド・ヴルム街を進む。
別に普通だ。
自分達の街のように異種族達が交流している風景に、ここが今まで異種族同士で戦争していたなんて思えない程だ。
スタンクが
「なんでぇ…普通じゃねぇか…」
クリムも頷き
「ええ…自分達となんら、変わりもないような…」
ネオも頷き
「ああ…そうだな」
だが、ゼルだけが
「お前等…よく見ろ。人族がいねぇ…」
それを言われて三人がハッとしてスタンクが
「確かに、エルフは数が少ないからオレ達の方でもいない街はあるが、人族を…見てねぇ」
ゼルが
「まだまだ、種族の壁は厚いだろうね。人族ってのは、最後まで拘るからよ」
ネオは地図を広げて
「ええ…まずは、スカディ氏の屋敷へ向かおう」
四人は、こうして新たな場所、リンド・ヴルム街を進んでいった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。