ある晴れた日――。
南部重工業の艦船ドックでは、その日、新造戦艦のお披露目が行われていた。
「お集まりの皆さん。地球連邦の頼もしい新戦力の完成を、心から祝福したいと思います」
地球連邦政府大統領が、挨拶すると、集まった人々から大きな拍手が起きた。
艦船ドックの艦の足元には、地球連邦政府や、軍の高官、そしてマスコミが大勢集まり、その姿を目撃していた。
アンドロメダの名が付けられたその船は、一年以上の時間をかけて建造された。その名が、これまでの艦船と異なり、日本海軍の伝統的なものでは無いのには、理由があった。遠い宇宙の彼方まで旅することが可能な船として、伝統的な名よりも、新時代の幕開けに相応しい名前がよいとして考案されたものである。
ヤマトが建造された時には、後から波動エンジンが取り付けられたが、今回、最初から波動エンジンを搭載して建造された人類史上、初の艦船である。アンドロメダは、地球のこれからを担う、特別な艦だったのだ。
アンドロメダと並行で建造された派生型戦艦が二隻あるが、こちらには後付けで波動エンジンが取り付けられた。開発中は、単に主力戦艦というコードネームで呼ばれていたこれらの艦は、ナガト級として一番艦にナガト、二番艦にムツの伝統的な名が与えられた。
その他にも、アンドロメダのドックが空き次第、土方司令が要望した空母型艦船の建造が本格化する予定である。こちらは、シナノ級空母一番艦シナノとして建造される予定である。主力戦艦と同様に、アンドロメダ級をベースに設計され、艦体上部の兵装や艦橋構造物を全て廃し、飛行甲板と新たな艦橋を設ける。更に、ガミラス戦闘空母を参考にし、飛行甲板に砲台を出すことが可能な仕組みになる予定だ。艦載機格納区画を設ける為、当然波動砲も装備しない。
南部重工業では、これらの艦船以外にも、新型の駆逐艦や、主力戦艦の増産中であった。
そこに集まっていたのは、藤堂長官や芹沢らはもちろん、ガミラス駐在大使として、ランハルト・デスラーの姿もあった。
「我が国の技術供与のお陰で、ようやくお披露目できたんだな。おめでとうと言わせて貰おう」
ランハルトが隣にいる芹沢に言った。
「言い方が気になるが、一応、礼を言っておこう。皆、波動コアの製造方法の技術供与には感謝している。そっちはどうなんだね?」
芹沢は、波動砲搭載艦をガミラスが開発しているのかを気にしていた。
「差し詰め、数が多い方が有利とでも考えているのか?」
ランハルトは、冷たい表情で、横目で芹沢を見ていた。
「気にするのは当然のことだ。波動砲搭載艦をそちらが量産して戦力バランスが崩れれば、我々の同盟にひびが入る可能性だってある」
ランハルトは、不快な表情で、芹沢を睨み付けた。
「軍の責任者のあなたが、そこまで言っていいのか?」
藤堂長官が口を挟んできた。
「芹沢くん。気持ちはわかるが、政治家の領分だ。やめておきたまえ」
芹沢は、二人を前にして、少々出過ぎた真似をしたと考えた。
「……失礼しました。忘れて下さい」
ランハルトは、目を伏せてうっすらと笑っていた。
「いいだろう。あなたに教えても。我がガミラスのバレル大統領は、まだ開発の指示を出していない」
芹沢も藤堂長官も、その発言には驚きを隠せなかった。
「大統領は、そんなものは必要ない、とのお考えだ。あの大彗星の一件があった後なのに、とタラン国防相は反対しているがね」
「ならば、何のために同盟を?」
「簡単なことだ。地球と本当に友好関係を築きたいからさ。そういう人だ、というのは、あなたはガミラスで確認したと思うが?」
芹沢は、呆気に取られていた。
「そ、それが事実だとすれば、大変なことだ」
ランハルトは目線を、アンドロメダの方に向けた。
「そうだな。むしろ、戦力バランスを積極的に崩そうとしているのは、あんたがたの国家の方だ」
「わ、我が国は、貴国との戦争で、まともな戦力が残っていないのは、知っているだろう? それに、この銀河系には、強大な二大星間国家の存在もあり、我々は、戦力を増強するのが急務だ。これは、それらの国家からの侵略を受けないようにするために必要な開発だ」
ランハルトは、アンドロメダの波動砲口をじっと見つめた。
「バレル大統領は、あんたがたと事を構える気はない。安心しろ。好戦的な大統領に代わったら、話は別だろうがな」
芹沢は、バレルが大統領のうちに、戦力を出来る限り増強しなければ、と心に誓った。
そして――。
艦船ドックの近くにいたものたちは、近くに建設されていた、指揮所に移動して、建物の上階からアンドロメダと主力戦艦の姿を見ていた。
テスト飛行に出発するため、待避していたのだ。
「では、アンドロメダとナガト、ムツの三隻は発進します。皆さん、大きな拍手を」
アンドロメダの波動エンジンが始動し、艦底部のロケットが噴射した。続いて、同様に主力戦艦の波動エンジンも始動して、艦底部のロケットが噴射した。
三つの艦は、指揮所よりも高いところまで垂直に上昇し、そこで波動エンジンを咆哮させた。そして、急激に加速して、一気に上昇していった。
そこにいたものが見守る中、空の小さな点になり、やがて見えなくなった。
アンドロメダと主力戦艦のナガトとムツは、一気に大気圏外に飛び出していた。
「山南司令、星系内航行速度に移行します」
「あぁ、もうちょい飛ばしてくれ。そうだな、星系内航行速度の三十パーセント増しってとこで頼む」
アンドロメダの艦長の山南は、三隻の司令官も兼任していた。彼は、のんびりした表情で航海長に指示をした。
「いいんですか?」
「かまわんよ。この艦は、地球連邦の希望の船だ。皆、避けてくれるさ」
「わかりました。増速します」
アンドロメダは、エンジンを更に咆哮させて、スピードを上げた。
それに慌てた、ナガトとムツも速度を上げた。そのナガトから通信が入ってきていた。
「艦長、ナガトの艦長から連絡です」
「スクリーンに出せ」
「山南司令! 星系内航行速度で行くとブリーフィングで確認したでしょう!」
「悪いねぇ、大村くん。こいつの性能がどの程度か、見たくなっちゃったのよ。お堅いことは言いっこ無しで行こうや」
「しかし……他の艦船の航行ルートへの影響だって出てしまいます」
「真面目だねぇ。若さってなぁいいねぇ。嫌いじゃないよ。でもまぁ、遅れずに着いて来てくれ。通信終わり」
スクリーンから、大村の姿が消えた。
「さあ、行こう!」
三隻は、速度を上げて火星軌道を目指した。
地球の軌道上に待機していたランハルトの護衛で常駐するガミラス艦隊でも、この三隻の姿を捉えていた。
「ガゼル司令、テロンの新型艦三隻が飛び立って行きました。いずれも、艦種識別は戦艦、イスカンダル製の波動エンジンを搭載し、波動砲を装備しています」
ゲルバデス級戦闘空母ダレイラでは、レーダー手から報告を受けた艦長のバルデスがガゼル司令に報告していた。
「データは取ったかね?」
「もちろんです」
「やれやれ、ヤマトのような船が、一気に三隻もか」
ガゼル司令は、地球の強力な艦に呆れていた。
「我がガミラス軍にも、あれは欲しいですな」
バルデス艦長は、地球の船を羨望の眼差しで見ていた。
「これを聞いたら、さぞやディッツもぼやくことだろう。すぐに連絡してデータを送っておいてくれ」
このテスト航海の事前の計画では、火星軌道から木星軌道まで、ワープのテストをする予定だった。そして、木星を周回して、すぐに地球に帰還するのだ。
「山南司令、火星軌道に到達しました。予定より三十分早く到着しています」
山南は、嬉しそうな顔をしていた。
「いよいよ、ワープ初体験って訳だ。楽しみだなぁ。お前らも楽しみだろ?」
艦橋内の若い士官らが、嬉しそうにしている。
「ワープで飛ぶのが、防衛大にいるときからの夢でした!」
「私も! すっごい楽しみ!」
山南は、満足そうな顔で頷いた。
「俺もだ! あ、でも女性の乗組員は、服が透けたりするらしいから、くれぐれも気をつけて、な」
士官の若い女性の乗員が返事をした。
「大丈夫です! でも、積極的に見ようとする人がいたら告発するので、覚悟しておいて下さい!」
彼女は、笑顔で皆に声をかけている。それを口を開けて見つめていた山南は、小声でぼそっと言った。
「告発って……今の若い子はおっかないこと言うねぇ」
アンドロメダと主力戦艦ニ艦は、ワープに向けて速度を上げ始めた。
「ワープ五秒前、四、三、ニ、一、ワープ!」
三艦は、火星軌道からワープして消えた。
その頃、ヤマトと他の小型駆逐艦五隻からなる太陽系外縁パトロール艦隊は、別の艦隊と交代して地球に向けて帰還の途についていた。波動エンジンを搭載していない小型駆逐艦の速度に合わせて、ヤマトはゆっくりと航行していた。
一年近く前にガミラスから帰還した後、古代は三等宙佐に昇進し、異例の若さでヤマト艦長に就任していた。そのヤマトには、土方も極東管区艦隊総司令として一緒に乗艦していた。
その土方は、艦長席の隣に立っていた。
「古代。地球に着いたら、俺は空母型艦船が完成するまでは、地球防衛軍司令部にいる。後は頼んだぞ。山南には、極東管区艦隊の指揮官として、しばらく動いてもらうつもりだ。一緒に上手くやっていけよ」
古代は、土方を見て微笑んだ。
「はい。もちろんです。土方総司令が、また宇宙に戻って来られるのを首を長くしてお待ちしていますよ」
ヤマト率いる艦隊は、その時ちょうど木星軌道に差し掛かっていた。
アンドロメダとナガトとムツは、ワープアウトして、通常空間に現れた。
「ワープ終了」
「山南司令! 見て下さい! 木星です!」
山南は、艦橋の窓の外に、大きく木星が見えているのを確認した。
「これが、ワープか! 凄いじゃないか、ほんの一分ぐらいしか経ってないぞ!」
レーダー席の士官が突然叫んだ!
「山南司令! すぐ近くに他の艦隊がいます! 衝突コースです!」
「おー、どの船だ?」
「土方総司令の、太陽系外縁パトロール艦隊です!」
山南は、苦笑いして小声で言った。
「どんぴしゃ、だな」
ヤマトに乗艦していた雪も、アンドロメダ艦隊を発見して、慌てて報告していた。
「艦長! 目前にワープアウトした艦隊がいます! 新造戦艦のアンドロメダと主力戦艦二隻、衝突コースです!」
「何!?」
驚く古代を尻目に、土方は、苦笑いしていた。それには気付かず、古代は即座に指示をした。
「回避行動! 左舷に転舵しろ!」
その指示を遮ったのは、土方だった。
「いや。待て。ヤマトだけコースこのまま。他の艦はすぐに転舵させろ」
古代は、土方の指示に困惑していた。
「土方総司令、しかし……」
土方は、にやりと笑って古代を見た。
「俺を信じろ。アンドロメダ艦長の山南の性格はわかっている」
その山南は、全艦に指示を出していた。
「ナガトとムツにもすぐに伝えろ! コースそのまま! 波動防壁展開急げ!」
技術科の士官が慌てて復唱した。
「波動防壁、至急展開準備します!」
「艦長、波動防壁展開しました」
ヤマトでは、落ち着いた声で、新米が報告してきた。
「よし、コースそのまま」
古代は、土方の指示に従って対処していた。既に、アンドロメダとナガト、ムツが肉眼で見えていた。
「ほんの少しだけアンドロメダの左に行け。出来るか?」
土方は、操舵席の太田に指示を直接出していた。
「はい、いけます!」
太田は、右舷のスラスターを少しだけ噴射して、アンドロメダのすぐ左を通過出来るように僅かに移動した。
ヤマトの乗組員は、冷静に対処していた。
「山南司令! だめです! 衝突します!」
山南は、のんびりした口調で技術科の士官に言った。
「波動防壁、もう展開しないと不味いんじゃない?」
その士官は、波動防壁の制御室の乗員に必死に指示をしていた。
「た、たった今、展開しました!」
「お疲れ! よーし、皆、衝撃に備えろ!」
ヤマトとアンドロメダは急速に接近していた。そして、ぎりぎりの場所を双方が高速ですれ違った。すれ違う一瞬、波動防壁同士がぶつかり合う、青いイナズマのような光が飛び散った。
そして、ナガトとムツも、ヤマトの隣の少し距離をおいた位置を高速で通過していった。
山南は、スクリーンに映る、既に通りすぎて後方にいるヤマトを確認した。
「さすが、親父。わかってるじゃないか」
山南は、次の指示を出した。
「波動防壁展開を終了しろ。艦を回頭して、ヤマトに追い付け」
ヤマトが速度を落としていたので、アンドロメダと、ナガトとムツは、すぐに追い付いた。
艦橋の窓から、すぐ近くにいるヤマトを確認した山南は、ゆっくりと通信用のマイクを掴んだ。
「ヤマトに繋げ」
スクリーンに、古代が映った。
「こちら、アンドロメダ艦長の山南だ。予定していた全てのテストを完了した。これより、貴艦らと一緒に地球に帰還の途に着く。同行を許可されたし」
古代は、少し困惑していたが、返答した。
「こちら、ヤマト艦長の古代。貴艦の申し出を受ける。しかし……」
抗議しようとしていた古代の隣に、土方が現れた。
「馬鹿者! 何をやっとるか!」
突然、土方が、山南に向かって大声で怒鳴った。山南は、久しぶりの土方の雷を、懐かしいと思っていた。
「土方総司令、ご無沙汰しております。少々、やり過ぎたようでした。申し訳ありません」
山南は、少しも悪びれた様子もなく、謝罪をしていた。土方は、怒りの表情から、次第に不適な笑いに変わっていった。
「貴様、波動防壁のテストなど予定してなかっただろう。ヤマトを利用してテストしたな?」
「さっすが親父。その通り。ヤマト相手ならいいテストになると思っていました」
「ついでに、部下の練度も確認したな?」
「何でもお見通しですね。お陰様で、少々訓練が必要だということがわかりました」
「まったく、お前と言う奴は……」
山南は、土方ににやりと笑った。
「そんなこと言っても、ちゃんとテストに付き合ってくれたじゃありませんか。じゃぁ、ちょっとそこまで、一緒に帰りましょうか? 帰ったら、一杯やりましょう」
山南は、ちょっとそこまで飲みにくような言い方で、土方に目配せした。
ヤマト率いるパトロール艦隊と、アンドロメダ艦隊は、合流してゆっくりと地球に向けて出発した。
山南に呆れた土方は、古代に指揮を任せて艦長室に上がっていった。
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。