ガゼル司令と山南は、スクリーンの映像を通じて会話をしていた。
「デスラー大使が説得に失敗し、冥王星基地のガリア少佐が人質を連れて逃げたようだ。基地にいたザルツ兵が、一人撃たれて重傷を負っている。我々は、これより強襲部隊を送り込み、人質の救出作戦を展開する」
山南は、怪訝な表情で確認をした。
「なら、あの攻撃機隊は、何の為に発艦させたんですか?」
「残念ながら最悪の事態も考えられ得る。もしも、大使の身が無事でないことが確認された場合、冥王星基地を空爆して、これを完全に破壊する」
山南は、そのガゼル司令の言葉に衝撃を受けた。そして、最大の懸念を口にした。
「ちょっと待って頂きたい。人質の安全を最優先にして欲しい」
「ガリア少佐の動きによってはどうなるかわからん。我々にとって、最も重要なのは、大使の生命の安全だ。もちろん人質の地球人も助け出すよう努力する。我軍の強襲部隊が、速やかに基地を制圧して解決するだろう」
山南は、話にならないと呆れていた。
「ガゼル司令。そのやり方では、ガリア少佐を刺激して犠牲者が増えてしまう可能性がある。彼は、戦争が終わったことを知らないだけの戦争の犠牲者だ。これ以上、誰も傷付かずに穏便に解決したい。申し訳ないが、我々も独自の救出作戦を展開させて頂きたい」
「やめて欲しい。我々の作戦の邪魔にならないようにしてくれ。以上だ」
唐突に通信は切れた。
山南は、事態の急変に混乱していたが、咄嗟に土方の許可をもらわねばと思い出し、通信長に指示をした。
「地球連邦防衛軍司令部に緊急通信! 急げ!」
長距離通信は、接続に時間がかかる。山南は、苛立ちながら、通信が繋がるのを待った。
そして、スクリーンに、ようやく土方の姿が映った。
「どうした、山南」
「土方総司令。冥王星基地の司令官ガリア少佐は、デスラー大使の説得に応じず、基地のガミラス側の兵士に重症者が出る事態となりました。ガリア少佐は、山本二尉を連れて逃げ、デスラー大使自身がこれを追っているそうです」
土方は、渋い顔になった。
「状況は良くないようだな」
山南は頷いた。
「ガミラス護衛艦隊のガゼル司令と、この件でつい先程話し合いました。彼らは、この事態に対処する為、基地を制圧する強襲部隊を送り込むそうです。また、その作戦も失敗した場合、空爆して基地を破壊すると通達されました」
「何?」
「ガミラス側は、デスラー大使の生命の安全を最優先で考えており、人質の救助は努力目標のようです。我々は、山本二尉の救助を最優先とし、独自の救出作戦を展開したいと思います。ガミラス側が、人質の安全を無視しようとする場合、我々は彼らを阻止すべく行動を起こします」
土方は、暫し考えていた。
「いいだろう。救出作戦の展開を許可する。しかし、我々の行動は、ガミラスとの間で、予期せぬ軋轢を生むかもしれん。例え我が方の人質の命を失ったとしても、絶対にガミラスとの交戦は避けなければならない。俺たちは、二度と戦争をしてはならんのだ」
「しかし……」
「俺だって、人質となった山本二尉の身を案じている。だが、お前も、艦隊司令を任された立場なら、大局的な観点からものを考えなければならん。再び戦端を切るような真似を絶対にしてはならん。考えても見ろ。もしも再び戦争になった場合、お前たちの艦隊四隻だけで、ガミラスとの戦いに勝つことは不可能だ」
山南は唇を噛んだ。
「わかりました。それでも、我々がやれることはすべてやらせて下さい」
土方は頷いた。
「俺は、お前を信頼している。地球の命運を危険に晒すような真似は絶対にしないと、俺は信じている」
「わかりました」
「俺は、上に報告して防衛会議を緊急で開くよう要請しておく。少なくとも、その判断があるまでは、俺たちから攻撃をするような真似はするな。以上だ」
山南は、通信が切れると、通信用のマイクを叩き付けた。
「味方が死ぬかも知れないってのに、手を出すなってことですか? 艦隊司令の立場なんて、俺はごめんだ。やれることは、俺の判断ですべてやらせてもらいますよ、土方さん」
山南は全艦隊に通信を送った。
「諸君、現在の状況は把握しているな?」
スクリーンに、古代と大村、井上が映っていた。
「はっ!」
「救出作戦の展開が許可された。今なら、冥王星基地は混乱しており、対空砲台は機能しないはずだ。ヤマトとアンドロメダの航空隊を緊急発艦させ、基地上空で待機させろ。至急、ヤマトの乗員から選抜した救出部隊を編成し、冥王星に降ろせ。各艦は、戦闘配置に移行して待機。場合によっては、ガミラス艦隊と一戦交える可能性もある」
各艦長は驚きを隠せなかった。
「ガミラス艦隊と一戦交えるですって?」
古代は、山南に確認した。
「最悪の場合に備えるだけだ。我々の目的は、山本二尉を無事に救出し、冥王星基地のガミラス兵を基地から連れてきて穏便に脅威を取り除くことだけだ。それらの目的を、ガミラス艦隊が妨害する場合、そういう可能性もあるということだ。わかったら、至急、指示を実行に移せ!」
「はっ!」
各艦隊の艦長は、敬礼で応えた。
通信を切った後、古代は艦内通信で指示を通達した。
「全艦戦闘配置! これは訓練ではない! 航空隊は、緊急発艦して冥王星基地上空で待機!」
通信を切った古代は、第一艦橋にいた篠原に指示をした。
「篠原! 君が中心となって、戦術科と航空隊から救出部隊を選抜して、冥王星基地に降下しろ! 急げ!」
憔悴仕切っていた篠原は、その命令で目が覚めたような表情をしていた。
「了解!」
篠原は、第一艦橋から飛び出していった。
山崎は、艦長席を振り向いて古代の方を見た。
「艦長、いいんですか、彼に任せて」
「篠原は優秀な軍人です。私は彼を信じています」
「本当は、自分で行きたいんじゃないですか?」
古代は、目を丸くして山崎を見た。山崎はにやりと笑っている。
「行きたいのはやまやまですが……。それは立場上出来ません」
山崎は、真面目な顔に戻って頷いた。
「賢明な判断です。艦長自ら艦を飛び出して行ってはいけません。部下を信頼して任せるのも、責任者たる艦長の仕事ですからな」
山崎は、にこやかに笑っていた。古代は、そんな彼に感謝して頷いた。
反射衛星砲の砲台が設置してある場所を目指して回廊を走っていたランハルトに、背後から声をかける者があった。
「待ってくれんか!」
ランハルトは、立ち止まって後ろを振り向いた。モーガン大尉が、銃を抱えて走って追って来ていた。ランハルトの元へ辿り着いた彼は、息を切らしていた。
「……このまま進んではいけない。侵入者防止の為の設備がこの回廊に設置されている」
ランハルトは、それを聞いて周囲を見回した。
「助かる。それは危ないところだったようだ」
ランハルトとモーガン大尉は、連れだってゆっくりと歩いて進んだ。そして、おもむろにモーガン大尉は、壁に隠されていた蓋を開けると、内部のパネルを操作した。
「これで大丈夫だ。壁に張り巡らせた電磁バリアがあり、侵入者を感電させる仕組みだ」
彼らが少し進むと、回廊の終端にドアがあった。モーガン大尉は再び壁のパネルを操作した。
「このドアの向こう側が、反射衛星砲の砲台が設置されている海底の設備だ。冥王星の海は、表面を厚い氷が覆っているが、海底は凍っていない。ドーム上の設備が、海水から砲台を守っている」
ランハルトは、腰に下げていた銃を抜いた。そして、ランハルトとモーガン大尉は、ドアの左右の壁際に隠れてから互いに頷き、パネルのスイッチを操作してドアを開いた。
すると、ドアが開いた途端に、中から激しく銃撃された。
ランハルトは、壁際に隠れながら中に向かって叫んだ。
「お前のやっていることは無意味だ! 今すぐに投降しろ!」
ドアの向こう側を少し覗くと、そこには、巨大な反射衛星砲の砲台があった。砲台へのエネルギー供給の目的か、太いチューブが幾つも床を這っており、砲台に繋がっている。天井を覆う巨大なドームがあり、その向こう側の海水が照らされてきらきらと輝いている。
モーガン大尉は、壁際から叫んだ。
「ガリア少佐! 既にヤーソン少尉は、ガミラス艦に運んで治療してもらっている。必ず助かるだろう! デスラー大使を信じて、ここを一緒に出よう。わしらと一緒に故郷に帰ろう!」
すると、反射衛星砲の影から返事が返ってきた。
「お、俺は、罰を受けてバラノドンの餌になった奴の話を聞いたことがある! そんな死に方はごめんだ! 絶対に帰っても大丈夫ということを証明してもらえないなら、俺は、ここでこの女を道ずれに死ぬ!」
再び、内部から銃撃が始まった。
「少佐!」
ランハルトは、モーガン大尉に向かって言った。
「話にならん。どうにかして、力ずくで連れて帰るしかない」
そこで、ランハルトは何かをふと思い出した。
「む……証明か。なるほど。同胞が信じられないというのなら、奥の手を使うか」
ランハルトは携帯している通信機を取り出した。
「こちらデスラー。この通信を至急、秘書のケールに繋げ!」
通信機の向こう側で、何やらやり取りが聞こえた。
通信士とガゼル司令との間でひと悶着あったのだろう。
そして、唐突に通信機の向こうから呼び掛けられた。
「大使。ガゼルだ。いったい何をしておる?」
ランハルトは、はやる気持ちを抑えて回答した。
「ガリア少佐が逃げたので追っている」
「あなたの要望通り、強襲部隊を編成して冥王星に降ろした。彼らに任せて直ぐ後退してくれ」
「俺は、兵士を数名降ろせと命じただけだ。誰が強襲部隊を編成しろと言った?」
「違ったのかね?」
「ガリア少佐を刺激して、これ以上犠牲者を出してはならない。俺に任せてくれ」
「任せたら、重傷者が出た。だから、私の判断で精鋭部隊を送り込む。部隊はわずかな時間で、基地を制圧出来るだろう。ガリア少佐の生命の保証は出来無いがね」
ランハルトは、腹を立てて言った。
「そんなことをすれば、人質が巻き添えで死ぬ可能性がある。俺が対処するのを待つんだ」
「駄目だ。そんなことが、あなたに出来るのかね? 我々は、あなたが無事に帰ることが最優先だ」
ランハルトは、苛つきを抑えながら言った。
「もういい。いいから早くケールを呼べ!」
じりじりと待ち続けている間にも、銃撃は断続的に続いた。
「お呼びですか!?」
ケールの笑顔がランハルトの脳裏に浮かんだ。
「お前に頼みがある」
「わかりました! すぐにそちらに向かいますね」
ランハルトは、苛々としながらケールを諭した。
「来てはいかんと言っただろう。兵としての訓練を受けていないお前は来ても役に立たん」
「……じゃぁ、何でしょう?」
彼のがっかりした顔が浮かんだランハルトは、益々苛々を募らせた。
「いいから良く聞け。お前に頼みというのは……」
冥王星基地の上空では、ガミラス空母から発艦した攻撃機十機が、五機づつ編隊を組んで円を描いて待機していた。その機体の主翼下部のパイロンには、八基の宙対地ミサイルと二発の宙対宙ミサイルが搭載されていた。
そこに、上空からヤマトとアンドロメダから発艦した航空隊のコスモタイガー十機が降下していった。加藤機を隊長として、ガミラス攻撃機隊の数百メートル上空を、同じように五機づつの編隊で円を描き始めた。コスモタイガーには、宙対宙ミサイルが四基、宙対地ミサイルが二基搭載されており、双方の主たる目的がはっきりとみてとれる。
「こちら加藤、予定の位置に降下し、上空で待機中だ。念のため確認だが、本気でガミ公とやり合うつもりか!?」
通信を受けたアンドロメダでは、山南が直接回答をした。
「最悪の事態になった場合だ。人質の無事が確認出来ない状況で、ガミラス機が空爆を開始するようなら、攻撃してでも止める必要が生じるかも知れない。だが、絶対に命令するまで発砲は厳禁だ。各機に厳命しておけ!」
「了解!」
加藤は、編隊を引き連れて飛びながら、全機に命令あるまで発砲厳禁と改めて伝えた。
「冗談じゃないぜ。味方同士で撃ち合うなんて。またガミ公と戦争なんて絶対に勘弁だ。篠原の奴が、早く山本を助け出せるといいんだが……」
「バルデス艦長! 冥王星基地上空に、地球艦隊の戦闘機隊が降下しました。我が軍の攻撃機隊の頭をおさえて飛び回っています。彼らの機体は宙対宙ミサイルを多数搭載しております」
バルデス艦長は、報告を受けて驚いていた。
「ガゼル司令! 地球艦隊は、我々への攻撃も辞さない構えのようです」
「何だと?」
ガゼル司令は、冥王星基地上空の映像を確認した。
「邪魔をするなと言ったはずだがな」
ガゼル司令は、苦み走った顔で暫し沈黙した。
「バルデス艦長、今すぐに地球艦隊との砲撃戦が可能な距離を取れ」
「了解! 距離を取ります」
ガミラス空母と駆逐艦二隻は、一斉に向きを変えて、地球艦隊から離れ始めた。
「山南司令! ガミラス艦隊が移動し始めました。我々から離れて行きます」
レーダー手の報告を受けた山南は、まさかと考えていた。
「ガミラス艦隊、駆逐艦二隻が射程圏ぎりぎりで停船しました。舷側をこちらに向け、駆逐艦の全砲門がこちらに向いています! 空母は、射程圏外で停船しました!」
山南は、一瞬だけ躊躇したが、全艦隊に通達するため、マイクを掴んだ。
「全艦、砲雷撃戦用意! 命令あるまで発砲してはならん! 繰り返す! 砲雷撃戦用意! 但し、命令するまで発砲してはならん!」
冥王星基地に降り立ったガミラスのシャトルと、ヤマトから降り立ったコスモシーガルから、双方の兵士が宇宙服で向かい合っていた。
双方、基地の入り口を囲んで睨み合いとなっており、一触即発の状況となっていた。
「テロン軍の兵士に告ぐ! 速やかにこの場を立ち去れ。我々の救出作戦の邪魔だ!」
篠原は、ガミラス兵のリーダーに向かって呼び掛けた。
「なぁ、味方同士で争ってどうすんの? 人質の安全を第一に考えてくれるんだろうねぇ?」
「我々は、デスラー大使の生命の安全が第一だ。デスラー大使を脱出させた後、人質も当然救助する。しかし、ガリア少佐が大使に危害を加える可能性があると判断した場合、射殺してでも無力化する!」
「冗談じゃない! 穏便に済ませようって考えはないの? おたくら。下手に刺激して山本二尉を危険にさらすようなら、俺たちも黙っちゃいないぜ!」
反射衛星砲の砲座の影では、ガリア少佐と山本が隠れていた。山本は、ガリア少佐のそばにいたが、両腕の手錠が邪魔で、格闘戦を仕掛けるのが、難しい状況だった。しかし、断続的に入り口に銃撃を加えている彼は、注意がそちらに向いており、隙だらけになっていた。逃げるなら、今しかないだろうと彼女は考えた。
山本は、彼の背後で腕を振り上げると、再び銃撃を始めた彼の後頭部に向かって、思い切り手首の手錠の金属の部分を叩き付けた。
彼が低く呻いて、銃を取り落としたのを見て、山本は飛び込んで銃を奪おうとした。しかし、ガリア少佐の方が一瞬早く、銃を掴んだため、山本は、体を回転させて横へ転がった。そして、目の前にあった反射衛星砲から伸びる太いチューブの向こう側へと飛び込んだ。
その直後、ガリア少佐は発砲し、銃弾は彼女の足をかすめていった。
「くっ!」
足に鋭い痛みを感じた彼女だったが、かすり傷だったのを確認してほっとしていた。
それも束の間、銃弾は、チューブに大きな穴を開けており、その穴からガスが山本に向かって吹き出した。ガスを思い切り吸い込んだ山本は激しく咳き込んだ。
基地内の問題発生を知らせる警告音声が自動的に流れ出した。
「警告、有毒ガス発生。反射衛星砲室の入口を、一分後に閉鎖します。警告……」
ガリア少佐は、立ち上がってチューブの影に倒れて咳き込んでいる山本に発砲しようとしていた。
しかし、入り口の方から銃声があり、銃弾はガリア少佐の腕をかすめていた。
「うわっ!」
再び銃を取り落としそうになったガリア少佐は、入り口の方を向いた。入口の影から飛び出したモーガン大尉が、走ってこちらに向かって来るのが見えた。
「モーガン! 貴様!」
ガリア少佐は、慌てて彼に向かって銃を向けて発砲した。銃弾は彼の足に命中し、モーガン大尉はその場に倒れて転がった。
ガリア少佐がモーガン大尉に注目している間に、同じく入口から飛び出したランハルトは、反射衛星砲の反対側の影に走り込んでいた。ガリア少佐は、慌ててランハルトへ銃撃を加えるが、彼が前方に飛び込んで避けた為、弾は当たらず床を跳ねた。
ランハルトは、倒れたままガリア少佐に銃を向けて、足を狙って撃った。しかし、弾は当たらず、ガリア少佐はランハルトの方へ更に銃撃を加えた。
「くそっ」
ランハルトは、床を転がって、反射衛星砲の砲座の影にたどり着き、そこに隠れた。
「警告、反射衛星砲室の入口を十秒後に閉鎖します。警告……」
音声を聞いたガリア少佐は、顔が青ざめた。
「まずい!」
そして、彼は一目散に入口に向かって走り出した。
「待て!」
ランハルトは、彼の足を狙って銃撃を加え、それが命中した。しかし、彼は既に入口にたどり着いており、そのまま転がって出ていった。
「……警告、入口を閉鎖します」
その音声と共に、入口の扉は閉じてしまった。ランハルトは、慌ててその扉に向かって走って行くが、中からは開けられないようになっているようだった。
「開かない、くそっ!」
ランハルトは、仕方なく辺りを見回した。チューブから漏れだしたガスが、室内に充満しようとしているのがみてとれた。ランハルトは、袖で口と鼻を押さえて、倒れている山本に駆け寄った。チューブから吐き出されるガスが、直接彼女に当たっており、このままでは危険な状態だった。
ランハルトは、息を止めて、彼女を抱き抱えた。そのまま、出来るだけチューブから離れた隅の方へ連れて行った。
「す、すまない。迷惑をかけた」
山本は、苦しそうな表情でランハルトに話しかけた。
「気にするな。わびるのは俺の方だ。我がガミラスの者が迷惑をかけた」
「助かったら、礼をさせて欲しい」
「礼など不要だ」
山本は、吐き気と頭痛が酷く、意識が朦朧とし始めた。
「うう……」
「おい、大丈夫か」
山本は、抱き抱える彼の姿が霞んで見えなくなっていた。
玲……。大丈夫か?
山本の目には、兄明生の姿が見えていた。
兄さん……。会いたかった。ずっと……。
彼女は、兄の胸に顔を埋めて泣いた。
兄さん、もう少しで会いに行けるよ……。
明生は、悲しそうな顔をしていた。
駄目だ。諦めるな。絶対に生きてくれ。
待って……兄さん……。
明生の姿は、少しづつ遠ざかって行った。
「おい、しっかりしろ!」
ランハルトは、急にしがみついてきた彼女から、徐々に力が抜けていくのを感じた。
「まずい。早く治療しなければ、本当に死んでしまうかもしれない」
ランハルトは、山本を床に寝かせると、急いで足を撃たれて倒れているモーガン大尉の元に走って行った。
「大丈夫か? あんたのお陰で人質が撃たれずに済んだ。礼を言わせてくれ」
「なあに。わしは、世話になったガリア少佐を助けてやりたかっただけだ。これ以上、罪を重ねないようにな」
ランハルトは、モーガン大尉の肩を担いで、山本を寝かせている隅の方へと連れていった。
「それにしても、あのドアは、外からしか開かん。わしらも、このまま有毒ガスが充満すれば助かるかどうかわからなくなってしまった」
ランハルトは、彼に向かって少し微笑んだ。
「先程、奥の手を使った。うまく行けば間もなく事態は解決するはずだ」
モーガン大尉も微笑んだ。
「だといいが。誰もこれ以上傷つかずに、祖国に帰りたいものだ……」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。