山本は、夢を見ていた。
彼女は、兄の明生がドアから出ていくところを見ていた。
駄目。
そっちへ行けば、もう二度と会えない。
行かないで、兄さん!
手を伸ばして、兄を捕まえようとするが、体が思うように動かない。
「兄さん!」
山本が目を開けると、そこは何処かの部屋だった。彼女は目を閉じて胸のペンダントに触れた。そうして気持ちを落ち着けてから、周りを見渡した。
「ここは……?」
部屋は、薄暗い倉庫のような場所だった。辺りに、雑多に箱が積み上げられている。箱の表面には野菜や果物のような図柄と、ガミラス語の文字が書かれていた。
部屋の隅に、出入口らしき扉があった為、傍に近寄って、開けようと試みた。しかし、ドアはロックされているようで、開きそうもなかった。
山本は、記憶が混乱していた。
……私は、確か冥王星を篠原と一緒に偵察飛行をしていたはず。
そうだ、突然の攻撃で機体から脱出した。
その後は?
記憶は、パラシュートで降下したところで途絶えていた。
恐らく、着地に失敗して頭を打ったのだろう。
と、いうことは――?
自分が敵に捕まった、と考えるのが妥当と結論づけた。攻撃を受ける直前に、反射衛星砲の光を目撃したことから、ここは、冥王星のガミラス軍基地内だと推測される。
しかし、その割には拘束もされていないし、ここは牢でも無さそうだった。幾つも積み上げられている箱のデザインから察するに、ここは食料庫なのだろう。箱の中身を確認してみると、どれも空き箱だった。
仕方なく、彼女は箱を並べてそこに座って待つことにした。捕まえた何者かが、恐らくここにやって来るに違いない、と考えていた。
小一時間ぐらい経過しただろうか。
正確な時間も何も分からず、だんだんと不安な気持ちになっていた。本当に、ガミラス軍の基地かも確信がある訳ではない。自分の手で基地を発見し、ヤマトが壊滅させたのだから。
山本は、立ち上がって、狭い部屋の中を行ったり来たりして、考えを巡らせた。
すると、突然ドアが開いて、銃を持った何者かが入ってきた。
入ってきたのは、長い髪を頭の後ろに束ねた、ガミラス軍の制服を着た若い女の兵士だった。しかし、化粧っけの無いその顔は、ガミラス人の青い肌ではなく、地球人と同じ肌の色をしていた。
「一緒に来い」
山本の耳の後ろに装着した翻訳機のスイッチが自動的に入り、彼女が喋るガミラス語を翻訳してくれていた。
山本は、銃を突き付けられたので、大人しく従うことにした。
女の前を歩いて、部屋の外に出ると、そこも薄暗い廊下だった。壁面のあちらこちらが、破損していたが、長い年月そのままになっているようだった。女に追いたてられながら、暫く歩いて行くと、少しだけ明るい作戦室のような部屋に連れてこられた。
中央に大きなテーブルがあり、紙の資料が散乱していた。周囲には、多数の端末があり、大きめのスクリーンが一つ壁にあった。端末は、一台だけが明かりがついており、他の端末は、電源が落とされているようだった。
そして、そこには三人の男たちがテーブルの周囲に立っていた。山本と後ろから銃を突き付けている女が一緒にその部屋に入ると、一斉に二人の方を振り向いた。
「おお、気が付いたか」
彼らのリーダーとおぼしき初老の男が、最初に口を開いた。別の若い男が、近くにあった椅子を動かして、山本に座るように促した。
仕方なく、その椅子に山本が座ると、男たちも同じようにテーブルを囲んで座った。先程の女だけが、立ったまま山本の背後で油断なく銃を向けている。
「お前は、何者だ?」
先程の若い男が聞いてきた。
山本は困惑した。こんなところに陣取って、捕虜にした相手が誰かなどと、何故分かりきったことを聞くのか? 質問の意図が良くわからなかった。
「私は、地球連邦防衛軍の宇宙戦艦、ヤマト航空隊に所属する山本二等宙尉だ」
男たちが、それを聞いて色めきたった。
「ヤマト? 我々の司令本部に、甚大な被害を与えたあのテロンの艦か?」
山本は、答えるべきか迷ったが、仕方なく頷いた。
テーブルに座る男たちは、それを聞いて何か話し合っていた。翻訳機が機能せず、山本は、ガミラス語以外の未知の言語で話しているのに気が付いた。肌の色といい、ガミラス人では無い彼らは、一体ここで何をやっているのだろうか?
「……わかった。今の戦況を知りたい。テロンと我が軍の戦況だ。テロンはまだ健在なのか?」
若い男が聞いてきた。またも、質問の意図が良くわからなかった。
「どういう意味か良く分からない」
最初に口を開いた初老の男が、周囲の者たちを見回して、何やら頷いていた。そして、山本に向かって話始めた。
「我々は、ヤマトの攻撃で基地司令本部が無くなった時に、宇宙艦隊も全て失った。それから仕方なく、君らに見つからないように、ここに隠れ住んでいる。もう何年も外界との接触を断たれ、現在の状況がわからんのだ。すまないが、君の知っていることを教えてくれんか?」
山本は、それを聞いて呆気にとられた。彼らの期待に満ちた表情や、疲れきって痩せ細った姿を見るにつけ、嘘をついているようには見えなかった。
「それじゃあ、本当に、何も知らないのか?」
初老の男は、重々しく頷いた。
「……そうだ」
そのようなことがあり得るのだろうか?
周囲を見回すと、皆んな真剣な表情で、山本が話す言葉を期待して待っている様子が見て取れた。
「分かった」
山本は、髪をかき上げて、どこからどう話したものか、と思案した。
「……我々地球とガミラスの戦争は、数年前に終わった。双方が和解した結果、現在は同盟国になった」
男たちが、困惑した表情で山本を見ていた。
すると、後ろに立っていた女が、銃を山本の頭に押し付けてきた。
「そんな出鱈目を信じると思うか!?」
山本は、襲い掛かって銃を奪うべきか迷った。しかし、彼らの疲れきった様子を見ると、それは何時でも出来ると判断した。
「本当だ」
「まだ言うか!」
その様子を見た初老の男が大きな声で、女を制した。
「止めんか!」
山本は、少しだけ後ろを振り返った。後ろにいる女は、渋々少し後ろに下がっていた。
「すまんが、確かににわかには信じられん話だ。何があったのか、順を追って説明してくれんか?」
山本は、仕方なく、簡単に最初から話をした。イスカンダルの技術供与を受け、ヤマトでイスカンダルにコスモリバースシステムを取りに行ったこと。その際に起こったデスラー総統のガミラス臣民の虐殺をヤマトが阻止したことによって和解したこと。ガトランティスとの戦争に協力したことがきっかけで同盟国になったこと。
山本は、驚きを隠せない彼らに、次第に話の内容が浸透していくのを見守った。
「筋は通っておる。急に思い付くような話とも思えん。わしは、信じて良いと思うが?」
初老の男は、周りの者に確認をした。彼らは、皆頷いて納得したようだった。
若い男は、山本を真っ直ぐな瞳で見つめた。
「戦争は、終わったんだな?」
山本は頷いた。
「そうだ」
若い男は、目を潤ませていた。
「それでは……。我々は、帰れるんだな?」
「そういうことになるな」
そこまで黙っていた、中年の男が言った。
「いや、まて。帰国しても、テロンの侵攻を阻止出来なかった責任を問われるかもしれないぞ」
それを聞いた山本は、説明が不足していることに気が付いた。
「それはない。ガミラスの軍事独裁政権は、既に崩壊して、現在は民主主義国家に生まれ変わっている。そのような心配はいらないと思う」
彼らに、再び驚きと困惑が広がっていた。
「そ、そんなことが」
「まさか……!」
「信じられん」
山本は、さすがに、この事実は自分の口から言っても信じるのは難しいだろうと思っていた。
「まずは、私たちの艦隊と連絡を取らせてくれないか? 皆さんは、艦隊の船で一旦地球に行き、少し休んだ方がいいと思う。ここは、ずいぶん環境も悪い状態だと見受けられる」
後ろに立っていた女は、銃を降ろしてテーブルの前に走り寄った。
「モーガン大尉、そうしましょう! 帰れるんです。私たちの故郷に!」
モーガン大尉と呼ばれた初老の男が、目を閉じて考え込んでいた。
「それは、出来ん……」
「大丈夫です! 今なら、必ず脱出出来ます!」
中年の男は、その女に言った。
「イリア、大尉の言う通りだ。宇宙艦の一つもここには無いんだぞ。それに、例えそれが出来たとしても、逃げ出そうと宇宙に向かう途中で撃墜される。テロン人の彼女がそうされたように」
「テロンの艦隊が味方になってくれるなら、何とかなるんじゃありませんか!?」
山本は、話の流れがよく理解出来なかった。
「お前たち以外に、誰か反対する者がいるというのか? 私の機体を撃ち落としたのは、君たちではなく、その者がやったと?」
モーガン大尉は、暗い表情で頷いた。
「そうだ。ここには、我々の指揮官のガミラス人が一人いる」
山本は、やはり、と思って質問した。
「そうか。皆さんは、ガミラス人では無いんだな?」
「我々は、かつてガミラスに侵略され、植民地となったザルツ人だ。二等ガミラス人の地位を与えられ、義勇兵としてこの戦争に参加した」
若い男は、それに口を挟んだ。
「何が義勇兵ですか! 強要でしょう。俺も、皆んなも、家族を人質に取られて、仕方なく、こんな遠い星まで来たんじゃないか!」
山本は、かつてのガミラスの闇を見たような気がした。地球を遊星爆弾で滅亡の危機に追いやった彼らの正体が、強制的に従軍させられた民族だったとは。彼女は、その事実に複雑な感情を抱いていた。
「テロンの艦隊に攻撃してもらい、ガミラス人を殺せばいい。そうすれば、俺たちは自由の身だ!」
モーガン大尉は、大声で怒鳴った。
「いい加減にしろ! そのようなことを軽々しく言うものではない! 我々が、ここに隠れるようになってから、彼には世話になったのだ。我々のガミラスに対しての本当の思いと、彼個人への扱いとを混同してはならない!」
モーガン大尉は、そこで声を落として言った。
「彼にこの事実を伝えて、彼を……ガリア少佐を説得しよう」
山本は、そこに口を挟んだ。
「私たちも、ガミラスとは同盟関係にある以上、簡単に攻撃などという方法をとることは出来ない。話し合いで解決するのが、最善の策だと思う」
若い男は、まだ納得がいっていないようだったが、一旦、ガミラス人を殺す、という話はそこで終わった。
「太陽系外に通信を送っていたのも、そのガミラス人か?」
山本は、気になっていたことを質問した。
モーガン大尉は、少し驚いていた。
「そうか。あの通信は傍受されていたのか。だから、君たちは、ここに気が付いたのだな?」
皆が、先程の若い男に注目していた。
「このヤーソン少尉が、我々に隠れて勝手にやったことだ」
ヤーソンと呼ばれた若い男は、暗い表情で話始めた。
「お、俺は……。時々シュルツ大佐に連絡を取ろうとしていたんだ。いつか、俺たちを迎えに来て貰えると信じて、銀河方面軍の基地に連絡をしていた」
「シュルツ大佐?」
「かつて、ここの指揮官だったザルツ人の仲間だ。今どうしているか、わしも気にしている。基地司令部と共に亡くなってしまったのかも知れぬがな。君は何か知っているかね?」
山本は、本当に知らなかったので、首を振った。
「そうか。無事だといいのだが……」
その時、基地に大きな揺れがあった。
「な、何だ? 何が起こっている?」
揺れは収まらず、暫くの間続いていた。
「この揺れは……」
「うむ。惑星間弾道弾が発射されたようだ」
山本は、目を見開いた。
「え……?」
「ガミラス人のガリア少佐は、ここが発見された以上、たった一人でもテロンと戦うつもりなのだろう」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。