その頃――。
主力戦艦ムツは、遊星爆弾が自艦に向かって飛来してくるのを捉えていた。
「照準よし!」
「自動追尾設定完了!」
ムツは右舷に主砲を向け、遊星爆弾を自動追尾していた。砲身が、遊星爆弾の動きに合わせてゆっくりと向きを変えていた。
井上は、十分に引き付けた、と判断して砲撃を指示した。
「撃て!」
第一主砲、第二主砲が一斉に火を吹いた。ショックカノンから発射された光跡が螺旋状となって軌跡を描き、真っ直ぐに遊星爆弾に向かっていった。
遊星爆弾は、一瞬で粉々になり、宇宙に細かな破片が散らばった。
「数分後に、次がくるぞ。続けて主砲発射用意!」
ヤマトでは、新米が古代に報告していた。
「センサーが、冥王星の地表から、高エネルギーの物体の飛翔を確認」
雪も、すぐにレーダーで捉えていた。
「冥王星から物体が多数飛来して来ます! 大型ミサイルと思われます!」
スクリーンに映った山南と作戦会議をしていた古代は、それを中断して反応した。
「まさか、惑星間弾道弾か? そんなものが、まだあったのか!?」
山南もそれを捉えていた。
「おい、不味いぞ。ずいぶん数が多い」
雪が、続報を伝えた。
「惑星間弾道弾、地球への衝突コースです! 計十基確認しました!」
古代は、その数に驚いていた。
「十基だと!?」
山南が、スクリーン越しに指示を出した。
「古代、俺たちで撃ち落とすぞ。全艦戦闘配置、主砲発射用意!」
「了解! 主砲、副砲発射用意!」
ヤマトでは、北野と南部が慌ただしく準備を始めた。
「全砲門開け! 目標、惑星間弾道弾」
「太田! ヤマトの右舷を惑星間弾道弾の方へ向けろ。全砲門の一斉射で撃破する」
「了解!」
太田は、ヤマトの両舷のスラスターを噴射して、艦体をゆっくりと回頭させた。同時に、アンドロメダも同様に右舷を向けた。
「主砲、副砲、中央の一基に照準」
「自動追尾設定しました!」
山南から一斉砲撃開始、の通信が入り古代は、即座に指示をした。
「砲撃開始!」
「砲撃を開始します!」
ヤマトとアンドロメダは、同時に全砲門を一斉に発射した。
ショックカノンが命中した惑星間弾道弾は、その巨大な弾頭に穴が開き、それが大きく広がった。そして、大爆発を起こし、宇宙空間に巨大な二つの火の玉が生まれ、辺り一面を明るく照らした。
雪は、残りの惑星間弾道弾の動きを捉えて報告した。
「残り八基の惑星間弾道弾は、速度を上げて本艦とアンドロメダの近くを通過します」
「現在自動追尾中! 通りすぎたところを更に砲撃します」
惑星間弾道弾は、その巨体を揺らしてアンドロメダとヤマトの周囲を通過していった。それに合わせて、艦の左舷に砲塔が回転して照準を合わせていた。
「撃て!」
再び二隻の全砲門が火を吹き、更に二基の惑星間弾道弾を撃破した。
山南は、マイクを掴んでナガトに連絡した。
「大村! 惑星間弾道弾が多数地球へ向かった。これより、本艦とヤマトはこれを追う! 遊星爆弾の対処はお前たちに任せたぞ」
「了解しました!」
アンドロメダとヤマトは、惑星間弾道弾の後を追った。
「速度が早い。何としても追い付け!」
アンドロメダの戦術長が進言した。
「山南司令! ここは、拡散波動砲を使用しませんか?」
彼の提案に、山南は渋い顔をして呆れていた。
「お前、さっきの試射の時の古代の話を聞いてなかったのか? 軽々しく波動砲を使う、などと言うもんじゃない!」
「は、はぁ。申し訳ありません」
彼はあまり納得していないようだった。無事に帰ったら説教が必要だな、と山南は考えていた。
そこへ、古代から連絡が来た。
「私からの提案です。小ワープで惑星間弾道弾の側面に出て並行に航行し、一つ一つ撃破して行ってはどうでしょうか?」
山南は頷いた。
「よし、それで行こう!」
冥王星のガミラス軍基地では、モーガン大尉らと、山本が連れだって、地下通路を歩いていた。
モーガン大尉らがいた場所は、氷海の海岸の地下に建設された居住区だった。その居住区は、地下を通じて氷海の海底基地司令部の設備へと繋がっており、完全に地下に埋没していたことが、地球連邦防衛軍の調査で発見されずに済んだ理由だった。基地司令部がある海底には、反射衛星砲の砲台があった。そして、海岸の周囲の地下には、惑星間弾道弾のミサイルサイロが設けられていた。
山本を撃墜した高射砲台も、普段は地下に格納されていた。それは、今、彼らが歩いている通路の分かれ道の先にあった。外部の出入口も、その砲台と一緒に設置されているようである。
一行が進む地下通路は、かつては動く歩道になっていたようだが、動かなくなってかなり時間が経っていた。通路の床は所々割れており、壁面の装飾板も剥がれ落ちている箇所が見られた。明かりも乏しく通路は暗かった。誰も修理しなくなってから久しいのだろう。
彼らは、ようやく海底基地に繋がる大きな扉がついたゲートに到着した。モーガンは、壁に取り付けられたインターホンのような装置に呼び掛けた。
「ガリア少佐、モーガンだ。開けてくれんか」
暫くの間があり、辺りは沈黙に包まれた。
「恐らく、テロン軍の艦隊を攻撃するのに忙しいんだろう」
山本が不思議そうに質問した。
「あなたたちは、ここへ自由に出入りが出来ないのか?」
「我々は、君らテロン人に見つからないように、隠れている必要があった。基地の設備を誤って使うと、発見される恐れがあるため、ガミラス人のガリア少佐が管理している。我々は、彼の許可があった時しかここには入れんのだ」
そうすると、あの居住区の狭い区画に何年もの間とじこもっていたことになる。さぞや不自由だっただろうな、と山本は考えていた。
ヤーソン少尉が、ポケットから何か取り出していた。
「通信設備もこの中だ。俺は目を盗んで、通信機を使っていた。このカードキーがあれば、中に入れる」
イリア少尉は、それを見て呆れていた。
「いつの間にそんなもの……」
「ガリア少佐に、基地の設備の修理を依頼された時に盗んだんだ」
基地司令部では、ガリア少佐が、たった一人で、反射衛星砲や、惑星間弾道の発射操作を行っていた。
彼は、司令部にある一台の火器管制用端末の前に座り、懸命に操作をおこなっていた。惑星間弾道弾を発射し終わり、テロンの艦隊が遠ざかるのを確認して、一息入れていた。
「こ、これで、暫くは大丈夫だろう……」
そう呟いたガリア少佐は、背後から人の気配がしたため、突然、驚いて立ち上がった。
そこには、司令部に入ってきた、モーガン大尉や山本らが立っていた。
ガリア少佐は、目を丸くしてその場にいた者を見回した。
「お、お前ら、どうやってゲートを開けた? い、いや、その前に、その女は誰だ!?」
彼は、山本を指差して回答を求めた。
それを聞いたモーガン大尉が、静かに口を開いた。
「彼女は、テロンの兵士で、あなたが、暫く前に撃ち落とした航宙機のパイロットだ。地表で倒れている所を我々が救いだして連れてきた」
ガリア少佐は、目を輝かせた。
「お前たち、よくやってくれた! 人質にすれば、我々は助かるかもしれないぞ」
そう言いつつも、彼は山本の様子を見て、疑問を感じていた。
「何故、この女を拘束していない?」
モーガン大尉は、ゆっくりとガリア少佐の前に進み出た。
「彼女を拘束する必要はない」
「何を言っている?」
「彼女から、この数年間に、外で何が起こったのか聞いた。もう隠れたり、戦ったりする必要はなくなったのだ」
「どういうことだ?」
「ガリア少佐、戦争は終わったんだ。テロンとガミラスは友人になった」
彼は、あまりにも荒唐無稽な話で、呆気に取られていた。
「その話、この女から聞いたのか?」
「そうだ」
「お前は信じるのか? これが、罠だとは思わないのか?」
モーガン大尉は、頷いた。
「信じて良いと思う。わしらは、帰れるんだ」
ガリア少佐は、目を閉じて何か考えているようだった。
「悪いが俺は、そんなにお人好しじゃない。まずは、銀河方面軍司令部のゲール少将に確認する!」
ヤーソン少尉は、それに反論した。
「銀河方面軍司令部は、いつまでたっても応答しない。確認なんか出来るものか!」
ガリア少佐は、訝しげな表情でヤーソン少尉を見つめた。
「何故、それを知っている」
ヤーソン少尉は、叫んだ。
「勝手に通信機を使わせてもらった。何度やっても誰も応答しない!」
「勝手に中に入ったな? 貴様のせいで、テロン軍に発見されたに違いない!」
ガリア少佐は、銃を取り出して、ヤーソン少尉に向けた。
それを見た山本は、慌てて口を挟んだ。
「銀河方面軍は、ガミラス軍の再編に伴って、既に撤退したと聞いている。それから、そのゲール少将だが、私の情報では、デスラー総統と旅に出て、この天の川銀河の中心部へ向かったそうだ」
ガリア少佐は、驚いて山本を見た。
「銀河方面軍が撤退した? デスラー総統が、この銀河系に来てるだと? いい加減なことを言うな!」
そして、彼は今度は山本に銃を向けて言った。
「いいだろう。友人となったという証拠に、我がガミラスの責任ある立場の者を連れて来い。それまでは、お前は人質として扱う!」
山本は、それを聞いても無表情だった。
ガリア少佐は、再び彼らに促した。
「拘束しろ! 同胞と話をしてから、帰国するかどうかは決める!」
続く…
注)pixivとハーメルン、及びブログにて同一作品を公開しています。
注)但し、以前pixivに連載した小説の加筆修正版です。以前のpixiv連載版とは、一部内容が異なります。
注)ヤマト2202の登場人物は、役割を変更して登場しています。