異世界現地調査   作:赤地鎌

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ネオ達は、予定通りに、スカディと面会して


診療所

 ケンタウロスが引っ張る馬車に乗って、ネオ達はスカディの屋敷へ向かう。

 その町中の風景、リンド・ヴルム街を窓から見るスタンクが

「本当に、ここは人族が少ねぇなぁ…」

 

 隣にいるゼルも

「確かに…」

 

 対面の席にいるネオが

「そんなに人族が少ないのが珍しいのか?」

 

 スタンクが

「だいたいの街は、人口の半分とまではいかないが…人族は多い。要するに人族は潰しが聞くからなぁ…」

 

 ネオの隣にいるクリムが首を傾げて

「潰しが聞くってどういう事ですか?」

 

 ゼルが笑みながら

「人族は、どの異種族でも生活を共に出来るからだ。形状が違う。例えばアラクネやこの馬車を動かすケンタウロスが結ばれたとして、生活はどうなる?」

 

 クリムは想像する。

「それは…」

 ケンタウロス族もアラクネ族も体が大きい、きっと大きな住居が必要だし…食事が…。

 

 スタンクが

「ケンタウロスは草食、蜘蛛のアラクネ族は肉食がメインだ。食生活でもすれ違いが多い。そんな関係は長続きしない」

 

 ネオが頷き

「確かに…」

 共に暮らすという事は、何かしらの共通性がない限り維持は出来ない。

 人間だって性格の不一致で別れたりする。ましてや、異種族同士だ。

 すれ違いが多ければ…破綻するのは目に見えている。

 

 スタンクが

「まあ、その辺の違いは、お互いがお互いに知恵を出し合って暮らせば、問題はないが…やっぱり共に生活するってのと、一時の出会いってのは違う」

 

 ゼルが

「そうなると、やっぱり…合わせられる性質幅が大きい人族がいると、楽な事はある」

 

 ネオが

「要するに、そういう摩擦を防ぐ中間になり易い事と、役目を負うのが人族と…」

 

 ゼルが頷き

「そういう事さ。だから、必然的に人族が多くなるが…」

 

 スタンクが

「この街は、違うようだ。街そのモノが、どんな異種族にも合うように設計されているようだ」

 

 ネオは再び外を見て「なるほど」と唸る。

 

 確かに住居の扉は大型に作られているし、街の至る所に水棲族ようの水路が張り巡らされている。

 道幅もどんな大型の種族が通れるように広い。

 今までとは違う異種族の街にネオの好奇心が刺激された。

 

 そうしている間に、スカディの屋敷へ馬車が到着して、ネオ達はスカディの屋敷のドアをノックする。

 ダゴン族のメイドさんが姿を見せて

「あの…どちら様でしょうか?」

 ダゴン族なのに、長いスカートのメイド服にネオは疑問を感じて、レーダー波を飛ばすと、その長いスカートの中に大量の武器が隠されている。

 どうやら、護衛タイプのメイドさんらしい。

 

 ネオは懐からとある宝石を取り出し

「これを…スカディ様に…」

と、ダゴンのメイドさんに渡す。

 

 ダゴンのメイドさんは、ネオから渡された緑で中心に赤い結晶が入った宝石を手にして

「少々、おまちください」

と、中へ戻った。

 

 スタンクがネオに

「あのダゴン族のメイドさん…」

 スタンクは気付いていた。スカートの下に大量の武器が隠されていると…。

 

 ネオは

「争い事をしに来たのでは無い。親書を手渡しに来たんだ」

 

 ゼルが

「まあ、どちらにせよ。ダメなら帰るだけさ」

 

 ネオは渋い顔をする。

 要するに受け入れない場合は…という事だ。

 

 だが、ダゴンのメイドさんが再び現れ

「どうぞ、スカディ様がお会いになるそうです」

 

 屋敷に通され、最上階のスカディの実務室へ来ると、青い髪に黄金の龍の角と、大きな龍の尻尾を持つ少女と、その隣につぎはぎだらけの女が立っている。

 

 青髪龍角の少女がネオに近づき

「久方ぶりに竜族の顔を見れるとは思いもしなかった」

 

 ネオが頭を下げ

「はじめまして、ドラグアース帝国から来ましたネオ・サーペイント・バハムートです」

 

 青髪龍角の少女、スカディが手を伸ばして

「遠路はるばる、ようこそ。スカディ・ドラーゲンフェルトだ」

 

 ネオとスカディが握手して、スカディが

「まさか、ロンバルディア皇帝の鱗を持ってくるとは…思いもしなかった」

 

 ネオがハッとして

「あの宝石ってロンバルディア皇帝の鱗だったんですか?」

 

 スカディが微笑み

「ロンバルディア皇帝は大地竜だ。あのような鱗を持つのだよ。君は完全に人の形態だが…」

 

 ネオは髪を掻き上げ

「半分混じりですよ」

と、ドラゴントランス、竜族と人族の混じった形態になる。

 

 スカディが興味深そうに

「なるほど、君は最近、竜族になったからドラゴンになったり人になったりできるんだね。私は、長い事…この状態だからドラゴンへの戻り方を忘れてしまったよ」

 

 ネオが

「訓練をすれば、またそのように…」

 

 スカディは微笑み

「そのつもりはない。それより…」

 

 ネオは背負っている荷物から親書と手紙を取り出し

「これが皇帝陛下の親書と、こちらは ティアマ、レティマ、アマティアの手紙です」

 

 スカディは受け取り、ロンバルディア皇帝の親書を読みながら

「あの三人、ティアマ、レティマ、アマティアは元気かい」

 

 ネオは頷き

「ええ…息災ですよ。今、産まれたばかりの赤ちゃん達の世話に追われています」

 

 スカディの目が点になり

「子供、三人の内、誰かが?」

 

 ネオが

「いいえ、三人とも私の子を身籠もって出産しまして…その産まれた子供達の世話で…」

 

 スカディがネオを凝視して

「え? 君は、あの破滅の三竜達の旦那なの?」

 

 ネオは物騒なワードが出て来て戸惑いつつ

「は、はい。凄く大切にしてくれる良い妻達ですが…」

 

 スカディはハァ…と溜息を漏らし

「やはり、千年とは相当な年月なのだなぁ…」

 

 ネオは、何時もの見ている穏やかな妻達の過去が気になるも、渡した親書に集中する。

「その…皇帝陛下の親書には…?」

 

 スカディはフッと笑み

「変わらないよ。何か困り事があったら遠慮無く相談しなさい。それだけ、彼女達の手紙は後でじっくりと読むとして…親書には君が新薬の製造方法を…」

 

 ネオが頷き

「はい、病気を治す薬の製法を伝えよと…」

 

 スカディが後ろに控えるつぎはぎだらけの女に「クナイ」と

「は!」とつぎはぎだらけの女、フレッシュゴーレムのクナイが近づき、スカディが

「彼らをリンド・ヴルム診療所へ、グレン医師の元へ案内してやってくれ」

 

 クナイが背筋を正し

「了解しました。竜闘女様」

 

 スカディが部屋にある机に来ると、手紙を取り出し何かを書き封をして「これが私からの紹介状だ」と、クナイに渡して

「グレン医師に教えれば、必然的にリンド・ヴルム中央病院でも使われる事になるだろう。今後、遠方の諸外国との交流も盛んになる。こういう新たな治療薬の提供は助かる。よろしく頼むよ」

 

 クナイがお辞儀して

「畏まりました」

 

 スカディがネオの前に来て

「今後とも、この街とそちらとは長い付き合いになるだろう。ロンバルディア皇帝と彼女達三人に伝えてくれ。偶に遊びに行くよって」

 

 ネオは微笑み

「何時でもドラグアース帝国へ来て下さい。妻達も喜びますので」

 

 スムーズに事が進み、クナイの案内でリンド・ヴルム診療所へ来る。

 ネオが診療所のドアをノックする。

 その後ろにスタンクとゼル、クリムがいて、スタンクが

「以外と大きな診療所だな…」

 

 ゼルが

「なんでも色んな異種族専門の医者らしいから、大きな体の異種族にも入れるように作ってあるんだろう」

 

 スタンクが顎を摩り

「へぇ…色んな異種族専門ねぇ…」

と、口にしている間に

 

「はぁ…い」と診療所のドアが開いた。

 そこには看護師姿のアルビノのラミアの女性がいた。

 

 看護師のラミアの女性が

「どちら様でしょうか?」

 

 ネオがスカディから預かった紹介状を看護師に渡して

「この方の紹介で来ました」

 

 看護師のラミアが紹介状を受け取り

「え、スカディ様から?」

と、紹介状の裏にある魔法封緘を見る。

 それはスカディにしか押せない特別であり、それが証明になり

「少々、お待ちください」

と、看護師のラミアは中へ戻り、紹介状を持って行った。

 

 それから数分後、若い青年の医師が姿を見せ

「はじめまして、この診療所を任されています。グレン・リトバイトです。彼女は」

と、看護師のラミアを示し

「一緒に診療所をやっていますサーフェンティットです」

 

 看護師のラミア、サーフェはお辞儀して

「初めまして」

 

 グレンがネオを見て

「紹介状には遙か遠方の帝国から…ウィルス疾患に有効な薬学の製法を…」

 

 ネオは頷き

「この製法を使えば、特定のウィルスに対して有効な抗ウィルス薬が製造できます」

 

 グレンが戸惑いを見せて

「あの…そんな凄い製法…こんな小さな診療所が作って使って良いのでしょうか?」

 

 ネオが笑み

「事情があるのですよ。外ではマズいので…」

 

 ネオ達は、診療所へ入る。

 応接室で、グレンを前にネオ達が席に座り、そこへサーフェがお茶を持って来て

「どうぞ…」

 

「ありがとうございます」とネオはお辞儀する。

 スタンクとゼルにクリムも受け取ると、スタンクがサーフェを見て

「アンタ、美人だねぇ…今夜、どうだい?」

 

「はぁ」とサーフェが軽蔑の顔を向ける。

 

 クリムが

「すいません。この人、ちょっと頭がおかしいんです。ごめんなさい」

 

 スタンクが

「クリム、テメェ!」

 

 ネオが

「静かにしてくれないか?」

 

 スタンク達は黙る。

 

 ネオがグレンに

「グレン医師、確かに貴方の言う通り、この製法は一介の診療所が独占していいモノではない」

 

 グレンが

「尚のこと、ここより中央病院の方が…」

 

 ネオが

「それではマズいのです。これは外交が絡んでいるのです」

 

 グレンは驚きを向け、グレンの隣にいるサーフェは訝しい顔をする。

 

 ネオが

「この製法は、国家達が無料で使っている特許なのです。むろん、これは治療以外に使われない事を絶対条件としてです。このリンド・ヴルムがある国、大陸は…長年、異種族同士で戦争をしていた。それがやっと平和になり、異種族同士が交流を開始した。その行動は、このリンド・ヴルムがある大陸の者達の自発的な行動であるとして…」

 ネオが貰ったお茶で口を潤し

「ですが、もし…この自発的な事が他国の影響、特に大きな帝国や連合国、皇国の影響によって成されたと噂が立てばどうなるでしょうか?」

 

 グレンは静かな顔で

「つまり、この地域の平和を乱さない為に…」

 

 ネオは頷き

「グレン医師の噂は、私どもドラグアース帝国にも及んでいます。異種族の治療の為ならムチャをする若い青年の医師だと…。そんな人物が、治療の為にこの製法を密かに持ち帰った所で、悪評ではなく賞賛が送られるでしょう」

 

 グレン医師がフッと笑み

「そういう意図があるのでしたら、喜んで製法を受け取りますが…これが師のいる中央病院まで伝わるかもしれませんよ」

 

 ネオが頷き

「それも想定済みです。まずは、この診療所が最初に使い始めたという事実さえ、あれば十分です」

 

 

 こうして、新型抗ウィルス薬の製法を行う為に必要な薬品を探しに出る。

 リンド・ヴルム街にある薬品専門店へ訪れる一行。

 診療所のグレンとサーフェ、製法を伝えるネオ達四人。

 製法に必要な薬品リストをサーフェに渡すと、薬学担当のサーフェも舌を巻いた。

「こんなのあるかどうか…」

 

 ネオが

「とにかく、探しましょう。無い場合は現地で調達せよと…」

 

 街の薬品店で薬品を品定めするグレン、サーフェ、ネオ。

 その後ろ姿をスタンク、ゼル、クリムが見詰め、スタンクがサーフェをニヤニヤと見詰め

「あの看護師のラミアの姉ちゃん。いい女だなぁ…」

 

 クリムが

「ダメですよスタンクさん」

 

 スタンクが

「何でだよ」

 

 クリムが

「多分、あの二人…付き合っていると思いますよ」

と、グレンとサーフェを指差す。

 

 スタンクが

「推定の話じゃあ、無いのと一緒だ。よし!」

と、スタンクがサーフェに近づき

「なぁ…ええ…サイホン・コーヒーだったか?」

 

 サーフェが苛立った顔で

「サーフェン・ティットです」

 

 スタンクは堂々と

「どうだい? オレと付き合わないか!」

 

 サーフェが苛立った顔をして、グレンに巻き付き

「こら、サーフェ」

「残念ですね。私はグレン先生と一緒になる予定なので…」

「さ、サーフェ」とグレンは顔を真っ赤にする。

 

 スタンクが腕組みして

「なんだよ。ゲットされていたのかよ」

 

 ネオが鋭くスタンクを見て

「お前、邪魔をするなら…依頼を外すと同時に損害賠償も付けるぞ」

 

 ネオの強烈な殺気にスタンクが引き下がり

「わ、悪かったよ。すまねぇ…。てか、オレ等、この街の良い所を宣伝するっていう仕事を受けているんだぜ」

 

 ネオが鋭い顔のまま

「こっちが本来の目的であって、お前達はその次いでだろうが…」

 

 スタンクが青ざめて「あう…すいません」と、下がった。

 

 その後、色んな薬局を回って、調達できない素材は、探して調達する事になった。

 サーフェが

「わたし、スキュテイアー運送の方に長期の足の手配をして来ますね」

 

 ネオが

「その代金もこちらで持つので、その運送会社に…」

 

 サーフェが

「先生、調達した薬の保管を」

 

 グレンは頷き

「分かった。後は頼んだよサーフェ」

 

「はい」とサーフェはネオを連れてスキュテイアー運送の方へ行った。

 

 グレンはスタンク達と共に診療所の方へ戻り、調達した薬を置いてサーフェ達の帰りを待っていると、スタンクが

「アンタ、この街は…詳しいよなぁ…」

 

 グレンが渋い顔をして

「一通りはですが…」

 

 ゼルが

「じゃあ、オレ達、この街の良さを伝える宣伝係なんだわ。その仕事をさせてくれないか?」

 

 グレンが首を傾げ

「はぁ…それが、自分に、どう?」

 

 スタンクがグレンの肩を抱き

「簡単だよ。兄ちゃんにこの街を案内して欲しいんだわ」

 

「はぁ…」とグレンは生返事だ。

 

 ゼルが

「色んな料金は、こっちで持つから頼むよ」

 

 グレンはホホを掻き

「サーフェ達に…」

 

 スタンクが

「書き置き一つで良いだろうし、ちょっとだけなんだ。良いだろう」

 

 グレンは首を傾げるも

「分かりました」

 

 スタンクが

「よーし じゃあ、早速、行こうぜ!」

 

 グレンが

「観光名所ですか? それとも有名なレストランとか?」

 

 スタンクが卑猥な指の形をして

「これよ! 色町よ!」

 

 グレンの目が点になり

「え? 色…町ですか…」

 

 ゼルが

「オレ達、色町専門、つまり、そっち系のレビュアーなのよ」

 

「ええええええ!」

と、グレンは驚く。

 

 スタンクがグレンを引っ張って行き

「大丈夫、アンタを巻き込まないから! ね、ちょっとだけ、先っちょだけ付き合ってくれれば良いから!」

 

 グレンは戸惑いながら

「自分は、案内するだけですよ。本当に…」

 

 スタンクがウブなグレンの反応に

「もしかして、兄ちゃん、まだ…ラミアの姉ちゃんと…」

 

 グレンは真面目な顔をして

「その…そういうのはチャンと結ばれてからでないと…」

 

 スタンクとゼルは怪しい笑みで、クリムは昔の自分を見ているようで気恥ずかしくなる。

 

 スタンクが

「分かった分かった。案内だけでいいか、一緒に行こうぜ」

 

 グレンが

「案内だけですよ」

 

 スタンクとゼルは、案内だけで済ませるつもりはない。

 クリムは顔を覆って、幼気な彼が、グレンが堕とされるのを黙ってみているしかなかった。




最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話もよろしくお願いします。

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