そして…
雨の日は嫌いだ。
あの日を思い出す。
彼女は、嫌な気持ちを抱えて屋敷の窓から雨空を見上げた。
彼女は人族のとある村で生まれた。
父親は、そこを治める地主で、村人も暖かく穏やかに過ごしていた。
彼女には幼馴染みの男の子がいた。
その彼は絵が上手かった。
だから、沢山、似顔絵を描いて貰った。
両親が健在の自分、両親が幼い頃に無くなり祖父と共に二人暮らしの幼馴染みの彼。
彼の家は貧しかった。
地主であった父親は、彼との事を良くは思っていなかった。
お金持ちの地主と、貧乏で絵だけが取り柄の彼。
やがて、祖父も亡くなり彼が一人になってしまった。
彼女は、そんな彼を想い。
彼の家に足繁く通っていた。
彼女の父親はいい顔をしない。
娘である彼女には幸せになって欲しかった。
幸せになるには、それ相応の甲斐性がないといけない。
幼馴染みの彼には絵を描く以外、特技はなかった。
それ以外の収入は、僅かな配達の賃金だけ。
そんな貧しい生活の中で彼は、絵をとある賞に出品した。
賞をとる事は出来なかった。
それでも彼は、絵を続けた。
優しい彼のタッチが、彼女は何よりも好きだった。
優しい彼は、その描く優しい絵画のように暖かい。
彼は、絵を色んな賞に出品して…選ばれる事はなかった。
だが、賞は取らなかったが…とある資産家の目に留まった。
彼は、その資産家の援助を受けて絵を描いてオークションに出品する。
それは高値で売られ、彼は生計を立てられるようになった。
その話を彼女の父親は聞いた。
そして、彼を愛していた娘に、彼と結ばれるなら、とあるオークションで高値で絵が売られるようになりなさい、という条件を提示した。
彼女と彼は愛し合っていた。
だから、彼は絵を描き、そのオークションに出品し続け、三度目にしてオークションで一番の高値を叩き出した。
彼女は彼と共に喜び、彼女の父親も彼との仲を認めてくれた。
そうして結ばれる筈だった。
だが、世の中は残酷なのが常だ。
異種族との戦争が勃発して、彼女のいる領地は敗退して、その報酬として男性を欲した。
異種族の中には、男性が生まれない異種族がいて、人の男性を補充しなければ、子孫が増やせない。
異種族との戦争に敗れた彼女の領地は、犯罪者を除く十二才の子供から二十歳までの孤児の男を異種族に。
その異種族が直々に乗り出し、孤児の男達を狩っていった。
その中に彼女の愛していた。
結ばれる筈だった彼がいた。
「お願いします! アネロだけは…お願いです」
雨の中で彼女は、彼を連れ去ろうとする異種族達に頭を下げていた。
連れて行かないで、二人を引き裂かないで…。
何度も願い乞うも、異種族達も逼迫していた。
このままでは、自分達は子孫が残せず絶滅する。
彼女の父親が大金を持ちだして
「どうか…これで…」
それは地主の父親が持っていた大量の金貨だ。
何かの為に貯め続けた資産だった。
それを異種族達に差し出して、彼だけでも…娘の幸せを守る為に…。
大量の金貨を前にして異種族達は、その金貨の入った宝箱を蹴り上げた。
金貨なんかより、子種を提供してくれる男の方が…何倍も大切なのだ。
彼、アネロはその異種族の所有物であるという鋼鉄の首輪をされて、連れて行かれた。
アネロは、これから結ばれて幸せな家庭を築くはずだった彼女、ミレアに
「僕の事は…忘れて。誰かと結ばれて幸せになってね」
連れて行かれるアネロにしがみ付こうとするミレアを異種族達は、杖で叩き
「ああああああああ!」
ミレアは雨で緩くなった地面を噛んだ。
ミレアは、全てを失った。
生きる気力もなくなり、ミレアの父母は生きる力を失った娘に途方に暮れた。
ミレアだけではない。
同じく結ばれる筈だった女性達も、孤児という理由で連れ去られた将来の伴侶を失って生きる気力が無くなった。
そんな彼女達を教会のシスターが集めて、一人一人、心の治療を始めた。
立ち直る者達もいたが…僅かな者達は、気力を取り戻す事はなかった。
とある夜、ミレアは…アネロの家へ歩いていった。
そこで、ミレアは幻に生きる。
アネロと過ごした日々、二人して幸せになろうと頑張った日々。
その幻の中で、誰もいないアネロの家で幻の中で暮らす。
だが、その中でパンと手を叩く音が響いてミレアは幸せだった幻から残酷な現実に戻された。
泣き崩れるミレア。
そこへ
「どうしたのですか?」
知らない若いシスターがミレアを優しく介抱する。
ミレアは家のベッドに座り泣きながら全てを話した。
アネロと幸せになろうと頑張った日々、アネロを異種族に奪われた事。
それを聞いた若いシスターが微笑み
「アナタは…どうしたいのですか?」
ミレアは泣きながら
「アネロを…取り戻したい」
と、切実な願いを告げる。
シスターは微笑み
「それは本心からですね」
ミレアは頷く。
シスターは微笑み両手を広げて
「では、アナタに…我が神の祝福を…」
それは悪魔の笑みだった。
それは残虐な神の使いの嘲笑だった。
だが、ミレアはそれに縋った。
アネロとの幸福を取り戻す為に。
そのシスターが仕える神とは、
シスターの背後から獣の爪を持つ大きな手が伸びる。
その手の内側には、三つの花弁のような目と、三つの花弁のような獣の口を持つ凶悪な罪喰いの端子が現れた。
次の日、異種族によって将来の伴侶を奪われた彼女達が消えた。
時間は、今…。
ソームンドの使いが罪喰いの聖女達がいる館に来る。
「リンド・ブルムにいる大罪人を食い殺して欲しい」
館にいる罪喰いの聖女達は鋭い視線をソームンドの使いに向ける。
ソームンドの使いは引き気味に
「リンド・ブルムは…異種族と手を組んで世を乱そうとする者達の巣窟、まさに、世界の邪悪の根源である。罪の撲滅こそ、汝達の悲願であろう」
罪喰いの聖女達は静かである。
そこへ奥から彼女達を纏めるシスターが現れ
「確かに我らは、罪を喰らい浄化する者。ですが…それが本当の事であるなら…動きましょうが…」
と、シスターが微笑む裏に殺気が隠れる。
ソームンドの使いはゴクリと唾を飲み込み
「お前達が活動する資金や、こうして館を提供しているのは、ソームンド様のお陰であって…」
シスターが微笑みを消して
「成る程…つまり、我らを都合の良い手駒に…という事で…」
ソームンドの使いが怯えて下がると、その後ろに罪喰いの聖女達が囲む。
シスターが冷たい目で
「いやはや…今までは罪を狩れるので飼われてやっていたのに…」
ソームンドの使いを背後から押さえる罪喰いの聖女達の背中から罪を喰らう巨大な手、喰手触手が伸びる。
「や、やめて」
と、次を言う前に、罪喰いの聖女達の喰手触手に喰われてしまった。
シスターの隣に別の罪喰いの聖女が来て
「シスター」
シスターは呆れ気味に
「所詮、罪を犯した愚かな男達。浄化してあげましょう」
別の罪喰いの聖女が来て
「シスター 今後は…」
シスターが怪しく笑み
「問題ありません。幾らでも当てはありますから」
ソームンドの使いを喰った罪喰いの聖女が
「シスター」
と、ソームンドの使いから得た情報を話す。
シスターは考え
「興味深い…」
そこへ罪喰いの聖女のミレアが来て
「シスター その者達の見定めは私が行きましょう」
シスターが頷き
「お願いしますね。我々はソームンド達の罪を喰らった後…合流地点を後ほど…」
ミレアは頷き
「では、行って来ます」
ネオ達は、グレンの診療所で、新薬の開発を行っていた。
グレンもサーフェもその新薬、ネオが提供したウィルス薬とターゲット式免疫学習ワクチンの仕組みに驚いている。
サーフェが
「こんな技術…信じられない。先生、これなら理論上、全てのウィルスに関してのワクチンと薬が作れます」
グレンも完成した薬と製造方法を知り
「そればかりじゃあない。これを使えば…有害な細菌だけを殺す薬が作れる」
ネオが
「基本的にウィルスは取り付く細胞がなければ生存できない。細菌もまた細胞のシステムで動いている。ウィルスの細胞に取り付くシステムを封じる方法を知れば、自ずと細胞がどうやって形を保っていると分かる。それを応用しているのです」
サーフェが
「確かにこれなら…新型のウィルスが出て来ても直ぐに終息させられたのも頷けるわ」
ネオが厳しい顔で
「後は…実績ですが…」
後ろで見ているスタンクが
「だったら、この街の花街の連中に使ってやってくれないか?」
ネオ達がスタンクを見る。
スタンクが
「この街の花街は、そういう衛生的な事がしっかりとされてねぇ。オレ達の大陸にある性病とか妊娠を防ぐ魔法が来るのも、まだ…先だろう。だったら、その花街のサキュ嬢達を救う事をしてくれよ。その…話はちんぷんかんぷんだけど、薬を応用すれば、避妊薬にもなるだろう」
ネオが驚きを向け
「おまえ…下半身にしか脳みそがついていないと…思っているが。たまに凄い事を言う」
スタンクが苛立ちで
「オレだって考えて生きてんだよ!」
サーフェが
「確かに、これを使えば性病を防いだり治す薬や避妊薬も…」
と、グレンを見ると、グレンは考えている。
「グレン先生?」
グレンは
「それは、そうした方が良いのは分かりますが…それは、本来の病気を治した後、効力が分かってからの方が良いかもしれません。そうでないなら…花街で実験したと…悪評が立ちかねません」
スタンクが頷き
「確かに…」
サーフェが
「しかし、そんなに都合良く病気が…」
そこへ「グレン医師!」とクナイが入って来た。
グレンがクナイに
「どうしたんですか?」
クナイが厳しい顔で
「グレン医師、リンド・ヴルムより南東のラミアの街で今までにない病気が流行しているようだ。竜闘女様が、グレン医師に授かった病気を治す技術で、何とかして欲しいと…」
グレンは鋭い顔で
「分かりました」
ネオがスタンクに
「諸々の手配を手伝うぞ」
スタンクが「はいよ」と加勢する。
ネオ達、ネオ、スタンク、クリム、ゼルの四人は、グレン達の出立の準備を手伝う。
グレンが殺ウィルス薬を付与させた特製のマスクを荷物の運搬を頼むスキュティイアー運送のケンタウルス達に持たせて
「街に到着したら、必ずこのマスクをしてください」
グレン達の荷物、新薬の材料と製造機を乗せたケンタウルスの運搬隊は、グレン達を乗せて目的のラミアの街へ走る。
その手伝いに、アラクネのアラーニャも同伴してくれる。
ネオ達は、ネオが輸送戦闘機に変形して、スタンク達を連れて先に行く。
到着してすぐにウィルスの検体を確保する為だ。
ウィルスの遺伝情報の検体を手に入れれば、すぐにでも対応したワクチンや薬を作れる。
こうして、新たな新薬の効力で救う事が出来る実地が始まった。
次話もよろしくお願いします。