藤の花の牢獄に響く、哀しげな懐かしき唄。
『てるてるぼうずー てるぼうずー
あーしたてんきに しておくれー
そーれーでーもーくーもーって なーいたーならー
そーなーたーの くーびを
ちょーんと きーるーぞー』
まるで、幼子のような笑顔で。
布切れのてるてる坊主に向かって。
『残念だったねえ。役目を果たせなかったねえ。役目を果たせなかったねえ。』
『役目を果たせなかったてるてる坊主は、ちょーんと頸を斬られちゃうんだよー。悲しいねえ。悲しいねえ。悲しいねえ。』
『役目なんか果たせる訳がないのにねえ。』
『たかが人間が、天気なんて変えられやしないのにねえ。』
『悲しいねえ。悔しいねえ。みんなみんな、殺してやりたいねえ。みんなみんなみんなみんなみんなみーんな喰べて、私達の糧にしてやろうよ。あのお方と、私とだけでいいんだよ。それだけが、不変の世界。私達の桃源郷
楽園
。不変で、私達が全て正しい。私達の言うことは絶対。誰も私達を否定しない。私達が全て正しい。』
『ねえ、てるてる坊主さん。そんな世界、見てみたいと思わない?』
ふふふ。
変わらない貼り付けた笑顔で、嗤う。
『見渡す限りの広大で、何も無い大地。
その中心で寄り添う、私とあのお方。
二人は愛し合って、不変。
なんて、綺麗なんだろうねえ。』
『だから、もう一度、囚われの姫を助けに来てよ。
私の、不変で永遠の王子様。』
『ねえ、今は何時かなあ?』
そう、少女は誰もいない空間に向かって話かける。
まるでそこに、自分の知りたいことを知っている者がいるかのように。
『あれれ、鬼殺隊の鎹鴉は言葉が通じるんじゃなかったっけ?』
鎹鴉。
少女は確かにそう言った。
『あれ?鴉さん、なんで驚いてる......ああ、私にはそういうのは通用しないんだよ。空間把握に私は強いんだから!』
『姿を消せてるのは...アレか。珠世さんの連れてた鬼......えーと、瑜史郎、だっけ?その子の血鬼術だよねえ?』
問い掛けてみるも、返ってくるのは反響する自分の声と、静寂のみ。
『うーん...返事くらいしてくれないと寂しくなっちゃうなあ。此処って結構つまんないんだよ?』
『まあでも...そうか。しばらく人間を喰べてない鬼なんかと一緒にいたら、いつ喰べられてもおかしくないもんねえ』
そういうとこはちゃんとしてるんだねえ...等と呟き、少女はまた問い掛けた。
『でさ、今は何時?しのぶちゃん、いつも同じ時間に来るって言ってたから知りたいだけなんだよ?』
答えは...ない。
貴様に教えてなどやるものか、とでも言うような鳥の羽音が響いたっきり、産屋敷邸、はるか地下の奥深くの藤の花の牢獄は、静寂に包まれてしまった。
ああ、つまらない。
そう思いながら、嵬羅はまたてるてる坊主をいじくりだす。
『私の着物の切れはしで作ったにしては、綺麗なんじゃないかなあ?』
今度は何を唄おうか。
『ゆーびきーりげーんまーん うーそついたーら』
夜が、更けてゆく。
どこか哀しげに唄を口ずさむ少女と、
「......ったく、なんで俺が鬼なんかの情報を聞き出さなけりゃならないのかねェ」
少女にとっては、招かれざる客を静寂で包み込みながら。
『ゆーびきーった!』
紅の鮮血に染まった、夜が更けてゆく。